説明

防音壁

【課題】擁壁の前面及び擁壁上に形成され、簡便な作業工程により形成できる防音壁を提供する。
【解決手段】擁壁Yの前面4の、吸音パネル1を取り付けるアンカー5を用いて支柱3を取り付けることで、擁壁Yの上面に新たにアンカーを設ける必要がなく、簡便な作業工程によって擁壁Yの前面4及び擁壁Yの上端より上方に形成ができる。また吸音パネル1のアンカーを取り外して支柱3を取り付けることもでき、既設の防音壁においても容易に嵩上げを図ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音の発生源である道路や鉄道等からの騒音の吸音、遮音を目的として側縁近傍に設けられる防音壁に関し、特に道路や鉄道の高架橋梁や高架鉄道等に好適に使用される防音壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
擁壁より上方に嵩上げして防音壁を設ける場合については、道路長さ方向に伸びる嵌合溝を形成するように対向する一対の側板を備えたパネル保持部材を設置部基礎に擁壁上に埋設したアンカーで固定し、このパネル保持部材の嵌合溝に自立できる剛性を持つ吸音パネルの下端部を挿入した吸音壁が開示されている(例えば特許文献1)。
【0003】
また擁壁の前面に吸音性能を備えさせるについては、上横枠と下横枠にそれぞれ取付部を備えた吸音パネルの、取付部の取付孔にコンクリート壁面に植設されたアンカーボルトを通し、停めナットと締付けナットで固定して取り付けた吸音壁が開示されている(例えば特許文献2)。擁壁の前面及び擁壁上の双方に防音壁を設けるには、上記の特許文献1及び2を組み合わせたような防音壁が一般的に用いられてきている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−319823号公報
【特許文献2】特開2004−211336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の如き従来の防音壁では、擁壁の前面にアンカーボルトを埋設し、吸音パネルの取付部を用いてアンカーボルトにボルト・ナット等を用いて取り付け、更に擁壁の上面にアンカーボルトを埋設して支柱のベースプレートをボルト・ナット等を用いてアンカーボルトに取り付け、その上支柱に対して防音パネルを取り付けるという、極めて繁雑な作業工程が必要となるものであった。
【0006】
本発明は上記の如き課題に鑑みてなされたものであり、擁壁の前面及び擁壁上に形成され、簡便な作業工程により形成できる防音壁を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は以下のような構成としている。すなわち、本発明に係わる防音壁は、擁壁の前面に設けられたアンカーを用いて少なくとも吸音性を備えた吸音パネルが取り付けられると共に、該アンカーに取り付けられた支柱が前記擁壁の上端より上方に突設されて、該支柱に吸音性と遮音性とを備えた吸遮音パネルが取り付けられていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明に係わる防音壁によれば、擁壁の前面の、吸音パネルを取り付けるアンカーを用いて支柱を取り付けることで、擁壁の上面に新たにアンカーを設ける必要がなく、簡便な作業工程によって擁壁の前面及び擁壁の上端より上方に形成ができる。また吸音パネルのアンカーを取り外して支柱を取り付けることもでき、既設の防音壁においても容易に嵩上げを図ることが可能となる。
【0009】
また請求項1に記載の防音壁において、前記支柱は、前記吸音パネルの前面より前端が奧側になるように設けられていれば、支柱が目立たず外観を損ねることが少なくでき、また建築限界が厳密に設定されている場所においても適用することができ好ましい。
【0010】
また請求項1又は2に記載の防音壁において、支柱は地平と略垂直に立設された直立部と、直立部に対して騒音発生源側に傾斜された屈曲部とが備えられ、該直立部及び屈曲部に前記吸遮音パネルが取り付けられていれば、屈曲部により上方への騒音の伝播が抑制され、吸音効果を高めることができ好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係わる防音壁によれば、擁壁の前面の、吸音パネルを取り付けるアンカーを用いて支柱を取り付けることで、擁壁の上面に新たにアンカーを設ける必要がなく、簡便な作業工程によって擁壁の前面及び擁壁の上端より上方に形成ができる。また吸音パネルのアンカーを取り外して支柱を取り付けることもでき、既設の防音壁においても容易に嵩上げを図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係わる最良の実施の形態について、図面に基づき以下に具体的に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係わる防音壁の、実施の一形態を示す説明図である。鉄道線路Rの側縁にコンクリート製の擁壁Yが設けられ、擁壁の前面4には、取付金具11を用いて前面にパンチング孔が穿設されて吸音性を備えた吸音パネル1が縦四段に亘って取り付けられている。最上段の吸音パネル1を取り付けている取付金具4には、更に断面コ字状の支柱3が取り付けられている。支柱3は、擁壁Yの上端から更に上方に突設されており、鉄道線路Rと略垂直に立設された直立部31と、直立部31の上端から騒音の発生源である鉄道線路R側に直角に折り曲げられて形成された屈曲部32とを備え、直立部31と屈曲部32の各々に、吸音性と遮音性を兼ね備えた吸遮音パネル2A及び2Bが取り付けられている。
【0014】
図2は、図1のA−A断面を示す断面図であり、擁壁の前面4にアンカー5が埋設され、アンカー5のねじ部51が前面4から突出されている。吸音パネル1の両側端には、断面コ字状の側枠体12が設けられ、側枠体12の前面側にパンチング板13がリベット止め等により取り付けられ、パンチング板13の背後にグラスウール等からなる吸音材14が配置されることで吸音性を備えたものとなされている。尚、吸音材14の背面側は擁壁Yが位置していることから、背面には特に板体等は設けられていない。側枠体12の両側端には、L字状の取付金具11がリベット止め等により固着して取り付けられ、アンカー5を挟んで両側の吸音パネル1の取付金具11に、各々ねじ部51が挿通されると共に、ねじ部51に緩み止めのナットN1と締め付け用のナットN2が螺着されて吸音パネル1が擁壁の前面4に取り付けられるようになされているが、ナットN1及びN2の螺着の前に、更に断面コ字状の支柱3の、フランジ部31がねじ部51に挿通されることで、吸音パネル1を取り付けるアンカー5を用いて支柱3が取り付けられている。
【0015】
図3は、図1における吸遮音パネル2A及び2B全体を示す斜視図である。吸遮音パネル2は前面にパンチング孔が穿設され吸遮音性能を備えたパネル本体21と、パネル本体21の両側端にリベット止め等により固着して取り付けられた断面L字型の取付金具22とを備えたもので、取付金具22には、パネルの長手方向に長孔となされ、支柱3への取り付けを行うボルト孔23が穿設されている。取付金具22は、パネル本体21の上下方向の全体に連続して設けられ、支柱3への取り付け後に隙間が生じて遮音性が損なわれるのを防止している。
【0016】
図4は、図1におけるB−B断面で、吸遮音パネル2の支柱3への取り付け状態の詳細を示す断面図である。吸遮音パネル2Aのパネル本体21は、両側端に設けられた側枠体24と、側枠体24にはリベット止め等により固着された、前面のパンチング板25及び背面の背面板26が取り付けられ、パンチング板25と背面板26との間に配置された吸音材27とを備えたもので、パンチング板25と吸音材27とによって吸音性が具備され、背面板26により遮音性が具備されるようになされている。隣接する吸遮音パネル2Aの、取付金具22のボルト孔23が重ね合わされると共に、背面側から両方の取付金具22のボルト孔23に取付ボルトB1が挿通され、更に取付ボルトB1が支柱3のフランジ部31に挿通されて、緩み止めのナットN1と締め付け用のナットN2とが螺着されて、支柱3に吸遮音パネル2が取り付けられる。
【0017】
屈曲部32に取り付けられる吸遮音パネル2Bについても、上述の直立部31に取り付けられる吸遮音パネル2Aと同様に支柱3に対して取り付けられる。尚、吸遮音パネル2Aと吸遮音パネル2Bとの上下方向は、角部付近が突き合わせとされることで、その部分からの音漏れを防止するようになされている。
【0018】
吸音パネル1及び吸遮音パネル2については、特に限定されるものではなく擁壁の前面4や支柱3に取り付け可能であれば用いることができる。吸遮音パネル2については、支柱3及びアンカー5に重量的な負担を増加させるものであるから、遮音性能が確保できる範囲で軽量なものとするのが好ましく、側枠体24やその他の枠体、パンチング板25等、遮音性への影響の小さい部分について軽量なアルミニウムやその合金を用いて形成したものが好適である。
【0019】
支柱3についても、形成に用いる材料及び形状は特に限定されず、他に断面H型、断面T字型等の形状といった断面二次モーメントが高められた形状のものを好適に用いることができる。また材料については、アンカー5に重量的な負担を増加させるものであるから、アルミニウムやその合金を用いて形成したものを好適に用いることができる。また直立部31に対する屈曲部32の形状についても直角に限定されず、更に直立に近い角度や斜め45度程度としたり、屈曲部32全体若しくは一部に曲率(R)を持たせたものとしてもよい。
【0020】
尚、新設の防音壁の場合には、予め支柱3及び吸遮音パネル2の取り付けを見込んで大きい荷重に耐えうるアンカー5を埋設しておき、嵩上げが必要となった場合のみに支柱3及び吸遮音パネル2を取り付けるようにしてもよい。
【0021】
また、本発明に係わる防音壁は、擁壁Yの前面4に対して取り付けられた既設の防音壁に対しても適用が可能である。図5はその一例を示すもので、(a)は適用される防音壁を示す斜視図、(b)及び(c)は支柱の取り付けを示す断面図である。(a)において、図1に示した吸音パネル1と同様に、吸音パネル1が取付金具11を用いて擁壁Yの前面に取り付けられている。かかる防音壁において、設置当初は十分な防音性を備えていたものの、周囲の環境の変化により防音性が不足したり、設計時点で想定していた防音性が得られていなかったりする場合には、防音壁の嵩上げを行い防音性の向上を図る必要が生じてくる。
【0022】
かかる状況において、上述の実施形態に示した如く支柱3及び吸遮音パネル2による嵩上げを行うことができる。まず(b)において、吸音パネル1を固定する緩み止めのナットN1と締め付け用のナットN2とを工具を用いて取り外す。吸音パネル1は他方の取付金具11により固定されているが、前面側を押さえる等して固定しておくのが好ましい。次に(c)に示す如く、支柱3のフランジ部31に穿設されたボルト孔32をアンカー5のねじ部51に挿通させ、挿通後に再度ナットN1及びN2を螺着する。かかる方法によって、支柱3を極めて簡便に擁壁Yに取り付け、防音壁の嵩上げを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係わる防音壁の、実施の一形態を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1における吸遮音パネル全体を示す斜視図である。
【図4】図1のB−B断面図である。
【図5】本発明に係わる防音壁の、既設の防音壁に対する適用の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1 吸音パネル
2 吸遮音パネル
3 支柱
4 擁壁の前面
5 アンカー
10 防音壁
Y 擁壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
擁壁の前面に設けられたアンカーを用いて少なくとも吸音性を備えた吸音パネルが取り付けられると共に、該アンカーに取り付けられた支柱が前記擁壁の上端より上方に突設されて、該支柱に吸音性と遮音性とを備えた吸遮音パネルが取り付けられていることを特徴とする防音壁。
【請求項2】
前記支柱は、前記吸音パネルの前面より前端が奧側になるように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の防音壁。
【請求項3】
前記支柱は地平と略垂直に立設された直立部と、直立部に対して騒音発生源側に傾斜された屈曲部とが備えられ、該直立部及び屈曲部に前記吸遮音パネルが取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の防音壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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