説明

非水電解液およびリチウム二次電池

【課題】電気容量やサイクル特性並びに保存特性に優れたリチウム二次電池、そしてそのようなリチウム二次電池の製造に有利に用いることのできる非水電解液を提供する。
【解決手段】環状カーボネート、鎖状カーボネート及びビニレンカーボネートを含む非水溶媒に電解質が溶解されてなり、還元電位がリチウム基準で1ボルト未満の、及び/又は有機塩素化合物の混入量が少ない非水電解液、そしてこの非水電解液と、結晶面間隔(d002)が0.34nm以下のグラファイト負極と正極とを組合わせ用いたリチウム二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液、そして該非水電解液を用いたリチウム二次電池に関する。本発明は特に、電気容量やサイクル特性並びに保存特性に優れたリチウム二次電池、そしてそのようなリチウム二次電池の製造に有利に用いることのできる非水電解液と非水溶媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータや携帯電話、カメラ一体型ビデオカメラなどの小型電子機器の普及が目覚ましく、これらの小型電子機器の駆動用電源として、小型、軽量でかつ高容量の二次電池が強く求められている。小型、軽量でかつ高容量の二次電池という観点から、コバルト酸リチウムやニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどの複合酸化物を正極活物質とし、そしてリチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な炭素
材料を負極活物質として用い、かつ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとからなる非水溶媒にリチウム塩を溶解させた非水電解液を用いるリチウム二次電池が好適とされ、さらなる改良を目指して、目下、研究開発が活発に進められている。
【0003】
リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な炭素材料の中でも、特に黒鉛(グラファイト)は、電気容量が大きく、かつ電位の平坦性が高いなどの好ましい特徴を持つため、リチウム二次電池用負極活物質として最適な化合物の一つとされており多用されている。
【0004】
しかしながら、黒鉛系材料を負極活物質として用いたリチウム二次電池では、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、あるいはブチレンカーボネート(BC)などの環状カーボネートを電解液溶媒として使用すると、黒鉛系負極活物質によって、環状カーボネートが分解され、その際に炭素材料の表面で剥離が発生して、電気容量やサイクル特性、保存特性などの電池特性が低下する傾向がある。特にプロピレンカーボネートを含む電解液ではこの現象が顕著に現れ、初回充電時にプロピレンカーボネートがグラファイト負極の表面分解され、充放電が困難になるという問題がある。
【0005】
黒鉛系負極活物質による電解液中の環状カーボネートの分解および炭素材料の剥離を抑える方法として、種々の化合物の添加が提案されている。例えば、非特許文献1には、プロピレンカーボネートとエチレンカーボネートとを主構成成分とする電解液に、クラウンエーテル化合物(12−クラウン−4)を添加することによって、電解液の分解が抑制されることが提案されている。しかしながら、この場合には、高価なクラウンエーテルを、相当量加えなければ分解抑制効果が小さく、また達成される電池特性も未だ十分ではない。
【0006】
また、特許文献1には、高誘電定数を有する第1の溶媒と低粘度を有する第2の溶媒とを含む、少なくとも二種の非プロトン性有機溶媒の混合物に、さらに少なくとも一個の不飽和結合を含み且つ不働体化層を形成するために、リチウムよりも1ボルト高い電位で、結晶度が0.8より高い炭素材料からなるアノードにおいて還元可能な、前記溶媒の少なくとも一種と同一種の可溶性溶媒を更に含有する溶媒系にリチウム塩を溶解させたリチウム電池の電解液が記載されている。そして、上記の高い還元電位を示す可溶性溶媒の添加により、電解液の分解が抑えられることが記載されている。この方法では、添加剤が充電時に負極で還元されて、グラファイト表面に不働体皮膜を形成し、これによって他の溶媒の還元が抑制されるとされている。
【0007】
しかしながら、本発明者の研究によると、上記の記載の方法では、初回のクーロン(充放電)効率が必ずしも高くない上に、充放電を繰り返すことによって、電気容量は次第に低下し、満足なサイクル特性や保存安定性を得ることが困難である。
【0008】
また、非特許文献2には、ビニレンカーボネート(VC)を5容量%を含み、1M LiPF6の電解質を含み、PC/EC/DMC(DMC:ジメチルカーボネート)の容量比が1/1/3の電解液からなり、グラファイト電極(作用極)/Li(対極)/Li(参照極)からなるセルを用いたボルタモグラム測定において、1ボルトに還元ピークが現れ、これが負極に不働体皮膜を形成して他の溶媒の還元を抑制することが報告されている。
【0009】
さらに、非特許文献3には電解液にクロロエチレンカーボネートを添加することによって、グラファイト電極表面でのPC分解が抑制されることが述べられている。これは、クロロエチレンカーボネートの分解生成物が、グラファイト表面で不働体皮膜を形成することによると考えられているが、電解液の分解に対する抑制効果が必ずしも良好でない。
【0010】
【非特許文献1】J. Electrochem. Soc., Vol.140, No.6, L101(1993)
【非特許文献2】1997 Joint International Meeting of The Electrochemical Society,Inc. and International Society of Electrochemistry, Abstracts, P.153(1997)
【非特許文献3】J. Electrochem. Soc., Vol. 140, No.9, L161(1995)
【特許文献1】特開平8−45545号公報(米国特許第5626981号明細書)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の各種の方法により、優れた非水溶媒である環状カーボネートを、グラファイト(黒鉛)などの高結晶性炭素負極と共用することが可能になったが、それらの非水溶媒系の使用によっても、まだ充分満足できる電池諸特性を示すリチウム二次電池を得ることができない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、電解液の非水溶媒として優れた特性を示す環状カーボネート、鎖状カーボネートおよびビニレンカーボネートを含む非水溶媒組成物に注目し、特にビニレンカーボネート(VC)による非水二次電池のグラファイト電極表面での電解液の分解の抑制効果について鋭意研究を行なった。その結果、リチウム二次電池において、ビニレンカーボネートとして、従来のビニレンカーボネート合成法で合成されたビニレンカーボネートを用いた場合には、充分満足すべき電池特性が得られず、またその電池特性にもばらつきが見られることが分かった。そして、さらに検討を重ねた結果、従来の方法により製造されたビニレンカーボネートには、そのビニレンカーボネートの製造時に副生する有機塩素化合物が不純物として相当量含まれており、ビニレンカーボネートを非水溶媒組成物に導入する際に、これらの有機塩素化合物が該非水溶媒組成物に混入して、該非水溶媒組成物を用いて製造した非水電解液の還元電位を上昇させ、電池特性の低下や、電池特性のばらつきをもたらしていることを見出した。
【0013】
本発明は、環状カーボネート、鎖状カーボネート及びビニレンカーボネートを含む非水溶媒に電解質が溶解されてなり、還元電位が、リチウムを基準として、1ボルト未満である(あるいは1ボルト未満の差で高い)ことを特徴とする非水電解液にある。
【0014】
本発明はまた、環状カーボネート、鎖状カーボネートおよびビニレンカーボネートを含む非水溶媒に電解質が溶解されてなる非水電解液において、該非水電解液が有機塩素化合物を塩素原子換算で10ppm以下の量で含有する非水電解液にもある。
【0015】
本発明はまた、環状カーボネート、鎖状カーボネートおよびビニレンカーボネートを含み、有機塩素化合物を塩素原子換算で10ppm以下の量で含む非水溶媒にもある。
【0016】
本発明はさらに、正極、結晶面間隔(d002)が0.34nm以下のグラファイト負極、および環状カーボネート、鎖状カーボネートおよびビニレンカーボネートを含む非水溶媒に電解質が溶解されている電解液からなるリチウム二次電池において、該電解液として、還元電位がリチウムを基準として1ボルト未満である電解液が用いられていることを特徴とするリチウム二次電池にもある。
【0017】
本発明は、さらにまた、正極、結晶面間隔(d002)が0.34nm以下のグラファイト負極、および環状カーボネート、鎖状カーボネートおよびビニレンカーボネートを含む非水溶媒に電解質が溶解されている電解液からなるリチウム二次電池において、該電解液が、有機塩素化合物を塩素原子換算で10ppm以下の量で含有するリチウム二次電池にもある。
【発明の効果】
【0018】
本発明のリチウム二次電池の電解液は、高純度ビニレンカーボネートを含有する非水溶媒を用いており、リチウム基準として、還元電位が1ボルト未満であって、負極活物質としてグラファイトを用いることが可能であり、しかも高いクーロン効率から分るように大きな電気容量が得られる。さらに本発明のリチウム二次電池は、サイクル特性も良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は特に、非水電解液あるいは非水溶媒の特性あるいは組成に特徴を有しており、その好ましい態様は下記の通りである。
(1)非水電解液の還元電位が、リチウムを基準として、0.9ボルト以下、さらには0.8ボルト以下、特に、0.7ボルト〜0.8ボルトの範囲にある。
(2)非水溶媒中の有機塩素化合物の含有量が塩素原子換算で10ppm以下、特に5ppm以下、さらには2.5ppm以下である。
(3)非水溶媒中の有機塩素化合物がビニレンカーボネートの不純物として導入されたものである。
(4)非水溶媒中に導入されたビニレンカーボネートに不純物として含まれていた有機塩素化合物の含有量がビニレンカーボネートに対して塩素原子換算で100ppm以下である。
【0020】
本発明の非水電解液中の有機塩素化合物の低減による還元電位の低下と、それによるリチウム二次電池の電池特性の改良に及ぼす作用は明確ではないが、下記のように推定される。
【0021】
従来利用されてきた合成方法により製造したビニレンカーボネート(VC)製品には、少なくとも3000ppm程度の下記の化学式で示されるような複数の有機塩素化合物が含まれているが、そのようなビニレンカーボネートを、電解液の非水溶媒中に、通常の使用量である1〜10質量%程度導入すると、その非水溶媒中の該有機塩素化合物の含有量は、塩素原子換算で、およそ30〜300ppmとなる。
【0022】
【化1】

【0023】
【化2】

【0024】
【化3】

【0025】
これらの有機塩素化合物は、ビニレンカーボネート、およびその他の電解液組成物より高い還元電位を示し、ビニレンカーボネートや電解液組成物の還元に先立って、負極のグラファイト表面で還元されて皮膜を形成し、ビニレンカーボネートや電解液の分解を抑制する効果を有する。
【0026】
しかしながら、このようにして負極のグラファイト表面に形成された皮膜は塩素を含み、また皮膜が厚くなるために、十分満足な電解液分解抑制効果を示さないものと推定される。すなわち、ビニレンカーボネート中に不純物として含まれる有機塩素化合物が、ビニレンカーボネートの本来の電池性能向上を阻害して、十分な効果を与えないものと推定される。
【0027】
そこで、本発明者は、ビニレンカーボネートの合成法および精製法を鋭意検討した結果、有機塩素化合物の含有量が極めて少ない高純度のビニレンカーボネートを製造する方法を開発した。すなわち、従来のビニレンカーボネート合成法としては、J. Am. Chem. Soc., 75, 1263(1953)等にも記載されているように、エチレンカーボネート(EC)の塩素化反応によってモノクロルエチレンカーボネートを合成し(第1工程)、これをエーテル系の低沸点溶媒中でアミンにより脱塩化水素化反応(第2工程)を行なうことにより、ビニレンカーボネートを製造する方法が知られている。この第2工程の溶媒を、ジブチルカーボネート(DBC)のようなエステル系の高沸点溶媒に代え、さらに蒸留または晶析で精製することによって、有機塩素化合物をほとんど含まない高純度ビニレンカーボネートを製造する方法を開発した。この高純度ビニレンカーボネートを添加剤とする電解液を用いたリチウム二次電池は、極めて優れた電気容量、サイクル特性および保存特性を示すことが確認された。
【0028】
本発明の非水電解液に用いる非水溶媒中のビニレンカーボネート(VC)の含有量は、0.01質量%〜10質量%の範囲にあることが好ましく、特に0.1質量%〜5質量%の範囲にあることが好ましい。ビニレンカーボネートの含有量が過度に少ないとグラファイト負極で電解液の分解が起こり易く、過度に多いと電池特性が悪くなる。また、本発明のリチウム二次電池用電解液の調製に用いるビニレンカーボネート製品中の有機塩素化合物の含有量は、塩素含有量換算値として、100ppm以下、特に50ppm以下であることが好ましい。
【0029】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)などが用いられ、これらは単独でもまたは二種類以上の混合物としても用いられる。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、メチルブチルカーボネート(MBC)などが用いられ、これらは単独でもまたは二種類以上の混合物としても用いられる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとの割合は、容量比率で2:8〜6:4の範囲にあることが好適である。
【0030】
本発明の非水電解液で使用される電解質としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiC(SO2CF33などのリチウム塩が挙げられる。これらの電解質は一種類で使用してもよく、二種類以上組み合わせて使用してもよい。これらの電解質は、前記の非水溶媒に通常、0.1〜3M、好ましくは0.5〜1.5Mの濃度で溶解されて使用される。
【0031】
本発明の非水電解液は、例えば、環状カーボネート、鎖状カーボネートおよび前記の高純度ビニレンカーボネートを混合して非水溶媒を調製し、これに前記電解質を溶解することによって得られる。
【0032】
本発明の電解液は、リチウム二次電池の構成材料として好適に使用される。二次電池を構成する電解液以外の構成材料については、特に限定されず、従来使用されている種々の構成材料が使用できる。
【0033】
例えば、正極活物質としては、コバルト、ニッケル、マンガン、クロム、バナジウムおよび鉄からなる群より選ばれる少なくとも一種類の金属とリチウムとの複合金属酸化物が使用される。このような複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24などが挙げられる。
【0034】
正極は、前記の正極活物質をアセチレンブラックやカーボンブラックなどの導電剤、およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの結着剤、およびN−メチルピロリドン溶剤などと混練して正極合剤とした後、この正極合剤をアルミニウム箔やステンレス製シートなどの集電体に塗布し、50〜250℃で乾燥し、次に圧縮成型して作製される。
【0035】
負極活物質としては、結晶面間隔(d002)が0.34nm以下の天然または人造の黒鉛を用いることが好ましい。負極は、前記黒鉛をPVDF、PTFE、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)などの結着剤、およびN−メチルピロリドン溶剤と混練して、負極合剤とした後、この負極合剤を銅箔やステンレス製シートなどの集電体に塗布し、50〜250℃で乾燥し、次に圧縮成型して作製される。
【0036】
本発明のリチウム二次電池の構成形態は特に限定されるものではなく、正極、負極、多孔膜セパレータおよび電解液を有するコイン電池や円筒型電池、角型電池、積層型電池などが一例として挙げられる。
【実施例】
【0037】
[ビニレンカーボネート]
後述の実施例1〜3および比較例1〜6において使用した三種類のビニレンカーボネートの入手先、合成法および性状を次に示す。
【0038】
〔ビニレンカーボネートの入手先、合成法〕
(1)Aldrich製ビニレンカーボネートAldrich Chemical Company. Inc.社から試薬として市販されているビニレンカーボネートを使用した。以下、このビニレンカーボネートを「Aldrich製ビニレンカーボネート」とする。
【0039】
(2)公知法によるビニレンカーボネート合成
J. Am. Chem. Soc., 75, 1263(1953)、およびJ. Am. Chem. Soc., 77, 3789(1955)の方法に準じて合成した。すなわち、前もって蒸留精製したエチレンカーボネート600gに塩素ガスを吹き込みながら紫外線照射下、65℃、24時間反応を行い、反応後、減圧蒸留によってモノクロルエチレンカーボネート560gを分取した。つぎにモノクロルエチレンカーボネート493gを乾燥ジエチルエーテル500mL中に溶解させ、これにトリエチルアミン440gを還流下、6時間にわたって滴下し、さらに還流させながら14時間撹拌を続けた。その後、固体のトリエチルアミン塩酸塩を濾過し、エーテルとn−ヘキサン混合溶媒で洗浄した。濾液を単蒸留して、溶媒と過剰のアミンを留去した後、さらに30mmHgの減圧下で単蒸留を行ない、290gのビニレンカーボネート留分を分取した。このビニレンカーボネートをさらに30mmHgの減圧下で精密蒸留することによって、沸点73℃のビニレンカーボネート104gを得た。以下、このビニレンカーボネートを「従来合成法ビニレンカーボネート」とする。
【0040】
(3)高純度ビニレンカーボネートの合成
まず、モノクロルエチレンカーボネートを前記(2)の方法で合成した。得られたモノクロルエチレンカーボネート494gを、ジブチルカーボネート500mLに溶解させて、これを2Lの反応器に仕込み、これにトリエチルアミン440gを50℃、6時間かけて滴下しながら反応させ、さらに14時間撹拌を続けた。このあと反応液を室温まで冷却して、トリエチルアミン塩酸塩を濾過し、ジブチルカーボネートで十分に洗浄した。得られた濾液2100gを30mmHgの減圧下で単蒸留を行い、過剰のトリエチルアミンを留去した後、390gのビニレンカーボネート留分を分取した。このビニレンカーボネートをシリカゲルカラムで処理した後、30mmHgの減圧下で精密蒸留を行なうことによって、不純物の極めて少ない沸点73℃のビニレンカーボネート195gを得た。得られたビニレンカーボネートを「高純度ビニレンカーボネート」とする。
【0041】
〔ビニレンカーボネートのガスクロマトグラフィー質量分析〕
Aldrich製ビニレンカーボネート、および従来合成法ビニレンカーボネートのガスクロマトグラフ分析では、少量ながら多種類の不純物が検出され、ガスクロマトグラフー質量分析を行った結果、ビニレンカーボネート合成時に生成したと思われる前記の三種類の塩素化合物と推定される塩素化合物が含まれていることが認められた。しかし、高純度ビニレンカーボネートには不純物はほとんど認められず、前記の塩素化合物と推定される塩素化合物も検出されなかった。
【0042】
〔ビニレンカーボネート中の塩素量〕
ビニレンカーボネートを酸水素炎燃焼処理して、気体を水に吸収させ、吸収液中の塩素イオンをイオンクロマトグラフで測定し、結果を表1に示す。塩素としてAldrich製ビニレンカーボネートには3200ppm、従来合成法ビニレンカーボネートには3550ppmと多く含まれていたが、高純度ビニレンカーボネート中の含有量は29ppmと極めて少なかった。
【0043】
【表1】

【0044】
[実施例1]
〔電解液の調製〕
プロピレンカーボネート(PC)とジメチレンカーボネート(DMC)との容量比1:2の混合溶媒に、高純度ビニレンカーボネートを2質量%となるように添加して、非水溶媒を調製し、これにLiPF6 を1Mの濃度になるように溶解して電解液を調製した。
【0045】
〔リチウム二次電池の作製および電池特性の測定〕
LiCoO2(正極活物質)を80質量%、アセチレンブラック(導電剤)を10質量%、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)を10質量%の割合で混合し、これをN−メチルピロリドンで希釈して正極合剤を調製した。この合剤をアルミニウム箔集電体に塗布、乾燥、圧縮成型して正極とした。一方、天然黒鉛(d002=0.3354)90質量%とポリフッ化ビニリデン(結着剤)10質量%とを混合し、これをN−メチルピロリドンで希釈して負極合剤を調製した。この合剤を銅箔集電体に塗布、乾燥、圧縮成型して負極とした。正極と負極の比率は、ほぼ同じ電気容量となるようにした。
【0046】
これらの正極および負極、ポリプロピレン微多孔性フィルムからなるセパレータ、そして電解液から構成したコイン型電池(直径20mm、厚さ3.2mm)を作製し、室温(25℃)において、0.8mAの定電流、定電圧で電圧4.2Vまで5時間充電後、0.8mAの定電流で電圧2.7Vまで放電を行った。図1に、初回の充放電特性を、縦軸に電池電圧(V)を、横軸に容量(mAh/g炭素)をとったグラフに示す。さらに充放電を繰り返し放電容量のサイクル変化も調べた。
【0047】
[比較例1]
ビニレンカーボネートを添加しなかったほかは実施例1と同様にして二次電池を作製して充放電試験した。しかし、初回充電時にプロピレンカーボネートの分解が起こって所定電圧に達せず、放電はできなかった。充放電後に電池を解体した結果、負極のグラファイトの剥離が観察された。
【0048】
[比較例2]
高純度ビニレンカーボネートの代わりにAldrich製ビニレンカーボネートを用いたほかは実施例1と同様に二次電池を作製して充放電試験を行った。初回充放電特性を図2に示す。
【0049】
[比較例3]
高純度ビニレンカーボネートの代わりに従来合成法ビニレンカーボネートを用いたほかは実施例1と同様に二次電池を作製して充放電試験を行った。
【0050】
実施例1および比較例2〜3のそれぞれで調製した二次電池の初回クーロン効率を表2に示す。これから明らかなように、高純度ビニレンカーボネートを用いることによって良好なクーロン効率が得られる。
【0051】
【表2】

【0052】
図3に、実施例1および比較例2、比較例3のそれぞれの二次電池のサイクル特性を、縦軸に放電容量(mAh)、そして横軸にサイクル数をとって示す。
【0053】
図3のグラフから分かるように、Aldrich製ビニレンカーボネートを添加した比較例2の二次電池および従来合成法ビニレンカーボネートを添加した比較例3の二次電池に比較すると、高純度ビニレンカーボネートを添加した実施例1の二次電池では良好なサイクル特性を維持している。
【0054】
[実施例2]
プロピレンカーボネート(PC)とジメチルカーボネート(DMC)との容量比1:2の混合溶媒の代わりに、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の容量比1:1混合溶媒を用いた以外は実施例1と同様に電池を作製して充放電試験を行った。図4に初回の充放電曲線を示す。
【0055】
[比較例4]
ビニレンカーボネートを用いないほかは実施例2と同様に電池を作製して充放電試験を行った。図5に初回の充放電曲線を示す。
【0056】
[比較例5]
高純度ビニレンカーボネートの代わりにAldrich製ビニレンカーボネートを用いたほかは実施例2と同様に電池を作製して充放電試験を行った。
【0057】
[比較例6]
高純度ビニレンカーボネートの代わりに従来合成法ビニレンカーボネートを用いた以外は実施例2と同様に電池を作製して充放電試験を行った。図6に初回の充放電曲線を示す。
【0058】
[実施例3]
プロピレンカーボネート(PC)とジメチルカーボネート(DMC)との容量比1:1の代わりに、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)の容量比1:1:2とした以外は実施例1と同様に電池を作製して充放電試験を行った。
【0059】
実施例2〜3および比較例4〜6のそれぞれの二次電池の初回クーロン効率を表3に示す。これから明らかなように、高純度ビニレンカーボネートを用いることによって良好なクーロン効率が得られる。
【0060】
【表3】

注:実施例3の電解液非水溶媒は、PC/EC/DMC=1/1/2(容量比)+ビニレンカーボネートである。
【0061】
図7に、実施例2および比較例4、比較例50 5、比較例6のそれぞれの二次電池のサイクル特性を、縦軸に放電容量(mAh)、そして横軸にサイクル数をとって示す。
【0062】
図7のグラフから分かるようにビニレンカーボネートを添加しない比較例4の二次電池、およびAldrich製ビニレンカーボネートを添加した比較例5の二次電池、そして従来合成法ビニレンカーボネートを添加した比較例6の二次電池にくらべて、高純度ビニレンカーボネートを添加した実施例2の2次電池では良好なサイクル特性を維持している。
【0063】
図8に、実施例3の二次電池(非水溶媒系を変えたもの)のサイクル特性を、縦軸に放電容量(mAh)、そして横軸にサイクル数をとって示すが、同様に、良好なサイクル特性を維持していることがわかる。
【0064】
[実施例4〜6]
電解液溶媒の容量比を表4記載のようにかえた以外は実施例1と同様に電池を作製して充放電試験を行った。初回のクーロン効率を表4に示す。また、実施例1と同様に良好なサイクル特性を有していることが判った。
【0065】
【表4】

【0066】
[還元電位の測定]
還元電位の測定は、1997 20 Joint International Meeting of The Electrochemical Society, Inc. and International Society of Electrochemistry, Abstracts, P.153(1997)に記載の方法に従って行なった。
【0067】
天然グラファイト粉末を10mg秤量し、これにポリフッ化ビニリデン(結着剤)を10質量%の割合で混合し、さらにN−メチルピロリドンを加えてスラリー状にして、ステンレス製の集電体(面積:2cm2)上に塗布した。これを作用極とし、対極及び参照極にリチウムメタルを用いた三極式セルを組み立てた。
【0068】
別に、プロピレンカーボネート:エチレンカーボネート:ジメチルカーボネートを体積比で1:1:3で混合した非水溶媒を用意し、これに電解質としてLiPF6を濃度が1Mになるように溶解して基本電解液を調製した。この基本電解液を標準として、下記の五種類の電解液を用意した。
(a)上記の基本電解液そのもの
(b)基本電解液に対して高純度ビニレンカーボネートを5質量%加えたもの
(c)基本電解液に対してモノクロルエチレンカーボネートを5質量%加えたもの
(d)基本電解液に対して5質量%の高純度ビニレンカーボネートと0.05質量%のモノクロルエチレンカーボネートとを加えたもの
(e)基本電解液に対して5質量%の高純度ビニレンカーボネートと0.25質量%のモノクロルエチレンカーボネートとを加えたもの
【0069】
次いで、前記の三極式セルに上記の電解液を充填し、室温にて、0.1mV/秒の電位走査速度で還元電位を測定した。その結果を図9に示す。この図から、高純度ビニレンカーボネートの還元電位のピークは、リチウムに対して、1ボルト未満、さらに0.9ボルト未満、またさらに0.8ボルト未満、特に0.7〜0.8ボルトの範囲にあることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例1のリチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図2】比較例2のリチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図3】実施例1、比較例2および比較例3のそれぞれのリチウム二次電池のサイクル特性を示す図である。
【図4】実施例2のリチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図5】比較例4のリチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図6】比較例6のリチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図7】実施例2、比較例4、比較例5および比較例6のそれぞれのリチウム二次電池のサイクル特性を示す図である。
【図8】実施例3のリチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図9】各種ビニレンカーボネート含有電解液のリチウム電極に対する還元電位の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状カーボネート、鎖状カーボネートおよびビニレンカーボネートを含む非水溶媒に電解質が溶解されてなり、還元電位が、リチウムを基準として、1ボルト未満であることを特徴とする非水電解液。
【請求項2】
還元電位が、リチウムを基準として、0.8ボルト以下である請求項1に記載された非水電解液。
【請求項3】
還元電位が、リチウムを基準として、0.7ボルト〜0.8ボルトの範囲にある請求項2に記載の非水電解液。
【請求項4】
有機塩素化合物を塩素原子換算で10ppm以下の量で含有する請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載の非水電解液。
【請求項5】
有機塩素化合物の含有量が塩素原子換算で5ppm以下である請求項4に記載の非水電解液。
【請求項6】
有機塩素化合物の含有量が塩素原子換算で2.5ppm以下である請求項5に記載の非水電解液。
【請求項7】
有機塩素化合物がビニレンカーボネートの不純物として導入されたものである請求項4乃至6のうちのいずれかの項に記載の非水電解液。
【請求項8】
電解液中に導入されたビニレンカーボネートに不純物として含まれていた有機塩素化合物の含有量がビニレンカーボネートに対して塩素原子換算で100ppm以下である請求項7に記載の非水電解液。
【請求項9】
環状カーボネート、鎖状カーボネートおよびビニレンカーボネートを含む非水溶媒に電解質が溶解されてなる非水電解液において、有機塩素化合物を塩素原子換算で10ppm以下の量で含有する非水電解液。
【請求項10】
有機塩素化合物の含有量が塩素原子換算で5ppm以下である請求項9に記載の非水電解液。
【請求項11】
環状カーボネート、鎖状カーボネートおよびビニレンカーボネートを含み、有機塩素化合物を塩素原子換算で10ppm以下の量で含有する非水溶媒。
【請求項12】
有機塩素化合物の含有量が塩素原子換算で5ppm以下である請求項11に記載の非水溶媒。
【請求項13】
有機塩素化合物の含有量が塩素原子換算で2.5ppm以下である請求項12に記載の非水溶媒。
【請求項14】
正極、結晶面間隔(d002)が0.34nm以下のグラファイト負極、および環状カーボネート、鎖状カーボネートおよびビニレンカーボネートを含む非水溶媒に電解質が溶解されている電解液からなるリチウム二次電池において、該電解液として、還元電位が、リチウムを基準として、1ボルト未満である電解液が用いられていることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項15】
電解液の還元電位が、リチウムを基準として、0.8ボルト以下である請求項14に記載のリチウム二次電池。
【請求項16】
電解液の還元電位が、リチウムを基準として、0.7ボルト〜0.8ボルトの範囲にある請求項15に記載のリチウム二次電池。
【請求項17】
電解液が、有機塩素化合物を塩素原子換算で10ppm以下の量で含有する請求項14乃至16のうちのいずかの項に記載のリチウム二次電池。
【請求項18】
有機塩素化合物の含有量が塩素原子換算で5ppm以下である請求項17に記載のリチウム二次電池。
【請求項19】
正極、結晶面間隔(d002)が0.34nm以下のグラファイト負極、および環状カーボネート、鎖状カーボネートおよびビニレンカーボネートを含む非水溶媒に電解質が溶解されている電解液からなるリチウム二次電池において、該電解液中に、有機塩素化合物が塩素原子換算で10ppm以下の量で含まれている
リチウム二次電池。
【請求項20】
電解液中の有機塩素化合物の含有量が塩素原子換算で5ppm以下である請求項19に記載のリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−187958(P2009−187958A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101206(P2009−101206)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【分割の表示】特願2001−118631(P2001−118631)の分割
【原出願日】平成13年4月17日(2001.4.17)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】