説明

釣竿穂先用プリプレグ、釣竿穂先用繊維強化複合材料、釣竿穂先用中実体、釣竿穂先用管状体及び釣竿穂先

【課題】
炭素繊維とマトリックス樹脂界面の接着性確保、マトリックス樹脂の十分な伸度確保、薄物プリプレグの取り扱い性改善および成型品の品位確保により、構成要素や成型法を限定することなく、成型作業性に優れ、大変形時に折損しにくい釣竿穂先竿を実現できるような物性を有する釣竿穂先用途プリプレグを提供すること。
【解決手段】
炭素繊維とマトリックス樹脂を含むプリプレグであって、
炭素繊維が条件[I]〜[IV]を満たし、マトリックス樹脂が下記に示す構成成分[A]をエポキシ樹脂100重量部のうち30〜60重量部、構成成分[B]をエポキシ樹脂100重量部のうち40〜70重量部、構成成分[C]をエポキシ樹脂100重量部に対して1〜10重量部含むエポキシ樹脂組成物であることを特徴とする釣竿穂先用プリプレグ。
[I]X線光電子分光法により測定される炭素繊維の表面酸素濃度O/Cが0.20以下
[II]化学修飾X線光電子分光法により測定される表面水酸基濃度C−OH/Cが0.5%以上
[III]化学修飾X線光電子分光法により測定される表面カルボキシル基濃度COOH/Cが2.0%以下
[IV] 複数のエポキシ基を有する化合物がサイジングされている
[A]25℃での粘度が0.1〜10Pa・sの範囲内にある液状ビスフェノール型エポキシ樹脂、および/または25℃での粘度が0.1〜10Pa・sの範囲内にある水添ビスフェノール型エポキシ樹脂
[B]エポキシ当量が1500〜5000の範囲内にあるビスフェノール型エポキシ樹脂
[C]ジシアンジアミドまたはその誘導体

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、十分に柔らかく、かつ高強度を有する釣竿穂先、及びこれを得るための繊維強化複合材料、プリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、釣竿の穂先には、軽量かつ高い強度特性が得られる繊維強化複合材料を用いるのが一般的となっている。穂先の形状には、中実体や中空の管状体があるが、いずれも釣竿の感度向上及び軽量化のため、軸方向に繊維を引き揃えたストレート材のみから構成されるのが一般的である。このような繊維強化複合材料製釣竿穂先において、要求される特性は、釣り上げる魚の種類や釣り場の状況、個人の好み等によって様々であるが、その中でも近年注目を浴びているのが、仕掛けを巻き込み大変形しても穂先が折れにくい釣竿である。
【0003】
磯竿など穂先が特に細い竿において、仕掛け回収時に釣り糸をリールに巻き取るが、この場合、勢い誤って仕掛けがトップガイドに引っかかり、そのまま更に巻き取ることにより穂先竿を破損させる事故が頻発している。釣人は仕掛けが引っかかったことを察知してリールの巻き取りを停止するが、間に合わずに破損に至ることが多いためである。
【0004】
従来こうした事故に対して有効な対策はなく、大変形時に折損しづらい繊維強化複合材料製釣竿穂先の実現が望まれていた。
【0005】
このようなストレート材のみからなる繊維強化複合材料製釣竿穂先の耐折損性の向上には、マトリックス樹脂の伸度(伸び)と、強化繊維とマトリックス樹脂との間の界面接着性の両立が必要となる。
【0006】
これに対し、特許文献1(特開2004−113054)では、捩りが少ない繊維束を一方向に揃え、引き抜き成形によって中実棒状体に成型することで比較的折れにくい穂先が得られているが、十分なものではなかった。
【0007】
この技術では引き抜き成形を用いるため、マトリックス樹脂組成物には低粘度の樹脂原料しか用いることができず、樹脂硬化物の架橋密度が低く高伸度が得られる長鎖タイプの樹脂原料を適用できないため、マトリックス樹脂の伸度が不足していた。また、マトリックス樹脂として不飽和ポリエステルを主成分としているため、界面接着性も不十分であった。
【0008】
これに対して、高粘度あるいは高融点の樹脂原料を適用できるプリプレグを用いた成形法を適用し、かつ高接着性の高いエポキシ樹脂を用いた釣竿穂先を作製した例は数多くあるが、大きく曲がる穂先を実現した例はほとんどない。例えば、特許文献2(特開2006−149317)には、芯材にNi-Ti合金等の超弾性合金材料を用い、その外周壁にエポキシ樹脂を用いたプリプレグシートを積層するという方法により、課題の解決を試みた例はあるが、金属とFRP間の剥離や、プリプレグ層内の繊維配向の乱れやボイド発生による力学特性の低下が問題となっている。
【特許文献1】特開2004−113054号公報
【特許文献2】特開2006−149317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
大変形時に折損しづらい繊維強化複合材料製釣竿穂先を得るために、マトリックス樹脂の伸度と、強化繊維とマトリックス樹脂との間の界面接着性の両立に加え、もう一つの重要な要因を見いだした。
【0010】
釣竿穂先用途のプリプレグでは、穂先成形時の加工性から、できるだけ薄物のプリプレグが用いられてきた。
こうした薄物プリプレグを積層する場合には、繊細な指先での手作業が必要なため、素手、もしくは薄い手袋1枚を着用して作業が行われることが多い。
この場合、プリプレグを扱う人の体温によってプリプレグが暖まる。
【0011】
これまで検討してきた樹脂組成物では、40℃での貯蔵弾性率が低くなりすぎるため、積層時に繊維の乱れが生じ、これがコンポジット成型時に欠陥となり、高強度かつ大撓みを有する穂先を実現できないでいた。
また、上記課題を解決すべく、40℃での貯蔵弾性率が高い樹脂組成物を用いた場合、室温での貯蔵弾性率が高くなり、プリプレグが硬くなり、取り扱い性が悪化する問題があった。
【0012】
このように、高伸度樹脂を用いた釣竿穂先用途のプリプレグの開発は、上記に示したような問題があり困難であったが、大変形時に折損しづらい穂先を得るために長年望まれていたことである。
【0013】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、構成要素や成型法を限定することなく、成型作業性に優れ、大変形時に折損しにくい釣竿穂先竿を実現できるような物性を有する釣竿穂先用途プリプレグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者たちは、前記課題を解決すべく鋭意検討し、特定の炭素繊維と特定の組成のエポキシ樹脂組成物を構成要素とするプリプレグ及び炭素繊維複合材料によって、かかる課題を一挙に解決することを見いだし、本発明に到達した。
【0015】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。
【0016】
すなわち、炭素繊維とマトリックス樹脂を含むプリプレグであって、炭素繊維が条件[I]〜[IV]を満たし、マトリックス樹脂が下記に示す構成成分[A]をエポキシ樹脂100重量部のうち30〜60重量部、構成成分[B]をエポキシ樹脂100重量部のうち40〜70重量部、構成成分[C]をエポキシ樹脂100重量部に対して1〜10重量部含むエポキシ樹脂組成物であることを特徴とする釣竿穂先用プリプレグである。
[I]X線光電子分光法により測定される炭素繊維の表面酸素濃度O/Cが0.20以下
[II]化学修飾X線光電子分光法により測定される表面水酸基濃度C−OH/Cが0.5%以上
[III]化学修飾X線光電子分光法により測定される表面カルボキシル基濃度COOH/Cが2.0%以下
[IV] 複数のエポキシ基を有する化合物がサイジングされている
[A]25℃での粘度が0.1〜10Pa・sの範囲内にある液状ビスフェノール型エポキシ樹脂、および/または25℃での粘度が0.1〜10Pa・sの範囲内にある水添ビスフェノール型エポキシ樹脂
[B]エポキシ当量が1500〜5000の範囲内にあるビスフェノール型エポキシ樹脂
[C]ジシアンジアミドまたはその誘導体
また、本発明における釣竿穂先用繊維強化複合材料、釣竿穂先用筒状体、釣竿穂先用中実体及び釣竿穂先は、かかる樹脂組成物を熱硬化した樹脂硬化物と強化繊維とを含んでなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、炭素繊維とマトリックス樹脂界面の接着性確保、マトリックス樹脂の十分な伸度確保、薄物プリプレグの取り扱い性改善および成型品の品位確保により、大変形時折損しにくい釣竿穂先用繊維強化複合材料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明における炭素繊維は、X線光電子分光法により測定される炭素繊維の表面酸素濃度O/Cが0.20以下、好ましくは0.15以下、さらに好ましくは0.10以下とするものである。O/Cが0.20を超えると、樹脂の官能基と炭素繊維最表面との化学結合は強固になるものの、本来炭素繊維基質自身が有する強度よりもかなり低い酸化物層が炭素繊維表層を被うこととなるため、結果として得られるコンポジットの横方向特性は低いものとなってしまう。
【0019】
O/Cの下限としては、0.02以上、好ましくは0.04以上さらに好ましくは0.06以上が望ましい。O/Cが0.02に満たないと、サイジング剤との反応性および反応量が不足し、その結果コンポジットの横方向特性の向上が望めない場合がある。
【0020】
本発明の炭素繊維は、上記X線光電子分光のO/Cを特定範囲とすることに加えて、化学修飾X線光電子分光により測定される炭素繊維の表面水酸基濃度C−OH/Cを0.5%以上かつ表面カルボキシル基濃度COOH/Cを2.0%以下とするものである。C−OH/Cが0.5%に満たないと、サイジング剤との反応性および反応量が不足し、コンポジットの横方向特性の向上が望めない。
【0021】
C−OH/Cの上限としては、3.0%以下、好ましくは2.5%以下さらに好ましくは2.0%以下が望ましい。すなわち、C−OH/Cが3%を超えるとサイジング剤との反応性および反応量が過剰になるだけで、接着力特性のさらなる向上は望めず、かつコンポジットの引張強度が低下する場合がある。
【0022】
COOH/Cが2.0%を超える場合には、O/Cが0.2を超える場合と同様に本来炭素繊維基質自身が有する強度よりもかなり低い酸化物層が炭素繊維表層を被うこととなるため、結果として得られるコンポジットの横方向特性は低下してしまう。さらに、マトリックス樹脂の硬化速度を遅延させるという問題もある。
【0023】
COOH/Cの下限としては、0.2%以上、好ましくは0.5%以上が望ましい。COOH/Cが0.2%に満たないと、サイジング剤との反応性および反応量が不足し、コンポジットの横方向特性の向上が望めない場合がある。
【0024】
本発明の炭素繊維は上記表面特性を有し、かつ下記特定の構造を有する化合物がサイジングされてなるものである。
【0025】
サイジング剤としては、複数のエポキシ基を有する化合物を用いることができる。
【0026】
サイジング剤化合物の有するエポキシ基が2つ未満であると、炭素繊維とマトリックス樹脂との橋渡しを有効に行うことができない。したがってエポキシ基の数は、炭素繊維とマトリックス樹脂との橋渡しを有効に行うために2個以上であることが必須である。
【0027】
一方、エポキシ基の数が多すぎると、サイジング化合物の分子間架橋の密度が大きくなり、脆性なサイジング層となって結果としてコンポジットの引張強度が低下してしまうため、好ましくは6個以下、より好ましくは4個以下、さらに好ましくは2個がよい。
【0028】
エポキシ基の構造としては反応性の高いグリシジル基が好ましい。
【0029】
炭素繊維へのサイジング付着量は、樹脂との接着性改善幅を大とし、一方、サイジング剤の消費が過大にならないようにする観点から、炭素繊維単位重量あたり0.01重量%以上10重量%以下が好ましく、0.05重量%以上5重量%以下がより好ましく、0.1重量%以上2重量%以下付与するのがさらに好ましい。
【0030】
本発明の炭素繊維の機械的物性としてはストランド強度が350kgf/mm2以上、より好ましくは400kgf/mm2以上、さらに好ましくは450kgf/mm2以上が望ましい。また、炭素繊維の弾性率は22tf/mm2以上が好ましく、24tf/mm2以上がより好ましく、28tf/mm2以上がさらに好ましい。ストランド強度あるいは弾性率がそれぞれ、350kgf/mm2未満あるいは22tf/mm2未満の炭素繊維の場合には、コンポジットとしたときに釣竿穂先構造材として所望の特性が得られない場合がある。
【0031】
次に、本発明の炭素繊維を得る方法について説明する。炭素繊維の表面処理およびサイジング処理については次に記載するとおりであるが、炭素繊維の重合、製糸、焼成条件については拘束されるものではない。
【0032】
本発明の方法に供せられる原料炭素繊維としては、アクリル系、ピッチ系、レーヨン系等の公知の炭素繊維を適用できる。好ましくは高強度の炭素長繊維が得られやすいアクリル系炭素繊維が良い。アクリル系炭素繊維の場合を例にとって以下詳細に説明する。
【0033】
紡糸方法としては湿式、乾式、乾湿式等を採用できるが高強度糸が得られやすい湿式あるいは乾湿式が好ましく、特に乾湿式が好ましい。紡糸原液にはポリアクリロ二トリルのホモポリマーあるいは共重合成分の溶液あるいは懸濁液等を用いることができるが、ろ過を強化して不純物をポリマーから除去することが、高性能炭素繊維を得るために重要である。
【0034】
該紡糸原液を凝固、水洗、延伸、油剤付与して前駆体原糸とし、さらに耐炎化、炭化、さらに必要に応じて黒鉛化処理を行って炭素繊維とする。製糸、焼成工程を通して、用役あるいは雰囲気から塵埃、異物といった不純物を最小限に抑え、繊維への欠陥導入を防ぐこと、張力をかけて配向を高くすることが高性能炭素繊維を得るために重要である。炭化あるいは黒鉛化条件として、本発明炭素繊維を得るには最高熱処理温度は1100℃以上、好ましくは1400℃以上がよい。
【0035】
強度および弾性率の高い炭素繊維を得るためには細繊度の炭素繊維が好ましく、炭素繊維の単糸径で7.5μm以下、好ましくは6μm以下、さらに好ましくは5.5μm以下がよい。得られた炭素繊維はさらに表面処理およびサイジング処理がなされて炭素繊維となる。
【0036】
X線光電子分光法のO/C、化学修飾X線光電子分光法により測定される表面水酸基濃度C−OH/Cおよび化学修飾X線光電子分光法により測定される表面カルボキシル基濃度COOH/Cを前記した特定範囲とする炭素繊維は次の方法で製造することができる。
【0037】
一つには、炭素繊維をアルカリ性水溶液で電解処理する方法である。アルカリ性電解液としてはpHが7〜14、好ましくは8〜14、さらに好ましくは10〜14の強アルカリ水溶液がよい。この電解質としては水溶液中でアルカリ性を示すものであればよく、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム等の水酸化物、アンモニア、または、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩類、酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム等の有機塩類の水溶液、さらにこれらのカリウム塩、バリウム塩あるいは他の金属塩、およびアンモニウム塩、またヒドラジン等の有機化合物が挙げられるが、好ましくは樹脂の硬化障害を起こすアルカリ金属を含まない炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等の無機アルカリあるいは強アルカリを示す水酸化テトラアルキルアンモニウム塩類がよい。
【0038】
X線光電子分光法のO/C、化学修飾X線光電子分光法により測定される表面水酸基濃度C−OH/Cおよび化学修飾X線光電子分光法により測定される表面カルボキシル基濃度COOH/Cを前記した特定範囲とする炭素繊維を製造する方法として、被処理炭素繊維を酸性水溶液中で電解処理し、続いてアルカリ性水溶液で洗浄処理する方法を用いることもできる。
【0039】
この場合の電解質としては水溶液中で酸性を示すものであればよく、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、ホウ酸、炭酸等の無機酸、酢酸、シュウ酸、アクリル酸、マレイン酸等の有機酸、または硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム等の塩が挙げられる。これらの中でも強酸性を示す硫酸、硝酸が好ましい。
【0040】
この酸性水溶液中の電解処理に、引き続いてアルカリ性水溶液中の洗浄処理を行う。
【0041】
洗浄液として用いるアルカリ性水溶液としては、pHが7〜14、好ましくは8〜14、さらに好ましくは10〜14の強アルカリ水溶液がよい。具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム等の水酸化物、アンモニア、または、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩類、酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム等の有機塩類の水溶液、さらにこれらのカリウム塩、バリウム塩あるいは他の金属塩、およびアンモニウム塩、またヒドラジン等の有機化合物が挙げられるが、好ましくは樹脂の硬化障害を起こすアルカリ金属を含まない炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等の無機アルカリあるいは強アルカリを示す水酸化テトラアルキルアンモニウム塩類が好ましい。
【0042】
洗浄方法として、ディップ法、スプレー法等があるが、洗浄が容易なディップ法が好ましい。さらに、洗浄時に炭素繊維を超音波で加振させるのがより好ましい。
【0043】
電解処理または洗浄処理を行った後、水洗および乾燥することが好ましい。この場合、乾燥温度が高すぎると炭素繊維の最表面に存在する官能基は熱分解により消滅しやすいため、できる限り低い温度で乾燥することが望ましく、具体的には乾燥温度が250℃以下、さらに好ましくは210℃以下で乾燥することが望ましい。
【0044】
サイジング剤の付与手段としては特に限定されるものではないが、例えばローラを介してサイジング液に浸漬する方法、サイジングの付着したローラに接する方法、サイジング液を霧状にして吹きつける方法などがある。また、バッチ式、連続式いずれでも良いが、生産性が良くバラツキが小さくできる連続式が好ましい。この際、炭素繊維に対するサイジング剤有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング液濃度、湿度、糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング付与時に炭素繊維を超音波で加振させることはより好ましい。
【0045】
本発明のプリプレグ及びCFRPにおけるマトリックス樹脂は、次の構成成分[A]〜[C]を含むエポキシ樹脂組成物からなるものである。
[A]25℃での粘度が0.1〜10 Pa・sである液状ビスフェノール型エポキシ樹脂、または25℃での粘度が0.1〜10 Pa・sである水添ビスフェノール型エポキシ樹脂
[B]エポキシ当量が1500以上5000以下 であるビスフェノール型エポキシ樹脂
[C]ジシアンジアミドまたはその誘導体
本発明において、構成成分[A]は、分子内にビスフェノール構造を有するエポキシ樹脂である。
【0046】
構成成分[A]のエポキシ樹脂としては、25℃での粘度が0.1〜10Pa・sの範囲内にあることが必要であり、好ましくは0.1〜8Pa・s、さらに好ましくは0.1〜5Pa・sであることが望ましい。25℃での粘度が10Pa・sを超えると、樹脂組成物の貯蔵弾性率を25℃で適度に調整した場合に樹脂組成物の40℃での粘度が低くなりすぎ、プリプレグの取り扱い性が悪くなり、釣竿穂先の強度特性が悪化する。また、樹脂組成物の含浸時の流動性も悪く、樹脂が十分に炭素繊維束内に行き渡らず、プリプレグ層内にボイドを有してしまい、釣竿穂先の強度特性が悪化する。
25℃での粘度が0.1Pa・sに満たない場合、高伸度特性を出すために必要な[B]成分との相溶性が悪化し、所望の樹脂特性が得られない。
【0047】
構成成分[A]の具体例としては、以下に示すものが使用されるが、ここに記載しているものに限定するものではない。また、これらを複数組み合わせて使用することもできる。
構成成分[A]としては、樹脂組成物の低粘度化に効果があるビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いることがより好ましい。
【0048】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、“jER(登録商標)”806(25℃での粘度:1.5〜2.5Pa・s)、“jER(登録商標)”807(25℃での粘度:3〜4.5Pa・s)(以上ジャパンエポキシレジン(株)製)、“エピクロン(登録商標)”830(25℃での粘度:3〜4Pa・s)(大日本インキ化学工業(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF−8170C(25℃での粘度:1〜2Pa・s)、“エポトート(登録商標)”YDF−170(25℃での粘度:2〜5Pa・s)、“エポトート(登録商標)”YDF−175(25℃での粘度:3〜4Pa・s)(以上、東都化成(株)製)等がある。
【0049】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、“jER(登録商標)”825(25℃での粘度:4〜6Pa・s)、“jER(登録商標)”826(25℃での粘度:6.5〜9.5Pa・s)(以上ジャパンエポキシレジン(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD−8125(25℃での粘度:4〜5Pa・s)(東都化成(株)製)等がある。
水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、YL6753(25℃での粘度:4Pa・s)(ジャパンエポキシレジン(株)製)等がある。
【0050】
水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、“エピクロン(登録商標)”EXA7015(25℃での粘度:2.2Pa・s)(大日本インキ化学工業(株)製)、ST−3000(25℃での粘度:2.5〜4Pa・s)(東都化成(株)製)、“デナコール(登録商標)”EX−252(25℃での粘度:2.2Pa・s)(ナガセケムテックス(株)製)等がある。
【0051】
構成成分[B]のビスフェノール型エポキシ樹脂としては、エポキシ当量が1500以上5000以下であることが必要であり、好ましくは2000以上5000以下、より好ましくは2500以上5000以下が望ましい。
【0052】
エポキシ等量が1500未満である場合、望みの高伸度特性は得られない。
【0053】
エポキシ等量が5000を超えた場合、樹脂組成物の含浸時の流動性が悪く、樹脂が十分に炭素繊維束内に行き渡らず、プリプレグ層内にボイドを有してしまい、釣竿穂先の強度特性が悪化する。
【0054】
また、樹脂組成物のガラス転移点が高くなり、炭素繊維への含浸に高温または高圧の装置が必要となり、生産性に問題が出る。
【0055】
構成成分[B]の具体例としては、以下に示すものが使用されるが、ここに記載しているものに限定するものではない。また、これらを複数組み合わせて使用することもできる。
構成成分[B]としては、樹脂硬化物の伸度向上効果が大きいビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることがより好ましい。
【0056】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、“jER(登録商標)”4007P(エポキシ当量2270)、“jER(登録商標)”4110(エポキシ当量3800)、“jER(登録商標)”4010P(エポキシ当量4400)(以上ジャパンエポキシレジン(株)製)等がある。
【0057】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、“jER(登録商標)”1007(エポキシ当量1925)、“jER(登録商標)”1009(エポキシ当量3300)、“jER(登録商標)”1010(エポキシ当量4000)(以上ジャパンエポキシレジン(株)製)、“エピクロン(登録商標)”7050(エポキシ当量1925)(大日本インキ化学工業(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD−017(エポキシ当量1925)、“エポトート(登録商標)”YD−019(エポキシ当量2850)、“エポトート(登録商標)”YD−020N(エポキシ当量3900)(以上東都化成(株)製)等がある。
【0058】
臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、“jER(登録商標)”5354(エポキシ当量1650)、“jER(登録商標)”5057(エポキシ当量2250)(以上ジャパンエポキシレジン(株)製)等がある。
【0059】
構成成分[C]は、ジシアンジアミドまたはその誘導体である。
【0060】
ジシアンジアミドまたはその誘導体は潜在性硬化剤で、保存安定性や硬化性の観点から好ましく用いられる。また、樹脂硬化物の伸度に優れる。ジシアンジアミドの市販品としては、DICY7S、DICY15(以上ジャパンエポキシレジン(株)製)などが挙げられる。ジシアンジアミドは単独で用いても良いし、ジシアンジアミドの硬化触媒と組み合わせて用いても良い。組み合わせるジシアンジアミドの硬化触媒としては、ウレア類、イミダゾール類、ルイス酸触媒などが挙げられる。ウレア類の市販品としては、DCMU99(保土ヶ谷化学(株)製)、Omicure24,Omicure52,Omicure94(以上CVCSpecialtyChemicals.Inc.製)などが挙げられる。イミダゾール類の市販品としては、2MZ、2PZ、2E4MZ(以上、四国化成(株)製)などが挙げられる。ルイス酸触媒としては、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体、三フッ化ホウ素・モノエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・トリエタノールアミン錯体、三フッ化ホウ素・オクチルアミン錯体などのハロゲン化ホウ素と塩基の錯体が挙げられる。
【0061】
また、本発明は構成成分[A]と[B]をある特定の部数で混合することにより、25℃と40℃の樹脂の貯蔵弾性率の比が小さくなり、プリプレグ取り扱い性が向上することを見出したものであるが、用いるエポキシ樹脂は[A]、[B]に限定するものではなく、例えば低粘度化、高伸度化に寄与する次のようなエポキシ樹脂を、最大30重量部まで含むことができる。
【0062】
構成成分[A]、[B]以外に用いられるエポキシ樹脂の例としては、1,6−ヘキサンジオール型、ネオペンチルグリコール型、ペンタエリスリトール型などの脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。市販品としては、“エピコート(登録商標)”726、“エピコート(登録商標)”703、“エピコート(登録商標)”725、“エピコート(登録商標)”720、“エピコート(登録商標)”705(以上大日本インキ化学工業(株)製)、“デナコール(登録商標)”EX−212、“デナコール(登録商標)”EX−313、“デナコール(登録商標)”EX−314、“デナコール(登録商標)”EX−211(以上ナガセケムテックス(株)製)等が挙げられる。
【0063】
本発明において、構成成分[D]のマトリックス樹脂に可溶な熱可塑性樹脂は、マトリックス樹脂の粘弾性を制御し、プリプレグ取り扱い性を向上させるために有効であり、マトリックス樹脂に配合することが好ましい。かかる熱可塑性樹脂は、マトリックス樹脂中の他成分に可溶なものであれば特に限定されるものではない。
【0064】
また、本発明の熱可塑性樹脂の重量平均分子量は5000〜20万の範囲にあることが好ましい。重量平均分子量が20万を超える場合には、樹脂の含浸性が悪化するので好ましくない。一方、重量平均分子量が5000に満たない場合には、タックが弱く、またドレープ性に劣るプリプレグとなるので好ましくない。
【0065】
構成成分[D]の添加量はエポキシ樹脂100重量部に対して1〜10重量部、好ましくは2〜10重量部の範囲であることが望ましい。添加量が10重量部を超える場合には、樹脂の含浸性が悪化するので好ましくない。一方、添加量が1重量部未満では、添加時に粘弾性制御効果を十分に得ることができない。
【0066】
本発明において、プリプレグの取り扱い性の指標として、25℃におけるマトリックス樹脂の貯蔵弾性率(以下G'と略記)と40℃におけるマトリックス樹脂のG'の比G'(25℃)/G'(40℃)を用いる事ができる。すなわち、G'(25℃)/G'(40℃)が小さいほど25℃と40℃での貯蔵弾性率が近く、プリプレグの取り扱い性が向上する。
【0067】
本発明において、樹脂組成物の動的粘弾性測定には、樹脂組成物を板状に切り出しDMA法で粘弾性測定することにより、ガラス領域から室温付近までの温度領域の粘弾性を測定する方法を用いる。本発明のマトリックス樹脂は以下のように特徴的なレオロジー特性を示す。
【0068】
すなわち、本発明のマトリックス樹脂は、測定周波数0.5Hz、25℃での動的粘弾性測定における貯蔵弾性率が10000〜200000Paの範囲にあることが好ましい。
【0069】
また、測定周波数0.5Hzにおける40℃でのG'は1000〜20000Paの範囲にあることが好ましく、その比が2〜30の範囲にあることが必要である。
【0070】
樹脂硬化物の塑性変形能力の指標として、硬化物の3点曲げ撓み量を用いることができる。本目的に必要な3点曲げの撓み量は10〜25mm、好ましくは15〜25mmであるのが良い。
【0071】
本発明の樹脂組成物を先述の炭素繊維に含浸することにより、繊維強化複合材料の中間基材としてのプリプレグが作成される。
【0072】
強化繊維の形態としてや配列については特に限定するものではなく、例えば一方向に引き揃えた長繊維、トウ、織物(クロス)などが用いられるが、前述の通り釣竿穂先は繊維が軸方向に引き揃えられたストレート材のみからなることが多く、積層時の取り扱い性の面から一方向に長繊維を引き揃え、シート状にしたものが好ましい。
【0073】
プリプレグは、マトリックス樹脂となる樹脂組成物を、溶媒に溶解して低粘度化し強化繊維に含浸させるウェット法や、加熱により低粘度化し強化繊維に含浸させるホットメルト法(ドライ法)などの方法により製造される。ホットメルト法は、強化繊維と樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングしたフィルムを両側あるいは片側から重ね、加熱加圧することにより樹脂組成物を含浸させプリプレグを作成する方法である。
【0074】
繊維強化複合材料の軽量化のためにはプリプレグ中の強化繊維含有率は高いことが好ましく、好ましくは60重量%以上であり、より好ましくは70重量%以上であり、75重量%以上であることが最も好ましい。しかしながら、繊維含有量が高すぎる場合、マトリックス樹脂の絶対量が減少することにより、プリプレグのタック性やマトリックス樹脂の強化繊維への含浸性が損なわれるため、作業性が低下したり、繊維強化複合材料中に空隙(ボイド)を多く含むものしか得られないなど品位の良い繊維強化複合材料を作製することが難しくなる場合があり、そのような意味で繊維含有率は90重量%以下であることが好ましく、85重量%以下であることがより好ましい。
【0075】
プリプレグを用いた繊維強化複合材料は、プリプレグを裁断したパターンを積層後、積層物に圧力を付与しながら樹脂を加熱硬化させる方法により作製される。圧力を付与する方法としては、プレス成形とオートクレーブ成型が代表的な方法で、その他にもシートワインディング成型、内圧成型などがあり、いずれの方法も利用できる。
【0076】
シートワインディング法は、マンドレル等の芯金にプリプレグを巻いて、円筒状物を成型する方法である。具体的には、マンドレルにプリプレグを巻きつけ、プリプレグがマンドレルから剥離しないように固定するために、および、テープの熱収縮性を利用してプリプレグに成型圧力を付与するために、プリプレグの外側にフィルム・テープ(ラッピングテープ)を巻きつけ、樹脂を加熱硬化させた後、芯金を抜き去って円筒状成型体を得る。
【0077】
また、内圧成型法は、プリプレグから作製したプリフォームを予め金型へセットし、次いでプリフォームに内圧をかけると同時に金型を加熱し成型する方法である。
【0078】
釣竿穂先大変形時のCF表面の剥離破壊や、穂先側面からのCF束のささくれを防ぐために界面接着性が必要である。かかる接着性の指標として、90°曲げ試験が好適に用いられる。本目的に必要な90°曲げ強度値は、繊維の弾性率やCFRPの繊維含有率により異なるが、24t、Wf65%の場合で150MPa程度である。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例を用いてさらに具体的に説明する。
【0080】
まず、本発明に用いた個々の特性値の測定法を説明する。
A.炭素繊維の表面官能基濃度
構成要素である炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)、表面水酸基濃度(C−OH/C)、表面カルボキシル濃度(COOH/C)は以下の方法により求めた。
【0081】
表面酸素濃度O/Cは、次の手順に従ってX線光電子分光法により求めた。まず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットしてステンレス製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90°とし、X線源としてMgKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10-8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1S の主ピークの結合エネルギー値を284.6 eVに合わせる。C1S ピーク面積は、 282〜296 eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、O1S ピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。表面酸素濃度O/Cは、上記O1S ピーク面積とC1S ピーク面積の比を、装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比で表した。なお、本実施例では島津製作所(株)製ESCA−750を用い上記装置固有の感度補正値は2.85であった。
【0082】
表面水酸基濃度C−OH/Cは、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求めた。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.04モル/リットルの無水3弗化酢酸気体を含んだ乾燥窒素ガス中に室温で10分間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2 を用い、試料チャンバー内を1×10-8 Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1S の主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1S ピーク面積[C1S ]は、 282〜296 eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1S ピーク面積[F1S ]は、 682〜695 eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、同時に化学修飾処理したポリビニルアルコールのC1S ピーク分割から反応率rを求めた。表面水酸基濃度C−OH/Cは、下式により算出した値で表した。
【0083】
C−OH/C={F1S] /(3k[C1S] −2[F1S ] )r} x 100 (%)
なお、kは装置固有のC1S ピーク面積に対するF1S ピーク面積の感度補正値であり、本実施例では、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用い、上記装置固有の感度補正値は3.919であった。
【0084】
表面カルボキシル基濃度COOH/Cは、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求めた。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.02モル/リットルの3弗化エタノール気体,0.001モル/リットルのジシクロヘキシルカルボジイミド気体及び0.04モル/リットルのピリジン気体を含む空気中に60℃で8時間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10-8 Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1S の主ピークの結合エネルギー値を284.6 eVに合わせる。C1S ピーク面積[C1S ]は、282〜296 eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1S ピーク面積[F1S ]は、682〜695 eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、同時に化学修飾処理したポリアクリル酸のC1S ピーク分割から反応率rを、O1S ピーク分割からジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体の残存率mを求めた。
【0085】
表面カルボキシル基濃度COOH/Cは、下式により算出した値で表した。
【0086】
COOH/C={F1S] / (3k[C1S ] −(2+13m)[ F1S])r} x 100 (%)
なお、kは装置固有のC1S ピーク面積に対するF1S ピーク面積の感度補正値であり、本実施例では、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用い、上記装置固有の感度補正値は3.919であった。
B.樹脂組成物の貯蔵弾性率(G')
エポキシ樹脂組成物の未硬化物のG'は、動的粘弾性測定装置(ARES:TAインスツルメント社製)を用い測定した。
【0087】
25℃におけるG'は、樹脂組成物より幅12.7mm、厚さ2mmの樹脂板を作成し、サンプル長35mm、測定周波数0.5Hz、昇温速度1.5℃/minの条件下で評価した。
【0088】
また、40℃でのG'は直径40mmのパラレルプレートを用い、昇温速度2℃/minで単純昇温し、周波数0.5Hz、Gap 1mmで測定を行なった。
C.樹脂硬化物の曲げ試験
樹脂硬化物の曲げ弾性率、曲げ撓み量の測定は、以下の方法に従い行なった。
【0089】
ニーダーで調整した樹脂組成物を80℃に加熱してモールドに注入し、135℃の熱風乾燥機中で2時間加熱硬化して厚さ2mmの樹脂硬化板を作製した。次に、樹脂硬化板から幅10mm、長さ60mmの試験片を切り出し、試験速度250mm/分、支点間距離32mmで3点曲げ試験を行い、JIS K7203に準じて、曲げ撓み量を求めた。なお、撓み量はばらつきが大きいため、5サンプルの平均値で評価した。
D.プリプレグのマンドレルへの巻きつけ品位
プリプレグ積層時の繊維の乱れは、室温下素手で直径3mmのマンドレルへプリプレグを長手方向に3周巻きつけ、そのときの繊維の乱れを目視で観察し評価した。品位の良否を半定量的に○、△、×で示す。○が全く繊維の乱れがないもの、△は多少の乱れはあるがコンポジット物性に問題がないもの、×が繊維の乱れを生じたものとした。
E.CFRPの90°曲げ試験
エポキシ樹脂組成物と強化繊維の接着性の指標として、繊維強化複合材料の90°曲げ強度を測定した。前記一方向プリプレグの繊維方向が同じ方向になるように、また硬化後の積層板の厚みが約2mmになるように積層し、オートクレーブ中で135℃、内圧588kPaで2時間加熱加圧して硬化し、一方向繊維強化複合材料を成型した。かかる一方向繊維強化複合材料を、厚み2±0.2mm、幅15.0±0.5mm、長さ60+10mmとなるように切り出した。なお繊維方向が幅方向となるようにサンプルを作製した。JIS K7017(1999)に従い、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、クロスヘッド速度1.0mm/分、スパン間40mm、圧子径10mm、支点径 4mmで測定を行ない、90°曲げ強度を計算した。
(1)炭素繊維a〜cの作製
炭素繊維aの作製(実施例1)
アクリロニトリル99.4モル%とメタクリル酸0.6モル%からなる共重合体を用いて、乾湿式紡糸方法により単繊維繊度1デニール、フィラメント数12000のアクリル系繊維を得た。得られた繊維束を240〜280℃の空気中で、延伸比1.05で加熱し、耐炎化繊維に転換し、ついで窒素雰囲気中300〜900℃の温度領域での昇温速度を200℃/分とし10%の延伸を行なった後、1800℃まで焼成した。
【0090】
濃度0.05モル/リットルの硫酸水溶液で電解処理した後水洗し、150℃の加熱空気中で乾燥した炭素繊維を、引き続き濃度0.1モル/リットルの水酸化テトラエチルアンモニウム(以下、TEAHと略す)水溶液中に10分間攪拌・浸漬し、続いて水洗、150℃で乾燥した。続いて、樹脂成分が1重量%になるようにグリセロールトリグリシジルエーテルをジメチルホルムアミド(以下、DMFと略す)で希釈してサイジング母液を調整し、浸漬法によりサイジング剤を付与し、230℃で乾燥を行なった。
【0091】
こうして得られた炭素繊維のストランド強度は475kgf/mm2であった。表面官能基量の測定結果は表に示す。
【0092】
炭素繊維bの作製(実施例2〜4、比較例2〜5)
アクリロニトリル99.4モル%とメタクリル酸0.6モル%からなる共重合体を用いて、乾湿式紡糸方法により単繊維繊度1デニール、フィラメント数12000のアクリル系繊維を得た。得られた繊維束を240〜280℃の空気中で、延伸比1.05で加熱し、耐炎化繊維に転換し、ついで窒素雰囲気中300〜900℃の温度領域での昇温速度を200℃/分とし10%の延伸を行なった後、1300℃まで焼成した。
濃度0.1モル/リットルのTEAH水溶液で電解処理した後水洗し、150℃の加熱空気中で乾燥した。続いて、樹脂成分が1重量%になるようにグリセロールトリグリシジルエーテルをDMFで希釈してサイジング母液を調整し、浸漬法によりサイジング剤を付与し、230℃で乾燥を行なった。
こうして得られた炭素繊維のストランド強度は484kgf/mm2であった。表面官能基量の測定結果は表に示す。
【0093】
炭素繊維cの作製(比較例1)
アクリロニトリル99.4モル%とメタクリル酸0.6モル%からなる共重合体を用いて、乾湿式紡糸方法により単繊維繊度1デニール、フィラメント数12000のアクリル系繊維を得た。得られた繊維束を240〜280℃の空気中で、延伸比1.05で加熱し、耐炎化繊維に転換し、ついで窒素雰囲気中300〜900℃の温度領域での昇温速度を200℃/分とし10%の延伸を行なった後、1300℃まで焼成した。
【0094】
濃度0.05モル/リットルの硫酸水溶液で電解処理した後水洗し、150℃の加熱空気中で乾燥した。続いて、樹脂成分が1重量%になるようにグリセロールトリグリシジルエーテルをDMFで希釈してサイジング母液を調整し、浸漬法によりサイジング剤を付与し、230℃で乾燥を行なった。
【0095】
こうして得られた炭素繊維のストランド強度は470kgf/mm2であった。表面官能基量の測定結果は表に示す。
(2)樹脂組成物の調整
A.原料
下記の原料を用いた。尚、各実施例、比較例における組成比は表1、2に示す。
【0096】
エポキシ樹脂
・“jER(登録商標)”826
(エポキシ当量182、25℃での粘度6.5〜9.5Pa・s、ジャパンエポキシレジン(株)製)
・“エポトート(登録商標)”YDF8170C
(エポキシ当量160、25℃での粘度1.0〜2.0Pa・s、東都化成(株)製)
・“jER(登録商標)”1007
(エポキシ当量1925、25℃で固形、ジャパンエポキシレジン(株)製)
・“jER(登録商標)”4007P
(エポキシ当量2270、25℃で固形、ジャパンエポキシレジン(株)製)
・“エポトート(登録商標)”YD128
(エポキシ当量189、25℃での粘度12〜15Pa・s、東都化成(株)製)
・“jER(登録商標)”1004
(エポキシ当量975、25℃で固形、ジャパンエポキシレジン(株)製)
・“jER(登録商標)”4210P
(エポキシ当量10000、25℃で固形、ジャパンエポキシレジン(株)製)
硬化剤、硬化助剤
・Dicy7S(ジシアンジアミド、ジャパンエポキシレジン(株)製)
・DCMU99(3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア、保土ヶ谷化学製)
熱可塑性樹脂
・“ビニレック(登録商標)”K(ポリビニルホルマール、チッソ(株)製)
B.調製
ニーダー中に、[A]成分のエポキシ樹脂、[B]成分のエポキシ樹脂、その他のエポキシ樹脂、[D]成分のうち、表1に示す成分を所定量加え、混練しつつ、160℃まで昇温し、160℃、2時間混練することで、透明な粘調液を得た。この液を80℃まで混練しつつ降温させ、表1、2に示す[C]成分および硬化促進剤を所定量加え、混練しエポキシ樹脂組成物を得た。各実施例、比較例の成分配合比は、表1、2に示す通りである。
(3)プリプレグの作製
樹脂組成物をナイフコーターを用いて離型紙上に塗布し、樹脂フィルムを作製した。次に、シート状に一方向に整列させた炭素繊維に樹脂フィルム2枚を炭素繊維の両面から重ね、加熱加圧して樹脂組成物を含浸させ、炭素繊維目付40g/m2繊維重量含有率75%の一方向プリプレグを得た。
(実施例1,2、比較例1)
前述の方法に従い、表1に示す組成の樹脂組成物Aを作製した。炭素繊維a〜cに含浸して前述の方法に従いプリプレグを作製し、該プリプレグを用いて得た一方向繊維強化複合材料の90°曲げ強度を測定したところ、実施例1,2は比較例1と比較して明らかに高い値となった。
(実施例2〜4、比較例2〜6)
前述の方法に従い、表2に示す組成の樹脂組成物A〜Hを調整し、その貯蔵弾性率G'および硬化物の曲げ弾性率・撓み量を測定した。
【0097】
その結果、樹脂D(比較例2)は樹脂A、B、C(実施例2〜4)と比較して、G'(40℃)が高く、プリプレグの含浸性が悪かった。樹脂Dの[B]成分の組成を変化させG'(25℃)を樹脂A(実施例2)と同程度に調整した樹脂E(比較例3)では、G'(40℃)が実施例2と比較して低くなり、G'の比が大きくプリプレグの取り扱い性が悪化した。
【0098】
また、樹脂F(比較例4)では、曲げ撓み量が小さく所望の高伸度特性は得られなかった。
【0099】
また、樹脂組成物A〜Gを炭素繊維bに含浸して前述の方法に従いプリプレグを作製し、マンドレルへの巻きつけ品位を測定した。比較例3、4では、G'(40℃)が低く繊維の乱れが生じ品位は悪かった。また、比較例5ではプリプレグが硬く、薄物プリプレグの取り扱い性は悪かった。
【0100】
該プリプレグを用いて得た一方向繊維強化複合材料の90°曲げ強度を測定したところ、実施例2〜4は比較例2、比較例3、比較例5、比較例6と比較して明らかに高い値となった。
【0101】
なお、比較例4では90°曲げ強度は要求特性を満たしているものの、樹脂硬化物の曲げ撓み量が小さく所望の高伸度物性は得られなかった。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維とマトリックス樹脂を含むプリプレグであって、
炭素繊維が条件[I]〜[IV]を満たし、マトリックス樹脂が下記に示す構成成分[A]をエポキシ樹脂100重量部のうち30〜60重量部、構成成分[B]をエポキシ樹脂100重量部のうち40〜70重量部、構成成分[C]をエポキシ樹脂100重量部に対して1〜10重量部含むエポキシ樹脂組成物であることを特徴とする釣竿穂先用プリプレグ。
[I]X線光電子分光法により測定される炭素繊維の表面酸素濃度O/Cが0.20以下
[II]化学修飾X線光電子分光法により測定される表面水酸基濃度C−OH/Cが0.5%以上
[III]化学修飾X線光電子分光法により測定される表面カルボキシル基濃度COOH/Cが2.0%以下
[IV] 複数のエポキシ基を有する化合物がサイジングされている
[A]25℃での粘度が0.1〜10Pa・sの範囲内にある液状ビスフェノール型エポキシ樹脂、および/または25℃での粘度が0.1〜10Pa・sの範囲内にある水添ビスフェノール型エポキシ樹脂
[B]エポキシ当量が1500〜5000の範囲内にあるビスフェノール型エポキシ樹脂
[C]ジシアンジアミドまたはその誘導体
【請求項2】
前記マトリックス樹脂が、構成成分[D]として、重量平均分子量が5000〜20万の範囲内にある、前記エポキシ樹脂[A]と[B]の混合物に可溶な熱可塑性樹脂を、前記エポキシ樹脂[A]と[B]の混合物100重量部に対して1〜10重量部含む請求項1に記載の釣竿穂先用プリプレグ。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂組成物の構成成分[A]100重量%中、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が50〜100重量%含まれる請求項1または2に記載の釣竿穂先用プリプレグ。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂組成物の構成成分[B]100重量%中、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が50〜100重量%含まれる請求項1〜3の何れかに記載の釣竿穂先用プリプレグ。
【請求項5】
前記マトリックス樹脂の貯蔵弾性率が、測定周波数0.5Hz、25℃において10000〜200000Pa、40℃において1000〜20000Paの範囲内にあり、その比が2〜30の範囲内にある請求項1〜4の何れかに記載の釣竿穂先用プリプレグ。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の釣竿穂先用プリプレグを硬化せしめて得られる釣竿穂先用繊維強化複合材料。
【請求項7】
請求項1〜5の何れかに記載の釣竿穂先用プリプレグを硬化せしめて得られる釣竿穂先用中実体。
【請求項8】
請求項1〜5の何れかに記載の釣竿穂先用プリプレグを硬化せしめて得られる釣竿穂先用管状体。
【請求項9】
請求項1〜5の何れかに記載の釣竿穂先用プリプレグを硬化せしめて得られる釣竿穂先。

【公開番号】特開2010−57462(P2010−57462A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229429(P2008−229429)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】