説明

釣竿および釣竿の製造方法

【課題】本発明は、竿素材に対する釣糸ガイドの固定強度を充分に確保できる釣竿を得ることにある。
【解決手段】釣竿(1)は、竿素材(4)と釣糸ガイド(10)とを備えている。釣糸ガイド(10)は、釣糸(7)を案内する案内部(12)と、案内部(12)を支える脚部(13)とを有している。竿素材(4)の外周面に、シート本体(18, 32)に合成樹脂剤(19)を含浸させた樹脂含浸シート(17, 31)が巻き付けられている。樹脂含浸シート(17, 31)の外周面に釣糸ガイド(10)の脚部(13)が載置されている。釣糸ガイド(10)の脚部(13)の上から樹脂含浸シート(17, 31)の外周面に亘って巻き糸(25)が巻き付けられている。巻き糸(25)および樹脂含浸シート(17, 31)は、合成樹脂製の糸止め剤(26)によって連続して被覆されている。樹脂含浸シート(17, 31)に含まれる合成樹脂剤(19)は、脚部(13)と竿要素(4)との間に充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竿杆の外周面に複数の釣糸ガイドを取り付けた釣竿に係り、特に釣糸ガイドを竿杆の外周面に固定するための構造および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外通し釣竿は、リールから繰り出された釣糸を穂先に導く複数の釣糸ガイドを備えている。釣糸ガイドは、元竿杆やこの元竿杆に継ぎ合わされた先側竿杆の外周面に取り付けられて、釣竿の長手方向に互いに間隔を存して一列に並んでいる。この種の釣糸ガイドは、釣糸を通すガイドリングと、このガイドリングを支える脚部とを備えている。脚部は竿杆の軸方向に延びる所定の長さ寸法を有している。
【0003】
従来の釣竿では、釣糸ガイドの脚部を竿杆の外周面に直に取り付ける場合と、竿杆の外周面に形成された下糸層の上に取り付ける場合がある。下糸層は、釣糸ガイドの脚部の安定性を高めたり、脚部と竿杆とが互いに擦れ合うのを防止するためのものであり、例えば竿杆の外周面に糸を密に巻き付けることで構成されている。
【0004】
釣糸ガイドの脚部は、下糸層の外周面に載置した後、この脚部の上から下糸層の外周面に亘って上糸を密に巻き付けることで、竿杆に保持されている。さらに、脚部に上糸を巻き付けた後、この上糸の上から熱硬化性の接着剤を塗布し、この接着剤を硬化させることで、脚部が下糸層の上に固定されるようになっている。
【0005】
接着剤は、上糸を浸透して脚部の表面に達するとともに、下糸層を連続して覆っている。そのため、接着剤は、下糸層が竿杆の外周面から剥離しないように下糸層を竿杆に固定する機能も兼ねている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−189009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された釣竿によると、上糸に塗布された接着剤は、上糸を浸透して脚部の表面に達した後、この脚部の表面を伝わって下糸層の外周面に至る。しかしながら、下糸層の外周面のうち脚部が載置された部分は、この脚部によって覆われているので、脚部が邪魔となって接着剤が脚部と下糸層の外周面との間に浸透することができなくなる。
【0007】
そのため、接着剤は、脚部が下糸層から剥がれないように脚部を上糸の方向から押えているにすぎず、下糸層の方向から見た場合には、脚部は下糸層に対して単に接しているだけの状態に止まっている。
【0008】
この結果、竿杆に対する脚部の固定強度が不足する虞があり、例えば釣りの最中に釣竿が大きく撓んだ時に、脚部が下糸層から剥離して浮き上がったり、釣糸ガイドがぐらつき易くなるといった不具合がある。
【0009】
本発明の目的は、竿素材に対する釣糸ガイドの固定強度を充分に確保できる釣竿および釣竿の製造方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一つの形態に係る釣竿は、
竿素材と、
上記竿素材の外周面に巻き付けられ、シート本体に合成樹脂剤を含浸させた樹脂含浸シートと、
釣糸を案内する案内部と、この案内部を支える脚部とを有し、この脚部が上記樹脂含浸シートの外周面に載置された釣糸ガイドと、
上記釣糸ガイドの脚部の上から上記樹脂含浸シートの外周面に亘って巻き付けられ、上記脚部を上記樹脂含浸シートの上に固定する巻き糸と、
上記巻き糸および上記樹脂含浸シートを連続して被覆する合成樹脂製の糸止め剤と、を備えており、
上記樹脂含浸シートに含まれる合成樹脂剤が上記釣糸ガイドの脚部と上記竿素材との間に充填されていることを特徴としている。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一つの形態に係る釣竿の製造方法は、
シート本体に合成樹脂剤を含浸させた樹脂含浸シートを竿素材の外周面に巻き付け、この樹脂含浸シートの外周面に釣糸ガイドの脚部を載置するとともに、上記釣糸ガイドの脚部の上から上記樹脂含浸シートの外周面に亘って巻き糸を巻き付けることにより、上記脚部を上記樹脂含浸シートの上に固定し、さらに、上記巻き糸および上記樹脂含浸シートを合成樹脂製の糸止め剤で被覆した後、上記合成樹脂剤および上記糸止め剤を乾燥・硬化させるようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、竿素材に対する釣糸ガイドの固定強度が格段に向上し、釣糸ガイドの剥離やぐらつきを確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明の第1の実施の形態を、図1ないし図5に基づいて説明する。
【0014】
図1は、例えば並継ぎ式の釣竿1を開示している。釣竿1は、元竿杆2、中竿杆3および穂先竿杆4を備えている。各竿杆2,3,4は、釣竿1を構成する竿素材の一例である。元竿杆2および中竿杆3は、例えば炭素繊維等の強化繊維にエポキシ樹脂等の合成樹脂を含浸させた繊維強化プリプレグを用いて中空状に形成されている。穂先竿杆4は、同様の繊維強化プリプレグを用いて大きく撓ませることが可能な中実状に形成されている。
【0015】
なお、釣竿1は上記の構成に限らず、例えば全ての竿杆2,3,4を中空構造としたり、あるいは中実構造としてもよい。さらに、竿杆2,3,4の継ぎ方式も並継ぎに限らず、例えば印籠継ぎのような他の継ぎ方式を採用することができる。
【0016】
図1に示すように、釣竿1の竿尻側に位置する最も大径の元竿杆2は、釣人が手で握るグリップ部5を備えている。グリップ部5に形成されたリールシートに魚釣用リール6が取り付けられている。
【0017】
釣竿1の外周面に複数の釣糸ガイド10が取り付けられている。釣糸ガイド10は、魚釣用リール6から繰り出された釣糸7を釣竿1の先端のトップガイド11に向けて案内するためのものである。釣糸ガイド10は、魚釣用リール6とトップガイド11との間に位置するとともに、釣竿1の長手方向に互いに間隔を存して一列に並んでいる。
【0018】
図1に示すように、釣竿1の竿尻側に位置する二つの釣糸ガイド10は、竿尻側および穂先側に延びる二つの脚部を介して釣竿1に固定する両脚構造を採用している。釣竿1の穂先側に位置するその他の釣糸ガイド10は、例えば外径が細い穂先竿杆4の曲げあるいは調子に悪影響を与えないように、竿尻側に延びる一つの脚部を介して釣竿1に固定する片脚構造を採用している。
【0019】
図2および図3は、釣竿1の穂先竿杆4に取り付けられた片脚構造の釣糸ガイド10を開示している。釣糸ガイド10は、案内部12と単一の脚部13とを備えている。案内部12は、釣糸7が貫通するガイドリング14と、このガイドリング14を取り囲んで保持するリング状のフレーム15とを有している。
【0020】
案内部12は、穂先竿杆4の軸線O1に対しやや前傾した姿勢で起立している。脚部13は、フレーム15から釣竿1の竿尻側に向けて真っ直ぐに延びるとともに、穂先竿杆4の外周面の曲率に沿うように略円弧状に湾曲している。
【0021】
図2および図3に示すように、穂先竿杆4は、その軸方向に沿う途中に釣糸ガイド10を固定するための固定領域4aを有している。穂先竿杆4の固定領域4aの外周面に樹脂含浸シート17が巻き付けられている。樹脂含浸シート17は、シート本体としての繊維部18と合成樹脂剤19とで構成されている。
【0022】
繊維部18は、複数の繊維(糸)18aを有している。繊維18aとしては、例えば糸太さ50デニール〜840デニールのナイロン糸を用いることができる。繊維18aは、樹脂含浸シート17を穂先竿杆4の外周面に巻き付けた時に、穂先竿杆4の周方向に沿う複数のループ部18bを構成している。ループ部18bは、例えば互いに密着された状態で穂先竿杆4の軸方向に並んでいる。
【0023】
このため、図4および図5に示すように、繊維部18の外周部および内周部には、夫々穂先竿杆4の周方向に沿う複数の溝状の凹部20が形成されている。凹部20は、穂先竿杆4の軸方向に略一定の間隔を存して並んでいる。各凹部20は、隣り合うループ部18bの間に位置するとともに、繊維部18の径方向に沿う外側および内側に向けて次第に拡開するような断面形状を有している。
【0024】
このことから、繊維部18の外周部および内周部は、ループ部18bと凹部20とが穂先竿杆4の軸方向に交互に並んだ凹凸面となっている。
【0025】
合成樹脂剤19は、繊維部18に含浸されて繊維部18の外周部および内周部を覆っている。言い換えると、合成樹脂剤19は、凹部20に蓄えられて樹脂含浸シート17の外周面および内周面に露出している。この合成樹脂剤19としては、例えば熱硬化性樹脂を用いることが望ましい。
【0026】
穂先竿杆4に巻き付けられた樹脂含浸シート17は、第1の端部17aと第2の端部17bとを有している。第1の端部17aおよび第2の端部17bは、穂先竿杆4の軸方向に互いに離間している。第1の端部17aから第2の端部17bに至る樹脂含浸シート17の全長L1は、釣糸ガイド10の脚部13の全長L2よりも長くなっている。
【0027】
図3に示すように、樹脂含浸シート17は、穂先竿杆4の固定領域4aの外周面に例えば二層に重ねて巻き付けられている。樹脂含浸シート17は、巻き始め端21aと巻き終わり端21bとを有している。巻き始め端21aおよび巻き終わり端21bは、夫々穂先竿杆4の軸方向に延びている。巻き始め端21aは、穂先竿杆4の外周面に重ねられている。巻き終わり端21bは、穂先竿杆4の外周面に巻き付けられた樹脂含浸シート17の一層目21cの上に位置している。
【0028】
樹脂含浸シート17の一層目21cから二層目21dに至る部分は、穂先竿杆4の外周面から樹脂含浸シート17の巻き始め端21aの上に乗り上げて、この巻き始め端21aを上から覆っている。これにより、樹脂含浸シート17の一層目21cから二層目21dに至る部分には、樹脂含浸シート17の厚さに相当する段差22が形成されている。段差22は、穂先竿杆4の軸方向に延びている。第1の実施の形態では、樹脂含浸シート17の厚さが釣糸ガイド10の脚部13の厚さよりも小さくなっているが、樹脂含浸シート17の厚さと脚部13の厚さは互いに同一であってもよい。
【0029】
段差22と巻き終わり端21bとは、穂先竿杆4の周方向に互いにずれている。このため、巻き終わり端21bおよび段差22は、樹脂含浸シート17の外周面の上に溝部23を規定している。溝部23は、穂先竿杆4の軸方向に延びるとともに、釣糸ガイド10の脚部13が入り込めるような幅寸法を有している。
【0030】
したがって、溝部23は、穂先竿杆4に対する脚部13の取り付け位置を定めている。さらに、溝部23を規定する巻き終わり端21bおよび段差22は、穂先竿杆4の周方向への脚部13のずれを防止するストッパとしても機能している。
【0031】
釣糸ガイド10の脚部13は、溝部23に入り込んで、この溝部23の底となる樹脂含浸シート17の一層目21cの上に載置されている。樹脂含浸シート17の第1の端部17aは、脚部13よりも穂先側に突出するとともに、第2の端部17bは、脚部13よりも竿尻側に突出している。さらに、図3に示すように、脚部13が溝部23に入り込んだ状態では、脚部13の表面が樹脂含浸シート17の外周面よりも穂先竿杆4の径方向外側に向けて張り出している。
【0032】
脚部13は、巻き糸25を介して樹脂含浸シート17の溝部23に保持されている。巻き糸25は、脚部13の表面から樹脂含浸シート17の外周面に亘って連続して巻き付けられている。巻き糸25は、脚部13を上から押さえる複数のループ部25aを形成している。ループ部25aは、穂先竿杆4の周方向に沿うとともに、互いに密着された状態で穂先竿杆4の軸方向に並んでいる。
【0033】
そのため、巻き糸25のループ部25aは、脚部13を樹脂含浸シート17の外周面に縛り付けている。竿尻側に位置する幾つかのループ部25aは、脚部13を通り越して樹脂含浸シート17の第2の端部17bの外周面に直に巻き付けられている。巻き糸25としては、上記繊維部18の繊維18aと同様のナイロン糸を用いることができる。
【0034】
図2に示すように、巻き糸25のループ部25aは、糸止め剤26によって被覆されている。糸止め剤26は、所定の粘度を有するとともに、巻き糸25の巻き付け範囲を全て覆うように巻き糸25の上に塗布されている。糸止め剤26は、その穂先側および竿尻側の端部が巻き糸25から穂先竿杆4の軸方向に食み出している。糸止め剤26としては、例えば上記合成樹脂剤19と同様の熱硬化性樹脂を用いることが望ましい。
【0035】
図4および図5に示すように、糸止め剤26は、巻き糸25の隣り合うループ部25aの間を浸透して脚部13の表面および樹脂含浸シート17の外周面に達している。糸止め剤26は、樹脂含浸シート17の外周面に露出する合成樹脂剤19と合体して釣糸ガイド10の脚部13を包み込むとともに、この脚部13を穂先竿杆4の固定領域4aに固定している。
【0036】
次に、釣糸ガイド10を穂先竿杆4の固定領域4aに取り付ける手順について説明する。
【0037】
先ず、穂先竿杆4の固定領域4aの外周面に樹脂含浸シート17を二重に巻き付ける。この巻き付けにより、樹脂含浸シート17の内周面に露出する合成樹脂剤19が固定領域4aと樹脂含浸シート17との間に介在される。
【0038】
さらに、樹脂含浸シート17は、巻き始め端21aと巻き終わり端21bとが穂先竿杆4の周方向に互いにずれるように穂先竿杆4の外周面に巻き付け、この樹脂含浸シート17の外周面に穂先竿杆4の軸方向に延びる溝部23を形成する。この溝部23の存在により、釣糸ガイド10の取り付け位置が定まる。
【0039】
次に、釣糸ガイド10の脚部13を溝部23に載置する。この状態では、脚部13の表面が樹脂含浸シート17の外周面から張り出すとともに、樹脂含浸シート17に含まれる合成樹脂剤19が脚部13と穂先竿杆4の固定領域4aとの間に介在される。さらに、樹脂含浸シート17の繊維部18は、穂先竿杆4の周方向に沿う複数のループ部18bを有するので、これらループ部18bが脚部13と略直交する方向に沿って一列に並んだ状態となる。
【0040】
この後、脚部13の上から巻き糸25を巻き付けて、脚部13を樹脂含浸シート17の外周面に縛り付ける。これにより、脚部13の裏面が樹脂含浸シート17の外周面に強く押し付けられて、脚部13が樹脂含浸シート17の上に保持される。
【0041】
樹脂含浸シート17の外周面には、複数のループ部18bと複数の凹部20が位置し、これらループ部18bおよび凹部20は、脚部13と略直交する方向に交互に並んでいる。このため、例えば釣糸ガイド10の脚部13が穂先竿杆4の軸方向に押圧されるような力を受けた時、脚部13はループ部18bおよび凹部20を横切る方向に移動しようとする。したがって、特に凹部20を挟んで隣り合うループ部18bが脚部13の裏面に引っ掛かるアンカー効果を発揮し、穂先竿杆4の軸方向に沿う脚部13の動きを制限する。
【0042】
さらに、脚部13は、樹脂含浸シート17の外周面の溝部23に入り込んで、樹脂含浸シート11の巻き終わり端21bと段差22との間に介在されている。そのため、樹脂含浸シート11の巻き終わり端21bおよび段差22は、穂先竿杆4の周方向への脚部13の移動を制限する。
【0043】
この結果、脚部13が穂先竿杆4の軸方向および周方向のいずれの方向にも動き難くなり、釣糸ガイド10の固定強度を向上させることができる。
【0044】
次に、合成樹脂製の糸止め剤26を巻き糸25の上から塗布し、この糸止め剤26で巻き糸25のループ部25aを万遍なく覆う。糸止め剤26は、巻き糸25を覆うと同時に、隣り合うループ部25aの間を浸透して脚部13の表面および樹脂含浸シート17の外周面に到達する。樹脂含浸シート17の外周面に達した糸止め剤26は、樹脂含浸シート17の外周面に露出する合成樹脂剤19と合体し、この合成樹脂剤19と協働して脚部13を全周に亘って包み込む。
【0045】
糸止め剤26の塗布が完了した後、穂先竿杆4を加熱して合成樹脂剤19および糸止め剤26を乾燥・硬化させる。合成樹脂剤19および糸止め剤26は、加熱の初期段階で一時的に溶融し、流動性が高まる。これにより、合成樹脂剤19および糸止め剤26が樹脂含浸シート17の外周面で互いに混じり合って一体化される。さらに、溶融状態にある合成樹脂剤19および糸止め剤26は、繊維部18のループ部18bや巻き糸25のループ部25aの間に緻密に入り込むとともに、脚部13の表面および裏面に対し隙間無く密着する。
【0046】
樹脂含浸シート17の繊維部18は、脚部13を巻き糸25で強固に締め付けた時に、樹脂含浸シート17の厚み寸法を維持する芯材として機能する。これにより、樹脂含浸シート17に含まれる合成樹脂剤19が一時的に溶融状態に移行しても、合成樹脂剤19の多くが脚部13と樹脂含浸シート17との間に留まる。
【0047】
すなわち、脚部13と穂先竿杆4の外周面との間に合成樹脂剤のみを介在させた場合、脚部13は巻き糸25によって穂先竿杆4の外周面に強く押圧されているので、合成樹脂剤が加熱により一時的に溶融状態に移行した時に、溶けた合成樹脂剤が脚部13と穂先竿杆4の外周面との間から流出することがあり得る。この結果、脚部13と穂先竿杆4の外周面との間に介在される合成樹脂剤の量が少なくなる。
【0048】
これに対し、第1の実施の形態の樹脂含浸シート17では、繊維部18が穂先竿杆4と脚部13との間隔を維持する。そのため、溶けた合成樹脂剤19が穂先竿杆4と脚部13との間から流出し難くなり、穂先竿杆4と脚部13との間に充分な量の合成樹脂剤19を留めておくことができる。
【0049】
合成樹脂剤19および糸止め剤26は、脚部13や巻き糸25を包み込んだ状態で硬化する。これにより、釣糸ガイド10が穂先竿杆4の外周面の固定領域4aに強固に固定され、一連の釣糸ガイド10の取り付け作業が完了する。
【0050】
このような本発明の第1の実施の形態によれば、釣糸ガイド10の脚部13と穂先竿杆4との間に樹脂含浸シート17が介在され、この樹脂含浸シート17の外周面に露出された合成樹脂剤19が脚部13の裏面に隙間無く接している。しかも、巻き糸25に塗布された糸止め剤26は、巻き糸25のループ部25aを浸透して脚部13の表面に隙間無く接するとともに、樹脂含浸シート17の外周面の合成樹脂剤19と混じり合って一体化されている。
【0051】
このため、脚部13は、全周に亘って合成樹脂剤19および糸止め剤26で包み込まれた状態で穂先竿杆4の固定領域4aに固定されることになり、穂先竿杆4に対する脚部13の固定強度が格段に向上する。
【0052】
したがって、例えば釣りの最中に穂先竿杆4が大きく撓んだ状態でも、穂先竿杆4に対する脚部13の剥離やぐらつきを防止することができ、釣糸ガイド10の取り付け姿勢が安定する。
【0053】
しかも、樹脂含浸シート17は、繊維部18の存在によりシート形状を維持するので、穂先竿杆4の外周面の固定領域4aに簡単に巻き付けることができる。そのため、従来の下糸層を巻き付ける時との比較において、樹脂含浸シート17の巻き付けに要する作業に手間がかからないとともに、新たな製造工程を付加する必要もない。よって、釣竿1の製造コストを抑えることができ、安価な釣竿1を提供することができる。
【0054】
なお、本発明は上記第1の実施の形態に特定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変形して実施可能である。
【0055】
例えば、樹脂含浸シートに含まれる合成樹脂剤としては、竿杆を構成する繊維強化プリプレグよりも低温で硬化する低温硬化樹脂を用いることができる。この低温硬化樹脂を用いることで、樹脂含浸シートおよび糸止め剤を乾燥・硬化させる際の竿杆への熱影響を極力少なく抑えることができる。
【0056】
さらに、樹脂含浸シートの繊維部を構成する繊維にしてもナイロン糸に制約されるものではなく、例えばカーボン繊維、ガラス繊維あるいはアラミド繊維を用いてもよい。
【0057】
加えて、釣糸ガイドの脚部の裏面にエンボス加工を施すことで、脚部の裏面に複数の凹凸を形成してもよい。この構成を採用することで、樹脂含浸シートの繊維部の凹凸と脚部の裏面の凹凸とが互いに噛み合うことになる。このため、釣糸ガイドの脚部が樹脂含浸シートの外周面により一層引っ掛かり易くなり、脚部の固定強度を高める上で有利な構成となる。
【0058】
一方、図6ないし図8は、本発明の第2の実施の形態を開示している。
【0059】
この第2の実施の形態は、穂先竿杆4の外周面に巻き付ける樹脂含浸シート31の構成が上記第1の実施の形態と相違しており、これ以外の釣竿1の構成は第1の実施の形態と同様である。そのため、第2の実施の形態において、第1の実施の形態と同一の構成部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0060】
図6および図7に示すように、樹脂含浸シート31は、そのシート本体として織物32を採用している。織物32は、穂先竿杆4の軸線O1に対し45°傾斜する複数の第1の糸33と、第1の糸33と直交するように穂先竿杆4の軸線O1に対し45°傾斜する複数の第2の糸34とを交互に織り出すことにより構成され、柔軟性を有している。第1および第2の糸33,34としては、所定の幅を有する偏平な糸(繊維)を用いており、例えば第1の糸33と第2の糸34の色を異ならせることで、織物32の装飾性を高めることができる。
【0061】
第1の糸33と第2の糸34とを組み合せることで、織物32の外周部および内周部に夫々連続的に浮き沈みする数多くの交錯部35を有する網目状の模様が形成されている。このため、織物32の表面および裏面は、数多くの交錯部35がマトリクス状に並んだ凹凸面となっている。
【0062】
樹脂含浸シート31に含浸された合成樹脂剤19は、第1および第2の糸33,34の間に浸透するとともに、模様の元となる交錯部35に貯えられている。そのため、第2の実施の形態においても、合成樹脂剤19は、織物32を覆うように樹脂含浸シート31の外周面および内周面に露出している。
【0063】
図7および図8に示すように、樹脂含浸シート31は、穂先竿杆4の固定領域4aの外周面に例えば二層に重ねて巻き付けられている。樹脂含浸シート31は、巻き始め端31aおよび巻き終わり端31bを有している。巻き始め端31aおよび巻き終わり端31bは、夫々穂先竿杆4の軸方向に延びている。巻き始め端31aは、穂先竿杆4の外周面の上に位置している。巻き終わり端31bは、穂先竿杆4の外周面に巻き付けられた樹脂含浸シート31の一層目31cの上に位置している。
【0064】
樹脂含浸シート31の一層目31cから二層目31dに至る部分は、穂先竿杆4の外周面から樹脂含浸シート31の巻き始め端31aの上に乗り上げて、この巻き始め端31aを上から覆っている。これにより、樹脂含浸シート31の一層目31cから二層目31dに至る部分に、樹脂含浸シート31の厚さに相当する段差38が形成されている。段差38は、穂先竿杆4の軸方向に延びている。第2の実施の形態では、樹脂含浸シート31の厚さが釣糸ガイド10の脚部13の厚さよりも小さくなっているが、樹脂含浸シート31の厚さと脚部13の厚さは互いに同一であってもよい。
【0065】
段差38と巻き終わり端31bとは、穂先竿杆4の周方向に互いにずれている。このため、巻き終わり端31bおよび段差38は、樹脂含浸シート31の表面に溝部39を規定している。溝部39は、穂先竿杆4の軸方向に延びるとともに、釣糸ガイド10の脚部13が入り込めるような幅寸法を有している。
【0066】
したがって、溝部39は、穂先竿杆4に対する脚部13の取り付け位置を定めている。溝部39を規定する巻き終わり端31bおよび段差38は、穂先竿杆4の周方向への脚部13のずれを防止するストッパとしても機能している。さらに、図8に示すように、脚部13が溝部23に入り込んだ状態では、脚部13の表面が樹脂含浸シート31の外周面よりも穂先竿杆4の径方向外側に向けて張り出している。
【0067】
図6および図7に示すように、穂先竿杆4に巻き付けられた樹脂含浸シート31は、穂先竿杆4の軸方向に互いに離間した第1の端部40aと第2の端部40bとを有している。第1の端部40aから第2の端部40bに至る樹脂含浸シート31の全長L1は、釣糸ガイド10の脚部13の全長L2よりも長くなっている。
【0068】
そのため、図6に示すように、釣糸ガイド10の脚部13を巻き糸25で樹脂含浸シート31の溝部39に縛り付けた状態では、樹脂含浸シート31の第1および第2の端部40a,40bが脚部13よりも釣竿1の穂先側および竿尻側に向けて突出している。
【0069】
このような第2の実施の形態においても、釣糸ガイド10の脚部13の裏面に樹脂含浸シート31の外周面に止まる合成樹脂剤19が密着するので、この合成樹脂剤19と糸止め剤26とで脚部13を全周に亘って包み込むことができる。そのため、脚部13が穂先竿杆4から剥離し難くなり、上記第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0070】
さらに、樹脂含浸シート31の織物32の表面は、数多くの交錯部35がマトリクス状に並んだ凹凸面となっている。このため、例えば釣糸ガイド10の脚部13が穂先竿杆4の軸方向に押圧された時に、凹凸面が脚部13の裏面に引っ掛かり易くなる。よって、織物32の表面がアンカー効果を発揮し、穂先竿杆4の軸方向に沿う脚部13の移動を制限する。
【0071】
それとともに、脚部13は、樹脂含浸シート31の表面の溝部39に入り込んで、樹脂含浸シート31の巻き終わり端31bと段差38との間に介在されている。そのため、樹脂含浸シート31の巻き終わり端31bおよび段差38は、穂先竿杆4の周方向への脚部13の移動を制限するストッパとして機能する。
【0072】
この結果、脚部13が穂先竿杆4の軸方向および周方向のいずれの方向にもずれ動き難くなり、釣糸ガイド10の固定強度を向上させることができる。
【0073】
加えて、第2の実施の形態によると、糸止め剤26として透明な合成樹脂材料を用いることで、装飾性を有する織物32が糸止め剤26を透過して穂先竿杆4の外に露出する。織物32の模様は、浮き沈みする数多くの交錯部35によって形成されているので、模様が立体的な形状となる。特に、第1の糸33と第2の糸34の色を異ならせることで、模様の彩がより鮮やかとなる。よって、樹脂含浸シート31の芯材となる織物32を利用して釣糸ガイド10の固定部分の意匠的効果を高めることができる。
【0074】
なお、第2の実施の形態においても、釣糸ガイドの脚部の裏面にエンボス加工を施して、脚部の裏面に複数の凹凸を形成することが望ましい。凹凸は、脚部を樹脂含浸シートの外周面に載置した時に、樹脂含浸シートの外周面に位置する交錯部と噛み合うことになる。そのため、釣糸ガイドの脚部が樹脂含浸シートの外周面により一層引っ掛かり易くなるといった利点がある。
【0075】
本発明において、釣糸ガイドは片脚構造に特定されるものではなく、両脚構造の釣糸ガイドにも適用できる。両脚構造の釣糸ガイドに本発明を実施するに当っては、例えば元竿杆の外周面の軸方向に離間した二箇所に樹脂含浸シートを巻き付け、一方の樹脂含浸シートの上に釣糸ガイドの案内部から穂先側に突出する前側の脚部を巻き糸で縛り付け、他方の樹脂含浸シートの上に釣糸ガイドの案内部から竿尻側に突出する後側の脚部を巻き糸で縛り付ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る釣竿の側面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態において、釣糸ガイドを釣竿の穂先竿杆に固定した状態を示す断面図。
【図3】図2のF3-F3線に沿う断面図。
【図4】図3のF4の部分を拡大して示す断面図。
【図5】図3のF5の部分を拡大して示す断面図。
【図6】本発明の第2の実施の形態において、釣糸ガイドを釣竿の穂先竿杆に固定した状態を示す断面図。
【図7】本発明の第2の実施の形態において、釣糸ガイドを樹脂含浸シートの外周面に載置した状態を示す平面図。
【図8】図7のF8-F8線に沿う断面図。
【符号の説明】
【0077】
2,3,4…竿素材(元竿杆、中竿杆、穂先竿杆)、7…釣糸、10…釣糸ガイド、12…案内部、13…脚部、17,31…樹脂含浸シート、18,32…シート本体(繊維部、織物)、19…合成樹脂剤、25…巻き糸、26…糸止め剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
竿素材と、
上記竿素材の外周面に巻き付けられ、シート本体に合成樹脂剤を含浸させた樹脂含浸シートと、
釣糸を案内する案内部と、この案内部を支える脚部とを有し、この脚部が上記樹脂含浸シートの外周面に載置された釣糸ガイドと、
上記釣糸ガイドの脚部の上から上記樹脂含浸シートの外周面に亘って巻き付けられ、上記脚部を上記樹脂含浸シートの上に固定する巻き糸と、
上記巻き糸および上記樹脂含浸シートを連続して被覆する合成樹脂製の糸止め剤と、を具備し、
上記樹脂含浸シートに含まれる合成樹脂剤が上記釣糸ガイドの脚部と上記竿素材との間に充填されていることを特徴とする釣竿。
【請求項2】
請求項1の記載において、上記竿素材に巻き付けられた上記樹脂含浸シートは、上記竿素材の軸方向に互いに離間した第1の端部と第2の端部とを有し、これら第1および第2の端部は、上記脚部よりも上記竿素材の軸方向に突出していることを特徴とする釣竿。
【請求項3】
請求項1の記載において、上記樹脂含浸シートのシート本体は、上記竿素材に巻き付けた時に、上記竿素材の周方向に沿う複数のループ部を構成する複数の繊維を含み、上記ループ部は、上記竿素材の軸方向に並んでいることを特徴とする釣竿。
【請求項4】
請求項1の記載において、上記樹脂含浸シートのシート本体は、複数の繊維を互いに交差するように組み合わせた織物であり、この織物の外周部に上記脚部に接する複数の交錯部が形成されていることを特徴とする釣竿。
【請求項5】
請求項1の記載において、上記樹脂含浸シートは、複数層に重なるように上記竿素材の外周面に巻き付けられ、この樹脂含浸シートは、巻き始め端と巻き終わり端とを有するとともに、これら巻き始め端および巻き終わり端を上記竿素材の周方向に互いにずらすことで、上記樹脂含浸シートの外周面に上記釣糸ガイドの脚部が入り込む溝部を形成したことを特徴とする釣竿。
【請求項6】
シート本体に合成樹脂剤を含浸させた樹脂含浸シートを竿素材の外周面に巻き付ける工程と、
上記樹脂含浸シートの外周面に釣糸ガイドの脚部を載置する工程と、
上記釣糸ガイドの脚部の上から上記樹脂含浸シートの外周面に亘って巻き糸を巻き付けることにより、上記脚部を上記樹脂含浸シートの上に固定する工程と、
上記巻き糸および上記樹脂含浸シートを合成樹脂製の糸止め剤で被覆した後、上記合成樹脂剤および上記糸止め剤を乾燥・硬化させる工程と、を具備することを特徴とする釣竿の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−178132(P2009−178132A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21924(P2008−21924)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000002495)ダイワ精工株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】