説明

鋼管柱の上下鋼管接合構造およびその接合方法

【課題】 上下の鋼管柱を無溶接で短時間に、かつ堅固に接合でき、作業工数も少なくて済む鋼管柱の上下鋼管接合構造を提供する。
【解決手段】 上側の鋼管柱1の下端と、下側の鋼管柱2の上端とを、加熱および圧縮による増肉加工で管壁を増肉させた厚肉部1a,2aとする。これら厚肉部1a,2aの外周面に雄ねじ部1b,2bを形成する。ねじ筒3を、上下の鋼管柱1,2の雄ねじ部1b,2bに渡って螺合させる。各鋼管柱1,2の厚肉部1a,2aには、その内周に、増肉加工によって締まり嵌め状態に固定された補強筒4を設けても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ビル、集合住宅、工場等の建築物の鉄骨架構となる上下の丸形鋼管柱を無溶接で接合する鋼管柱の上下鋼管接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上下の丸形鋼管柱を相互に接合する場合に、一般的には上下の鋼管柱の端部同士を突き合わせ溶接している。しかし、現場溶接するのでは、作業環境が悪く天候に左右されるばかりか、接合の仕上がりも溶接作業者の技量に依存する度合いが高くて品質が不安定となり、溶接後の検査に労力をかけるなど多大な問題点がある。
このため、連結板を添えてボルト接合する継手も各種提案されているが、堅固な接合を行うことが難しい。すなわち、ボルト接合とすると、多数のボルト挿通孔が鋼管柱に明けられるため、鋼管柱の管壁の断面積がボルト孔分だけ小さくなり、いわゆるボルト孔欠損が生じ、この部分の強度が他の部分よりも低くなる。
【0003】
このような問題を解消するものとして、連結板を添えてボルト接合する継手において、互いに接合される上側の鋼管柱の下端と、下側の鋼管柱の上端とを、加熱および圧縮により増肉加工した厚肉部とし、ボルト孔の断面欠損を補うものが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−60747号公報法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の増肉加工し、連結板を添えてボルト接合する継手では、多数本のボルトを締め付ける作業が必要であり、ボルト締め作業に手間と時間がかかるという問題点がある。
【0006】
この発明の目的は、上下の鋼管柱を無溶接で短時間に、かつ堅固に接合でき、作業工数も少なくて済む鋼管柱の上下鋼管接合構造を提供することである。
この発明の他の目的は、この鋼管柱の上下鋼管接合構造において、接続作業のより一層の容易化が図れる接続方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の鋼管柱の上下鋼管接合構造は、互いに接合される上下の丸形の鋼管柱につき、上側の鋼管柱の下端と、下側の鋼管柱の上端とを、加熱および圧縮による増肉加工で管壁を増肉させた厚肉部とし、これら上下の鋼管柱の前記厚肉部の外周面に雄ねじ部を形成し、内周面が雌ねじ部とされて前記上下の鋼管柱の雄ねじ部に渡って螺合したねじ筒を設けたことを特徴とする。
【0008】
この構成によると、一つのねじ筒で上下の鋼管柱を接合するため、無溶接で接合でき、かつ従来の多数本のボルトを用いて連結板と共にボルト接合する構成に比べて、作業工数が削減され、迅速に接合することができる。上下の鋼管柱の互いに接続する端部は、増肉加工による厚肉部としてあるため、外周の雄ねじ部のねじ溝加工による強度低下が補え、また強度の要求される端部の強度が確保できて、堅固に接合することができる。
【0009】
この発明において、前記厚肉部は、前記増肉加工により少なくとも内周側に膨らんで管壁が厚くなった部分であり、前記上下の鋼管柱の前記厚肉部の内周に、この厚肉部の増肉加工による管壁の内周側への膨らみによって締り嵌め状態に固定された補強管を設けても良い。
補強管を設けた場合、補強管で強度が増大するため、同じ強度を得るにつき、厚肉部の増肉加工の増肉率が低くて済む。補強管は鋼管の切断材で済むため、増肉加工の増肉率を増やす場合に比べて低コストで済む。補強管は、増肉加工に伴って締まり嵌め状態に固定されるため、他の固定作業が不要で、このことからも加工コストが安価にできる。
【0010】
この発明の鋼管柱の上下鋼管接合方法は、この発明の上記いずれかの構成の鋼管柱の上下鋼管接合構造の接合方法であって、前記ねじ筒を上下いずれかの鋼管柱の雄ねじ部に、端面から突出しないかまたは殆ど突出しない位置までねじ込み、上下の鋼管柱の端面を略突き合わせ状態に配置した後に、前記ねじ筒をねじ戻して上下両方の鋼管柱の雄ねじ部に渡って螺合させることを特徴とする。このような方法でねじ込むことにより、鋼管柱を回転させることなく、ねじ筒を回転させるだけで接続作業が行え、接続作業が簡単に、かつ迅速に行える。
【発明の効果】
【0011】
この発明の鋼管柱の上下鋼管接合構造は、互いに接合される上下の丸形の鋼管柱につき、上側の鋼管柱の下端と、下側の鋼管柱の上端とを、加熱および圧縮による増肉加工で管壁を増肉させた厚肉部とし、これら上下の鋼管柱の前記厚肉部の外周面に雄ねじ部を形成し、内周面が雌ねじ部とされて前記上下の鋼管柱の雄ねじ部に渡って螺合したねじ筒を設けたため、上下の鋼管柱を無溶接で短時間に、かつ堅固に接合でき、作業工数も少なくて済むという効果が得られる。
【0012】
この発明の鋼管柱の上下鋼管接合方法は、前記ねじ筒を上下いずれかの鋼管柱の雄ねじ部に、端面から突出しないかまたは殆ど突出しない位置までねじ込み、上下の鋼管柱の端面を略突き合わせ状態に配置した後に、前記ねじ筒をねじ戻して上下両方の鋼管柱の雄ねじ部に渡って螺合させる方法であるため、鋼管柱を回転させることなく、ねじ筒を回転させるだけで接続作業が行え、接続作業が簡単に、かつ迅速に行える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る鋼管柱の上下鋼管接合構造を示す断面図である。
【図2】その分解状態の一部破断正面図である。
【図3】同鋼管柱の上下鋼管接合構造の接続方法を示す説明図である。
【図4】同鋼管柱の上下鋼管接合構造におけるねじ筒の変形例の断面図および平面図である。
【図5】この発明の他の実施形態に係る鋼管柱の上下鋼管接合構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図3と共に説明する。この鋼管柱の上下鋼管接合構造は、互いに接合される上下の丸形の鋼管柱1,2につき、上側の鋼管柱1の下端と、下側の鋼管柱2の上端とを、増肉加工で管壁を増肉させた厚肉部1a,2aとし、これら上下の鋼管柱1,2の厚肉部1a,2aの外周面に雄ねじ部1b,2bを形成し、上下の鋼管柱1,2の雄ねじ部1b,2bに渡ってねじ筒3を螺合させたものである。ねじ筒3は鋼管等からなり、内周面の全体が雌ねじ部3aとされている。上下の鋼管柱1,2の厚肉部1a,2aの内周には、補強管4が、厚肉部1a,2a増肉加工による管壁の内周側への膨らみによって締り嵌め状態に固定してある。
【0015】
鋼管柱1,2の厚肉部1a,2aは、加熱および圧縮による増肉加工を行った部分である。この増肉加工は、素材となる鋼管に、両端から圧縮力を与えた状態で、素材鋼管に対して加熱コイルおよび冷却液吐出ノズルを軸方向移動させながら、長さ方向の一部ずつ、高周波誘導加熱で加熱し、かつこの加熱で柔らかくなって圧縮力より管壁が増肉された部分を冷却液で冷却する加工である。管壁の増肉は、素材鋼管の内外両面への増肉、内面側だけへの増肉、外面側だけへの増肉のいずれでも可能であるが、この実施形態では内外両面への増肉としている。補強管4は、別の素材鋼管の切断体等からなり、この補強管4を入れた状態で前記増肉加工を行うことにより、厚肉部1a,2aの増肉加工による管壁の内周側への膨らみによって締り嵌め状態に固定される。鋼管柱1,2の雄ねじ部1b,2bは、厚肉部1a,2aにねじ切り加工を行って形成する。
【0016】
鋼管柱1,2の雄ねじ部1b,2bおよびねじ筒3の雌ねじ部3aのねじ溝形状の種類は、図では三角ねじとしてあるが、台形ねじあっても、また矩形ねじであっても良い。各雄ねじ部1b,2bおよび雌ねじ部3aのねじ方向は、この実施形態では順ねじとしてある。
【0017】
上下の鋼管柱1,2の雄ねじ部1b,2bは、例えば図5に示すように、互いに逆ねじとしても良い。その場合、ねじ筒3の雌ねじ部3aの上側部分3aaと下側部分3abとを、鋼管柱1,2の雄ねじ部1b,2bに合わせて互いに逆ねじとする。
【0018】
接続作業に際しては、例えば図3に示すように、ねじ筒3の全体を、上下いずれかの鋼管柱1,2の雄ねじ部1b,2bに対して、端面から突出しないか殆ど突出しない位置までねじ込んでおく。ここで言う「殆ど突出しない位置」は、例えば、ねじ溝の1周未満まで突出量となる位置である。
この状態で、上下の鋼管柱1,2を互いに突き合わせ状態または略突き合わせ状態になる位置に配置し、ねじ筒3をねじ戻すことで、ねじ筒3を上下の鋼管柱1,2の雄ねじ部1b,2bに渡って螺合させる。このように接続を行うことで、鋼管柱1,2を回転させることなく、小部品であるねじ筒3を回転させるだけで接続が行える。なお、ねじ筒3の雌ねじ部3aと、後で螺合させる雄ねじ部1a(または2a)とのねじ溝の螺旋形状の位相合わせのために、ねじ筒3のねじ戻し時に、例えば上側の鋼管柱1aを多少は上下に移動できるように支持しておくことが好ましい。
【0019】
この構成の鋼管柱の上下鋼管接合構造によると、一つのねじ筒3で上下の鋼管柱1,2を接合するため、無溶接で接合でき、かつ従来の多数本のボルトを用いて連結板と共にボルト接合する構成に比べて、作業工数が削減され、迅速に接合することができる。上下の鋼管柱1,2の互いに接続する端部は、増肉加工による厚肉部1a,2aとしてあるため、外周の雄ねじ部1b,2bのねじ溝加工による強度低下が補え、また強度の要求される端部の強度が確保できて、堅固に接合することができる。
上記の補強管4を設けた場合は、補強管4で剛性等の強度が増大するため、同じ強度を得るにつき、厚肉部1a,2aの増肉加工の増肉率が低くて済む。補強管4は鋼管の切断体で済むため、増肉加工の増肉率を増やす場合に比べて低コストで済む。補強管4は、増肉加工による増肉によって鋼管柱1,2締まり嵌め状態に固定されるため、他の固定作業が不要で、このことからも加工コストが安価にできる。
【0020】
なお、上記実施形態はいずれも順ねじとしたが、図5に示すように、上下の鋼管柱1,2の雄ねじ部1b,2bを互いに逆ねじとしても良い。その場合は、ねじ筒3のねじ込みに従って、上下の鋼管柱1,2を互いに引き寄せることになる。
【0021】
また、上記各実施形態は、いずれも、ねじ筒3をねじ溝が切られただけの円筒形状としたが、例えば図4に示すように、ねじ筒3の長さ方向の一部の外周、例えば中央部の外周に、環状突条を3bを設け、環状突条を3bの外周面の形状を多角形状としても良い。
その場合、ねじ筒3を回転させるときに、環状突条3bの平面部に締め付け用の工具を係合させることができて、回転の滑りが生じず、ねじ筒3の回転による締め付け作業が行い易い。ねじ筒3は、環状突条3bの外周面を多角形とする代わりに、環状突条3bを外周の一部の平面部分を持つ円形状としても良く、またこのような環状突条3bを設けることなく、ねじ筒3の外周面の一箇所または周方向複数箇所に平面部(図示せず)を設けても良い。その場合も、平面部に工具を当てることで、工具の滑りを防止し、ねじ筒3の締め付けを行うことができる。
【符号の説明】
【0022】
1,2…鋼管柱
1a,2a…厚肉部
1b,2b…雄ねじ部
3…ねじ筒
3a…雌ねじ部
4…補強管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接合される上下の丸形の鋼管柱につき、上側の鋼管柱の下端と、下側の鋼管柱の上端とを、加熱および圧縮による増肉加工で管壁を増肉させた厚肉部とし、これら上下の鋼管柱の前記厚肉部の外周面に雄ねじ部を形成し、内周面が雌ねじ部とされて前記上下の鋼管柱の雄ねじ部に渡って螺合したねじ筒を設けた鋼管柱の上下鋼管接合構造。
【請求項2】
請求項1において、前記厚肉部は、前記増肉加工により少なくとも内周側に膨らんで管壁が厚くなった部分であり、前記上下の鋼管柱の前記厚肉部の内周に、この厚肉部の増肉加工による管壁の内周側への膨らみによって締り嵌め状態に固定された補強管を設けた鋼管柱の上下鋼管接合構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の鋼管柱の上下鋼管接合構造における接合方法であって、前記ねじ筒を上下いずれかの鋼管柱の雄ねじ部に、端面から突出しないかまたは殆ど突出しない位置までねじ込み、上下の鋼管柱の端面を略突き合わせ状態に配置した後に、前記ねじ筒をねじ戻して上下両方の鋼管柱の雄ねじ部に渡って螺合させることを特徴とする鋼管柱の上下鋼管接合方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−231561(P2011−231561A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104727(P2010−104727)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(510121488)
【出願人】(508007020)
【Fターム(参考)】