説明

農作業機の走行装置

【課題】 苗移植機のように圃場の一定方向に沿って平行方向の苗植付条を形成するように作業する形態が一般的である場合、未耕起の圃場面や、平面耕起による圃場土壌面での作業では、対地作業の平行的走行が難しく、不揃いの作業形態となり易く、高度の作業操作感覚、及び操作技術を要することとなる。
【解決手段】 左右一対の走行車輪1を有する対地作業機において、左右各車輪1の土壌踏面幅を作溝する作溝器2を配置して、この作溝器2による左右各作溝条底に沿って各車輪1を踏圧案内させて走行させることを特徴とする農作業機の走行装置の構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、苗植機等農作業機の走行装置に関し、苗移植等の対地作業を行いながら同時に土壌面に車輪の踏走する作溝条を形成して、この作溝条に沿って左右の車輪を案内させながら走行させるものである。
【背景技術】
【0002】
苗移植機では、既に別の畝成形機で形成された畝間の溝条部に沿って、走行車輪を踏走させながら、畝上面に苗植付を行わせる作業技術(例えば、特許文献1参照等)が知られている。又、プラウ作業や、和鋤作業等では、既に形成された前行程の耕起溝部に片側の車輪を踏走案内させる技術も周知の通りである。
【特許文献1】特開2002ー306921号公報(第3頁、図1)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
苗移植機のように圃場の一定方向に沿って平行方向の苗植付条を形成するように作業する形態が一般的である場合、未耕起の圃場面や、平面耕起による圃場土壌面での作業では、対地作業の平行的走行が難しく、不揃いの作業形態となり易く、高度の作業操作感覚、及び操作技術を要することとなる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載の発明は、左右一対の走行車輪1を有する農作業機の走行装置において、左右各車輪1の土壌踏面幅を作溝する作溝器2を配置して、この作溝器2による左右各作溝条3底に沿って各車輪1を踏圧案内させて走行させることを特徴とする農作業機の走行装置の構成とする。車体を走行させながら対地作業するとき、走行土壌面には、左右一対の作溝器2により各々平行な作溝条3が形成される。この作溝条3は略車輪1が踏圧する踏圧幅に形成されているために、この作溝と同時にこの作溝条3底に車輪1を踏走させることによって、作溝条3に沿って車体走行を案内させることができ、平行条の作業走行を行わせ易くする。
【0005】
請求項2に記載の発明では、前記作溝器1は、左右車輪1の前側の前輪4との間に配置するものである。左右各作溝器2は、前輪4と後部の車輪1との間にあって、車輪1の踏走する直前部分の土壌面を作溝して、所定幅、及び深さの作溝条3を形成する。このため、この作溝器2による作溝抵抗を受けて車体の前部下側に向けて引き下げられるように作用力が働くが、この作用力は前輪4によって支持されているため作溝器2による作溝条3の深さを一定に維持し、操作性を良好に維持する。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載の発明は、車体の左右各車輪1を同時進行の作溝器2で形成され形成される左右一対の作溝条3底に沿って踏走案内させることによって、平行条の作業条形成を容易にすることができる。とくに、この左右一対の作溝器2が各車輪1の直前にあって、作溝条3底の踏圧が正確に行われ易く、作溝条3による車輪1の踏走案内を的確に、円滑に行わせることができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、左右各作溝器2の作溝抵抗による車体の前部荷重を前輪4で支持するため、作溝条3の深さを一定に形成させて、車輪1の踏走案内を安定させることができ、操作性を一層高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1、図2に基づいて、対地作業機として苗移植機を実施例として説明する。又、この発明は、この苗移植機の他に施肥、播種機、その他の管理作業機等に応用することができる。車体のメインフレーム7の前部は、左右一対の前輪4や、後車輪1を配置して、この上部に搭載のエンジン8で車輪1を駆動して走行する。この左右車輪1間の後部には苗植伝動ケース1内の伝動機構を介して伝動されて楕円形状の植付軌跡線Dを描いて植付作動する苗植嘴13を有した左右一対の苗植装置9を配置し、更に、このメインフレーム7の後方にはハンドルフレーム10を延長して、後端部に操作ハンドル11を設ける。このハンドル11の操作により走行操作しながら苗移植するハンド走行形態の移植機を構成する。ここにおいて、この発明に係る走行装置は、左右一対の走行車輪1を有する対地作業機において、左右各車輪1の土壌踏面幅を作溝する作溝器2を配置して、この作溝器2による左右各作溝条3底に沿って各車輪1を踏圧案内させて走行させる構成とする。車体を走行させながら対地作業するとき、走行土壌面には、左右一対の作溝器2により各々平行な作溝条3が形成される。この作溝条3は略車輪1が踏圧する踏圧幅に形成されているために、この作溝と同時にこの作溝条3底に車輪1を踏走させることによって、作溝条3に沿って車体走行を案内させることができ、平行条の作業走行を行わせ易くする。又、前記作溝器1は、左右車輪1の前側の前輪4との間に配置するものである。左右各作溝器2は、前輪4と後部の車輪1との間にあって、車輪1の踏走する直前部分の土壌面を作溝して、所定幅、及び深さの作溝条3を形成する。このため、この作溝器2による作溝抵抗を受けて車体の前部下側に向けて引き下げられるように作用力が働くが、この作用力は前輪4によって支持されているため作溝器2による作溝条3の深さを一定に維持し、操作性を良好に維持する。
【0009】
前記左右一対の車輪1は、アクスルハウジング12に支持されて上下回動可能の車輪伝動ケース15の後端の車軸16に取付けられて、エンジン8から連動される。前輪4は、これら左右の車輪1の直前方に配置されて、略同轍を踏走するように配置している。又、この前輪4は前輪軸17の周りに回転自在に軸装されて、操作可能に構成している。前記苗植装置9は、苗植伝動ケース14から前後一対のダブルクランク作動形態の平行リンク18を介して植付軌跡線Dを描いて昇降作動される苗植嘴13を主体として、この苗植嘴13に苗を供給する苗ホッパ19を有する。この苗植嘴13は前後に開閉回動する形態で、平行リンク18の先端に前後のリンクピン20で枢着される嘴ベース21に対して、該リンクピン20周りに前後に回動して開閉する構成である。苗植嘴13の閉鎖状態では、下端部が嘴形態に尖っていて、前記平行リンク18によって該植付軌跡線Dに沿って作動されるとき、この下降行程の下端部では土壌面Aに突き刺して植付穴を形成することができる。又、この土壌面Aにおいては前後に開かれて、土壌面Aにおける植付穴を大きく形成すると共に、内部に収容している苗をこの植付穴に落下させて植付ることができる。この苗植嘴13は苗植付後開放状態で上昇して、植付穴に植付た苗の植付姿勢を乱さないようにする。又、苗植嘴13が上死点位置にあるときは、閉鎖して、上側のホッパ19から供給される苗の落下を受ける。又、左右の苗植嘴13は交互に植付作動するように作動タイミングを180度の作動位相角度をずらせた構成とすることもできる。
【0010】
このような苗植装置9は、中央部のメインフレーム7の左右両側部に対称状に配置して設けられ、左右両車輪1間の間隔部に配置される。この車輪1間隔をL(cm)とすれば、この中央部に位置するメインフレーム7から左右に偏位する各苗植嘴13の偏位間隔をL/4とし、左右車輪1から内側に偏位する側部間隔L1も、L1=L/4に設定し、左右両苗植嘴13間の間隔L2=L/2として設定している。
【0011】
車体フレーム7の上方には苗植装置9の前側に苗補給台22を設け、作業者はこの苗補給台22上面に載せておく苗を取出しながら、各苗ホッパ19部へ供給しながら苗移植を行わせる。このような補給苗は、該苗ホッパ19上に自動補給装置を設けることによって自動的に行わせる形態とすることもできる。又、この苗植嘴13上の苗ホッパ19の上端縁部周りには、円形断面のパイプリング30を形成して、これにノズル23を配置し、パイプ、乃至ホース24を経て送られるエアー、又は水圧をこのホッパ19内へ噴出させて、苗植付時に苗植嘴13内の苗葉がこれら苗ホッパ19や苗植嘴13内周面に付着するのを防止して、苗離れを容易にして、苗の植付姿勢を良好に維持するように構成とする。又、この苗ホッパ19の上端はパイプリング30の形態に形成することによって苗葉の付着、絡付等の抵抗を少なくしている。
【0012】
前記作溝器2は、左右各車輪1の轍部直前位置に設けて、この車輪1の轍幅の作溝条3を土壌面Aに形成する。前記車輪伝動ケース15の内側に車輪1が軸装されるが、このアクスルハウジング12部に作溝アーム25を介して作溝器2を取付けて、走行土壌面Aに適宜深さの作溝条3を形成する。この作溝器2は、後側の車輪1の轍幅と略同幅、乃至これより若干広幅の作溝を形成して、車輪1踏走による走行案内作用を高める。前輪4は、この作溝器2の前方に位置して踏走するが、これら車輪1の轍幅域、及び作溝器2の作溝幅域を踏むように配置している。又、これらの轍幅域や作溝幅域外を踏むように配置することもできる。
【0013】
前記苗植装置9の後側には、左右一対の培土ディスク26が支持アーム27を介して回転自在に軸支28されて、各苗植嘴13によって植付られる苗元部の植付穴部を培土して苗植付姿勢を安定支持させる。前記伝動ケース14の側部にはポンプ29が連動されるように装着されて、このポンプ29の駆動によってホース24を介して苗ホッパ19のノズル23にエアー、又は水圧を送ることができる。
【0014】
車体を前進走行させて苗移植を行うときは、作業者が平坦な圃場土壌面Aをハンドル11操作により走行させて、苗を各苗ホッパ19に供給しながら移植を行わせる。車輪1の回転により車体が前進して左右一対の作溝器2が土壌面Aに適宜深さの作溝条3を形成する。この形成された作溝条3内に各車輪1が嵌合して踏走することにより、左右の車輪1の踏走方向が規制案内されて前進される。このように走行中には、左右二条の作溝条3が車輪間隔(トレッド)Lと同間隔に形成されて、同時にこの間隔Lの中央部土壌面Aには、苗植嘴13による苗植嘴間隔L2に二条の苗植付作用が行われる。圃場内の作業域を往復走行しながら苗移植作業を行うときは、前往行程で形成された作溝条3に片側の車輪1を踏走案内させて進行することによって、この外側部に新たな復行程の作溝条3を形成しながらこの側の車輪1を踏走案内させることができ、復行程の二条の苗移植を行うことができる。このとき、往復行程に移植される植付条間隔は、前記側部間隔L1=L/4によって苗植嘴間隔L2と略同一となる。このため、土壌面Aが平坦面であっても、最初に車体進行によって形成される作溝条3に沿って平行な後続作溝条3が形成されて、苗植嘴13による苗植付条も平行に形成される。
【0015】
次に、主として図3に基づいて、前記メインフレーム7、及びハンドルフレーム10を右側の車輪1よりに偏位させて、このメインフレーム7の左側で、かつ左右車輪1間の中央部位置に苗植装置9を配置して一条植え形態としたものである。ハンドル11も右側に偏位して配置した構成で、車体の左右重量バランスを図る形態としている。左右各車輪1は、車輪伝動ケース15の外側に軸装されて、作溝器2はアクスルハウジング12の外側に突出した作溝アーム25に取付けられている。又、これら左右の車輪伝動ケース15は、アクスルハウジング12の周りに上下回動可能に支持されて、車高調節される形態にしているが、アクスルハウジング12の後側に取付けられた油圧伸縮のシリンダ31にシーソアーム32の中間部枢着33し、このシーソアーム32の左右両側端部と、各車輪伝動ケース15基部のケースアーム34との間をリンクロッド35で連結して、左右の車輪伝動ケース15がシーソ状に上下に回動搖動可能で、かつ、シリンダ31の伸縮によって車体に対して上下高さを変更できる構成としている。又、この構成でシリンダ31による車高調節を行わせない形態では、アクスルハウジング12に一体のアームプレート36と、ケースアーム34との間をセットピン37で連結して、このセットピン37をアームプレート36に配置の調節穴38に差替えることによって、車輪伝動ケース15の上下角度を変更して、左右の車輪1の高さを同時、又は各別に調節するように構成している。
【0016】
次に、主として図4、図5に基づいて、前輪4の操向を行うための操向レバー41を後方の苗ホッパ19の側方近くへ伸ばして、前記苗植伝動ケース14の側方に取付けたレバーガイド42に操作位置を係止可能に設ける。この操向レバー41は、前輪4を軸支する操向アーム43に取付けられて、左右前輪4はタイロッド44を介して操向連動される。これら左右前輪4を支架する前輪軸17は伸縮可能でトレッド調節できるが、このとき操向レバー41も左右に平行移動される。このためレバーガイド42も横方向に長く形成して操向位置を支持案内できる構成としている。又、これら操向レバー41、及びレバーガイド42は、作業者の伸長等に応じて操作し易いように上下位置を調節することができる。操向レバー41は操向アーム43に対する上下取付角度を変更可能に構成し、これに対応するレバーガイド42の取付位置も上下に変更調節可能の構成とする。作業走行時の条合わせ等の識別のためのマーカポール44、45を設ける形態では、前記ハンドル11の偏位側の右前輪4側に設けて、右側旋回操向を行い易くしている。ハンドル11を操作する作業者は、車体の右側寄りを歩行するため、右側旋回操向操作は容易であるが、反対側の左側旋回操向操作は行い難い傾向にある。又、これらマーカポール44、45等は、トレッドの変更と同時に前輪4と共に移動するように操向アーム43側と一体的に伸縮移動の前輪軸17部に取付けると便利である。
【0017】
次に、主として図6に基づいて、前記苗植嘴13によって土壌面に移植された植付苗が、この苗植嘴13の上昇に伴って追随するようにして引き抜かれることがないように、この苗植嘴13に付着、乃至絡み付かないように、苗を払い除くための苗払装置50を設ける。昇降する苗植嘴13の周部に伝動ケース14、乃至この植付部を覆う植付カバー51と一体の取付ステー52に下端部をL字形態に形成した苗払アーム53を往復回動させる。この苗払アーム53は、前記苗植嘴13の昇降によって駆動される駆動アーム54によって連動される構成である。苗植嘴13と一体に昇降する係合ピン55が、苗ホッパ19の横側に突出されて、この苗ホッパ19の苗植軌跡線Dに沿う軌跡線Eの上昇行程の作動において駆動アーム54のローラ56を係合して、このアーム軸57、リンクロッド58、及びベルクランク59等を介して、該苗払アーム53を搖動させる。この駆動アーム54は復帰スプリング60で、取付ステー52に張圧されていて、係合ピン55による駆動はこの復帰スプリング60の張圧力に抗して行われる。又、このような苗払アーム53は長い苗の場合には作動させないことがことがある。このようなときは駆動アーム54に設けられるローラ56のローラ軸61を横側へ移動させて、ローラ56を係合ピン55の軌跡線Eの作動圏外に切替えるように構成している。又、前記苗払アーム53は、細い単一棒形態であると苗葉の絡み付き易いことがある。このような場合は、上下二段の平行状のフォーク状形態Fに形成したり、又はスプーン乃至へら状形態Gに形成して、苗葉の絡み付き難い構成とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】苗移植機の平面図。
【図2】その側面図。
【図3】その一部別例を示す平面図。
【図4】その一部別例を示す平面図。
【図5】その側面図。
【図6】一部別例を示す苗払装置部の斜視図。
【符号の説明】
【0019】
1 車輪
2 作溝器
3 作溝条
4 前輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の走行車輪(1)を有する農作業機の走行装置において、左右各車輪(1)の土壌踏面幅を作溝する作溝器(2)を配置して、この作溝器(2)による左右各作溝条(3)底に沿って各車輪(1)を踏圧案内させて走行させることを特徴とする農作業機の走行装置。
【請求項2】
前記作溝器(1)は、左右車輪(1)の前側の前輪(4)との間に配置することを特徴とする請求項1に記載の農作業機の走行装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−143500(P2007−143500A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344162(P2005−344162)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】