説明

非水電解質二次電池の製造方法

【課題】放電時に冷却が必要な大容量の非水電解質二次電池の、有孔性ポリマー電解質と電極とを固着する簡単な製造方法を提供する。
【解決手段】電池ケース表面に流体通路を設け、この電池ケース内に正極と負極との間に有孔性ポリマー電解質を備えた発電要素を収納した非水電解質二次電池の製造方法において、前記流体通路に加熱用の第1の流体を注入することにより、前記有孔性ポリマー電解質と前記正極および前記有孔性ポリマー電解質と前記負極とを固着した後、前記流体通路に冷却用の第2の流体を注入することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は非水電解質二次電池の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】現在市販されている非水電解質二次電池は、携帯電話などの小型機器に搭載されている。そして、環境への負荷を緩和することを目的として、このリチウム二次電池を電気自動車用またはハイブリッド電気自動車用の電源として用いることが期待されている。非水電解質二次電池を電気自動車用などの電源として用いる場合、例えば、100Ah級の大容量の単電池を複数個直列に接続したものを一つのモジュールとし、さらにこのモジュールを複数個接続することになる。
【0003】大容量の非水電解質二次電池を放電すると、その発熱量が大きいために、電池内部の温度が高くなり、電池の性能低下をもたらす。そのため、何らかの方法により、電池を冷却する必要がある。特に、大容量の単電池を複数個接続して組電池として使用する場合、放電時の電池内部の温度上昇を抑制するために、電池を冷却する必要がある。
【0004】一方、非水電解質二次電池においては、有機電解液が使用されているが、電池の安全性をより高めるために、有孔性ポリマー電解質を用いることにより、有機電解液の使用量を減らした電池が提案されている。
【0005】有孔性ポリマー電解質とは、イオン導電性を有するポリマー電解質に多数の孔を形成し、この孔の中に有機電解液を保持させたもので、ポリマー部分も孔部分も、ともにイオン導電性を示すものである。この有孔性ポリマー電解質を電池のセパレータとして用いることにより、電解液と同程度のイオンの拡散速度を維持することができ、優れた非水電解質二次電池が得られる。
【0006】有孔性ポリマー電解質を用いた非水電解質電池においては、有孔性ポリマー電解質と電極との間に隙間が存在する。したがって、高率充放電特性に優れた非水電解質二次電池を得るためには、電池組立て後、電池全体を有孔性ポリマー電解質の融点以上の温度に加熱し、有孔性ポリマー電解質と正極および有孔性ポリマー電解質と負極とを固着することにより、有孔性ポリマー電解質と電極との間の隙間をなくす方法が採られている。
【0007】有孔性ポリマー電解質と電極とを固着することにより、充放電サイクルに伴なう正極板と負極板との距離の増加が抑制され、その結果、充放電サイクルを繰り返しても、優れた放電容量を示す。また、電池内部の温度が高くなった場合においても、発生するガスによる電極の座屈が抑制されるため、短絡などの危険が回避されやすくなる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】例えば、100Ah級の大容量の非水電解質二次電池において、有孔性ポリマー電解質を使用し、有孔性ポリマー電解質と電極とを加熱によって固着する場合、加熱装置が問題となる。電池を加熱する手段としては、例えば、電池を恒温槽内に配置する方法が考えられるが、大容量の電池を加熱する場合、大型の設備を準備する必要がある。さらに、多数の大容量の電池を加熱処理する場合は、より大型の設備をそろえる必要がある。
【0009】本発明の目的は、放電時に冷却が必要で、有孔性ポリマー電解質を備えた大容量の非水電解質二次電池の製造方法において、簡単な方法で、有孔性ポリマー電解質と電極とを固着する製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、電池ケース表面に流体通路を設け、この電池ケース内に正極と負極との間に有孔性ポリマー電解質を備えた発電要素を収納した非水電解質二次電池の製造方法において、前記流体通路に加熱用の第1の流体を注入することにより、前記有孔性ポリマー電解質と前記正極および前記有孔性ポリマー電解質と前記負極とを固着した後、前記流体通路に冷却用の第2の流体を注入することを特徴とする。
【0011】請求項1の発明によれば、簡単な方法で、有孔性ポリマー電解質と電極とを固着する、非水電解質二次電池の製造方法を提供することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、正極と負極との間に有孔性ポリマー電解質を備え、充放電に際しては冷却が必要な電池に関するものある。特に、非水電解質二次電池が負極に金属リチウムを使用したリチウム二次電池である場合には、放電に際しては冷却が必要である。中でも本発明は、容量が1Ah以上の単電池あるいはこの単電池を複数個接続した組電池に関して有効である。
【0013】本発明の製造方法によって得られる電池は、例えば図1〜図4に外観を示したように、電池ケース表面に流体通路が設けられている。図1〜図4において、1は非水電解質二次電池、2は正極端子、3は負極端子、4は電池ケース、5は流体通路、6は流体入口、7は流体出口、8は電池ケースの外枠、9は仕切板である。
【0014】図1では、管状の流体通路5が電池ケース4の表面に巻きつけられており、流体は、流体入口6から供給され、流体出口7から流出する。図2では、管状の流体通路5が電池ケース4の表面に、蛇行する形で設けられており、流体は、流体入口6から供給され、流体出口7から流出する。なお、図1および図2において、管状の流体通路5の断面は、円形、楕円形、多角形など、種々の形状のものを使用することができる。
【0015】図3では、流体通路5は、電池ケース4と電池ケースの外枠8との間の空間によって形成され、流体は流体通路4に注入するだけでもよいし、図3の矢印で示したように、一方から注入して、他方からオーバーフローさせてもよい。図4は、図3に類似の構造であるが、流体通路5には仕切板9が多数設けられ、流体が図4R>4の矢印に示したように流れるようにしたものである。
【0016】流体通路は、流体の温度を調節する装置につなげてもよいし、あるいは、流体を供給する部分と、流体の温度を調節する部分とが同一の装置として構成されてもよい。この流体通路に、目的の温度に調節した流体を循環させてもよいし、あるいは、循環させずに単に注入するだけでもよい。
【0017】流体通路は電池ケースと必ずしも接触する必要はないが、電池内部の温度を早く均一に加熱するためには、電池ケースに接触していることが望ましい。また、流体通路は電池のすべての部位を覆う必要はないが、電池内部の温度を早く、望むべき温度に保持できるように配置することが好ましい。
【0018】本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、発電要素を電池ケース内に収納した後、流体通路5に加熱用の第1の流体を注入することにより、有孔性ポリマー電解質と正極および前記有孔性ポリマー電解質と負極とを固着するものである。その後、前記流体通路5に冷却用の第2の流体を注入するものである。
【0019】なお、発電要素を電池ケース内に収納する順序と、電池ケース表面に流体通路を設ける順序は特に限定されない。すなわち、発電要素を電池ケース内に収納した後、電池ケース表面に流体通路を設けてもよいし、あらかじめ電池ケース表面に流体通路を設けておき、その後発電要素を電池ケース内に収納してもよい。
【0020】本発明において、加熱用の第1の流体と冷却用の第2の流体の種類は、同一でもよいし、異なっていてもよい。加熱用の第1の流体と冷却用の第2の流体の種類が異なる場合には、流体通路に加熱用の第1の流体を注入して、有孔性ポリマー電解質と正極および有孔性ポリマー電解質と負極板とを固着した後、流体通路から第1の流体を除去し、その後、流体通路に第2の流体を注入する必要がある。一方、加熱用の第1の流体と冷却用の第2の流体の種類が同一の場合は、第1の流体を除去した後、第2の流体を注入する工程を省略することができる。
【0021】電池を加熱する方法は、上述の電池ケース表面に備えた流体通路に、加熱用の第1の流体としての、一定温度の溶媒、溶液または気体を流すことにより、電池内部の温度を高くして、正極板と負極板との間に備えた有孔性ポリマー電解質の表面の一部を融解させる。これによって、正極板と負極板との間に備えた有孔性ポリマー電解質と正極板および前記有孔性ポリマー電解質と負極板とを固着する。
【0022】加熱用の第1の流体としては、正極板と負極板との間に備えた有孔性ポリマー電解質を融解できるところまで電池内部を暖めることができる温度の溶媒、溶液、または気体を使用することができる。具体的には、水、シリコンオイル、各種油などがある。
【0023】冷却用の第2の流体としては、電池の発熱反応を伴なう放電時において、電池を冷却するための、低温の溶媒、溶液、または気体を使用することができる。具体的には、水またはエチレングリコールと水との混合溶媒などがある。
【0024】この方法により、放電時に電池を冷却するための流体通路を利用して、有孔性ポリマー電解質と正極板および有孔性ポリマー電解質と負極板とを固着することができ、大型の恒温槽等の設備を整える必要がなくなる。さらに、単電池を複数個接続した組電池において、組電池を構成する複数の電池の加熱処理を同時におこなうことができるため、特に有効である。
【0025】また、本発明は、冷却装置を備えた非水電解質二次電池が、複数の電池から構成される組電池である場合にとくに有効である。すなわち、電気自動車用やハイブリッド電気自動車用の電源では、大容量の電池を複数個接続した組電池を構成する必要がある(例えば電気自動車用の電源では、100Ah級の電池を8個接続した一つのユニットを、8個接続して構成される)。
【0026】この場合、個々の電池を加熱した後に組電池を構成すると、多大な時間を要する。ところが、本発明では、まず、複数の単電池を接続して組電池を構成し、その後、組電池に流体通路を取り付け、流体通路に一定温度の溶媒、溶液または気体をゆきわたらせることにより、複数の電池の加熱処理を同時に実施できるため、きわめて効率的である。
【0027】なお、本発明の非水電解質二次電池の製造方法においては、電解液の注液は、有孔性ポリマー電解質と電極との固着の前でもよいし、固着の後でもよい。
【0028】次に、正極板と負極板との間に備える有孔性ポリマー電解質について説明する。本発明における有孔性ポリマー電解質とは、例えば相転移法のひとつである湿式法による孔の形成されたポリマー電解質であって、多数の孔を有した三次元網目構造を示すものである。また、延伸法などによって形成される多数の貫通孔を有した構造を示すものである。ポリマー電解質は、ポリマーそのものがイオン伝導性を有するものであってもよい。また、電解液に浸漬されることによってポリマーが湿潤または膨潤してイオン伝導性を有するようになるものであってもよい。
【0029】本発明において有孔性ポリマー電解質を正極板と負極板との間に「備える」とは、有孔性ポリマー電解質を正極板と負極板との短絡を防止するセパレータとして用いることを意味する。あるいは、ポリオレフィン等の材質からなる微細孔をもつ膜をセパレータとして使用し、そのセパレータと正極板との間およびそのセパレータと負極板との間に有孔性ポリマー電解質を配置することを意味する。
【0030】なお、ポリマー電解質の融点は、示差走査熱測定の融解反応による吸熱ピークから決定するとよい。有孔性ポリマー電解質の材質としてポリビニリデンフルオライドヘキサフルオロプレンコポリマー(P(VdF/HFP))等を用いた場合は、流体通路に流す溶媒、あるいは気体の温度を90℃以上150℃以下とするとよい。
【0031】なお、本発明に用いる有孔性ポリマー電解質を構成するポリマーの材質としては、例えば、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリメタクリロニトリル、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、もしくはこれらの誘導体を、単独で、あるいは混合して用いることができる。また、上記ポリマーを構成する各種モノマーを共重合させたポリマー、たとえばビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(P(VdF/HFP))等を用いることもできる。なお、充放電による活物質の体積膨張収縮に追随した形状変化の可能な柔軟性を有するものが好ましい。
【0032】次に、本発明における電池の製造プロセスについて説明する。本発明電池の非水電解質二次電池の正極活物質としては、リチウムの吸蔵放出が可能な化合物を用いることができ、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn24、Li2Mn24、MnO2、FeO2、V25、V613、TiO2、TiS2等のような、組成式LixMO2、またはLiy24(ただし、Mは遷移金属、0≦x≦1、0≦y≦2)で表される複合酸化物、トンネル状の孔を有する酸化物、層状構造の金属カルコゲン化物等を用いることができる。
【0033】また、LiNi0.80Co0.202、LiNi0.80Co0.17Al0.032、LiNi0.5Mn1.5等のように、遷移金属Mの一部を他の元素で置換した無機化合物を用いることもできる。さらには、例えばポリアニリン等の導電性ポリマーのような有機化合物を用いることもできる。なお、無機化合物、有機化合物を問わず、上記各種活物質を混合して用いることもできる。
【0034】上記正極活物質、導電助剤、結着剤およびn−メチル-2−ピロリドン(NMP)等の分散媒とを混合したものをアルミニウムなどの金属箔に塗付し、次に乾燥して正極板が完成する。
【0035】本発明電池の非水電解質二次電池の負極活物質としては、例えばAl、Si、Pb、Sn、Zn、Cd等とリチウムの合金、LiFe23等の遷移金属複合酸化物、WO2、MoO2等の遷移金属酸化物、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維等の易黒鉛化性炭素の熱処理物、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体等の難黒鉛化性炭素の熱処理物、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化MCMB、黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維、黒鉛ウイスカー等の黒鉛質材料、またはこれらの混合物からなる炭素材料、窒化リチウム、もしくは金属リチウム、またはこれらの混合物を用いることができ、特に炭素材料が好ましい。
【0036】負極板についても正極板と同様に、上記負極活物質、結着剤およびNMP等の分散媒との混合物を銅箔に塗布し、次に乾燥して完成する。
【0037】次に、正極板と負極板との間に有孔性ポリマー電解質を介在させて巻き回した発電要素を電池ケースに挿入し、電解液を注入する。負極板活物質として、グラファイトなどの炭素材料を使用した場合は、すみやかに予備充電をおこなうことが好ましい。
【0038】次に、流体通路を電池ケースの表面に配置する。次に、この流体通路に、有孔性ポリマー電解質を融解できる温度にまで電池を暖めることができる溶媒、溶液または気体をゆきわたらせる。なお、加熱温度とともに加熱時間も重要なファクターであるが、加熱時間は、電池の大きさや使用するポリマーの種類、あるいは加熱方法などに応じて、最適の時間を選択すればよい。
【0039】さらに、負極板材料としてグラファイト等を使用した場合においては、放電状態(グラファイト層間にリチウムイオンが極力挿入されていない状態)において加熱をおこなうのが好ましい。ただし、コバルト酸リチウム/グラファイト系リチウム二次電池、ニッケル酸リチウム/グラファイト系リチウム二次電池またマンガン酸リチウム/グラファイト系リチウム二次電池などは放電時に発熱する。つまり、低レベルの充電状態にある電池を極めて高率で放電すると、IRによって電池内部の温度上昇が加速される。これを利用して、電池内部をすみやかに所定の温度に到達させ、冷却管にゆきわたらせる溶媒、または気体によって、その所定の温度に保持するという方法も挙げられる。
【0040】また本発明において、正極板と負極板との間に備える有孔性ポリマー電解質としては、上述したようにあらかじめ電極とは独立したものを作製しておき、電池組立時に正極板と負極板間に挟んでもよいし、あるいは、電極表面に有孔性ポリマー電解質層を一体に形成してもよい。また、ポリオレフィン製などのセパレータの両面に有孔性ポリマー電解質を形成しておいてもよい。
【0041】また、例えば、負極板表面に有孔性ポリマー層を直接形成し、正極板と負極板とが有孔性ポリマー層で電気的に絶縁された状態として積層し、巻き回して、角形、円筒形、または樹脂加工したアルミニウムシート等の電池ケース内に配置し、リチウム二次電池用電解液を注入して電池としてもよい。
【0042】電解液としては、その溶媒として、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1、2−ジメトキシエタン、1、2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、メチルアセテート等の極性溶媒、もしくはこれらの混合物を用いることができる。
【0043】また、電解液に含有させる塩としては、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiSCN、LiI、LiCF3SO3、LiCl、LiBr、LiCF3CO2等のリチウム塩、もしくはこれらの混合物を用いることができる。
【0044】また、本発明の非水電解質二次電池の安全性を向上させるために、正極板または負極板の少なくとも一方の電極内部に有孔性ポリマー電解質を備えることが好ましい。電極内部に有孔性ポリマー電解質を備えることにより、従来のリチウムイオン二次電池よりも電解液量を少なくすることができるからである。また、電極内部に備えた有孔性ポリマー電解質は、活物質粒子同士の結着剤としても機能するために、そのサイクルにともなう放電容量の低下を著しく抑制できる。ここで、「電極内部」とは、電極合剤層間の最表層に存在する間隙および電極内部の電極合剤層の粒子間に存在する間隙を表わすものとする。
【0045】なお、電極内部に有孔性ポリマー電解質を備える場合は、たとえば、紫外線照射による貫通孔作成方法や相転移法等を用いることができ、中でも先に述べた相転移法のひとつである湿式法による方法が好ましい。湿式法とは、第1の溶媒にポリマーを溶解したポリマー溶液から、抽出用の第2の溶媒を用いて第1の溶媒を抽出することにより有孔性ポリマーを得る方法であって、ポリマー溶液を、ポリマーに対して不溶であり、第1の溶媒と相溶性のある第2の溶媒中に浸漬することによって、第1の溶媒を抽出し、第1の溶媒が除去された部分が孔となって、有孔性ポリマーが形成されるというものである。そして、この湿式法では、ポリマーに開口部が円形の貫通孔を形成することができる。
【0046】ポリマーを溶解する第1の溶媒としては、ポリマーに合わせて、例えば、ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の炭酸エステル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル、ジメチルアセトアミド、1−メチル−ピロリジノン、n−メチル−2−ピロリドンやこれらの混合物を用いることができる。
【0047】ポリマー溶液中の第1の溶媒を抽出する第2の溶媒としては、第1の溶媒と相溶性のあるものが選択され、例えば水、アルコール、アセトン、これらの混合溶液を用いることができる。
【0048】
【実施例】以下、本発明の実施例について説明する[実施例1]正極活物質として、LiNi0.85Co0.152を使用し、負極活物質としてグラファイトを用い、正極板と負極板との間に備える有孔性ポリマー電解質の材質として13wt%のヘキサフルオロプロピレン(HFP)を共重合させたP(VdF/HFP)(分子量約30万)とを用いて、以下のような電池を製作した。なお、P(VdF/HFP)の融点を示差走査熱測定によって求めたところ、およそ96℃であることがわかった。
【0049】まず、次のようにして、正極板を作製した。LiNi0.85Co0.152粒子48.7wt%、アセチレンブラック2.7wt%、PVdF3.3wt%、NMP45.3wt%を混合したペーストをアルミニウム箔の両面に塗布し、90℃で乾燥してNMPを蒸発させ、正極本体を準備した。
【0050】次に、6wt%のHFPを共重合させたP(VdF/HFP)(分子量約30万)を、NMPに8wt%溶解させたポリマー溶液を準備し、この中に上記正極本体を浸漬し、正極本体にポリマー溶液を含浸した。そして、正極表面に余剰に付着したポリマー溶液をローラーに通して除去した後、正極板をイオン交換水(25℃)に浸漬してNMPの抽出をおこなった。
【0051】この正極板を取り出し、130℃で乾燥をおこない、その後プレスした。プレス後の正極の厚さは160μmであった。正極単位面積当たりに充填された活物質の質量は20mg/cm2であった。
【0052】次に、負極板活物質としてグラファイトを使用し、以下のようにして負極板を作製した。グラファイト81wt%、PVdF9wt%、NMP10wt%を混合したペーストを厚さ14μmの銅箔の両面に塗布し、90℃で乾燥してNMPを蒸発させて負極本体を準備した。
【0053】次に、6wt%のHFPを共重合させたP(VdF/HFP)(分子量約30万)を、NMPに6wt%溶解させたポリマー溶液を準備し、この中に上記負極本体を浸漬し、負極本体にポリマー溶液を担持した。そして、負極表面に余剰に付着したポリマー溶液をローラーに通して除去した後、負極板をイオン交換水(25℃)に浸漬してNMPの抽出をおこなった。
【0054】この電極を取り出し、100℃で乾燥をおこない、その後プレスした。プレス後の負極板の厚さは208μmであった。負極板単位面積当たりに充填された活物質の質量は15mg/cm2であった。
【0055】次に、有孔性ポリマー膜を湿式法により製作した。13wt%のHFPを共重合させたP(VdF/HFP)20wt%、NMP80wt%からなる溶液を準備した。このポリマー溶液を、ガラス板上にドクターブレード法を用いてキャストし、エタノールを75wt%含んだイオン交換水中に浸漬して有孔性ポリマー膜を製作した。その膜厚は、25μmであり、空隙率は57%であった。
【0056】正極板と負極板との間にこの有孔性ポリマー膜を介在させ、重ねて巻き回したものを巻回型極板群とし、これをアルミニウムケースに挿入して電池を組み立てた。その後、1mol/lのLiPF6を含むエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合電解液(体積比1:1)を加えて封口した。電解液の注液量は、正極、負極、有孔性ポリマー膜の空孔体積合計の120%とした。その後、速やかに120mAの電流で2時間充電した。さらに、20Aの電流で4.2Vまで充電し、つづいて4.2Vの定電圧で2時間充電した。次に、10Aの電流で2.75Vまで放電した。これを室温にて3サイクル実施した。こうして公称容量100Ahの電池を64個製作した。
【0057】次に、製作した単電池8個を接続してユニットを構成した。このユニットをさらに8個接続して組電池を構成した。その後、この組電池の各単電池に、図1R>1で示したものと同じ形状の流体通路を巻き付けた。
【0058】次に、温度を100℃に設定したエチレングリコールと水の混合物(1:6)を、流体通路中を循環させた。こうして、有孔性ポリマー電解質と正極板、および有孔性ポリマー電解質と負極板とを固着させ、本発明による製造方法を用いた組電池Aを得た。
【0059】[比較例1]まず個々の電池を製作し、つぎに個々の電池に加熱処理を施し、その後、組電池とした、従来の電池の製造方法について述べる。
【0060】実施例1と同一の工程を経て、正極板と負極板との間に有孔性ポリマー電解質を備えた100Ahの電池を64個製作した。まず、64個の電池を8個づつ、100℃に設定した恒温槽中に配置し、加熱処理をおこない、有孔性ポリマー電解質と電極とを固着した。次に、この64個の電池を接続して組電池とした。このようにして、従来の製造方法を用いた組電池Bを得た。
【0061】組電池Aの製造方法と組電池Bの製造方法とを比較すると、組電池Aでは、組電池作製に必要な時間は、組電池Aと比べ、きわめて短時間であった。これは、あらかじめ電池ケースの表面に備えられた流体通路を、有孔性ポリマー電解質と電極との加熱・固着に利用することができたためである。
【0062】つぎに、組電池Aにおいて、流体通路中の100℃のエチレングリコールと水の混合物(1:6)を除去した。ここで、流体通路に冷却用の流体を流さずに2C率で放電すると、組電池を構成する個々の電池の内部温度は急激に80℃以上に上昇する。この場合、負極活物質であるグラファイトにリチウムイオンが多く扱蔵された状態で電池内部が高温となるために好ましくない。また、高温で電池を使用することになるため、サイクル性能が著しく低下する。
【0063】しかし、次に流体通路中に、例えば約25℃に設定したエチレングリコールと水との混合物(1:6)を循環させると、放電中においても個々の電池内部の温度を30℃程度に保持できた。
【0064】
【発明の効果】本発明は、電池ケース表面に流体通路を設け、この電池ケース内に正極と負極との間に有孔性ポリマー電解質を備えた発電要素を収納した非水電解質二次電池の製造方法において、流体通路に加熱用の第1の流体を注入することにより、有孔性ポリマー電解質と正極および有孔性ポリマー電解質と負極とを固着した後、流体通路に第2の流体を注入するものである。
【0065】本発明の非水電解質二次電池の製造方法においては、あらかじめ電池ケースの表面に備えられた流体通路を、有孔性ポリマー電解質と電極との加熱・固着に利用することができ、その後、流体通路中の加熱用の第1の流体を冷却用の第2の流体と交換することにより、第2の流体を電池を放電する場合の冷却用に利用するという、簡単な方法で、大容量の非水電解質二次電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】管状の流体通路が電池ケースの表面に巻きつけられた本発明の電池の外観を示す図。
【図2】管状の流体通路が電池ケースの表面に蛇行する形で設けられた本発明の電池の外観を示す図。
【図3】流体通路が、電池ケースと電池ケースの外枠との間の空間によって形成された本発明の電池の外観を示す図。
【図4】流体通路が、電池ケースと電池ケースの外枠との間の空間によって形成され、流体通路には仕切板が多数設けられた本発明の電池の外観を示す図。
【符号の説明】
1 非水電解質二次電池
4 電池ケース
5 流体通路
8 電池ケースの外枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】電池ケース表面に流体通路を設け、前記電池ケース内に正極と負極との間に有孔性ポリマー電解質を備えた発電要素を収納した非水電解質二次電池の製造方法において、前記流体通路に加熱用の第1の流体を注入することにより、前記有孔性ポリマー電解質と前記正極および前記有孔性ポリマー電解質と前記負極とを固着した後、前記流体通路に冷却用の第2の流体を注入することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2003−17131(P2003−17131A)
【公開日】平成15年1月17日(2003.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−195028(P2001−195028)
【出願日】平成13年6月27日(2001.6.27)
【出願人】(000004282)日本電池株式会社 (48)
【Fターム(参考)】