説明

【課題】踵部の高さ及び靴底の形状を変化させる機能を備えていても軽く使い勝手のよい靴を提供する。
【解決手段】靴1aは、靴底本体2と、靴底本体2に備えられた凹状部2aと、靴底本体2において前後方向にスライド可能に備えられた連結板5と、靴底本体2の踵部に備えられた高さ可変手段及び屈曲手段から構成されている。高さ可変手段は、少なくとも踵部高さが最も高くなったとき、靴底本体2の踵部を支持する可動踵部21aを備え、その可動踵部21aの伸縮により、靴底本体2の踵部高さを変化させることができる。屈曲手段は、踵の高さ変化に連動して連結板5を緊張、または弛緩することにより、連結板5を前後方向にスライドさせて靴底本体2の凹状部2aを踵部高さに応じて屈曲させることができる。したがって、踵の高さを変更する機能及び靴底の形状を変化させる機能を備えながら、靴全体の重量を軽量化することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
靴底の踵部高さを変化させることができる靴に関し、特に踵部高さ変更とともに靴底の形状も変化させることが可能な靴に関する。
【背景技術】
【0002】
踵部の高さを変更可能な靴として、踵部高さを調整でき、かつ、靴底にて土踏まず付近の形状をその踵部高さに応じて変化させる伸縮靴が知られている。この伸縮靴は、靴底内部に回転運動する複数の歯車等の部品を備え、それらの歯車を組合わせることにより靴底にて土踏まず部付近の形状を踵部高さに応じて変化させるものである。このように、踵部高さを変化させるだけでなく靴底形状を変化させているのは、その理由の一つとして、踵部高さを低くした場合、靴底のつま先部分が浮きあがる現象を防止して使用者が歩行しやすくするためである。このため、踵部高さを変化させても使用者は一般の靴と同様に違和感なく、この靴を使用することができる。さらに、このような踵部高さを低く変化させる機能は、他の踵部の低い靴と同様に安定した歩行がしやすくなるため、地震等の災害に遭遇した場合に、踵部を低くした状態で瓦礫等が散乱した通路や階段を避難しやすくする機能としても有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭52−62543
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の靴を製造するには、靴底の形状を変化させるための歯車等の部品を複数必要とし、さらに、使用者の体重にも耐えうるような強度を満たす必要があるため、それらの部品を金属等の頑丈な材料で製作しなければならない。そのため、踵部の高さ可変機能を備えない一般の靴と比較すると、このような靴は、かなり重量のある靴になってしまう。そのため、このような靴を履いて歩行する使用者は、歩きづらさを感じたり、疲労感を感じたりしてしまう。
【0005】
さらに、災害時等に遭遇する機会は非常に稀なことであり、踵部の高さを頻繁に変えて使用する必要性も少ないことから、一般の靴よりも重量が増す靴は、使い勝手が悪いものとして使用者から敬遠されてしまう。
【0006】
そこで、踵部の高さ及び靴底の形状を変化させる機能を備えていても軽く使い勝手のよい靴を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる靴は、「靴底本体と、その靴底本体において、土踏まず前部の位置する付近に、または、足の指付け根が位置する付近に設けられ、前記靴底本体を屈曲可能にする屈曲部と、前記靴底本体において、前記屈曲部より前方に一端が支持され、前記靴底本体に備えられた弛張部材と、前記靴底本体の踵部に設けられ、踵部材を備えたものであって、その踵部材の状態を変化させて前記靴底本体の踵部高さを変える高さ可変手段と、前記靴底本体の踵部に設けられ、前記踵部材の状態に応じて前記弛張部材の他端を緊張、または弛緩して前記屈曲部を屈曲させる屈曲手段とを備える」ものである。
【0008】
ここで、「高さ可変手段」とは、靴底本体に備えられ、靴底部材の踵部の高さ、すなわち、踵部材下部の接地面からその上部の靴底部材までの距離を変化させる手段を示し、踵部材の伸縮、着脱、または傾動等により靴底本体の踵部高さを変化させる機能を有するものである。また、「弛張部材」とは、可撓性を有するものであり、かつ靴底本体の長手方向に伸長困難性を有するものを示し、例えば、板ばねの製造等に使用されるシート状に薄く形成された金属製薄板を熱処理した特殊鋼や、細い針金を編んで板状にした編板に樹脂等でコーティングしたものや、所定の強度を有する特殊な樹脂製板等がある。「屈曲部」とは、靴底本体に設けられ、靴底本体が屈曲する部分において、屈曲可能に形成された形状等を示し、例えば、靴底本体の屈曲位置に凹状溝をその短手方向に形成することで、その屈曲部分の厚みを他の部分より薄くして屈曲しやすくした部分や、靴底本体の屈曲位置を分断して屈曲可能な樹脂板等の部品で連結した部分等である。
【0009】
本発明の靴は、靴底本体と、靴底本体に備えられた屈曲部と、靴底本体にて前後方向にスライド可能に備えられた弛張部材と、靴底本体の踵部に備えられた高さ可変手段及び屈曲手段と、から構成されている。高さ可変手段は、踵部高さが最も高くなったとき靴底本体の踵部を支持する踵部材を備え、その踵部材の伸縮、着脱、または傾動等により、靴底本体の踵部高さを高い状態と低い状態とに変化させるためのものである。屈曲手段は、踵の高さ変化に連動して弛張部材を緊張、または弛緩することにより、弛張部材を前後方向にスライドさせて靴底本体の屈曲部を踵部高さに応じて屈曲させるためのものである。ここで、高さ可変手段と屈曲手段には、その構成部品が共通している部分も含まれる場合もあり、はっきりと、いずれかに区別できず、どちらの手段に含まれる場合もある。
【0010】
これらの手段を備えることによって、踵部の高さ変化とともに、靴底本体の屈曲部の前部下面と靴の踵下端面とを同一面に一致させることが可能となる。つまり、使用者が靴の踵部高さを変化させたとき、使用者の歩行しやすい状態に靴底本体の形状を変化させることが可能となる。また、弛張部材として薄く形成された薄板、例えば金属板を用いた場合には、屈曲手段を備えたことによる靴の重さの増加量を小さく抑えることができるとともに靴底本体の厚さを薄いものにすることが可能となる。さらに、上記屈曲手段を備えることにより高さ可変手段と屈曲手段とを靴底本体の踵部付近に集中的に備えさせることができるため、靴の重心を使用者の踝付近に近づけることが可能となる。そのため、可変手段と屈曲手段とを備えたことによる重量感を使用者に感じさせにくくすることができる。
【0011】
本発明にかかる靴は、「前記靴底本体の踵部、前記高さ可変手段または前記屈曲手段に設けられ、上下方向を回動軸とし、手動で直接的または間接的に回動可能な回動軸部を備え、前記高さ可変手段は、前記回動軸部を回転または回動させることにより前記踵部材の状態を変化させて前記靴底本体の踵部高さを変えるものであって、前記屈曲手段は、前記回動軸部を回転または回動させることにより前記弛張部材の他端を緊張、または弛緩する」ものである。
【0012】
回動軸部は、前記靴底本体の踵部、前記高さ可変手段または前記屈曲手段に設けられている。ここで、「前記靴底本体の踵部、前記高さ可変手段または前記屈曲手段に設けられ」とは、回動軸部が、靴底本体、高さ可変手段、屈曲手段のいずれかの構成に含まれる場合、それらのうち2つに共通する構成部分として設けられている場合、さらに、それらの全てに共通する構成として設けられている場合も含まれる。
【0013】
回動軸部は、手動で直接的にまたは間接的に回転または回動させることができるものである。ここで、「手動で直接的にまたは間接的に回転または回動」とは、例えば、回動軸部に可倒可能なつまみ部を設け、つまみ部を手でつまんで回動軸部を回転または回動させることが「直接的に」に当たり、回動軸部の上面部に、貨幣を縦にはめ込み可能なすりわり部を形成し、そのすりわり部に貨幣を嵌めこんで回動軸部を回転または回動させることが「間接的に」に当たることを意味している。そのため、特に工具等を準備する必要なく、回動軸部を回転または回動させることができる。
【0014】
回動軸部は、その操作によって、高さ可変手段及び屈曲手段を同時に機能させることを可能とするものである。すなわち、回動軸部が回転または回動すると、高さ可変手段が機能し、踵部材の伸縮、着脱、または傾動し、靴底本体の踵部高さを変化するようになっており、同時に屈曲手段も機能し、回動軸部の回転に応じて弛張部材を緊張、または弛緩することにより、弛張部材を前後方向にスライドさせて靴底本体の屈曲部を踵部高さに応じて屈曲させるようになっている。
【0015】
踵部材を上下方向に移動または伸縮させて踵部高さを変化させる高さ可変手段の場合には、回動軸部を手動で直接的にまたは間接的に回転または回動させることによって、回動軸部の回転に応じて踵部材を上下に伸縮または移動させることで踵部の高さを連続的に高くしたり低くしたりして変化させるものである。また、屈曲手段は、回動軸部の回転に応じて弛張部材を緊張、または弛緩することにより、弛張部材を前後方向にスライドさせて靴底本体の屈曲部を踵部高さに応じて屈曲させることができるものである。また、可倒可能なつまみ部を設けた場合には、つまみ部を横倒しにした際、つまみ部を収納するための凹部を形成すると、靴を履いて使用するとき、つまみ部を邪魔にならなくすることができる。また、つまみ部を凹部に収納することによって回動軸部の回転または回動を抑止する効果を有するため、踵部材を中間的な位置で移動不能または固定状態にすることが可能であるため、使用者は靴の踵部高さを所望する高さで使用することが可能となる。
【0016】
踵部材を傾動して踵部高さを変化させる高さ可変手段の場合には、回動軸部を手動で直接的にまたは間接的に回転または回動させることによって、高さ可変手段を傾動不能、傾動可能のいずれかに設定して、踵部の高い状態で踵部材を傾動不能として踵部を高くし、傾動可能にして踵部材を踵部の低い状態にして変化させるものである。また、踵部材の傾動状態に応じて弛張部材を弛張するようになっており、靴底本体の屈曲部を踵部高さに応じて屈曲させるものである。
【0017】
踵部材を着脱して踵部高さを変化させる高さ可変手段の場合には、回動軸部を手動で直接的にまたは間接的に回転または回動させることによって、高さ可変手段を装着可能、脱着可能のいずれかに設定して、踵部材を装着した踵部の高い状態と踵部材を脱着した踵部の低い状態とに変化させるものである。また、屈曲手段は、踵部材の装着状態のとき弛張部材を緊張して屈曲部を屈曲させ、脱着状態のとき弛緩して屈曲部を変化させるものである。
【0018】
このように、靴底部材の踵部に備えた回動軸部によって、高さ変更手段と屈曲手段を同時に機能させることができるようになり、構造を単純化でき、部品点数を少なくすることが可能となる。また、使用者は回動軸部を操作することで容易に踵部高さ及び靴底部材を変化させることができる。
【0019】
本発明にかかる靴は、「前記高さ可変手段は、前記踵部材を上下に移動または伸縮させて前記靴底本体の踵部高さを変えるものであり、前記屈曲手段は、前記踵部材の移動状態または伸縮状態に応じて前記弛張部材の他端を緊張、または弛緩して前記屈曲部を屈曲させる」ものである。
【0020】
靴底本体の踵部高さは、回動軸部を回転または回動させると、高さ可変手段が踵部材を上下方向に移動または伸縮して変化するようになっており、それにより高い状態と低い状態とに変化させることができる。また、踵部材が上下方向に移動または伸縮する構造であるので、高さ可変手段を踵部に集中させて備えることが可能である。そして、屈曲手段は、踵部材の移動状態または伸縮状態に応じて弛張部材を弛張する構成になっており、弛張部材を弛張すると、靴底本体前方が靴底に対して前後方向に相対的に移動し、屈曲部を踵部高さに応じて屈曲させることができる。また、踵部材の移動方向に比例して弛張部材を緊張、または弛緩させることもできる。このように、靴底本体を屈曲させるための機構を単純化できるため、部品点数を少なくすることが可能である。それゆえ、高さ可変手段及び屈曲手段を備えても靴全体の重量の増加を小さく抑えることができる。
【0021】
本発明にかかる靴は、「前記高さ可変手段は、前記踵部材を傾動するよう備え、その踵部材の傾動状態を変化させて前記靴底本体の踵部高さを変えるものであって、前記屈曲手段は、前記踵部材の傾動に応じて前記弛張部材の他端を緊張、または弛緩して前記屈曲部を屈曲させる」ものである。
【0022】
踵部材は、靴底本体に傾動するよう取付けられている。このとき、傾動する方向は、前後方向に傾動するものであるが、「前後方向」とは、正確に前後方向でなくてもよく、斜め方向にずれている場合も含まれる。高さ可変手段は、回動軸部を回転または回動させることによって、踵部材を踵部が高くなった状態で傾動しないよう固定し、または踵部材が傾動するよう踵部材の固定を解除するものである。それにより靴底本体の踵部高さが高い状態と低い状態との2通りに変化させることが可能になる。そして、屈曲手段は、踵部材の傾動状態に応じて弛張部材を弛張するようになっており、靴底本体の屈曲部を踵部高さに応じて2通りに屈曲させることが可能である。つまり、踵部材の固定ときに弛張部材を緊張し、または固定を解除したときに弛緩するようになっている。高さ可変手段の機構を単純化することができるため、さらに部品点数が少なくなり、靴全体の重量の増加量を小さくすることが可能となる。
【0023】
本発明にかかる靴は、「前記高さ可変手段は、前記踵部材が着脱可能であり、その踵部材の着脱により前記靴底本体の踵部高さを変えるものであって、前記屈曲手段は、前記踵部材の着脱状態に応じて前記弛張部材の他端を緊張、または弛緩して前記屈曲部を屈曲させる」ものである。
【0024】
踵部材は、靴底本体に着脱可能に備えられている。そして、高さ可変手段は、回動軸部を回転または回動させることにより、踵部材を脱着可能状態または不能状態にするものである。そして、踵部材を装着しているとき靴底本体の踵部高さを高い状態にし、踵部材を脱着しているとき踵部高さを低い状態にするものであり、2通りに変化させることが可能となる。屈曲手段は、踵部材の着脱状態に応じて弛張部材を弛張するようになっており、靴底本体の屈曲部を踵部高さに応じて屈曲させることができる。つまり、踵部材の装着状態のとき弛張部材を緊張して屈曲部を屈曲させ、脱着状態のとき弛緩して屈曲部の屈曲状態を2通りに変化させることができるようになっている。このような高さ可変手段を備えることにより、高さ可変手段の機構を単純化でき、部品点数を少なくすることが可能となる。また、踵部高さを低い状態にしたときには、靴底本体から踵部材が分離した状態となるため、踵部材分だけ靴重量を軽減して使用することができる。
【0025】
本発明にかかる靴は、「前記高さ可変手段は、前記回動軸部に沿って上下に移動するよう前記踵部材を取付け、前記回動軸部の回転量または回動量に応じて、前記靴底本体の踵部高さを変えるものであって、前記屈曲手段は、前記回動軸部に沿って上下に移動するよう前記弛張部材の他端を取付け、前記回転量または回動量に応じて前記弛張部材の他端を緊張、または弛緩して前記屈曲部を屈曲させる」ものである。
【0026】
靴底本体の踵部高さは、回動軸部の回転量または回動量に応じて、高さ可変手段が踵部材を、回動軸棒に沿って上下方向に移動または伸縮して変化するようになっており、それにより高い状態と低い状態とに変化することができる。ここで、「回転量または回動量」とは、ある位置を基準にして回動軸棒を回転または回動させた数量を意味している。また、屈曲手段は、高さ可変手段と共通する回動軸部の回転量または回動量に応じて、弛張部材を回動軸棒に沿って上下方向に移動させて弛張する構成になっており、弛張部材が弛張すると、靴底本体前方が靴底に対して前後方向に相対的に移動し、屈曲部を踵部高さに応じて屈曲させることができる。つまり、踵部材の移動量に比例して連続的に弛張部材を緊張、または弛緩させることができ、踵部高さを中間的な高さに設定して使用することが可能となる。
【0027】
本発明にかかる靴は、「前記屈曲手段は、前記回動軸部において、前記靴底本体よりの下方部分に、第1のピッチ幅で螺刻された第1の螺刻部と、前記弛張部材の他端に前記第1のピッチ幅で螺刻された第1の螺孔部とを備え、前記第1の螺刻部をその第1の螺孔部に螺挿して前記弛張部材を備えるものであって、 前記高さ可変手段は、前記回動軸部において、前記第1の螺刻部より下方部分に設けられ、第2のピッチ幅で羅刻された第2の螺刻部と、前記踵部材の上部において、その下方向に穿孔され、前記第2のピッチ幅で螺刻された第2の螺孔部とを備え、前記第2の螺刻部を前記第2の螺孔部に螺挿することによって前記踵部材を備え、かつ、前記高さ可変手段に回動不能に備える」ものである。
【0028】
ここで、「第1の螺刻部」、「第2の螺刻部」、「第1の螺孔部」及び「第2の螺孔部」は、右ねじのものに限らず、左ねじのものである場合も含まれる。第1の螺刻部、第2の螺刻部、第1の螺孔部及び第2の螺孔部に全て左ねじのものを用いた場合には、踵部材の移動及び弛張部材の弛張が回動軸部の回転方向を逆にした状態と同様になる。
また、「ピッチ幅」とは、螺刻部または螺孔部に螺刻されたねじ山間、または、ねじの谷間の幅を示している。
【0029】
これによれば、靴底本体に備えられた回動軸部は、第1の螺刻部と第2の螺刻部とを連結して備えている。回動軸部を操作して回動軸部を回転または回動させると、第1の螺刻部が螺挿されている第1の螺孔部(弛張部材)と、第2の螺刻部が螺挿されている第2の螺孔部(踵部材)とが回動軸部の回動軸方向へ上方または下方に移動するようになっている。
【0030】
ここで、第2のピッチ幅に対する第1のピッチ幅の比率によって弛張部材弛張力が踵部材の位置に適するよう設定されるようになっている。すなわち、第1のピッチ幅と第2のピッチ幅とのピッチ幅比率は、踵部材が下方に移動して踵部が高くなった状態と、踵部材が上方に移動して踵部が低くなった状態とにおいて、靴底本体の屈曲部を踵部材の移動状態に適した角度に屈曲させるよう設定されている。第1のピッチ幅と第2のピッチ幅とのピッチ幅を異ならせることにより、直径の異なる2つの歯車を組合わせた機能と同様の機能を備えることができる。
【0031】
第1の螺刻部、第2の螺刻部、第1の螺孔部及び第2の螺孔部が右ねじのものである場合には、回動操作によって回動軸部を右方向に回転させると、第2の螺刻部が螺挿されている第2の螺孔部が回動軸部の上方向へ移動し、すなわち、踵部材が靴底本体方向へ移動する。これによって、踵の高さを低くすることができる。同時に、第1の螺刻部が螺挿されている第1の螺孔部も上方向へ移動し、すなわち、弛張部材の多端も上方向へ移動する。そして、第1の螺孔部(弛張部材)が靴底本体に近づくことにより、緊張していた弛張部材を弛緩し、靴底本体の屈曲部角度を広げた状態にすることができる。すなわち、屈曲部角度は、第2の螺孔部(踵部材)の移動位置によって変化するようになる。
【0032】
次に、回動軸部の操作によって回動軸部を左方向に回転させると、第2の螺刻部が螺挿されている第2の螺孔部(踵部材)が回動軸部の下方向へ移動し、踵部材が靴底本体方向から離れるように移動する。これによって、踵の高さを高くすることができる。同時に、第1の螺刻部が螺挿されている第1の螺孔部(弛張部材)も下方向へ移動する。そして、第1の螺孔部(弛張部材)が靴底本体から離れることにより、弛緩していた弛張部材を緊張し、靴底本体の屈曲部角度を小さくすることができる。
【0033】
このように、回動軸部に複数の歯車を組合わせた状態と同じ機能を備えさせることができるため、踵部高さと、靴底本体の屈曲部角度とを同時に変更することが可能となる。そのため、従来の靴と比較して部品点数を少なくすることが可能となり、靴を軽量化することができる。踵部高さが連続的に変化するので使用者は所望する踵高さで本発明の靴を使用することができる。
【0034】
また、第2の螺刻部を第1の螺刻部よりも太いものを用いた場合、すなわち、第2の螺刻部の外径及び第2の螺孔部の内径を、第1の螺刻部の外径及び第1の螺孔部の内径より大きくした場合には、回動軸部を右回転させることによって第2の螺孔部を上方(靴底本体方向)に移動させたとき、第2の螺孔部が第1の螺刻部に接触して移動を阻止されないため、第1の螺刻部にも踵部材を移動させることが可能となる。そのため、踵部材の移動範囲を広げることができ、踵の高さの変化量を大きくすることが可能となる。そのため、ハイヒールのように踵部の高い靴でも、踵部を変化させたときの高低差を大きくさせることが可能となる。
【0035】
また、本発明の靴において、「前記高さ可変手段は、前記回動軸部の下部に設けられ、前記回動軸部の回動によって前記踵部材を傾動不能にし、または傾動不能を解除する機能によるものであり、前記踵部材の傾動状態を変化させて前記靴底本体の踵部高さを変えるものであって、前記屈曲手段は、前記踵部材に前記弛張部材の多端を連結し、前記踵部材の直立時に前記弛張部材を緊張し、横倒時に前記弛張部材を弛緩して前記屈曲部を屈曲させる」構成とすることもできる。
【0036】
踵部材は、靴底本体に傾動するよう取付けられている。このとき、傾動する方向は、前後方向に傾動するものであるが、「前後方向」とは、正確に前後方向でなくてもよく、斜め方向にずれている場合も含まれる。高さ可変手段は、回動軸部を回転または回動させることによって、踵部材を踵部が高くなった状態で傾動しないよう固定し、または踵部材が傾動するよう踵部材の固定を解除するものである。それにより靴底本体の踵部高さが高い状態と低い状態との2通りに変化させることが可能になる。そして、屈曲手段は、弛張部材の他端が踵部材に連結しており、踵部材の傾動状態に応じて弛張部材を弛張するようになっている。すなわち、踵部材の傾動に応じて弛張部材を緊張させたり、弛緩させたりすることができる。
【0037】
本発明にかかる靴は、「前記高さ可変手段は、前記回動軸部の下部に設けられ、前記回動軸部の回動によって前記踵部材を脱着可能または脱着不能にする機能によるものであり、前記踵部材の着脱により前記靴底本体の踵部高さを変えるものであって、前記屈曲手段は、前記靴底本体または前記踵部材に備えられ、前記踵部材の装着時に、前記弛張部材を緊張して前記屈曲部を屈曲させた状態を保って前記弛張部材の他端を係止し、脱着時に、その他端の係止を解除して前記弛張部材を弛緩する係止手段を備えるものであることを特徴とする」ものである。
【0038】
踵部材は、靴底本体に着脱可能に備えられている。そして、高さ可変手段は、回動軸部を回転または回動させることにより、踵部材を脱着可能状態または不能状態にするものである。そして、踵部材の装着時、靴底本体の踵部高さを高くし、踵部材の脱着時、踵部高さを低くする。屈曲手段は、踵部材の装着状態のとき、弛張部材の他端を係止して緊張し、屈曲部を屈曲させ、脱着状態のとき、弛張部材の他端の係止を解除して弛緩し、屈曲角度を大きくすることで、靴底本体の屈曲部を踵部高さに応じて、すなわち、踵部材の着脱状態に応じて、弛張部材を弛張して屈曲部を屈曲させることが可能となる。
【0039】
本発明にかかる靴は、「前記弛張部材は、可撓性を有し、かつ前記靴底本体の長手方向に伸縮しない特性を有するものであることを特徴とする」ものである。
【0040】
弛張部材は、可撓性を有するものであり、かつ靴底本体の長手方向に伸長しない特性を有するものである。可撓性を有することにより靴底部材の屈曲に対応して弛張部材も変形することが可能となり、靴底部材において前後にスライドしやすくなる。靴底部材が伸長しない特性を有することにより、屈曲手段による屈曲させた状態で靴底部材の形状を保持することが可能となる。靴底部材が伸長すると、靴底本体の屈曲部の前部下面と靴の踵下端面とを同一面に一致させることができなくなるからである。靴底部材がこのような性質を有することにより、靴の踵部を高くした状態で靴を履いて使用することができる。
【0041】
本発明にかかる靴は、「前記連結手段は、可撓性を有する薄い金属板であることを特徴とする」ものである。
【0042】
弛張部材として可撓性を有する薄い金属板を用いることにより、弛張部材に可撓性と不伸長性を備えさせることができる。
【発明の効果】
【0043】
このように、本発明の靴は、踵の高さを変更する機能及び靴底の形状を変化させる機能を備えながら、靴全体の重量を軽量化することが可能である。また、部品点数を少なくできるため、生産コストを低く抑えることが可能である。また、地震等の災害時に、踵部の高い靴を低い状態に変化させることができるので、非常用の機能を備えた靴としての効果も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】第1実施形態の靴であって、踵高さを高くした状態での靴の構成を示す断面図である。
【図2】第1実施形態の靴であって、踵高さを低くした状態での靴の構成を示す断面図である。
【図3】第1実施形態の靴であって、回動軸棒、屈曲手段及び可動踵部を構成する部品の斜視図である。
【図4】第1実施形態の靴であって、靴の踵部を上方から目視した場合の回動軸部の形状を説明する平面図(a)と、別例を示す平面図(b)である。
【図5】第2実施形態の靴であって、踵高さを高くした状態での靴の構成を示す断面図である。
【図6】第2実施形態の靴であって、踵高さを低くした状態での靴の構成を示す断面図である。
【図7】第2実施形態の靴であって、靴の踵部を上方から目視した場合の回動軸棒の構成を示す斜視図である。
【図8】第2実施形態の靴であって、傾動踵部の構成を示す斜視図である。
【図9】第2実施形態及び第3実施形態の靴であって、連結板の構成及び形状を示す斜視図である。
【図10】第3実施形態の靴であって、踵高さを高くした状態での構成を示す断面図である。
【図11】第3実施形態の靴であって、踵高さを低くした状態での構成を示す断面図である。
【図12】第3実施形態の靴であって、装着踵部の構成及び形状を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
[第1実施形態]
以下、本発明を、一般にハイヒールと呼ばれる踵部の高い靴に具体化し、踵部を伸縮させることによって踵部高さを変化させる機能を有する靴1aの構造について、図1乃至図4に基づいて説明する。
【0046】
図1に示すように靴1aは、靴底本体としての靴底本体2と、その靴底本体2の上面に設けられる前部底敷3と、靴底本体2の踵部に設けられ、高さ可変手段及び屈曲手段を備えるヒール部4aと、前部底敷3と前記ヒール部4aとを連結するよう設けられ、弛張部材としての連結板5と、回動軸部としての回動軸棒6とを備えている。
【0047】
靴底本体2は、合成樹脂製または木製であって、人の足裏形状に類似した形状に形成され、底面にて、前部靴底部が平状となっており、図1に示すように後方に向かうにしたがって土踏まず部分が上方に湾曲した形状に形成されている。平状に形成された靴底部分と湾曲部分(土踏まず部分)との境目付近には、靴底本体2の短手方向に薄く形成された凹状部2aが設けられている。この凹状部2aは、靴底本体2を凹状部2aの部分で屈曲させるために厚みを他の部分より薄くするために形成されたものであり、屈曲部として機能するものである。
【0048】
ヒール部4aは、可動踵部21aと、踵部本体22と回動軸棒6から構成されている。踵部本体22は、合成樹脂製、または木製であり、靴底本体2の踵部に設けられている。そして、踵部本体22は、逆円錐に類似した形状に形成されており、その内部にUの字の上部を閉じた形状に類似した形状を孔の形状とする支持孔22aを上下方向(靴底本体2に対して垂直方向)に備えている。
【0049】
靴底本体2において、踵部本体22の支持孔22a上部には、貫通孔8が靴底本体2の上面に対して垂直方向(支持孔22a方向)に形成され、貫通孔8の周囲に凹部7が形成されている。その貫通孔8には、図3に示す、断面が円形の軸頭部10aを備えた、ピッチ幅Aで螺刻された第1回動軸棒11が貫通して備えられている。そして、第1回動軸棒11は、ピッチ幅Aで内側部に螺刻されたナット12を靴底本体2に螺合して固定され、靴底本体2に対して相対的に回動可能に取付けられている。軸頭部10aには、その直径方向に軸が設けられ、その軸に回動可能に取付けられることによって、弧状に類似する形状に形成されたつまみ部13が備えられている。このとき、図4(a)に示すように、前述した凹部7は、つまみ部13を靴1の後方に横倒して収納可能であり、かつ、つまみ部13を回動可能である形状及び深さを有するものである。
【0050】
靴底本体2には、靴1aの前後方向にて、靴1aを履いた足指の根元が位置する付近から凹部7近傍まで長く形成された長形凹部9を備え、長形凹部9の踵側端部には、後部方向に斜めに貫通する貫通孔9aが形成されている。靴底本体2の前方上面には、靴底本体2の前方上面形状と同形の前部靴底敷3が敷設され、その前部靴底敷3の下面後部には、板状の取付金具14が備えられている。図3に示すように取付金具14には、下方に突設する円柱状の係止部14aを備えている。踵部本体22には、貫通孔9aから支持孔22aに向かって傾斜して切取られるよう形成された、貫通孔9aとつながる連結板5の連結板通路24が設けられている。
【0051】
図3に示すように、連結板5は、厚さが0.2mm以下の薄板であって靴1の前後方向に長く形成されている。その素材として、JIS G3311を熱処理された特殊鋼が用いられている。この特殊鋼は、薄いので軽く、適度の屈曲性を有し、伸張しにくいものである。ここで、特殊鋼に代えて、細い針金を編んで板状にした網板に樹脂でコーティングしたものや、所定の強度を有する特殊な樹脂製板等を用いてもよい。連結板5の前部には、靴1aの前後方向に細長く形成された係止孔5aが穿設されている。連結板5の後部には、2つの円形状の円板15,16が連結板5を挟んで固着されている。ここで、円板15,16は、支持孔22aを通過可能な大きさのものである。円板15,16の中心には、連結板5と円板15,16とを貫通して穿孔し、内側面にピッチ幅Aで螺刻された螺子孔17が設けられている。螺子孔17は、第1の螺孔部として機能する。
【0052】
図3に示すように連結板5は、長形凹部9に配置され、係止孔5aに係止部14aを挿入して、さらに係止環18を嵌合することにより、前後方向にスライド可能に取付金具14に取付けられている。そして、螺子孔17を備えた連結板5の後端は貫通孔9aを通過し、螺子孔17に第1回動軸棒11が螺挿され、靴の前部とヒール部4aとが連結板5により連結した状態となっている。このとき、第1回動軸棒11が回動すると、円板15,16が第1回動軸棒11に沿って上下に移動するようになっている。また、連結板通路24が設けられているため、円板15,16の上下移動により連結板5を第1回動軸棒11に沿って上下に移動し弛張することが可能な状態となっている。つまり、連結板5、回動軸棒6(第1回動軸棒11)、つまみ部13、取付金具14、及び円板15,16は、屈曲手段として機能する。
【0053】
回動軸棒6は、軸頭部10aにつまみ部13を備えた第1回動軸棒11と第2回動軸棒20とから構成されている。すなわち、第1回動軸棒11の下部には、第1回動軸棒11よりも直径が大きい第2回動軸棒20が備えられている。そして、図3に示すように第2回動軸棒20の上部において、軸方向に螺子孔20aが穿孔され、その螺子孔20aと第1回動軸棒11とを螺合し、その側面部に孔23aを穿孔してピン23を打ち込んで固定することによって、第1回動軸棒11と第2回動軸棒20とを連結している。第2回動軸棒20の側面全域は、ピッチ幅Bで螺刻されている。第1回動軸棒11は第1の螺刻部として機能し、第2回動軸棒20は第2の螺刻部として機能する。
【0054】
可動踵部21aは、その水平断面が支持孔22aと同様の形状を有している。すなわち、U字の上部を線で閉じた形状に類似した断面形状を、上下方向に延出した立体形状であり、可動踵部21aの前部側面に平らな平面部を有している。可動踵部21aの上面には、長手方向に穿孔され、ピッチ幅Bで内側面部に螺刻された螺子孔19を備えている。可動踵部21aは、踵部本体22の支持孔22aに挿入されスライド可能に支持され、回動軸棒6の下部(第2回動軸棒20)を螺子孔19に螺挿することによって踵部本体22に取付けられている。螺子孔19は、第2の螺孔部として機能する。
【0055】
ここで、可動踵部21aは、円柱形状でないため、支持孔22aに挿入されたとき、上下方向にはスライド可能であるが上下方向を回動軸として回動することはない。そのため、つまみ部13を起こし、手動で回動軸棒6を回動させると、可動踵部21aが第2回動軸棒20に沿って上下に移動することが可能である。回動軸棒6(第2回動軸棒20)、踵部本体22及び可動踵部21aは、高さ可変手段として機能する。
【0056】
ここで、上述した第1回動軸棒11、螺子孔17、第2回動軸棒20、及び螺子孔19は、全て右ねじで螺刻されたものであり、ねじ山の種類は、三角ねじと呼ばれるタイプのものを用いている。しかし、このようなねじの種類に限定されるものでなく、例えば、これら全てを左ねじで螺刻したものに代えてもよく、また、ねじ山も三角ねじタイプ以外のもの、例えば、角ねじ、台形ねじ、丸ねじ、または、のこ歯ねじタイプ等、別のものに代えてもよい。また、ピッチの種類は、並目ピッチであっても、細目ピッチであってもよい。ここで、第1回動軸棒11、螺子孔17、第2回動軸棒20、及び螺子孔19が、すべて左ねじである場合には、靴1aの踵部高さと靴底本体2の屈曲変化が回動軸棒6の回転方向を逆にした状態と同様の作用となる。
【0057】
第1回動軸棒11及び螺子孔17のピッチ幅Aと、第2回動軸棒20及び螺子孔19のピッチ幅Bとは、ピッチ幅A<ピッチ幅Bの関係であり、ピッチ幅Aが細かくピッチ幅Bが粗いことを示し、第1回動軸棒11を回動させて可動踵部21aを移動することによるヒール部4aの高さと、屈曲部2aにおける靴底本体2の屈曲角度とによって決定されている。すなわち、第1回動軸棒11における円板15,16の移動可能な範囲L1、第2回動軸棒20における可動踵部21aの移動可能な範囲L2、及び可動踵部21aの長さが、ヒール部4aの高さと、凹状部2aにおける靴底本体2の屈曲角度とによって決定されている。また、可動踵部21aが最も下方へ移動し、ヒール部4aの高さが最大となったとき、円板15,16が、第2回動軸棒20に当接し固定されるように設定され、かつ、つまみ部13が横倒して凹部7に収納可能な状態に位置するように設定されている。
【0058】
靴底本体2において、前部底敷3より後方の上面には、凹部7及び長形凹部9を覆うように後部底敷25が貼付されている。図2に示すように、後部底敷25の踵部付近は、つまみ部13を起こして回動できるように、後部底敷25が上方へ起き上がるようになっている。靴底本体2の周囲には、靴1を履いたとき、その履いた人の足の前部を保持する前部足保持部26と、足の側部から後部周囲を保持する後部足保持部27が備えられている。前部足保持部26と後部足保持部27との間であって、靴底本体2の凹状部2a付近の左右両サイドには、前部足保持部26と後部足保持部27とを連結する伸縮部材28が介装され、凹状部2aの屈曲によって伸縮するものである。伸縮部材28の下部は弧状に形成され、凹状部2aで屈曲しやすくするため、かつ、靴1の内部の空気を出入りさせるための開口部28aが設けられている。
【0059】
次に、上記のように構成された第1実施形態である靴1aの作用及び効果について説明する。
【0060】
図1は、可動踵部21aが最も下方へ移動した状態、換言すると、可動踵部21aがL2の下端に位置した状態となっている。このとき、円板15,16と第2回動軸棒20の上端とが当接し、つまみ部13が後方へ横倒し、凹部7に収納された状態となっている。そのため、回動軸棒6が固定して回動不能となっており、可動踵部21aの移動が阻止された状態となっている。そのため、使用者が靴1aを履いてヒール部4aに体重をかけても可動踵部21aが固定した状態となって移動せず、ヒール部4aを最も高くした状態で使用することが可能である。
【0061】
また、円板15,16は下方へ移動して連結板5を緊張した状態である。つまり、円板15,16がL1の下端に位置して連結板5を緊張し、靴底本体2の前部を後方へ引き寄せた状態となっている。つまり、前部底敷3に固定された取付金具14を連結板5が後方へ引き寄せることになり、靴底本体2の凹状部2aを屈曲させている。このとき、回動軸棒6の適切な長さの選択、靴底本体2にて貫通孔9aの位置の調整等によって、可動踵部21aの下端と、凹状部2aより前方の靴底本体2の底面とが同一平面上に一致するよう設定されている。
【0062】
回動軸棒6は、第1回動軸棒11と第2回動軸棒20と固定して連結されているため、軸頭部10aを回動させると、第1回動軸棒11と第2回動軸棒20とは同時に回動するものである。そのため、つまみ部13を操作して回動軸棒6を回転または回動させると、第1回動軸棒11に螺挿されている円板15,16と、第2回動軸棒20に螺挿されている可動踵部21aとが回動軸棒6の回動軸方向へ上方または下方に移動するようになっている。図2に示すように靴1aの後部底敷25を捲り、可倒可能なつまみ部13を直立に起こすと、つまみ部13が手でつまみやすい状態となり、手動で直接的に回動軸棒6を回動させることが可能となる。そのため、道具を使用することなく回動軸棒6を直接的に手動で回動させることができる。そして、図1に示すようにヒール部4aの高い状態で、つまみ部13をつまんで回動軸棒6を右回転させると、第2回動軸棒20に沿って可動踵部21aを軸頭部10aの方向(上方向)へ移動させることができ、同時に、円板15,16も第1回動軸棒11に沿って軸頭部10aの方向(上方向)へ移動させることができる。
【0063】
このように、つまみ部13をつまんで回動軸棒6を右方向に回転させると、第2回動軸棒20に螺挿されている可動踵部21aが上方向へ移動し、靴底本体2の方向へ近づいていく。これによって、ヒール部4aの高さを徐々に低くすることができる。同時に、第1回動軸棒11に螺挿している円板15,16も徐々に上方向へ移動し、円板15,16を靴底本体に近づけることにより、緊張していた連結板5を徐々に弛緩することができ、靴底本体の屈曲部角度を広げることができる。したがって、屈曲部角度は、円板15,16に対する可動踵部21aの移動量に応じて変化させることができる。
【0064】
ここで、第1回動軸棒11の外径は、可動踵部21aの螺子孔19の内径より小さく形成されている。回動軸棒6を回動させることによって可動踵部21aを上方に移動させたとき、可動踵部21aは、第1回動軸棒11に妨害されることないため、第1回動軸棒11の範囲(L1)にも移動させることが可能となる。そのため、可動踵部21aの移動範囲L2をL1の範囲にまで広げることができ、ヒール部4aの高さの変化量を大きくすることが可能となる。そのため、ハイヒールのような踵部の高い靴でも、踵部の高低差を大きくすることが可能となる。
【0065】
また、第2のピッチ幅に対する第1のピッチ幅の比率によって屈曲部角度がヒール部4aの高さに適するよう設定されている。すなわち、第1のピッチ幅と第2のピッチ幅とのピッチ幅比率は、可動踵部21aが下方に移動してヒール部4aが高くなった状態と、可動踵部21aが上方に移動してヒール部4aが低くなった状態とにおいて、靴底本体6の凹状部2aがヒール部4aの高さに適した角度に屈曲するよう設定されている。したがって、第1のピッチ幅と第2のピッチ幅とのピッチ幅を異ならせることにより、直径の異なる2つの歯車を組合わせた機能と同様の機能を回動軸棒6に備えることができる。そのため、従来の靴よりも部品点数を少なくすることができ、靴1aを軽量化することが可能となる。
【0066】
可動踵部21aが所定の位置(可動踵部21aの上端がL2の範囲内)にあるとき、かつ、つまみ部13を靴1aの後方に横倒できる状態(図2に示す状態)になったとき、つまみ部13を靴1aの後方に横倒すると、回動軸棒6が回転または回動不能となり、円板15,16及び可動踵部21aの移動が阻止される。すなわち、踵部材21aを中間的な位置(可動踵部21aの上端がL2の範囲内)で移動不能にすることが可能となり、靴1aの踵部高さが図1に示すヒール部4aの高さと、図2に示すヒール部4aの高さの中間的な高さに設定できる。このとき、第1のピッチ幅と第2のピッチ幅とのピッチ幅比率の調整によって、ヒール部4aの下端と、凹状部2aより前方の靴底本体2の底面とが同一平面上に一致するようになっている。
【0067】
したがって、つまみ部13と凹部7とが回動軸棒6の回動を抑止する機能を有する。つまり、使用者の所望する位置(可動踵部21aの上端がL2の範囲内)に可動踵部21aを移動させたとしても、つまみ部13を凹部7に嵌めこむことによって回動軸棒6が勝手に回動するのを防止し、可動踵部21aを自由に移動できなくさせることができる。そして、使用者は、ヒール部4aの高さを自由に設定して使用することができる。また、つまみ部13を横倒しにして凹部7に嵌めこむことができるため、使用者が靴1aを履いたとき、つまみ部13が邪魔になることはない。
【0068】
さらに、回動軸棒6を右回転させていくと、図2に示すように、可動踵部21aの下端が踵部本体22に完全に収納された状態となる。同時に、円板15,16が軸頭部10aの方向(上方向)へ移動することによって、連結板5が弛み、靴底本体2の凹状部2aの屈曲角度が最も大きくなった状態になる。そして、つまみ部13を靴1aの後方に向けて横倒可能な状態(図2に示す状態)になったとき、回動軸棒6の右回転を止め、つまみ部13を凹部7に横倒して収納する。そして、使用者は、ヒール部4aの高さを最も低くした状態で使用することができる。このようにヒール部4aを最も低くした状態(図2に示す状態)は、地震等の災害が発生した時に使用者が瓦礫等の散乱する中を非難するのに適しており、災害時にも対応できる靴として有効である。
【0069】
次に、ヒール部4aの高さを高くするには、回動軸棒6を上述とは逆回転させればよい。すなわち、つまみ部13を操作して回動軸棒6を左方向に回転させる。すると、第2回動軸棒20に螺挿する可動踵部21aが回動軸棒6の下方向(靴底本体2から離れる方向)へ移動して、ヒール部4aの高さを高くさせることができる。同時に、第1回動軸棒11に螺挿している円板15,16も下方向(L1の下端)へ移動して、弛緩していた連結板5を緊張し、靴底本体2の屈曲部角度を小さくさせる、すなわち、凹状部2aで徐々に屈曲させることができる。
【0070】
ヒール部4aが最も高くなった状態で、かつ、つまみ部13を靴1の後方に横倒できる状態(図2に示す状態)になったとき、つまみ部13の左回転を止め、つまみ部13を凹部7に横倒して収納させる。すると、円板15,16が軸頭部10aの方向(L1の下端)へ移動することによって、連結板5が最も緊張し、靴底本体2の凹状部2aの屈曲角度を小さくさせることができる。このとき、図1に示すようにヒール部4aの下端と、凹状部2aより前方の靴底本体2の底面とは、同一平面上に一致するようになる。そして、使用者は、ヒール部4aの高さを最も高くした状態で使用することができる。
【0071】
ところで、図1または図2の状態で使用者が靴1aを履いて歩行している場合、靴底本体2の凹状部2aがさらに屈曲しようとする状態が生じる。つまり、歩行運動により靴1aの屈曲部の角度は常に変化し、連結板5が緊張して屈曲した角度から、さらに角度が小さくなる変化が生じる。このとき、連結板5は、前後方向にスライド可能なように取付金具14に取付けられ、また、長形凹部9が取付金具14より前方に長く形成されているため、連結板5が前方へスライドすることが可能である。そのため、靴底本体2がさらに屈曲しても、連結板5が長形凹部9の内部で突っ張ることがなくなり、連結板5が長形凹部9の内部で撓んだり変形したりすることによる連結板5の移動不能トラブルや靴底本体2の損傷等を未然に防止することができる。使用者は、従来の靴と同様に違和感なく、靴1aを履いて使用することができる。
【0072】
したがって、本実施形態の靴1aを利用すれば、回動軸棒6に、ピッチ幅の異なる2種類の螺刻部を備える、つまり、第1回動軸棒11及び第2回動軸棒20を備えることで、従来の靴のように複数の歯車を用いることなく、連結板5の弛張と可動踵部21aの移動とを同時に機能させることができる。また、従来の踵部及び靴底部を変化させる靴と比較すると、複数の歯車やそれに関する部品を省略できることで、構造を単純化できる。そのため、部品点数を少なくすることができ、靴1aを軽量化することが可能となる。また、ヒール部4aの高さを連続的に変化させることが可能であるので、使用者は所望する踵の高さで本発明の靴1aを使用することができる。
【0073】
また、上記の第1実施形態の構成に代えて、別のものを用いてもよい。例えば、つまみ部13に代えて、図4(b)に示す形状のつまみ部13aを用いてもよい。この場合、つまみ部13aは、半円弧状に加工されたものであって、一部に半円形状の切欠部13bを有するものである。このとき、凹部7の形状は円形状であって、その凹部7の後端に切欠部13bと同形の突出部2bを有するものである。このように切欠部13bと突出部2bを有することで、図4(a)のつまみ部13と同様に、つまみ部13aを靴1aの後方に横倒すると、つまみ部13aの切欠部13bが突出部2bに係止され、回動軸棒6の回転または回動不能となり、円板15,16及び可動踵部21aの移動を阻止することができる。すなわち、踵部材21aを中間的な位置(図1のL2の範囲内)で移動不能にすることが可能となる。また、後部足保持部27と伸縮部材28を省略して、後部足保持部27を備えない靴とすることもできる。
【0074】
[第2実施形態]
以下、本発明を、一般にハイヒールと呼ばれる踵部の高い靴に具体化し、踵部を傾動させることによって踵部高さを変化させる機能を有する靴1bの構造について、図5乃至図9に基づいて説明する。
【0075】
図5に示すように靴1bは、靴底本体としての靴底本体2と、その靴底本体2の上面に設けられる前部底敷3と、靴底本体2の踵部に設けられ、高さ可変手段及び屈曲手段を備えるヒール部4bと、前部底敷3と前記ヒール部4bとを連結するよう設けられ、弛張部材としての連結板5と、を備えている。
【0076】
靴底本体2は、合成樹脂製、または木製であり、一般の靴と同様に、人の足裏形状に類似した形状に形成されたものであって、その底面において、前部が平状に形成されており、図5の断面形状において、後方に向かって上方に湾曲した形状に形成されている。平状に形成された部分と湾曲部分(土踏まず部分)との境目付近には、靴底本体2の短手方向に、屈曲部として機能する凹状部2aが形成されている。凹状部2aが形成されることによって、その部分の厚さが薄くなり、屈曲可能な状態になっている。
【0077】
ヒール部4bは、傾動踵部21bと、踵部本体22とから構成されている。踵部本体22は、合成樹脂製、または木製であり、靴底本体2の踵部に取付けられている。踵部本体22は、水平方向の断面形状がU字形状をなし、換言すると、前後方向を逆にした馬蹄形状に類似した形状であり、その曲部は靴底本体2の後部の曲部と同形に加工されている。そして、下方に向かって周囲が丸みを帯ながら細くなるよう形成されている。
【0078】
図8に示すように、傾動踵部21bは、上部が踵部本体22のU字形状内に挟まる形状、つまり、半円柱形状に類似した形状であって、その途中から下方に向かって断面積が小さくなる、つまり、その半円柱形状に類似した形状の下部に半円錐形状を合体させたような形状に形成されている。傾動踵部21bの上前部には金属性の傾動軸棒38が貫挿して取付けられている。そして、傾動踵部21bの上部が踵部本体22のU字間に挿みこまれるよう配置され、踵部本体22の内側部の傾動軸棒38が位置する部分に対向する2つの凹部を形成して、傾動軸棒38をその両凹部に枢軸させて傾動踵部21bが傾動可能なように取付けられている。踵部本体22、傾動軸棒38、及び傾動踵部21bは、高さ可変手段として機能する。
【0079】
靴底本体2の踵部上面であって傾動踵部21bの後部位置には、軸頭部10bと同形の円形状に形成された凹部7が形成され、その中心には、軸取付孔29が靴底本体2の上面に対して垂直方向に踵部本体22の内部まで穿孔されて設けられている。そして、軸取付孔29の下端と同じ位置であって踵部本体22内側面には、軸取付孔29に対して垂直であるように半円柱形状の半円板状孔35が形成されている。可動踵部21bの直立時(図5の状態)において、半円板状孔35と同じ位置には、半円板状孔35と連結して円形状の空間を形成するように半円柱形状に形成された係止孔33が形成されている。
【0080】
軸取付孔29には、図8に示す円板形の軸頭部10bを備えた、回動軸棒31が貫通して備えられている。軸頭部10bの上面部には、貨幣を縦にはめ込み可能なすりわり部32が形成されている。そして、回動軸棒31は、その下端に、半円板状孔と同じ位置であって、半円板形状の係止板30を備えている。そのため、回動軸棒31は回動可能でありながら、踵部本体22から脱離不能な状態である。また、軸頭部10bを回動させると、係止板30の一部が半円板状孔35から突出したり、半円板状孔35の内部に収納したりする状態になっている。
【0081】
靴底本体2には、靴1bの前後方向にて、靴1bに履いた足指が位置する付近から踵部本体22の近傍まで長く形成された長形凹部9を備え、長形凹部9の後方端部には、後部方向に斜めに貫通する貫通孔9aが形成されている。靴底本体2の前方上面には、靴底本体2の前方上面と同形の前部靴底敷3が敷設され、その前部靴底敷3の下面後部には、図9に示す板状の取付金具14が備えられている。取付金具14には、下方に突設する円柱状の係止部14aを備えている。
【0082】
連結板5は、厚さが0.2mm以下の薄板であって靴1bの前後方向に長く形成されている。その素材として、JIS G3311を熱処理した特殊鋼が用いられている。この特殊鋼は、薄いので軽く、適度の屈曲性を有し、伸張しにくいものである。ここで、特殊鋼に代えて、細い針金を編んで板状にした網板に樹脂でコーティングしたものや、所定の強度を有する特殊な樹脂製板等を用いてもよい。連結板5の前部には、靴1bの前後方向に細長く形成された係止孔5aが穿設され、連結板5の後端部に孔5bが設けられている。
【0083】
連結板5は、長形凹部9に配置され、連結板5の前端は、係止孔5aに貫入した係止部14aに係止環18を嵌合することにより、前後方向に自由にスライド可能なように取付金具14に取付けられている。そして、連結板5の後端は、貫通孔9aを通過し、傾動踵部21bの側面に形成された板状孔42に挿入し、傾動踵部21bの上部から打ち込まれたピン40を連結板5の孔5bに貫通させることによって傾動踵部21bに取付けられている。ここで、貫通孔9aと板状孔42の設けられる位置は、傾動踵部21bの直立時に、ヒール部4bの高さと凹状部2aにおける靴底本体2の屈曲角度との関係によって決定されている。すなわち、傾動踵部21bが直立して、靴底本体2の凹状部2aを屈曲させたとき、ヒール部4bの下端と、靴底本体2の凹状部2aより前方底面とが同一平面上に一致するよう設定されている。連結板5、回動棒軸31、取付金具14は、屈曲手段として機能する。
【0084】
図5に示すように、傾動踵部21bを横倒してヒール部4bを低くしたとき(図6の状態)、傾動踵部21bの横倒状態を保つための凸部36が踵部本体22の両内側面に設けられ、その両凸部36により挟み込まれる位置の、傾動踵部21bの両側面部に2つの凹部37(図7)が設けられている。このため、ヒール部4bを低くした場合でも、傾動踵部21bの横倒状態が保たれ、ヒール部4bを低くした状態で使用することが可能である。
【0085】
靴底本体2において、前部底敷3より後方の上面には、凹部7及び長形凹部9を覆うように後部底敷25が貼付されている。図6に示すように、後部底敷25の踵部付近は、軸頭部10bを回動できるように、後部底敷25が上方へ起き上がるようになっている。靴底本体2の周囲には、靴1bを履いたとき、その足前部を保持する前部足保持部26と、足の側部から後部周囲を保持する後部足保持部27が取付けられている。前部足保持部26と後部足保持部27との間であって、靴底本体2の屈曲部2a付近の左右両サイドには、前部足保持部26と後部足保持部27とを連結する伸縮部材28が介装されている。伸縮部材28の下部は弧状に形成され、凹状部2aで屈曲しやすくするため、かつ、空気が出入りするための開口部28aが設けられている。
【0086】
次に、上記のように構成された第2実施形態である靴1bの作用及び効果について説明する。
【0087】
図5に示すように、靴1bを通常使用する場合には、傾動踵部21bが垂直状態となっており、ヒール部4bの高さが最も高くなった状態である。このとき、係止板30が係止孔33に突出しており、傾動踵部21bが傾動不能となっている。そのため、靴1bを履いてヒール部4bに体重がかかっても傾動踵部21bは傾動しないため、靴1bを踵の高い靴として使用することが可能である。
【0088】
また、上記のように傾動踵部21bが垂直状態の場合には、連結板5を係止して靴底本体2の前部を後方へ引き寄せるような状態となっている。そして、前部底敷3に固定された取付金具14が連結板5の緊張によって後方へ引き寄せられ、靴底本体2の凹状部2aを屈曲させた状態となっている。また、ヒール部4bの下端と靴底本体2の凹状部2aより前方底面とが同一平面上に一致するようになっている。
【0089】
このようにヒール部4bを高くした状態で靴1bを履き歩行すると、歩行運動による体重のかかり具合の変化等により、靴底本体2の凹状部2aをさらに屈曲させようとする状態が継続して発生する。つまり、連結板5を緊張させて屈曲した角度から、さらに角度を小さくさせる変化が生じる。しかし、連結板5と取付金具14とは、前後方向にスライド可能に取付けられ、かつ、長形凹部9が取付金具14より前方に長く形成されている。そのため、靴底本体2の凹状部2aをさらに屈曲する状態が生じたときでも、連結板5がさらに前方へスライドすることができる。そのため、連結板5が移動できないことから生じる、連結板5の靴底本体2の内部での撓みや、変形による連結板5の移動不能トラブル、靴底本体2の損傷等を未然に防止することが可能である。また、凹状部2aの変形不能となることを防止できるので、使用者が一般の靴と同様に違和感なく歩行することができる。
【0090】
地震等の災害が発生した場合に、ヒール部4bを高くした状態では瓦礫の中を走ったり、階段を下りたりする非難活動には不向きであるため、図6に示すように、ヒール部4bを低くして使用するほうが適している。ヒール部4bを低くする場合には、靴1bの後部底敷25を捲り、貨幣をすりわり部32に嵌め、貨幣に軸頭部10bを左右どちらかに回転するような力を加え、手動で間接的に軸頭部10bを回転させる。すると、回動軸棒31の下部の係止板30が同じ方向へ回転し半円板状孔35に収納された状態となり、係止板30が係止孔33に突出しなくなるので、傾動踵部21bを横倒することが可能となる。図6に示すように傾動踵部21を前方へ横倒させると、連結板5の取付け部分が前方へ移動することによって連結板5を弛緩し、靴底本体2の凹状部2aの屈曲を大きくさせることができる。また、踵部本体22の両内側面に設けられた両凸部36が傾動踵部21bの両側面部に設けられた2つの凹部37に挟み込まれるようになる。このため、ヒール部4bを低くした場合でも、傾動踵部21bの横倒状態が保たれ、ヒール部4bを低くした状態で使用することが可能である。
そして、図6のヒール部4bの下端と、靴底本体2の凹状部2aより前方底面とが同一平面上に一致するようになり、使用者は靴1bを踵の低い靴として使用することが可能となる。
【0091】
したがって、本実施形態の靴1bを利用すれば、第1実施形態と同様の効果に加え、第1実施形態の靴とは異なり、踵高さの変化及び靴底本体の屈曲が2種類しかなく、第1実施形態の靴よりも踵部高さの変化及び靴底本体の屈曲のスピードを早くすることができる。
【0092】
本実施形態の構成に代えて、別のものを用いてもよい。例えば、図10及び図11に示す回動軸棒31と傾動踵部21bとを螺合させて傾動踵部21bの傾動を阻止する構造としてもよい。また、傾動踵部21bは前後方向に傾動するものであるが、正確に前後方向でなくともよく、左右方向にずれた方向に傾動するように取付けてもよい。軸頭部10b及びすりわり部32に代えて、第1実施形態で用いた軸頭部10a及びつまみ部13を用いるようにしてもよい。
【0093】
[第3実施形態]
以下、本発明を、一般にハイヒールと呼ばれる踵部の高い靴に具体化し、踵部の着脱によって踵部高さを変化させる機能を有する靴1cの構造について、図9乃至図12に従って説明する。
【0094】
図10に示すように靴1cは、靴底本体としての靴底本体2と、その靴底本体2の上面に設けられる前部底敷3と、靴底本体2の踵部に設けられ、高さ可変手段及び屈曲手段を備えるヒール部4cと、前部底敷3と前記ヒール部4cとを連結するよう設けられ、弛張部材としての連結板5とを備えている。
【0095】
靴底本体2は、合成樹脂製であり、上方から視ると人の足裏形状に類似した形状に加工され、その前部底面が平状となっており、図10の断面形状において底面が土踏まず前部付近から後方に向かって湾曲した形状となっている。平状に形成された部分と湾曲部分との境目付近には、靴底本体2の厚さが短手方向に薄く凹状に形成され、屈曲可能な屈曲部として機能する凹状部2aが設けられている。
【0096】
ヒール部4cは、踵部本体22と、装着踵部21cとから構成されている。踵部本体22は、合成樹脂製、または木製であり、靴底本体2の踵部に設けられている。そして、逆円錐に類似した形状に形成され、上下方向に装着踵部21cの上部形状と同じ立体形状であって、装着踵部21cを挿入するための挿入部として支持部22cを備えている。
【0097】
図7に示すように装着踵部21cは、上部が支持部22cと同形の立体形状に形成されおり、その下部に逆半円錐に類似した形状を加えたような形状に形成されている。そのため、装着踵部21cの上部は、支持部22cに嵌めこんで取付けることが可能である。
【0098】
靴底本体2の踵部上面において、支持部22cの上部位置には、円形状に形成された凹部7が形成され、その中心には、貫通孔8が靴底本体2の上面に対して垂直方向に形成されている。その貫通孔8には、凹部7と同形の軸頭部10cを備え、所定のピッチ幅で螺刻された回動軸棒50が貫通して備えられている。そして、回動軸棒50は、ナット52を嵌合して靴底本体2に取付けられ、靴底本体2に対して相対的に回動可能となっている。回動軸棒50の軸頭部10cには、硬貨を嵌めこみ可能なすりわり部32が形成されている。
【0099】
図12に示すように装着踵部21cの上部において、装着時に回動軸棒50が位置する場所に、下方に穿孔された螺孔54を備え、回動軸棒50を螺挿することによって、装着踵部21cを着脱可能に踵部本体22に取付けている。踵部上部の一部は切り欠かれ、その部分にピン53を垂直に設けられている。回動軸棒50、螺孔54、装着踵部21cは、高さ可変手段として機能する。
【0100】
靴底本体2には、靴1cの前後方向において、靴1cに履いた足指根元が位置する付近から凹部7の近傍まで長く形成された長形凹部9が形成され、長形凹部9の踵側端部には、後部方向に傾斜して貫通する貫通孔9aが形成されている。また、踵部本体22には、貫通孔9aから支持部22c前部に向かって傾斜するよう形成され、貫通孔9aとつながる連結板通路24が設けられている。
【0101】
靴底本体2の前方の平部分上面には、靴底本体2の平部分上面と同形の前部靴底敷3が敷設され、その前部靴底敷3の下面部分には、板状の取付金具14が取付けられている。取付金具14には、下方に突設する円柱状の係止部14aが形成されている。
【0102】
図9に示すように連結板5は、厚さが0.2mm以下の薄板であって靴1の前後方向に長く形成されている。その素材として、JIS G3311を熱処理された特殊鋼が用いられている。この特殊鋼を用いることにより、連結板5は屈曲性を有し、変形しにくいものとなっている。連結板5の前部には、靴1の前後方向に細長く形成された係止孔5aが穿設されている。連結板5の後部には、孔5bが穿孔されている。
【0103】
連結板5は、係止孔5aに貫入した係止部14aに係止環18を嵌合して長形凹部9に配置され、前後方向にスライド可能に取付金具14に取付けられている。そして、孔5bを備えた連結板5の後端は、貫通孔9aを通過している。
【0104】
連結板5の後端部は、踵部本体への装着踵部21cの取付け時に、ピン53が孔5bに挿入されることによってヒール部4cに係止された状態となっている。このため、連結板5が緊張して靴底本体2の前部を後方へ引き寄せるような状態となっている。すなわち、連結板5を緊張して前部底敷3に固定された取付金具14を後方へ引き寄せ、靴底本体2の凹状部2aを屈曲させている。このとき、ヒール部4cの下端と、靴底本体2の凹状部2aより前方底面とが同一平面上に一致するようになっている。装着踵部21cに取付けられたピン53の前後方向の位置、または、連結板5の長さ等を調整することによって、ヒール部4cの高さと、凹状部2aにおける靴底本体2の屈曲角度とを調整している。ここで、連結板5、回動軸棒50、取付金具14、装着踵部21c、及びピン53は、屈曲手段として機能する。
【0105】
靴底本体2において、前部底敷3より後方の上面には、凹部7及び長形凹部9を覆うように後部底敷25が貼付されている。後部底敷25の踵部付近は、軸頭部10cを回動できるように、後部底敷25が上方へ起き上がるようになっている。靴底本体2の周囲には、靴1を履いたとき、その足前部を保持する前部足保持部26と、足の側部から後部周囲を保持する後部足保持部27が備えられている。前部足保持部26と後部足保持部27との間であって、靴底本体2の屈曲部2a付近の左右両サイドには、前部足保持部26と後部足保持部27とを連結する伸縮材部28が介装されている。伸縮部材28の下部は弧状に形成され、凹状部2aで屈曲しやすくするため、かつ、空気が出入りするための開口部28aが設けられている。
【0106】
次に、上記のように構成された第3実施形態である靴1cの作用及び効果について説明する。
【0107】
図10に示すように、靴1cを通常使用する場合には、装着踵部21cが垂直状態になり、ヒール部4cの高さが最も高くなった状態となっている。装着踵部21c及び支持部22cは、同形であるため、装着踵部21cは支持部22aに嵌って支持された状態である。また、回動軸棒50が螺孔54に螺挿することによって固定され、支持部22cから装着踵部21cが脱離不能となっている。そのため、靴1cの使用中、装着踵部21cが外れるようなトラブルが発生することはない。
【0108】
また、装着踵部21cの装着時には、連結板5の孔5bにピン53が挿入された状態であり、連結板5を緊張して靴底本体2を後方へ引き寄せるような状態となっている。すなわち、前部底敷3に固定された取付金具14が連結板5によって後方へ引き寄せられ、靴底本体2の凹部2aを屈曲させたとき、図10に示すようにヒール部4cの下端と、靴底本体2の凹部2aより前方底面とが同一平面上に一致するようになっている。
【0109】
このようにヒール部4cを高くした状態(図10の状態)で靴1cを履き歩行すると、歩行運動による体重のかかり具合の変化等により、靴底本体2の凹状部2aをさらに屈曲させようとする状態が継続して発生する。つまり、弛張板5を緊張させて屈曲した角度から、さらに角度を小さくさせる変化が生じる。しかし、連結板5と取付金具14とは、前後方向にスライド可能に取付けられ、かつ、長形凹部9が取付金具14より前方に長く形成されている。そのため、靴底本体2の凹状部2aをさらに屈曲する状態が生じたときでも、連結板5がさらに前方へスライドすることが可能である。そのため、連結板5が前方に移動できないことから生じる、弛張板5の靴底本体2の内部での撓みや、変形による弛張板5の移動不能トラブル、靴底本体2の損傷等を未然に防止することが可能である。また、凹状部2aの変形不能となることを防止でき、使用者が一般の靴と同様に違和感なく歩行することができる。
【0110】
地震等の災害が発生した場合には、ヒール部4cを高くした状態では走ったり、階段を下りたりするのに不向きである。そのため、図11に示すようにヒール部4cを低くした状態にする方が適している。図2に示すように、靴1cの後部底敷25を捲り、貨幣をすりわり部32に嵌め、手動で間接的に軸頭部10cを左回転させると、回動軸棒50も左回転して装着踵部21cが徐々に下方へ移動し、螺孔54から回動軸棒50を分離することができる。そのため、装着踵部21cを下方へ引抜くことが可能となる。装着踵部21cを引抜くと、連結板5の孔5bからピン53が抜けて連結板5が弛み、靴底本体2の凹部2aの湾曲した角度を大きくさせることが可能となる。そして、図11に示すように踵部本体22と、凹部2aより前方の靴底本体2の底面とを同一平面上に一致させることができ、靴1cを踵の低い靴として使用することが可能となる。
【0111】
ヒール部4cを高くする場合には、上述とは逆の手順になる。すなわち、装着踵部21cを支持部22cに挿入し、その際、靴底本体2の凹状部2aを屈曲させ、ピン53を連結板5の孔5bに挿入させる。そして、靴1cの後部底敷25を捲り、貨幣をすりわり部32に嵌め、軸頭部10cを右回転すると、回動軸棒50も右回転して螺孔54に回動軸部50が螺合し、装着踵部21cを踵部本体22に固定することができる。そして、図10に示すように踵部本体22と、凹部2aより前方の靴底本体2の底面とを同一平面上に一致させることができ、靴1cを踵の高い靴として使用することが可能となる。
【0112】
したがって、本実施形態の靴1cを利用すれば、第1実施形態及び第2実施形態の効果に加え、装着踵部21cを脱着することができるのでヒール部4cを低くしたとき、靴1cが装着踵部21cの重さだけ軽くなり、歩行の際、使用者の負担を軽減することが可能となる。第1実施形態よりも高さ変更手段の構造を単純できるため、部品点数を少なくでき、さらに軽量化が可能である。また、土踏まず部分を形成しない、踵部の高いタイプの靴には、第1実施形態及び第2実施形態のように踵部を伸縮したり、傾動したりする高さ可変手段を用いることができないが、本実施形態の高さ可変手段を用いて踵部を分離させることで踵部を低く変更することが可能である。
【0113】
本実施形態の構成に代えて、別のものを用いることもできる。例えば、第2実施形態で用いた図8の回動軸棒31を用いて装着踵部21cの着脱をする構成にすることもできる。このようにすると、回動軸棒31を少し回転させるだけで装着踵部21cの脱離が可能となる。軸頭部10cに設けられたすりわり部32に代えて、第1実施形態のようにつまみ部13を設けてもよい。また、連結板5を緊張するためのピン53に代えて、別の形式のものを用いることもできる。すなわち、連結板5の端部に、左右に膨らむ鍵爪形状を形成し、装着踵部21cの装着時にその鍵爪を係止するような形状を装着踵部の上部に形成する構成にすることもできる。
【符号の説明】
【0114】
1a 靴
2 靴底本体
2a 凹状部
5 連結板
6 回動軸棒
21a可動踵部
22 踵部本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴底本体と、
その靴底本体において、土踏まず前部の位置する付近に、または、足の指付け根が位置する付近に設けられ、前記靴底本体を屈曲可能にする屈曲部と、
前記靴底本体において、前記屈曲部より前方に一端が支持され、前記靴底本体に備えられた弛張部材と、
前記靴底本体の踵部に設けられ、踵部材を備えたものであって、その踵部材の状態を変化させて前記靴底本体の踵部高さを変える高さ可変手段と、
前記靴底本体の踵部に設けられ、前記踵部材の状態に応じて前記弛張部材の他端を緊張、または弛緩して前記屈曲部を屈曲させる屈曲手段と
を備えることを特徴とする靴。
【請求項2】
前記靴底本体の踵部、前記高さ可変手段または前記屈曲手段に設けられ、上下方向を回動軸とし、手動で直接的または間接的に回動可能な回動軸部を備え、
前記高さ可変手段は、前記回動軸部を回転または回動させることにより前記踵部材の状態を変化させて前記靴底本体の踵部高さを変えるものであって、
前記屈曲手段は、前記回動軸部を回転または回動させることにより前記弛張部材の他端を緊張、または弛緩するものであることを特徴とする請求項1に記載の靴。
【請求項3】
前記高さ可変手段は、前記踵部材を上下に移動または伸縮させて前記靴底本体の踵部高さを変えるものであり、
前記屈曲手段は、前記踵部材の移動状態または伸縮状態に応じて前記弛張部材の他端を緊張、または弛緩して前記屈曲部を屈曲させるものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の靴。
【請求項4】
前記高さ可変手段は、前記踵部材を傾動するよう備え、その踵部材の傾動状態を変化させて前記靴底本体の踵部高さを変えるものであって、
前記屈曲手段は、前記踵部材の傾動に応じて前記弛張部材の他端を緊張、または弛緩して前記屈曲部を屈曲させるものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の靴。
【請求項5】
前記高さ可変手段は、前記踵部材が着脱可能であり、その踵部材の着脱により前記靴底本体の踵部高さを変えるものであって、
前記屈曲手段は、前記踵部材の着脱状態に応じて前記弛張部材の他端を緊張、または弛緩して前記屈曲部を屈曲させるものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の靴。
【請求項6】
前記高さ可変手段は、前記回動軸部に沿って上下に移動するよう前記踵部材を取付け、前記回動軸部の回転量または回動量に応じて、前記靴底本体の踵部高さを変えるものであって、
前記屈曲手段は、前記回動軸部に沿って上下に移動するよう前記弛張部材の他端を取付け、前記回転量または回動量に応じて前記弛張部材の他端を緊張、または弛緩して前記屈曲部を屈曲させるものであることを特徴とする請求項3に記載靴。
【請求項7】
前記屈曲手段は、前記回動軸部において、前記靴底本体よりの下方部分に、第1のピッチ幅で螺刻された第1の螺刻部と、
前記弛張部材の他端に前記第1のピッチ幅で螺刻された第1の螺孔部と
を備え、前記第1の螺刻部をその第1の螺孔部に螺挿して前記弛張部材を備えるものであって、
前記高さ可変手段は、前記回動軸部において、前記第1の螺刻部より下方部分に設けられ、第2のピッチ幅で羅刻された第2の螺刻部と、
前記踵部材の上部において、その下方向に穿孔され、前記第2のピッチ幅で螺刻された第2の螺孔部と
を備え、前記第2の螺刻部を前記第2の螺孔部に螺挿することによって前記踵部材を備え、かつ、前記高さ可変手段に回動不能に備えるものであることを特徴とする請求項2、請求項3、または請求項6に記載の靴。
【請求項8】
前記高さ可変手段は、前記回動軸部の下部に設けられ、前記回動軸部の回動によって前記踵部材を傾動不能にし、または傾動不能を解除する機能によるものであり、前記踵部材の傾動状態を変化させて前記靴底本体の踵部高さを変えるものであって、
前記屈曲手段は、前記踵部材に前記弛張部材の多端を連結し、前記踵部材の直立時に前記弛張部材を緊張し、横倒時に前記弛張部材を弛緩して前記屈曲部を屈曲させるものであることを特徴とする請求項2または請求項4に記載の靴。
【請求項9】
前記高さ可変手段は、前記回動軸部の下部に設けられ、前記回動軸部の回動によって前記踵部材を脱着可能または脱着不能にする機能によるものであり、前記踵部材の着脱により前記靴底本体の踵部高さを変えるものであって、
前記屈曲手段は、前記靴底本体または前記踵部材に備えられ、前記踵部材の装着時に、前記弛張部材を緊張して前記屈曲部を屈曲させた状態を保って前記弛張部材の他端を係止し、脱着時に、その他端の係止を解除して前記弛張部材を弛緩する係止手段を備えるものであることを特徴とする請求項2または請求項5に記載の靴。
【請求項10】
前記弛張部材は、可撓性を有し、かつ前記靴底本体の長手方向に伸縮しない特性を有するものであることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の靴。
【請求項11】
前記連結手段は、可撓性を有する薄い金属板であることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−234953(P2011−234953A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110000(P2010−110000)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(505093219)
【Fターム(参考)】