説明

除雪機における動力伝達構造

【課題】小型除雪機は主幹道路までの生活道路の確保に主に使用され、左右に建造物等がある路地や作業距離が短い区間や排雪水路沿いなど作業場の条件により、雪の噴出距離を押さえる必要が頻繁に生じるので、この対応が容易に行なえ、且つ、エンジンの動力を有効に使用して作業が行なえる効率の良い除雪機を供給する。
【解決手段】エンジン10の出力軸11と除雪部4のファン伝動軸42間に、ファン43の回転を止めることなく変速可能な変速装置60を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除雪作業に使用する動力を備えた除雪機において、動力源より除雪部への動力伝達構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、除雪作業に使用する動力を備えた除雪機の動力伝達においては、走行部に動力源のエンジンを搭載し走行部の動力伝達経路を構成する一方、路上の雪を削砕し中央に掻き寄せるロータを横設し、ロータの後方中央部に雪を噴出するファンを配置し、且つ、雪の流路を形成するロータカバー及びシュートを配して構成する除雪部を前記走行部の前方に配置すると共に、エンジンと除雪部のファン伝動軸間を伝動具を介して連動連結する構造が一般的である。
【0003】
これ等の公知技術として
1)エンジンの出力軸を横向に搭載し、更にエンジンの前方にベベルケースとPTO軸を配したクローラ型走行部の前部に、ロータを横設しロータの後方にファンを配置し、且つ、流路を形成するロータカバー及びシュートを配して構成する除雪部を装着した歩行型除雪機において、その除雪部への動力伝達は、エンジンの出力軸とベベルケースの横軸をベルト伝動方式により連結すると共に、傘歯車の噛み合いを経てベベルケースより後方向に突出する縦軸とPTO軸をベルト伝動方式により連結し、更にPTO軸と除雪部の後方に突出するファン伝動軸を屈折伝動具を介して連動連結した構造がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
2)また、別の例として、エンジンの出力軸を前方縦向きに搭載したクローラ型走行部の前部に、ロータを横設しロータの後方にファンを配置し、且つ、流路を形成するロータカバー及びシュートを配して構成する除雪部を装着した歩行型除雪機において、その走行部への動力伝達は、エンジンの出力軸と円板を固着する回転軸をベルト伝動方式により連結し、T型摩擦板方式の無段変速と歯車による減速装置を経て駆動スプロケットへ動力伝達し、除雪部への動力伝達は、エンジンの出力軸と除雪部の後方に突出するファン伝動軸をベルト伝動方式により連動連結した構造がある(例えば、特許文献2参照)。
等が従来技術としてある。
【0005】
【特許文献1】実開平1−138915号公報
【特許文献2】特開平10−68108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の従来技術1)及び2)においては、いずれもエンジンより除雪部への動力伝達経路内に変速装置が織り込まれておらず、ファンの回転速度はエンジンの回転速度のみに比例する構造であり、左右に建造物等がある路地や排雪水路沿いなどの除雪作業で雪の噴出距離を押さえたい時には、シュート先端に設けたシュート調節体に噴出する雪を衝突させる方法のみであり、エンジンの動力を有効に使用されていない問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための技術的手段を説明する。
即ち、請求項1においては、動力源を備えた走行部の前方に、横設する回転ロータを有する除雪部を配置し、動力源と除雪部を伝動具を介して連動連結する除雪機において、動力源10と除雪部4のファン伝動軸42間を変速装置60を介して連動連結する事を手段として用いた。
【0008】
また、請求項2においては、路上の雪を削砕し中央に掻き寄せるロータを横設配置し、ロータの後方中央部に雪を噴出するファンを配置し、且つ、雪の流路を形成するロータカバーを配して構成する除雪部を、エンジンを備えた走行部の前方に配置した除雪機において、エンジン10の出力軸11と除雪部4のファン伝動軸42間に変速装置60を設けて連動連結する事を手段として用いた。
【0009】
また、請求項3においては、変速装置60は、ファン43の回転を止めることなく変速可能である事を手段として用い、請求項4においては、エンジン10の出力軸11と除雪部4のファン伝動軸42間の変速は、標準作業の時のファン43の回転速度より減速する方向である事を手段として用いた。
【発明の効果】
【0010】
本発明は以上のような構成にしたので、次のような効果が得られる。
即ち、請求項1記載のように、動力源と除雪部のファン伝動軸間を変速装置を介して連動連結する事により、左右に建造物等がある路地や作業距離が短い区間や排雪水路沿いの作業など作業場の条件により雪の噴出距離を押さえる必要が頻繁に起きるので、その対応が容易に行なえ、しかも、大きな動力を要するファンの回転速度を下げた余力で走行速度を速める等エンジンの動力を有効に使用し作業能率を高め、更に、エンジンの配置や変速の手段例えば油圧変速、ベルト変速、歯車変速等の選定及び配置が容易となる効果が得られる。
【0011】
また、請求項2記載のように、エンジンの出力軸と除雪部のファン伝動軸間に変速装置を設けて連動連結する事により、前記と同様、左右に建造物等がある路地や作業距離が短い区間や排雪水路沿いの作業など作業場の条件により雪の噴出距離を押さえる必要が頻繁に起きるので、その対応が容易に行なえ、しかも、大きな動力を要するファンの回転速度を下げた余力を走行速度を速める等、エンジンの動力を有効に使用し作業能率を高め、更に、動力の伝達経路を迂回することなく直接エンジンの出力軸と除雪部のファン伝動軸間に変速装置を配置するので、構造的に単純でコンパクトに纏められる効果が得られる。
【0012】
また、請求項3記載のように、変速装置が、ファンの回転を止めることなく変速可能である事により、作業場の条件により雪の噴出距離を押さえる時と遠方に噴出しなければならない時などが頻繁に発生する場合でも、ファンを常に回転させて対応するためシュートへの詰まりを防止し、更に、前記と同様、エンジンの動力を有効に使用し作業能率を高める効果が得られる。
【0013】
また、請求項4記載のように、エンジンの出力軸と除雪部のファン伝動軸間の変速は、標準作業時のファン軸の回転速度より減速する方向である事により、雪の噴出距離を押えて生じるエンジンの余力を走行速度を速めて使用し、積雪量の少ないときなどは、ロータの回転により雪を押す抵抗も低下するので車速を上げてもエンジンドロップしないため、雪を押しながらでも雪を処理でき除雪機をドーザ的な使用方法で除雪作業が行なえる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態を添付の図面を用いて説明する。
図1は本発明を織り込んだクローラ式歩行型除雪機の構成を示す平面図、図2は同じく全体側面図、図3は同じくA矢視全体図、図4は同じく要部右側面図、図5は同じくB矢視要部部分図である。
【0015】
まず、本発明を織り込んだクローラ式歩行型除雪機の全体の構成を図1、図2、図3を用いて説明する。
実施例の歩行型除雪機の全体の構成は、一対のクローラ3L・3Rを左右に配しエンジン10と連動連結するミッションケース12を有する走行部1を機体の中央に配置し、その走行部1の後部には各機能の操作体群6を配する操作盤50及びハンドル53で構成する操縦部5を配すると共に、走行部1の前方に、ロータ47を横設しその後方にファン43を配置し且つロータカバー48及びシュート49を配して構成する除雪部4をクローラ接地面に対し傾き及び高さを調節可能に装着し、エンジン10と除雪部4を変速装置60にて連動連結し構成している。
【0016】
走行部1は、前後に延設するフレーム体71の上部に出力軸11を前方突出方向にエンジン10を締結固定し、又、フレーム体71より左右に突出する操向クラッチ軸14L・14Rを有するミッションケース12をフレーム体71内包部に固定すると共に、出力軸11とミッションケース12間をテンションクラッチ方式の走行駆動ベルト18により連動連結し、前記操向クラッチ軸14L・14Rにクローラ3L・3Rが配するサイドケース35L・35Rを係合させる一方、フレーム体71後部に固着したハンドル取付体72に設けた後方に延出するシリンダー上取付体73と、サイドケース35L・35R後部を連結する連結体37に電動式昇降シリンダー29を架設し、昇降シリンダー29の伸縮に伴い、側面視において、クローラ接地面に対しフレーム体71が操向クラッチ軸14L・14Rを軸芯に回動し位置を決める構造である。
【0017】
また、操作部5は、各機能の操作体群6を、走行部1の後部上面に横設する操作盤50及び操作盤50の両側の一部に近接し後方に延出する左右部材53L・53Rを後端部において横部材53aと滑らかに連結し、平面視において、U字型を形成するハンドル53に配し構成したもので、実施例の操作盤50にはアクセル操作体56、変速操作体54、左右の操向操作体55L・55R、シュート操作体51、ファン変速操作体68、除雪部4の傾き調節スイッチ58及び高さ調節スイッチ体59を配すると共に、ハンドル53にはデッドマン方式の走行クラッチ操作体52及び除雪クラッチ操作体57を配している。
【0018】
除雪部4は、中央部に位置し後方に突出し前方に延設するファン伝動軸42に、ファンカバー48bの後端面に設けた複数の取付座48d・48d・・に締結固定したフランジ形状の軸受け体44を後部に配し軸支し、ファン43を中間部に固着し、先端部に左右に突出するオーガー伝動軸45bを有する減速ケース45と係合し、この減速ケース45をロータカバー48より下垂するケース取付体46で支持する構成であり、一方、ロータ伝動軸45bに左右のロータ47L・47Rを装着し、シュート49を配したファンカバー48bにロータカバー48を固着し回転部の雪の通路を形成すべく配置した構成である。
【0019】
また、除雪部4を走行部1に装着する構造は、軸受け体44の後面に接し外周で嵌合する除雪部取付体78を軸受け体44に回動可能に装着し、更に除雪部取付体78をフレーム体71に締結固定すると共に、除雪部取付体78に設けた右方に延出するアーム78bとファンカバー48bの後端外周に設けたU字金具48eを電動式回動シリンダー24により連結し、回動シリンダー24の伸縮により除雪部4をクローラ接地面に対する傾きの調節を行なう構造である。
【0020】
なお、本件を織り込んだエンジン10の出力軸11と除雪部4のファン伝動軸42間の動力伝達を、図4、図5を用いて詳細に説明する。
実施例の出力軸11とファン伝動軸42間の動力伝達構造は、ベルトテンションクラッチ方式で構成したファン伝動ベルト61及び低速伝動ベルト62の2つの伝動経路を配置し、その伝達経路の切換をファン43の回転を止めることなく行なえる切換装置7を操作系に設けた。
【0021】
即ち、動力伝達の構造は、出力軸11とファン伝動軸42にファン伝動ベルト61及び低速伝動ベルト62を並列に緩く巻掛ける一方、除雪部取付体78後部に後方に突出して設けたテンション支点軸65に、先端にローラを配したファンテンション63及び低速テンション64を左右方向に回動可能に装着し、戻しバネ69・69によりいずれもベルトより遠ざかる回動位置に配置し、ファン変速操作体68及び除雪クラッチ操作体57の操作により何れかのローラをベルトに押しつけ所定の回転をファン43に伝達する構造である。
【0022】
切換装置7を有する操作系の構造は、フレーム71の右側面に沿って立設したクランク取付板71bの外側に、面に沿って回動可能に軸支したクランク81L及び低速クランク81Rを配置し、クランク81Lの一端をフレーム71の右側面より突出したファンテンション63に固着するリンクアーム63cとロッド82Lにより長さ調節可能に連結し、クランク81Lの他端を操縦部5付近に配置した切換装置7の連結体84の所定位置で連結ロッド83Lにより揺動可能に連結し、同様に、低速クランク81Rの一端をフレーム71の右側面より突出した低速テンション64に固着する低速リンクアーム64cと低速ロッド82Rにより長さ調節可能に連結し、低速クランク81Rの他端を切換装置7の連結体84の所定位置で低速連結ロッド83Rにより揺動可能に連結する。
【0023】
次に、切換装置7の構造は、ハンドル取付体72に固着する切換支点座75に、片面に支点軸86bを横設し反対の面に2本のピン86c・86cを所定位置に横設したレバー取付体86の支点軸86bを回動可能に取付け、ピン86c・86cの右端にはファン変速操作体68を固着し、ファン変速操作体68の操作は操作盤50上に前後方向に設けた掛け溝50c(図1に示す)内を移動し前端又は後端で掛け溝50cと係合維持するよう構成し、一方、切換支点座75の後部に設けたロッド支え75cにはクラッチロッド85が前後に移動可能に嵌入され、先端部で連結体84を回動可能に所定の位置で係合し、後端は除雪クラッチ操作体57と連動する中間クランク88に掛けられたクラッチバネ87の一端を掛けて連結した構造である。
【0024】
切換装置7の動きを説明すると、ファン変速操作体68を前方に回動し掛け溝50cの前端で係合維持した状態(図4の状態)で除雪クラッチ操作体57を入りにすると、その動きによりクラッチロッド85が所定量後方に引かれ更に連結体84もクラッチロッド85の係合位置で同じ量だけ移動するが、レバー取付体86の上方のピン86cと連結体84が接当するため連結体84は回動し下方が大きく後方に動き、従って、連結ロッド83Lと連結するファンテンション63を回動させファン伝動ベルト61を入りにし、エンジン10の出力軸11よりファン伝動軸42へ動力伝達が行なえる。
【0025】
上記の状態よりファン変速操作体68を後方に回動し掛け溝50cの後端で係合するよう操作しても、レバー取付体86の下方のピン86cにより連結体84は押されて回動し上方が大きく後方に動き、従って、ファンテンション63は戻しバネ69により切りの位置となり、反対に、連結ロッド83Rと連結する低速テンション64を回動させ低速伝動ベルト62を入りにし、エンジン10の出力軸よりファン伝動軸42へ動力伝達の切換が速やかに行なえる。
【0026】
なお、実施例ではエンジン10の出力軸11と除雪部4のファン伝動軸42間を2経路のベルト伝動により変速を行なっているが、この間にベルト式無段変速装置を織り込んでも同様な効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
これ等の効果を織り込むことにより、作業場の条件及び積雪量の大小や雪質などにより雪の噴出距離を押さえなければ成らない時と遠方に噴出しなければならない時が頻繁に発生する除雪作業においては、エンジンの回転速度を下げて対応することは不経済であり、ファンの回転速度を変えて対応すれば、操作が容易でしかも機械が持つ能力を充分発揮できるので、特に動力的に余裕を持たない小型の除雪機に採用する可能性が大である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を織り込んだクローラ式歩行型除雪機の構造を示す平面図である。
【図2】同じく全体側面図である。
【図3】同じくA矢視全体図である。
【図4】同じく要部右側面図である。
【図5】同じくB矢視要部部分図である。
【符号の説明】
【0029】
1 走行部
4 除雪部
5 操縦部
6 操作体群
7 切換装置
18 走行伝動ベルト
48 ロータカバー
53 ハンドル
60 変速装置
61 ファン伝動ベルト
62 低速伝動ベルト
71 フレーム体
72 ハンドル取付体
A矢視 図の投影方向を示す
B矢視 図の投影方向を示す


【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源を備えた走行部の前方に、横設する回転ロータを有する除雪部を配置し、動力源と除雪部を伝動具を介して連動連結する除雪機において、動力源10と除雪部4のファン伝動軸42間を変速装置60を介して連動連結した事を特徴とする除雪機における動力伝達構造。
【請求項2】
路上の雪を削砕し中央に掻き寄せるロータを横設配置し、ロータの後方中央部に雪を噴出するファンを配置し、且つ、雪の流路を形成するロータカバーを配して構成する除雪部を、エンジンを備えた走行部の前方に配置した除雪機において、エンジン10の出力軸11と除雪部4のファン伝動軸42間に変速装置60を設けて連動連結した事を特徴とする除雪機における動力伝達構造。
【請求項3】
変速装置60は、ファン43の回転を止めることなく変速可能である事を特徴とする請求項1または請求項2記載の除雪機における動力伝達構造。
【請求項4】
エンジン10の出力軸11と除雪部4のファン伝動軸42間の変速は、標準作業の時のファン43の回転速度より減速する方向である事を特徴とする請求項1または請求項2記載の除雪機における動力伝達構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−249755(P2006−249755A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−66874(P2005−66874)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000005164)セイレイ工業株式会社 (125)
【Fターム(参考)】