説明

農産物保護用袋

果実、野菜及び花等の農産物に被せて果実を病害虫から保護する袋であって、農産物の糖度、色、外観など品質の向上に寄与し、袋の装着作業性を高めて品質管理が容易である農産物保護用袋を提供する。少なくとも前記袋の一部乃至袋全面が通気性乃至ガス透過性で、且つ、非透水性を有する多数の微細孔を備えた透明乃至半透明又は/及び光透過性のプラスチック製有孔フィルムからなり、一方向に開口する開口部を有する袋本体と、該袋本体を農産物の支持部に取着するための取着部とを備え、前記微細孔の最大部の孔径が50〜500μmの範囲内、空孔面積率が0.7〜10%の範囲内であることが好ましく、微細孔は貫通孔又は一端が閉塞されてなる閉塞孔であってもよく、微細孔の周縁に凹凸部が形成された面を少なくとも袋の内側に向けて構成することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、葡萄や梨等の果実、野菜及び花等の栽培中において、農産物に被せて病害虫等から保護する袋に関し、詳細には通気性乃至ガス透過性プラスチック製フィルムによって熱気による農産物の焼けを防止するとともに袋の装着作業性を高めて品質管理が容易にでき、農産物の糖度、色、外観など品質の向上に寄与する農産物保護用袋に関する。
【背景技術】
従来、農産物、例えば、葡萄、梨、林檎、桃、その他の果実の栽培中に果実を保護するために紙製の袋を使用していた。しかし、この紙製の袋は水に濡れて破れないように、パラフィンやオレフィン系樹脂をコーティングするなどの撥水加工が施されるために、袋はガス透過性を失い、そのために外気との接触が遮断されてカビや雑菌が繁殖する原因となるばかりでなく、特に夏場の暑い日中には熱気が袋の内部に滞り、この熱気によって袋上方部と接触する果実の部分に焼けが発生する問題があった。
また、果実の成長過程において、袋内部の果実の状態を観察しながら果実の間引作業をするに当たり、前記の紙製の袋は透明性に欠け、袋内部の果実を観察するために袋を破らなければならず手間がかかる。そこで、紙製の袋の一部を透明フィルムにした袋があるが、製造コストが高く且つ一方向から袋内部が観察できるように透明部を同一方向に向けて装着するなどの不便があり広く普及するには至っていない。また、従来の紙製の袋は鳥が嘴で啄むと容易に破れて果実が食い荒らされるので、袋の上部を傘状のプラスチックフィルムで覆って鳥害から果実を保護しなければならず、二重の手間を要し問題であった。
更に、前記の果実以外の農産物、例えば、トマト、ミニトマト、キャベツ、白菜、アスパラガス等の野菜類、その他えのき茸、舞茸等のキノコ類、薔薇、胡蝶蘭等の花卉類等の農産物は生育過程において害虫、例えばスリップス(Thrips)と称する極小の害虫に花粉、葉、花、果実ないし若枝を食される被害が多発して問題になっている。
一方、前記の紙製袋の代替え品として、透明乃至半透明のプラスチックフィルムに通気孔が設けられている袋体がある(特開平10−52180号公報(第1−4頁、第3図))。この発明にかかる袋体の開口部側には遮光部並びに袋底部に通水口(前記公報では通水孔と称す。)が設けてあり、本発明とは異なる。前記公報記載の発明は、通気孔の孔径の大きさが所定の範囲を越えた場合には外部から水を透過する可能性が充分にあり得ることから、この内部に進入した水を排出するために袋の底部に通水口を設たものと考えられる。しかし、この通水口から蟻や油虫、前記スリップス等の害虫が進入する可能性があり問題であった。
【発明の開示】
前記の問題点を解消するために、本発明者は鋭意研究し本発明に到達した。即ち、袋本体に設ける微細孔は通気性ないしガス透過性で、且つ、水が通過しない大きさから構成されてなる。従って、開口部が密封されている限り袋内部に水が進入することがないので、水抜き用の孔を設ける必要がなく、よって水抜き用の孔から害虫が袋内に侵入する心配がない。また、微細孔から空気を通過させて袋内部の空気を外気と入れ替えるには、微細孔の密度及びその大きさと密接な関係があることを知見し、農産物にとって最も好適な環境条件を創造する微細孔の孔径と空孔面積率又は開孔率の範囲を設けた。本発明は、前記のような問題点を解消し、特に、無農薬栽培ないし減農薬栽培においては農産物の育成保護効果が顕著であり、果実の品質、収率及び作業性の向上に寄与する農産物保護用袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
前記の課題を解決するために、本発明は、果実、野菜及び花等の農産物を栽培する過程において前記農産物に被せて保護するための袋であって、前記の袋は、少なくとも一方に開口する開口部を有し、少なくとも袋の一部(開口部側の部分を含む)乃至袋全面に多数の通気性乃至ガス透過性且つ非透水性の微細孔を備え、透明乃至半透明又は/及び光透過性のプラスチック製有孔フィルムからなることを特徴とする農産物保護用袋とする(請求項1)。
また、本発明において、「通気性乃至ガス透過性且つ非透水性の微細孔」とは、「農産物保護用袋を概ね通常の状態で使用した場合において、少なくとも空気を透過するが、水は透過しない微細孔」を意味し、前記以外の特別な条件下で仮に水が進入したとしても、これを理由に係る農産物保護用袋を本発明から除外する趣旨ではない。
また、前記の課題を解決するために、本発明は、果実、野菜及び花等の農産物を栽培する過程において前記農産物に被せて保護するための袋であって、前記の袋は、少なくとも一方に開口する開口部を有し、少なくとも袋の一部(開口部側の部分を含む)乃至袋全面に多数の通気性乃至ガス透過性且つ非透水性の微細孔を備え、透明乃至半透明又は/及び光透過性のプラスチック製有孔フィルムからなる袋本体と、前記の袋本体を前記農産物の支持部(支持枝部を含む)に取着するための取着部と、を備えたことを特徴とする農産物保護用袋とする(請求項2)。
また、前記の課題を解決するために、本発明は、果実、野菜及び花等の農産物を栽培する過程において前記農産物に被せて保護するための袋であって、前記の袋は、少なくとも一方に開口する開口部を有し、プラスチック製のフィルムからなる多重袋によって構成され、前記多重袋の何れもが少なくとも袋の一部(開口部側の部分を含む)乃至袋全面に多数の通気性乃至ガス透過性且つ非透水性の微細孔を備えてなることを特徴とする農産物保護用袋とする(請求項3)。
また、前記の課題を解決するために、本発明は、果実、野菜及び花等の農産物を栽培する過程において前記農産物に被せて保護するための袋であって、前記の袋は、少なくとも一方に開口する開口部を有し、プラスチック製のフィルムからなる多重袋によって構成され、前記多重袋の何れもが少なくとも袋の一部(開口部側の部分を含む)乃至袋全面に多数の通気性乃至ガス透過性且つ非透水性の微細孔を備えてなる袋本体と、前記の袋本体を前記農産物の支持部(支持枝部を含む)に取着するための取着部と、を備えたことを特徴とする農産物保護用袋とする(請求項4)。
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記プラスチック製フィルムに設けられた微細孔は、最大部の孔径が50〜500μmの範囲内で、且つ、空孔面積率が0.7〜10%の範囲内であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の農産物保護用袋とすることが好ましい(請求項5)。
また、前記の課題を解決するために、本発明は、請求項1〜4記載の微細孔を有するプラスチック製フィルムは、片面乃至両面における微細孔の周縁に凸部が形成されており、前記凸部が形成されてなる何れかの面を袋本体の内側に向けて構成されてなることを特徴とする農産物保護用袋とすることが好ましい(請求項6)。
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記微細孔はプラスチック製フィルムの何れか一面から他面に向けて貫通させた貫通孔、又は他面の表面近傍の極薄膜部を除き厚み方向に穿孔して前記の極薄膜部によって一端が閉塞されてなる閉塞孔、の何れかであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の農産物保護用袋とすることが好ましい(請求項7)。
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記農産物保護用袋を構成するプラスチック製のフィルムは、太陽光の中で農産物の着色、糖度乃至生育を増進する波長の光線を選択的に透過することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の農産物保護用袋とすることが好ましい(請求項8)。
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記袋を構成するプラスチック製のフィルムは、生分解性フィルム、紫外線吸収性フィルム、抗菌乃至殺菌フィルム、マイナスイオン発生フィルム、遠赤外線発生フィルム及び消臭乃至芳香性フィルムの中から選ばれる少なくとも一種の機能性フィルムからなることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の農産物保護用袋とすることが好ましい(請求項9)。
また、前記の課題を解決するために、本発明は、請求項2又は4記載の農産物保護用袋において、前記の取着部が袋本体の一部から構成されてなるか又は袋本体とは別に構成される取着部を袋本体に固着してなることを特徴とする農産物保護用袋とすることが好ましい(請求項10)。
作用
本発明に係る農産物保護用袋は、前記のような微細孔を有するプラスチック製のフィルムからなり、鳥類の嘴による啄みに対しても破れず、蟻、油虫、ナメクジ、かめ虫、スリップス等の害虫の進入を完全に阻止する。また、非透水性であり、雨水や液状の農薬の袋内への進入を防止するので、水抜き用の通水口を設ける必要もなく、従ってその通水口から害虫が進入する懸念もない。万が一、台風など強風下で袋内に雨水が進入しても、この微細孔は通気性を有するので、袋内の雨水は気化し、微細孔から蒸散する。そして、微細孔を介して袋内の空気と外気が自由に入れ替わるので、日中は袋内の熱気を排除して袋内の温度分布を均一化し果実の焼けを防止するとともに、夜は袋外の冷気を袋内に導き、袋内の状態を自然の雰囲気に近づけることとなる。このようにして、袋内の昼夜の寒暖の差が大きくなり、果実の糖度を増して品質を向上する。更に、袋本体は光透過性なので太陽光を自然の状態で取り入れることによって、農産物の着色度を増して太陽光のもとで栽培したと同様に着色性に優れた外観を呈する。
また、本発明に係る農産物保護用多重袋、特に二重袋によって構成したものは、内側の袋が太陽光を透過乃至は特定の波長の太陽光のみを選択的に透過する透明乃至半透明又は/及び光透過性フィルムからなり、前記二重袋のうちの外側の袋は太陽光を遮断し乃至は一部を遮断する遮光性フィルムで構成し、例えば林檎保護用袋の場合は、果実の生育初期の段階で前期二重袋を果実に装着して太陽光を遮断した状態にし、果実がある程度生育した段階で、内袋を残して外袋を取り外すことによって、透明な内袋を透過した太陽光が果実に照射されて赤く着色することができる。また、果実の赤色系色素を増大するように赤系波長の光線を透過し易くするために、内袋に透明性の有機系赤色顔料を添加することが好ましい。或いは二重袋を農産物の生育期に被せ、農産物の収穫後に、外側の袋を取り除いて内側の袋を商品包装用袋として使用してもよく、二重袋に限定されず、必要に応じ3枚以上の多重袋に構成してもよい。
また、本発明に係る農産物保護用袋は、微細孔の最大部の孔径を50〜500μmの範囲内に設定することができるので通気性乃至ガス透過性且つ非透水性でスリップス(Thrips)の様な極小の小さな害虫であっても進入を阻止することが可能となる。更に、微細孔の孔径の最大値と空孔面積率の最低値を定めただけでは孔径が必要以上に小さくて通気量が不充分な場合を考慮して、より充分な通気量を確保するために、微細孔の最大部の孔径の範囲を前記のように定めるとともに空孔面積率を0.7〜10%の範囲内に定めたのである。ここで、空孔面積率とは、単位面積当たりの合計空孔面積の百分率で表される数値を言う。
また、本発明に係る農産物保護用袋は、フィルムの片面乃至両面における微細孔の周縁に凸部が形成され、該凸面のいずれか側面を袋本体の内側にして構成することができるので、前記の凸部が果実等の表面に点接触する(第5図)。従来の凸部の無い単なる有効フィルムの場合は、フィルムが果実等の表面に隙間無く密着するので空気の通過が妨げられ、熱気による焼けの原因となっていた。この熱焼けを防止するために遮光部を設けていたが、太陽光を遮ることによって着色性と糖度低下をきたす欠点があった。本発明の場合は、この凸部と果実等の接触部との隙間を介して微細孔から空気流が通過して熱気を外部に放出することによって熱焼けを防止し、よって遮光部を設ける必要もないので着色性と糖度を増す作用をなす。更に、袋本体の内面においては対向するフィルムの凸面同士または凸面と平面が接触し、平面同士が接するものに比較してフイルムのベタツキが防止され、開封し易くなるので袋掛け作業の能率を向上する作用をなす。
また、フィルムの片面乃至両面における微細孔の周縁に凸部が形成されており、前記凸部が形成されたフィルム面を袋本体の内側に向けて構成された袋は、前記フィルム面の凸部と果実等の接触部との隙間によって、雨水等の水滴が微細孔を通して袋内部に進入する毛細管現象に起因する所謂導水力を抑制して、フィルムの非透水性能をより向上する。併せて微細孔からの空気流も増大するので、熱気を外部に放出する作用がより向上することとなる。
また、本発明に係る農産物保護用袋は、閉塞孔からなる有孔フィルムとすることができ、微細孔の一端の閉塞された極薄膜部を通じて空気を透過することが可能となり、害虫の進入は言うまでもなく病原菌の進入をも阻止する可能性がある。
また、本発明に係る農産物保護用袋は、果実等の着色を増進する太陽光の波長を選択的に透過する着色材や紫外線吸収剤等の添加剤を加えることができ、例えば、葡萄の黒紫色の色素を増殖する透明の有機系着色材を添加することによって、色を濃く着色し、糖度を増すことも可能となる。
また、本発明に係る農産物保護用袋は、前記のような様々な機能性フィルムを使用することによって、農産物の生育を促進し価値をより高めることができる。
また、本発明に係る農産物保護用袋は、袋を被着体の支持部に取着するための取着部を備え、この取着部が袋本体の一部から構成されてなるか又は袋本体とは別に構成される取着部を袋本体に固着することができるので、袋を取着する作業を容易にする。このように取着部が袋に固着され、乃至は袋の一部として構成することによって、一々取着部を取り出す手間が省けて袋の取付け作業が容易になり、且つ袋を支持部に強固に取り付けることができる。取着部の具体例については後述する。
【図面の簡単な説明】
第1図は粘着剤を取着部に使用した実施例に係る農産物保護用袋を例示した斜視図である。
第2図は粘着剤を取着部に使用した実施例に係る農産物保護用袋を使用した状態を示した斜視図である。
第3図は針金を取着部に使用した実施例に係る農産物保護用袋を例示した斜視図である。
第4図は針金を取着部に使用した実施例に係る農産物保護用袋を使用した状態を示した斜視図である。
第5図は実施例に係る農産物保護用袋と果実の接触面の状態を示す説明図である。
第6図は針金を取着部に使用した他の実施例に係る農産物保護用袋を例示した斜視図である。
第7図は帯状取着部の両端部を袋本体の両側面に溶着した実施例に係る農産物保護用袋を例示した平面図である。
第8図は袋本体の一部を切り込んで帯状の取着部とした実施例に係る農産物保護用袋を例示した斜視図である。
第9図は小片からなる取着部とこの取着部を袋本体の開口部の近傍に溶着した状態を例示した平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に本発明の代表的な実施の形態について図に基づいて説明する。しかしながら、本願発明はかかる実施の形態によって限定されるものではない。
【実施例】
図1〜4に示す実施例において、1は農産物保護用袋であり、11は袋本体であり、12は取着部であり、13は微細孔であり、14は切り込みである。袋本体11は、透明乃至半透明のプラスチック製の有孔フィルムからなり、ほぼ全面に多数の通気性乃至ガス透過性且つ非透水性の微細孔13を穿設してある。
前記の図では開口部15側の一部に微細孔が設けてあるが、微細孔13を袋の全面に設けてもよい。そして袋内部の温度を考慮して適宜微細孔を設ける範囲を決定できる。袋内の熱気は上方部に上昇する傾向にあり、この熱気を効率よく外部に排出するために、通常、袋を、開口部15を上向きにして装着する場合は、袋の上方部に空気が抜けやすいように少なくとも袋の開口部15近辺に微細孔13を設け、或いは、微細孔13は、その孔径、孔密度又は空孔面積率を大きくして通気効率を高めるように配設することが好ましい。即ち、袋を装着する向きに応じて、例えば、袋の開口部近辺、袋の底部近辺、或いは袋の中間部近辺等、微細孔13が配設される袋の部位によって微細孔13の孔径、孔密度又は空孔面積率等を適宜変えて配設することができる。
プラスチック製フィルムの素材は特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン(PP)フィルム、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、一般用ポリスチレン(GP−PS)フィルム、耐衝撃性ポリスチレン(HI−PS)フィルム、二軸延伸ポリスチレン(OPS)フィルム、ポリエステル(PET)フィルム、ポリカーボネート(PC)フィルム、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム、アイオノマーフィルム、セルロース系プラスチックフィルム、熱可塑性エラストマーフィルム等から使用目的に応じて選択することができる。更に、前記単一フィルムの他に共押出しフィルムや接着用樹脂層を介したドライラミネーション又はサンドラミネーションで貼り合わせた多層フィルムであってもよい。
また、微生物によって分解する、例えば澱粉やデキストリン、その他の生分解性樹脂を主原料としたフィルムとすることもでき、特定の紫外線を吸収する紫外線吸収剤、例えば銀や銅等の金属粉からなる抗菌剤乃至殺菌剤、マイナスイオン乃至遠赤外線を発生するセラミック粉、花崗岩粉乃至カーボン粉(例えば木炭等)及び消臭剤乃至芳香剤の中から選ばれる少なくとも一種を添加し又は塗布し或いは袋中に内填することによって、前記のような様々な機能を達成することができる。
前記微細孔の最大部の孔径が50μm、好ましくは70μm以上あればガス透過性が確保できる反面、500μmを越えると透水性を生じる可能性があり、而して、微細孔の孔径は、50〜500μm、好ましくは70〜400μm、特に好ましくは90〜200μmの範囲がよい。本実施例においては、表1に記載した25μm厚の透明OPPフィルムによる3種類の有効フィルムについて実験を行った。

有効フィルムの製造方法としては例えば、ポリオレフィン系プラスチックフィルムを、フィルムの融点(約200℃)以上に加熱した熱針を植えた駆動ロール又は突起を備えたエンボスロールとバックアップロールの間(所定のギャップに設定されている)に挟持し、ライン速度で同調させつつ多数の微細孔を溶融穿孔する。この溶融穿孔の際に、フィルム片面における孔の周縁に溶融樹脂溜まりによる比較的高い凸部が形成され、反対面側に比較的低い凸部が形成される。本実施例ではこの比較的高い凸部が形成された面を袋の内側になるようにして2枚のフィルムを重ねて、開口部を除いて周囲を溶着切断(溶断)して袋を形成する。
前記の多重袋は重合する枚数の倍の枚数のフィルム、例えば、前記の林檎用二重袋は、透明性有孔フィルム2枚を重ねて、その外側に遮光性有孔フィルムをそれぞれ1枚ずつ合計4枚を重ねて、前記と同様に周囲を溶断して袋を形成できる。有孔フィルムは、前記のようなシングルフィルム以外に、複数枚のフィルムを重ねて熱針等で貫通穿孔して、この貫通孔の周囲が融着して複数枚のフィルムが相互に点状に接合された重合フィルムも含まれる。後者の重合フィルムはそれぞれのフィルムを手で引っ張るだけで容易に各シングルフィルムに剥離できる。
穿孔方法は前記の熱針を使用する以外に、プラスチック製フィルムの何れかの一面から他面に向けて微粉鉱石を高速で飛ばす穿孔方法、レーザー光で穿孔する方法、多数の貫通孔を有する円筒状ロールの表面にフィルムを連続して沿わせて、該フィルムを加熱して内側から吸引し、円筒状ロールの内面に沿って吸引されたフィルム部を切断して穿孔する方法、前記の円筒状ロールに設けた貫通孔の内側から加熱ガス等を噴出して穿孔する方法、多数の窪みを備えた円筒状ロールの表面にフィルムを連続して沿わせ、該フィルムの表面をガスバーナー火炎等で加熱し、前記の窪み部分に当接したフィルムが内部応力を受けて収縮することによって穿孔する方法等があり、本発明の有孔フィルムは、あらゆる穿孔方法によって製造されたフィルムを包含するものであり、穿孔方法や製袋方法によっていかなる限定を受けるものではない。
また、極薄膜部によって一端が閉塞されてなる閉塞孔を有するフィルムは、本出願人が先に出願した特願2002−220722号の発明とほぼ同様にして製造することができる。例えば、ガス透過性の比較的大きなポリスチレン層を外側にして、ポリエチレン層、ヒートシール性ポリエステル層の順に接着用樹脂層を介したドライラミネーション乃至PEでのサンドラミネーションによる積層フィルム(各層の厚みが順に50、25、25μm)を用い、この積層フィルムを表面に熱針を植えた駆動ロールとバックアップロールの間(所定のギャップに設定されている)に、フィルムの内側(ポリエステル層)面を熱針に向けて挟持し、ライン速度で同調させつつフィルムの外側(ポリスチレン層)表面近傍に約5μmの極薄膜部を残して無数の微細孔を溶融穿孔することができる。
熱針の温度はフィルムの融点(約200℃)以上に設定されるが、ラインスピードとの関係で適宜温度にコントロールすることが好ましい。前記のいわゆる熱針ロールはフィルムが当接するロールのほぼ全面に針を植えてヒーターで熱したものであるが、この他にロールの表面に無数の突起を形成したいわゆる突起絞ロールを用いることもできる。このようにして、外側フィルム表面近傍の約5μmの極薄膜部によって閉塞された直径約0.4mmで約0.7mm間隔で穿孔された無数の微細孔が散在する透明なガス透過性フィルムを得ることができる。極薄膜部の膜厚はロール間のギャップ、フィルムの加工速度、フィルムの融点乃至加工温度の相関関係によって決まり、実際にはフィルムの加工速度を変えて微調整する。
袋本体11の開口部近傍の取着部12は、図1に示すように開口部15の一方を他方よりも長く突出させ、突出部16のほぼ中央において縦方向に開口部近辺に向けて切り込み14を設けるとともに、突出部16の内側に粘着層17及び離型層18をこの順に形成してある。袋本体11を果実等の支持枝に装着するには、図2に示すように、袋本体11の開口部を開いて内部に果実を取り込んで果実に袋本体11を被せ、次に離型層18を剥がし支持枝を中心として左右の突出部16を交差するように折り曲げて粘着層17を対向するフィルム面に貼りつけて開口部を封じる。粘着層17及び離型層18を突出部16を折り曲げた対向面側に設けてもよい。
図3は、取着部である針金19を袋本体11の開口部近傍に取り付けた場合を例示したものである。切り込み14は必要に応じて設ければよい。図4に示すように、この針金19を支持枝に巻き付けて締結することができる。針金19は、プラスチックで被覆したもの、或いは針金を2枚の帯紐状プラスチックで狭持したものが好ましい。第6図は、針金19の全体を袋本体の一側面に縦方向に熱溶着し、針金19に沿って帯状の切り込みを形成した場合を例示したものであり、必要に応じて切り込みの下端部に熱圧部24を形成してもよい。また、針金19を袋本体11の開口部15の周縁全体又はその一部に沿って設けてもよい(図示せず)。
図7は、取着部が袋本体とは別に帯紐状に構成されてなり、この帯紐状の取着部12を袋本体11の開口部近辺に横方向に配置し、その両端を袋本体11の両側に熱溶着したものである。帯紐状取着部12の一端のみを溶着してもよい。前記の帯紐状取着部12の材質は特に限定されないが、袋本体11と熱溶着可能であって、且つ、少なくとも帯紐状取着部の長手方向に無延伸のフィルムが好ましい。袋本体11を構成する二枚の有孔プラスチックフィルムと帯状のプラスチックフィルムをこの順で適当な位置に重ねて、袋本体11を溶断加工することによって、袋本体11の開口部を除く周囲がシールされ、且つ取着部12の両端ないし片端が袋本体11に溶着された農産物保護用袋1を一工程で成形することができる。
前記袋を農産物の支持枝などに取り付けるには、帯紐状取着部12の一端を袋本体11から取り外して、又は片端のみ溶着されてなるものはそのまま、袋本体11の開口部15の周囲に数回巻いてその端部を隙間に挟み込んで引き伸ばすことによって締め付けられ、袋本体11を支持枝に取り付けるとともに開口部15を密封することができる。溶断加工は加熱した溶断刃でプラスチックフィルムを加圧する以外に、塩化ビニル樹脂フィルム等は高周波ウエルダーを使用し、オレフィン系樹脂フィルムにあっては、超音波ウェルダーを使用してもよい。
図8に示す取着部12は、袋本体11自体の片側を上端部の熱圧部24を残して切り込み14、帯状の紐12を形成した例である。この切り込み14は、鋏乃至カッターなどを使用して形成してもよいが、上端部の熱圧部24を平刃によって、切り込み部を溶断刃によって熱溶断して一工程で加工することもできる。前例のように素材に応じて、高周波ウエルダー乃至超音波ウェルダーを使用してもよい。また、開口部15の内周部に帯状の不織布等の布帛を貼り付けて開口部を閉じたときに水密性を向上するように構成してもよい(図示せず)。
第9図は、取着部12の他の例として、可撓性を有する硬質プラスチック製薄板からなる小片の中央部に袋本体の狭持用孔25と、この狭持用孔に連続する切り込み14を形成した取着部12を開口部15の近傍に溶着した状態を例示したものである。袋本体11の開口部15をしぼめて前記の切り込14から狭持用孔25に押し込めば、開口部が閉じた状態で袋本体11を支持部に取り付けることができる。
実験例
前記の実施例によって得られた3種類の有効フィルムを使用した農産物保護用袋及び比較例として、従来の撥水加工を施した紙製の袋で底部に通水口を設けたものをそれぞれ30枚乃至500枚準備して同一条件で葡萄(巨峰)に装着して実験した結果を以下に示す。実験は山梨県及び滋賀県の葡萄園で行い、平成14年5月乃至6月に袋を準備して、6月下旬乃至7月中旬より実験を開始、袋内部の観察を継続しつつ9月初旬乃至下旬に葡萄を収穫して検査員20人によってその糖度と外観等を評価したものであり、表2にその実験結果を示す。

前記の表2に示すように、実施例の農産物保護用袋は、糖度、着色度、焼けの発生、害虫被害の程度の何れの点においても優れた成果を挙げたのに対して、従来の紙製の袋の場合は、糖度と着色度の点でやや劣るものであった。実施例では葡萄の熱焼けは全く発生せず、袋の変色もなく、そのまま商品の包装用袋として使用できるのに対して、比較例の場合は上方の袋の内面と接している部分に熱焼けの発生が目立つばかりでなく、紙袋の内側にカビが発生して赤レンガ色に変色し、商品の包装用袋として使用できる状態ではなかった。また、幹からの栄養伝達度は実施例、比較例の双方ともほぼ同じ状態であり、果実の着色は光の照射度が高い程、濃色となり、着色が濃い程、糖度が高く表面に白色の粉を吹く状態となることが確認された。
袋の内部の目視観察の点では比較例の場合は全部の袋を破らないと内部の果実の状態が分からず、再度袋を掛け直さなければならず、手間がかかることこの上ないのに対して、実施例の場合は外部から中の果実の状態が一目瞭然であり、間引き作業等の必要なものだけを選択して作業できるので極めて効率よく無駄がない。また、透明フィルムによる窓を設けた紙製袋も外部から全体が観察できないので作業効率はよくない。鳥類による被害は本実施例に関して全く観られなかった。これに対して比較例の場合は袋の上から嘴で啄んだ痕跡がかなり観られた。
以上の結果に基づいて、葡萄以外の果実、野菜及び花等の農産物についても充分に適用できることが確認できた。
【発明の効果】
本発明に係る農産物保護用袋は、前記のように構成したことによって、袋内への害虫の進入を完全に阻止し、且つ、鳥類が農産物を啄む鳥害を防止することができる。また、微細孔を通して外気と袋内部の空気を入れ替えることによって農産物の熱焼けを防止するとともに、カビや病原菌の繁殖を防止して品質の向上を図り不良品を軽減する。従って、農産物の熱焼けを防止のための遮光部を設けなくてもよいので、太陽光の照射度が高くなり、糖度や着色性を向上できる。袋の取付作業も簡単な上、袋を装着した状態で外部から農産物の生育状態を観察して収穫時期を選別することができ、収穫した農産物は包装用の袋に交換せずにそのままの状態で出荷することができる。更に、外部から観察して必要なものだけを選択して間引き作業等ができるので、作業効率が向上するばかりでなく、袋を破って確認する無駄な手間が省け、時間と経費ロスの軽減が図れる上、袋の加工も比較的簡単であり経済的で汎用性に優れた効果を奏する。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実、野菜及び花等の農産物を栽培する過程において前記農産物に被せて保護するための袋であって、前記の袋は、
少なくとも一方に開口する開口部を有し、
少なくとも袋の一部(開口部側の部分を含む)乃至袋全面に多数の通気性乃至ガス透過性且つ非透水性の微細孔を備え、
透明乃至半透明又は/及び光透過性のプラスチック製有孔フィルムからなる
ことを特徴とする農産物保護用袋。
【請求項2】
果実、野菜及び花等の農産物を栽培する過程において前記農産物に被せて保護するための袋であって、前記の袋は、
少なくとも一方に開口する開口部を有し、
少なくとも袋の一部(開口部側の部分を含む)乃至袋全面に多数の通気性乃至ガス透過性且つ非透水性の微細孔を備え、
透明乃至半透明又は/及び光透過性のプラスチック製有孔フィルムからなる袋本体と、
前記の袋本体を前記農産物の支持部(支持枝部を含む)に取着するための取着部と、
を備えたことを特徴とする農産物保護用袋。
【請求項3】
果実、野菜及び花等の農産物を栽培する過程において前記農産物に被せて保護するための袋であって、前記の袋は、
少なくとも一方に開口する開口部を有し、
プラスチック製のフィルムからなる多重袋によって構成され、
前記多重袋の何れもが少なくとも袋の一部(開口部側の部分を含む)乃至袋全面に多数の通気性乃至ガス透過性且つ非透水性の微細孔を備えてなることを特徴とする農産物保護用袋。
【請求項4】
果実、野菜及び花等の農産物を栽培する過程において前記農産物に被せて保護するための袋であって、前記の袋は、
少なくとも一方に開口する開口部を有し、
プラスチック製のフィルムからなる多重袋によって構成され、
前記多重袋の何れもが少なくとも袋の一部(開口部側の部分を含む)乃至袋全面に多数の通気性乃至ガス透過性且つ非透水性の微細孔を備えてなる袋本体と、
前記の袋本体を前記農産物の支持部(支持枝部を含む)に取着するための取着部と、
を備えたことを特徴とする農産物保護用袋。
【請求項5】
前記プラスチック製フィルムに設けられた微細孔は、最大部の孔径が50〜500μmの範囲内で、且つ、空孔面積率が0.7〜10%の範囲内であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の農産物保護用袋。
【請求項6】
請求項1〜4記載の微細孔を有するプラスチック製フィルムは、片面乃至両面における微細孔の周縁に凸部が形成されており、前記凸部が形成されてなる何れかの面を袋本体の内側に向けて構成されてなることを特徴とする農産物保護用袋。
【請求項7】
前記微細孔はプラスチック製フィルムの何れか一面から他面に向けて貫通させた貫通孔、又は他面の表面近傍の極薄膜部を除き厚み方向に穿孔して前記の極薄膜部によって一端が閉塞されてなる閉塞孔、の何れかであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の農産物保護用袋。
【請求項8】
前記農産物保護用袋を構成するプラスチック製のフィルムは、太陽光の中で農産物の着色、糖度乃至生育を増進する波長の光線を選択的に透過することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の農産物保護用袋。
【請求項9】
前記袋を構成するプラスチック製のフィルムは、生分解性フィルム、紫外線吸収性フィルム、抗菌乃至殺菌フィルム、マイナスイオン発生フィルム、遠赤外線発生フィルム及び消臭乃至芳香性フィルムの中から選ばれる少なくとも一種の機能性フィルムからなることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の農産物保護用袋。
【請求項10】
請求項2又は4記載の農産物保護用袋において、前記の取着部が袋本体の一部から構成されてなるか又は袋本体とは別に構成される取着部を袋本体に固着してなることを特徴とする農産物保護用袋。

【国際公開番号】WO2004/028241
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【発行日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539455(P2004−539455)
【国際出願番号】PCT/JP2003/004525
【国際出願日】平成15年4月9日(2003.4.9)
【出願人】(390003160)ニダイキ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】