説明

電力制御装置及び電力制御方法

【課題】イニシャルコストの削減が図れ、且つ回路内における接続負荷の設置個数を考慮する必要のない電力制御装置及び電力制御方法を提供すること。
【解決手段】加熱エリアE内に設置されるエリア内加熱用の複数の負荷40に対して適切な電力供給を行うため、調節計10で目標温度値とエリア内の温度値とから負荷40を駆動するための操作量を算出する。次に、点弧制御モジュール20において、算出した操作量から位相角調整用の点弧角制御信号を算出し、この点弧角制御信号に基づき交流電源の電圧波形を位相調整する。そして、電力調整モジュール30において、点弧制御された点弧制御電圧を予め設定されたゲインとなるようにディレイ調整された印加電圧で対をなす負荷40に電力供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一台の調節計で加熱エリア内に複数設置される負荷に対する適切な供給電力を個々に制御する電力制御装置及び電力制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体ウェハの製造工程におけるアニール処理を行うアニール炉や基板加熱用のリフロー炉のような被加熱物を加熱するための熱処理炉内では、加熱対象となる加熱エリア内の温度分布を均一に保つため、調節計で加熱エリア内の温度を確認しながらエリア内に設置される複数の負荷(各種ヒータやランプ等)にそれぞれ適切な電力を供給制御している。なお、このような複数の加熱エリアの温度制御を行う装置としては、例えば下記特許文献1に開示されるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−278940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1を含む一般的な熱処理炉における温度制御装置としては、熱処理炉内における加熱エリアに対して複数設置される負荷に供給する電力の検出信号と目標信号との差分に応じた点弧制御信号を出力する点弧制御モジュールと、点弧制御信号に基づきON時間を連続的に制御するスイッチング素子であるサイリスタと備えた電力制御ユニットを、設置される各負荷と一対一対応となるように設置し、一台の調節計から電力制御ユニットを制御することで、加熱エリア内の温度分布を均一に保っている。
【0005】
しかしながら、負荷の設置場所である加熱エリアが炉内に複数あるような場合では、各エリア内に設置された負荷と同数分の電力制御ユニットを設置する必要があり、イニシャルコストが嵩むという問題があった。
【0006】
また、交流電力の制御において、例えば4mA〜20mAのアナログ出力とした場合、一般的に最大負荷が750Ω以下となるようにしているため、一回路に対する負荷抵抗を考慮してシステム構成をしなければならず煩雑であった。
【0007】
さらに、1台の調節計で複数の負荷の電力制御を行う場合に、調節計と電力制御ユニットとの間に電力分配を行うための分配器(ディストリビュータ等)を接続する必要があり、システム構成が高価になるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、イニシャルコストの削減が図れ、且つ負荷抵抗を気にすることなく所望のユニット構成を実現することのできる電力制御装置及び電力制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載された電力制御装置は、加熱エリア内を所定温度に加熱する複数の負荷と、
前記加熱エリア内の温度値と予め設定された目標温度値とに基づき温度調節するための操作量を算出し、この操作量に応じた制御信号を出力する調節計と、
前記調節計からの前記制御信号に基づき交流電源の点弧角制御量を算出し、前記交流電源のゼロクロス点を基準として前記算出した点弧角制御量に相当する点弧角に位相調整制御した点弧制御電圧を出力する点弧角制御モジュールと、
前記点弧制御モジュールと前記負荷との間に、前記各負荷と対をなして介設され、予め設定された前記負荷毎のゲインとなるように前記点弧制御電圧をディレイ調整した電力を前記対をなす負荷に供給する電力調整モジュールと、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載された電力制御方法は、加熱エリア内を所定温度に加熱する複数の負荷に対する電力供給を個別に制御する電力制御方法において、
前記加熱エリア内の温度値と予め設定された目標温度値とに基づき温度調節するための操作量を算出し、この操作量に応じた制御信号を出力するステップと、
前記制御信号に基づき交流電源の点弧角制御量を算出し、前記交流電源のゼロクロス点を基準として前記算出した点弧角制御量に相当する点弧角に位相調整制御した点弧制御電圧を出力するステップと、
予め設定された前記負荷毎のゲインとなるように前記点弧制御電圧をディレイ調整した電力を対応する前記負荷に供給するステップと、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電力制御装置によれば、加熱エリア内に設置される各負荷と同数の点弧制御モジュールを必要とせず、安価で簡易的な構成の電力調整モジュールを負荷と対をなすように設置するだけでよいため、イニシャルコストを軽減することができる。また、電力調整モジュールの回路構成が簡易になるため、一回路に対する負荷抵抗を考慮する必要がなく、分配器等の余計な構成が不要となりシステム構成を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る電力制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】同装置の点弧制御モジュールによる点弧制御例を示す説明図である。
【図3】同装置の電力調整モジュールによるディレイ量調整例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではなく、この形態に基づいて当業者等によりなされる実施可能な他の形態、実施例及び運用技術等はすべて本発明の範疇に含まれる。
【0014】
本例の電力制御装置1は、例えば半導体ウェハの製造工程におけるアニール処理や基板加熱用のリフロー炉のようなコンベアを備えた連続炉等の熱処理炉に採用され、炉内における加熱エリアEに対する温度制御を1つの調節計10で加熱エリアEに設置された複数の負荷40(各種ヒータやランプ等)への電力制御を行う場合に採用される。
【0015】
まず、図1を参照しながら、本発明に係る電力制御装置1の構成について説明する。
図1に示すように、電力制御装置1は、一台の調節計10と、一台の点弧制御モジュール20と、加熱エリアE内に設置された複数の負荷40(図例では3台)と同数の電力調整モジュール30とで概略構成され、調節計10にて設定された目標温度となるように、熱処理炉内における加熱エリアEに設置された各負荷40に対する電力の供給量制御を行っている。
【0016】
また、加熱エリアEの所定箇所には温度センサ50が配置され、このセンサ50によって検出された温度信号(エリア内の代表値若しくは平均値)が温度制御の間、調節計10に出力されている。なお、図中では温度センサ50が単体で設置されているが、加熱エリアE内に複数配置し、各センサ50からの温度信号から加熱エリアE内の代表値若しくは平均値を得ることもできる。
【0017】
<調節計>
調節計10は、熱処理炉における加熱エリアE内の温度調整をフィードバック制御(PID制御)によって行うため、予め設定された制御パラメータ(PID制御におけるPIDパラメータ)に基づき、温度センサ50で計測された加熱エリアE内の温度値(PV)と予め設定された目標温度値を示す設定値(SV)とから操作量(MV)を算出し、この操作量(MV)に応じた制御信号を点弧制御モジュール20に出力している。
【0018】
<点弧制御モジュール>
点弧制御モジュール20は、演算手段21と、ゼロクロス検出手段22と、位相角制御手段23と、降圧トランス24とで構成され、調節計10からの制御信号に応じて加熱エリアE内に設置される各負荷40に対して供給する電圧の点弧制御を行っている。
【0019】
演算手段21は、調節計10からの制御信号に基づき、各負荷40に印加する電圧波形の位相角を調整するための点弧角制御量(%)を算出し、その算出結果に基づく点弧角制御信号を位相角制御部に出力している。
【0020】
ゼロクロス検出手段22は、降圧トランス24を介して供給された交流電源の電源電圧の基準点であるゼロクロス点を検出し、この検出によるゼロクロス信号を位相角制御手段23に出力している。
【0021】
位相角制御手段23は、ゼロクロス検出手段22からのゼロクロス信号の入力タイミングに基づいて、交流電源の電圧波形をゼロクロス点から点弧角制御信号応じた点弧角だけ遅れて発生させることで点弧角制御信号に相当する位相角に調整制御され、この位相角調整された電圧を点弧制御電圧として電力調整モジュール30に出力している。
【0022】
位相角制御手段23から出力される点弧制御信号の一例としては、図2に示すように、調節計10で算出された操作量が50%であった場合は、図示のように交流電源の電圧波形が90°位相調整され、この位相角調整された電圧が点弧制御電圧として電力調整モジュール30に出力される。
【0023】
<電力調整モジュール>
電力調整モジュール30は、遅延手段31と、パルス駆動回路32と、スイッチング素子33とで構成され、加熱エリアE内の負荷40と対をなすために設置される負荷40と同数設置されている。
【0024】
遅延手段31は、例えば、D型フリップフロップ回路やRC回路からなる周知のディレイ回路である。遅延手段31は、点弧制御モジュール20からの点弧制御電圧を予め設定された負荷40のゲインになるようなディレイ量で調整し、このディレイ調整した点弧制御電圧をパルス駆動回路32に出力している。
【0025】
ここで、遅延手段31によるディレイ量の調整処理例について、図3を参照しながら説明する。
なお、点弧制御モジュール20からの点弧制御電圧が操作量50%で位相角制御され、また、電力調整モジュール30に対をなす負荷40のゲインは、それぞれ1.0、0.8、0.4とする。
【0026】
上記条件によって駆動した場合、点弧制御モジュール20からの点弧制御電圧を各負荷40のゲインになるようにディレイ調整した場合は、以下のようにディレイ量が調整制御される。
・図3(a)に示すように、電力調整モジュール30と対をなす負荷40のゲインが1.0のときは、ディレイ量を調整せずに入力した点弧制御電圧のまま出力する。
・図3(b)に示すように、電力調整モジュール30と対をなす負荷40のゲインが0.8のときは、入力した点弧制御電圧を20%ディレイ調整して出力する。
・図3(c)に示すように、電力調整モジュール30と対をなす負荷40のゲインが0.4のときは、入力した点弧制御電圧を60%ディレイ調整して出力する。
【0027】
パルス駆動回路32は、トランジスタやフォトカプラ等の半導体素子で構成され、入力端側(すなわち、遅延手段31)と出力端側(すなわち、スイッチング素子33)と間における電気的絶縁を目的として介設されている。パルス駆動回路32は、遅延手段31からの点弧制御電圧をスイッチング素子33へと出力している。
【0028】
スイッチング素子33は、サイリスタ等の半導体スイッチング素子33で構成され、パルス駆動回路32からの点弧制御電圧の点弧角に基づきON時間の割合を変化させて連続的に電圧制御して、対をなす負荷40に電力供給を行っている。
【0029】
そして、上述した電力制御装置において、加熱エリアEに設置された各負荷40に電力供給を行う場合、まず加熱エリアE内の目標温度値を設定し、機器誤差や設置条件に応じて各負荷40に対するゲインを設定する。
【0030】
次に、負荷40に対する電力供給が開始されると、まず温度センサ50によって加熱エリアE内の温度信号が検出され、この検出された温度信号に基づく目標温度値とから実際に負荷40を駆動するための操作量を算出し、この操作量に応じた制御信号を点弧制御モジュール20に出力する。
【0031】
点弧制御モジュール20は、調節計10からの制御信号に基づき、負荷40に印加する電圧波形の点弧角制御量(%)を算出し、ゼロクロス検出手段22からのゼロクロス信号の入力タイミングで点弧角制御信号に応じた位相角調整制御された点弧制御電圧を電力調整モジュール30に出力する。
【0032】
そして、電力調整モジュール30は、点弧制御モジュール20からの点弧制御電圧を、予め設定されたゲインに相当するディレイ量で調整し、このディレイ調整した点弧制御電圧をパルス駆動回路32を介してスイッチング素子33へと出力し、点弧制御電圧の点弧角に基づきON時間の割合を変化させて連続的に電圧制御して、対をなす負荷40に電力供給を行っている。
【0033】
以上説明したように、上述した電力制御装置では、加熱エリアE内に設置される各負荷40に電力供給を行うため、調節計10で目標温度値とエリア内の温度値とから負荷40を駆動するための操作量を算出する。次に、点弧制御モジュール20において、算出した操作量から位相角調整用の点弧角制御信号を算出し、この点弧角制御信号に基づき交流電源の電圧波形を位相調整する。そして、電力調整モジュール30において、点弧制御された点弧制御電圧を予め設定されたゲインとなるようにディレイ調整し、スイッチング素子33を介して調整制御された印加電圧で対をなす負荷40に電力供給を行っている。
【0034】
これにより、加熱エリアE内に設置される負荷40と同数の点弧制御モジュール20を用意する必要がなく、安価で簡易的な構成の電力調整モジュール30を負荷40と同数用意するだけでよいため、イニシャルコストの削減を図ることができる。
【0035】
また、電力調整モジュール30の回路構成が簡易になるため、一回路に対する負荷抵抗を考慮する必要がなく、所望の数だけ介設することができる。
【0036】
ところで、上述した形態では、各負荷40と対をなすように電力調整モジュール30を有し、各電力調整モジュール30は遅延手段31、パルス駆動回路32、スイッチング素子33をそれぞれ具備した構成で説明したが、これに限定されることはない。
【0037】
例えば、複数ある負荷40のうち、温度調節を行う負荷40にのみ遅延手段31を設ける構成とすることもできる。すなわち、遅延手段31を備えた電力調整モジュール30と対になる負荷40は、その負荷に応じたゲインとなるようにディレイ調整された電力が供給され、その他の負荷40に対しては、入力した点弧制御電圧に応じた電力が各負荷に供給される構成となる。
【0038】
従って、遅延手段31を有する電力調整モジュール30を少なくとも1つ備えた電力制御装置であれば、ゲイン調整が必要な負荷40に対してディレイ調整を行うことができるため、上述した形態と同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…電力制御装置
10…調節計
20…点弧制御モジュール
21…演算手段
22…ゼロクロス検出手段
23…位相角制御手段
24…降圧トランス
30…電力調整モジュール
31…遅延手段
32…パルス駆動回路
33…スイッチング素子
40…負荷
50…温度センサ
E…加熱エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱エリア内を所定温度に加熱する複数の負荷と、
前記加熱エリア内の温度値と予め設定された目標温度値とに基づき温度調節するための操作量を算出し、この操作量に応じた制御信号を出力する調節計と、
前記調節計からの前記制御信号に基づき交流電源の点弧角制御量を算出し、前記交流電源のゼロクロス点を基準として前記算出した点弧角制御量に相当する点弧角に位相調整制御した点弧制御電圧を出力する点弧角制御モジュールと、
前記点弧制御モジュールと前記負荷との間に、前記各負荷と対をなして介設され、予め設定された前記負荷毎のゲインとなるように前記点弧制御電圧をディレイ調整した電力を前記対をなす負荷に供給する電力調整モジュールと、
を備えたことを特徴とする電力制御装置。
【請求項2】
加熱エリア内を所定温度に加熱する複数の負荷に対する電力供給を個別に制御する電力制御方法において、
前記加熱エリア内の温度値と予め設定された目標温度値とに基づき温度調節するための操作量を算出し、この操作量に応じた制御信号を出力するステップと、
前記制御信号に基づき交流電源の点弧角制御量を算出し、前記交流電源のゼロクロス点を基準として前記算出した点弧角制御量に相当する点弧角に位相調整制御した点弧制御電圧を出力するステップと、
予め設定された前記負荷毎のゲインとなるように前記点弧制御電圧をディレイ調整した電力を対応する前記負荷に供給するステップと、
を含むことを特徴とする電力制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−257438(P2012−257438A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130371(P2011−130371)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000133526)株式会社チノー (113)
【Fターム(参考)】