説明

駆動装置、画像取得装置および電子機器

【課題】低電圧駆動で十分な変位レベルが確保できる駆動装置を提供する。
【解決手段】駆動装置は、駆動軸と、駆動軸の一端に固着され、駆動電圧の印加に応じて伸縮する圧電素子42と、駆動軸を軸方向に摺動可能に保持する軸保持部と、圧電素子42に印加する駆動電圧を生成する駆動電圧生成回路81と、を備える。駆動電圧生成回路81は、圧電素子42の一方側電極から駆動電圧を印加する第1駆動回路と、圧電素子42の他方側から駆動電圧を印加する第2駆動回路と、を有し、第1駆動回路と第2駆動回路とを切り替えることで交流駆動電圧を生成する。第1駆動回路の出力段および第2駆動回路の出力段には誘導性素子91、92を有する。駆動電圧の周波数は、第1、第2駆動回路に含まれるスイッチ抵抗、圧電素子42の容量および誘導性素子91、92のインダクタンスの相互作用によって利得がゼロdBより大きくなる周波数レンジから選定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置、画像取得装置および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラは、多種多様な製品に組み込まれている。携帯電話機、ノートパソコン等といった小型な電子機器にカメラを実装する場合、カメラ自体の小型化も強く要求される。
【0003】
カメラ内にはオートフォーカスレンズが組み込まれる場合がある。この場合、レンズを変位させるアクチュエータの小型化が強く望まれている。
小型なアクチュエータとして、例えば特許文献1(特開2000-350482号公報)には、圧電素子に電圧を印加し、圧電素子に生じる振動でレンズを変位させる圧電アクチュエータ(駆動装置)が開示されている。
図30は、特許文献1に開示された圧電アクチュエータの構成を示す図である。
【0004】
この圧電アクチュエータ100は、圧電素子101と、圧電素子101により駆動される棒状の駆動部材102と、駆動部材102に所定の摩擦力で摩擦係合された係合部材103と、圧電素子101に駆動電圧を印加する駆動回路104と、を備えている。圧電素子101は、駆動回路104によって印加される駆動電圧に応じて伸縮するものであり、圧電素子の一端は駆動部材102の一端に固着されている。また、圧電素子101の他端は、固定側部材である支持部材120に固着されている。係合部材103は、駆動部材102上を軸方向に沿って移動可能とされている。係合部材103には、駆動対象物である撮影レンズLが固着されている。係合部材103が移動することにより、係合部材103とともに撮影レンズLが移動するようになっている。
【0005】
次に、図31は、特許文献1(特開2000-350482号公報)に開示された駆動回路104の構成を示す回路図である。
駆動回路104は、図31に示されるように、H型ブリッジ回路で構成されている。
駆動回路104は、駆動用Pチャンネル型FET(電界効果トランジスタ)であるpMOSFET 111およびpMOSFET 113と、駆動用Nチャンネル型FETであるnMOSFET 115およびnMOSFET 114と、を備えている。
pMOSFET 111およびpMOSFET 113はゲート電圧が0[V]のときに導通状態となり、ゲート電圧がE[V]のときに遮断状態となる。また、nMOSFET 112およびnMOSFET 114は、ゲート電圧が0[V]のときに遮断状態となり、ゲート電圧がE[V]のときに導通状態となる。
各FET 111-114の制御端子(ゲート)は制御回路104aに接続されており、制御回路104aからの制御信号を受けて各FET 111-114の導通状態と遮断状態とが切り替え制御される。
さらに、駆動回路104は、圧電素子101と直列に接続された誘導性素子146を有している。
【0006】
図32は、駆動回路104の動作シーケンスを表すタイミングチャートである。
例えば、期間Aでは、pMOSFET 113のゲート電圧がE[V]であり、pMOSFET 111のゲート電圧が0[V]であり、nMOSFET 114のゲート電圧が0[V]であり、nMOSFET 112のゲート電圧がE[V]である。したがって、pMOSFET 111とnMOSFET 112とが導通状態になり、pMOSFET 113とnMOSFET 114とが遮断状態である。この場合、図33に示すように、圧電素子の一方の電極にはpMOSFET 111を介してE[V]が印加され、他方の電極にはnMOSFET 112を介して接地電位(0V)が印加される。
【0007】
そして、期間Aのあとの期間Bでは、pMOSFET 113のゲート電圧が0[V]であり、pMOSFET 111のゲート電圧がE[V]であり、nMOSFET 114のゲート電圧がE[V]であり、nMOSFET 112のゲート電圧が0[V]である。したがって、pMOSFET 113とnMOSFET 114とが導通状態になり、pMOSFET 111とnMOSFET 112とが遮断状態である。この場合、図34に示すように、電圧素子101の一方の電極にはnMOSFET 114を介して接地電位(0V)が印加され、他方の電極にはpMOSFET 113を介してE[V]が印加される。このように、圧電素子101の両端には電源電圧Eの2倍の交流電圧が印加されることになる。
【0008】
また、図35は、動作シーケンスの他の例であり、図32との違いは、圧電素子101に充電された電荷を一旦放電してから逆充電することである。
図35における期間Aおよび期間Bは、図32で示した期間Aおよび期間Bに同じ動作パターンである。
図35における期間Cにおいては、FET 111−FET 114の全てのゲート電圧がE(V)なので、FET 111とFET 113が遮断状態であり、FET 112とFET 114が導通状態となる。
したがって、圧電素子101の両端電圧が短絡されることになる。すると、期間Aにおいて圧電素子101に充電された電荷は期間Cにおいて一旦放電され、期間Bにおいては期間Aの充電方向とは逆の方向に充電される。
【0009】
圧電素子101に上記のように正負が逆転する電圧が印加されると、圧電素子101はその厚さ方向に伸縮運動を行う。すると、図30の(b)、(c)に示されるように、この伸縮運動を利用してレンズLを変位させることができる。
【0010】
ここでさらに、駆動回路104は誘導性素子146を有しているので、期間Cのときに誘導性素子146によって逆起電力が生じる。この逆起電力の働きにより、放電方向と逆の起電力が得られる。これにより放電方向と逆方向に圧電素子101が充電され、期間Bにおいて追加的に補充する電荷量を少なくなる。
特許文献1には、このような駆動回路の構成により、消費電流を少なくできることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000-350482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
近年、小型カメラモジュールに利用される圧電アクチュエータにはより一層の小型化が要求されている。
圧電アクチュエータの小型化を実現するため、圧電素子の積層数を減らしてその高さ方向においてもさらに小さくすることが要求されている。
ここで、積層数を減らすと圧電素子の変位振動レベルが低減し、十分な駆動能力が確保できなかったり、安定な動作が得にくくなるなどの問題が生じてくる。そこで、小型化された圧電素子を十分に振動させるためには印加電圧を高くすることが考えられる。
しかしながら、小型圧電アクチュエータは小型の携帯電子機器に搭載されるものであることを考慮すると、低電圧駆動および低消費電力も同時に要求される。したがって、単純に昇圧電圧を利用するなどの方法は採用できない。
【0013】
本発明の目的は、低電圧駆動であっても十分な変位レベルが確保できる駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の駆動装置は、
固定側部材と、
前記固定側部材に対して移動可能に係合したスライド体と、
前記スライド体に固着され、駆動電圧の印加に応じて伸縮する圧電素子と、
前記圧電素子に印加する駆動電圧を生成する駆動電圧生成回路と、を備え、
前記駆動電圧生成回路は、前記圧電素子の一方側電極から駆動電圧を印加する第1駆動回路と、前記圧電素子の他方側から駆動電圧を印加する第2駆動回路と、を有し、前記第1駆動回路と前記第2駆動回路とを切り替えることで前記圧電素子を伸縮動作させる交流の駆動電圧を生成するものであって、
前記第1駆動回路の出力段および前記第2駆動回路の出力段に、それぞれ誘導性素子を有し、
前記駆動電圧の周波数は、
前記第1および第2駆動回路に含まれるスイッチ抵抗、前記圧電素子の容量、および、前記誘導性素子のインダクタンス、の相互作用によって利得がゼロdBより大きくなる周波数レンジから選定される
ことが好ましい。
【0015】
本発明では、
前記駆動電圧の周波数は、
前記第1および第2駆動回路に含まれるスイッチ抵抗、前記圧電素子の容量、および、前記誘導性素子のインダクタンス、の相互作用によって利得が2dBより大きくなる周波数レンジから選定される
ことが好ましい。
【0016】
本発明では、
前記駆動電圧の周波数は、
前記第1および第2駆動回路に含まれるスイッチ抵抗、前記圧電素子の容量、および、前記誘導性素子のインダクタンス、の相互作用によって利得がゼロより大きくなる周波数レンジであって、かつ、共振点の周波数の前後10%は除外した周波数レンジから選定される
ことが好ましい。
【0017】
本発明では、
前記駆動電圧の周波数は、
前記第1および第2駆動回路に含まれるスイッチ抵抗、前記圧電素子の容量、および、前記誘導性素子のインダクタンス、の相互作用によって利得がゼロより大きくなる周波数レンジであって、かつ、共振点の周波数より小さい周波数レンジから選定される
ことが好ましい。
【0018】
本発明では、
前記スライド体は、レンズを保持するレンズ保持体と、前記レンズ保持体と連結された駆動軸と、を有し、
前記圧電素子は、前記駆動軸の一端に固着され、
前記駆動軸は、前記固定側部材としての軸保持部によって軸方向に摺動可能に保持されている
ことが好ましい。
【0019】
本発明では、
前記圧電素子、駆動軸およびレンズホルダが一体的になっており、
圧電素子は、駆動軸およびレンズホルダとともに軸保持部に対して一体的に移動する
ことが好ましい。
【0020】
本発明の駆動装置は、
固定側部材と、
前記固定側部材に対して移動可能に係合したスライド体と、
前記スライド体に固着され、駆動電圧の印加に応じて伸縮する圧電素子と、
前記圧電素子に印加する駆動電圧を生成する駆動電圧生成回路と、を備え、
前記駆動電圧生成回路は、
圧電素子の一方電極側に設けられた第1誘電性素子と、
前記圧電素子の他方電極側に設けられた第2誘電性素子と、
前記第1誘電性素子と第2誘電性素子とを介して前記圧電素子に正の駆動電圧を印加する第1駆動回路と、
前記第1誘電性素子と第2誘電性素子とを介して前記圧電素子に負の駆動電圧を印加する第2駆動回路と、を有し、
前記第1駆動回路と前記第2駆動回路とを切り替えることで前記圧電素子を伸縮動作させる交流の駆動電圧を生成する
ことを特徴とする。
【0021】
本発明では、
駆動電圧生成回路は、Hブリッジ回路であって、
前記Hブリッジ回路の第1の出力端子と第2の出力端子との間を接続する結合線を有し、
前記圧電素子は前記結合線の途中に配置され、
前記結合線には、前記圧電素子を間にして二つの誘電性素子が設けられている
ことが好ましい。
【0022】
本発明の画像取得装置は、前記駆動装置と、前記レンズを介して入力される像を取得する撮像手段と、を備えることを特徴とする。
本発明の電子機器は、前記画像取得装置を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】カメラモジュールの斜視図。
【図2】カメラモジュールの分解斜視図。
【図3】レンズユニットの斜視図。
【図4】カメラモジュールの上面図。
【図5】図4中のV-V線における断面図。
【図6】レンズユニットの断面図。
【図7】軸保持部の分解斜視図。
【図8】軸保持部の断面図。
【図9】軸保持部を筐体に取り付けた状態を示す上面図。
【図10】駆動装置の制御システムの機能ブロック図。
【図11】駆動電圧生成回路の回路図。
【図12】駆動電圧生成回路の動作シーケンスを示すタイミングチャート。
【図13】図12中の期間Aにおける電流経路を示す図。
【図14】図12中の期間Bにおける電流経路を示す図。
【図15】圧電素子の両端電圧とレンズホルダの移動状態との関係を示す図。
【図16】圧電素子の伸縮動作とレンズホルダの移動状態との関係を模式的に示す図。
【図17】第1駆動回路および第2駆動回路の等価回路を示す図。
【図18】回路動作のシミュレーション結果を示す図。
【図19】図18において利得が共振点ピークに向けて上昇していく途中の領域を抜き出した図。
【図20】回路動作のシミュレーション結果を示す図。
【図21】回路動作のシミュレーション結果を示す図。
【図22】駆動信号の高調波成分を抑圧できることを説明するための図。
【図23】電源ラインノイズがのってしまった駆動電圧の例を示す図。
【図24】フィルタ効果によって電源ラインノイズを抑圧した駆動電圧の例を示す図。
【図25】変形例1を示す図。
【図26】変形例2を示す図。
【図27】変形例2の動作を説明するための図。
【図28】変形例2の動作を説明するための図。
【図29】変形例3を示す図。
【図30】従来の圧電アクチュエータの構成を示す図。
【図31】従来の駆動回路の構成を示す回路図。
【図32】従来の駆動回路の動作シーケンスを表すタイミングチャート。
【図33】図32中の期間Aにおける電流経路を示す図。
【図34】図32中の期間Bにおける電流経路を示す図。
【図35】従来の駆動回路の動作シーケンスを表すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
なお、各実施の形態は、説明の便宜上、簡略化されている。
図面は簡略的なものであるから、図面の記載を根拠として本発明の技術的範囲を狭く解釈してはならない。
図面は、もっぱら技術的事項の説明のためのものであり、図面に示された要素の正確な大きさ等は反映していない。
同一の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略するものとする。
上下左右といった方向を示す言葉は、図面を正面視した場合を前提として用いるものとする。
【0025】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、カメラモジュールの斜視図である。
また、図2は、カメラモジュールの分解斜視図である。
カメラモジュール(画像取得装置)150は、配線基板10と、コネクタ11と、イメージセンサ12と、透明基板(平板部材)13と、筐体(外囲器)20と、レンズユニット(レンズ部品)30と、蓋(外囲器)50と、を有する。
【0026】
配線基板10の一端にはコネクタ11が配置されている。配線基板10の他端には、イメージセンサ12と、透明基板13と、が配置されている。
イメージセンサ12上には、透明基板13、筐体20、レンズユニット30および蓋50が、この順で配置される。
筐体20は、移動対象物であるレンズL1~L3(図5参照)からみて移動しない固定側部材として機能する。
【0027】
配線基板10は、可撓性を有するシート状の配線基板である。
配線基板10を介してイメージセンサ12に制御信号が送られるとともに、イメージセンサ12からのビデオ信号が伝送される。また、配線基板10は、レンズユニット30内の圧電素子42(後述)に入力する駆動電圧信号の伝送路として機能する。
【0028】
コネクタ11は、カメラモジュール150を本体機器に電気的および機械的に固定するための接続部分を形成する。
【0029】
イメージセンサ12は、CCD(Charge Coupled Device)センサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサといった一般的な固体イメージセンサである。イメージセンサ12は、XZ平面にてマトリクス状に配置された複数の画素を有する。各画素で光電変換をすることによって入力像を像データに変換して出力する。
【0030】
透明基板13は、入力光に対して実質的に透明な板状部材である。透明基板13の上面視形状は方形である。透明基板13の背面には、イメージセンサ12がバンプ接続している。
【0031】
筐体20は、配線基板10上に実装される。筐体20は、透明基板13を下部空間で収納し、レンズユニット30を上部空間で収納する。筐体20の採用により、カメラ機能のモジュール化を図ることができる。筐体20の内部に外来光が侵入することを抑制するために、筐体20の下端面は、黒色の接着剤を介して配線基板10に固定されている。筐体20は、例えば、黒色の樹脂がモールド成形されて製造される。
【0032】
蓋50は、筐体20に対して取り付けられる。これによって、レンズユニット30は筐体20内に閉じ込められる。蓋50は、好適には、ネジによって筐体20に取り付けられる。蓋50を筐体20に対して接着固定するのではなく、ネジで固定することによって、筐体20に対する蓋50の着脱が可能になる。これによって、動作テストで不良と判定されたカメラモジュール150の不良原因をテスト後に取り除くこと等が可能になる。例えば、イメージセンサ12の撮像面上に入り込んだゴミを動作テスト後に取り除くことでカメラモジュールの歩留まりを向上させることができる。
なお、蓋50は、例えば、樹脂がモールド成形されて製造される。
【0033】
次に、レンズユニットについて説明する。
図3は、レンズユニットの斜視図である。
図4は、カメラモジュールの上面図であり、図5は、図4中のV-V線における断面図である。
レンズユニット30は、レンズホルダ(保持体)31と、圧電素子42と、伝達軸(駆動軸)44と、軸保持部45と、を備える。
【0034】
レンズホルダ31は、筒状部材であり、その内部にレンズL1~L3を保持している。レンズホルダ31の上板部には開口OP2が形成されており、レンズホルダ31の上板部は光学的絞りとして機能する。レンズホルダ31の外周には連結部32が設けられており、連結部32に伝達軸44が連結固定されている。
ここで、連結部32は、上下方向に離間した支持板32aと支持板32bとによって構成されており、これら支持板32aと支持板32bとによって伝達軸44を固定支持している。
具体的には、伝達軸44は、連結部32の支持板32a、32bの開口に圧入されている。
なお、このような2点支持に限らず、支持板32aおよび支持板32bのいずれか一方で伝達軸44を固定的に支持しても良い。
【0035】
軸保持部45は、レンズホルダ(保持体)31に固定された固定側部材である。軸保持部45は、輪状部45h1を有し、この輪状部45h1の開口に伝達軸44が挿通されている。このとき、輪状部45h1と伝達軸44とは互いに摺動可能な摩擦係合となっている。また、軸保持部45の輪状部45h1は、支持板32aと支持板32bとの間に配置されている。
【0036】
なお、軸保持部の詳細な構成は後述する。
【0037】
伝達軸44は、Y軸方向を長手方向とする棒状体であり、連結部32を介してレンズホルダ31に連結固定されている。
その一方、伝達軸44と軸保持部45とは互いに摩擦係合状態にあり、軸保持部45は、y軸に沿って摺動可能な状態に伝達軸44を保持している。
伝達軸44は、軽量でかつ剛性が高いことが望ましい。伝達軸44は、ガラス状炭素、繊維強化樹脂、エポキシ樹脂から成型すると良い。
特に黒鉛を含有するガラス状炭素複合材、カーボンを含有する繊維強化樹脂やガラス、カーボンを含有するエポキシ樹脂複合材が特に好ましい。
【0038】
圧電素子42は、セラミックス層(圧電層)が積層された一般的な圧電素子である。圧電素子42の側面は、一対の電極端子として機能する。例えば、一方の電極端子を接地させた状態で、他方の電極端子に駆動電圧を印加することによって圧電素子42はY軸方向に伸縮する。
なお、圧電素子42に対するリード線72の接続態様については後述する。
【0039】
圧電素子42と伝達軸44とは、接着剤を介して互いに固着されている。
なお、圧電素子42と伝達軸44とを連結させる方法は任意であり、例えば、両者の嵌め合いによって伝達軸44と圧電素子42とを連結させても良い。
圧電素子42で生じた振動は、伝達軸44を介して軸保持部45に伝達される。
【0040】
このような構成により、レンズホルダ31、伝達軸44および圧電素子42は互いの相対位置が固定され、固定側部材として機能する軸保持部45に対して相対的に移動可能となっている。
すなわち、レンズユニット30は、圧電素子42の駆動に応じて、y軸(レンズL1~L3の光軸に一致する軸線)に沿って移動可能となり、イメージセンサ12の撮像面に対するレンズL1~L3の配置高さを調整することで、意図したように被写体像をイメージセンサ12の撮像面に結像させることができる。
【0041】
本実施形態では、圧電素子42は伝達軸44にのみ取り付けられている。そして、圧電素子42および伝達軸44は、固定側部材である軸保持部45およびレンズホルダ31に対して直接的に固定されていない。
このような構成を採用したので、固定側部材(軸保持部45、レンズホルダ31)との共振を考慮することなく、圧電素子42および伝達軸44から導かれる固有の共振を考慮するだけで、圧電素子42に対する駆動周波数を適切に設定することができる。
すなわち、個々のレンズユニット30の組み込み状態に関係なく、駆動周波数を設定することが可能になる。そして、固定側部材(軸保持部45、レンズホルダ31)との共振が問題にならなくなるので、駆動周波数帯域を広く設定することができるようになる。例えば、高周波数から低周波数まで設定できることにより、一周期当たりのレンズユニット30の移動量を大きくしたり、微動で高速に移動させたりでき、高度な移動制御が可能になる。
これにより、高速かつ高精度のレンズユニット30の移動制御が実現できる。
【0042】
カメラモジュールの構成をさらに詳しく説明する。
イメージセンサ12は、透明基板13に対してバンプ実装されており、透明基板13とイメージセンサ12と間には複数の半田バンプ(不図示)が配置されている。
透明基板13に半田バンプを形成し、この上にイメージセンサ12を実装することで、透明基板13とイメージセンサ12とが積層される。
なお、透明基板13の背面には、配線パターンが予め形成されている。
このようにして、イメージセンサ12と透明基板13との位置が固定され、かつ、両者間の電気的な接続が確保される。
なお、イメージセンサ12の撮像面(受光面)は、透明基板13側に配置されている。
【0043】
イメージセンサ12と透明基板13との間の距離(離間距離)は、上述の半田バンプの大きさによって決定される。半田バンプの大きさを適宜制御することで、イメージセンサ12と透明基板13との位置決めを正確に行うことが可能である。また、複数の半田バンプにより位置決めすることから、イメージセンサ12と透明基板13との離間距離が平均化される。
【0044】
透明基板13は、配線基板10に対してバンプ接続される。つまり、透明基板13は、半田バンプを介して配線基板10に固定されると共に電気的に接続される。
このようにして、イメージセンサ12は、透明基板13を介して、配線基板10に対して電気的に接続される。
【0045】
透明基板13と配線基板10との間の半田バンプによって、イメージセンサ12と配線基板10との間にスペースが確保される。
換言すると、透明基板13と配線基板10間の半田バンプは、イメージセンサ12と配線基板10との間に空間を形成するためのスペーサとして機能している。
【0046】
筐体20は、上部空間及び下部空間を隔てる隔壁部22を有し、隔壁部22には、上下の空間を光学的に連絡するための開口OP1が形成されている。開口OP1は、光学的な意味での開口であれば足りる。
【0047】
配線基板10の下には、補強板15が配置されている。補強板15は、ポリイミド等の樹脂材料からなる。補強板15は、黒色である。補強板15を配置することで、カメラモジュール150の内部に外来光が入射することを好適に抑制することができる。なお、外来光の悪影響を更に抑制するため、配線基板10も黒色にするとなお良い。
【0048】
軸保持部の構造について更に詳しく説明する。
図6は、レンズユニットの断面図である。
図7は、軸保持部の分解斜視図である。
図8は、軸保持部の断面図である。
【0049】
軸保持部45は、本体部45hと、押え板(板状部材)45pと、ばね(弾性体)45qと、押え板(板状部材)45rと、を有する。伝達軸44から離間する方向に、押え板45p、ばね45q、押え板45rがこの順で配置される。
【0050】
本体部45hは、金型で成形された樹脂で構成されている。
図8に示されるように、本体部45hは、輪状部(軸保持部)45h1と、収納部45h2と、を有する。輪状部45h1は、伝達軸44が挿通される開口を有し、この開口に挿通された伝達軸44を囲む輪状部分である。収納部45h2は、輪状部45h1に連結した残りの部分である。
【0051】
輪状部45h1の内側面には、伝達軸44に向かって突出する突出部45h3、45h4が形成されている。
各突出部45h3、45h4は、輪状部45h1の内側面を部分的に平坦面とすることによって形成される。
突出部45h3、45h4が樹脂の場合には伝達軸44との摩擦により磨耗粉が発生する場合があるが、このような問題が生じることを回避するために、ここでは、亜鉛合金の成形により本体部45hを製造している。
なお、亜鉛合金に限らず、アルミ合金、その他の金属材料を採用しても良い。
【0052】
伝達軸44は、本体部45hと押え板45pとの間で、押え板45pと、突出部45h3と、突出部45h4と、により3点で当接保持される。
なお、3点の当接点は、ほぼ等しい間隔にあり、120度だけ順にずらして配置されている。
【0053】
本体部45hには、レンズホルダ31の外周面に応じた曲面45h2aが形成されている。
これによって、本体部45hの大きさをある程度確保しつつ、レンズホルダ31を筐体20に対してより近接して配置することができる。
本体部45hには、伝達軸44から離間する方向に延在するテール部45h2bを有する。そして、テール部45h2bと筐体20との嵌め合いによって、本体部45hは筐体20に対して固定される。
【0054】
ばね45qは、一般的なコイルバネである。なお、ばね45qの具体的な構成は任意であり、他の種類の弾性体(板ばね、樹脂製ゴム等)を利用しても良い。ばね45qは、レンズホルダ31から見た伝達軸44の配置方向(軸線Lx1に沿う方向)に対して90度を成す方向(軸線Lx2に沿う方向)へ押え板45pを付勢している。
なお、軸線Lx1と軸線Lx2とが成す角度は90度に限られない。
軸線Lx1と軸線Lx2とが成す角度を、45〜135度の範囲で選択してもよい。
【0055】
図7に示されるように、本体部45hに形成された空間内に、押え板45p、ばね45q、押え板45rを順に押し込み、本体部45hに対して押え板45rを接着固定する。
これにより、押え板45p、ばね45q、押え板45rが位置決めされる。
【0056】
ばね45qは、押え板45rによって本体部45hの空間内に閉じ込められ、押え板45pを伝達軸44側へ付勢する。伝達軸44は、押え板45pによって押圧され、突出部45h3、45h4に当接する。伝達軸44は、本体部45hと押え板45pとの間に挟持された状態になる。換言すると、伝達軸44と軸保持部45とが互いに摩擦係合した状態になる。
【0057】
また、押え板45p、45rは、例えば、プレス成型によって成型された金属板または樹脂板で構成されている。例えば、亜鉛合金、アルミ合金等の金属材料で、押え板45p、45rを形成すると良い。これによって、伝達軸44と押え板45pとの間に摺動があっても、押え板45pから磨耗粉が生じることを抑制できる。
【0058】
次に、図9に示されるように、軸保持部45は、筐体20に対して取り付けられる。
筐体20の内側面には、突起26a、26bが形成されている。上述のテール部45h2bは、突起26aと突起26bとの間に嵌め込まれる。筐体20に対して軸保持部45を嵌め合いによって固定することによって、筐体20に対して軸保持部45を強固に固定することができる。
なお、通常の接着剤を用いて、筐体20に対して軸保持部45を固定しても良い。
【0059】
筐体20の側壁は、部分的に除去されているが、本体部45hを筐体20に対して取り付けることによって、本体部45hの外側面が筐体20の外側面と面一となる。
【0060】
なお、インサート成形を採用することによって、軸保持部45と筐体20とを一体的に成形することもできる。
【0061】
さらに、図9に示されるように、筐体20には、レンズユニット30の変位を案内するレール24が形成されている。レンズホルダ31の外周に形成されたレール受け部35にレール24は受け入れられ、筐体20に対してレンズホルダ31が摺動可能に当接する。圧電素子42の駆動に応じて、レンズホルダ31は、レール24にガイドされて安定して変位することができる。
【0062】
また、図9に示されるように、筐体20に金属板(固定配線部)71が付設されている。
この金属板71は、一方の端部が筐体の内部にあり、他方の端部が筐体の外部に出るように筐体20にインサート成型されている。そして、筐体内部において、圧電素子42は、リード線72で金属板71と接続されている。
これにより、筐体20の内部から外部へリード線72を引き出す必要がないので、製造時にリード線72の引き回しに要する時間を短縮することができる。
また、圧電素子42を配置した隅部の隣の隅部に金属板71を配置することによって、リード線72の長さを効果的に短くすることができる。
【0063】
次に、カメラモジュール150を動作させるためのシステム(アクチュエータの駆動部の構成)について説明する。
図10は、駆動装置の制御システムの機能ブロック図である。
コントローラ80は、駆動電圧生成回路81を介して圧電素子42に電圧を印加する。
コントローラ80は、操作者による操作に応じて、カメラモジュール150の機能を活性化する。
このとき、カメラモジュール150のオートフォーカス機能はオン状態にあり、またイメージセンサ12も撮像モードになっている。
駆動電圧生成回路81は、コントローラ80からの制御信号に応じて、圧電素子42に印加する駆動電圧を生成する。
【0064】
ここに、圧電素子42、伝達軸44、軸保持部45および駆動電圧生成回路81により、圧電素子に生じる伸縮動作によってレンズホルダ31を変位させる圧電アクチュエータ(駆動装置)が構成されている。
【0065】
駆動電圧生成回路81について説明する。
図11は、駆動電圧生成回路81の回路図である。
駆動電圧生成回路81は、4つのスイッチ素子を有する。
駆動電源から駆動電圧+Eが供給されるノードをノードaとする。ノードaには、PチャネルMOSFETである第1スイッチ素子Q1と第3スイッチ素子Q3とが接続されている。
具体的には、第1スイッチ素子Q1のソースと第3スイッチ素子Q3のソースとが共通してノードaに接続されている。
さらに、第1スイッチ素子Q1には第4スイッチ素子Q4が直列に接続され、また、第3スイッチ素子Q3には第2スイッチ素子Q2が直列に接続されている。
第4スイッチ素子Q4はNチャンネルMOSFETであり、第4スイッチ素子Q4のドレインは第1スイッチ素子Q1のドレインに接続されている。
第3スイッチ素子Q3はNチャンネルMOSFETであり、第3スイッチ素子Q3のドレインは第2スイッチ素子Q2のドレインに接続されている。
そして、第4スイッチ素子Q4のソースと第2スイッチ素子Q2のソースとが共通の接続ノードbを介して接地電源に接続されている。
【0066】
また、第1スイッチ素子Q1のドレインと第4スイッチ素子Q4のドレインとの接続ノードをノードc(第1の出力端子)とする。
このノードcは、圧電素子42の第1電極に接続されている。
また、第3スイッチ素子Q3のドレインと第2スイッチ素子Q2のドレインとの接続ノードをノードd(第2の出力端子)とする。
このノードdは、圧電素子42の第2電極に接続されている。
【0067】
ここで、ノードcとノードdとを接続する配線を結合線とする。
駆動電圧生成回路81はいわゆるHブリッジ回路になっている。
【0068】
ここで、第1スイッチ素子Q1のドレインから圧電素子42に至る経路を第1出力段とする。そして、第1出力段には、第1誘導性素子91が設けられている。より具体的には、ノードcと圧電素子42との間に第1誘導性素子91が設けられている。また、第3スイッチ素子Q3のドレインから圧電素子42に至る経路を第2出力段とする。第2出力段には、第2誘導性素子92が設けられている。より具体的には、ノードdと圧電素子42との間に第2誘導性素子92が設けられている。
【0069】
第1誘導性素子91、第2誘導性素子92は、例えばコイルである。第1誘導性素子91と第2誘導性素子92のインダクタンスは等しい。
【0070】
また、コントローラ80から第1スイッチ素子Q1のゲートに印加する制御信号をSc1、コントローラ80から第2スイッチ素子Q2のゲートに印加する制御信号をSc2、コントローラ80から第3スイッチ素子Q3のゲートに印加する制御信号をSc3、コントローラ80から第4スイッチ素子Q4のゲートに印加する制御信号をSc4、とする。
【0071】
このように構成された駆動電圧生成回路81において、第1スイッチ素子Q1、第1誘導性素子91、および、第2スイッチ素子Q2は、圧電素子42の一方側から駆動電圧+Eを印加する第1駆動回路を構成する。また、第3スイッチ素子Q3、第2誘導性素子92および第4スイッチ素子Q4は、圧電素子42の他方側から(すなわち逆方向から)駆動電圧+Eを印加する第2駆動回路を構成する。
【0072】
図12は、駆動電圧生成回路81の動作シーケンスを示すタイミングチャートである。
期間Aでは、駆動制御信号Sc3と駆動制御信号Sc2とがハイレベルであり、駆動制御信号Sc1と駆動制御信号Sc4とがロウレベルである。
このとき、第1スイッチ素子Q1と第2スイッチ素子Q2とがオン状態となり、第3スイッチ素子Q3と第4スイッチ素子Q4とがオフ状態となる。
この状態を図13に示す。
一方、期間Bでは、駆動制御信号Sc1と駆動制御信号Sc4とがハイレベルであり、駆動制御信号Sc3と駆動制御信号Sc2とがロウレベルである。
このとき、第3スイッチ素子Q3と第4スイッチ素子Q4とがオン状態となり、第1スイッチ素子Q1と第2スイッチ素子Q2とがオフ状態となる。
この状態を図14に示す。
ここで、期間Aが期間Bよりも短くなっている。
【0073】
図15、図16を参照して、レンズユニット30の動きについて説明する。
図15に示すように圧電素子42の両端電圧Vsが正負で変化するのに応じて、レンズホルダ31は順方向に変位する。
図15では、レンズホルダ31の変位を矢印で示している。すなわち、レンズホルダ31は、時刻t1−t2間に変位し、時刻t2−t3間には変位しない。他の期間についても同様である。
【0074】
図16を用いて模式的に説明する。
図16に示すように、圧電素子42の伸縮とレンズホルダ31の変位とが連関している。
時刻t1−t2間は、圧電素子42の両端電圧Vsは急峻に立ち上がる。
電圧の急激な立ち上がりに応じて、圧電素子42は急激に伸張する。
圧電素子42が急激に変化するとき、伝達軸44が軸保持部45に対して摺動する。
これにより、伝達軸44とともにレンズホルダ31も変位する。
【0075】
一方、時刻t2−t3間では、圧電素子42の両端電圧Vsは緩慢に立ち下がる。
電圧の緩慢な立ち下がりに応じて、圧電素子42は、比較的緩慢に収縮する。このとき、圧電素子42の変化は伝達軸44を変位させる力を発生させず、伝達軸44はその場に留まる。
伝達軸44とともにレンズホルダ31もその場に留まる。
【0076】
このように、圧電素子42が急激に伸張するとき、レンズホルダ31が軸保持部45に対して変位する。換言すると、圧電素子42が緩慢に収縮するとき、レンズホルダ31は、軸保持部45に対して変位しない。
この場合、レンズホルダ31を効率的に変位させるためには、スイッチングパルスSPのパルス幅を狭めることによって圧電素子42を短時間に伸張させると良いと言える。
圧電素子42に蓄積された電流の放電時間を確保することが必要である点を考慮すれば、スイッチング信号のデューティー比を小さく設定すると良いと言える。
【0077】
本実施形態では、第1出力段(ノードcと圧電素子42との間)に第1誘導性素子91を設け、第2出力段(ノードdと圧電素子42との間)に第2誘導性素子92を設けているので、第1駆動回路(第1スイッチ素子Q1、第1誘導性素子91、第2スイッチ素子Q2)で圧電素子42の一方側から駆動電圧を印加する場合も、第2駆動回路(第3スイッチ素子Q3、第2誘導性素子92、第4スイッチ素子Q4)で圧電素子42の他方側から(すなわち逆方向から)駆動電圧を印加する場合でも利得が得られ、擬似的に駆動信号レベルを電源電圧レベルEよりも高くすることができる。
その理由を次に説明する。
【0078】
本実施形態における第1および第2の出力段には誘導性素子91、92が設けられているので、第1駆動回路および第2駆動回路はそれぞれ図17に示す等価回路で表わされる。
図17において、R0は、スイッチ素子Q1-Q4のオン抵抗を表す。
各スイッチ素子Q1-Q4のオン抵抗は、素子特性にもよるが、概ね1[Ω]以下である。
Lは、誘導性素子(91、92)のインダクタンスを表す。
Cpは圧電素子42の静電容量値を表す。
この等価回路は、共振点にピークを持つフィルタ回路の構成であり、いわゆる二次型のLPF(低域通過フィルタ)を構成している。
LPFの共振点およびfc(カットオフ周波数)はLおよびCpの共振で決定される。
そして、R0、Cpに合わせて駆動周波数およびLを選定することにより、駆動周波数帯域の範囲内で数dBの利得が得られ、擬似的に駆動信号レベルを高めることができる。
【0079】
図18は、Ro=0.1(Ω)、Cp=30(nF)、L=6.8(uH)とした場合のシミュレーション結果である。
図18では、周波数レンジを1kHzから10MHzの範囲で示している。
図18に示されるように、駆動周波数が100kHzあたりまでは利得がゼロであるが、100kHzを超えてくると利得が上がりはじめ、300kHzと400kHzとの間で共振により最も高い利得が得られる。そして、共振点を過ぎると急速に利得は減少し始め、500kHzあたりで利得ゼロになり、さらに駆動周波数が上がると利得はマイナスになっていく。
【0080】
駆動周波数帯域としては、利得がゼロより大きくなるように選定することが好ましい。
図18の例でいうと、図中の区間f1で示すように、100kHzから500kHzの間で駆動周波数を選定することが好ましい。
これにより、圧電素子42を小型化し、さらに、電源電圧Eを低電圧化した場合であっても、擬似的に高い電圧を圧電素子42に掛けることができ、圧電アクチュエータの変位振動特性を向上させることができる。
圧電素子を小型化して圧電素子の容量値が小さくなった場合には、それに合わせてインダクタンスLの値および駆動周波数を選定し直すことにより、小型かつ低電圧の圧電アクチュエータであっても動作能力を維持することができる。
【0081】
また、駆動周波数としては、利得がゼロ以上であるが、さらに、共振点の周波数の前後は除くことが好ましい。
共振点の前後の駆動周波数を選定した場合、周波数がわずかでもずれると利得が大きく違ってくることになる。すると、製品ごとに動作特性のバラツキが非常に大きくなってしまう恐れがある。したがって、選定する駆動周波数としては、図18中の区間f4を避けて、区間f2とf3とから選定することが好ましい。
例えば、避けるべき周波数範囲f4としては、共振点周波数の前後10%にしてもよく、さらには、共振点周波数の前後30%にしてもよい。
【0082】
また、共振点の周波数よりも低い周波数であって利得が0より大きくなる駆動周波数を選定することが好ましい。
図19は、図18において利得が共振点ピークに向けて上昇していく途中の領域を抜き出した図である。
図19では周波数レンジを1kHzから300kHzとしている。
図19中の丸で囲んだ領域のように、利得が共振点ピークに向けて上昇していく途中の領域で駆動周波数を選定することが好ましい。
共振点ピークを過ぎたところ(例えば図18中の区間f3)でも利得はゼロより大きいが、減少カーブが急峻であるので、駆動周波数が設定値から少しでもずれると利得が大きく変わってしまう。
この点、利得が共振点ピークに向けて上昇していく途中の領域(図19中の区間f5)であれば、カーブが緩やかであるので、製品ごとのバラツキを抑制することができる。
図19に示されるように、駆動周波数を150kHzとすると、2dB程度の利得が得られる。
【0083】
図20および図21は、誘導性素子のインダクタンスLを変えてシミュレーションした結果である。
図20および図21においては、利得が共振点ピークに向けて上昇していく途中の領域を丸で囲み、この丸囲みの範囲で駆動周波数を選定することが例として挙げられる。
図20において、駆動周波数を150kHzとすると、3dB程度の利得が得られる。
また、図21において、駆動周波数を150kHzとすると、6dB程度の利得が得られる。
【0084】
上記のように駆動周波数を選定することにより、擬似的に高い電圧を圧電素子42に掛けることができ、圧電アクチュエータの変位振動特性を向上させることができる。
ここで、従来の圧電アクチュエータでは、圧電素子または駆動軸が固定側部材に固着されていたので、駆動周波数の選定にあたっては固定側部材との共振を回避する必要があった。
そのため、駆動周波数帯域を広く設定することができず、固定側部材との共振が確実に回避できる狭い範囲でしか駆動周波数を選定できなかった。
この点、本実施形態では圧電素子42および伝達軸44は、固定側部材である軸保持部45およびレンズホルダ31に対して直接的に固定されていないので、固定側部材(軸保持部45、レンズホルダ31)との共振を考慮することなく、圧電素子42および伝達軸44から導かれる固有の共振を考慮するだけで、圧電素子42に対する駆動周波数を適切に設定することができる。
したがって、上記のように、利得が得られる範囲から駆動周波数を選定することができる。
【0085】
また、図22に示されるように、駆動信号の高調波成分については抑圧することができる。
例えば、400kHzの高調波成分については-10dB程度の抑圧が効いており、さらにそれ以上の高調波成分はさらに抑圧されていることが分かる。すなわち、駆動信号に混入する高周波成分を十分に抑圧できることがわかる。
【0086】
例えば、駆動電圧には電源ラインを経由して高周波ノイズが混入することがある。
図23は、電源ラインノイズがのってしまった駆動電圧の例である。
このようなノイズが入ってしまうと、圧電アクチュエータの動きが間欠的に止まってしまったりするので、動作が不安定になってしまう問題が生じる。
この点、本実施形態の駆動電圧生成回路81では、フィルタ効果によって、図24に示すように高調波ノイズを抑えることができ、圧電アクチュエータの動作を安定させることができる。
【0087】
また、製品に圧電アクチュエータを実際に組み込む場合には、図9に示したようにリード線72、金属端子71、配線基板10等を経由しなければならないので、出力段の配線長(ノードc、dから圧電素子42までの配線)が長くなってくる。
また、製品によっても出力段の配線長は異なってくる。すると、配線長の違いにより配線インダクタンスも異なってくるので、予期しない共振によって動作にバラツキが生じる恐れがある。
この点、本実施形態では出力段に予め誘導性素子91、92を設けており、誘導性素子91、92のインダクタンスは配線インダクタンスよりも十分に大きい。したがって、配線長が異なったとしても誘導性素子91、92の効果を超えるインダクタンスは保有していないので、予期しない共振によって圧電アクチュエータの動作にバラツキが生じる恐れがなくなり、動作安定性を向上させることができる。
【0088】
また、本第1実施形態では、第1駆動回路で電圧を印加する場合も、第2駆動回路で電圧を印加する場合も圧電素子42を間にして必ず2つのコイル(第1誘電性素子91、第2誘電性素子92)が働く構成になっている。これにより、正側にも負側にも逆起電力が作用するようになり、駆動電圧を正側にも負側にも増幅する作用が得られ、効率よく大きな増幅効果を得ることができる。
【0089】
(変形例1)
上記実施形態の変形例として、誘導性素子の配設位置を変えた例を説明する。
まず、図25に示す駆動電圧生成回路811を変形例1として説明する。
ここで、図25において、第1スイッチ素子Q1のドレインと第4スイッチ素子Q4のドレインとの接続ノードをノードcとする。このノードcは、圧電素子42の第1電極に接続されている。
また、第3スイッチ素子Q3のドレインと第2スイッチ素子Q2のドレインとの接続ノードをノードdとする。このノードdは、圧電素子42の第2電極に接続されている。
このとき、変形例1においては、第1スイッチ素子Q1のドレインとノードcとの間に第1誘導性素子911を設け、第3スイッチ素子Q3のドレインとノードdとの間に第2誘導性素子921を設けている。
この構成においても、第1誘導性素子911は第1出力段にあり、第2誘導性素子は第2出力段にある。
したがって、上記第1実施形態で説明した駆動電圧生成回路82と同様の動作により、第1駆動回路(第1スイッチ素子Q1、第1誘導性素子91、第2スイッチ素子Q2)で圧電素子42の一方側から駆動電圧を印加する場合も、第2駆動回路(第3スイッチ素子Q3、第2誘導性素子92、第4スイッチ素子Q4)で圧電素子42の他方側から(すなわち逆方向から)駆動電圧を印加する場合でも利得が得られ、擬似的に駆動信号レベルを電源電圧レベルEよりも高くすることができる。
【0090】
(変形例2)
次に、変形例2を図26を参照して説明する。
変形例2は、駆動電圧生成回路812をワンチップで構成した場合を想定した変形例である。
変形例2においては、図11の駆動電圧生成回路81に、さらに、第5スイッチ素子Q5と、第6スイッチ素子Q6と、を追加した構成である。
ここで、第5スイッチ素子Q5のドレインは圧電素子42の第1の電極に接続されており、第5スイッチ素子Q5のソースは接地電源に接続されている。
また、第6スイッチ素子のドレインは、圧電素子42の第2の電極に接続されており、第6スイッチ素子Q6のソースは接地電源に接続されている。
また、第5スイッチ素子Q5のゲートには、第4スイッチ素子Q4と共通の制御信号Sc4が印加され、第6スイッチ素子Q6のゲートには、第2スイッチ素子Q2と共通の制御信号Sc2が印加されている。
すなわち、第5スイッチ素子Q5と第4スイッチ素子Q4とは同じ動作をし、第6スイッチ素子Q6と第2スイッチ素子Q2とは同じ動作をすることになる。
【0091】
この構成において、図12に示したタイミングチャートで制御信号Sc1−Sc4を送ると、その主な動作は駆動電圧生成回路82と同様になり、同様の効果が得られる。
ここで、図11の駆動電圧生成回路82では、第1駆動回路(第1スイッチ素子Q1、第1誘導性素子91、第2スイッチ素子Q2)で圧電素子42の一方側から駆動電圧を印加する場合、第2スイッチ素子Q2を介して圧電素子42にGND電位をかけていたが、変形例2では、第2スイッチ素子Q2と同じ動作をする第6スイッチ素子Q6を介して圧電素子にGND電位をかけている(図27参照)。
そして、この場合、第2誘導性素子92は電流経路に含まれなくなるが、電圧印加側にある第1誘導性素子91が経路に含まれることによって上記に説明した作用は十分に得られ、擬似的に駆動信号レベルを高めることができる。
【0092】
同様に、図11の駆動電圧生成回路82では、第2駆動回路(第3スイッチ素子Q3、第2誘導性素子92、第4スイッチ素子Q4)で圧電素子42の他方側から(すなわち逆方向から)駆動電圧を印加する場合、第4スイッチ素子Q4を介して圧電素子42にGND電位をかけていたが、変形例2では、第4スイッチ素子Q4と同じ動作をする第5スイッチ素子Q5を介して圧電素子42にGND電位をかけている(図28)。
そして、この場合、第1誘導性素子91は電流経路に含まれなくなるが、電圧印加側にある第2誘導性素子92が経路に含まれることによって上記に説明した作用は十分に得られ、擬似的に駆動信号レベルを高めることができる。
【0093】
(変形例3)
上記第1実施形態では、圧電素子42が駆動軸44に取り付けられ、圧電素子の振動が駆動軸に伝わることで、駆動軸、圧電素子およびレンズホルダ31が一体となって軸保持部45に対して摺動する構成を例にして説明した。
これに対し、図29に示すように、圧電素子430をスライダ420に直接取り付けた構成にしてもよい。
すなわち、図29において、支持軸440にはスライダ420が摺動可能に係合している。具体的には、スライダ42に貫通孔421が設けられており、この貫通孔421に支持軸44が挿通されている。そして、レンズホルダ70がスライダ42に取り付けられ、一体化されている。
なお、レンズホルダ70はガイドレール50、51によって案内されている。
【0094】
さらに、圧電素子430は、スライダ420に貼設されている。圧電素子430は、スライダ420の面のうち移動方向に対して垂直な端面423に取り付けられている。
このとき、圧電素子430の伸縮方向とスライダ420の移動方向とが平行になるように圧電素子430がスライダ420に取り付けられている。
【0095】
このような構成において、圧電素子が伸縮運動すると、その振動によりスライダ420が支持軸に対して移動する。
このとき、駆動源である圧電素子430は移動体であるスライダ420に固定されている。このように移動対象物に駆動源を取り付けているので、圧電素子430から得られる動力をスライダ420の変位に効果的に変換することができる。
したがって、消費エネルギーを低減できるとともに、制御精度を高めることができる。
また、圧電素子430は、固定側部材である支持軸440に対して直接的に固定されていない。このような構成を採用したので、固定側部材との共振を考慮することなく、圧電素子430およびスライダ420から導かれる固有の共振を考慮するだけで、圧電素子430に対する駆動周波数を適切に設定することができる。すなわち、固定側部材との共振が問題にならなくなるので、駆動周波数帯域を広く設定することができるようになる。
【0096】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0097】
10…配線基板、11…コネクタ、12…イメージセンサ、13…透明基板、15…補強板、20…筐体、22…隔壁部、24…レール、26a…突起、26b…突起、30…レンズユニット、31…レンズホルダ、32…連結部、32a…支持板、32b…支持板、35…レール受け部、42…圧電素子、44…伝達軸、45…軸保持部、45h…軸保持部の本体部、45h1…輪状部、45h2…収納部、45h2a…曲面、45h2b…テール部、45h3…突出部、45h4…突出部、45p…押え板、45r…押え板、50…蓋、71…金属端子、72…リード線、80…コントローラ、81、811、812…駆動電圧生成回路、91…第1誘導性素子、92…第2誘導性素子、100…圧電アクチュエータ、101…圧電素子、102…駆動部材、103…係合部材、104… 駆動回路、104a…制御回路、120…支持部材、146…誘導性素子、150…カメラモジュール、L…レンズ、Q1-Q4…スイッチ素子、Q5−Q6…スイッチ素子、Sc1−Sc4…駆動制御信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側部材と、
前記固定側部材に対して移動可能に係合したスライド体と、
前記スライド体に固着され、駆動電圧の印加に応じて伸縮する圧電素子と、
前記圧電素子に印加する駆動電圧を生成する駆動電圧生成回路と、を備え、
前記駆動電圧生成回路は、前記圧電素子の一方側電極から駆動電圧を印加する第1駆動回路と、前記圧電素子の他方側から駆動電圧を印加する第2駆動回路と、を有し、前記第1駆動回路と前記第2駆動回路とを切り替えることで前記圧電素子を伸縮動作させる交流の駆動電圧を生成するものであって、
前記第1駆動回路および前記第2駆動回路は、それぞれ誘導性素子を有し、
前記駆動電圧の周波数は、
前記第1および第2駆動回路に含まれるスイッチ抵抗、前記圧電素子の容量、および、前記誘導性素子のインダクタンス、の相互作用によって利得がゼロdBより大きくなる周波数レンジから選定される
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動装置において、
前記駆動電圧の周波数は、
前記第1および第2駆動回路に含まれるスイッチ抵抗、前記圧電素子の容量、および、前記誘導性素子のインダクタンス、の相互作用によって利得が2dBより大きくなる周波数レンジから選定される
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の駆動装置において、
前記駆動電圧の周波数は、
前記第1および第2駆動回路に含まれるスイッチ抵抗、前記圧電素子の容量、および、前記誘導性素子のインダクタンス、の相互作用によって利得がゼロより大きくなる周波数レンジであって、かつ、共振点の周波数の前後10%は除外した周波数レンジから選定される
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の駆動装置において、
前記駆動電圧の周波数は、
前記第1および第2駆動回路に含まれるスイッチ抵抗、前記圧電素子の容量、および、前記誘導性素子のインダクタンス、の相互作用によって利得がゼロより大きくなる周波数レンジであって、かつ、共振点の周波数より小さい周波数レンジから選定される
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の駆動装置において、
前記スライド体は、レンズを保持するレンズ保持体と、前記レンズ保持体と連結された駆動軸と、を有し、
前記圧電素子は、前記駆動軸の一端に固着され、
前記駆動軸は、前記固定側部材としての軸保持部によって軸方向に摺動可能に保持されている
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項6】
請求項5に記載の駆動装置において、
前記圧電素子、駆動軸およびレンズホルダが一体的になっており、
圧電素子は、駆動軸およびレンズホルダとともに軸保持部に対して一体的に移動する
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項7】
固定側部材と、
前記固定側部材に対して移動可能に係合したスライド体と、
前記スライド体に固着され、駆動電圧の印加に応じて伸縮する圧電素子と、
前記圧電素子に印加する駆動電圧を生成する駆動電圧生成回路と、を備え、
前記駆動電圧生成回路は、
圧電素子の一方電極側に設けられた第1誘電性素子と、
前記圧電素子の他方電極側に設けられた第2誘電性素子と、
前記第1誘電性素子と第2誘電性素子とを介して前記圧電素子に正の駆動電圧を印加する第1駆動回路と、
前記第1誘電性素子と第2誘電性素子とを介して前記圧電素子に負の駆動電圧を印加する第2駆動回路と、を有し、
前記第1駆動回路と前記第2駆動回路とを切り替えることで前記圧電素子を伸縮動作させる交流の駆動電圧を生成する
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項8】
請求項7に記載の駆動装置において、
駆動電圧生成回路は、Hブリッジ回路であって、
前記Hブリッジ回路の第1の出力端子と第2の出力端子との間を接続する結合線を有し、
前記圧電素子は前記結合線の途中に配置され、
前記結合線には、前記圧電素子を間にして二つの誘電性素子が設けられている
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の駆動装置と、
前記レンズを介して入力される像を取得する撮像手段と、を備えた画像取得装置。
【請求項10】
請求項9に記載の画像取得装置を備える電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【公開番号】特開2011−167017(P2011−167017A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29422(P2010−29422)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【特許番号】特許第4744636号(P4744636)
【特許公報発行日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(391002775)マクセルファインテック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】