説明

鉄骨梁接合構造

【課題】小梁のスパンが長い場合においても、小梁の自重及び床スラブ重量により、H形鋼の大梁にねじれ変形を発生させない。
【解決手段】鉄骨梁接合構造10は、H形鋼の小梁12と、H形鋼の大梁14を接合する接合構造である。小梁12は大梁14の間に架け渡され、両端部が大梁14と接合されている。小梁12の両端部には接合用の挿入部28が取り付けられている。挿入部28はH形鋼で形成され、挿入部28の長さL1は、大梁14のフランジ14Fの幅と同じ寸法とされている。挿入部28の端部は、小梁12の端面に固定された端部材30に接合されている。挿入部28のフランジを延長させた位置には、延長材32が設けられている。大梁14は、柱間に架け渡され、大梁14のウェブ14Wには小梁12の挿入部28が挿入される開口部18が設けられている。開口部18の周囲には、開口部18を補強する補強部材20が接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨梁接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄骨造建物の床組みは、H形鋼の大梁と、大梁と直交する方向に架け渡されたH形鋼の小梁で構成され、大梁と小梁の接合部は、大梁のウェブに接合用のプレートを取り付け、プレートを利用して、大梁と小梁を高力ボルト摩擦接合や溶接接合で接合していた。
【0003】
この接合方法では、質量の大きな部材同士の高所での接合作業となるため、作業性が悪く、簡易迅速な接合作業ができないという問題がある。更に、H形鋼の大梁は、ねじれ剛性が小さいので、小梁のスパンが長い場合には、小梁の自重及び床スラブ重量により、大梁にねじれ変形が発生するという問題がある。
そこで、H形鋼の大梁と小梁を、簡易迅速に接合する鉄骨梁接合構造が提案されている(特許文献1)。
【0004】
図6に示すように、特許文献1の鉄骨梁接合構造は、H形鋼の梁(大梁)81のウェブの側面に、小梁受け83を、ウェブの側面から突出させて設けている。小梁受け83は、下部に小梁82を受ける底板85を有し、両側面に小梁82を挟む側板84が設けられ、上部は開放されている。底板85は、先端が梁81のフランジ86、87の先端よりも外方に突き出す長さで形成され、突き出された部分が小梁82の受け部とされている。
これにより、小梁82を小梁受け83で支持した状態で、大梁81と小梁82を固定することができる。
【0005】
しかし、特許文献1の鉄骨梁接合構造は、小梁82を大梁81のウェブの側面に取り付けており、大梁81には偏心モーメントが作用する。このため、小梁のスパンが長い場合には、小梁の自重及び床スラブ重量による偏心モーメントが大きくなり、梁81にねじれ変形が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−356913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事実に鑑み、小梁のスパンが長い場合においても、小梁の自重及び床スラブ重量によりH形鋼の大梁にねじれ変形が発生しない、鉄骨梁接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明に係る鉄骨梁接合構造は、小梁と、柱間に架け渡され、ウェブに設けられた開口部に挿入された前記小梁の両端部を支持するH形鋼の大梁と、を有することを特徴としている。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、H形鋼の大梁のウェブに開口部が設けられ、開口部には、小梁の両端部が挿入されている。
これにより、小梁の鉛直荷重がH形鋼の大梁の鉛直方向の中心線上(ウェブの軸上)に作用し、大梁には、小梁の自重及び床スラブ重量による偏心モーメントが作用しない。即ち、H形鋼の大梁にはねじれ変形が発生しない。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の鉄骨梁接合構造において、前記開口部の周囲には、前記ウェブを補強する補強部材が設けられていることを特徴としている。
請求項2に記載の発明によれば、補強部材により、H形鋼の梁のウェブに設けられた開口部が補強されている。これにより、梁の強度を落とさずに、梁と小梁を接合できる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の鉄骨梁接合構造において、前記補強部材は、井桁状に前記開口部の周囲に設けられたスチフナーであることを特徴としている。
請求項3に記載の発明によれば、スチフナーにより、井桁状に開口部が補強されている。井桁状にスチフナーを配置することにより、少ない補強部材で、効率的に開口部を補強できる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の鉄骨梁接合構造において、前記小梁は、前記梁のウェブの側面に前記小梁の端部を接合したとき、前記小梁の自重及び床スラブの重量により、前記大梁に許容限度以上のねじれ変形を生じさせる長さであることを特徴としている。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、小梁が、大梁のウェブの側面に小梁の両端部を接合したとき、小梁の自重及び床スラブの重量により、大梁に許容限度以上のねじれ変形を生じさせる長さとされている。
即ち、従来、小梁の自重及び床スラブの重量により、H形鋼の大梁に大きな偏心モーメントを生じさせ、大梁にねじれを発生させていたスパンの長い小梁(長大スパン梁)であっても、偏心モーメントが生じないため、大梁にねじれ変形を発生させない。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記構成としてあるので、小梁のスパンが長い場合においても、小梁の自重及び床スラブ重量により、H形鋼の大梁にねじれ変形が発生しない鉄骨梁接合構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る鉄骨梁接合構造の基本構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る鉄骨梁接合構造の基本構成を示す平面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る鉄骨梁接合構造の基本構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る鉄骨梁接合構造の接合部の部分断面図である。
【図5】従来例の鉄骨梁接合構造の接合部を示す側面図である。
【図6】従来例の鉄骨梁接合構造の基本構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1の斜視図、及び図2の平面図に示すように、実施の形態に係る鉄骨梁接合構造10は、H形鋼の小梁12と、H形鋼の大梁14とを接合する接合構造である。
【0017】
小梁12は、大梁14の間に架け渡され、両端部が大梁14と接合されている。小梁12の両端部には、接合用の挿入部28が取り付けられている。挿入部28はH形鋼で形成され、端部からの突き出し長さL1は、大梁14のフランジ14Fの幅と同じ寸法とされている。
【0018】
挿入部28の一方の端部は、小梁12の端面に固定され、小梁12の端面を塞ぐ端部材30に溶接接合されている。端部材30の小梁12側には、補強用の延長材32が接合されている。延長材32は、挿入部28のフランジを延長させた位置に設けられ、側面が小梁12のウェブに溶接接合されている。
【0019】
大梁14は、柱16間に架け渡され、大梁14のウェブ14Wには小梁12の挿入部28が挿入される開口部18が設けられている。開口部18は矩形状に開口され、開口部18の周囲には、ウェブ14Wを補強する補強部材20が溶接接合されている。
【0020】
補強部材20は、図3の斜視図に示すように、スチフナーで開口部18の周囲を井桁状に囲む構成である。補強部材20は、ウェブ14Wの両側面に設けられ、補強部材20の奥行きD1は、大梁14のフランジ14Fの幅W1と同じ寸法とされている。
【0021】
補強部材20は、複数の部材で構成されている。補強部材20を構成する縦材22R、22Lは鋼板製とされ、奥行きD1で縦方向にウェブ14Wを貫通し、開口部18の両側面に溶接接合されている。縦材22R、22Lの上下端面は、上下フランジ14Fとそれぞれ連結されている。
【0022】
縦材22Rと縦材22Lの間には、同じく鋼板製の横材24D、24Uが、横方向に渡され、横材24D、24Uの両端面は、縦材22R、22Lの側面と溶接接合されている。縦材22R、22L、及び横材24D、24Uで囲まれた空間が開口部18とされる。このとき、開口部18の開口面積は、挿入される小梁12の挿入部28より一回り大きい寸法とされている。
【0023】
横材24D、24Uの両端部には、縦材22R、22Lを挟んで外方に、延長材46が接合されている。延長材46は、横材24D、24Uと並行に、同じ高さで設けられ、開口部18を補強する。また、下側の横材24Dと下フランジ14Fの間には、横材24Dを支持する鋼板製の支持材26が溶接接合されている。
このように、開口部18の周囲に、井桁状にスチフナーを配置することにより、少ない補強部材で効率的に開口部18を補強することができる。即ち、大梁14としての長期性能はもとより、地震時においても、適正な性能を発揮することができる。
【0024】
図4に接合部の接合構造を示す。図4(A)は図4(B)のA−A線断面図であり、図4(B)は、接合部の断面図である。
【0025】
大梁14の開口部18に小梁12の挿入部28が挿入され、下側の横材24Dと挿入部28の下フランジが、ボルト接合(高力ボルト接合)48されている。これにより、小梁12の荷重鉛直Q1を、挿入部28を介して、大梁14に伝達できる。このとき、鉛直荷重Q1は、大梁14のウェブ14Wの中心線40上(ウェブの軸上)に印加される。
【0026】
また、開口部18は、挿入部28の外形寸法より一回り大きい寸法で開口されており、小梁12を斜めから差し込むことが可能とされている。一方を差し込んだ状態でスライドさせ、もう一方を斜めに差し込めば、大梁14間に小梁12を架け渡すことができる。
【0027】
なお、本発明では、小梁12の長さが、仮に、大梁14のウェブの側面に小梁12の端部を接合したと仮定したとき、小梁12の自重及び図示しない床スラブの重量により、大梁14に許容限度以上のねじれ変形を生じさせる長さであってもよい。
【0028】
即ち、図5に示すように、従来の接合構造では、H形鋼の大梁38の側面に、ガセットプレート50を取り付け、ガセットプレート50に小梁36をボルト接合52する構成である。このため、大梁38のウェブ38Wの中心線40と、小梁36の鉛直荷重Q2の作用位置(小梁36とガセットプレート50のボルト接合52位置)が距離eだけ離れてしまう。
【0029】
この偏心量eにより、小梁36の自重及び床スラブの重量により、大梁38に大きな偏心モーメントM(M=Q×e)が生じる。偏心モーメントMは、小梁36が長い場合には大きな値となる。H形鋼はねじり剛性が小さいため、この偏心モーメントMが大梁38にねじれ変形を発生させる。
【0030】
一方、本実施の形態では、図4を用いて上述したように、小梁12の鉛直荷重Q1の作用位置が、大梁14のウェブの中心線40と一致している。このため、大梁14に、スパンの長い小梁12が架け渡されても、偏心モーメントMは発生しない(M=0)。この結果、H形鋼のねじり剛性が小さくても、大梁14にねじれ変形が発生することはない。
【0031】
この結果、小梁12のスパンL2が長い場合(長大スパン梁)においても、小梁12の自重及び床スラブ重量により、H形鋼の大梁14にねじれ変形が発生しない鉄骨梁接合構造を提供できる。
更に、大梁14のねじれ変形を防止するのみでなく、小梁12の鉛直荷重Q1を、大梁14に確実に伝達できる。
【符号の説明】
【0032】
10 鉄骨梁接合構造
12 小梁
14 大梁
16 柱
18 開口部
20 補強部材
22 縦材(補強部材、スチフナー)
24 横材(補強部材、スチフナー)
26 支持材(補強部材、スチフナー)
46 延長材(補強部材、スチフナー)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小梁と、
柱間に架け渡され、ウェブに設けられた開口部に挿入された前記小梁の両端部を支持するH形鋼の大梁と、
を有する鉄骨梁接合構造。
【請求項2】
前記開口部の周囲には、前記ウェブを補強する補強部材が設けられている請求項1に記載の鉄骨梁接合構造。
【請求項3】
前記補強部材は、井桁状に前記開口部の周囲に設けられたスチフナーである請求項2に記載の鉄骨梁接合構造。
【請求項4】
前記小梁は、前記梁のウェブの側面に前記小梁の端部を接合したとき、前記小梁の自重及び床スラブの重量により、前記大梁に許容限度以上のねじれ変形を生じさせる長さである請求項1〜3のいずれか1項に記載の鉄骨梁接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−57419(P2012−57419A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203636(P2010−203636)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】