説明

電動機の制御装置

【課題】本発明は同期電動機をセンサレスで駆動するための制御装置に関し、空転状態にある電動機を円滑に駆動し始めることを目的とする。
【解決手段】インバータ60を用いて電動機24を駆動する。モータコントロール回路86に、インバータ60を介さずに電動機24の各相コイルに生ずる逆起電圧を取得させ、その逆起電圧に基づいて電動機24のロータ位置を取得させる。更に、モータコントロール回路86は、インバータ60が備える複数のスイッチング素子に供給するゲート信号を、検知したロータ位置に応じて、ロータが回転するように制御する。電動機24の電力駆動が要求された後、モータコントロール回路86がロータ位置を取得するまでの間は、ゲート信号をOFF電位に固定して全てのスイッチング素子をオフ状態とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動機の制御装置に係り、特に、同期電動機をセンサレスで駆動するうえで好適な電動機の制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、同期電動機をセンサレスで駆動する装置としては、例えば、特開平11−75394号公報に開示される装置が知られている。インバータを用いて同期電動機を駆動するためには、電動機のロータ位置を検出して、インバータに内蔵される複数のスイッチング素子のON・OFFを、そのロータ位置に応じて適宜切り換えることが必要である。このため、電動機のロータが空転している状態から、その駆動を開始するにあたっては、先ず、ロータ位置を検知することが必要である。
【0003】
上記従来の装置は、ロータが空転している状況下で電動機の駆動開始が要求された場合に、インバータに内蔵されるスイッチング素子のうち少なくとも1つをONさせて、電動機のコイルを短絡させる。ロータが空転している状況下で電動機のコイルが短絡されると、そのコイルには、逆起電力に起因する電流が流通する。上記従来の装置は、そのコイル電流に基づいてロータ位置を検知することとしている。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−75394号公報
【特許文献2】
特開2001−69784号公報
【特許文献3】
米国特許第4928043号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ロータの空転時に、インバータ内のスイッチング素子の状態が変化し、その結果電動機のコイルに短絡電流が流通すると、電動機の出力トルクが変化したり、或いは、電動機の周辺において異音が生じたりといった現象が生ずる。このため、上記従来の装置は、空転状態から電動機の駆動を開始する場合に、必ずしもその駆動を円滑に開始できないという特性を有していた。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、空転状態にある電動機を円滑に駆動し始めることのできる電動機の制御装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、インバータを用いて電動機を駆動する電動機の制御装置であって、
前記インバータを介さずに電動機の各相コイルに生ずる逆起電圧を取得する逆起電圧取得手段と、
前記逆起電圧に基づいて前記電動機のロータ位置を取得するロータ位置取得手段と、
前記インバータが備える複数のスイッチング素子に供給する信号を、前記ロータ位置に応じて、前記ロータが回転するように制御するロータ駆動手段と、
前記電動機の電力駆動が要求された後、前記ロータ位置が取得されるまでの間は、前記複数のスイッチング素子の全てをオフ状態とするインバータ切断手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記電動機は、内燃機関のターボチャージャを電動駆動するためのものであることを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記電動機の電力駆動が要求された場合に、前記複数のスイッチング素子に供給する信号を、前記ロータ位置が所定位置にロックされるように制御するアラインモード手段と、
前記ロータが前記所定位置にロックされた後、前記ロータの回転速度が前記ロータ位置の取得が可能な速度に上昇するように、前記複数のスイッチング素子に供給する信号を制御するランプモード手段と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れかにおいて、
前記電動機の電力駆動が要求された際に、当該電動機が回転しているか否かを判別する回転判定手段と、
前記電動機の電力駆動が要求された際に、当該電動機が回転していないと判別された場合は、前記インバータ切断手段の作動を禁止するインバータ切断禁止手段と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
また、第5の発明は、第1乃至第4の発明の何れかにおいて、
前記ロータ駆動手段は、前記電動機の各相コイルが、順次無通電状態となるように前記複数のスイッチング素子に供給する信号を切り換えると共に、
前記逆起電圧取得手段は、無通電状態のコイルに生ずる逆起電圧を順次取得することを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1の構成を説明するための図を示す。図1に示すように、本実施形態は、内燃機関10を備えている。内燃機関10には、吸気通路12および排気通路14が連通している。吸気通路12と排気通路14の間には、ターボチャージャユニット16が配置されている。
【0014】
ターボチャージャユニット16は、排気通路14側に位置するタービン18と、吸気通路12側に位置するコンプレッサ20とを備えている。更に、タービン18とコンプレッサ20との間には、それらと回転軸22を共通にする電動機24が配置されている。ターボチャージャ16は、排気エネルギによりタービン18を回転させることにより、或いは、電動機24により回転軸22を回転させることにより、コンプレッサ20を駆動することができる。コンプレッサ20は、このようにして駆動されることにより、その下流に高い過給圧を発生させることができる。
【0015】
吸気通路12には、コンプレッサ20の上流と下流とを連通するバイパス通路26が設けられている。バイパス通路26には、過給圧が過剰になった場合に開弁するバイパス弁28が設けられている。また、コンプレッサ20の下流には、インタークーラ30、およびスロットルバルブ32が配置されている。スロットルバルブ32は、アクセル開度などに基づいてスロットルモータ34により駆動される電子制御式のバルブである。スロットルバルブ32の近傍には、スロットル開度を検出するためのスロットルポジションセンサ36、およびアクセル開度を検出するためのアクセルポジションセンサ38が配置されている。
【0016】
排気通路14には、タービン18の上流においてEGR(Exhaust Gas Recirculation) 通路40が連通している。EGR通路40は、排気ガスの一部を吸気系に還流させるための通路であり、EGRバルブ42を介して吸気通路12に連通している。また、排気通路14には、タービン18の下流に触媒44が配置されている。内燃機関10から排出された排気ガスは、タービン18を通過した後、触媒44において浄化された後、大気に放出される。
【0017】
本実施形態のシステムは、システム全体を制御するためのECU50、電動機24の状態制御するためのコントローラ52、およびシステムの作動に必要な電力を供給するバッテリ54を備えている。本実施形態のシステムは、電動機24の制御に関する部分に特徴を有しているため、以下、その特徴を説明するうえで必要な範囲で、ECU50やコントローラ52の内容を説明する。
【0018】
図2は、本実施形態のシステムが電動機24を駆動するために備えている構成の内容を説明するためのブロック図である。本実施形態において、電動機24は、永久磁石式の同期電動機であり、U相、V相、およびW相の3つのコイルを有している。
【0019】
図2に示す構成は、インバータ60を備えている。インバータ60の内部には、電動機24のU相コイルに対応するスイッチング素子対62,64、および還流ダイオード対66,68が設けられている。また、その内部には、V相コイルに対応するスイッチング素子対70,72、および還流ダイオード対74,76、並びに、W相コイルに対応するスイッチング素子対78,80、および還流ダイオード対82,84が設けられている。
【0020】
インバータ60にはバッテリ54が接続されており、上述した3つのスイッチング素子対、および3つの還流ダイオード対の両側には、電源電圧が印加されている。インバータ60によれば、内蔵するスイッチング素子を適当にON・OFFさせることにより、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルに、順次適当な磁界を発生させて電動機24を適当に同期運転させることができる。
【0021】
図2に示すシステムは、モータコントロール回路86を備えている。モータコントロール回路86は、電動機24のU相コイルの両端に生ずる電圧(以下、「U電圧」と称す)、V相コイルの両端に生ずる電圧(以下、「V電圧」と称す)、およびW相コイルの両端に生ずる電圧(以下、「W相電圧」と称す)を検出する機能を有している。また、モータコントロール回路86は、U電圧、V電圧、W電圧に基づいて電動機24のロータ位置を検出し、その検出位置に基づいて、インバータ60に内蔵される6つのスイッチング素子のそれぞれに適当なゲート信号を供給する機能を有している。更に、モータコントロール回路86は、電動機24のロータ位置が検出された後に、電動機24の回転速度に応じた周期で変動するVCO信号を発する機能を有している。
【0022】
図2に示すシステムは、ターボコントローラ88、およびインバータ切断トランジスタ90を備えている。ターボコントローラ88は、内燃機関10の運転状態に応じて、ターボチャージャユニット16の状態を適正に制御するためのユニットである。ここでは、具体的には、ターボチャージャユニット16の電力アシストが必要となった際にモータコントロール回路86に起動信号を供給したり、モータコントロール回路86により発せられるVCO信号を受けてインバータ切断トランジスタ90の状態を切り換えたりする処理が実行される。
【0023】
インバータ切断トランジスタ90は、インバータ60に内蔵される6つのスイッチング素子にそれぞれ通じる6本のゲート信号線を、一律に接地電位に固定するためのトランジスタである。インバータ60に内蔵されるスイッチング素子は、何れもゲート電圧が接地電位とされることによりOFF状態となる素子である。従って、インバータ切断トランジスタ90によれば、モータコントロール回路86が如何なるゲート信号を発するかに関わらず、インバータ60を非作動状態に固定することが可能である。
【0024】
次に、図3および図4を参照して、モータコントロール回路86の基本動作をより詳細に説明する。
図3は、モータコントロール回路86が、その起動の後、基本動作に従って電動機24を制御した場合に実現されるモータ回転数の上昇傾向を説明するためのタイミングチャートである。図3に示すように、モータコントロール回路86は、ターボコントローラ88より起動信号が供給された後、先ず、アラインモードにより電動機24を制御する。
【0025】
アラインモードでは、インバータ60に対して所定のパターンでゲート信号が供給されることにより、電動機24のロータが決まった位置にロックされる。電動機24を同期運転させるためには、ロータの位置が既知でなければならない。アラインモードによれば、電動機24の始動直後に常にロータ位置を決まった位置にロックすることができるため、その後、その位置を起点として電動機24の同期運転を開始することが可能となる。
【0026】
アラインモードによる制御が終了すると、次に、モータコントロール回路86は、ランプモードにより電動機24を制御する。ランプモードは、同期ずれが生ずることのない加速度で電動機24の回転速度を上昇させるモードである。この段階では、ロータの回転速度が十分でないため、電動機24の各相コイルにロータ位置を検知するに足る逆起電圧は発生していない。従って、ランプモードでは、ロータ位置を見ることなく、同期ずれが発生していないものとしてゲート信号の切り換え周波数が徐々に高周波化される。
【0027】
ランプモードは、電動機24の回転数が、各相コイルに十分な逆起電圧が生ずる回転数に上昇するまで継続される。そして、各相コイルに十分な逆起電圧が生ずる状態になると、モータコントロール回路86は、ランモードによる電動機制御を開始する。ランモードでは、電動機24の各相コイルに発生する逆起電圧が検出され、その逆起電圧に基づいてロータ位置が検知される。そして、検知されたロータ位置に基づいて、同期ずれの生じない最大の加速度で電動機24の回転速度が目標回転数まで加速される。以後、ランモードでは、ロータ位置を検知しつつ、電動機24の回転数を目標回転数に一致させるべくインバータ60に対するゲート信号の切り換え周期が制御される。
【0028】
図4は、ランモードにおいて、モータコントロール回路86からインバータ60に供給されるゲート信号の波形と、各相コイルの逆起電圧がサンプリングされるタイミングとを説明するためのタイミングチャートである。より具体的には、図4(A)は、モータコントロール回路86により生成されるVCO信号の波形である。図4に示す♯1〜♯6の領域は、それぞれ60度のロータ回転角に対応している。従って、VCO信号は、ロータが60度回転する毎に一周期の変化を示す信号である。
【0029】
図4(B)〜図4(G)は、インバータ60に内蔵される6つのスイッチング素子に対して供給されるゲート信号波形を示す。尚、これらの図に示すU1、V1、W1は、それぞれU相、V相、W相の電源電位側のスイッチング素子62,70,78を意味しており、一方、U2、V2、W2は、それぞれU相、V相、W相の接地電位側のスイッチング素子64,72,80を意味している。これらの図に示すように、本実施形態では、電動機24の各相コイルに対応するスイッチング素子が、1サイクルの過程で120度相当期間だけON状態とされるいわゆる120度通電の駆動方式が用いられている。このため、本実施形態のシステムでは、1サイクルの過程中に、各相コイルに対応する2つのスイッチング素子が何れもOFF状態となる期間が各相毎に60度づつ確保されている。
【0030】
図4(H)〜図4(J)は、U相、V相、およびW相につき、コイルに発生する逆起電圧をサンプリングするタイミングを示す。各相コイルには、そのコイルに対応して設けられている2つのスイッチング素子が何れもOFF状態となる60度の期間中、つまり、そのコイルが無通電の状態となる60度の期間中、逆起電圧が発生する。このため、モータコントロール回路86は、U相に対応するスイッチング素子対62,64が共にOFFとなる期間(図4における♯3,♯6期間)をU相のサンプリング期間とする。同様に、V相に対応するスイッチング素子対70,72が共にOFFとなる期間(図4における♯2,♯5期間)をV相のサンプリング期間とし、更に、W相に対応するスイッチング素子対78,80が共にOFFとなる期間(図4における♯1,♯4期間)をW相のサンプリング期間とする。
【0031】
以上説明した通り、本実施形態のシステムでは、電動機24の駆動方式として120度通電の方式を用い、かつ、各相コイルが無通電状態となる60度の期間中にそのコイルの逆起電力をサンプリングすることとしている。このため、本実施形態のシステムによれば、ランモードの実行中に、各相コイルの逆起電力を検出し、その逆起電圧に基づいてロータ位置を検出し、更に、そのロータ位置に基づいて電動機24を同期駆動することが可能である。
【0032】
ところで、本実施形態のシステムでは、電動機24は、ターボチャージャユニット16のタービン18およびコンプレッサ20と回転軸22を共通にしている。タービン18は、内燃機関10のアイドル運転中でもある程度の速度で回転している。従って、電動機24は、電気的に駆動されていなくても、内燃機関10の運転中はある程度の速度で空転している。
【0033】
図5(A)は、電動機24が空転している状態から、モータコントロール回路86の基本制御によりその制御が開始された場合の動作を説明するためのタイミングチャートである。モータコントロール回路86は、既述した通り、ターボコントローラ88から起動の指令を受けると、先ずロータをロックするアラインモードを実行し、その後ランプモードを経てランモードに以降する。従って、モータコントロール回路86に起動指令が発せられる以前に電動機24が空転していた場合には、図5(A)に示すように、アラインモードの開始と共にモータ回転数に急激な低下が生ずる。上述したモータ回転数の急激な低下は、回転軸22に歪みを生じさせる原因となり、また、タービン18の回転エネルギをロスする要因ともなる。従って、このような回転数の急低下は避けることが望ましい。
【0034】
図5(B)は、上記の要求に応えるべく、本実施形態のシステムにおいて実現される動作を説明するためのタイミングチャートである。この図に示すように、本実施形態のシステムでは、電動機24によるターボチャージャユニット16のアシスト開始が要求された時点で、電動機24が既に空転している場合には、より厳密には、各相コイルに検出可能な逆起電圧が生ずる程度の速度で電動機24が既に空転している場合には、アラインモードおよびランプモードが省略され、空転状態から直接的にランモードへの以降が図られる。
【0035】
すなわち、本実施形態のシステムは、既述した通りインバータ切断トランジスタ90を備えている。ターボコントローラ88は、電動機24によるターボチャージャユニット16のアシスト開始が要求された場合に、先ず、インバータ切断トランジスタ60をON状態とし、その後モータコントロール回路86に起動指令を発する。インバータ切断トランジスタ90がON状態であると、インバータ60に通じる6本のゲート信号線は一律に接地電位に固定され、その結果、アラインモードおよびランプモードが省略される。ターボコントローラ88は、モータコントロール回路86がランモードによる制御を開始すると、つまり、モータコントロール回路86がVCO信号を出力し始めると、インバータ切断トランジスタ90をOFFとする。インバータ切断トランジスタ90がOFFとされると、以後、インバータ60内のスイッチング素子はモータコントロール回路86から発せられるゲート信号に従って制御されることとなり、その結果、ランモードによる電動機24の制御が実現される。
【0036】
以下、図6を参照して、上記の機能を実現すべくターボコントローラ88が実行する具体的処理の内容について説明する。
図6は、本実施形態において、ターボコントローラ88が、電動機24の状態を制御すべく実行する制御ルーチンのフローチャートである。図6に示すルーチンでは、先ず、電動機24によるターボチャージャユニット16のアシストが要求されたか否かが判別される(ステップ100)。
【0037】
その結果、電動機24によるアシストが要求されていないと判別された場合は、電動機24を駆動する必要がないため、以後何ら処理が進められることなく今回の処理サイクルが終了される。一方、上記ステップ100において、電動機24によるアシストが要求されていると判別された場合は、次に、今回の処理サイクルが、内燃機関10の始動時に行われているものであるか否か、より具体的には、現時点で電動機24の回転数が所定の判定値を超えているか否かが判別される(ステップ102)。
【0038】
本実施形態において、ターボコントローラ88は、内燃機関10の運転中に、過給の応答性を高める目的で電動機24によるアシストを要求する他、内燃機関10の冷間始動時に、吸気温を高める目的でも電動機24によるアシストを要求する。上記ステップ102において、内燃機関10の始動時である(回転数が判定値以下)との判別がなされた場合は、電動機24によるアシストが、後者の目的で求められていると判断することができる。そして、その場合は、駆動の開始に先立って電動機24が空転していないことから、モータコントロール回路86の基本制御に従って、アラインモード、ランプモードを経て電動機24の回転数を高めれば良いと判断できる。以上の判断により、上記ステップ102において内燃機関10の始動時であるとの判断がなされた場合は、以後、速やかに後述するステップ106以降の処理が実行される。
【0039】
一方、上記ステップ102において、内燃機関10の始動時ではないとの判断がなされた場合は、電動機24が既にある程度の速度で空転している状況下で、過給圧を高める目的でターボチャージャユニット16のアシストが要求されていると判断することができる。この場合、ゲート信号を接地電位(スイッチング素子をOFFとする電位)に固定すべく、インバータ切断トランジスタ90がON状態とされる(ステップ104)。
【0040】
図6に示すルーチンでは、次に、モータコントロール回路86を起動する処理が実行される(ステップ106)。
モータコントロール回路86は、上記の処理により起動されると、その後、アラインモード、ランプモード、およびランモードによる制御を実現すべく、ゲート信号線に対して所定のゲート信号を供給する。その結果、冷間始動時には、図3に示す波形で電動機24の回転数上昇が図られる。一方、電動機24が既に空転している場合には、図5(B)に示すように、ランモードが開始されるまで、電動機24の回転数は空転時の回転数のまま維持される。
【0041】
図6に示すルーチンでは、次に、モータコントロール回路86がランモードによる制御を開始したか、つまり、電動機24の各相コイルに生ずる逆起電圧に基づいてロータ位置を検知し、そのロータ位置に基づいてゲート信号を制御し始めたか否かが判別される(ステップ108)。
モータコントロール回路86は、ランモードによる制御を開始するに伴ってVCO信号を出力し始める。このため、本ステップ108では、具体的には、モータコントロール回路86がVCO信号を出力し始めたか否かが判断される。
【0042】
上記ステップ108において、モータコントロール回路86がランモードによる制御を開始したと判断されると、次に、VCO信号の周波数が、所定の判定値Nf以下であるか否かが判別される(ステップ110)。
【0043】
VCOは、既述した通り、電動機24の回転速度に応じた周期で変化する信号である。一方、判定値Nfは、電動機24が過回転していないかを確認するための判定値である。従って、本ステップ110において、VCOの周波数が判定値Nf以下であると判別された場合は、電動機24が適正な回転数で回転していると判断することができる。この場合、以後、ランモードによるアシストを許可すべく、インバータ切断トランジスタがOFFとされ、ゲート信号の接地電位への固定が解除される(ステップ112)。
【0044】
一方、上記ステップ110において、VCO信号の周波数が判定値Nf以下でないと判別された場合は、その時点で電動機24が既に過回転していると判断することができる。この場合、以後、電動機24によるアシストを禁止すべく、インバータ切断トランジスタがONとされ、ゲート信号が接地電位に固定される(ステップ114)。
【0045】
以上説明した通り、図6に示すルーチンによれば、冷間始動時に電動機24によるターボチャージャユニット16のアシストが要求された場合には、モータコントロール回路86の基本制御に従うことにより、適正に吸気温の上昇を図ることができる。そして、電動機24が既に空転している状況下で電動アシストが要求された場合には、アラインモードおよびランプモードを省略することで、ターボチャージャユニット16の回転軸22に歪みを生じさせることなく、また、回転エネルギをロスすることなく、そのアシストを開始することができる。このため、本実施形態のシステムによれば、トルク変動や異音の発生を伴うことなく、ターボチャージャユニット16の電動アシストを常に円滑に開始することができる。
【0046】
ところで、上述した実施の形態1においては、電動機24がターボチャージャユニット16をアシストするものに限定されているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、本発明は、空転状態からの駆動を開始する必要のある電動機を制御する装置に対して広く適用することができる。
【0047】
また、上述した実施の形態1においては、モータコントロール回路86が、ランモードに先立ってアラインモード、およびランプモードを実行するものに限定されているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、本発明は、空転中の電動機24の駆動を開始するにあたり、インバータ60の状態が変化してトルク変化や異音が生ずるのを防ぐことを目的とするものであり、ロータ位置が検出できるまで、インバータ60を非作動状態に維持できるものであれば良い。
【0048】
尚、上述した実施の形態1においては、モータコントロール回路86が、図4(H)〜図4R>4(J)に示すサンプリングタイミングでU電圧、V電圧、およびW電圧を検出することにより前記第1の発明における「逆起電圧取得手段」が、モータコントロール回路86が、取得したU電圧、V電圧、およびW電圧に基づいてロータ位置を取得することにより前記第1の発明における「ロータ位置取得手段」が、モータコントロール回路86が、図4(B)〜図4(G)に示すパターンでゲート信号を変化させることにより前記第1の発明における「ロータ駆動手段」が、ターボコントローラ88が上記ステップ104の処理を実行することにより前記第1の発明における「インバータ切断手段」が、それぞれ実現されている。
【0049】
また、上述した実施の形態1においては、モータコントロール回路86が、図3に示すアラインモード、或いはランプモードによる制御を行うことにより、前記第3の発明における「アラインモード手段」および「ランプモード手段」が、それぞれ実現されている。
【0050】
また、上述した実施の形態1においては、ターボコントローラ88が、上記ステップ102の処理を実行することにより前記第4の発明における「回転判定手段」が、上記ステップ102の条件が成立する場合に上記ステップ104の処理をジャンプすることにより前記第4の発明における「インバータ切断禁止手段」が、それぞれ実現されている。
【0051】
【発明の効果】
この発明は以上説明したように構成されているので、以下に示すような効果を奏する。
第1の発明によれば、電動機の電力駆動が要求された後、ロータ位置が取得されるまでの間は、インバータに内蔵される全てのスイッチング素子をオフ状態とすることができる。そして、インバータを介さずに電動機の各相コイルに生ずる逆起電圧に基づいてロータ位置を取得することができる。このため、本発明によれば、ロータ位置が取得されるまでの間に、各相コイルの状態がインバータの状態に影響されることがなく、電動機の駆動を円滑に開始することができる。
【0052】
第2の発明によれば、内燃機関のターボチャージャを電動駆動する電動機を円滑に駆動することができる。
【0053】
第3の発明によれば、電動機の電力駆動が要求された場合には、アラインモードとランプモードが順次実行される。本発明によれば、インバータ内のスイッチング素子をOFF状態とできるため、これらのモードの実行に関わらず、各相コイルに電流が流通するのを阻止して、電動機の駆動を円滑に開始することができる。
【0054】
第4の発明によれば、電動機の電力駆動が要求された際に、電動機が回転していない場合には、インバータ内のスイッチング素子が強制的にOFFとされるのを禁止することができる。従って、本発明によれば、電動機が停止状態から始動される際には、インバータの状態に応じた始動挙動を得ることができる。
【0055】
第5の発明によれば、ロータ駆動手段により電動機が駆動される際には、電動機の各相コイルが順次無通電状態とされる。そして、無通電状態のコイルに生ずる逆起電圧を順次取得することにより、ロータ位置を確実に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1の構成を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態1のシステムが、電動機を駆動するために備えている構成を説明するためのブロック図である。
【図3】図2に示すモータコントロール回路の基本制御を説明するためのタイミングチャートである。
【図4】図2に示すモータコントロール回路により実行されるランモードでの制御内容を説明するためのタイミングチャートである。
【図5】図5(A)は基本制御により電動機が制御されることに伴う課題を説明するためのタイミングチャートである。図5(B)は上記課題を解決すべく、本発明の実施の形態1のシステムにおいて用いられる制御内容を説明するためのタイミングチャートである。
【図6】図2に示すターボコントローラが電動機を制御するための実行する制御ルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
10 内燃機関
12 吸気通路
14 排気通路
16 ターボチャージャユニット
18 タービン
20 コンプレッサ
22 回転軸
24 電動機
50 ECU(Electronic Control Unit)
52 コントローラ
54 バッテリ
60 インバータ
62,64,70,72,78,80 スイッチング素子
86 モータコントロール回路
88 ターボコントローラ
90 インバータ切り換えトランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータを用いて電動機を駆動する電動機の制御装置であって、
前記インバータを介さずに電動機の各相コイルに生ずる逆起電圧を取得する逆起電圧取得手段と、
前記逆起電圧に基づいて前記電動機のロータ位置を取得するロータ位置取得手段と、
前記インバータが備える複数のスイッチング素子に供給する信号を、前記ロータ位置に応じて、前記ロータが回転するように制御するロータ駆動手段と、
前記電動機の電力駆動が要求された後、前記ロータ位置が取得されるまでの間は、前記複数のスイッチング素子の全てをオフ状態とするインバータ切断手段と、
を備えることを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項2】
前記電動機は、内燃機関のターボチャージャを電動駆動するためのものであることを特徴とする請求項1記載の電動機の制御装置。
【請求項3】
前記電動機の電力駆動が要求された場合に、前記複数のスイッチング素子に供給する信号を、前記ロータ位置が所定位置にロックされるように制御するアラインモード手段と、
前記ロータが前記所定位置にロックされた後、前記ロータの回転速度が前記ロータ位置の取得が可能な速度に上昇するように、前記複数のスイッチング素子に供給する信号を制御するランプモード手段と、
を備えることを特徴とする請求項1または2記載の電動機の制御装置。
【請求項4】
前記電動機の電力駆動が要求された際に、当該電動機が回転しているか否かを判別する回転判定手段と、
前記電動機の電力駆動が要求された際に、当該電動機が回転していないと判別された場合は、前記インバータ切断手段の作動を禁止するインバータ切断禁止手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の電動機の制御装置。
【請求項5】
前記ロータ駆動手段は、前記電動機の各相コイルが、順次無通電状態となるように前記複数のスイッチング素子に供給する信号を切り換えると共に、
前記逆起電圧取得手段は、無通電状態のコイルに生ずる逆起電圧を順次取得することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の電動機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2004−229385(P2004−229385A)
【公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−13063(P2003−13063)
【出願日】平成15年1月22日(2003.1.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】