説明

農業用フィルム

【課題】 本発明は、丘陵地などの傾斜面での果樹栽培に代表される過酷な使用環境下でも好適に用いることができる農業用フィルムを提供する。
【解決手段】 本発明の農業用フィルムは、密度が0.915〜0.930g/cm3で且つメルトフローレイトが0.5〜4.0g/10分である直鎖状低密度ポリエチレンと、ピペリジン環構造を分子中に2個以上有し且つ数平均分子量が1000以上であるヒンダードアミン化合物とを含有する所定厚みの中間層と、酢酸ビニル成分の含有量が5〜15重量%で且つメルトフローレイトが0.5〜4.0g/10分であるエチレン−酢酸ビニル共重合体を含有する所定厚みの外層とを含み、厚みが30〜150μmで、中間層の厚みが全体の厚みの50〜90%であり、中間層及び外層の一層以上に所定の平均粒子径の雲母が所定量含有されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、農作物の施設栽培に用いられている農業用フィルムとして、ポリ塩化ビニル系樹脂農業用フィルム(以下、「PVC系農業用フィルム」という)や、ポリエチレン系樹脂農業用フィルム(以下、「PO系農業用フィルム」という)などが一般的に用いられている。
【0003】
農業用フィルムは、屋外で使用される場合は、太陽光線に含まれる紫外線、太陽光により熱せられた栽培施設の構成部材から受ける熱、栽培施設内で使用される肥料や農薬などの薬剤、更には、酸性雨などを原因とする劣化因子に曝される。
【0004】
一方、栽培施設への被覆展張作業の容易化、使用後の廃棄量の削減、栽培施設のコストダウンなどへの要望から、農業用フィルムは薄膜化の方向へ開発が進められている。PVC系農業用フィルムは、保温性、耐候性、透明性、作業性などに優れている反面、使用後の焼却廃棄時に有毒ガスの発生が懸念されることから、近年はその使用が減少している。
【0005】
これに対して、最近、PVC系農業用フィルムに代替する農業用フィルムとして、PO系農業用フィルムの使用が急速に増加している。PO系農業用フィルムは、PVC系農業用フィルムに比較して、軽量化、価格、加工性、機械的強度、廃棄処理の容易さなど多くの利点を有している。
【0006】
しかしながら、PO系農業用フィルムは、PVC系農業用フィルムに比較して、屋外や屋内使用における前記劣化因子に対して脆弱な側面を有しているため、長期間に亘る使用や使用条件の厳しい地域での使用を可能とするために種々の検討がなされてきている。
【0007】
具体的には、特許文献1には、PO系農業用フィルムの前記劣化因子に対する耐性を改善する方法として安定剤としてヒンダードアミン系化合物を含有するポリオレフィンが開示されている。
【0008】
しかしながら、上記ポリオレフィンは、例えば、フィルム化した場合に水分が関与する条件下ではヒンダードアミン系化合物が短期間で消失しやすく、ヒンダードアミン系化合物の効力が短期間で消失しやすいという問題点がある。
【0009】
又、特許文献2には、ヒンダードアミン系化合物の効力を持続させうるフィルムとしてヒンダードアミン系化合物0.1〜2重量%と、表面積が10m2/g以上の極性を有する無機質微粉末0.5〜20重量%とを含有してなる耐候性の優れた熱可塑性合成樹脂フィルムが開示されている。
【0010】
しかしながら、上記熱可塑性合成樹脂フィルムは、ヒンダードアミン系化合物と無機質微粉末の双方を含有しているため、透明性が著しく低下しており、農業用フィルムとしての使用には適さないという問題点がある。
【0011】
更に、特許文献3には、酢酸ビニルとオレフィンとの共重合体又はその共重合体とポリオレフィンとの混合物で、全体に対する酢酸ビニルの含有割合が10〜20重量%のオレフィン系樹脂100重量部に対し、(A)リチウムアルミニウム複合水酸化物塩1〜20重量部、(B)ヒンダードアミン系光安定剤0.05〜3重量部及び(C)防曇剤1〜4重量部を配合した樹脂組成物から成る、厚さ30〜180μmの基材層の片面又は両面に、ポリオレフィン、又は酢酸ビニルとオレフィンとの共重合体若しくはその共重合体とポリオレフィンとの混合物で、全体に対する酢酸ビニルの含有割合が9重量%以下の樹脂から成るオレフィン系樹脂から成る、厚さ10〜50μmの被覆層を設けた農業用オレフィン系樹脂フィルムが開示されている。
【0012】
しかしながら、果樹栽培、特にブドウ栽培は、丘陵地で営まれる場合が多く、傾斜地に張設した農業用フィルムには標高の高い部分に張力が集中する。又、南向きの斜面は単位面積当りの紫外線量が多く、太陽光に暖められた農業用フィルムの下方の空気が斜面に沿って上昇し、栽培施設内の上部が高温度になる。その上、ブドウ栽培においては、強塩基性の石灰硫黄合剤を大量の希釈水と共に散布することが日常的に行われている。このような過酷な条件下で上記PO系農業用フィルムを使用するには、機械的強度、耐候性及び耐農薬性が不十分である。
【0013】
更に、丘陵地におけるブドウに代表される果樹栽培においては、太陽光を十分に透過させる必要はあるものの、太陽からの直射光線の透過を抑える必要もあり、そのため、散乱光線を多く取り入れる必要が生じる。
【0014】
これは、太陽光の光量が不足すると作物の生育不良などの問題が生じるからである。しかしながら、太陽光の光量を多く取り入れたとしても直射光線が多いと、果樹栽培においては、ハウス内部の温度が必要以上に上昇し、葉焼け現象(葉に急激に温度が加わり、葉が焼けてしまう現象)などの障害が生じ、或いは、栽培施設内に透過光の分布ムラが生じるという問題があった。
【0015】
この問題を解決するために、特許文献4には、白系、紫色系にフィルムを着色させることで直射光線の透過量を押さえ、栽培施設内の急激な温度上昇による葉焼け現象などの問題を防止する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、太陽光の光量も低下してしまうため、作物の育成不良などの問題が生じる場合があった。
【0016】
【特許文献1】特開昭59−86645号公報
【特許文献2】特開昭56−41254号公報
【特許文献3】特開平7−312996号公報
【特許文献4】特公昭57−51861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、丘陵地などの傾斜面での果樹栽培に代表される過酷な使用環境下でも好適に用いることができる農業用フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の農業用フィルムは、密度が0.915〜0.930g/cm3で且つメルトフローレイトが0.5〜4.0g/10分である直鎖状低密度ポリエチレンと、式1で表されるピペリジン環構造を分子中に2個以上有し且つ数平均分子量が1000以上であるヒンダードアミン化合物とを含有する厚みが20μm以上の中間層と、この中間層の両面に積層一体化され、酢酸ビニル成分の含有量が5〜15重量%で且つメルトフローレイトが0.5〜4.0g/10分であるエチレン−酢酸ビニル共重合体を含有する厚みが5μm以上の外層とを含み、全体の厚みが30〜150μmであると共に、上記中間層の厚みが全体の厚みの50〜90%であり、更に、上記中間層及び上記外層の少なくとも一層以上に平均粒子径が5〜40μmの雲母が含有され、上記雲母の総量が合成樹脂の総量100重量部に対して0.1〜5重量部であることを特徴とする農業用フィルム。但し、式1中、R1は、炭素数が1以上で且つ少なくとも1以上のメチレン基を含む官能基又は化合物(オリゴマー、ポリマーを含む)を表す。
【0019】
【化1】


式1中において、R1は、炭素数が1以上で且つ少なくとも1以上のメチレン基を含む官能基又は化合物(オリゴマー、ポリマーを含む)を表す。
【0020】
本発明の農業用フィルムの中間層は、丘陵地などの傾斜面において栽培施設に展張された際に加えられる張力に耐えうる機械強度と、部分的に発生する昇温状態によって農業用フィルムが軟化することを防止する。
【0021】
そして、中間層は、密度が0.915〜0.930g/cm3で且つメルトフローレイトが0.5〜4.0g/10分である直鎖状低密度ポリエチレンを主成分として含有している。なお、本発明において主成分とは、層を構成している合成樹脂の総量のうち50重量%以上を占めていることをいう。
【0022】
中間層を構成している直鎖状低密度ポリエチレンの密度は、低いと、農業用フィルムの成形安定性が低下し、高いと、農業用フィルムの引裂強度が低下するので、0.915〜0.930g/cm3に限定され、0.917〜0.925g/cm3が好ましい。なお、直鎖状低密度ポリエチレンの密度とは、JIS K7112「プラスチック−非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」に準拠して測定された値をいう。
【0023】
又、中間層を構成している直鎖状低密度ポリエチレンのメルトフローレイト(MFR)は、低いと、農業用フィルムの成形安定性が低下し、高いと、農業用フィルムの機械的強度が低下するので、0.5〜4.0g/10分に限定され、0.8〜2.5g/10分が好ましい。なお、直鎖状低密度ポリエチレンのメルトフローレイトは、JIS K7210「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に準拠して温度190℃、荷重21.18Nの条件で測定された値をいう。
【0024】
更に、中間層には、低密度ポリエチレンが含有されていないことが好ましい。これは、中間層に低密度ポリエチレンが含有されていると、農業用フィルムの機械的強度が低下するからである。なお、中間層にやむを得ず低密度ポリエチレンを含有させる必要がある場合には、中間層を構成している直鎖状低密度ポリエチレン100重量部に対して低密度ポリエチレン30重量部以下が好ましい。
【0025】
更に、中間層には、下記式1で表されるピペリジン環構造を分子中に2個以上有し且つ数平均分子量が1000以上であるヒンダードアミン化合物を含有している。なお、式1中において、R1は、炭素数が1以上で且つ少なくとも1以上のメチレン基を含む官能基又は化合物を表す。炭素数が1以上で且つ少なくとも1以上のメチレン基を含む化合物は、オリゴマーやポリマーも含む。具体的には、R1としては、例えば、プロピル基などが挙げられる。このような特定の構造を有するヒンダードアミン化合物を含有させておくことによって、農業用フィルムは、農薬などの薬剤、更には、酸性雨などを原因とする劣化因子に対して耐久性に優れたものとなる。
【0026】
【化2】

【0027】
なお、式1で表されるピペリジン環構造を分子中に2個以上有するヒンダードアミン化合物は、チバジャパン社から商品名「Tinuvin NOR 371」にて市販されている。
【0028】
ヒンダードアミン化合物は高分子化合物であるが、このヒンダードアミン化合物の数平均分子量は、低いと、ブリードアウトし易くなり、効果の持続性が低下するので、1000以上に限定され、2000〜5000が好ましい。
【0029】
又、中間層には、式1で表されるピペリジン環構造を分子中に2個以上有し且つ数平均分子量が1000以上であるヒンダードアミン化合物以外のヒンダードアミン化合物が含有されていてもよく、このようなヒンダードアミン化合物としては、例えば、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ{[6−[(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ]−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]}などが挙げられる。
【0030】
中間層の厚みは、薄いと、農業用フィルムの機械的強度や耐熱性が低下するので、20μm以上に限定され、30〜80μmが好ましい。
【0031】
本発明の農業用フィルムは、その中間層の両面に外層が積層一体化されている。なお、中間層の両面に積層一体化されている外層は、互いに同一の配合構成であっても相違していてもよい。この外層は、紫外線や水分などによって農業用フィルムの表面に微細なクラック(亀裂)が発生するのを防止する。
【0032】
農業用フィルムの表面にクラックが生じると、このクラックを通じて、農薬として散布される硫黄や石灰硫黄合剤などの酸性物質や塩基性物質が水分とともに浸透し、農業用フィルムの物性低下を著しく加速させる。
【0033】
従って、本発明の農業用フィルムでは、その外層は、酢酸ビニル成分の含有量が5〜15重量%で且つメルトフローレイトが0.5〜4.0g/10分であるエチレン−酢酸ビニル共重合体を主成分として含有する。
【0034】
外層を構成しているエチレン−酢酸ビニル共重合体中における酢酸ビニル成分の含有量は、少ないと、外層の柔軟性が低下して農業用フィルムの表面に生じる微細なクラックの発生を防止することができず、多いと、農業用フィルムにブロッキングが生じ易くなるので、5〜15重量%に限定され、7〜10重量%が好ましい。
【0035】
又、外層を構成しているエチレン−酢酸ビニル共重合体のメルトフローレイトは、低いと、農業用フィルムの成形性が低下し、高いと、外層の破断強度が低下し、農業用フィルムの表面に生じる微細なクラックの発生を防止することができないので、0.5〜4.0g/10分に限定され、0.8〜2.0g/10分が好ましい。なお、エチレン−酢酸ビニル共重合体のメルトフローレイトは、JIS K7210「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に準拠して温度190℃、荷重21.18Nの条件で測定された値をいう。
【0036】
なお、農業用フィルムを共押出法によって製造する場合には、中間層を構成している直鎖状低密度ポリエチレンのメルトフローレイトと、外層を構成しているエチレン−酢酸ビニル共重合体のメルトフローレイトとを互いに近い値としておくことが好ましい。
【0037】
外層の厚みは、薄いと、紫外線や水分などによって農業用フィルムの表面に生じる微細なクラックの発生を防止することができないので、5μm以上に限定され、10〜25μmが好ましい。
【0038】
そして、本発明の農業用フィルムは、その中間層及び外層のうちの少なくとも一層に雲母が含有されており、中間層及び外層のうちの一層或いは二層にのみ雲母が含有されていてもよいし、中間層及び二つの外層の全ての層に雲母が含有されていてもよい。農業用フィルムの散乱光線透過率を向上させるために、二つの外層に雲母が含有されていることが好ましい。
【0039】
雲母の種類は限定されず、天然雲母であっても合成雲母であってもよい。雲母の平均粒子径は、散乱光線透過率及び全光線透過率を共に良好なものとし且つ農業用フィルムの引裂強度や破断点強度などの機械的強度の低下も防止することができるので、5〜40μmに限定され、10〜30μmがより好ましく、15〜20μmが特に好ましい。
【0040】
又、農業用フィルム中における雲母の含有量は、散乱光線透過率及び全光線透過率を共に良好なものとし且つ農業用フィルムの引裂強度や破断点強度などの機械的強度の低下も防止することができるので、農業用フィルムを構成している合成樹脂の総量100重量部に対して0.1〜5重量部に限定される。
【0041】
更に、農業用フィルムには、その物性を阻害しない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防曇剤、防霧剤、滑剤、顔料などが添加されてもよい。
【0042】
酸化防止剤としては、特に限定されないが、熱安定剤としての効果を兼ね備えているものが好ましい。このような酸化防止剤としては、例えば、カルボン酸の金属塩、フェノール系抗酸化剤、有機亜燐酸エステルなどのキレーターが挙げられる。酸化防止剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0043】
紫外線吸収剤としては、特に限定されず、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤などが挙げられ、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0044】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0045】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5−メチルフェニル) −5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3,5’−ジ−tert−ブチルフェニル) −5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3,5’−ジ−tert−アミルフェニル) −5−クロロベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0046】
防曇剤としては、特に限定されず、例えば、グリセリンステアリン酸エステル、ジグリセリンステアリン酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステル、ソルビトールグリセリンステアリン酸エステルなどの多価アルコール飽和脂肪酸エステル、グリセリンオレイン酸エステル、ジグリセリンオレイン酸エステルなどの多価アルコール不飽和脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0047】
防霧剤としては、特に限定されず、例えば、シリコーン系、フッ素系などの界面活性剤が挙げられる。滑剤としては、特に限定されず、例えば、ステアリン酸アマイドなどの飽和脂肪酸アマイド、エルカ酸アマイド、オレイン酸アマイドなどの不飽和脂肪酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイドなどのビスアマイドなどが挙げられる。
【0048】
但し、農業用フィルムには、例えば、保温剤などの無機微粒子は含有されていないことが好ましい。無機微粒子は、肥料や農薬などの薬剤中に含まれる酸性物質や塩基性物質などを捕捉する作用を有するため、農業用フィルムの劣化を促進させてしまうからである。従って、農業用フィルムに無機微粒子を含有させざるを得ない場合には、農業用フィルム中における無機微粒子の含有量が7重量%以下となるように調整することが好ましい。
【0049】
そして、農業用フィルムの全体の厚みは30〜150μmに限定され、50〜100μmが好ましい。これは、農業用フィルムが薄いと、農業用フィルムの機械的強度が低下し、強風などによって容易に破断し、或いは、農業用フィルムの耐侯性が不充分となって、劣化の進行による農業用フィルムの機械的強度の低下が著しくなるからである。一方、農業用フィルムが厚いと、農業用フィルムの取扱性が低下し、丘陵地などの傾斜面での農業用フィルムの展張作業が困難となることがあるからである。
【0050】
更に、中間層の厚みは農業用フィルム全体の厚みの50〜90%に限定される。農業用フィルム全体の厚みに対して中間層の厚みの比率が低いと、農業用フィルムの機械的強度が低下し、強風などによって容易に破断し、或いは、農業用フィルムの耐侯性が不充分となって、劣化の進行による農業用フィルムの機械的強度の低下が著しくなるからである。一方、農業用フィルム全体の厚みに対して中間層の厚みの比率が高いと、紫外線や水分などによって農業用フィルムの表面に微細なクラック(亀裂)が発生するのを防止することができないからである。
【0051】
次に、農業用フィルムの製造方法について説明する。農業用フィルムの製造方法は、特に限定されず、例えば、第一押出機、第二押出機及び第三押出機が全て同一のダイに接続されてなる製造装置を用意し、直鎖状低密度ポリエチレン及びヒンダードアミン化合物を第一押出機に供給し溶融混練して第一押出機から押出し、エチレン−酢酸ビニル共重合体を第二押出機及び第三押出機に供給し溶融混練して第二押出機及び第三押出機から押出し、第一〜三押出機を共に接続させたダイに供給して、多層インフレーション法、多層Tダイ押出法、多層カレンダー法等によって、第一押出機から押出した直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とする中間層の両面に、第二押出機及び第三押出機のそれぞれから押出したエチレン−酢酸ビニル共重合体を主成分とする外層を積層一体化させて農業用フィルムを製造する方法が挙げられる。
【0052】
そして、農業用フィルムは、例えば、丘陵地などの傾斜面での果樹栽培に好適に使用することができるだけでなく、軽量性及び高機械的強度の必要とされる用途、肥料や農薬などの薬剤の付着が不可避である用途などにも好適に使用することができ、このような用途しては、例えば、堆肥処理場の雨よけ用途などが挙げられる。
【発明の効果】
【0053】
本発明の農業用フィルムは、優れた機械的強度、耐候性、耐熱性及び耐農薬性に優れており、栽培施設への展張作業性にも優れている。従って、農業用フィルムは、丘陵地などの傾斜面での果樹栽培に代表される過酷な使用環境下においても好適に用いることができる。
【0054】
そして、本発明の農業用フィルムは、散乱光線透過率及び全光線透過率が共に高いので、栽培施設に展張して用いられた場合、栽培施設内への太陽光の直射光線を抑えながら、栽培施設内にできるだけ多くの太陽光を透過させることができ、栽培施設内の作物の生育を妨げることはなく、栽培施設内の温度上昇に伴う葉焼けを概ね防止することができる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
直鎖状低密度ポリエチレンA(ダウケミカル社製 商品名「ダウレックス2045G」、密度:0.920g/cm3、メルトフローレイト:1.0g/10分)100重量部及び式1で表されるピペリジン環構造を分子中に2個以上有するヒンダードアミン化合物A(チバジャパン社製 商品名「Tinuvin NOR 371」、数平均分子量:3200)0.4重量部からなる第一樹脂組成物を第一押出機に、エチレン−酢酸ビニル共重合体A(日本ポリエチレン社製 商品名「ノバテックLV241」、密度:0.929g/cm3、メルトフローレイト:1.5g/10分、酢酸ビニル成分の含有量:8重量%)100重量部、式1で表されるピペリジン環構造を2個以上有するヒンダードアミン化合物A(チバジャパン社製 商品名「Tinuvin NOR 371」、数平均分子量:3200)0.4重量部及び雲母A(中越黒鉛工業所社製 商品名「CBR」、平均粒子径:18μm)2重量部からなる第二樹脂組成物を第二押出機に、エチレン−酢酸ビニル共重合体A(日本ポリエチレン社製 商品名「ノバテックLV241」、密度:0.929g/cm3、メルトフローレイト:1.5g/10分、酢酸ビニル成分の含有量:8重量%)、式1で表されるピペリジン環構造を2個以上有するヒンダードアミン化合物A(チバジャパン社製 商品名「Tinuvin NOR 371」、数平均分子量:3200)0.4重量部及び雲母A(中越黒鉛工業所社製 商品名「CBR」、平均粒子径:18μm)2重量部からなる第三樹脂組成物を第三押出機にそれぞれ供給して溶融混練した後、第一〜三押出機を全て接続させているダイに押出し、厚さ比が10:40:10になるようにインフレーション法で三層共押出成形し、総厚さが60μmの農業用フィルムを得た。なお、農業用フィルムは、第一樹脂組成物からなる中間層の一面に、第二樹脂組成物からなる外層が積層一体化され、且つ、中間層の他面に、第三樹脂組成物からなる外層が積層一体化されていた。
【0057】
【化3】

【0058】
(実施例2)
直鎖状低密度ポリエチレンAの代わりに、直鎖状低密度ポリエチレンB(ダウケミカル社製 商品名「エリート5400」、密度:0.916g/cm3、メルトフローレイト:1.0g/10分)を用いたこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0059】
(実施例3)
直鎖状低密度ポリエチレンAの代わりに直鎖状低密度ポリエチレンC(ダウケミカル社製 商品名「ダウレックス2042G」、密度:0.930g/cm3、メルトフローレイト:1.0g/10分)を用いたこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0060】
(実施例4)
第二押出機及び第三押出機に、エチレン−酢酸ビニル共重合体Aの代わりに、エチレン−酢酸ビニル共重合体B(東ソー社製 商品名「ウルトラセン513」、密度:0.928g/cm3、メルトフローレイト:1.0g/10分、酢酸ビニル成分の含有量:5重量%)を供給したこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0061】
(実施例5)
第二押出機及び第三押出機に、エチレン−酢酸ビニル共重合体Aの代わりに、エチレン−酢酸ビニル共重合体C(日本ポリエチレン社製 商品名「ノバテックLV430」、密度:0.940g/cm3、メルトフローレイト:1.0g/10分、酢酸ビニル成分の含有量:15重量%)を供給したこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0062】
(実施例6)
第二押出機及び第三押出機に、雲母Aの代わりに、雲母B(中越黒鉛工業所社製 商品名「BF50」、平均粒子径:5μm)を供給したこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0063】
(実施例7)
第二押出機及び第三押出機に、雲母Aの代わりに、雲母C(中越黒鉛工業所社製 商品名「BSP−2」、平均粒子径:40μm)を供給したこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0064】
(実施例8)
第二押出機及び第三押出機に、雲母Aを2重量部の代わりに5重量部供給したこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0065】
(比較例1)
第一押出機に、直鎖状低密度ポリエチレンAの代わりに、直鎖状低密度ポリエチレンD(ダウケミカル社製 商品名「アテイン4201G」、密度:0.912g/cm3、メルトフローレイト:1.0g/10分)を供給したこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0066】
(比較例2)
第一押出機に、直鎖状低密度ポリエチレンAの代わりに、直鎖状低密度ポリエチレンE(ダウケミカル社製 商品名「ダウレックス2740E」、密度:0.940g/cm3、メルトフローレイト:1.0g/10分)を供給したこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0067】
(比較例3)
第一押出機に、直鎖状低密度ポリエチレンAの代わりに、エチレン−酢酸ビニル共重合体A(日本ポリエチレン社製 商品名「ノバテックLV241」、密度:0.929g/cm3、メルトフローレイト:1.5g/10分、酢酸ビニル成分の含有量:8重量%)を供給したこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0068】
(比較例4)
第一押出機に、直鎖状低密度ポリエチレンAの代わりに、低密度ポリエチレン樹脂A(旭化成ケミカルズ社製 商品名「サンテックF2206」、密度:0.922g/cm3、メルトフローレイト:0.6g/10分)を供給したこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0069】
(比較例5)
第二押出機及び第三押出機に、エチレン−酢酸ビニル共重合体Aの代わりに、エチレン−酢酸ビニル共重合体D(日本ポリエチレン社製 商品名「ノバテックLV110」、密度:0.922g/cm3、メルトフローレイト:0.5g/10分、酢酸ビニル含有量:2重量%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0070】
(比較例6)
第二押出機及び第三押出機に、エチレン−酢酸ビニル共重合体Aの代わりに、エチレン−酢酸ビニル共重合体E(東ソー社製 商品名「ウルトラセン627」、密度:0.940g/cm3、メルトフローレイト:1.0g/10分、酢酸ビニル成分の含有量:20重量%)を供給したこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0071】
(比較例7)
第二押出機及び第三押出機に、エチレン−酢酸ビニル共重合体Aの代わりに,直鎖状低密度ポリエチレンA(ダウケミカル社製 商品名「ダウレックス2045G」、密度:0.920g/cm3、メルトフローレイト:1.0g/10分)を供給したこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0072】
(比較例8)
第二押出機及び第三押出機に、エチレン−酢酸ビニル共重合体Aの代わりに、低密度ポリエチレン樹脂A(旭化成ケミカルズ社製 商品名「サンテックF2206」、密度:0.922g/cm3、メルトフローレイト:0.6g/10分)を供給したこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0073】
(比較例9)
第一〜三押出機に、ヒンダードアミン化合物Aの代わりに、ヒンダードアミン化合物B(チバジャパン社製 商品名「CHIMASSORB 944」、数平均分子量:2000〜3100)を供給したこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。なお、ヒンダードアミン化合物Bは、式1で表されるピペリジン環構造を有していなかった。
【0074】
(比較例10)
第二押出機及び第三押出機に、雲母Aの代わりに、雲母D(中越黒鉛工業所社製 商品名「APR」、平均粒子径:3μm)を供給したこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0075】
(比較例11)
第二押出機及び第三押出機に、雲母Aの代わりに、雲母E(中越黒鉛工業所社製 商品名「G−3」、平均粒子径:75μm)を供給したこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0076】
(比較例12)
第二押出機及び第三押出機に、雲母Aを2重量部の代わりに0.05重量部供給したこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0077】
(比較例13)
第二押出機及び第三押出機に、雲母Aを2重量部の代わりに8重量部供給したこと以外は実施例1と同様にして農業用フィルムを得た。
【0078】
得られた農業用フィルムの成形安定性、引裂強度、破断点強度、ブロッキング性、耐農薬性、全光線透過率及び散乱光線透過率を下記の要領で測定し、その結果を表1、2に示した。
【0079】
(成形安定性)
農業用フィルムの成形安定性を下記の基準で評価した。
○:農業用フィルムはその厚みが均一であった。
△:農業用フィルムはその厚みがやや不均一であった。
×:農業用フィルムはその厚みが不均一で且つ外観に劣った。
【0080】
(引裂強度)
農業用フィルムの押出方向の引裂強度をエルメンドルフ引裂試験機(東洋精機製作所社製)を用いてJIS K7128−2に準拠して測定し、下記基準に基づいて判断した。
○:引裂強度が6N以上であった。
△:引裂強度が2N以上で且つ6N未満であった。
×:引裂強度が2N未満であった。
【0081】
(破断点強度)
農業用フィルムの破断点強度をストログラフ(東洋精機製作所社製)を用いてJIS K7128に準拠して測定し、下記基準に基づいて判断した。
○:破断点強度が2000g以上であった。
×:破断点強度が2000g未満であった。
【0082】
(ブロッキング性)
農業用フィルムから一辺が10cmの平面正方形状の試験片を10枚切り出し、10枚の試験片を重ね合わせてなる積層シートを60℃のオーブン内に6時間に亘って放置した。6時間経過後に積層シートをオーブンから取り出し、積層シートの状態を下記基準に基づいて判断した。
○:試験片同士の融着はなく全て容易に剥がれた
△:一部の試験片同士が融着していた。
×:大部分の試験片同士が融着していた。
【0083】
(耐農薬性)
農業用フィルムから一辺が15cmの平面正方形状の試験片を切り出し、この試験片を1Nの亜硫酸水溶液中に7日間に亘って浸漬し、しかる後、紫外線ランプを用いて試験片に50W/m2の紫外線を48時間に亘って照射した。紫外線照射後の試験片の残存破断点伸度をJIS K7128に準拠して測定し、下記基準に基づいて判断した。
○:残存破断点伸度が400%以上であった。
×:残存破断点伸度が400%未満であった。
【0084】
(全光線透過率)
農業用フィルムの全光線透過率をヘイズメーター(日本電色工業社製 商品名「NDH2000」)を用いて測定し、下記の基準に基づいて判断した。
○:全光線透過率が80%以上であった。
△:全光線透過率が60%以上で且つ80%未満であった。
×:全光線透過率が60%未満であった。
【0085】
(散乱光線透過率)
農業用フィルムの散乱光線透過率をヘイズメーター(日本電色工業社製 商品名「NDH2000」)を用いて測定し、下記の基準に基づいて判断した。
○:散乱光線透過率が30%以上で且つ60%未満であった。
△:散乱光線透過率が60%以上、又は、20%以上で且つ30%未満であった。
×:散乱光線透過率が20%未満であった。
【0086】
【表1】


【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が0.915〜0.930g/cm3で且つメルトフローレイトが0.5〜4.0g/10分である直鎖状低密度ポリエチレンと、式1で表されるピペリジン環構造を分子中に2個以上有し且つ数平均分子量が1000以上であるヒンダードアミン化合物とを含有する厚みが20μm以上の中間層と、この中間層の両面に積層一体化され、酢酸ビニル成分の含有量が5〜15重量%で且つメルトフローレイトが0.5〜4.0g/10分であるエチレン−酢酸ビニル共重合体を含有する厚みが5μm以上の外層とを含み、全体の厚みが30〜150μmであると共に、上記中間層の厚みが全体の厚みの50〜90%であり、更に、上記中間層及び上記外層の少なくとも一層以上に平均粒子径が5〜40μmの雲母が含有され、上記雲母の総量が合成樹脂の総量100重量部に対して0.1〜5重量部であることを特徴とする農業用フィルム。但し、式1中、R1は、炭素数が1以上で且つ少なくとも1以上のメチレン基を含む官能基又は化合物(オリゴマー、ポリマーを含む)を表す。
【化1】


【公開番号】特開2010−81813(P2010−81813A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251707(P2008−251707)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(596111276)積水フイルム株式会社 (133)
【Fターム(参考)】