説明

酸素吸放出材及びそれを含む排ガス浄化用触媒

【課題】希土類のオキシ硫酸塩又はオキシ硫化物を用いた酸素吸放出材であって、より低い温度下でも高い酸素吸放出能を有する酸素吸放出材を提供する。
【解決手段】Pr22SO4及び/又はPr22Sからなる化合物において、Prの少なくとも一部をCeで置換したことを特徴とする、酸素吸放出材が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関等からの排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒において用いられる酸素吸放出材及びそれを含む排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排ガス浄化用触媒としては、一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)の酸化と窒素酸化物(NOx)の還元とを同時に行う三元触媒が用いられている。このような触媒としては、アルミナ(Al23)等の多孔質酸化物担体に、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の貴金属を担持させたものが広く知られている。三元触媒の作用によってCO、HC及びNOxの3成分を同時かつ効率的に浄化するためには、自動車のエンジンに供給される空気/燃料比(空燃比A/F)を理論空燃比(ストイキ)近傍に制御することが重要である。
【0003】
しかしながら、実際の空燃比は、自動車の走行条件等によってストイキを中心にリッチ(燃料過剰雰囲気)側又はリーン(燃料希薄雰囲気)側に変動するため、排ガスの雰囲気も同様にリッチ側又はリーン側に変動する。したがって、三元触媒のみでは必ずしも高い浄化性能を確保することができない。そこで、排ガス中の酸素濃度の変動を吸収して三元触媒の排ガス浄化能力を高めるために、排ガス中の酸素濃度が高いときには酸素を吸蔵し、排ガス中の酸素濃度が低いときには酸素を放出する、いわゆる酸素吸放出能を有する材料が排ガス浄化用触媒において用いられている。
【0004】
このような酸素吸放出材としては、例えば、セリア(CeO2)やセリア−ジルコニア(CeO2−ZrO2)複合酸化物など、セリア(CeO2)をベースとした材料が知られ、広く実用化されている。しかしながら、安定した排ガスの浄化を達成するために、さらに高い酸素吸放出能を有する酸素吸放出材が求められ、研究されている。
【0005】
特許文献1及び2では、A22SO4又はA22S(Aは希土類元素)で表される希土類のオキシ硫酸塩又はオキシ硫化物からなる酸素吸放出材に貴金属を担持してなる排ガス浄化用触媒が記載されている。これらの特許文献では、希土類のオキシ硫酸塩又はオキシ硫化物からなる酸素吸放出材に貴金属を担持した排ガス浄化用触媒が、従来のCeO2−ZrO2複合酸化物からなる酸素吸放出材に貴金属を担持したものと比べて約8倍の酸素吸放出能を有することが記載されている。
【特許文献1】特開2005−087892号公報
【特許文献2】特開2006−075716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような希土類のオキシ硫酸塩又はオキシ硫化物からなる酸素吸放出材は、従来のセリア(CeO2)をベースとした材料からなる酸素吸放出材と比べて酸素の吸放出能を示す温度が一般に高く、低温で作動しないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記のような希土類のオキシ硫酸塩又はオキシ硫化物を用いた酸素吸放出材であって、より低い温度下でも高い酸素吸放出能を有する酸素吸放出材を提供すること、及びそれを含む排ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は下記にある。
(1)Pr22SO4及び/又はPr22Sからなる化合物において、Prの少なくとも一部をCeで置換したことを特徴とする、酸素吸放出材。
(2)上記(1)に記載の酸素吸放出材に金属を担持してなることを特徴とする、排ガス浄化用触媒。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、プラセオジム(Pr)のオキシ硫酸塩又はオキシ硫化物(Pr22SO4又はPr22S)からなる化合物において、Prの少なくとも一部をCeで置換することにより、従来の希土類のオキシ硫酸塩又はオキシ硫化物からなる酸素吸放出材と比べて、酸素放出能を示す温度域が大幅に低温側にまで拡張された酸素吸放出材を得ることができる。したがって、このような酸素吸放出材を排ガス浄化用触媒において使用することで、排ガス中の空燃比(A/F)の変動を低温下においても顕著に抑制することができる。このため、最適なA/F値により近い状態で排ガスの浄化を達成することができ、排ガス浄化用触媒の排ガス浄化性能を顕著に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の酸素吸放出材は、Pr22SO4及び/又はPr22Sからなる化合物において、Prの少なくとも一部をCeで置換したことを特徴としている。
【0011】
酸素吸放出材は、一般に、当該酸素吸放出材を構成する元素イオンの価数変化に伴う酸化還元反応によって酸素を吸放出する。従来用いられているセリア−ジルコニア複合酸化物(例えば、(CeZr)O2)を用いた酸素吸放出材では、リッチ雰囲気、すなわち、排ガス中の酸素濃度が低いときには、一般に以下の式で表される反応によって酸素が放出される。
(CeZr)O2 → (CeZr)O1.5+1/4O2 (1)
一方、リーン雰囲気、すなわち、排ガス中の酸素濃度が高いときには、逆の反応によって酸素が吸蔵される。このような可逆的な酸化還元反応によって排ガス中の空燃比A/Fの変動が吸収され、排ガスの浄化が促進される。これに対し、希土類オキシ硫酸塩(A22SO4、Aは希土類元素)を用いた酸素吸放出材では、以下の反応
22SO4 → A22S+2O2 (2)
すなわち、希土類オキシ硫酸塩に含まれる硫黄元素の酸化還元反応を介して希土類オキシ硫酸塩が希土類オキシ硫化物に変化することにより酸素が放出され、その逆反応によって酸素が吸蔵される。
【0012】
上記の式(1)及び(2)からも明らかなように、希土類のオキシ硫酸塩及び/又はオキシ硫化物を用いた酸素吸放出材は、従来のセリア−ジルコニア複合酸化物と比べて理論的に約8倍の酸素吸放出能を有する。したがって、このような高い酸素吸放出能を有する希土類のオキシ硫酸塩及び/又はオキシ硫化物からなる酸素吸放出材を排ガス浄化用触媒において使用することで、排ガス中の空燃比(A/F)の変動を緩和する触媒の能力が向上し、結果として触媒の浄化性能が向上する。
【0013】
本発明によれば、酸素吸放出材としては、プラセオジムのオキシ硫酸塩及び/又はオキシ硫化物であるPr22SO4及び/又はPr22Sからなる化合物において、Prの少なくとも一部をCeで置換したものが用いられる。一般に、希土類のオキシ硫酸塩及び/又はオキシ硫化物は、使用される希土類元素や、周囲の雰囲気ガスの組成又は濃度など、他の様々な条件によっても異なるが、600〜700℃よりも高い温度範囲においてのみ酸素吸放出能を有する。希土類元素としてプラセオジム(Pr)を用いたPr22SO4及び/又はPr22S自体も同様に、一般に600〜700℃よりも高い温度範囲で酸素吸放出能を有する。このため、これらの材料からなる酸素吸放出材を用いた排ガス浄化用触媒では、600〜700℃よりも低い温度範囲での排ガス浄化性能が低くなってしまう。本発明者らは、Pr22SO4及び/又はPr22Sからなる化合物において、Prの少なくとも一部をCeで置換することにより、Ceで置換していないものと比べて、酸素吸放出材の酸素放出能を示す温度が下がることを見出した。
【0014】
何ら特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、Pr22SO4中のPrの少なくとも一部をCeで置換することで、Pr22SO4における硫酸イオンの構造を歪めることができ、したがって、以下の式(3)
Pr22SO4 → Pr22S+2O2 (3)
で表されるプラセオジムのオキシ硫酸塩とオキシ硫化物との間の可逆反応が起こりやすくなると考えられる。
【0015】
本発明においては、化合物Pr22SO4中のPrは、一般的に0.5〜50mol%、好ましくは5〜25mol%の範囲でCeによって置換することができる。
【0016】
プラセオジムのオキシ硫酸塩であるPr22SO4においてPrの少なくとも一部をCeで置換した(Pr1-xCex22SO4(式中、xは一般的に0.005〜0.5の数である)からなる酸素吸放出材は、当業者に公知の任意の方法によって調製することができる。本発明によれば、(Pr1-xCex22SO4は、例えば、(Pr1-xCex22SO4における硫酸基部分の供給源として界面活性剤を用いた方法により調製することができる。具体的には、(Pr1-xCex22SO4は、プラセオジムの供給源としての硝酸プラセオジムと、Prを置換すべき量に対応するセリウムの供給源としての硝酸セリウムと、それらを水酸化物化するための塩基性溶媒、例えば、アンモニア水と、硫酸基部分の供給源としての界面活性剤、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)とを所定の濃度において混合し、混合して得られた沈殿物を洗浄、乾燥、粉砕及び焼成等することによって調製することができる。
【0017】
(Pr1-xCex22SO4における硫酸基部分の供給源として用いられるドデシル硫酸ナトリウム等の界面活性剤は、原料の硝酸プラセオジム及び硝酸セリウムに対して(Pr1-xCex22SO4を生成するのに十分な濃度において導入することができる。また、このような界面活性剤を用いた(Pr1-xCex22SO4の調製方法においては、当該界面活性剤が硫酸基の供給源としてだけではなく、その炭素鎖の部分が有機鋳型としても作用すると考えられる。したがって、原料を混合して得られた沈殿物が規則的な層を有することができ、それを焼成してこの有機鋳型部分を分解除去することにより高表面積の(Pr1-xCex22SO4を得ることができる。
【0018】
上記沈殿物の乾燥及び焼成は、界面活性剤の有機鋳型部分を分解除去しかつ高表面積の(Pr1-xCex22SO4を得るのに十分な温度及び時間において実施することができる。例えば、乾燥は減圧下室温で実施することができるか又は80〜250℃の温度で12〜24時間実施することができ、焼成は500〜700℃の温度で1〜20時間実施することができる。
【0019】
本発明によれば、Pr22SO4及び/又はPr22Sからなる化合物においてPrの少なくとも一部をCeで置換した酸素吸放出材を触媒担体として使用し、当該触媒担体に活性成分として触媒金属を担持することにより、排ガスの浄化性能が向上した排ガス浄化用触媒を得ることができる。
【0020】
本発明の酸素吸放出材を使用することにより、従来の希土類のオキシ硫酸塩及び/又はオキシ硫化物と比べて低温での酸素吸放出能が向上するので、低温下における排ガス中の空燃比(A/F)変動が緩和され、結果として排ガス浄化用触媒の浄化性能を向上させることができる。
【0021】
本発明によれば、触媒担体である(Pr1-xCex22SO4及び/又は(Pr1-xCex22Sに担持する金属としては、排ガス浄化用触媒の触媒成分として当業者に公知の任意の金属を選択することができる。好ましくは、このような金属としては、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)及びイリジウム(Ir)からなる群より選択される少なくとも1種の貴金属を挙げることができる。
【0022】
これら金属の(Pr1-xCex22SO4への担持は、当業者に公知の任意の方法により行うことができる。
【0023】
例えば、これら金属の担持は、金属源として上記金属を陽イオンとして含む化合物を用い、この化合物の所定濃度の溶液に(Pr1-xCex22SO4を浸漬させ、その後、乾燥及び焼成等するか、又は金属源として上記金属の錯体を用い、この錯体の所定濃度の溶液に(Pr1-xCex22SO4を浸漬させ、その後、乾燥及び焼成等することによって行うことができる。これらの金属は、一般的に0.25〜20wt%の担持量において(Pr1-xCex22SO4に担持することができる。
【0024】
これら金属の化合物又は錯体を含む溶液に浸漬された(Pr1-xCex22SO4の乾燥及び焼成は、上記金属を(Pr1-xCex22SO4に担持するのに十分な温度及び時間において実施することができる。例えば、乾燥は80〜250℃の温度で12〜24時間実施することができ、焼成は400〜500℃の温度で2〜10時間実施することができる。
【0025】
これらの排ガス浄化用触媒は、例えば、焼成した金属担持物の粉末を圧縮し、さらにこれを粉砕してペレット状にするか、又は上記焼成した金属担持物の粉末に所定のバインダを加えてスラリー化し、これをコージェライト製ハニカム基材等の触媒基材上に塗布することにより使用することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
本実施例では、Pr22SO4におけるPrの一部をCeで置換した酸素吸放出材に触媒貴金属としてPdを担持した排ガス浄化用触媒を調製し、その酸素放出能について調べた。
【0028】
[比較例1]
比較例として、プラセオジムのオキシ硫酸塩Pr22SO4からなる酸素吸放出材にPdを1wt%担持した排ガス浄化用触媒を調製した。まず、硝酸プラセオジム六水和物(Pr(NO33・6H2O)と、硫酸基部分の供給源としてのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)と、アンモニアと、水とをそれぞれ1:2:30:60のモル比でフラスコに導入した。次いで、このフラスコを大気開放系において40℃の油浴中で撹拌器により回転速度350rpmで1時間撹拌した。その後、温度を60℃まで昇温して9時間撹拌した後、室温まで冷却した(pH=約11)。得られた沈殿物を遠心分離によって分離し、これを蒸留水で数回洗浄後、室温で減圧乾燥した。乾燥した試料を粉砕して粉末状にし、ドラフト中500℃以上の温度で5時間焼成してプラセオジムのオキシ硫酸塩Pr22SO4を得た。
【0029】
次に、硝酸パラジウム溶液1mLを、Pr22SO40.4gに対してPdの担持量が1wt%となる濃度において調製した。次いで、上で調製したPr22SO4の粉末約0.4gを坩堝に入れ、坩堝をホッティングスターラー上に置き、硝酸パラジウム溶液が乾燥する程度の温度にセットした。坩堝が温まってきた後、硝酸パラジウム溶液を少しずつ滴下しながら乾燥させ、滴下が完了した後、室温で約1時間放置し、乾燥器において120℃の温度で一晩乾燥した。乾燥後の試料を軽くほぐした後、空気中400℃で2時間焼成し、Pd/Pr22SO4の排ガス浄化用触媒を得た。
【0030】
[実施例1]
原料である硝酸プラセオジム六水和物(Pr(NO33・6H2O)の一部を硝酸セリウム六水和物(Ce(NO33・6H2O)で置き換え、仕込み比でPr:Ce=0.8:0.2(モル比)となるようにしたこと以外は比較例1と同様にして、Pd/(Pr0.8Ce0.222SO4の排ガス浄化用触媒を得た。
【0031】
上で調製した比較例1と実施例1の各排ガス浄化用触媒の酸素放出能を微分熱重量分析(DTG)によって評価した。すなわち、各触媒に5%H2/Heの試験ガスを供給しつつ、それを10℃/分の加熱速度で以って900℃まで昇温し、昇温過程における酸素吸放出材からの酸素放出に伴う各触媒の質量変化を測定した。その結果を図1に示す。
【0032】
図1は、実施例及び比較例の各排ガス浄化用触媒に関する微分熱重量分析(DTG)の測定結果を示すグラフである。図1は、横軸に加熱温度を示し、縦軸に触媒の質量変化の時間微分を示している。水素を含有する試験ガスを触媒に供給することで、触媒の酸素吸放出材から酸素が放出され、放出された酸素が試験ガス中の水素と反応して水を生じる。したがって、放出された酸素量に応じて触媒の質量が減少する。この質量が減少したときの温度を測定することにより、各触媒の酸素放出能を示す温度を知ることができる。
【0033】
図から明らかなように、Pr22SO4を酸素吸放出材として含む比較例1の排ガス浄化用触媒は、約700℃の温度から酸素放出能を示した。これに対し、(Pr0.8Ce0.222SO4を酸素吸放出材として含む実施例1の排ガス浄化用触媒は、約600℃の温度から酸素放出能を示した。したがって、Prの一部をCeで置換することにより、酸素放出能を示す温度に関して約100℃の低温化を実現することができた。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例及び比較例の排ガス浄化用触媒に関する微分熱重量分析(DTG)の測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pr22SO4及び/又はPr22Sからなる化合物において、Prの少なくとも一部をCeで置換したことを特徴とする、酸素吸放出材。
【請求項2】
請求項1に記載の酸素吸放出材に金属を担持してなることを特徴とする、排ガス浄化用触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2008−284512(P2008−284512A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134025(P2007−134025)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】