説明

電気化学素子電極用シートの製造方法

【課題】
本発明の目的は高容量で低抵抗の電気化学素子電極シートを、金属繊維シートからなる集電体を用いて、大量に効率よく製造する方法を提供することにある。
【解決手段】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、金属繊維シートを集電体として用いることで、セルを作製した際、電極層にセパレータ側と集電体側の両面から電解液が補充される構造とすることができ、電極厚みを厚くしても抵抗を低く抑えることができることを見出した。その結果セルに占める電極シートの比率を高めることができるため、セルの容量を向上させることができるとともに、低抵抗化が可能となることを見出した。
上記電極シートを電気化学素子電極の電極材料からなる粉体を乾式成形することで、金属繊維シートを集電体として大量に効率良く製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池や正・負極両電極が活性炭を用いた分極性電極からなる電気二重層キャパシタあるいはリチウムイオン及び/又はアニオンを可逆的に担持可能な物質からなる正極とリチウムイオンを可逆的に担持可能な物質からなる負極で構成されたハイブリッドキャパシタ、あるいはリチウムイオンのドーピングを用いた二次電池などの電気化学素子に好適に用いられる高容量で低抵抗の電気化学素子電極(本明細書では単に「電極」と言うことがある。)用シートを大量に効率よく製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、更に繰り返し充放電が可能なリチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学素子は、その特性を活かして急速に需要を拡大している。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が比較的に大きいことから携帯電話やノート型パーソナルコンピュータなどの分野で利用され、電気二重層キャパシタはパソコン等のメモリバックアップ小型電源として利用されている。更に、最近は、電気二重層キャパシタは急速充放電特性に優れることから、繰り返しの充放電が必要なショベル、クレーンなどの建設機械での使用が本格化してきている。一方で、電気二重層キャパシタのエネルギー密度は3〜4Wh/L程度で、リチウムイオン二次電池に比べて二桁程度小さく、高いエネルギー密度と充放電速度の両立を目指し、正極、負極の2つの電極のうち、一方にファラデー反応電極、もう一方に非ファラデー反応電極を使用するハイブリッドキャパシタも開発が進められてきている。これら電気化学素子には、用途の拡大や発展に伴い、低抵抗化、高容量化など、より一層の特性の改善が求められている。その一方で、市場の拡大には低コスト化も重要な課題で、電極の安価な製造方法の提案も期待されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池はエネルギー密度は大きいが出力密度、サイクル特性、安全性には課題を残しており、出力密度の向上では電極の厚みを薄くしたり、電極の多孔度を上げることでイオン拡散を速めて低抵抗化を図っている。しかしながら電極を薄くする方法では、セパレータや集電体といった容量に寄与しない部材の使用比率が増加し、セルに占める電極の比率が減少し、エネルギー密度が低下するため、結果として容量当たりのコストが高くなるといった問題点を有している。また電極の多孔化もセルへの活物質の充填量が減少するためエネルギー密度が低下しコストアップになるといった問題点がある。
また活物質の粒子径を小さくすることで出力密度の向上が図られている。しかしながらリチウムイオン二次電池の電極は活物質を含む電極スラリーを集電体上に塗布して製造されるが、活物質の粒子径を小さくするとスラリーの流動性が悪化したり、スラリー濃度が低下し、塗布速度が上げられないため、電極シートの製造コストが高くなるといった問題点があった。
【0004】
電気二重層キャパシタは出力密度は大きいがエネルギー密度が小さく、高容量化を目指した新しい炭素材料の開発が進められてきた。例えばカリウムを用いたアルカリ賦活炭の提案(特許文献1)や電界賦活処理が提案されている(特許文献2)。
しかしながらこれら提案はサイクル特性の低下から実用化には問題が残されている。また、電気二重層キャパシタのエネルギー密度を高めるため突起を有する集電体を用いたり(特許文献3)、金属繊維集電体を用いて、活物質を集電体に充填する提案が見られる(特許文献4,5)。
これら提案では電極厚みを厚くしても電極内に存在する集電体によって集電性が高められるため出力密度の高い電極を得ることが可能で、セルに占める活物質の比率を増加できることからエネルギー密度を上げることができるとしている。しかしながらこれら提案は分極性電極内に金属からなる集電体を配置することで電子抵抗を下げる効果はあるがイオン拡散抵抗を下げる効果を発現することはできない。したがって一定の効果はあるが、高速の充放電を伴う使われ方では抵抗低下に限界があった。また、製造面でも集電体内部への電極材料の充填を伴うため、生産性の面で問題があった。
更にステンレス繊維に活性炭を充填し、更に活性炭を透過しないステンレス繊維を集電体として用いることで活性炭の脱落を防止する提案(特許文献6)やシート状に成形された活性炭層と金属の集電板の中間にステンレス繊維など繊維状の集電体を配置する提案(特許文献7)も見られる。しかしながら、特許文献6の提案による分極性電極を挟むステンレス繊維からなる集電体は活性炭の脱落を防止する狙いで薄ければ薄い方が良いとされており、本発明とは異なるものである。そのため、集電体として用いるステンレス繊維の空隙率に関しても何ら触れられていない。一方特許文献7による提案は使われる構造が本発明とは異なる。また繊維状の集電体の空隙率に関して何ら触れられていない。
更に特許文献6および特許文献7に記載されている実施例では分極性電極の厚みが厚くメモリバックアップ用途などの高容量化を狙った提案で、集電体にイオン拡散抵抗の改善機能を持たせることで抵抗を下げる本発明とは異質なものである。また、これらも構造上の問題から生産性には問題が残されている。
【0005】
一方で高いエネルギー密度と充放電速度の両立を目指し、正極、負極の2つの電極のうち、一方にファラデー反応電極、もう一方に非ファラデー反応電極を使用するハイブリッドキャパシタが注目されており、負極に予めリチウムイオンをドープし正極に活性炭を用いたハイブリッドキャパシタが貫通孔を有する集電体の提案で実現性が高まってきた。(特許文献8)
しかしながら、貫通孔を有する集電体への電極の形成は難しく、生産性が悪いといった問題点を有している(特許文献9)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−47613号公報
【特許文献2】特開2002−25867号公報
【特許文献3】特開平10−284349号公報
【特許文献4】特開平9−232190号公報
【特許文献5】特開平6−196170号公報
【特許文献6】特開昭60−161610号公報
【特許文献7】特開平2−16710号公報
【特許文献8】特許第4015993号公報
【特許文献9】特開平2005−203116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は高容量で低抵抗の電気化学素子電極シートを、金属繊維シートからなる集電体を用いて、大量に効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、金属繊維シートを集電体として用いることで、セルを作製した際、電極層にセパレータ側と集電体側の両面から電解液が補充される構造とすることができ、電極厚みを厚くしても抵抗を低く抑えることができることを見出した。その結果セルに占める電極シートの比率を高めることができるため、セルの容量を向上させることができるとともに、低抵抗化が可能となることを見出した。
更に、上記電極シートを電気化学素子電極の電極材料からなる粉体を乾式成形することで、金属繊維シートを集電体として大量に効率良く製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
従来、電極活性成分を含むスラリー状物を塗布又は浸漬によりエキスパンドメタル、パンチドメタルなどの有孔性集電体に担持せしめる際、貫通孔の径が大きいためにダイコーターなどを必要とし、ある場合には、下塗りなどを必要とした。更に、通常、垂直方向に引き上げながら塗布するために強度上の問題から生産性が低かった。更に、金属繊維シートでは金属繊維の径、多孔度を制御することで電極活性成分を含むスラリー状物の集電体への担持は、コンマコーターなどにより容易に行うことができ、必ずしも下塗りや垂直方向の塗布は要求されないために電極の生産性は上記に比べて改善されることも判明した。
しかしながら、本発明者等が提案している乾式成形法(特開2007−5747)を応用すると更に高い生産性で電気化学素子が製造さることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
更に、従来電気化学素子電極の集電体としては、エキスパンドメタル、パンチドメタルなどの有孔性、又は無孔性のシート状金属体が使用されてきた。また突起を有する集電体を用いたり、多孔質金属集電体を用いて、活物質を集電体に充填する提案も見られる。しかし、本発明者の研究によるとエキスパンドメタル、パンチドメタルなどの有孔性、又は無孔性のシート状金属体を用いた場合電極層の厚みとともに抵抗は大きくなる。また突起を有する集電体を用いたり、多孔質金属集電体を用いて、活物質を集電体に充填する方法でも電極層の密度を上げると抵抗は大きくなることがわかった。このことは一般に抵抗は電子抵抗とイオン拡散抵抗からなり、突起を有する集電体や多孔質金属集電体を用いて集電性を高めるだけでは十分な低抵抗化は期待できないことを示している。本発明者らはイオン拡散抵抗に注目し、金属繊維シートを集電体として用いて集電体の少なくとも一部が電極構成材料で充填されない状態で集電体の片面あるいは両面に電極層を形成することで、電解液が電極層の両面から供給されることで、高容量化と低抵抗化を両立できる電極シートが得られることを見出した。
【0011】
かくして、本発明は、以下の要旨を有することを特徴とするものである。
(1)金属繊維シートからなる集電体上に電気化学素子電極の電極材料からなる粉体を供給し粉体成形することを特徴とする電気化学素子電極用シートの製造方法。
(2)金属繊維シートからなる集電体の厚みが10〜200μmであることを特徴とする(1)記載の電気化学素子電極用シートの製造方法。
(3)金属繊維シートからなる集電体上に形成される電極層と集電体を合わせた厚みが50〜1000μmであって、且つ
(電極層と集電体を合わせた厚み)/(集電体の厚み)=1〜20
であることを特徴とする(1)、(2)記載の電気化学素子電極用シートの製造方法。
(4)金属繊維からなる集電体上に供給される粉体が、電極活物質および導電材が結着剤により結着してなる複合粒子が相互に結合されて形成されていることを特徴とする(1)、(2)記載の電気化学素子用電極用シートの製造方法。
(5)(4)記載の複合粒子が電極活物質、導電材、結着剤及び分散剤を含有するスラリーを得る工程、前記スラリーを噴霧乾燥して、噴霧造粒する工程で得られることを特徴とする(1)〜(4)記載の電気化学素子電極用シートの製造方法。
(6)金属繊維が、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、銅、金、白金、チタン、その他の合金からなることを特徴とする(1)〜(5)記載の電気化学素子電極用シートの製造方法。
(7)金属繊維表面が、その金属繊維よりも低い抵抗率を有する金属で被覆されていることを特徴とする(1)〜(6)記載の電気化学素子電極用シートの製造方法。
(8)金属繊維が、繊維径2〜20μm、繊維長1〜12mmの金属繊維及び結着剤繊維からなるスラリーを湿式抄紙法によりシート化して得られることを特徴とする(1)〜(6)記載の電気化学素子電極用シートの製造方法。
(9)金属繊維が、繊維径2〜20μm、繊維長1〜12mmの金属繊維及び結着剤繊維からなるスラリーを湿式抄紙法によりシート化し、更にシートを水素ガス雰囲気中で繊維間を焼結することを特徴とする(1)〜(6)記載の電気化学素子電極用シートの製造方法。
(10)金属繊維が繊維径2〜20μm、繊維長1〜12mmの金属繊維及び結着剤繊維からなるスラリーを湿式抄紙法によりシート化し、更にシートを水素ガス雰囲気中で繊維間を焼結する際、焼結シートを金属繊維よりも低い抵抗率を有する金属で被覆することを特徴とする(1)〜(6)記載の電気化学素子電極用シートの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の乾式成形による電極シートの製造方法によれば、金属繊維シートからなる電気化学素子電極用集電体を用いて、セパレータ側と集電体側の両面から電極層に電解液を補充し、イオン拡散抵抗を下げることで、高エネルギー密度及び低内部抵抗を有する電気化学素子電極用シートを大量に効率よく提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
金属繊維シートからなる集電体に電極層を形成する方法としては、電極層形成材料の混合物を粒子状にして(以下、複合粒子化ということがある)乾式成形によってシート化し、金属繊維シートからなる集電体に圧着、あるいは複合粒子を金属繊維シートからなる集電体上に供給して乾式成形する方法を用いることができる。
複合粒子は、その重量平均粒子径が、通常は0.1〜1000μm、好ましくは5〜500μm、より好ましくは10〜100μmの範囲である。
【0014】
乾式成形で用いる複合粒子は、その製造方法によって特に制限はなく、噴霧乾燥造粒法、転動層造粒法、圧縮型造粒法、攪拌型造粒法、押出し造粒法、破砕型造粒法、流動層造粒法、流動層多機能型造粒法、および溶融造粒法などの公知の造粒法が挙げられる。中でも噴霧乾燥造粒法、転動層造粒法および攪拌型造粒法を使用すると均一性の高い球状の粒子を得られるため好ましく、噴霧乾燥造粒法が特に好ましい。
【0015】
噴霧乾燥造粒法は、電極活物質と、結着剤と、必要に応じてその他の成分とを溶媒中で混合して分散液とする工程、および、該分散液を噴霧乾燥して複合粒子を形成する工程を含む。具体的には、複合粒子の形成工程で、上記分散液を、噴霧乾燥機を使用してアトマイザから噴霧し、噴霧された分散液を乾燥塔内部で乾燥することで、分散液中に含まれる電極活物質、結着剤およびその他の成分からなる球状の複合粒子が形成される。
【0016】
分散液を得るために用いる溶媒は特に限定されないが、上記の溶解型樹脂を用いる場合には、溶解型樹脂を溶解可能な溶媒が好適に用いられる。具体的には、通常水が用いられるが、有機溶媒を用いることもできる。有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどのアルキルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのアルキルケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類;ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類;ジメチルスルホキサイド、スルホラン等のイオウ系溶剤;などが挙げられるが、アルコール類が好ましい。
【0017】
複合粒子をシート状に成形する成形方法としては、加圧成形法が好ましい。加圧成形法は、複合粒子に圧力を加えることで電極層形成材料の再配列、変形により緻密化を行い、電極層を成形する方法である。加圧成形としては、例えば、図1に示すように、複合粒子をスクリューフィーダー等の供給装置でロール式加圧成形装置に供給し、電極層を成形するロール加圧成形法や、複合粒子を集電体上に散布し、複合粒子をブレード等でならして厚みを調整し、次いで加圧装置で成形する方法、複合粒子を金型に充填し、金型を加圧して成形する方法などがある。これら加圧成形のうち、ロール加圧成形が好適である。
【0018】
成形時の温度は、通常0〜200℃であり、結着剤の融点またはガラス転移温度より高いことが好ましく、融点またはガラス転移温度より20℃以上高いことがより好ましい。ロール加圧成形においては、成形速度を通常0.1〜30m/分、好ましくは5〜20m/分にして行う。またロール間のプレス線圧を通常0.2〜30kN/cm、好ましくは0.5〜10kN/cmにして行う。
【0019】
得られる電極層と本発明の金属繊維シートからなる集電体とが積層されて電気化学素子電極が得られる。また、電極層をロール加圧成形で形成する場合は、金属繊維シートからなる集電体を複合粒子の供給と同時にロールに送り込むことによって、金属繊維シートからなる集電体上に直接電極層を積層してもよい。
【0020】
電極の厚みのばらつきを無くし、活物質層の密度を上げて高容量化をはかるために、必要に応じて更に後加圧を行っても良い。後加圧の方法は、ロールによるプレス工程が一般的である。ロールプレス工程では、2本の円柱状のロールをせまい間隔で平行に上下にならべ、それぞれを反対方向に回転させて、その間に電極をかみこませ加圧する。ロールは加熱又は冷却等、温度調節しても良い。
【0021】
本発明で使用される金属繊維からなる集電体を用いて乾式成形で電気化学素子電極シートを製造することで、電気化学素子電極シートの高容量化、低抵抗化を実現することができる。何故にそのような特性が得られるかのメカニズムについては、次のように推定される。
【0022】
電極活物質は一般的に導電性が低いため、高い導電性を持つ金属箔やエキスパンドメタルやパンチングメタルのような貫通孔を有する金属シート(箔)を集電体として用い、その上に電極活物質を薄く塗工することにより抵抗を低くしている。電極活物質を厚く塗工すると電極厚みの増大とともに抵抗は大きくなる。そのため突起を有する集電体を用いたり、多孔質金属集電体を用いて、活物質を集電体に充填することで電極層の集電性を向上する検討もされているが、イオン拡散抵抗の増大は避けられない。そのため電極密度を下げることでイオン拡散抵抗を下げる必要があるがセル容量が低下する。本発明では金属繊維シートからなる集電体の片面あるいは両面に電極層が形成されるが、集電体の少なくとも一部は多孔を有する状態で使用される。金属繊維シートからなる集電体はエキスパンドメタルやパンチングメタルのような独立した孔を有する集電体とは異なり孔がお互いに繋がった構造のため、本発明の電気化学素子電極用シートを用いたセルでは電解液が集電体の多孔構造に侵入することができる。その結果本発明の集電体を用いた電気化学素子電極用シートで作製された電気化学セルでは、セパレータ側と集電体側の両面から電極層に電解液が補充されるためイオン拡散抵抗を下げることができ、電極層厚みを厚くしても高エネルギー密度で低内部抵抗の電気化学素子電極用シートが提供される。
【0023】
更に、電気化学素子電極の電極材料からなる複合粒子を乾式成形することで、金属繊維シート上に形成された電極層自体も適度な空隙を保持することができる。その結果電気化学素子電極シートのイオン拡散抵抗を低く抑えることができる。上記金属繊維シートを用いた効果と成形方法に基づく電極層の構造に基づく効果の組み合わせによって、高容量で低抵抗の電気化学素子電極シートを大量に効率よく製造することができるものと思われる。
【0024】
金属繊維シートはステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、銅、金、白金、チタン、その他の合金など、導電性があり、細線加工が可能な金属であれば如何なるものでもよく、金属の種類に限定されるものではない。電気化学素子の種類にもよるが、電気化学的安定性を損なわない観点から、正極ではステンレス、アルミニウムが好ましく、負極は銅、ニッケル、ステンレスが好ましい。また金属繊維表面が、その金属繊維よりも低い抵抗率を有する金属で被覆されているものも使用することができる。
【0025】
金属繊維表面の被覆は、電解メッキ法、無電解メッキ法、スパッタリング法、蒸着法、プラズマ溶射法等、公知の方法によって行うことができる。また、金属繊維よりも低い融点を有する低抵抗の他の金属繊維を共存させて焼結することによって、焼結と同時に金属繊維の表面を低抵抗の金属で被覆するようにしてもよい。
【0026】
金属繊維は、溶融金属を微細な孔より遠心法で不活性な雰囲気中へ吹き出させることにより、安価に製造される。またダイスを用いて製造した金属ワイヤーを切断したり、旋盤のびびり振動や研削により得たアスペクト比の大きな繊維状金属をシートの原料に使用してもよい。金属繊維は繊維径2〜20μm、繊維長1〜120mmであることが好ましい。繊維径が2μmより細いとシート強度が不足し電極層を形成する際破断の原因となる。また繊維径が20μmよりも太いと目的とするシート厚みが得られにくい。また相対的に繊維数が減り、繊維同士の接点が減少するため抵抗が大きくなる。
また繊維長が1mmより短いとシート強度が弱くなる。繊維長が120mmよりも長くなるとシートの地合いが悪くなり、平滑な電極層の形成が困難になる。
【0027】
金属繊維シートの製造方法としては、溶融金属を微細な孔より遠心法で不活性な雰囲気中へ吹き出し、シート化する方法や金属短繊維を湿式抄紙法によって不織布とする方法。更には金属繊維を熱溶融性バンダーとともに湿式抄紙法によって不織布とした後、加熱融着させてシートの密度を上げたり、焼結融着することもできる。
更には、湿式抄造法で作製された金属繊維シートの少なくとも一面に熱硬化型導電性接着剤を塗布もしくは含浸しても良い。
その他にも編組や織布の作製方法によって得ることもできる。
金属シートの厚みは10〜200μm、好ましくは15〜150μm、さらに好ましくは20〜100μmが好ましいl。金属シートの厚みが10μmよりも薄いと強度が低く、成形時に破断し易い。また金属シートの厚みが200μmよりも厚くなると、セルに占める金属シートからなる集電体の占める割合が大きくなりエネルギー密度が小さくなる。
【0028】
本発明で用いる集電体用金属繊維シートはシートの密度を上げることができ、シート厚みを10〜100μmと薄く出来ることから金属短繊維を湿式抄紙法によって不織布とする方法。更には金属繊維を熱溶融性バインダーとともに湿式抄紙法によって不織布とした後、加熱融着させてシートの密度を上げたり焼結融着する方法、更には金属繊維を熱溶融性バンダーとともに湿式抄紙法によって不織布とした後、加熱融着させてシートの密度を上げたり、焼結融着する方法などが好ましい。
【0029】
湿式抄紙法による場合について、具体的に説明すると、短繊維にカットした一種または複数種の金属繊維を水中に離解分散させ、適量のバインダーと必要に応じて助剤を添加し、混合した後、ワイヤー上で脱水処理し、プレス工程、乾燥工程を得てシート化することができる。また真空または非酸化性雰囲気下で加熱してバインダー等を熱分解して除去することもできる。
【0030】
バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、セルロースパルプ等が使用でき、また、助剤としては、一般に湿式抄紙法に使用されている分散剤、界面活性剤、消泡剤等が使用できる。非酸化性雰囲気としては、アルゴンガス、窒素ガス、水素ガス等を使用することができる。
【0031】
また、多孔質シートの金属繊維同士を焼結してもよい。焼結は、真空または非酸化性雰囲気中で金属繊維の融点近くの温度において、例えば、ステンレス鋼繊維の場合、120℃で1〜2時間加熱処理を行えばよい。
【0032】
金属繊維の空隙率は、金属繊維の径や繊維の太さによって適宜選択されるが、一般的に金属繊維シートの空隙率が30%より低いと、シート密度が高くなり電解液の侵入量が少なくなり、電気化学素子としたときの低抵抗化の効果が小さくなる。またシートが硬くなる。また、空隙率が95%よりも高くなると、シートを構成する繊維の本数が少なくなり、シートの強度が低下したり、金属繊維同士の接点が少なくなり抵抗が大きくなる。
【0033】
なお、本発明において、空隙率はシートの多孔性の度合を示す値であり次の式で示される。
空隙率(%)={1−(シートの見掛けの密度/シートの真の密度)}×100
式中、シートの見掛けの密度は、シートの坪量と厚さから計算される値である。シートの真の密度は、繊維自体(被覆金属も含む)の密度を意味する。
【0034】
本発明の金属繊維シートからなる集電体は、正極がリチウム含有複合金属酸化物、負極がリチウムイオンのインターカレーションが可能な炭素材料からなるリチウムイオン二次電池、また電極層が活性炭、導電剤、結着剤で構成される分極性電極からなる電気二重層キャパシタ、あるいはリチウムイオン及び/又はアニオンを可逆的に担持可能な物質からなる正極とリチウムイオンを可逆的に担持可能な物質からなる負極で構成されるハイブリッドキャパシタ、更にはリチウムイオンのドーピングを用いた二次電池に適用できる。
【0035】
電極層を構成する材料は、電気化学素子電極を得るために使用されるものであり、具体的には、少なくとも電極活物質および結着剤を含有し、必要に応じさらに導電材、溶解型樹脂などを含有する。
電極活物質は、電気化学素子の種類によって適宜選択される。リチウムイオン二次電池の正極用の電極活物質としては、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiFePO、LiFeVOなどのリチウム含有複合金属酸化物;TiS、TiS、非晶質MoSなどの遷移金属硫化物;Cu、非晶質VO・P、MoO、V、VO1などの遷移金属酸化物;が例示される。さらに、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子が挙げられる。
【0036】
リチウムイオン二次電池の負極用の電極活物質としては、例えば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メゾカーボンマイクロビーズ(MCMB)、及びピッチ系炭素繊維などの炭素質材料;ポリアセン等の導電性高分子などが挙げられる。これらの電極活物質は、電気化学素子の種類に応じて、単独でまたは二種類以上を組み合わせて使用することができる。電極活物質を組み合わせて使用する場合は、平均粒径又は粒径分布の異なる二種類以上の電極活物質を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
リチウムイオン二次電池の電極に使用する電極活物質は球形の粒子に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、電極成形時により高密度な電極が形成できる。また、重量平均粒子径1μm程度の細かな粒子と重量平均粒径3〜8μmの比較的大きな粒子の混合物や、0.5〜8μmにブロードな粒径分布を持つ粒子が好ましい。粒径が50μm以上の粒子は篩い分けなどにより除去して用いるのが好ましい。電極活物質のASTM D4164で規定されるタップ密度は特に制限されないが、正極では2g/cm以上、負極では0.6g/cm以上のものが好適に用いられる。
【0038】
電気二重層キャパシタ用の電極活物質としては、通常、炭素の同素体が用いられる。電気二重層キャパシタ用の電極活物質は、同じ重量でもより広い面積の界面を形成することが可能なもの、すなわち比表面積の大きいものが好ましい。具体的には、比表面積が30m/g以上、好ましくは500〜5,000m/g、より好ましくは1,000〜3,000m/gであることが好ましい。炭素の同素体の具体例としては、活性炭、ポリアセン、カーボンウィスカ及びグラファイト等が挙げられ、これらの粉末または繊維を使用することができる。電気二重層キャパシタ用の好ましい電極活物質は活性炭であり、具体的にはフェノール系、レーヨン系、アクリル系、ピッチ系、又はヤシガラ系等の活性炭を挙げることができる。これら炭素の同素体は、電気二重層キャパシタ用電極活物質として、単独でまたは二種類以上を組み合わせて使用することができる。炭素の同素体を組み合わせて使用する場合は、平均粒径又は粒径分布の異なる二種類以上の炭素の同素体を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
また、黒鉛類似の微結晶炭素を有し、その微結晶炭素の層間距離が拡大された非多孔性炭素を電極活物質として用いることができる。このような非多孔性炭素は、多層グラファイト構造の微結晶が発達した易黒鉛化炭を700〜850℃で乾留し、次いで苛性アルカリと共に800〜900℃で熱処理し、さらに必要に応じ加熱水蒸気により残存アルカリ成分を除くことで得られる。
電気二重層キャパシタ用の電極活物質として、重量平均粒子径が0.1〜100μm、好ましくは1〜50μm、更に好ましくは2〜10μmの粉末を用いると、電気二重層キャパシタ用電極の薄膜化が容易で、静電容量も高くできるので好ましい。
【0040】
ハイブリッドキャパシタの正極活物質としては、リチウムイオンと、例えばテトラフルオロボレートのようなアニオンを可逆的に担持できる物質からなる。かかる正極活物質としては、種々のものが使用できるが、活性炭、又は芳香族系縮合ポリマーの熱処理物であって、水素原子/炭素原子の原子比が0.50〜0.05であるポリアセン系骨格構造を有するポリアセン系有機半導体(PAS)が好ましい。
【0041】
一方、ハイブリッドキャパシタの負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に担持できる物質から形成される。好ましい負極活物質としては、黒鉛、難黒鉛化炭素、ハードカーボン、コークス等の炭素材料、上記正極活物質としても記載したポリアセン系物質(PAS)等を挙げることができる。これらの炭素材料及びPASは、フェノール樹脂等を炭化させ、必要に応じて賦活され、次いで粉砕したものが用いられる。
【0042】
また、必要に応じて電極層形成材料として用いられる導電材は、導電性を有する粒子状の炭素の同素体からなり、電気化学素子電極の導電性を向上させるものである。導電材の重量平均粒子径は、電極活物質の重量平均粒子径よりも小さいことが好ましく、通常0.001〜10μm、好ましくは0.05〜5μm、より好ましくは0.01〜1μmの範囲である。導電材の粒径がこの範囲にあると、より少ない使用量で高い導電性が得られる。導電材の具体例としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック(アクゾノーベル ケミカルズ ベスローテン フェンノートシャップ社の登録商標)などの導電性カーボンブラック;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;が挙げられる。これらの中でも、導電性カーボンブラックが好ましく、アセチレンブラックおよびファーネスブラックがより好ましい。これらの導電材は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
導電材の量は、電極活物質100重量部に対して、通常0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜15重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲である。導電材の量がこの範囲にある電極を使用すると電気化学素子の容量を高く且つ内部抵抗を低くすることができる。
【0044】
電極層形成に使用される結着剤は、結着力を有する化合物であれば特に制限はないが、分散型結着剤が好ましい。分散型結着剤とは、溶媒に分散する性質のある結着剤であり、例えば、フッ素系重合体、ジエン系重合体、アクリレート系重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン等の高分子化合物が挙げられ、より好ましくはフッ素系重合体、ジエン系重合体、及びアクリレート系重合体が挙げられる。これら結着剤は単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
フッ素系重合体はフッ素原子を含む単量体単位を含有する重合体である。フッ素系重合体中のフッ素を含有する単量体単位の割合は通常50重量%以上である。フッ素系重合体の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂が挙げられ、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0046】
ジエン系重合体は、共役ジエンの単独重合体もしくは共役ジエンを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体、またはそれらの水素添加物である。前記単量体混合物における共役ジエンの割合は通常40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上である。ジエン系重合体の具体例としては、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの共役ジエン単独重合体;カルボキシ変性されていてもよいスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)などの芳香族ビニル・共役ジエン共重合体;アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)などのシアン化ビニル・共役ジエン共重合体;水素化SBR、水素化NBRなどが挙げられる。
【0047】
アクリレート系重合体は、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルの単独重合体またはこれらを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体である。前記単量体混合物におけるアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルの割合は通常40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上である。アクリレート系重合体の具体例としては、アクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸・アクリロニトリル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸・メタクリロニトリル・ジエチレングリコールジメタクリレート共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・スチレン・メタクリル酸・エチレングリコールジメタクリレート共重合体、アクリル酸ブチル・アクリロニトリル・ジエチレングリコールジメタクリレート共重合体、およびアクリル酸ブチル・アクリル酸・トリメチロールプロパントリメタクリレート共重合体などの架橋型アクリレート系重合体;エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、およびエチレン・メタクリル酸エチル共重合体などのエチレンとアクリル酸(またはメタクリル酸)エステルとの共重合体;上記エチレンとアクリル酸(またはメタクリル酸)エステルとの共重合体にラジカル重合性単量体をグラフト重合させたグラフト重合体;などが挙げられる。なお、上記グラフト重合体に用いられるラジカル重合性単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、メタクリル酸などが挙げられる。その他に、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体などが結着剤として使用できる。
【0048】
これらの中で、集電体との結着性や表面平滑性に優れた活物質層が得られ、また、高静電容量で且つ低内部抵抗の電気化学素子用電極が製造できるという観点から、ジエン系重合体および架橋型アクリレート系重合体が好ましく、架橋型アクリレート系重合体が特に好ましい。
【0049】
結着剤は、その形状によって特に制限はないが、結着性が良く、また、作成した電極の静電容量の低下や充放電の繰り返しによる劣化を抑えることができるため、粒子状であることが好ましい。粒子状の結着剤としては、例えば、ラテックスのごとき分散型結着剤の粒子が水に分散した状態のものや、このような分散液を乾燥して得られる粉末状のものが挙げられる。
【0050】
また、結着剤は、2種以上の単量体混合物を段階的に重合することにより得られるコアシェル構造を有する粒子であっても良い。コアシェル構造を有する結着剤は、第一段目の重合体を与える単量体をまず重合しシード粒子を得、このシード粒子の存在下に、第二段目となる重合体を与える単量体を重合することにより製造することが好ましい。
【0051】
上記コアシェル構造を有する結着剤のコアとシェルの割合は、特に限定されないが、質量比でコア部:シェル部が通常50:50〜99:1、好ましくは60:40〜99:1、より好ましくは70:30〜99:1である。コア部及びシェル部を構成する高分子化合物は上記の高分子化合物の中から選択できる。コア部とシェル部は、その一方が0℃未満のガラス転移温度を有し、他方が0℃以上のガラス転移温度を有するものであることが好ましい。また、コア部とシェル部とのガラス転移温度の差は、通常20℃以上、好ましくは50℃以上である。
【0052】
粒子状の結着剤は、その数平均粒子径によって格別な限定はないが、通常は0.0001〜100μm、好ましくは0.001〜10μm、より好ましくは0.01〜1μmの数平均粒径を有するものである。結着剤の数平均粒子径がこの範囲であるときは、少量の結着剤の使用でも優れた結着力を活物質層に与えることができる。ここで、数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡写真で無作為に選んだ結着剤粒子100個の径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均粒径である。粒子の形状は球形、異形、どちらでもかまわない。
【0053】
この結着剤の使用量は、電極活物質100重量部に対して、通常は0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲である。
【0054】
電極層形成材料には上記の他に溶解型樹脂を含有していることが好ましい。溶解型樹脂とは、溶媒に溶解する樹脂であり、好適には後述する分散液の調製時に溶媒に溶解させて用いられて、電極活物質、導電材等を溶媒に均一に分散させる作用を有するものである。溶解型樹脂としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリアクリル酸(またはメタクリル酸)ナトリウムなどのポリアクリル酸(またはメタクリル酸)塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド;ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体などが挙げられる。これらの溶解型樹脂は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロースまたはそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が特に好ましい。溶解型樹脂の使用量は、格別な限定はないが、電極活物質100重量部に対して、通常は0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部、より好ましくは0.8〜2重量部の範囲である。
【0055】
電極層形成材料には、さらに必要に応じてその他の添加剤を含有していてもよい。その他の添加剤としては、例えば、界面活性剤がある。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、ノニオニックアニオンなどの両性の界面活性剤が挙げられるが、中でもアニオン性若しくはノニオン性の界面活性剤で熱分解しやすいものが好ましい。界面活性剤の量は、格別な限定はないが、電極活物質100重量部に対して0〜50重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0056】
また、金属繊維シートからなる集電体上に形成される電極層と集電体の厚みの関係は下記を満たすことが必要である。
電極層と集電体の厚みを合わせた厚みが50〜1000μmであって、且つ
(電極層と集電体を合わせた厚み)/(集電体の厚み)=1〜20である。
上記比率が1より小さいと、セルに占める集電体の比率が大きくなり、セルのエネルギー密度が小さくなる。また上記比率が20よりも大きくなると、電極層に電解液から供給されるイオン量が少なくなり、抵抗が大きくなる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0058】
先ず、本発明の集電体として使用する、金属繊維シートの製造方法(1)〜(4)について示す。
金属繊維シートの製造方法
湿式抄紙法による金属繊維シートの製造方法の例
繊維径8μm、繊維長4mmのステンレス鋼繊維(材質:SUS316L、商品名:サスミック、東京製鋼社製)95重量部、および水中溶解温度70℃のポリビニルアルコール繊維(商品名:フィブリボンドVPB105−1、クラレ社製)5重量部からなるスラリーを、湿式抄紙法によって抄造し、脱水プレス、加熱乾燥して、米坪量64g/mのシートを得た。得られたシートを、表面温度が160℃の加熱ロールを用いて、線圧400kg/cm、速度5m/minの条件で加熱圧着し、厚さ33μm、空隙率72%のステンレス鋼繊維シートを得た。
【0059】
金属繊維焼結シートの製造方法の例
米坪量以外は(1)記載の金属繊維シートと同様にして湿式抄紙法によって得られたシートを水素ガス雰囲気の連続焼結炉(メッシュベルト付きろう付け炉)を用い、熱処理温度1120℃、速度15cm/minで焼結処理を行い、米坪量64g/m、厚さ27μm、空隙率68%の金属繊維焼結シートを得た。
【0060】
熱硬化型導電性接着剤処理金属繊維シートの製造方法の例
(金属繊維シートの作製)
繊維径8μm、繊維長4mmのステンレス繊維(材質:SUS316L、商品名;サスミック、東京製綱社製)95部、及び結着用繊維としてのポリビニルアルコール繊維(水中溶解温度;70℃、商品名;フィブリボンドVPB105−1、クラレ社製)5部からなるスラリーを湿式抄造機に供して抄造し、脱水乾燥して米坪量62g/mの金属繊維シートを得た。
【0061】
(熱硬化型導電性接着フィルムの作製)
アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBRゴム)を固形分で35重量部(NIPOL 1021、日本ゼオン社製)、ビスフェノールA型レゾールフェノール樹脂を固形分で35重量部(CKM−908、昭和高分子社製)、デンカブラック30重量部(電気化学社製)をメチルエチルケトン/トルエン(重量比70/30)の混合溶媒に固形分濃度が10%になるように投入し、サンドミルで12時間溶解、分散して塗料を作製した。
【0062】
得られた塗料を25μm径のフィルターを用いて濾過処理をした。該濾過後の塗料に上記で作製した金属繊維シートに目付量が5g/mとなるように吹き付けた後線圧50kg/cm、温度100℃でロールプレス処理を行った。次いで130℃の乾燥条件で溶剤分を揮発除去して、半硬化状(Bステージ)とした。
【0063】
実施例、比較例では、金属繊維の種類、金属繊維の径、金属繊維の長さを選択し、上記に記載した方法を選択して金属繊維シートを作製した。
その結果を表1、2および3に示した。
【0064】
次に、上記で作製した金属繊維シートを集電体として用いた電気二重層キャパシタの製造方法およびその特性評価結果を示す。
【0065】
電気二重層キャパシタ用電極の作製(乾式成形による電極の作製例)
(電極層形成に使用する複合粒子の作製)
電極活物質(比表面積2000m/g及び重量平均粒子径5μmの活性炭)100部、導電材(アセチレンブラック「デンカブラック粉状」:電気化学工業社製)5部、分散型結着剤(数平均粒子径0.15μm、ガラス転移温度−40℃の架橋型アクリレート系重合体の40%水分散体「AD211」:日本ゼオン社製)を固形分で7.5部、溶解型樹脂(カルボキシメチルセルロースの1.5%水溶液「DN−800H」:ダイセル化学工業社製)を固形分で1.4部、及びイオン交換水231.8部を「T.K.ホモミクサー」(特殊機化工業社製)で攪拌混合して、固形分25%のスラリーを得た。次いで、スラリーを、スプレー乾燥機を用いて150℃の熱風で噴霧乾燥し、重量平均粒子径50μmの球状の複合粒子として電極材料を得た。この複合粒子の重量平均粒径は、粉体測定装置(パウダテスタPT−R:ホソカワミクロン社製)を用いて測定した。
なお、電気二重層キャパシタの実施例、比較例では、すべて上記で作製した複合粒子を用いた。
【0066】
(電極用シートの作製)
得られた複合粒子を集電体として用いる金属繊維シートとともに図2に示すようなロールプレス機を用いて電極を作製した。図2の1に示すように集電体として用いる金属繊維シートをプレスロール間に供給し、図2の3に示す粉体供給装置を用いて複合粒子を図2の2に示すような成形用ロール2(ロール温度120℃、プレス線圧4kN/cm)に供給して、成形速度0.33m/秒で加圧成形した。電極層の片面の平均厚さ200μm、電極シートの平均密度0.57g/cmを目標にシート状成形体を作製した。
【0067】
なお、乾式成形による電気二重層キャパシタ用電極の作製では、集電体を、表1および表2に記載した各実施例あるいは比較例で使用する集電体に変更して行った。
但し、実施例5では、電極シート成形後、更に電極シートを170℃で30分間熱処理し、熱硬化型導電性接着剤を熱硬化させた。
なお、比較例2では金属繊維シートが成形時破断し、電極シートが得られなかった。
【0068】
電極シートの各特性は、下記の方法に従い測定した。
(1)電極シート密度
シート状成形体を40mm×60mmの大きさに切り出し、その重量と体積を測定して計算した。
(2)電極シートの厚み及びばらつき
電極用シートの厚み測定は明産社製接触式ウェブ厚さ計RC−101型を用い、0.5mm間隔で20点の成形シートトータルの厚みを測定し平均値とばらつきを求めた。表1、および2に電極シートの厚み、厚みのばらつき、および電極シートの密度を示した。
【0069】
次に比較例で用いた湿式成形による電極シートの製造例を示す。
電気二重層キャパシタ用電極の作製(湿式成形による電極の作製例)
(電極用スラリーの作製)
電極活物質(比表面積2000m/g及び重量平均粒子径5μmの活性炭)100部、導電材(アセチレンブラック「デンカブラック粉状」:電気化学工業社製)5部、分散型結着剤(数平均粒子径0.15μm、ガラス転移温度−40℃の架橋型アクリレート系重合体の40%水分散体「AD211」:日本ゼオン社製)を固形分で5.6部、溶解型樹脂(カルボキシメチルセルロースの1.5%水溶液「DN−800H」:ダイセル化学工業社製)を固形分で1.4部、及びイオン交換水を全固形分濃度35%となるように混合し、「T.K.ホモミクサー」(特殊機化工業社製)で攪拌混合して、電極用スラリーを調製した。
【0070】
(電極用シートの作製)
表2の比較例1に示す、厚み60μmの金属繊維集電体上に、前記電極用スラリー組成物をドクターブレードによって、5m/minの電極成形速度で塗布し、60℃で20分間および120℃で20分間乾燥した後、更に塗布していない裏面の金属繊維集電体上にも同様の方法でスラリー組成物を塗布、乾燥し、厚さ362μmの電極用シートを得た。
【0071】
比較例6
上記電極用スラリーを用いて、比較例1の金属繊維シートを表2に示す、比較例6の集電体に変えて塗布を行ったが、電極用スラリーが金属繊維を透過して、電極用シートを得ることができなかった。
【0072】
(測定用セルの作製)
作製した電極用シートを、電極層が形成されていない金属繊維シート部を縦2cm×横2cmを残し、電極層が形成されている部分を縦5cm×横5cmになるように切り抜いた。これに縦7cm×横1cm×厚み0.01cmのアルミからなるタブ材を未塗工部に超音波溶接した。これを2組用意し、160℃で40分間乾燥した後、2組の電極組成物層面を対向させ、縦6cm×横6cm、厚さ35μmのレーヨン系多孔膜からなるセパレータを挟んだ。これをラミネートフィルム内に収納し、空気が残らないように電解液を真空含浸させた後にラミネーターでラミネートフィルムを圧着し、密閉して電気二重層キャパシタを製造した。なお、電解液としては、プロピレンカーボネートにホウフッ化テトラエチルアンモニウムを1.4モル/Lの濃度で溶解させたものを用いた。また、加熱処理後の電極の保管およびキャパシタの組み立ては、露点温度−60℃のドライルームで行った。得られた電気二重層キャパシタの静電容量および内部抵抗を表1に示す。なお、特性評価は下記により行った。
【0073】
電気二重層キャパシタの特性評価方法
電気二重層キャパシタ電気特性は、電気二重層キャパシタの充放電試験により求めた。充電電流は、電極の単位面積あたりの電流値が3.3mA/cmとなる電流値を用いて行い、電圧が2.7Vに達したら、その電圧を保って定電圧充電とし、充電電流の電流値が0.165mA/cmまで低下した時点で充電を完了した。次いで、充電終了直後に定電流放電を充電時に用いたのと同様な電流値で0Vに達するまで行った。静電容量は放電時の電力量からエネルギー換算法を用いて算出した。
【0074】
次に、この静電容量を用いて、電気二重層キャパシタの充放電速度が一定になるように5mA/Fの定電流で充電を開始し、定電流充電と定電圧充電の充電時間を合わせて20分間行った時点で充電完了とし、次いで、充電終了直後に定電流放電を充電時に用いたのと同様な電流値で0Vに達するまで行った。内部抵抗は放電開始0.2秒後の電圧を用いて算出し、体積当たりの抵抗率として表した。静電容量は放電時の電力量からエネルギー換算法を用いて算出し、電気二重層キャパシタに使用している電極組成物層の体積当たりの静電容量密度として算出した。結果を表1および2に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
以上、電気二重層キャパシタの実施例および比較例を表1、および2に示したが、本発明の金属繊維からなる集電体を用いた実施例1〜5の電極用シートは厚みのばらつきが小さく、高密度であることがわかる。また、キャパシタ電気特性を見ても、静電容量が高く、体積抵抗率も低い。一方湿式成形法で電極シートを作製した比較例1では、塗布スピードを上げると電極層の塗布端面が厚くなるため塗布スピードを落として塗布した。また電極層の厚みも片面150μmでの塗布が限界であった。電極層厚みが薄いにもかかわらず、体積抵抗率は片面200μmの本発明の実施例と同等であった。また金属繊維が太い比較例2では、湿式成形法で電極層の形成を試みたが、スラリーが金属繊維シートに浸透し、電極シートが薄くなった。そのため電極層密度、電気特性評価は行わなかった。また繊維径が2μmよりも細い1μmの比較例3では作製した金属繊維シートを用いて電極層の成形を行ったが、シートが破断し、電極用シートを得ることができなかった。また繊維径が20μmよりも太い30μmの繊維径の金属繊維を用いた比較例4、あるいは繊維長さの長い比較例5においては金属繊維シートの地合いが悪くなり、そのため成形して得られた電極用シートの厚みのばらつきも大きくなった。その結果、キャパシタ電気特性も悪化した。
また、比較例6は金属繊維の径を大きく、長さを長くした。この場合、シートの空隙率が大きくなったためか、複合粒子が金属繊維シートに入り込み、電極層が薄くなった。そのためキャパシタ電気特性の評価は行わなかった。比較例7は金属繊維シートの厚みを厚くした例である。比較例7の結果を見る限り悪いところは見当たらないが、同じ大きさのセルに仕込んだ場合、集電体の占める割合が多くなり、セルの容量が小さくなってしまう。また、比較例8、9では、成形速度を変化させて、電極層の厚みを大きくして、(電極層と集電体を合わせた厚み)と(集電体)の厚みの比率の関係を見た例である。比較例8と9の電極層の厚みはともに片面で約400μmだが、集電体の厚みが異なり、比較例8では(電極層と集電体を合わせた厚み)/(集電体の厚み)が20を超えており、(電極層と集電体を合わせた厚み)/(集電体の厚み)が20を超えていない比較例9に比べて体積抵抗値が大きな値を示している。
【産業上の利用可能性】
【0078】
金属繊維からなる集電体を用いることで、電気化学セルの高容量化、低抵抗化を実現することができる。更には乾式成形法を用いることで生産性良く製造することができる。そのため、電気自動車又はハイブリッド自動車への応用、太陽電池と併用したソーラー発電エネルギー貯蔵システム、電池と組み合わせたロードレベリング電源等の様々な用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】従来の電極用シートの製造装置の一例を示す図。
【図2】本発明の電極用シートの製造装置の一例を示す図。
【符号の説明】
【0080】
図1の符号の説明
1:集電体
2:電気化学素子電極用シート
3:複合粒子
4:仕切板
5.成形用ロール
図2の符号の説明
1:集電体
2:成形用ロール
3:粉体供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属繊維シートからなる集電体上に電気化学素子電極の電極材料からなる粉体を供給し粉体成形することを特徴とする電気化学素子電極用シートの製造方法。
【請求項2】
金属繊維シートからなる集電体の厚みが10〜200μmであることを特徴とする請求項1記載の電気化学素子電極用シートの製造方法
【請求項3】
金属繊維シートからなる集電体上に形成される電極層と集電体を合わせた厚みが50〜1000μmであって、且つ
(電極層と集電体を合わせた厚み)/(集電体の厚み)=1〜20
であることを特徴とする請求項1,2記載の電気化学素子電極用シートの製造方法。
【請求項4】
金属繊維からなる集電体上に供給される粉体が、電極活物質および導電材が結着剤により結着してなる複合粒子が相互に結合されて形成されていることを特徴とする請求項1〜3記載の電気化学素子用電極用シートの製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の複合粒子が電極活物質、導電材、結着剤及び分散剤を含有するスラリーを得る工程、前記スラリーを噴霧乾燥して、噴霧造粒する工程で得られることを特徴とする請求項1〜4記載の電気化学素子電極用シートの製造方法。
【請求項6】
金属繊維が、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、銅、金、白金、チタン、その他の合金からなることを特徴とする請求項1〜5記載の電気化学素子電極用シートの製造方法。
【請求項7】
金属繊維表面が、その金属繊維よりも低い抵抗率を有する金属で被覆されていることを特徴とする請求項1〜6記載の電気化学素子電極用シートの製造方法。
【請求項8】
金属繊維が、繊維径2〜20μm、繊維長1〜12mmの金属繊維及び結着剤繊維からなるスラリーを湿式抄紙法によりシート化して得られることを特徴とする請求項1〜6記載の電気化学素子電極用シートの製造方法。
【請求項9】
金属繊維が、繊維径2〜20μm、繊維長1〜12mmの金属繊維及び結着剤繊維からなるスラリーを湿式抄紙法によりシート化し、更にシートを水素ガス雰囲気中で繊維間を焼結することを特徴とする請求項1〜6記載の電気化学素子電極用シートの製造方法。
【請求項10】
金属繊維が繊維径2〜20μm、繊維長1〜12mmの金属繊維及び結着剤繊維からなるスラリーを湿式抄紙法によりシート化し、更にシートを水素ガス雰囲気中で繊維間を焼結する際、焼結シートを金属繊維よりも低い抵抗率を有する金属で被覆することを特徴とする請求項1〜6記載の電気化学素子電極用シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−212113(P2009−212113A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50458(P2008−50458)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】