説明

電動パーキングブレーキ装置

【課題】手動操作手段やアクチュエータを破損するおそれが少ない電動パーキングブレーキ装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る電動パーキングブレーキ装置は、モータに作動制御されてロッドの回転によりパーキングブレーキを作動させるアクチュエータと、手動操作ユニット102とを備える。手動操作ユニット102は、手動操作部111と、ホルダー119と、トルクリミッタ113とを有する。手動操作部111のトルクがトルクリミッタ113を介してホルダー119へ伝達され、ホルダー119がアクチュエータの減速機を構成するギヤの回転軸に接続されることで、アクチュエータが操作されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの電動パーキングブレーキ装置に関する。自動車などには、モータバイク、三輪自動車、パワーアシスト式自転車、ゴルフカート、フォークリフトなどが含まれる。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2002−98179号公報)には、操作ノブをスプリングの付勢力に抗して軸線方向に押し、チャックと回転軸を連結させ、その状態で操作ノブを回転させることで、パーキングブレーキを作動または解除させる電動アクチュエータの遠隔操作装置が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電動パーキングブレーキ装置のアクチュエータが故障したとき、手動でパーキングブレーキを作動または解除できるようにした電動パーキングブレーキ用手動操作手段として、特許文献1のものが知られている。このような手動操作手段を用いてパーキングブレーキを作動させる場合、手動操作部を回転させるに従ってパーキングブレーキを作動させるための力が増加するため、それに合わせて手動操作手段を回す力を増加させる必要がある。しかし、パーキングブレーキの作動が完了したかどうかを知ることができないため、手動操作部をどこまで回したらよいかわからず、回し過ぎた場合には手動操作手段やアクチュエータを破損してしまうおそれがある。
【0004】
本発明の課題は、手動操作手段やアクチュエータを破損するおそれが少ない電動パーキングブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る電動パーキングブレーキ装置は、電気的に作動制御されて回転軸の回転によりパーキングブレーキを作動させるアクチュエータと、手動操作手段とを備える。手動操作手段は、手動操作部と、出力部と、トルクリミッタとを有する。手動操作部のトルクがトルクリミッタを介して出力部へ伝達され、出力部がアクチュエータの回転軸に接続されることで、アクチュエータが操作されることを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係る手動操作部は、出力部の出力軸から偏心した位置に設けられ、出力軸周りに旋回することが好ましい。
【0007】
また、本発明に係るトルクリミッタは、ボールと、本体と、本体に設けられた第一ボール係合部と、出力部と一体で回転し、本体と対向する平面部と、平面部に設けられた第二ボール係合部とを有するのが好ましい。本体は、手動操作部と一体で回転し、出力部と相対回転するのが好ましい。第一ボール係合部は、手動操作部の旋回方向でボールと係合するのが好ましい。第二ボール係合部は、手動操作部に所定のトルクが加わったときに、ボールが第二ボール係合部から離脱するように構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
(1)本発明の電動パーキングブレーキ装置(請求項1)では、手動操作部のトルクがトルクリミッタを介して出力部へ伝達されるので、手動操作部のトルクが所定の値に達すると、それ以上は手動操作部のトルクが出力部へほとんど伝達されなくなる。また、手動操作手段やアクチュエータを破損するおそれが少なくなる。
(2)本発明の電動パーキングブレーキ装置(請求項2)では、手動操作部が出力軸から離れた位置に配置されるため、出力部に対する手動操作部の回転移動量が多くなる。このため、手動操作部から出力部へのトルクの伝達がゆっくりとなって、出力部に急激なトルクが加わることを防止でき、手動操作手段やアクチュエータを破損するおそれが一層少なくなる。
(3)本発明の電動パーキングブレーキ装置(請求項3)では、トルクリミッタの構成が簡易であり、ボールが第二ボール係合部から離脱したことが手動操作部を回転させる手に伝わり易くなるため、パーキングブレーキの作動が完了したことを容易に判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る電動パーキングブレーキ装置の構成図
【図2】本発明に係るアクチュエータ
【図3】本発明に係るアクチュエータの一部の拡大図
【図4】本発明に係る手動操作ユニットの分解図
【図5】本発明に係る手動操作ユニットの平面図
【図6】本発明に係る手動操作ユニットの断面図
【図7】本発明に係るトルクリミッタの平面図
【図8】本発明に係るトルクリミッタの断面図
【図9】本発明に係るトルクリミッタの動作イメージ図
【図10】本発明に係る手動操作ユニットの変形例の平面図
【図11】本発明に係る手動操作ユニットの変形例の断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態を以下に図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
【0011】
(1)全体構成
本実施形態に係る電動パーキングブレーキ装置100は、図1に示すとおり、アクチュエータ101と、手動操作ユニット102とを備える。手動操作ユニット102は、本発明に係る手動操作手段である。アクチュエータ101には、コントロールケーブル103の一端が接続されている。コントロールケーブル103の他端には、パーキングブレーキ105が取り付けられている。アクチュエータ101によりコントロールケーブル103が引っ張られるとパーキングブレーキ105が作動する。アクチュエータ101によりコントロールケーブル103の引きが戻されると、パーキングブレーキ105が解除される。さらに、アクチュエータ101には、非常操作ケーブル104の一端も接続されている。非常操作ケーブル104の他端には、手動操作ユニット102が取り付けられている。手動操作ユニット102により非常操作ケーブル104が回転されることでアクチュエータ101が操作され、コントロールケーブル103が引かれてパーキングブレーキ105が作動される。或いは、コントロールケーブル103の引きが戻されてパーキングブレーキ105が解除される。したがって、アクチュエータ101が何らかの故障により作動しなくても手動でパーキングブレーキ105を作動或いは解除させることができる。
【0012】
パーキングブレーキ105は、公知のものである。具体的には、例えば、小型、中型トラックの場合、トランスミッションとプロペラシャフトの接続点近くに公知のセンターブレーキ式のドラムブレーキが設置される。コントロールケーブル103が引かれるとドラムにシューが押し付けられ、プロペラシャフトが固定されることによりブレーキが作動される。コントロールケーブル103の引きが戻されると、ドラムに押し付けられたシューがドラムから離れて元の位置に戻され、ブレーキが解除される。なお、乗用車やRV車の場合は、公知のホイールパーキング式等が用いられる。
【0013】
(2)詳細構成
(2−1)アクチュエータ
次に図2及び図3を参照しながら、アクチュエータ101について説明する。
【0014】
アクチュエータ101は、図2に示されているように、本体とカバーとからなるハウジング101hと、そのハウジング101hに取り付けられるモータMと、ハウジング101h内に収容され、モータMの回転を減速する減速機Gと、減速機Gの出力部に連結されるネジ−ナット機構(回転/直進変換機構)と、そのネジ−ナット機構によって往復駆動されるコントロールケーブル103とを備え、電気的に作動制御されて後述する回転軸106の回転によりパーキングブレーキ105を作動させるものである。
【0015】
図3は、アクチュエータ101の減速機Gが配置されている部分を拡大した図である。減速機Gは、3つのギヤG1、G2、G3からなる。モータMは、その出力軸がギヤG4の回転軸と平行になるように設置されている。モータMの出力軸にはピニオンが固定されており、ギヤG4は、当該ピニオンと噛み合う。ギヤG4の小径ギヤG4aは、ギヤG3と噛み合う。ギヤG3は、ギヤG2と、ギヤG2は、ギヤG1と、ギヤG1は、下記のギヤ101dと順に噛み合っている。モータMが回転すると、当該回転は、ピニオンを介してギヤG4から順にギヤG3、ギヤG2、ギヤG1、及び、下記ギヤ101dへと伝達される。
【0016】
ネジ−ナット機構は、ナット部材101eと、そのナット部材101eと螺合するロッド(スクリューシャフト)101bと、そのロッド101bに固定される角形のスライダ101aと、ロッド101bの回転を拘束するためにスライダ101aを摺動自在にガイドするガイド部材101cとを備えている。ナット部材101eは中空の円筒状になっており、ハウジング101hの本体に設けられる筒状の受け部によって回転自在に支持されている。ナット部材101eの表面には、4個所の平坦面が形成されている。ナット部材101eの内面には雌ネジが形成されている。
【0017】
ギヤ101dの内周には回り止めのための四角形の貫通孔が形成されており、当該貫通孔にナット部材101eが嵌入されている。当該貫通孔とナット部材101eの表面に設けられた上記4個所の平坦面とが嵌合する。
【0018】
ロッド101bの一端近辺には、ナット部材101eの上記の雌ネジと螺合する雄ネジが形成されている。ロッド101bの他端には穴が形成されている。当該穴には、コントロールケーブル103の一端が嵌入され、カシメなどで固定される。また、ロッド101bの当該端には、スライダ101aが固定されている。スライダ101aは、回転しないようにガイド部材101cの内面と嵌合している。また、スライダ101aは、ガイド部材101cの長手方向に沿って摺動自在になっている。
【0019】
上記のように構成されるネジ−ナット機構において、ギヤ101dが回転するとナット部材101eも一緒に回転する。そしてナット部材101eと螺合しているロッド101bは、ガイド部材101cおよびスライダ101aによって回転が拘束されているので、ナット部材101eに対して長手方向に移動する。それによりロッド101bに連結されているコントロールケーブル103が長手方向に操作される。
【0020】
さらに、アクチュエータ101は、非常解除ギヤ101fを備えている。非常解除ギヤ101fには、非常操作ケーブル104の先端が取り付けられている。具体的には、非常解除ギヤ101fの中心には、略四角形の穴が形成されており、非常操作ケーブル104の一端が、当該穴に嵌入され、固定されている。非常操作ケーブル104が回転すると、非常解除ギヤ101fが回転するようになっている。図3に示されているように、非常解除ギヤ101fは、減速機GのギヤG2の小径ギヤG2aと噛み合っており、非常解除ギヤ101fが回転すると、ギヤG2がその回転軸106を軸に回転する。ギヤG2の小径ギヤG2aは、ギヤG1と噛みあっており、ギヤG1の小径ギヤG1aは、ギヤ101dと噛み合っている。このように非常解除ギヤ101fの回転は、減速機Gを介して上記のギヤ101d及び上記ネジ−ナット機構に伝えられ、コントロールケーブル103が長手方向に引かれ、或いは、当該引きが戻され、パーキングブレーキ105が操作される。
【0021】
(2−2)手動操作ユニット(手動操作手段)
(2−2−1)構成
手動操作ユニット102の構成について図4および図5を参照しながら説明する。
【0022】
図4は、手動操作ユニット102の分解図である。本実施形態にかかる手動操作ユニット102は、図4に示されているように、主に、本体114とホルダー119とを有する。ホルダー119は、本発明に係る出力部である。
【0023】
本体114は、図4および図5に示されているように、円い面の直径の方が柱の高さよりも大きい円柱形をしており、当該円い面の中心には、貫通孔が形成されている。本体114である当該円柱の側面には、全周において複数のリッジが設けられている。
【0024】
ホルダー119は、図4に示されているように、先端が少し切断された円錐の形をした略円錐形部分と当該略円錐形部分の底面の中心から伸びる円柱形部分とからなる。円柱形部分の先端である円形面の中心にはネジ穴が形成されている。当該円柱部分は、本体114の貫通孔に通される。当該貫通孔を抜けた反対側では、当該ネジ穴には、大小2つのワッシャー121bとネジ121aとが取り付けられる。これにより、本体114とホルダー119とは、他方に対して回転可能に接合される。ホルダー119の、略円錐形部分の先端には、穴が形成されている。当該穴の横断面は、当該穴の開口付近では、円形であるが奥に行くにつれ擂り鉢状に狭くなっている。当該擂り鉢状部分より先の横断面は、一定の大きさであり、略四角形になっている。当該穴は、略円錐形部分の底面近くまで伸びている。当該穴の横断面が略四角形の部分は、後述する出力用係合穴112である。本体114及びホルダー119は、合成樹脂製である。
【0025】
なお、ホルダー119の本体114に対向する平面、即ち本体114と接する或いは近接する平面は、後述する平面部117である。当該平面部117及び本体114の当該平面部117に対向する面には、後述するトルクリミッタ113が設けられている。
【0026】
(2−2−2)手動操作部
次に図5を参照しながら手動操作部111について説明する。
【0027】
図5は、手動操作ユニット102を、本体114のホルダー119が取り付けられているのとは反対側の面から観た平面図である。図5は、当該面に設けられている手動操作部111を示している。手動操作部111は、円柱形をしており、円柱の一端は、本体114の当該面にネジにより回転自在に取り付けられている。手動操作部111は、人が手で持ち、操作するハンドルの機能を果たす。
【0028】
手動操作部111は、出力軸Xから偏心した位置に設けられ、出力軸X周りに旋回するように構成されている。出力軸Xは、ホルダー119が回転する軸であり、ホルダー119及び出力用係合穴112の横断面の中心を通る。具体的には、例えば、図5に示されている手動操作部111は、本体114の平面の中心を通る出力軸Xから偏心した位置に設けられている。こうすれば、ホルダー119に対する手動操作部111の回転移動量が多くなり、手動操作部111からホルダー119へのトルクの伝達がゆっくりとなって、ホルダー119に急激なトルクが加わることを防止でき、手動操作ユニット102やアクチュエータ101を破損するおそれを少なくすることができる。
【0029】
なお、本体114と別に手動操作部111を設けることなく、リッジが設けられた本体114の外周を手動操作部として、手で直接回転操作してもよい。
【0030】
(2−2−3)出力
次に図6を参照しながら手動操作ユニット102の出力について説明する。
【0031】
図6は、図5に示されている手動操作ユニット102をVI−VIの線で切断した断面図である。図6に示されているように、ホルダー119の中心部には、横断面が略四角形の出力用係合穴112が形成されている。非常操作ケーブル104の一端には、図6に示すようにシャフト104aが取り付けられている。シャフト104aの横断面は、略四角形をしており、出力用係合穴112に挿入され係合するようになっている。ホルダー119が回転すると、シャフト104aにより出力用係合穴112に係合された非常操作ケーブル104もホルダー119と一緒に回転する。なお、ホルダー119の略円錐形部分の先端に、シャフト104aを出力用係合穴112へガイドするための管状のガイドを取り付けてもよい。
【0032】
(2−2−4)トルクリミッタ
図6、図7及び図8を参照しながらトルクリミッタ113について説明する。トルクリミッタ113は、ボール116と、本体114と、本体114に設けられた第一ボール係合部115と、ホルダー119と一体で回転し、本体114と対向する平面部117と、平面部117に設けられた第二ボール係合部118とを有する。本体114は、手動操作部111と一体で回転し、ホルダー119と相対回転する。第一ボール係合部115は、手動操作部111の旋回方向でボール116と係合する。具体的には、例えば、図6に示されている手動操作ユニット102が備えるトルクリミッタ113は、鋼鉄製の球であるボール116、本体114に形成された穴である第一ボール係合部115、及び、当該第一ボール係合部115が設けられている本体114の面に対向するホルダー119の平面部117に形成された第二ボール係合部118等から主に構成されている。
【0033】
図7(a)は、ホルダー119を平面部117側から観た平面図である。図8は、図7(b)に示されている本体114の断面図である。第一ボール係合部115は、本体114に設けられた横断面が円形の穴であり、穴の直径は、ボール116が穴に入るのに十分な寸法になっている。当該穴の中には、バネ120が収められており、ボール116は、図8における当該バネ120の上に嵌めこまれている。即ち、当該バネ120よりも第一ボール係合部115である穴の開口に近い側にボール116が嵌めこまれている。当該バネ120の付勢力は、当該バネ120の外側に位置するボール116を穴の外に押し出すように働いている。このため、ボール116を穴の中に押し込む力が全く働いていない状態では、ボール116は第一ボール係合部115である穴から少なくとも一部分が出ている状態になっている。第二ボール係合部118は、ホルダー119の平面部117に設けられた断面が略円形の穴であるが、当該穴の深さの寸法は、ボール116の半径よりも小さい。つまり、ボール116は、第二ボール係合部118の穴に一部分しか入らないようになっている。なお、図7(a)に示されているホルダー119の平面部117には、第二ボール係合部118が8つ設けられているが、第二ボール係合部118は、複数である必要はなく、少なくとも1つ設けられていればよい。
【0034】
上述のように手動操作ユニット102の本体114とホルダー119が、ネジ121a及び2つのワッシャー121bにより、図6に示されているように、他方に対して回転可能に接合されると、第一ボール係合部115から一部分が出ているボール116は、平面部117により抑えつけられ、図9(a)に示されているように第一ボール係合部115のバネ120の付勢力に反して第一ボール係合部115の穴の中に押し込まれる。本体114の第一ボール係合部115の位置と、平面部117の第二ボール係合部118の位置とが重なると、図9(b)に示されているようにボール116がバネ120の付勢力により第二ボール係合部118へ押し出され、ボール116は、第一ボール係合部115及び第二ボール係合部118のどちらにも係合する。このようにボール116が第一ボール係合部115及び第二ボール係合部118のどちらにも係合している状態では、手動操作部111を、出力軸Xを中心に旋回させると、当該旋回方向に手動操作ユニット102の本体114とホルダー119とが一体となって回転する。
【0035】
第二ボール係合部118は、手動操作部111に所定のトルクが加わったときに、ボール116が第二ボール係合部118から離脱するように構成されている。具体的には、手動操作部111が廻され出力軸Xの周りを旋回すると、本体114は、手動操作部111の旋回方向に回転する。ホルダー119は、ボール116が本体の第一ボール係合部115及びホルダー119の第二ボール係合部118の両方に係合することにより、本体114と一緒に回転する。この回転に因るトルクは、出力用係合穴112に係合している非常操作ケーブル104に伝えられ、非常操作ケーブル104が回転する。しかし、トルクが所定の値より大きくなるとボール116は、図9(c)に示されているようにバネ120の付勢に反して第一ボール係合部115の穴の中に平面部117により押し込まれ、第二ボール係合部118とほとんど係合しなくなる。すると、ホルダー119は、本体114と一緒には、ほとんど回転しなくなり、手動操作部111が廻されることによるトルクが、ホルダー119を介して非常操作ケーブル104にほとんど伝わらなくなる。即ち、トルクリミッタ113は、手動操作部111が人の手によって廻されることにより発生するトルクを所定の値以上、ホルダー119にほとんど伝達しないように制限する。よって、手動操作ユニット102やアクチュエータ101を破損するおそれが少なくなる。
【0036】
また、ボール116が第二ボール係合部118から離脱すると本体114がホルダー119に対して空回りするため、操作者は、パーキングブレーキ105の作動が完了したことを容易に判断できる。
【0037】
(3)手動操作の動作
(3−1)作動
図5に示されている手動操作部111を作動方向(時計回り)に廻すと、手動操作ユニット102の本体114が手動操作部111の旋回方向に回転する。第一ボール係合部115の穴と係合しているボール116が第二ボール係合部118の穴とも係合しているので、ホルダー119は、本体114と一体となり手動操作部111の旋回方向に回転する。すると、手動操作部111の旋回によるトルクがホルダー119を介して非常操作ケーブル104に伝達される。当該トルクが伝達された非常操作ケーブル104が回転すると、非常解除ギヤ101fが回転する。非常解除ギヤ101fは、減速機Gを構成するギヤG2と噛み合っており、当該回転が減速機Gを介してギヤ101dに伝わる。ギヤ101dが回転するとナット部材101eも一緒に回転する。そしてナット部材101eと螺合しているロッド101bは、ガイド部材101cおよびスライダ101aによって回転が拘束されているので、ナット部材101eに対して長手方向に移動する。それによりロッド101bに連結されているコントロールケーブル103がロッド101bの長手方向に引っ張られ、パーキングブレーキ105が作動する。即ち、ホルダー119が、アクチュエータ101の減速機Gを構成する1つのギヤG2の回転軸106に接続されることで、アクチュエータ101が操作され、手動でパーキングブレーキ105が作動される。
【0038】
パーキングブレーキ105の作動が進行するにつれ、コントロールケーブル103の内索を長手方向に引っ張るのに必要な力が増大するので、非常操作ケーブル104を回転させるために必要なトルクが増大する。このため、操作者は、手動操作部111を旋回させるのにより強い力を加える可能性が高い。さらに、パーキングブレーキ105の作動が完了すると、ロッド101bは、それ以上コントロールケーブル103の内索を引っ張る方向に移動することが出来なくなり、非常操作ケーブル104を回転させることが困難になる。しかし、操作者は、パーキングブレーキ105の作動が完了したことに気づかない可能性がある。このような状態で、なお手動操作部111を力いっぱい廻すと、ホルダー119には、非常操作ケーブル104の回転に対する抵抗がホルダー119を介して伝わり、回転しにくくなる。手動操作部111に所定以上のトルクが加わると第二ボール係合部118と係合していたボール116は、第二ボール係合部118の縁から第一ボール係合部115の中へ押し込む力を受け、第一ボール係合部115の中に押し込まれ、第二ボール係合部118から離脱する。すると、本体114が回転してもホルダー119は回転しなくなり、手動操作部111の旋回によるトルクがホルダー119にほとんど伝わらなくなる。これにより、操作者は、パーキングブレーキ105の作動が完了したことを知ることが出来る。また、無理に非常操作ケーブル104が回転させられ、それによりアクチュエータ101が破損するのを防止することが出来る。手動操作ユニット102の破損も防止することが出来る。
【0039】
(3−2)解除
図5に示されている手動操作部111を解除方向(反時計回り)に廻すと、手動操作ユニット102の本体114が手動操作部111の旋回方向に回転する。第一ボール係合部115に嵌めこまれているボール116は、バネ120により第一ボール係合部115の中から外へ向かって押される。本体114が手動操作部111の旋回方向に回転し、第一ボール係合部115の位置がホルダー119の平面部117にある第二ボール係合部118の位置と重なると、バネ120により外へ押し出されたボール116が第二ボール係合部118の穴と係合する。すると、ホルダー119は、本体114と一体となり手動操作部111の旋回方向に回転する。すると、手動操作部111の旋回によるトルクがホルダー119を介して非常操作ケーブル104に伝達される。当該トルクが伝達された非常操作ケーブル104が回転すると、非常解除ギヤ101fが回転する。非常解除ギヤ101fは、減速機GのギヤG2と噛み合っており、当該回転が減速機Gを介してギヤ101dに伝わる。ギヤが回転するとナット部材101eも一緒に回転する。そしてナット部材101eと螺合しているロッド101bは、ガイド部材101cおよびスライダ101aによって回転が拘束されているので、ナット部材101eに対して長手方向に移動する。それによりロッド101bに連結されている内索が長手方向に押し戻され、パーキングブレーキが解除される。内索を長手方向に押し戻す場合、押し戻すために必要な力が増大することはない。パーキングブレーキの解除が完了すると、ロッド101bはそれ以上押し戻す方向に移動できなくなるので、非常操作ケーブル104を回転させることは困難になる。したがって、操作者は、パーキングブレーキが解除されたことが分かる。このような状態で、なお手動操作部111を廻しても、上述のとおりトルクリミッタ113のボール116が第二ボール係合部118から離脱し、本体114のみが空回りする。
【0040】
(4)特徴
(4−1)
上記実施形態では、手動操作部111のトルクがトルクリミッタ113を介してホルダー119へ伝達されるので、手動操作部111のトルクが所定の値に達すると、それ以上は手動操作部111のトルクがホルダー119へほとんど伝達されなくなる。このため、手動操作ユニット102やアクチュエータ101を破損するおそれが少なくなる。
【0041】
(4−2)
上記実施形態では、手動操作部111は、ホルダー119の出力軸Xから偏心した位置に設けられ、出力軸Xを中心に旋回する。
【0042】
即ち、電動パーキングブレーキ装置100では、手動操作部111が出力軸Xから離れた位置に配置されるため、ホルダー119に対する手動操作部111の回転移動量が多くなる。このため、手動操作部111からホルダー119へのトルクの伝達がゆっくりとなって、ホルダー119に急激なトルクが加わることを防止でき、手動操作ユニット102やアクチュエータ101を破損するおそれが一層少なくなる。
【0043】
(4−3)
電動パーキングブレーキ装置100では、トルクリミッタ113の構成が簡易であり、ボール116が第二ボール係合部118から離脱したことが手動操作部111を回転させる手に伝わり易くなるため、パーキングブレーキ105の作動が完了したことを容易に判断できる。
【0044】
(5)変形例
上記実施形態においては、手動操作ユニット102は、主に本体114及びホルダー119からなっていた。しかし、手動操作ユニット102は、上記にかかるものに限られず、適宜変形してもよい。例えば、手動操作ユニット102は、図11に示されているようにホルダー119の平面部117を覆う鋼鉄製のプレート121を有していてもよい。図10(a)は、本変形例に係るホルダー119の平面図、図11は、図10(b)に示されている本変形例に係る本体114の断面図である。図10(a)に示されているように、プレート121には第二ボール係合部118である穴が設けられている。プレート121は、図11に示されているように、ネジ222によりホルダー119の本体114と対向する平面に固定される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、自動車等の電動パーキングブレーキに適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
100 電動パーキングブレーキ装置
101 アクチュエータ
102 手動操作ユニット(手動操作手段)
103 コントロールケーブル
104 非常操作ケーブル
105 パーキングブレーキ
106 減速機GのギヤG2の回転軸(回転軸)
111 手動操作部
112 出力用係合穴
113 トルクリミッタ
114 本体
115 第一ボール係合部
116 ボール
117 平面部
118 第二ボール係合部
119 ホルダー(出力部)
120 バネ
M モータ
G 減速機
X 出力軸
【先行技術文献】
【特許文献】
【0047】
【特許文献1】特開2002−98179号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的に作動制御されて回転軸の回転によりパーキングブレーキを作動させるアクチュエータと、
手動操作手段と
を備え、
前記手動操作手段は、手動操作部と、出力部と、トルクリミッタとを有し、
前記手動操作部のトルクが前記トルクリミッタを介して前記出力部へ伝達され、
前記出力部が前記アクチュエータの回転軸に接続されることで、前記アクチュエータが操作されてなることを特徴とする電動パーキングブレーキ装置。
【請求項2】
前記手動操作部は、前記出力部の出力軸から偏心した位置に設けられ、
前記出力軸周りに旋回することを特徴とする
請求項1に記載の電動パーキングブレーキ装置。
【請求項3】
前記トルクリミッタは、
ボールと、
前記手動操作部と一体で回転し、前記出力部と相対回転する本体と、
前記本体に設けられ、前記手動操作部の旋回方向で前記ボールと係合する第一ボール係合部と、
前記出力部と一体で回転し、前記本体と対向する平面部と、
前記平面部に設けられた第二ボール係合部と
を有し、
前記第二ボール係合部は、前記手動操作部に所定のトルクが加わったときに、前記ボールが前記第二ボール係合部から離脱するようにされてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動パーキングブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−251587(P2012−251587A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123763(P2011−123763)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(390000996)株式会社ハイレックスコーポレーション (362)
【Fターム(参考)】