説明

遠心圧縮機

【課題】搭載性を悪化させるアクチュエータを用いることなく、オフデザイン点でも最適なスクロール流路断面積を調節すること。
【解決手段】インペラ11から吹き出した空気をディフューザ12を介して導入し渦巻き状の流路を構成するスクロール13を備えた遠心圧縮機10において、スクロール13の周方向に沿って空間20を共有するように併設された圧力室15と、スクロール13と圧力室15とを連通する導圧管16と、スクロール13と圧力室15とによって形成される空間20を区画し、スクロール13と圧力室15との圧力差で区画位置が変位することによってスクロール13の流路断面積を調節する可動壁14とを備えた。可動壁14は、密閉性を保持しつつ空間20内を摺動自在に配設され、流路曲面部14aを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遠心圧縮機に関し、更に詳しくは、搭載性を悪化させるアクチュエータを用いることなく、オフデザイン点でも最適なスクロール流路断面積を調節することができる遠心圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インペラから吹き出した流体をディフューザを介して導入し渦巻き状の流路を構成するスクロールを備えた遠心圧縮機が公知である。
【0003】
この遠心圧縮機において、スクロールあるいはディフューザの流路断面積を可動壁等によって調節するために、たとえばギヤまたはリンク機構、板ばね、油圧装置等から構成されるアクチュエータ(可動機構)によって上記可動壁を変位させる技術が種々提案されている(たとえば、特許文献1〜7を参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−218446号公報
【特許文献2】特開昭60−135699号公報
【特許文献3】特開平9−280197号公報
【特許文献4】実開平6−63897号公報
【特許文献5】特開昭62−118100号公報
【特許文献6】実開昭63−83499号公報
【特許文献7】特開平11−30199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1〜7に係る従来の遠心圧縮機は、スクロール等の流路断面を適正に保つ可動壁を変位させるために、たとえばギヤまたはリンク機構、板ばね、油圧装置等から複雑に構成されるアクチュエータ(可動機構)を必要としていた。
【0006】
したがって、従来の遠心圧縮機は、このアクチュエータ分の等容積が必要となり、これが相当の大きさを必要とするため、搭載性を悪化させるという共通の課題があった。特に、従来の遠心圧縮機を自動車用過給機に適用する場合には、かかる課題は深刻である。
【0007】
また、このような遠心圧縮機を自動車用過給機に適用する場合には、スクロールはほとんどオフデザイン点で使用される。オフデザイン点において、スクロール断面内には静圧の分布が発生し、それに伴い流れの半径方向速度成分に増減速が生じ、損失が増大することが知られている。
【0008】
たとえば、上記特許文献6に係るスクロール断面の可変機構は、この問題は解決できるものの、可変機構の駆動手段である上記アクチュエータが搭載性を悪化させるという課題があった。
【0009】
また、たとえば、上記特許文献5に係る従来の遠心圧縮機は、可変ディフューザによってディフューザに絞りを設けた構成としているため、性能低下を招く虞があった。
【0010】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、搭載性を悪化させるアクチュエータを用いることなく、オフデザイン点でも最適なスクロール流路断面積を調節することができる遠心圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明の請求項1に係る遠心圧縮機は、インペラから吹き出した流体をディフューザを介して導入し渦巻き状の流路を構成するスクロールを備えた遠心圧縮機において、前記スクロールの周方向に沿って空間を共有するように併設された圧力室と、前記スクロールと前記圧力室とを連通する導圧管と、前記スクロールと前記圧力室とによって形成される前記空間を区画し、前記スクロールと前記圧力室との圧力差で区画位置が変位することによって前記スクロールの流路断面積を調節する可動壁と、を備えたことを特徴とするものである。
【0012】
また、この発明の請求項2に係る遠心圧縮機は、請求項1に記載の発明において、前記可動壁は、密閉性を保持しつつ前記空間内を摺動自在に配設されているとともに、前記スクロールと滑らかな流路形状を形成する流路曲面部を備えたことを特徴とするものである。
【0013】
また、この発明の請求項3に係る遠心圧縮機は、請求項1に記載の発明において、前記可動壁は、少なくとも伸縮性および密閉性を有する膜部材にて形成され、両端部を前記圧力室に固定されたことを特徴とするものである。
【0014】
また、この発明の請求項4に係る遠心圧縮機は、請求項2または3に記載の発明において、前記可動壁は、更に耐熱性を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明に係る遠心圧縮機(請求項1)によれば、圧力差で変位する可動壁を備えたので、搭載性を悪化させるアクチュエータを用いることなく、オフデザイン点でも最適なスクロール流路断面積を調節することができる。
【0016】
また、この発明に係る遠心圧縮機(請求項2)によれば、空間内を摺動自在に配設された可動壁によってスクロール流路断面積を容易に調節することができる。
【0017】
また、この発明に係る遠心圧縮機(請求項3)によれば、可動壁に摺動部が不要となるので、装置の信頼性を更に向上することができる。
【0018】
また、この発明に係る遠心圧縮機(請求項4)によれば、流体として高温のガスを扱う自動車用過給機に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、この発明に係る遠心圧縮機の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この発明に係る遠心圧縮機を自動車用過給機に適用する場合について説明するが、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
図1は、この発明の実施例1に係る遠心圧縮機の要部を示す断面図、図2は、スクロールおよび導圧管を示す正面図、図3は、圧力−流量特性を示す説明図である。
【0021】
本実施例1に係る遠心圧縮機10は、インペラ11から吹き出した空気(ガス)をディフューザ12を介して導入し渦巻き状の流路を構成するスクロール13を備えたものである。そして、この遠心圧縮機10は、スクロール13の周方向に沿って空間20を共有するように併設された圧力室15と、スクロール13と圧力室15とを連通する導圧管16と、スクロール13と圧力室15とによって形成される空間20を区画し、スクロール13と圧力室15との圧力差で区画位置が変位することによってスクロール13の流路断面積を調節する可動壁14とを備えている。
【0022】
また、可動壁14は、気密性を保持しつつ空間20内を摺動自在に配設されているとともに、スクロール13と滑らかな流路形状を形成する流路曲面部14aを備えている。
【0023】
更に、この可動壁14は、高温のガスに曝されても機能維持できるように、他の構成部材と同様に所定の耐熱性を有している。
【0024】
つぎに動作について図1に基づいて説明する。インペラ11の回転によりインペラ11から吹き出した空気は、ディフューザ12を通ってスクロール13に流れ込む。
【0025】
その際、インペラ11で加速されて速度エネルギーを与えられた空気は、スクロール13で圧力エネルギーに変換される。このとき空気は、スクロール13の外周壁13bに開口部を有した導圧管16から導入され、圧力室15に流れる。
【0026】
静圧分布は、スクロール13の外周部ほど高いので高圧部17が形成され、スクロール13の入口部から遠い部分は低いので低圧部18が形成される。
【0027】
このため可動壁14は、圧力室15とスクロール13の内壁面13aとの圧力差によって図1の矢印方向に変位し、圧力差がなくなった位置でバランスすることとなる。これにより、流量に応じた流路断面積を容易に形成することができる。
【0028】
このように流路断面内での圧力差がなくなれば、流れの半径方向速度成分の増減速がなくなり、損失を低減することができるので、図3に示すように、効率の高い領域で作動させることができる。
【0029】
また、ディフューザ12の形状が変化しないように構成されているので、サージングを回避することができる。
【0030】
以上のように、この実施例1に係る遠心圧縮機10によれば、従来のようなアクチュエータが不要であり、搭載性を悪化させることがない。
【0031】
また、ディフューザ12は、その形状が変化しないように構成されているので、サージングを回避することができる。
【0032】
特に、本実施例1に係る遠心圧縮機10を自動車用過給機に適用した場合、低速からの加速応答性を向上させることができる。
【実施例2】
【0033】
図4は、この発明の実施例2に係る遠心圧縮機の要部を示す断面図である。なお、以下の説明において、すでに説明した部材と同一もしくは相当する部材には、同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0034】
図4に示すように、可動壁24は、所定の伸縮性と密閉性と耐熱性とを有する膜部材にて形成され、両端部を圧力室15に固定されている。これにより、スクロール13と圧力室15とによって形成される空間20を区画している。
【0035】
つぎに動作について説明する。インペラ11から吹き出した空気の流れと静圧分布は、上記実施例1の場合とほぼ同様であるので、重複説明を省略する。
【0036】
上述したように、流路断面内に圧力差が生じると、可動壁24は、その圧力差によって図4の矢印方向に伸縮変位し、圧力差がなくなった位置でバランスすることとなる。これにより、流量に応じた流路断面積を容易に形成することができる。なお、スクロール13の流路断面積が大きくなった場合の可動壁24を二点鎖線で示す。
【0037】
このように流路断面内での圧力差がなくなれば、流れの半径方向速度成分の増減速がなくなり、損失を低減することができる。
【0038】
以上のように、この実施例2に係る遠心圧縮機10によれば、上記実施例1の場合と同様の効果を奏するとともに、可動壁24に上記実施例1の場合のような摺動部が不要となるので、装置の信頼性を更に向上することができる。
【0039】
なお、上記実施例1および実施例2においては、流体として空気を使用するものとして説明したが、これに限定されず、たとえば、その他の気体あるいは液体にも本発明を適用可能である。
【0040】
また、可動壁14,24は、高温のガスに曝されても機能維持できるように、所定の耐熱性を有するものとして説明したが、高温条件下で使用しないのであれば、所定の耐熱性を有していなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、この発明に係る遠心圧縮機は、自動車用過給機に有用であり、特に、搭載性を悪化させるアクチュエータを用いることなく、オフデザイン点でも最適なスクロール流路断面積を調節することを目指す自動車用過給機に適している。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明の実施例1に係る遠心圧縮機の要部を示す断面図である。
【図2】スクロールおよび導圧管を示す正面図である。
【図3】圧力−流量特性を示す説明図である。
【図4】この発明の実施例2に係る遠心圧縮機の要部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0043】
10 遠心圧縮機
11 インペラ
12 ディフューザ
13 スクロール
14 可動壁
14a 流路曲面部
15 圧力室
16 導圧管
17 高圧部
18 低圧部
20 空間
24 可動壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インペラから吹き出した流体をディフューザを介して導入し渦巻き状の流路を構成するスクロールを備えた遠心圧縮機において、
前記スクロールの周方向に沿って空間を共有するように併設された圧力室と、
前記スクロールと前記圧力室とを連通する導圧管と、
前記スクロールと前記圧力室とによって形成される前記空間を区画し、前記スクロールと前記圧力室との圧力差で区画位置が変位することによって前記スクロールの流路断面積を調節する可動壁と、
を備えたことを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項2】
前記可動壁は、密閉性を保持しつつ前記空間内を摺動自在に配設されているとともに、前記スクロールと滑らかな流路形状を形成する流路曲面部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の遠心圧縮機。
【請求項3】
前記可動壁は、少なくとも伸縮性および密閉性を有する膜部材にて形成され、両端部を前記圧力室に固定されたことを特徴とする請求項1に記載の遠心圧縮機。
【請求項4】
前記可動壁は、更に耐熱性を有することを特徴とする請求項2または3に記載の遠心圧縮機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−309169(P2007−309169A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137700(P2006−137700)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】