説明

高さのあるヒールを備えた婦人靴の中底体

【課題】着用時の重心が踵から接地面方向へ向かうことで安定したスムーズな歩行を可能にし、爪先方向への前滑りを抑制し、爪先、膝、腰等への疲労を軽減させる機能を持ったハイヒール等の婦人用靴の中底材を開発すること。
【解決手段】
ハイヒール等の中底体において、踵を載せる碗形状凹部1を着用時の重心が踵から接地面垂直方向へ向かう形状とし、かつ前記碗形状凹部1の前側直近左右である足根骨付近踵骨前方左右に前上がりの傾斜を有するアーチ2を設けた中底体とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3cm以上高さのあるヒールを備えた婦人靴用の中底体に関する。
着用時の重心が踵から接地面方向へ向かうことで安定したスムーズな歩行を可能にし、さらに、爪先方向への前滑りを抑制し、爪先、膝、腰等への疲労を軽減させる機能を持った婦人用ヒール底靴、ミュール、サンダル等の中底体(中底部品・中敷き。インソール)の構造に関するものである。
【0002】
従来の婦人靴やサンダルやミュールは、足を美しく見せるための高いヒールの傾斜形状が採用されている。
しかし、例えばヒールサンダルにおいては、スタイルを重視する傾向があるため、爪先を保護するアッパーはほとんど装着されておらずアッパーはヒモ状及び細巾のストラップにより足を支える程度のものである。
この構造においては、その構造上、爪先方向への前滑りが起こるが、足を支える付属部品や条件が不十分であるため、履き心地、安定感は十分ではない。
【0003】
高さのあるヒールを備えた婦人靴では静止時の直立時から拇指球部を中心に体重がかかっており、いわゆる爪先歩行になる姿勢=前方への傾斜形状になることが多い。
傾斜形状によりもたらされる疾患として外反母趾又は足首、膝、腰等に及ぼす疲労が知られており、歩行時には安定性が悪いため足首の捻挫、靴擦れ更には転倒する危険がある。
【0004】
歩行に伴う足裏の重心移動は、第一に、踏み出した足が地面につく時は、まず踵が地面につき、体重移動は踵から足裏の外側縁(小指側)に沿って小指の付け根まで移動する。
【0005】
第二に、体重は小指の付け根から親指の付け根まで徐々に移動しながら足全体で地面をつかむ様な動きが加わる。
【0006】
第三に、親指の付け根に体重がきて指で地面を蹴る。
【0007】
このような一連の体重移動が繰り返し起こることで正しい歩行が可能になる。しかし、高さのあるヒールを備えた婦人靴ではこのような動きを連続的に反復することは難しく、婦人全員が正しく歩行できてはいない。
人によっては足首の関節の運動が十分に行われないため、不安定な歩き方になり、足、膝及び腰に負担をかけ様々な障害を引き起こす一原因になっているといわれている。
また、静止時の直立状態においても重心が前傾になることで不安定な姿勢になり、同様の問題を引き起こす原因になっている。
【背景技術】
【0008】
従来の爪先方向への滑り防止においては、パット形状のソフトな滑り防止具を中敷又はインソール表面に装着する場合がほとんどである。
但し、この形態は外観上表面に凸凹を作ることになりスマートさを失くし、使用中に剥離し脱落の問題がある。
【0009】
そのほかには、中底体の踵部に外縁を設けて深くし周縁全体で踵をホールドする形状構成がある。
この構成でも、外観上の自然性や周縁部の踵へのホールド性、あるいは爪先方向への滑り防止の効果、また3cm以下のヒール底靴であれば、静止時及び歩行時において多少の安定性を認めることができる。
しかし、3cm以上の高さがあるハイヒール底靴では、ホールドが実際上できず、体重の移動が大きく、静止時及び歩行時の安定性を認めることができずに、滑りについては大きな課題が残るものである。
【0010】
また、土踏まずの輪郭に沿って肉厚部の縦走アーチを設置し足裏部をフィットさせ、この凸部によって前後の動きを抑える構造の靴においては、歩行時の体重移動で踵から足裏の外側縁(小指側)に沿って小指の付け根まで移動する足の外側方向への力をさらに加速させることにより足の捻挫あるいは転倒等の問題を引き起こし可能性があると考えられる。
土踏まずの輪郭に沿って肉厚部の縦走アーチを設置し足裏部をフィットさせ、この凸部によって前後の動きを抑える構造の靴においても、高いヒールでは前滑りの防止はできなかったといえる。
【0011】
さらに、小指の付け根まで移動する足の外側方向への力を加速することにより、歩行時の体重は小指の付け根から親指の付け根まで徐々に移動しながら足全体で地面をつかむ様な動きが疎外され、結果として正しい歩行が不可能になっている。
【0012】
静止時及び歩行時に関わらず、重心が踵の中心方向に無い場合、最初の動きである踵の地面への接地が不安定できちんとした重心移動が行われない。
さらに今までこの分野の開発が行われた報告はあまりされていないのが現状である。
【0013】
足の約中間の位置である中足骨付近(図1 土踏まず付近に該当)にアーチ形状を持たせ前滑りを抑制する構造をとると、常に足裏を加圧することになり、また、中足骨付近のアーチ形状は足裏にある各指骨を動かす腱を圧迫することで足の指の自由な動きを阻害することになる。
このように圧迫する位置によっては、高さのあるヒールを備えた婦人靴でおこる前滑りを押さえる動作に伴う各指の踏ん張りができなくなり、前滑りをさらに加速させることになる。
【0014】
足指の動きを阻害することで、歩行に伴う重心移動に必要な指で地面を蹴るという動作が抑えられ正しい歩行が行われなくなると考えられる。
【0015】
中足骨付近(図1 土踏まず付近に該当)の一部など不適切な箇所でのアーチ形状(隆起)だけで3cm以上の高さのあるヒールを備えた婦人靴の安定性を与えることは不可能であり、静止時及び歩行時に関わらず重心が踵の中心方向に無い場合、最初の動きである踵の地面への接地が不安定できちんとした重心移動が行われない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、高さのあるヒールを備えた婦人靴の着用時の重心が踵から接地面方向へ向かうことで、安定したスムーズな歩行を可能にし、さらに、爪先方向への前滑りを抑制し、爪先、膝、腰等への疲労を軽減させる機能を持ち、また、ヒールの高さに関わらず、歩行時の理想とされる重心移動が行われる婦人用ヒール底靴の中底体を提供することにある。
特に3cm以上の高さのあるヒールを備えた婦人靴の中底体の開発である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願によって開示される発明の概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
(1)ハイヒール等の中底体において、踵を載せる碗形状凹部を着用時の重心が踵から接地面垂直方向へ向かう形状とし、かつ前記碗形状凹部の前側直近左右である足根骨付近踵骨前方左右に前上がりの傾斜を有するアーチを設けたことを特徴とする高さのあるヒールを備えた婦人靴の中底体である。
高さのあるヒールを備えた婦人靴によく起こる、歩行時の踵から爪先から方向への急激な体重移動を抑制し、さらに、爪先方向への滑りにおいても抑制する構造を持つことを特徴とする。
【0018】
後端から爪先までの中底体であり、静止状態から歩行状態への重心が踵から接地面方向へ向かうように設計された中底体であり、中底体踵部分に椀形状凹部の中心から外側に向けて高くなるよう曲面形に成型されている。
碗形状凹部は前記中底体と一体成形されている。
前記(1)及び(2)の中底体において碗形状凹部の足根骨付近踵骨前方(図1)左右にアーチを設置するが、そのアーチは前上がりである。
【0019】
(5)前記(1)〜(4)の中底体において、高強度なFRP(繊維強化プラスチック)樹脂、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂、ナイロン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂等のインジェクション成形可能な熱可塑性合成樹脂であり、体重がかかった状態でも曲面形を維持するものである。
【0020】
(6)前記(1)〜(5)の中底体は高強度樹脂によりシャンクを用いないで使用できることが望ましいが、必要な場合は埋設できる。
【0021】
前記(1)〜(6)の中底体はインジェクション成形での異硬度による2層体以上を持ち、上層は軟らかい樹脂で足あたりを良くし衝撃吸収性に優れていることが望ましく、硬度はJIS−A法で25〜50°、下層は硬い高強度の樹脂によるもので硬度はJIS−A法で80°以上がより望ましい。
【0022】
前記(1)〜(7)の中底体は中敷表材として滑り止め加工をした人工・合成皮革等を貼りあわせ使用することで更に、爪先方向への前滑りを抑制し、爪先、膝、腰等への疲労を軽減させるとともに、安定したスムーズな歩行を可能にする機能を持つ。
【0023】
本発明では、ハイヒール等の中底体において、踵を載せる碗形状凹部とその前側直近左右に前上がりの傾斜を有するアーチを設けたことが主要な特徴である。
つまり、ヒールの高い靴を履いたときに、足に負担のかからない踵部分のみで、前滑りと安定を達成することを目的としている。
詳しく説明すると、3cm以上の高さのあるヒールを備えた婦人靴において、踵後端から爪先までの前記中底体において、静止状態から歩行状態への重心が踵から接地面方向へ垂直に向かうように設計された中底体であり、重心が踵から接地面方向へ向かうように中底体踵部分に設けた碗形状凹部1は中心から外側に向けて高くなるよう曲面形に成形し、碗形状凹部1の底面爪先側略半分に水平部100を形成し、前記碗形状凹部1のその前側直近左右に前上がりの傾斜β°を有し隆起したアーチ2を足根骨付近踵骨前方左右に中底傾斜角度α°が大きくなるにつれて地面との水平線にできるアーチ傾斜角度β°を常に大きくする(β>0:βは0より大きい)関係に設けて、前記碗形状凹部1及びアーチ2を中底体10に一体成形していることを特徴とする高さのあるヒールを備えた婦人靴の中底体を開示したものである。
アーチ2は、足根骨付近踵骨前方左右にあり、傾斜部11の中底傾斜角度α°が大きくなっても地面との水平線に対してアーチ傾斜角度β°が常に大きい(β>0)関係に設けている。
前記中底体の椀形状凹部は独立した踵形状凹部又は踵形状に沿って成形されている。
踵形状凹部とは、平面視で横U字状或いはO字状で内部が凹んだ形状である。
そして、椀形状凹部は前記中底体10と一体成形されている。
【0024】
さて、実用新案登録第3076674号においては、高さのあるヒールを備えた履物において、底部の足裏に接地する面のうち、少なくとも踵が接地する部分のみを、体重がかかった状態で中心から両側へ向けて高くなる曲面形になるように成形することで外側に向けて発生させる力を減衰させる効果を提言している。
【0025】
前記考案では、爪先方向に対して踵部分の接地面を左右に中心から両側へ向けて高くなる曲面形にした構造を持つが、この理論を適用し前後にもこの曲面形をつける椀形構造にすることで前後左右に働く力(以下作用力)を踵から地面方向へ向かうように制御することが可能になると考えられる。
【0026】
この効果を中底構造に用いることで、着用時の重心が踵から接地面方向へ向かうことが可能になり、3cm以上の高さのあるヒールを備えた婦人靴においての正しい歩行バランスを保てると考えられる。
【0027】
この作用力を踵から地面へ一定方向に向かわせるには、ヒールの高さにより曲面形の曲率や深さを設定するのが望ましい。
ここで、さらにヒールの高さを勘案した工夫が要るが、本発明者は、高いヒールの踵に、碗形状凹部1を設け、その碗形状凹部1の底面爪先側略半分に水平部100を形成し、さらに前記碗形状凹部1の直近前方左右である足根骨付近踵骨前方左右に前上がりの傾斜β°を有し隆起したアーチ2を中底傾斜角度α°が大きくなるにつれて地面との水平線にできるアーチ傾斜角度β°を常に大きくする(β>0)関係に設けることで、ヒールの高さによる前方への作用力を抑えることが可能になることを発見した。
すなわちヒールが高くなるにつれて、地面の水平線との間にできる中底傾斜角度α°が大きくなり、これにつれて、前記碗形状凹部1も傾斜してゆくが、そのその碗形状凹部1の底面爪先側略半分に水平部100を形成し、前記碗形状凹部1の直近前方左右である足根骨付近踵骨前方左右位置に設けたアーチのアーチ傾斜角度β°を常に大きくする(β>0)ことで、ヒール高さによる前方への作用力を抑えるのである。(図8)。
【0028】
静止状態から歩行状態への重心が踵から接地面方向へ向かうように設計された中底体をもつ3cm以上の高さのある踵から爪先への顕著な傾斜構造をもつヒール底靴においては、この微妙な構造上の工夫で、歩行時の踵から爪先への急激な体重移動の負荷配分を垂直方向へ方向づけすることが可能である。
【0029】
この急激な踵から爪先への体重移動を抑制し、正しい歩行を阻害しない足根骨付近踵骨前方(図1)左右にアーチ構造を中底傾斜角度α°が大きくなるにつれて地面との水平線にできるアーチ傾斜角度β°を常に大きくする(β>0)関係にアーチを設けることで、達成した。
そして、足裏の歩行時の外側縁方向への力を考慮し、外側アーチを内側アーチより若干肉厚にすることで正しい歩行バランスを可能にしている。
【0030】
ここで従来技術をみると、靴のインソール等おいて、アーチ構造の付与でフィット性を追及開発した先例には次のようなものがある。
【特許文献1】実用新案登録第3076674号(実願2000−7019)
【特許文献2】実公昭34−15624
【特許文献3】特開2004−229992号公報
【特許文献4】特開2004−166810号公報但し、これら文献1〜4には、踵部の収まる椀形状凹部と左右一対のアーチ部及びアーチの傾斜角度との組合せやその連携効果についての示唆はない。
【0031】
さらに、本件出願人は2005年11月10日に以下の内容の特許出願(特願2005−326759 請求項の数9)をしている。
特許請求の範囲の内容は、
「請求項1;高さのあるヒールを備えた婦人靴の中底体において、重心が踵から接地面方向へ向かうように中底体10踵部分に設けた椀形状凹部1は中心から外側に向けて高くなるよう曲面形に成形し、椀形状凹部1は中底体10と一体成形されていることを特徴とする婦人靴用の中底体。」
「請求項2;前記中底体10の椀形状凹部1は独立した踵形状凹部又は踵形状に沿って成形されたことを特徴とする請求項1に記載の婦人靴用の中底体。」
「請求項3;前記中底体10の椀形状凹部1の爪先方向左右にアーチ部2を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項2のいずれかに記載の婦人靴用の中底体。」
「請求項4:前記中底体10の椀形状凹部1の左右縁に連続して爪先方向左右にアーチ部2を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項2のいずれかに記載の婦人靴用の中底体。」
「請求項5;前記中底体10の全体構造として、ヒール5の高さに追随して椀形状凹部1にホールドされた踵が着用時の重心が踵から接地面方向へ向かうように椀形状凹部1の曲面形及び踵から爪先方向へ傾斜していることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の婦人靴用の中底体。」
「請求項6では、インジェクション成形可能な熱可塑性合成樹脂素材、請求項7では、中底体10を形成する合成樹脂は体重がかかった状態でも曲面形を維持するものであること、請求項8では、中底体10はインジェクション成形での異硬度による2層体以上を持ち、上層部は軟らかい樹脂で形成され、下層部は硬い高強度の樹脂で形成されていること、請求項9では中底体10は滑り止め加工を施した中敷表材を設けたこと、」
を記載している。
【0032】
因みに特許出願(特願2005−326759)は、左右にアーチ部を設けることは開示しているが、そのアーチの構造等に関しては未開示であった。
本発明はこの特許出願(特願2005−326759)と関連する発明になる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る高さのあるヒールを備えた婦人靴用の中底体では次の効果がある。
本発明によれば前記中底体の踵骨部分に着用時の重心が踵から接地面方向へ向かうように碗形状の凹部を成形し、さらに、碗形状の凹部から足根骨付近踵骨前方(図1)左右に所定傾斜のあるアーチ部を設けることで、足裏を圧迫せず足指のグリップ性を向上させることにより、急激な重心移動を抑制した安定したスムーズな歩行を可能にした。
また、このような効果により、爪先、膝、腰等への疲労を軽減させる機能を持った婦人用ヒール底靴を提供することが可能である。
【0034】
請求項に基づいて説明すると、
(1)請求項1〜5全般の構成に係る本発明によれば前記中底体の踵骨部分に着用時の重心が踵から接地面方向へ向かうように椀形状の凹部を成形し、さらに、椀形状の凹部の爪先方向で足根骨付近踵骨前方左右に前上がり傾斜したアーチ部を設けることにより、椀形状の凹部に入る踵を直近左右のアーチでその位置に保持して、急激な重心移動を抑制することで、前滑りを防止でき、安定したスムーズな歩行を可能にした。
爪先方向への前滑りを抑制し、爪先、膝、腰等への疲労を軽減させる機能を持った婦人用ヒール底靴を提供することが可能である。
(2)椀形状凹部と水平部の形状で、踵は安定して傾斜姿勢で維持され、足全体の前滑りや横方向への滑りが防止される。
(3)請求項6以下の構成では、前記中底体の材質がインジェクション成形可能な熱可塑性合成樹脂であり、その合成樹脂は体重がかかった状態でも曲面形を維持し、シャンクの埋設が可能なものである。
耐久性、保型性、が十分にあり、使用中に変形による歩行への影響がない効果がある。
(4)前記中底体が2層構造で、上層部は軟らかい樹脂で形成され、下層部は硬い高強度の樹脂で形成されているものは、上層部の樹脂が緩衝委し、履き心地も良い。
(5)中底体の表面に、滑り止め加工を施した中敷表材を貼り付けるなどの二次加工は、さらに有効な二次効果を期待できる。
(6)一体成形で、加工生産も省力化でき、経済性もある。
(7)3cm以上の高さのハイヒールの中底体の前滑り現象を防止するのに優れた効果がある。
【0035】
実際の体圧分散測定試験
前記構成(請求項1〜5)の中底体を備えた婦人靴と、これを備えていない婦人靴でヒールの高さを5cm、6cm、7cmにして体圧分散測定試験を行った。
【0036】
前記中底体を備えた婦人靴はヒールの高さに関わらず、着用時の直立状態で踵の下に重心があり、爪先方向への前滑りを十分に抑制していることが確認された。
また歩行時でのモニター結果から、前記構成(請求項1〜4)の中底体を備えていない婦人靴に比べて、前後左右への重心移動が顕著に少なく、安定したスムーズな歩行を実現することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明は、略3cm以上の高さのハイヒール底靴では、体重の移動が大きく、静止時及び歩行時の安定性を認めることができずに、前滑りについては大きな課題があり、そのための解決手段を提供するものである。
なお、厳密に3cm以上でなくとも、前滑りが発生して歩行サイクルがスムーズにできない構造や性質のヒール底靴には十分適用できる。
【0038】
本発明の実施の基本形態では、外観の問題を解消するため熱可塑性高強度樹脂を用いており、中底体10において、踵部と傾斜部11と平坦部12を有する立体形状で、踵部の踵骨の接地部分に椀形状凹部1形成し、また、椀形状凹部1の爪先方向の直近左右にアーチ2を成形した中底体10とした。
【0039】
さらに中敷として滑り止め加工をした表材を用いることにより、爪先方向への前滑りを更に抑制することが可能である。
実施例には図示していないが、中底体10の表面に、滑り止め加工を施したものは、相応の前滑り防止効果がある。
【0040】
ヒールの化粧部分は歩行時における着地エッジ部に傾斜角もしくはラウンドをつけることにより、歩行時の踵からの着地をスムーズにすることが可能である。
エッジの傾斜角は、ヒールの高さによる歩行時の踵からの入射角を考慮し、任意に決定される。
【0041】
中底体10の爪先形状においては幅広にも細形にも任意に変形可能なものとする。
実施例の中では、本発明に加えてのこのヒール底面の形状や傾斜角度に基づく履き心地や歩行のスムーズさには言及していないが、これらの構造との一体化で、さらなる歩行の安定性が向上することは相乗効果として予想できることである。
【実施例】
【0042】
以下、本発明に係る婦人靴の中底体の一実施例を図面に基づいて説明する。
実施例は、図2に示す実施例を開示する。
本発明の本質的なアーチ構造は、中底傾斜角α°とアーチ傾斜角β°を示す図図8で説明する。
図1は説明のための足部骨格図、図2はインジェクション成形後の中底体の全体図(左足側)、図3は中底体碗形状凹部A−A線で切った断面図(左足側)、図4は中底体碗形状凹部B−B線で切った断面図(左足側)、図5は中底体アーチ部C−C線で切った断面図(左足側)、図6は中底体アーチ部B1−B1断面図(左足側)、図7は中底体の異硬度樹脂による2層体構造を示す中央縦断面図(左足側)である。
【0043】
まず図2〜図8に示す高さのあるヒールを備えた婦人靴用の中底体である実施例について説明する。
図2は3cm以上の高さのあるヒールを備えた婦人靴における左足用の中底体10の全体を示す斜視図である。
3cm以上の高さのあるハイヒール等の婦人靴の中底体10において、中底体10は、踵部分に設けた碗形状凹部1と傾斜部11と平坦部12からなり、踵部分に設けた碗形状凹部1は中心から外側に向けて高くなるよう曲面形に成形している。
【0044】
碗形状凹部1の底面爪先側略半分には水平部100を形成している。
【0045】
前記碗形状凹部1の前方直近左右で、前記水平部100の側には、前上がりの傾斜β°を有し隆起したアーチ2を設けている。
アーチ2は、足との関係でみれば、足根骨付近踵骨前方左右に中底傾斜角度α°が大きくなるにつれて或いは大きくなったとしても地面との水平線にできるアーチ傾斜角度β°を常に大きくする(β>0)関係に傾斜して隆起して設けて、前記碗形状凹部1及びアーチ2を中底体10に一体成形していることを特徴とする。
アーチ傾斜角度β°は、好ましくは3度以上に傾斜して隆起して設ける。
図2において、A−A線とC−C線との間隔実寸は、2cm〜3cmである。
【0046】
図4は、中底体10の踵部分の縦断面図で図2のB−B線断面図であり、図6は同じ実施例の中底体10のB1―B1の断面図であり、図6はアーチ2の断面を示す。
図7は、爪先から踵方向へ切断した場合の2層体構造を示しており、上層部3と下層部4から構成されている。
このような形態はインジェクション成形により容易に得られる。なお、さらに複数の積層が可能であるが、本実施例においては2層体とした。
土踏まず部から踵部に相当する領域は2層体以上とし、上層部3は柔らかい樹脂で、下層部4は硬度の高い樹脂で形成する。
材質としては例えば、高度なFRP(繊維強化プラスチック)樹脂、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂、ナイロン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂等が好ましい。殊に上層部3は柔らかい樹脂を用いて、足を保護し衝撃吸収性を高めるのがよい。
その結果として、新しい靴を履いたときや、長距離を歩いた際に患う靴擦れ、タコ、魚の目および角質を予防することができる。
【0047】
図8は、実施例の中底体10の一部断面であって、構成部分の角度を示す主要部分の説明図である。
中底体10は、踵部分に設けた碗形状凹部1と傾斜部11と平坦部12からなり、前記碗形状凹部1の前方左右で、前記水平部100の両側には、前上がりの傾斜β°を有し隆起したアーチ2を設けている。
アーチ2は、碗形状凹部1の前方直近左右でつまり足根骨付近踵骨前方左右に中底傾斜角度α°が大きくなるにつれて地面との水平線にできるアーチ傾斜角度β°を常に大きくする(β>0)関係に傾斜して隆起して設けられる。
つまり、アーチ2は、水平ではなく常に前方のほうが水平より隆起した傾斜で形成される。
しかもヒール高さによって中底傾斜角度α°が大きくなっても、必ず前方のほうが水平より隆起した傾斜で形成される。
そして、前記碗形状凹部1及びアーチ2を中底体10に一体成形していることが特徴である。
【0048】
前記中底体10の碗形状凹部1は、踵形状に沿って平面視で円形或いは楕円形の一部の輪郭をもって成形されており、前方に水平部100がある。
前記碗形状凹部1は中心から左右と後方に外側に向けて高くなるよう曲面形に成形し、碗形状凹部1の底面の爪先側略半分に水平部100を形成してからゆるやかに爪先方向へ下降傾斜してゆくように成形している。
【0049】
足の裏は、ヒールの高さに追随して踵を上げられ、踵は爪先側略半分にある水平部100に当接してから碗形状凹部1にホールドされ、その踵は重心が踵中心から接地面方向へ垂直に向かうようになる。
少しばかり、踵の前方が後方へ傾斜して保持されるからである。
前記アーチ2は、碗形状凹部1の底面の爪先側略半分に形成した水平部100の左右に徐々に前上がりの傾斜を形成して隆起し、足根骨付近踵骨前方左右に位置して屈折して下降してゆき、高さのあるヒールを備えた婦人靴を履いた歩行時において踵から爪先方向への急激な体重移動を抑制する構造を持つことになる。
【0050】
なお、中底体10はインジェクション成形可能な熱可塑性合成樹脂である。
中底体10を形成する合成樹脂は体重がかかった状態でも曲面形を維持し、強度の要請がある場合によりシャンクの埋設が可能なものである。
なお、本発明の中底体10の素材は、合成樹樹脂や複合材料等、前述の素材に限るものではない。
傾斜部11や椀形状凹部1の形態を自己保持できる材料であればよい。
さらに、図7のように、前記中底体10は異硬度による2層構造で、上層は軟らかい樹脂、下層は硬い高強度の樹脂によって製作することで、履き心地の良い中底体10ができる。
滑り止めインクの塗布などの二次加工も容易に可能である。
前記中底体10に滑り止め加工をした中敷表材を形成しても良い。
【0051】
前記中底体10の椀形状凹部1の左右縁には連続して爪先方向左右にアーチ2を形成している。アーチ2は足の裏に素材的にも構造的にもフィットする。
そのため、フィットしたアーチ2が爪先方向への前滑りや横方向への滑りを抑制する。足の爪先、膝、ひいては腰への疲労を軽減する。
【0052】
このように踵骨部分が接触する椀形状凹部1および踵の前方部分にアーチ2を設けることにより急激な重心移動を抑制し、安定した歩行をすることができる。
また、上層部は柔らかい樹脂を用いるから、踵に集中しがちな衝撃をソフトに吸収し、足への負担を軽減することができる。
【0053】
椀形状凹部1の寸法は深さ3mm〜4.5mm程度の弓状、アーチ2の隆起の肉厚寸法は2mm〜3.5mm程度が好ましい。
この寸法は徐々に前方方向が上がるように傾斜している。
また、土踏まず部から踵部に相当する領域の2層体構造の上層部の寸法は厚さ5mm程度、下層部の寸法は5mm〜7mm程度が好ましい。
上記の寸法とすることにより、椀形状凹部1にしっかりと踵がフィットし、アーチ2の隆起に支えられて足の骨格が崩れない。
外反母趾の予防と緩和にも効果的といえる。
【0054】
このように、中底体10の椀形状凹部1の爪先方向の直近左右にアーチ2を前上がりの傾斜した角度で設置したことにより、踵の前方部分は左右のアーチ2の隆起に支えられて前滑りが生ぜず、重心が垂直歩行へかかることとなるので、ヒールの高い靴でも安全に歩行ができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、3cm以上のハイヒールタイプの婦人靴の履き心地改良のために、その中底体に関しての開発研究によって達成したものであるが、安定した履き心地がえられるので、ダンスシューズやスポーツシューズにも利用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の説明のための足部骨格図
【図2】本発明に係る婦人靴の中底体の実施例を示すインジェクション成形後の中底体の全体図(左足側)
【図3】実施例の中底体の碗形状凹部A−A’線で切った断面図(左足側)
【図4】同じく中底体碗形状凹部B−B’線で切った断面図(左足側)
【図5】同じく中底体アーチ部C−C’線で切った断面図(左足側)
【図6】同じく中底体アーチ部B1−B’1線で切った断面図(左足側)
【図7】同じく中底体の異硬度樹脂による2層体構造図(左足側)
【図8】同じく中底体の中底傾斜角α°とアーチ傾斜角β°を示す説明図
【符号の説明】
【0057】
10 中底体
100水平部
1 椀形状凹部
11 傾斜部
12 平坦部
2 アーチ(隆起)
3 上層部
4 下層部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイヒール等の中底体において、踵を載せる碗形状凹部1を着用時の重心が踵から接地面垂直方向へ向かう形状とし、かつ前記碗形状凹部1の前側直近左右である足根骨付近踵骨前方左右に前上がりの傾斜を有するアーチ2を設けたことを特徴とする高さのあるヒールを備えた婦人靴の中底体。
【請求項2】
3cm以上の高さのあるハイヒール等の婦人靴の中底体において、中底体10は、踵部分に設けた碗形状凹部1と傾斜部11と平坦部12からなり、踵部分に設けた碗形状凹部1は中心から外側に向けて高くなるよう曲面形に成形し、碗形状凹部1の底面爪先側略半分に水平部100を形成し、前記碗形状凹部1の前方左右に前上がりの傾斜β°をもって隆起したアーチ2を足根骨付近踵骨前方左右に中底傾斜角度α°が大きくなっても地面との水平線に対してアーチ傾斜角度β°が常に大きい(β°>0°)関係に設けて、前記碗形状凹部1及びアーチ2を中底体10に一体成形していることを特徴とする高さのあるヒールを備えた婦人靴の中底体。
【請求項3】
前記中底体10の碗形状凹部1は、踵形状に沿って平面視で円形或いは楕円形の一部の輪郭をもって成形されたことを特徴とする請求項1〜請求項2のいずれかに記載の高さのあるヒールを備えた婦人靴の中底体。
【請求項4】
前記碗形状凹部1は中心から外側に向けて高くなるよう曲面形に成形し、碗形状凹部1の底面の爪先側略半分に水平部100を形成し、踵をその水平部100に当接してから碗形状凹部1にホールドして、着用時の重心が踵から接地面垂直方向へ向かうようにしたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の高さのあるヒールを備えた婦人靴の中底体。
【請求項5】
前記アーチ2は、碗形状凹部1の底面の爪先側略半分に形成した水平部100の左右に徐々に前上がりの傾斜を形成して隆起し、足根骨付近踵骨前方左右に位置して屈折して下降してゆき、歩行時において踵から爪先方向への急激な体重移動を抑制する構造を持つことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の高さのあるヒールを備えた婦人靴の中底体。
【請求項6】
前記中底体10はインジェクション成形可能な熱可塑性合成樹脂であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の高さのあるヒールを備えた婦人靴の中底体。
【請求項7】
前記中底体10を形成する合成樹脂は体重がかかった状態でも曲面形を維持できる素材であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の高さのあるヒールを備えた婦人靴の中底体。
【請求項8】
前記中底体10は異硬度による2層構造で、上層は軟らかい樹脂、下層は硬い高強度の樹脂によるものであることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の高さのあるヒールを備えた婦人靴の中底体。
【請求項9】
前記中底体10に滑り止め加工をした中敷表材を形成したことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載の高さのあるヒールを備えた婦人靴の中底体。
























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−312822(P2007−312822A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142576(P2006−142576)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(000149620)株式会社大裕商事 (5)
【Fターム(参考)】