説明

車両用灯具に使用されるエクステンション基材のアンダーコート用塗料、アンダーコート用塗料を用いた塗膜形成方法、塗膜形成方法により得られるエクステンションを有する車両用灯具

【課題】従来技術のアンダーコート用塗料はシリコン系重合膜に対する濡れが悪く、アンダー塗膜の密着性を高くすることが難しかった。そこで、エクステンション基材に対してだけでなく、シリコン系重合膜に対しても濡れが良く、アンダー塗膜の密着性を高くすることが可能なアンダーコート用塗料を開発することを目的とした。
【解決手段】上記目的を達成するために本発明者が鋭意研究した結果、OH基を有するアクリル系ポリマーをアンダーコート用塗料に含有させることにより、エクステンション基材に対してだけでなくシリコン系重合膜に対しても濡れが良くなり、アンダー塗膜の密着性が高くなることがわかった。本発明の一つは、車両用灯具に使用されるエクステンション基材のアンダーコート用塗料であって、モノマーと、OH基を有するアクリル系ポリマーと、重合開始剤と、溶剤と、を含むアンダーコート用塗料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具に使用されるエクステンション基材のアンダーコート用塗料、アンダーコート用塗料を用いた塗膜形成方法、塗膜形成方法により得られるエクステンションを有する車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用灯具に使用されるエクステンション部は、リフレクタと車両用灯具ボディの間の隙間を覆い隠す役割を担う部分であり、海外においては一般的にベゼルと呼ばれる。また、当該エクステンション部は外部から視認されるため、一定の美観が要求される装飾的な部分でもある。一般的に、エクステンション部は図1に示すように「エクステンション基材」1の上に形成される「アンダー塗膜(アンダーコート用塗料によって形成される膜、以下同じ)」2と、アンダー塗膜上に形成される鏡面としての「蒸着膜」3と、蒸着膜上に鏡面保護のために形成される「シリコン系重合膜」4から構成される。
【0003】
当該エクステンション部のアンダーコート用塗料としては種々のものが知られている。例えば、特許文献1から3などにおいては、PET(ポリエチレンテレフタレート)/PBT(ポリブチレンテレフタレート)組成やPC(ポリカーボネート)組成などの車両用灯具に使用されるエクステンション基材に対して塗布することが可能なアンダーコート用塗料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−233074
【特許文献2】特開2008−179693
【特許文献3】特開2009−149735
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図2に示すように「アンダー塗膜」2の形成過程において塗膜に「ゴミ等の異物」11が付着したり、アンダー塗膜上に「蒸着膜」3を形成する過程において蒸着膜に「凹凸」12が生じてしまったりする場合などがある。これらの不良はエクステンション部の美観に悪い影響を与えることになるため、当該不良が発生したエクステンション部は一般的に処分されていた。
【0006】
本発明者は、図3に示すように、上記のような不良品を良品として再生させるために、「シリコン系重合膜」4の上から再度「アンダー塗膜」2'と「蒸着膜」3'と「シリコン系重合膜」4'を形成することで下層の不良部分を目立たなくさせることを考えた。しかしながら、従来技術のアンダーコート用塗料はシリコン系重合膜に対する濡れが悪く、アンダー塗膜の密着性を高くすることができなかった。
【0007】
そこで、本発明者は、エクステンション基材に対してだけでなく、シリコン系重合膜に対しても濡れが良く、アンダー塗膜の密着性を高くすることが可能なアンダーコート用塗料を開発することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明者が鋭意研究した結果、OH基を有するアクリル系ポリマーをアンダーコート用塗料に含有させることにより、エクステンション基材に対してだけでなくシリコン系重合膜に対しても濡れが良くなり、アンダー塗膜の密着性が高くなることを見出した。
【0009】
本発明の一つは、車両用灯具に使用されるエクステンション基材のアンダーコート用塗料であって、モノマーと、OH基を有するアクリル系ポリマーと、重合開始剤と、溶剤と、を含むアンダーコート用塗料である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアンダーコート用塗料はエクステンション基材に対してだけでなくシリコン系重合膜に対しても濡れが良く、アンダー塗膜の密着性を高くすることが可能である。これにより、本来であるならば不良品として処分されていたエクステンション部を良品として再生させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】車両用灯具に使用されるエクステンションの一般的な膜構造を示す図
【図2】同エクステンションに不良が生じた例を示す図
【図3】シリコン系重合膜の上から再度塗膜を形成した場合の膜構造を示す図
【図4】車両用灯具に使用されるエクステンション基材に塗膜を形成する方法を示す図
【図5】シリコン系重合膜上に塗膜を形成する方法を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
<発明の概要>
本発明は、モノマーと、OH基を有するアクリル系ポリマーと、重合開始剤と、溶剤と、を含む塗料である。本発明者の研究により、OH基を有するアクリル系ポリマーを含有するアンダーコート用塗料はシリコン系重合膜に対して濡れが良く、アンダー塗膜の密着性が高くなることがわかった。これにより、エクステンション基材に形成された塗膜において美観を損ねる不良が見つかった場合でも、シリコン系重合膜の上に重ねて塗膜を形成することができるため、不良品を良品として再生することが可能になる。
【0013】
<塗料成分>
(モノマーについて)
本発明のアンダーコート用塗料に含まれるモノマーは、塗料の粘度を抑え塗装作業性を向上させる性質を有する。モノマーとしては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、トリペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリペンタエリスリトールテトラメタクリレート、トリペンタエリスリトールペンタアクリレート、トリペンタエリスリトールペンタメタクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタアクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタメタクリレート、トリペンタエリスリトールオクタアクリレート、トリペンタエリスリトールオクタメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレートなどが挙げられる。
【0014】
上記モノマーは単体で用いることも可能であるし、複数組み合わせて用いることも可能である。ただし、PET/PBTやPCなどに対して密着性の高いジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートを用いることが好ましい。なお、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートは高い耐熱性能も備えているため特に好ましい。ここで、モノマーの量を多くすると塗料の塗装作業性は高くなるが、シリコン系重合膜に対するアンダー塗膜の密着性は低くなる。よって、塗装作業性と密着性のバランスの観点から、モノマーの量は15.0重量%から35.0重量%とすることが好ましく、特に20.0重量%から30.0重量%とすることが好ましい。
【0015】
(OH基を有するアクリル系ポリマーについて)
本発明のアンダーコート用塗料に含まれるOH基を有するアクリル系ポリマーは、OH基の作用によってアンダー塗膜とシリコン系重合膜との密着性を高める性質を有する。OH基を有するアクリル系ポリマーとしては、例えば表1(1)〜(5)に示されるように、OH価や分子量、酸価などが異なるものが種々考えられる。ここで、OH基を有するアクリル系ポリマーは一種類のものを用いることも可能であるし、複数種類を組み合わせて用いることも可能である。
【0016】
ここで、表1(1)に示されるOH価が80以上のアクリル系ポリマーは耐熱性が特に優れており、高い密着性が得られることがわかった。なお、表1(6)〜(8)に示されるOH価を有しないアクリル系ポリマーは、従来技術と同様に、シリコン重合膜に対する密着性が悪かった。
【0017】
また、OH価を有するアクリル系ポリマーの量を多くすると、シリコン系重合膜に対するアンダー塗膜の密着性が高くなるが、樹脂粘度の関係で塗料の塗装作業性が悪くなる。よって、密着性と塗装作業性のバランスの観点から、塗料においてOH基を有するアクリル系ポリマーの量は5.0重量%から25.0重量%とすることが好ましく、特に10.0重量%から15.0重量%とすることが好ましい。
【0018】
【表1】

【0019】
(アルキド系樹脂について)
なお、アクリル系ポリマー以外のポリマーとしてアルキド系樹脂をさらに添加することも可能である。アルキド系樹脂を添加することにより塗膜の柔軟性を高め、塗膜形成後に行われる組みつけ作業において発生するひび割れ(クラック)を抑制することが可能になる。
【0020】
アルキド系樹脂としては、以下表2に示すように油種、油長、酸価の異なるものが種々考えられる。ここで、アルキド系樹脂は一種類のものを用いることも可能であるし、複数種類を組み合わせて用いることも可能である。ただし、樹脂粘度が比較的低く塗装作業性の優れる表2の(1)のアルキド系樹脂を用いることが好ましい。
【0021】
ここで、アルキド系樹脂の量を多くすると、塗膜の柔軟性は高くなるが、シリコン系重合膜に対する塗膜の密着性は低くなる。よって、塗膜の柔軟性と密着性のバランスの観点から、塗料においてアルキド系樹脂の量は5.0重量%から20.0重量%とすることが好ましく、特に10.0重量%から15.0重量%とすることが好ましい。
【0022】
【表2】

【0023】
(重合開始剤について)
本発明の塗料に含まれる重合開始剤はモノマーなどの重合を開始させる性質を有する。重合開始剤としては、自己開裂型の光重合開始剤と水素引抜型の光重合開始剤を用いることが考えられる。ただし、シリコン系重合膜に対する塗膜の密着性を低下させない水素引抜型の光重合開始剤を用いることが好ましい。
【0024】
ここで、重合開始剤の量を少なくすると塗膜の耐熱性は高くなるが、硬化性が低下する。よって、塗膜の耐熱性と外観性のバランスの観点から、塗料において重合開始剤の量は0.5重量%から5.0重量%とすることが好ましく、特に1.0重量%から2.0重量%とすることが好ましい。
【0025】
なお、自己開裂型の光重合開始剤としては、アセトフェノン系、ベンゾインエーテル系、ケタール系の光重合開始剤が挙げられる。具体的には、ベンゾインノルマルブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類、2,2−ジメトキシアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン類、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−エチレンフェニル)プロパン−1−オン]、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ビス[4,4'−(1−オキソ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピルフェニル)]メタン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−イソプロピルフェニル)プロパン−1−オン等のα−ヒドロキシアルキルフェノン類、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−1−モルフォリノプロパン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタノン等のα−アミノアルキルフェノン類、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド等のモノアシルホスフィンオキサイド類、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のモノアシルホスフィンオキサイド類などが考えられる。
【0026】
また、水素引抜型の光重合開始剤としては、ベンゾフェノン系、ベンジル系、チオキサントン系の光重合開始剤が挙げられる。具体的には、ベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−[アクリロイル(オリゴ)オキシエチレン]オキシベンゾフェノン、4−[メタクリロイル(オリゴ)オキシエチレン]オキシベンゾフェノン、4,4'−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4'−メチルビフェニルサルファイド等のベンゾフェノン類、2−ベンゾイル安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル等の安息香酸類、フェニルグリオキシル酸メチル、フェニルグリオキシル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル、フェニルグリオキシル酸2−(2−フェニルグリオキシロイル−1−オキソエトキシ)エチル等のフェニルグリオキシル酸エステル類、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリーブチルアントラキノン等のアントラキノン類、2,4−ジエチルイオキサンテンー9−オン、カンファーキノンなどが考えられる。
【0027】
(溶剤について)
本発明の塗料に含まれる溶剤は、塗料の流動性を高めて塗装作業性を向上させる性質を有する。溶剤としては、芳香族溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、などが挙げられる。なお、ケトン系溶剤を用いる場合は、ケトン系溶剤のうち濡れ性の優れた溶剤とレベリング性の優れた溶剤を混合してバランスを取ることが好ましい。
【0028】
ここで、溶剤の量を多くすると塗料の塗装作業性が高くなるが、塗膜を厚く塗ることが困難になる。よって、塗料の塗装作業性と塗膜を厚く塗ることの困難性のバランスの観点から、塗料において溶剤の量は35.0重量%から65.0重量%とすることが好ましく、特に45.0重量%から55.0重量%とすることが好ましい。
【0029】
芳香族溶剤としては、キシレンやトルエン、その他高沸点の芳香族化合物などがある。エステル系溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ノルマル(n−)ブチル、酢酸イソブチル、酢酸プロピル、セロソルブアセテート、3−メトキシブチルアセテートなどがある。ケトン系溶剤としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどがある。
【0030】
(レベリング剤)
本発明の塗料に含まれるレベリング剤は、塗膜の平滑性を高める性質を有する。レベリング剤としては、シリコン系レベリング剤、アクリル共重合体系レベリング剤、フッ素系レベリング剤などが考えられるが、ハジキ特性の優れるシリコン系レベリング剤を用いることが好ましい。
【0031】
シリコン系レベリング剤としては、アルキル基、ポリエーテル基、ポリエステル基、パーフルオロ基、アラルキル基、ポリジメチル基、ポリメチルアルキル基などにより有機変性された有機変性ポリシロキサンが考えられる。アクリル共重合体系レベリング剤としては、ポリアクリレート等のアクリル共重合体系レベリング剤などが考えられる。フッ素系レベリング剤としては、パーフルオロアルキル基を有するものや、フルオロアルキル基を有するものが考えられる。
【0032】
ここで、レベリング剤の量を多くすると塗膜の平滑性・ハジキ特性が高くなるが、塗膜の映り込み特性が低下する。よって、塗膜の平滑性・ハジキ特性と映り込み特性のバランスの観点から、塗料においてレベリング剤の量は0.005重量%から0.040重量%とすることが好ましく、特に0.010重量%から0.020重量%とすることが好ましい。
【0033】
(固形分の量について)
上記で既に述べたが、塗料において溶剤以外の固形分(モノマー、OH基を有するアクリル系ポリマー、重合開始剤など)の割合を増やすと膜厚を厚くすることが可能になるため、不良部分の隠蔽性が高くなる。しかしながら、固形分の量を増やすにつれて流動性が低くなるため、塗料の塗装作業性は悪くなる。よって、不良部分の隠蔽性と塗料の塗装作業性のバランスの観点から、塗料における固形分の量は35.0重量%から65.0重量%とすることが好ましく、特に45.0重量%から55.0重量%とすることが好ましい。
【0034】
<塗料の用途>
本発明の塗料は、車両用灯具に使用されるエクステンション基材のアンダーコート用塗料として用いる。特に、塗膜の密着性の観点から、PET(ポリエチレンテレフタレート)/PBT(ポリブチレンテレフタレート)組成又はPC(ポリカーボネート)組成の車両用灯具に使用されるエクステンション基材に対して用いることが好ましい。
【0035】
<塗膜の形成方法>
(基材に塗膜を形成する方法)
以下、本発明の塗料を用いて車両用灯具に使用されるエクステンション基材に塗膜を形成する方法について説明する。当該方法は、図4に示すように、第一アンダー塗膜形成ステップと、第一蒸着膜形成ステップと、第一シリコン系重合膜形成ステップと、からなる。
【0036】
まずステップS0401において、本発明のアンダーコート用塗料を車両用灯具に使用されるエクステンション基材に塗布してアンダー塗膜を形成する(第一アンダー塗膜形成ステップ)。ここで、形成されるアンダー塗膜の厚さは、5μmから50μmとすることが考えられるが、塗膜の性能が許す限りにおいて限定されるものではない。なお、アンダーコート用塗料を塗布する方法としてはスプレー方式で塗布することが主として考えられるが、その他の方式により塗布することも可能である。
【0037】
次にステップS0402において、第一アンダー塗膜形成ステップにて形成されたアンダー塗膜上に蒸着膜を形成する(第一蒸着膜形成ステップ)。ここで、アンダー塗膜上に蒸着膜を形成する方法としては、アルゴンガス雰囲気にて抵抗加熱を行い蒸着させる方法が主として考えられるが、これに限定されるものではない。
【0038】
次にステップS0403において、第一蒸着膜形成ステップにて形成された蒸着膜上にシリコン系重合膜を形成する(第一シリコン系重合膜形成ステップ)。ここで、蒸着膜上にシリコン系重合膜を形成する方法としては、プラズマ重合(CVD)装置を用いて、シリコンガス(HMDSO)をプラズマ雰囲気中にて重合させ、蒸着膜上にSiOの保護膜を生成する方法が主として考えられるが、これに限定されるものではない。
【0039】
(シリコン系重合膜上に塗膜を形成する方法)
以下、図4で示した塗膜形成方法により形成されたシリコン系重合膜上に、再度塗膜を形成する方法について説明する。当該方法は、図5に示すように、第二アンダー塗膜形成ステップと、第二蒸着膜形成ステップと、第二シリコン系重合膜形成ステップと、からなる。シリコン系重合膜上に再度塗膜を形成することによって、美観に影響を与える不良部分を目立たなくすることが可能である。
【0040】
まずステップS0501において、車両用灯具に使用されるエクステンション基材に既に形成されているシリコン系重合膜上に上記記載のアンダーコート用塗料を塗布してアンダー塗膜を形成する(第二アンダー塗膜形成ステップ)。ここで、シリコン系重合膜は、親水化処理が施されたものであってもよい。第二のアンダー塗膜の膜厚は、下部の不良部分を目立たなくさせる観点から、10μmから100μmの間の膜厚とすることが考えられるが、塗膜の性能が許す限りにおいて限定されるものではない。
【0041】
次にステップS0502において、第二アンダー塗膜形成ステップにて形成されたアンダー塗膜上に蒸着膜を形成する(第二蒸着膜形成ステップ)。当該ステップは、上記で説明した第一蒸着膜形成ステップと同様である。このように、同じステップを繰り返し行えることも本件発明の効果である。
【0042】
次にステップS0503において、第二蒸着膜形成ステップにて形成された蒸着膜上にシリコン系重合膜を形成する(第二重合膜形成ステップ)。当該ステップは、上記で説明した第一重合膜形成ステップと同様である。このように、同じステップを繰り返し行えることも本件発明の効果である。
【実施例1】
【0043】
<塗料の成分>
(成分)
本実施例のアンダーコート用塗料は、以下の成分を有する。
(1)モノマー:
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
・・・10.0〜15.0重量%
・トリメチロールプロパントリアクリレート
・・・10.0〜15.0重量%
(2)OH基を有するアクリル系ポリマー
・ガラス転移点:60℃、分子量:6000、酸価:4、OH価:84を有するもの
・・・10.0〜15.0重量%
(3)アルキド系樹脂
・油種:サフラワー、油長:30、酸価:3を有するもの
・・・10.0〜15.0重量%
(4)重合開始剤
・2−エチルアントラキノン
・・・0.5〜1.5重量%
(5)溶剤
・芳香族溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤を混合したもの
・・・45.0〜50.0重量%
(6)レベリング剤
・シリコン系レベリング剤
・・・0.010〜0.020重量%
【0044】
(性能試験内容)
上記実施例の成分からなるアンダーコート用塗料について性能試験を行った。まず、PET/PBT基材又はPC基材又はシリコン系重合膜に対してアンダーコート用塗料を膜厚25(μm)又は50(μm)となるよう塗布し、乾燥プロセス(90℃、5分)、UV照射プロセス(500又は2000又は4000mJ/cm)を経てアンダー塗膜を形成した。
【0045】
塗膜の性能評価として、塗膜の外観性と密着性を評価した。塗膜の外観性の評価は、「虹」や「フクレ」などの障害が塗膜に発生していないか否かをチェックした。また、塗膜の密着性の評価は、形成された塗膜において密着不良を起こしていないか否かをチェックした。
【0046】
表3は、性能評価の結果を示している。ここで、○は外観性や密着性に問題がないことを表す。この表が示すように、本実施例のアンダーコート用塗料は、上記いずれの組み合わせにおいても、PET/PBT基材又はPC基材又はシリコン系重合膜に対して外観性・密着性良く塗布されることがわかった。
【0047】
【表3】

【符号の説明】
【0048】
1…エクステンション基材、2、2'…アンダー塗膜、3、3'…蒸着膜、4、4'
…シリコン系重合膜、11…ゴミ等の異物、12…凹凸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用灯具に使用されるエクステンション基材のアンダーコート用塗料であって、
モノマーと、
OH基を有するアクリル系ポリマーと、
重合開始剤と、
溶剤と、
を含むアンダーコート用塗料。
【請求項2】
前記モノマーは、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート又は/及びトリメチロールプロパントリアクリレートである請求項1に記載のアンダーコート用塗料。
【請求項3】
前記アクリル系ポリマーは、OH価が80以上である請求項1又は2に記載のアンダーコート用塗料。
【請求項4】
前記重合開始剤は、水素引抜型の光重合開始剤である請求項1から3のいずれか一に記載のアンダーコート用塗料。
【請求項5】
前記塗料は、PET(ポリエチレンテレフタレート)/PBT(ポリブチレンテレフタレート)組成又はPC(ポリカーボネート)組成の車両用灯具に使用されるエクステンション基材に用いられる請求項1から4のいずれか一に記載のアンダーコート用塗料。
【請求項6】
レベリング剤をさらに含む請求項1から5のいずれか一に記載のアンダーコート用塗料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一に記載の塗料を車両用灯具に使用されるエクステンション基材に塗布してアンダー塗膜を形成する第一アンダー塗膜形成ステップと、
第一アンダー塗膜形成ステップにて形成されたアンダー塗膜上に蒸着膜を形成する第一蒸着膜形成ステップと、
第一蒸着膜形成ステップにて形成された蒸着膜上にシリコン系重合膜を形成する第一シリコン系重合膜形成ステップと、
からなる塗膜形成方法。
【請求項8】
車両用灯具に使用されるエクステンション基材に既に形成されているシリコン系重合膜上に請求項1から6のいずれか一に記載の塗料を塗布してアンダー塗膜を形成する第二アンダー塗膜形成ステップと、
第二アンダー塗膜形成ステップにて形成されたアンダー塗膜上に蒸着膜を形成する第二蒸着膜形成ステップと、
第二蒸着膜形成ステップにて形成された蒸着膜上にシリコン系重合膜を形成する第二重合膜形成ステップと、
からなる塗膜形成方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の塗膜形成方法により得られるエクステンションを有する車両用灯具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−169115(P2012−169115A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28531(P2011−28531)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(511039027)東洋工業塗料株式会社 (1)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】