説明

露光に用いられるフォトマスク

【課題】フォトマスクを、パターンが描かれた中央部分とその周囲の力伝達部分とに分けて作成し、その後、接合することにより、材料費の低減および新たな設備投資の回避の可能性をもたらす。
【解決手段】フォトマスク1は、パターン表示領域5を含む中央部分3と、中央部分3の外周縁部を取り囲む力伝達部分4とに分けて作成される。両者は粘着テープ7で互いに接合される。力伝達部分4は、中央部分3を弾性的に変形させるための力付与手段と連結するための連結部(孔)8を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状のフォトマスクの周縁に力を加えて該フォトマスクを弾性的に変形させることにより、該フォトマスク上に描かれた、複数の位置合わせマークを含むパターンの寸法および/または形状を変え、それによって前記フォトマスクと基板とを位置合わせした後、前記パターンを前記基板上に転写する露光方法に用いられるフォトマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
上述した露光方法は、特許第3402681号に開示されている。その原理を図5および図6に基づいて説明する。図示するように、フォトマスク101の周囲には、フォトマスク101の周縁部に引っ張り力を与えるための複数のアクチュエータ102が力付与手段として設けられている。アクチュエータ102は、フォトマスク101を取り囲むようにしてベース部材103に取り付けられている。アクチュエータ102の可動端部104にはフック105が形成されている。
【0003】
一方、フォトマスク101の周縁部には複数の孔(長孔)106が形成されている。孔106は、アクチュエータ102のフック105を受け入れてこれと係合し、力付与手段としてのアクチュエータ102の引っ張り力をフォトマスク101に伝達する連結部を構成している。
【0004】
フォトマスク101の平面性を維持するための透明なガラス板107が、ベース部材103によって支持されている。
基板108がフォトマスク101に対向する位置に配置される。基板108は、基板支持部材109上に支持されており、フォトマスク101との間の間隙量を可変とされている。
【0005】
フォトマスク101の、基板108と反対の側には、CCDカメラ110が配置されている。CCDカメラ110は、その位置を変えることができ、フォトマスク101上に描かれた位置合わせマーク111(図5)と基板108上に描かれた位置合わせマーク116(図8)とを同時に読みとることができる。なお、フォトマスク101上の位置合わせマーク111間のピッチは、基板108上の位置合わせマーク116間のピッチよりも若干小さくなるようになされている。
【0006】
図5において二点鎖線Bで囲んだフォトマスク101の領域は、その中に位置合わせマーク111を含むパターンが描かれるところのパターン表示領域112として認識することができる。また、パターン表示領域112の周囲を取り囲むフォトマスク101の領域は、フォトマスク101を力付与手段としてのアクチュエータ102に連結して力を伝えるための領域である力伝達領域113として認識することができる。
【0007】
フォトマスク101と基板108とを位置合わせするには、まず、双方に描かれた位置合わせマークが重なった状態をCCDカメラ110で読みとり、位置ずれ量のデータに基づいてフォトマスク101または基板108を移動させ、各位置合わせマークにおける位置ずれ量を平均化する。
【0008】
次いで、アクチュエータ102を作動させてフォトマスク101に引っ張り力を与えることにより、位置合わせマーク111を含むパターンの寸法および/または形状を変え、フォトマスク101の位置合わせマーク111と基板108の位置合わせマーク116とが高い精度で重なり合うようにする。
【0009】
このようにしてフォトマスク101と基板108との位置合わせが終了したならば、フォトマスク101を通して露光用の光114(図6)を基板108に照射し、フォトマスク101のパターン表示領域112内に描かれたパターンを基板108上に転写する。パターンは高い寸法精度および高い位置合わせ精度で基板108上に転写される。
【特許文献1】特許第3402681号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した露光方法に用いられてきた従来のフォトマスクは、それ以前に用いられていたフォトマスクよりも必然的に大きかった。パターンが描かれるところのパターン表示領域112の周囲に、力伝達領域113を設ける必要があるからである。露光時にフォトマスクの外周縁を単に支持するだけであれば、パターン表示領域112の周囲に狭幅の「支持用領域」を設ければよい。しかし、力付与手段を連結するとなると、連結用の孔を形成する必要があるばかりでなく、個々のアクチュエータの引っ張り力によるフォトマスクの局所的歪みがパターンに直接影響しないようにするため、力伝達領域113の幅をかなり大きくとらなければならない。その結果、高価な材料から構成されるフォトマスクを大きくせざるを得なかった。
【0011】
従来のフォトマスク101の大きさとそれ以前のフォトマスクの大きさとを図7で比較してみる。二点鎖線Bで囲まれたパターン表示領域112の面積に対して、従来のフォトマスク101の面積は約2.6倍であるが、二点鎖線Cで示されるそれ以前のフォトマスクの面積はパターン表示領域112の約1.6倍だった。これは、パターン表示領域112の周囲の領域が、従来のフォトマスク101では大きな力伝達領域113とせざるを得ないのに対し、それ以前のフォトマスクでは小さな支持用領域115でよかったためである。
【0012】
図8は、フォトマスクに対向して配置される基板108とその上に形成された位置合わせマーク116とを示す平面図である。フォトマスクと基板108とを位置合わせした後、フォトマスク上に描かれたパターンが露光によって基板108上に転写される。基板108に比べ、フォトマスク101は約2.5倍以上の大きさを有するが、その半分以上は高価なフォトマスク材料で作成される必要性のない力伝達領域113である。
【0013】
フォトマスクが大きくなることによってもたらされる問題は、フォトマスク製作費の増大だけではない。大きなフォトマスクは現状のフォトマスク描画装置では対応できないのである。対応可能な描画装置を求めるために、新たな設備投資が必要となる。
【0014】
そこで本発明の課題は、力伝達領域を含む部分とパターン表示領域を含む中央部分とを別個に作成した後に接合してフォトマスクを形成することにより、材料費の低減および新たな設備投資の回避の可能性をもたらすことである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明によれば、
フィルム状のフォトマスクの周縁に力を加えて該フォトマスクを弾性的に変形させることにより、該フォトマスク上に描かれた、複数の位置合わせマークを含むパターンの寸法および/または形状を変え、それによって前記フォトマスクと基板とを位置合わせした後、前記パターンを前記基板上に転写する露光に用いられるフォトマスクであって、
前記パターンが描かれた中央部分と、
該中央部分とは別個に作成され、全体として前記中央部分の外周縁部を取り囲むように配置され且つ該中央部分の外周縁部に接合された力伝達部分にして、前記中央部分を弾性的に変形させるための力付与手段と連結するための連結部を有する力伝達部分と、
を備えてなるフォトマスクが提供される。
【0016】
前記力伝達部分を、前記中央部分の各辺ごとに個別に作成された複数の帯状部材からなるものとし、該帯状部材を前記中央部分の各辺ごとに接合することによりフォトマスクを形成してもよい。
【0017】
あるいはまた、前記力伝達部分を、単一の額縁状部材として作成し、該額縁状部材を前記中央部分に接合することによりフォトマスクを形成してもよい。
あるいはまた、前記力伝達部分を、前記中央部分の互いに隣接する2つの辺ごとに作成された一対のL字状部材からなるものとし、該一対のL字状部材を前記中央部分に接合することによりフォトマスクを形成してもよい。
【0018】
前記中央部分および前記力伝達部は、互いの縁端面を対面させた状態で、該対面部の少なくとも片面側に粘着テープを貼ることにより互いに接合することができる。
前記連結部は、力付与手段としてのアクチュエータの可動端部に形成されたフックを掛けるための複数の孔を構成することができる。
【0019】
前記力伝達部分は、前記中央部分を構成する材料と同等のヤング係数を有する材料で構成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のフォトマスクによれば、パターンが描かれる中央部分と、中央部分の周囲において、中央部分を弾性的に変形させる力を伝達する力伝達部分とが別個に作成されるので、力伝達部分を高価なフォトマスク材料で作る必要はなく、より安価な材料で構成することができる。それにより、高価なフォトマスク材料を使用する部分が少なくなり、フォトマスク全体としての製作費を低減させることができる。
【0021】
また、フォトマスクにパターンを描く場合には、力伝達部分とは分離した状態の中央部分のみを描画装置にセットすればよい。中央部分は現状の描画装置で対応できる大きさなので、新たな設備投資は必要ない。
【0022】
さらに、力伝達部分を、中央部分を構成する材料と同等のヤング係数を有する材料で構成した場合には、力伝達部分が中央部分と同じように伸びるので、2つの異なる部材を接合した構造であっても、全体として捩れたり歪んだりすることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は、本発明の一実施形態によるフォトマスク1の平面図である。フォトマスク1は、複数の位置合わせマーク2を含むパターンが描かれた中央部分3と、全体として中央部分3の外周縁部を取り囲むように配置された力伝達部分4とを備える。力伝達部分4は、中央部分3とは別個に作成される。
【0024】
中央部分3は、二点鎖線Dで囲んだ領域、すなわち、その中にパターンが描かれるところのパターン表示領域5と、その周囲を取り囲む取り付け用領域6とに区分することができる。中央部分3は、従来のフォトマスクを形成する材料と同じまたは同等の材料で構成される。
【0025】
この実施態様において、力伝達部分4は、図2に示すように、中央部分3の各辺ごとに個別に作成された4つの帯状部材4a−4dからなる。それぞれの帯状部材4a−4dは、中央部分3の各辺ごとに接合される。
【0026】
接合に際しては、中央部分3の取り付け用領域6の外周縁端面とこれに対向する各帯状部材4a−4dの縁端面とを対面させた状態にし、双方の縁端面に沿って粘着テープ7(図1)を貼り付ける。粘着テープ7は、縁端面の対面部の片側面にのみ貼ってもよいし、両面に貼ってもよい。双方の縁端面は互いに接触させてもいいし、近接させるようにしてもよい。また、粘着テープ7に代えて、または、粘着テープ7とともに、中央部分3の取り付け用領域6の外周縁端面およびこれに対向する各帯状部材4a−4dの縁端面間に接着剤を塗布してもよい。他の適当な機械的接合手段を利用してもよい。接合寸法精度を高くするために、冶具を使用することが好ましい。
【0027】
各帯状部材4a−4dには、力付与手段としてのアクチュエータの可動端部に形成されたフック(図示せず)を掛けるための複数の孔(長孔)8が設けられている。これらの孔8は、中央部分3をその面内で弾性的に変形させるための力付与手段と連結するための連結部を構成する。
【0028】
他の連結部の態様としては、力付与手段の可動端部と互いに係合して力を伝達可能なように各帯状部材4a−4dに形成された凹凸形状部(図示せず)などを挙げることができる。
【0029】
力伝達部分4にはパターンは描かれない。したがって、力伝達部分4を中央部分3と同じように高価なフォトマスク材料で構成する必要はない。より安価な材料を採用することができる。具体的には、中央部分3は通常のフォトマスク材料である、PET(ポリエチレンテレフタレート)に感光材を塗布したもので作成し、力伝達部分4は、感光材を塗布しない状態のPETで作成するとよい。両者のヤング率は実質的に同一なので、張力が加わったときに同じ伸び方をする。したがって、別部材を接合した構造であるにもかかわらず、引っ張ったときに捩れや歪みが生じない。なお、力伝達部分4に用いるPET材は、感光材を塗布しなくてよいばかりでなく、中央部分3に用いるPET材のように「無傷」を要求されないので、その点でも安価である。
【0030】
図3は、本発明の別の実施形態によるフォトマスク11の平面図である。フォトマスク11は、複数の位置合わせマーク2を含むパターンが描かれた中央部分3と、全体として中央部分3の外周縁部を取り囲むように配置された力伝達部分14とを備える。力伝達部分14は、中央部分3とは別個に作成される。
【0031】
この実施形態においては、力伝達部分14は図4に示すように単一の額縁状部材として作成される。力伝達部分14の内周縁部の寸法および形状は、力伝達部分14と中央部分3とを合わせたときに、力伝達部分14の内周縁部が画成する空間内に中央部分3の外周縁部がぴったりと嵌るように決められる。
【0032】
図3に示すように、額縁状の力伝達部分14の空間内に中央部分3が嵌るような状態とした後、粘着テープ7で力伝達部分14および中央部分3の双方を互いに接合する。接合および力伝達部分14を構成する材料については、図1および図2の実施形態に関して説明したように、さまざまな手段を選択することができる。
【0033】
さらに別の実施形態(図示せず)においては、力伝達部分が、中央部分の互いに隣接する2つの辺ごとに作成された一対のL字形部材からなる。一対のL字形部材は、互いに組み合わせることにより中央部分の外周縁部を取り囲むような寸法および形状とされる。力伝達部分と中央部分との接合および力伝達部分を構成する材料については、他の実施形態の場合と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態によるフォトマスクの平面図。
【図2】図1のフォトマスクの構成要素を接合する前の状態を示す分解平面図。
【図3】本発明の別の実施形態によるフォトマスクの平面図。
【図4】図3のフォトマスクを形成する前の力伝達部分を示す分解平面図。
【図5】従来のフォトマスクを力付与手段と組み合わせて示す平面図。
【図6】図5のフォトマスクおよび力付与手段を基板とともに示す縦断面図であり、図5におけるVI−VI矢視図に相当する。
【図7】従来のフォトマスクとそれ以前のフォトマスクの大きさを比較するための平面図。
【図8】基板をその上に描かれた位置合わせマークとともに示す平面図。
【符号の説明】
【0035】
1 フォトマスク、2 フォトマスクの位置合わせマーク、3 中央部分、4 力伝達部分、5 パターン表示領域、6 取り付け用領域、7 粘着テープ、8 孔(連結部)、11 フォトマスク、14 力伝達部分、101 フォトマスク、102 アクチュエータ(力付与手段)、103 ベース部材、104 可動端部、105 フック、106 孔、107 ガラス板、108 基板、109 基板支持部材、110 CCDカメラ、111 フォトマスクの位置合わせマーク、112 パターン表示領域、113 力伝達領域、114 光、115 支持用領域、116 基板の位置合わせマーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状のフォトマスクの周縁に力を加えて該フォトマスクを弾性的に変形させることにより、該フォトマスク上に描かれた、複数の位置合わせマークを含むパターンの寸法および/または形状を変え、それによって前記フォトマスクと基板とを位置合わせした後、前記パターンを前記基板上に転写する露光に用いられるフォトマスクであって、
前記パターンが描かれた中央部分と、
該中央部分とは別個に作成され、全体として前記中央部分の外周縁部を取り囲むように配置され且つ該中央部分の外周縁部に接合された力伝達部分にして、前記中央部分を弾性的に変形させるための力付与手段と連結するための連結部を有する力伝達部分と、
を備えてなるフォトマスク。
【請求項2】
請求項1に記載のフォトマスクにおいて、前記力伝達部分が、前記中央部分の各辺ごとに個別に作成された複数の帯状部材からなり、該帯状部材が前記中央部分の各辺ごとに接合されている、フォトマスク。
【請求項3】
請求項1に記載のフォトマスクにおいて、前記力伝達部分が、単一の額縁状部材として作成され、該額縁状部材が前記中央部分に接合されている、フォトマスク。
【請求項4】
請求項1に記載のフォトマスクにおいて、前記力伝達部分が、前記中央部分の互いに隣接する2つの辺ごとに作成された一対のL字状部材からなり、該一対のL字状部材が前記中央部分に接合されている、フォトマスク。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のフォトマスクにおいて、前記中央部分および前記力伝達部は、互いの縁端面を対面させた状態で、該対面部の少なくとも片面側に粘着テープを貼ることにより互いに接合されている、フォトマスク。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のフォトマスクにおいて、前記連結部が、力付与手段としてのアクチュエータの可動端部に形成されたフックを掛けるための複数の孔を構成している、フォトマスク。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載のフォトマスクにおいて、前記力伝達部分が、前記中央部分を構成する材料と同等のヤング係数を有する材料で構成されている、フォトマスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−168935(P2009−168935A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4570(P2008−4570)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000106162)サンエー技研株式会社 (19)
【Fターム(参考)】