説明

鉄筋コンクリート構造物のひび割れを低減する工法

【課題】RC構造物の施工において、基礎部と立ち上り部の打継面の近傍にクーリングパイプを設置し、クーリングパイプに空気あるいは液体を通過させて、立ち上り部の打継面近傍のコンクリート温度を制御し、ひび割れの発生を抑制させる。
【解決手段】一般に、RC構造物の立ち上り部のコンクリートに発生する引張応力は、三次元温度応力解析の結果から、打継面の近傍の範囲が最も大きくなる。立ち上り部の打継面の近傍の範囲におけるコンクリートの水和反応による温度上昇を低くすると、引張応力の上昇が抑えられる解析の結果となる。立ち上り部の打継目の近傍の範囲でクーリングパイプを数本設置して、クーリングパイプに空気あるいは液体を通過させてクーリングパイプ周辺のコンクリート温度上昇を抑えて、下部拘束のあるRC構造物の温度応力によるひび割れの発生を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート打設後の硬化に伴うコンクリート温度上昇によって生じる温度応力が原因となるひび割れを抑制する技術である。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート(以下「RC」という)構造物の施工に際しては、コンクリートを打設すると水和反応がおこり、コンクリートが硬化を始めるが、その時にコンクリート温度が上昇する。
【0003】
RC構造物における構造の中で、基礎部(一般に「ベース部」、「フーチング部」とも言う)とその上に繋がる立ち上り部とに分かれる構造において、基礎部コンクリート打設完了後に立ち上り部の支保工組立(無い場合もある)、足場工組立、鉄筋組立、型枠組立の後、コンクリートを打設する施工手順となる。
【0004】
RC構造物の基礎部が先行施工となるため、基礎部のコンクリート打設後養生期間を終えると型枠を取り外し、立ち上り部の施工となる。基礎部はコンクリートの硬化が進み、コンクリートの圧縮強度が大きくなり、立ち上り部にとって下部が拘束された状態となる。
【0005】
RC構造物の立ち上り部は、コンクリート打設完了後の水和反応によってコンクリートの温度が上昇するが、外気温との差があるので、温度上昇のピークを迎えた後は、外気温に等しくなるようにコンクリートの温度が降下を始める。
【0006】
RC構造物の立ち上り部のコンクリート温度が降下を始めると、温度によって膨張していたコンクリートが縮まろうとするが、基礎部が下部拘束となって、縮まることができないので、基礎部と立ち上り部の打継面付近で、立ち上り部のコンクリートに引張応力が発生し、立ち上り部にひび割れが発生する。
【0007】
これまで、RC構造物の基礎部と立ち上り部の打継面の近傍におけるコンクリートの温度を制御する技術は無かった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】 「報告 PC鋼線用シースを利用した空気によるパイプクーリング工法」 コンクリート工学年次論文報告集 Vol.17,No.1 1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上に述べたRC構造物の基礎部と立ち上り部の打継面の近傍におけるコンクリートの温度を制御する技術は無かった。
【0010】
本発明は、RC構造物の基礎部と立ち上り部の打継面の近傍におけるコンクリートの温度を制御することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
RC構造物の立ち上り部のコンクリートに発生する引張応力は、三次元温度応力解析の結果から、打継面の近傍の範囲が最も大きくなる。
【0012】
RC構造物の立ち上り部で、打継面の近傍の範囲におけるコンクリートの水和反応による温度上昇を低くすると、コンクリートに発生する引張応力の上昇が抑えられ、温度応力によるひび割れを抑制できることに着目し、立ち上り部の打継目からその近傍にクーリングパイプを数本設置して、クーリングパイプに空気あるいは液体を通過させてクーリングパイプ周辺のコンクリート温度上昇を抑えることを目的とする。
【発明の効果】
【0013】
上記に示したように、RC構造物の立ち上り部で、基礎部と立ち上り部の打継目からその近傍にクーリングパイプを数本設置して、クーリングパイプに空気あるいは液体を通過させてクーリングパイプ周囲のコンクリート温度の上昇を抑えて、コンクリートに発生する引張応力を低減し、温度応力によるひび割れの発生を抑制する。
【0014】
発明者による三次元温度応力解析では、80cm四方の正方形断面で、延長180cmのコンクリート構造体の正方形断面中心に、8cmのクーリングパイプを設置して、その中に0m/s(風を通過させない場合)と2m/s(風を通過させた場合)の風を送風した時、風速0m/sに対して風速2m/sでは、クーリングパイプ周囲のコンクリート温度は、約10℃程度低くなり、コンクリート温度の上昇を抑制できる結果を得た。
【0015】
クーリングパイプの径、本数、設置位置は、RC構造物の大きさにより、適切な径、本数、設置位置を決定するが、基礎部と立ち上り部の打継面の近傍に限定される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】 本発明の実施状態を示すRC構造物内を透視した鳥瞰図
【図2】 RC構造物を縦断方向に見た縦断図
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1のRC構造物のボックスカルバートの場合では、基礎部1は、立ち上り部2に先行してコンクリートを打設する。
【0018】
基礎部1のコンクリート養生後、立ち上り部2を施工するが、施工手順は支保工組立(無い場合もある)、足場工組立、鉄筋組立となる。その鉄筋組立時に、立ち上り部2の壁厚方向内にクーリングパイプを数本設置して、組立てた鉄筋を利用してコンクリートを打設するときに動かないように固定する。
【0019】
立ち上り部2の鉄筋組み立て完了後、型枠を取り付けるが、型枠の両端部に孔をあけクーリングパイプが出るようにする。
【0020】
図2の立ち上り部2にコンクリートを打設した後、設置したクーリングパイプに空気あるいは液体を通過させて、クーリングパイプ周囲のコンクリートに対して水和反応による温度上昇を低く抑える。
【0021】
クーリングパイプに空気あるいは液体を通過させる期間は、三次元温度応力解析により、その期間を算定する。
【0022】
クーリングパイプに空気あるいは液体を通過させる期間が終了し、RC構造物の完成後に、クーリングパイプ内には、打設したコンクリートの圧縮強度と同等以上の圧縮強度を持つグラウトあるいはモルタルを隙間なく充填して、クーリングパイプ内に空洞が残らないようにする。
【実施例】
【0023】
RC構造物であるボックスカルバート(内空高さ5.2m、幅5.6m)の基礎部(厚さ100cm)と立ち上り部(厚さ90cm)の打継目の近傍に、コンクリート温度を低下させるためにクーリングパイプを4本設置した。クーリングパイプを設置し送風した場合と何もしない場合では、三次元温度応力解析をした結果、ひび割れ指数(コンクリートに発生する引張応力に対する引張強度の比)で、0.2以上の差があった。また、ひび割れ発生確率は、何もしない場合で80%、クーリングパイプを設置し送風した場合で45%となり、ひび割れ発生確率を低減することができ、ひび割れの発生を抑制する効果があった。試験的に部分施工し、ひび割れの状況を調査した結果、ひび割れの発生が抑制されていることを確認できた。
【符号の説明】
【0024】
1 基礎部
2 立ち上り部
3 打継面
4 クーリングパイプ
5 空気あるいは液体を通す方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物の施工において、基礎部と立ち上り部の打継面近傍の立ち上り部に、コンクイリートを打設する前にクーリングパイプを数本設置することにより、クーリングパイプに空気あるいは液体を通過させて、クーリングパイプ周囲のコンクリート温度の上昇を抑えて発生する引張応力を制御して、下部拘束があるRC構造物の温度応力によるひび割れの発生を押さえることを特徴とする鉄筋コンクリート構造物のひび割れを低減する工法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−92633(P2012−92633A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254234(P2010−254234)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(395022340)坂田建設株式会社 (3)
【Fターム(参考)】