説明

車両用シート

【課題】 衝突時に頭部を効果的に拘束することができるヘッドレストを有する車両用シートを提供する。
【解決手段】 シートバック12は、ヘッドレスト13のステ−15を挿入するサポートブラケット60と、サポートブラケット60の背面60aを上下方向に移動可能に支持するアッパフレーム部材32と、ヘッドレスト駆動機構67と、受圧部材70とを有している。ヘッドレスト駆動機構67は、ガイド孔50を有する長孔ブラケット51と、ガイド孔50に挿入されたスライド部材58と、スライド部材58をガイド孔50の上辺部50cに接触させるための押圧手段を含んでいる。押圧手段を構成するために、スライド部材58に接続されるワイヤ44は、ガイド孔50の上辺部50cに対し、角度α1をなして上辺部50c側に斜めに延びている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヘッドレストを有する車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の追突時等に乗員の頭部を拘束するために、ヘッドレストを前方に移動させる可動ヘッドレスト装置が提案されている。例えば、下記特許文献1に記載されている車両用シート構造のように、ヘッドレストのステ−の下部にガイドピンを設け、このガイドピンを上下方向に延びる長孔に係合させたものが知られている。この従来例では、衝突時の乗員の慣性荷重によって受動手段を作動させ、前記ガイドピンが前記長孔に沿って上方に移動することにより、ヘッドレストが前方に傾きながら上方に移動するようにしている。(下記特許文献1参照)
また、下記特許文献2に記載されているシートバックのように、パッドの背部に受圧部材を設け、衝突時に受圧部材を介してアーマチュアパイプを押し上げる構造のものが知られている。この従来例では、衝突時にアーマチュアパイプの上下方向中間部が長孔に沿って前上方に移動することにより、ヘッドレストが前方に傾きながら上方に移動するようにしている。(下記特許文献2参照)
【特許文献1】特開2001−163099号公報
【特許文献2】特開2000−210155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1,2のヘッドレスト駆動機構では、長孔に沿ってピンが摺動することによってヘッドレストが作動する構造となっている。このような摺動構造では、ピンと長孔との摺動性を確保するために、ピンと長孔との間に比較的大きなクリアランスを設定する必要がある。このクリアランスによってヘッドレストががたつき、衝突時に乗員頭部の拘束性が低下する原因となる。
【0004】
従って本発明の目的は、摺動構造のヘッドレスト駆動機構の摺動性を確保でき、かつ、衝突時に頭部拘束性が低下することを防止できる車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の車両用シートは、シートバックフレームを有するシートバックと、該シートバックの上部に設けるヘッドレスト本体および該ヘッドレスト本体の下方に延びるステ−を有するヘッドレストと、前記ヘッドレストのステ−を挿入するサポートブラケットであって、その背面が前記シートバックフレームのアッパフレーム部材に対して上下方向に移動可能に当接するサポートブラケットと、前記シートバックに設けられ、乗員によって押されたとき後方に移動する受圧部材と、前記サポートブラケットの下部が固定されるサブフレームと、前記受圧部材が後方に移動したときに前記サポートブラケットを上方に移動させつつ前側に傾かせるヘッドレスト駆動機構であって、上下方向に延びるガイド孔を有し前記シートバックフレームに設けられる長孔ブラケットと、前記サブフレームの両端部に設けられて前記ガイド孔に挿入され前記受圧部材が後方に移動するとき前記ガイド孔に沿って該ガイド孔の一端側から他端側に移動するスライド部材を有するヘッドレスト駆動機構と、前記スライド部材が前記ガイド孔に沿って移動する際に該スライド部材が前記ガイド孔の上辺部に接触するよう該スライド部材を付勢する押圧手段とを具備している。
【0006】
本発明の好ましい形態では、前記押圧手段を構成するために、前記スライド部材に接続されるワイヤが、前記ガイド孔の前記上辺部に対し角度α1をなして該上辺部側に斜めに延びている。
【0007】
前記押圧手段の一例は引張りばねであり、該引張りばねは、該スライド部材を前記ガイド孔の上辺部に接触させかつ前記スライド部材を前記ガイド孔の前記一端側に向けて付勢するよう前記サブフレームと前記シートバックフレームとの間に張り渡される。
【0008】
前記押圧手段の他の例は前記ガイド孔の下辺部に配置されたばね部材であってもよい。このばね部材は、前記スライド部材を前記ガイド孔の上辺部に向けて付勢する。
【0009】
前記押圧手段の他の例は、前記スライド部材に設けた弾性スライダであってもよい。この該弾性スライダは、前記ガイド孔の下辺部に沿って移動可能でかつ前記スライド部材を前記ガイド孔の上辺部に向けて付勢する。これら複数の押圧手段を組み合わせてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、摺動構造のヘッドレスト駆動機構を有する車両用シートにおいて、ヘッドレスト駆動機構の摺動性を確保できるとともに、ヘッドレストががたつくことを防止でき、衝突時に頭部の拘束性が低下することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の第1の実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。
図1は車両用シート10を示している。車両用シート10は、座部11と、シートバック12と、ヘッドレスト13を備えている。ヘッドレスト13は、シートバック12の上部に設けるヘッドレスト本体14と、ヘッドレスト本体14の下方に延びる左右一対のステ−15を有している。
【0012】
図2と図3はシートバック12の内部を示している。シートバック12は、シートバックフレーム20と、ばねアッセンブリ21と、ばねアッセンブリ21を覆うように配置されるパッド部材22(図3に2点鎖線で示す)と、パッド部材22の外面を覆うカバー部材23(図1に示す)などを有している。
【0013】
シートバックフレーム20は、左右一対のサイドフレーム部材30,31と、上側に位置するアッパフレーム部材32と、下側に位置するロアフレーム部材33などによって構成されている。サイドフレーム部材30,31とロアフレーム部材33は、金属板をプレス加工することにより、所定の形状に成形されている。アッパフレーム部材32は、例えば断面が円形のパイプからなり、その両端がサイドフレーム部材30,31の上部に溶接されている。ロアフレーム部材33の両端はサイドフレーム部材30,31の下部に溶接されている。
【0014】
ばねアッセンブリ21の一例は、平面ばね35と、複数の引張りばね36などによって構成されている。平面ばね35は、上下方向に延びる複数本の縦ワイヤ37と、水平方向に延びる横ワイヤ38によって構成されている。平面ばね35の両側部が、引張りばね36によって、サイドフレーム部材30,31に支持されている。
【0015】
図2に示すように、シートバック12の内部に2系統のケーブル41,42が配置されている。図3は、一方のケーブル41を代表して示している。これらのケーブル41,42は、それぞれ、アウタチューブ43と、アウタチューブ43に挿入されたワイヤ44とを有している。ケーブル41,42の長手方向中間部は、リテーナ45(図3に示す)によって、例えばアッパフレーム部材32に支持されている。
【0016】
ワイヤ44は線条体の一例である。図2と図3に示すように、アウタチューブ43は、一端43aと他端43bを有している。ワイヤ44も一端44aと他端44bを有している。
【0017】
図2〜図5に示すように、シートバックフレーム20のアッパフレーム部材32の両端部に、それぞれ、ガイド孔50を有する長孔ブラケット51が設けられている。ガイド孔50は、その一端50aが他端50bよりも前下方に位置するように、上下方向に斜めに延びている。これら一対の長孔ブラケット51間にサブフレーム55が設けられている。
【0018】
サブフレーム55は、水平方向に延びる横架部56と、横架部56の両端に形成された一対の腕部57とを備えている。腕部57は、横架部56の両端から斜め下前方に延びている。各腕部57の端部にスライド部材(例えばスライドピン)58が設けられている。スライド部材58は、長孔ブラケット51のガイド孔50に挿入され、後述する押圧手段によって、ガイド孔50の上辺部50cに対し、接点C2において接するようになっている。スライド部材58は、ガイド孔50に沿って、ガイド孔50の一端50aと他端50bとにわたって上下方向(ガイド孔の長手方向)に移動できるよう、ガイド孔50に挿入されている。
【0019】
サブフレーム55の横架部56に、左右一対のサポートブラケット60の下部が固定されている。各サポートブラケット60にヘッドレスト13のステ−15が挿入される。サポートブラケット60は筒状をなし、上端にグロメット61が設けられている。アッパフレーム部材32に摺動ガイドブラケット65が設けられている。サポートブラケット60の上下方向中間部の背面60aは、この摺動ガイドブラケット65によってアッパフレーム部材32に向けて押付けられている。摺動ガイドブラケット65には、サポートブラケット60と接する部位に、合成樹脂製の摺動ガイド部材66が設けられている。
【0020】
サポートブラケット60は、摺動ガイド部材66によって、アッパフレーム部材32に対して上下方向に円滑に摺動できる。サポートブラケット60の上下方向中間部の背面60aは、アッパフレーム部材32に対し、接点C1(図5に示す)において接するよう、摺動ガイドブラケット65によって支持されている。しかもこのサポートブラケット60は、アッパフレーム部材32との接点C1を支点として、前後方向にある程度の角度θ1(図3に示す)の範囲で傾くことができるよう、摺動ガイドブラケット65とアッパフレーム部材32とによって、傾動可能に支持されている。
【0021】
これら長孔ブラケット51と、サブフレーム55と、スライド部材58と、サポートブラケット60と、摺動ガイドブラケット65などによって、ヘッドレスト13を前後方向に傾動可能に支持するためのヘッドレスト駆動機構67が構成されている。
【0022】
このヘッドレスト駆動機構67は、スライド部材58がガイド孔50に沿って斜め上後方(図3,図5に矢印Aで示す方向)に移動したときに、ヘッドレスト本体14とサポートブラケット60が上方に移動しつつ前側に傾くように、前記接点C1,C2の位置と、サブフレーム55の腕部57の長さと、腕部57とサポートブラケット60のなす角度θ2(図3に示す)などが設定されている。
【0023】
このヘッドレスト駆動機構67は、下記受圧部材70が後方に移動したときヘッドレスト本体14を作動させるためのものである。すなわちヘッドレスト駆動機構67は、受圧部材70が後方に移動したときに、スライド部材58がガイド孔50に沿って一端50aから他端50bに向かって斜め上方に移動することに伴い、ヘッドレスト本体14が上方に移動しつつ前側に傾くようサブフレーム55を駆動する機能を有している。
【0024】
長孔ブラケット51は、ガイド孔50の長手方向に沿うガイド面である上辺部50cを有している。上辺部50cは、ガイド孔50の一端50aから他端50bに向かって斜め後上方に延びている。スライド部材58に接続されるワイヤ44は、ガイド孔50の上辺部50cに対し、角度α1をなして上辺部50c側に斜めに延びている。このためスライド部材58がガイド孔50に沿って上方に移動する際に、スライド部材58が前記接点C2において接する。
【0025】
また、スライド部材58がガイド孔50に沿って上方に移動する途中、あるいは移動したのち、ヘッドレスト本体14に頭部拘束による後方荷重Fa(図3に示す)が入力したとき、上辺部50cにスライド部材58が押付けられることによって、ヘッドレスト本体14がロックされるようになっている。
【0026】
すなわち、ヘッドレスト本体14から後方荷重Faが入力したときに、スライド部材58が上辺部50cを滑って移動しないように、接点C2における上辺部50cとスライド部材58との摩擦係数や、接点C2での圧力角および荷重ベクトル等が設定されている。
【0027】
ヘッドレスト13のステ−15は、グロメット61の孔からサポートブラケット60の内部に挿入されている。各ステ−15は、それぞれ、サポートブラケット60に対して上下方向に移動可能である。ステ−15は、ヘッドレスト本体14を所望高さに調節した状態において、図示しないロック機構によってサポートブラケット60に固定される。
【0028】
シートバック12の内部には、ばねアッセンブリ21の下部、すなわち乗員(着座者)の腰部付近の後方に位置するように受圧部材70が設けられている。受圧部材70は、ばねアッセンブリ21に取付けられている。ばねアッセンブリ21が乗員によって押されて後方に撓んだときに、受圧部材70が、ばねアッセンブリ21と共に、前側の位置から後側の位置に向かって移動することができる。受圧部材70の一部に、後方に突出する凸部71が形成されている。
【0029】
受圧部材70の後面と対向する位置に増速ユニット79が設けられている。増速ユニット79は、ロアフレーム部材33に固定されたベースブラケット80と、ベースブラケット80に設けられた第1のアーム81および第2のアーム82を有している。この増速ユニット79は、第1のアーム81が上側に位置し、第2のアーム82が下側に位置するように、上下方向に縦置きの姿勢、すなわちベースブラケット80の長手方向が上下方向に沿う姿勢で、ロアフレーム部材33に配置されている。
【0030】
図3と図6に示すように、ベースブラケット80のケーブル支持部85に、前記一対のケーブル41,42の各アウタチューブ43の一端43aが接続されている。ケーブル41,42の各ワイヤ44の一端44aは、それぞれベースブラケット80のワイヤ支持部86に接続されている。
【0031】
第1のアーム81の一端(上端)は、第1のピン90によって、ベースブラケット80に回動可能に支持されている。ベースブラケット80には、第1のピン90を中心に回転可能なガイドプーリ91が設けられている。
【0032】
第1のアーム81と第2のアーム82は、側面方向から見て横向きのV形をなすように、第2のピン92によって互いに回動可能に接続されている。言い換えると、第1のアーム81と第2のアーム82によって、<形のリンク機構が構成され、第1のアーム81と第2のアーム82が受圧部材70の方向に突き出ている。第1のアーム81と第2のアーム82とのなす角度θ3は、好ましくは90°以上(鈍角)である。
【0033】
第1のアーム81と第2のアーム82との接続部にローラ95が設けられている。ローラ95は当接部材の一例である。このローラ95は、第2のピン92を中心に回転自在である。このローラ95は、受圧部材70の後面に突出する凸部71と対向するよう配置され、受圧部材70が後方(図3と図6に矢印Bで示す方向)に移動したときに、凸部71がローラ95に当接するようになっている。
【0034】
第2のアーム82の他端(下端)に、第3のピン96と、第3のピン96を中心に回転自在なプーリ97が設けられている。第3のピン96は、ベースブラケット80に形成されたガイド孔100に挿入され、ガイド孔100に沿ってガイド孔100の長手方向に移動できるようになっている。
【0035】
前記第3のピン96とガイド孔100によって、ガイド手段が構成されている。ガイド手段は、ローラ95が受圧部材70によって後方に押されたときに、第1および第2のアーム81,82のなす角度θ3が大きくなるようにプーリ97の移動を案内するものである。
【0036】
ローラ95が受圧部材70よって図6中の矢印B方向に押されると、第1のアーム81と第2のアーム82のなす角度θ3が増加する。ここで第1のピン90はベースブラケット80に支持されているから、第3のピン96はガイド孔100の一端(上端)100aから他端(下端)100bに向かって移動する。このため、第1のピン90から第3のピン96までの距離が次第に大きくなってゆく。すなわち、プーリ97がガイド孔100に沿って下方に移動する。
【0037】
図6に示すようにガイド孔100は、第1のピン90に近い側に位置する第1の部分101と、第1のピン90から遠い側に位置する第2の部分102とを有している。第1の部分101は、第1のピン90と第3のピン96とを結ぶ延長線L1に対し、角度θ4をなして斜め下後方に延びている。第2の部分102は、前記延長線L1に対して第1の部分101とは逆側(斜め下前方)に曲がっている。
【0038】
このため、プーリ97が、ガイド孔100に沿ってガイド孔100の一端100aから他端100bに向かって移動する際、第3のピン96が第1の部分101に沿って容易に移動できる。そして第3のピン96が第2の部分102に沿って移動するときには、プーリ97の移動速度が第1の部分101を移動するときよりも大きくなる。
【0039】
図6に示すように、ガイドプーリ91の一部に、前記一対のケーブル41,42のそれぞれのワイヤ44の一部44cが接している。その下方に位置するプーリ97には、各ワイヤ44の他端側の部位44dが、それぞれ半周程度巻掛けられている。言い換えると、ワイヤ44の他端側の部位44dは、プーリ97によって方向がほぼ180°変換(Uターン)した状態で、それぞれの一端44aがベースブラケット80のワイヤ支持部86に固定されている。
【0040】
このためプーリ97がガイド孔100に沿って、ガイド孔100の一端100aから他端100bに向かって移動すると、プーリ97が動滑車のように下方に移動することにより、各ワイヤ44が、プーリ97の移動量の2倍の距離に相当する長さ分だけ引かれる。言い換えると、受圧部材70が後方(矢印B方向)に移動するときに、受圧部材70の動きが増速ユニット79によって増速され、ワイヤ44が速やかに引かれるようになっている。
【0041】
前記一対のケーブル41,42の各ワイヤ44の他端44b(図3に示す)は、ヘッドレスト駆動機構67の各スライド部材58に接続されている。このため増速ユニット79によって各ワイヤ44が図3に矢印Dで示す方向に引かれると、ヘッドレスト駆動機構67の各スライド部材58が矢印Aで示す方向に移動する。
【0042】
次に上記構成の車両用シート10の作用について説明する。
衝突時に乗員がシートバック12に押し付けられると、乗員の腰部付近からシートバック12に入力する荷重によって、受圧部材70が後方に押される。このことにより、受圧部材70が増速ユニット79のローラ95を押すため、第1のアーム81と第2のアーム82のなす角度θ3(図6に示す)が大きくなる方向に、第2のアーム82が移動する。
【0043】
このとき第3のピン96がガイド孔100に沿って下方に移動することにより、プーリ97が下方に移動する。プーリ97には、一対のケーブル41,42の各ワイヤ44が半周程度U形に巻掛けられているため、いわゆる動滑車の原理により、プーリ97の移動速度の約2倍の速度でワイヤ44が図6に矢印Eで示す方向に引かれる。このためヘッドレスト駆動機構67の各スライド部材58が図3に矢印Aで示す方向に移動する。
【0044】
ガイド孔100の第1の部分101は、第1および第3のピン90,96の延長線L1に対して角度θ4をなして後方に傾いているため、ローラ95が矢印B方向に押されるときに、最初のうちは、第3のピン96が第1の部分101に沿って少し後方に移動しながら下方に移動する。このため、ワイヤ44をアウタチューブ43から容易に引出すことができる。
【0045】
そののち、第3のピン96が第2の部分102に沿って移動するため、ワイヤ44の引出し速度が大きくなる。このようなガイド孔100は、第1の部分101の傾き角度θ4を変更することや、第1の部分101に対して第2の部分102のなす角度を変更することなどにより、ワイヤ44の引出し速度を調整することができる。
【0046】
前記増速ユニット79によってケーブル41,42の各ワイヤ44が同時に引かれることにより、左右一対のヘッドレスト駆動機構67の各スライド部材58が、それぞれ、ガイド孔50に沿って、斜め上後方(図3と図5に矢印Aで示す方向)に移動する。
【0047】
スライド部材58に接続されるワイヤ44は、ガイド孔50の上辺部50cに対し角度α1をなして上辺部50c側に斜めに延びている。このため、スライド部材58がガイド孔50に沿って移動する際に、スライド部材58がガイド孔50の上辺部50cに接触するようになる。
【0048】
スライド部材58がガイド孔50に沿って一端50aから他端50bに向かって移動すると、サブフレーム55の腕部57が上後方に移動する。このことに伴い、サポートブラケット60が上昇しつつ、接点C1を支点として前方に倒れるように移動する。接点C1自体は前方に移動することなく同一位置にとどまるため、乗員の首下の拘束を早めることなく、ヘッドレスト本体14が図5に矢印M1で示すような軌跡を描いて前上方に移動する。このことにより、首下が拘束される前に頭部がヘッドレスト本体14によって速やかに拘束される。
【0049】
本実施形態では、スライド部材58に接続されるワイヤ44とガイド孔50の上辺部50cとのなす角度α1によって、本発明で言う押圧手段が構成されている。このような押圧手段を備えていることにより、スライド部材58がガイド孔50の一端50aから他端50bに向かって移動する際に、ガイド孔50の上辺部50cとスライド部材58が接することになる。
【0050】
すなわちヘッドレストの作動時に、スライド部材58がガイド孔50の上辺部50cに接することができるため、スライド部材58の摺動部を構成する部品寸法のばらつき等が吸収され、摺動部の摺動性が確保される。このため、ヘッドレスト作動時に、サポートブラケット60が基準位置から上昇位置に向かって円滑に移動することができる。こうして摺動部のがたの発生が防止され、ヘッドレスト13の作動性に優れ、むち打ち障害値低減に効果的である。
【0051】
ヘッドレスト13が作動した後、あるいは作動途中で、頭部がヘッドレスト本体14に接触することにより、ヘッドレスト本体14に水平後方荷重Fa(図3に示す)が入力する。この後方荷重Faを支持するために、第1の接点C1ではサポートブラケット60に前方荷重Fbが、第2の接点C2ではスライド部材58に後方荷重Fcが生じる。よってその反力として、第1の接点C1ではアッパフレーム部材32に後方荷重Fb´が加わり、第2の接点C2では長孔ブラケット51に前方荷重Fc´が加わる。
【0052】
アッパフレーム部材32に入力された後方荷重Fb´は、アッパフレーム部材32によって支持される。長孔ブラケット51に入力された前方荷重Fc´は、サイドフレーム部材31,32によって支持される。このようにして、ヘッドレスト本体14の後方荷重Faを上下2箇所の接点C1,C2(図5に示す)で受けることにより、ヘッドレスト本体14の戻りが抑制される。このため確実に頭部を拘束することができ、むち打ち障害値低減に効果的である。
【0053】
本実施形態のシートバック12では、受圧部材70の後方への動きが、増速ユニット79から一対のケーブル41,42の各ワイヤ44を介して、ヘッドレスト駆動機構67へと伝達されるため、増速ユニット79からヘッドレスト駆動機構67までの距離が大きくても、ワイヤ44によって受圧部材70の動きをヘッドレスト駆動機構67に速やかに伝達することができる。
【0054】
このため、増速ユニット79からヘッドレスト駆動機構67までの距離が比較的大きくても、受圧部材70とヘッドレスト駆動機構67とを含む装置全体を軽量に構成することができる。また、シートバック12の内部に増速ユニット79とヘッドレスト駆動機構67を組付けることが容易である。
【0055】
しかも本実施形態の車両用シート10は、衝突時の受圧部材70の移動速度を増速ユニット79によって増速し、ワイヤ44を介してヘッドレスト駆動機構67を作動させる構成であるため、応答性に優れており、作動遅れを生じない。この増速ユニット79は、受圧部材70から独立して構成されているため、シートバックフレーム20への組付性が良い。
【0056】
図7は本発明の第2の実施形態を示している。この実施形態では、押圧手段として引張りばね110が併用されている。この引張りばね110は、スライド部材58をガイド孔50の上辺部50cに接触させる分力Ftが生じるように、サブフレーム55とシートバックフレーム20との間にテンションFsを与えた状態で張り渡されている。引張りばね110の一端は、サブフレーム55の係止部111に接続されている。引張りばね110の他端は、シートバックフレーム20の係止部112に接続されている。これら以外の構成は第1の実施形態と同様である。
【0057】
この引張りばね110は、スライド部材58をガイド孔50の上辺部50cに常に接触させ、かつ、スライド部材58をガイド孔50の一端50a側に向けて付勢している。すなわちこの引張りばね110は、サブフレーム55を初期位置に戻すためのリターンばねを兼ねている。
【0058】
図8と図9は本発明の第3の実施形態を示している。この実施形態では、押圧手段としてばね部材120が使用されている。ばね部材120は、ガイド孔50の上辺部50cに沿って配置されている。図9に示すようにばね部材120の断面は逆U形であり、弾性変形しやすいように、ばね部材120の長手方向に所定ピッチで複数のスリット121が櫛歯状に形成されている。このばね部材120は、ばね性を有する薄い金属板をプレス等によって成形したものでもよいし、合成樹脂の一体成形品でもよい。
【0059】
このばね部材120は、スライド部材58をガイド孔50の上辺部50cに向けて付勢している。ばね部材120の弾性により、スライド部材58は、ガイド孔50の上辺部50cに対して接点C2において接することができる。
【0060】
図10は本発明の第4の実施形態を示している。この実施形態では、押圧手段として弾性スライダ130が使用されている。弾性スライダ130は合成樹脂またはばね性を有する金属板からなり、スライド部材58に取付けられている。弾性スライダ130の下部131は、ガイド孔50の下辺部50dに沿って円滑に移動できるように、下辺部50dに対し摺動自在に嵌合している。弾性スライダ130によって、スライド部材58がガイド孔50の上辺部50cに向って付勢されている。このことにより、スライド部材58は、ガイド孔50の上辺部50cに対して接点C2において接することになる。
【0061】
以上のように構成された第2〜第4の実施形態も、第1の実施形態と同様に、スライド部材58の摺動部の部品寸法のばらつきを吸収して摺動性を確保することができるとともに、摺動部のがたの発生を防止することができる。なお、第1〜第4の実施形態で説明した各押圧手段を組合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す車両用シートの斜視図。
【図2】図1に示された車両用シートのシートバックの内部を示す斜視図。
【図3】図1に示された車両用シートのシートバックの内部を示す側面図。
【図4】図3に示されたシートバックの一部を拡大して示す側面図。
【図5】図3に示されたシートバックのヘッドレスト駆動機構の側面図。
【図6】図3に示されたシートバックの増速ユニットの側面図。
【図7】本発明の第2の実施形態を示すヘッドレスト駆動機構の側面図。
【図8】本発明の第3の実施形態を示すヘッドレスト駆動機構の長孔ブラケットの斜視図。
【図9】図8中のF9−F9線に沿う長孔ブラケットの断面図。
【図10】本発明の第4の実施形態を示す長孔ブラケットの側面図。
【符号の説明】
【0063】
10…車両用シート
12…シートバック
13…ヘッドレスト
14…ヘッドレスト本体
15…ステー
20…シートバックフレーム
32…アッパフレーム部材
44…ワイヤ
50…ガイド孔
50a…一端
50b…他端
50c…上辺部
51…長孔ブラケット
55…サブフレーム
58…スライド部材
60…サポートブラケット
67…ヘッドレスト駆動機構
70…受圧部材
α1…ワイヤとガイド孔のなす角度(押圧手段)
110…引張りばね(押圧手段)
120…ばね部材(押圧手段)
130…弾性スライダ(押圧手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックフレームを有するシートバックと、
該シートバックの上部に設けるヘッドレスト本体および該ヘッドレスト本体の下方に延びるステ−を有するヘッドレストと、
前記ヘッドレストのステ−を挿入するサポートブラケットであって、その背面が前記シートバックフレームのアッパフレーム部材に対して上下方向に移動可能に当接するサポートブラケットと、
前記シートバックに設けられ、乗員によって押されたとき後方に移動する受圧部材と、
前記サポートブラケットの下部が固定されるサブフレームと、
前記受圧部材が後方に移動したときに前記サポートブラケットを上方に移動させつつ前側に傾かせるヘッドレスト駆動機構であって、上下方向に延びるガイド孔を有し前記シートバックフレームに設けられる長孔ブラケットと、前記サブフレームの両端部に設けられて前記ガイド孔に挿入され前記受圧部材が後方に移動するとき前記ガイド孔に沿って該ガイド孔の一端側から他端側に移動するスライド部材を有するヘッドレスト駆動機構と、
前記スライド部材が前記ガイド孔に沿って移動する際に該スライド部材が前記ガイド孔の上辺部に接触するよう該スライド部材を付勢する押圧手段と、
を具備したことを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
前記押圧手段を構成するために、
前記スライド部材に接続されるワイヤが、前記ガイド孔の前記上辺部に対し角度α1をなして該上辺部側に斜めに延びていることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記押圧手段が引張りばねであり、該引張りばねは、該スライド部材を前記ガイド孔の上辺部に接触させかつ前記スライド部材を前記ガイド孔の前記一端側に向けて付勢するよう前記サブフレームと前記シートバックフレームとの間に張り渡されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記押圧手段が前記ガイド孔の下辺部に配置されたばね部材であり、該ばね部材によって前記スライド部材が前記ガイド孔の上辺部に向けて付勢されることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記押圧手段が前記スライド部材に設けた弾性スライダであり、該弾性スライダは、前記ガイド孔の下辺部に沿って移動可能でかつ前記スライド部材を前記ガイド孔の上辺部に向けて付勢することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−82772(P2006−82772A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271790(P2004−271790)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000004640)日本発条株式会社 (1,048)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】