説明

高周波伝送線路およびアンテナ装置

【課題】高周波伝送線路の遮断周波数を従来構造のものより高くして、広帯域に亘って挿入損失を低減した高周波伝送線路およびアンテナ装置を構成する。
【解決手段】高周波伝送線路101の第1端FPにアンテナが接続され、第2端SPにコネクタが接続される。マイクロストリップラインMSLの特性インピーダンスZb1はストリップラインSL1,SL2の特性インピーダンスより高く、コプレーナラインCPLの特性インピーダンスZb2はストリップラインSL2の特性インピーダンスより高いので、或る周波数でマイクロストリップラインMSLの位置およびコプレーナラインCPLの位置が電圧最大(電圧強度分布の腹)となるような定在波が生じる。すなわち、3/4波長共振が基本波(最低次の高調波)モードとなる。したがって、高周波伝送線路の遮断周波数が高く、広帯域に亘って信号の挿入損失は低く抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波信号線路に関し、特にはアンテナ端とコネクタ端との間に接続される高周波伝送線路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動体通信端末等の高周波信号を扱う電子機器においては、信号処理部に高周波信号を伝送する高周波伝送線路が用いられる。たとえば移動体通信端末においては50Ωや75Ωの同軸ケーブルが用いられている。
【0003】
こうした同軸ケーブルには、たとえば特許文献1および特許文献2に示されているように、高周波信号処理部との間にコネクタが付設されることがある。図1はその例を示す図である。図1(A)は同軸ケーブルの断面図、図1(B)はその一方端にコネクタ40を取り付けた状態を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−060425号公報
【特許文献2】特開2004−064282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、同軸コネクタ等の高周波伝送線路の第1端にアンテナが接続され、第2端にコネクタが接続される場合、アンテナで受信された高周波信号は、同軸ケーブルおよびコネクタを介して高周波信号処理部に送られる。
【0006】
ところが通常、アンテナの特性インピーダンスは同軸ケーブルの特性インピーダンス(通常50Ωや75Ω)より低いのに対し、コネクタの特性インピーダンスは同軸ケーブルの特性インピーダンスより高い。そのため、同軸ケーブルに1/4波長の奇数倍の定在波が生じる周波数で共振する。
【0007】
図1(C)はその様子を示す図である。図1(C)において第1端FPにアンテナが接続され、第2端SPにコネクタが接続されると、第1端は低インピーダンス、第2端は高インピーダンスであるので、第1端FPが電圧最小点(短絡端)、第2端が電圧最大点(開放端)となる定在波が生じる周波数で共振する。
【0008】
ここで、同軸ケーブル100内での1波長をλg、同軸ケーブルの長さをLg、同軸ケーブル100の誘電体の比誘電率をεrで表すと、1/4波長で共振する基本波の共振周波数foは、
fo=1/(4Lg√εr )×c (c:光速) …(1)
の関係にある。Lg=9[cm],√εr =1であるとすると、約830MHzで基本モードの共振が生じる。そのため、この同軸ケーブルの遮断周波数は約830MHzより低い周波数となる。この場合、例えば900MHz帯の信号を伝送する場合に、同軸ケーブルでの挿入損失が問題となる。
【0009】
本発明は、高周波伝送線路の遮断周波数を従来構造のものより高くして、広帯域に亘って挿入損失を低減した高周波伝送線路およびアンテナ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の高周波伝送線路は、第1端が低インピーダンス端であり、第2端が高インピーダンス端であり、
1/4波長共振の3倍以上の奇数倍共振が生じるように、前記高周波伝送線路の一部に、特性インピーダンスの低い低インピーダンス部と、特性インピーダンスが前記低インピーダンス部に比べて高い高インピーダンス部と、を設けたことを特徴とする。
【0011】
(2)第1端が低インピーダンス端であり、第2端が高インピーダンス端である高周波伝送線路において、
電圧強度分布の腹の数が2以上の共振が生じるように、前記高周波伝送線路の一部に、特性インピーダンスの低い低インピーダンス部と、特性インピーダンスが前記低インピーダンス部に比べて高い高インピーダンス部と、を設けたことを特徴とする。
【0012】
(3)前記低インピーダンス部はストリップラインであり、前記高インピーダンス部はマイクロストリップラインまたはコプレーナラインであることが好ましい。
【0013】
(4)(1) 〜(3)のいずれかにおいて、例えば前記低インピーダンス端はアンテナ接続端であり、前記高インピーダンス端はコネクタ接続端である。
【0014】
(5)(1)〜(4)のいずれかにおいて、前記高周波伝送線路は複数の誘電体層および線路導体(信号ラインおよびグランドライン)を含む積層体で構成されていて、前記高周波伝送線路は前記高インピーダンス部で屈曲されていることが好ましい。
【0015】
(6)(5)において、前記高インピーダンス部は前記低インピーダンス部に比べて前記誘電体層の積層数が少ないことが好ましい。
【0016】
(7)本発明のアンテナ装置は、(1)〜(4)のいずれかに記載の高周波伝送線路と、前記低インピーダンス端に接続されたアンテナ素子とを備え、前記高周波伝送線路は複数の誘電体層および線路導体を含む積層体で構成されていて、前記アンテナ素子は前記積層体に前記高周波伝送線路とともに一体的に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、1/4波長共振の3倍以上の奇数倍共振が生じ、1/4波長共振は生じないので、高周波伝送線路上の基本波モード(最低次の高調波モード)は3/4波長共振モードとなる。そのため、たとえ線幅の長さが伝送する信号の周波数の波長に近い場合であっても最低次の遮断周波数は従来構造の高周波伝送線路に比べて3倍の周波数となって、広帯域に亘って低挿入損失特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1(A)は、従来例である同軸ケーブルの断面図、図1(B)はその一方端にコネクタ40を取り付けた状態を示す図である。図1(C)は、同軸ケーブルに1/4波長の定在波が生じる様子を示す図である。
【図2】図2は第1の実施形態の高周波伝送線路101の各部の断面図である。
【図3】図3は高周波伝送線路101の分解斜視図である。
【図4】図4(A)は高周波伝送線路101の各部の特性インピーダンスを示す図、図4(B)は高周波伝送線路101に生じる定在波の一例を示す図である。図4(C)は高周波伝送線路101を集中定数回路で表した等価回路図である。
【図5】図5は高周波伝送線路101の挿入損失の周波数特性を示す図である。
【図6】図6は第2の実施形態の高周波伝送線路102の各部の断面図である。
【図7】図7は第2の実施形態の高周波伝送線路102の分解斜視図である。
【図8】図8(A)は高周波伝送線路102の各部の特性インピーダンスを示す図、図8(B)は高周波伝送線路102に生じる定在波の一例を示す図である。図8(C)は高周波伝送線路102を集中定数回路で表した等価回路図である。
【図9】図9は第3の実施形態の高周波伝送線路103の各部の断面図である。
【図10】図10は高周波伝送線路103の分解斜視図である。
【図11】図11(A)は高周波伝送線路103の各部の特性インピーダンスを示す図、図11(B)は高周波伝送線路103に生じる定在波の一例を示す図である。図11(C)は高周波伝送線路101を集中定数回路で表した等価回路図である。
【図12】図12は第4の実施形態の高周波伝送線路104の分解斜視図である。
【図13】図13(A)は第5の実施形態の高周波伝送線路105の斜視図、図13(B)はその分解斜視図である。
【図14】図14(A)は第6の実施形態の高周波伝送線路106の斜視図、図14(B)はその分解斜視図である。
【図15】図15は第7の実施形態の高周波伝送線路107の斜視図である。
【図16】図16は折り曲げ部FF1〜FF4のうち折り曲げ部FF1付近の断面図である。
【図17】図17は第8の実施形態の高周波伝送線路108の部分平面図である。
【図18】図18(A)は第9の実施形態のアンテナ装置201の斜視図、図18(B)はその分解斜視図である。
【図19】図19はアンテナ装置201の等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
《第1の実施形態》
図2は第1の実施形態の高周波伝送線路101の各部の断面図である。図3はその分解斜視図である。図2(A)は高周波伝送線路101の長手方向の縦断面図である。図2(B)は図2(A)のストリップラインSL1部分での横断面図、図2(C)は図2(A)のマイクロストリップラインMSL部分での横断面図、図2(D)は図2(A)のストリップラインSL2部分での横断面図、図2(E)は図2(A)のコプレーナライン(Coplanar Waveguide)CPL部分での横断面図である。
【0020】
この高周波伝送線路101は図2(A)に表れているように、第1ストリップラインSL1、マイクロストリップラインMSL、第2ストリップラインSL2、およびコプレーナラインCPLを備えている。
【0021】
図3に表れているように、この高周波伝送線路101は4つの誘電体基材31a,31b,31c,31dを備えている(以下、単に基材という。)。基材31aの上面にはグランドラインG3が形成されている。基材31bの上面には信号ラインS1と二つのグランドラインG2a,G2bが形成されている。基材31cの上面には二つのグランドラインG1a,G1bが形成されている。基材31bにはグランドラインG1bとグランドラインG2a,G2bとの間を接続するビア導体V1a,V1bが形成されている。基材31aにはグランドラインG3とグランドラインG2a,G2bとの間を接続するビア導体V2a,V2bが形成されている。高周波伝送線路101は、これらの各種導体ラインが形成された基材31a,31b,31cおよび基材31dの積層体である。
【0022】
前記第1ストリップラインSL1はグランドラインG1a,G3および信号ラインS1を備えていて、これらの導体ラインと基材の誘電体層とによってストリップラインが構成されている。同様に、第2ストリップラインSL2はグランドラインG1b,G3および信号ラインS1を備えていて、これらの導体ラインと基材の誘電体層とによってストリップラインが構成されている。マイクロストリップラインMSLはグランドラインG3および信号ラインS1を備えていて、これらの導体ラインと基材の誘電体層とによってマイクロストリップラインが構成されている。コプレーナラインCPLはグランドラインG2a,G2bおよび信号ラインS1を備えていて、これらの導体ラインと基材の誘電体層とによってコプレーナラインが構成されている。
【0023】
図4(A)は高周波伝送線路101の各部の特性インピーダンスを示す図、図4(B)は高周波伝送線路101に生じる定在波の一例を示す図である。
ストリップラインSL1,SL2の特性インピーダンスZa1,Za2はそれぞれ50Ωである。マイクロストリップラインMSLの特性インピーダンスZb1は75Ωである。また、コプレーナラインCPLの特性インピーダンスZb2は200Ωである。
【0024】
高周波伝送線路101の第1端FPにアンテナが接続され、第2端SPにコネクタが接続されると、第1端は低インピーダンス端、第2端は高インピーダンス端であるので、第1端FPが電圧最小点(短絡端)、第2端が電圧最大点(開放端)となる定在波が生じる周波数で共振する。但し、マイクロストリップラインMSLの特性インピーダンスZb1はストリップラインSL1,SL2の特性インピーダンスより高い(Zb1>(Za1,Za2)の関係である)ので、図4(B)に表れているようにマイクロストリップラインMSLの位置が電圧最大(電圧強度分布の腹)となるような定在波が生じる。また、コプレーナラインCPLの特性インピーダンスZb2はストリップラインSL2の特性インピーダンスより高い(Zb2>Za2の関係である)ので、所定の周波数で図4(B)に表れているようにコプレーナラインCPLの位置が電圧最大(電圧強度分布の腹)となるような定在波が生じる。
【0025】
そのため、図1(C)に示したような1/4波長共振のモードは生じない。1/4波長共振モードはマイクロストリップラインMSL部分で電圧最大とならないからである。したがって、3/4波長共振が基本波(最低次の高調波)モードとなり、1/4波長共振の3倍以上の奇数倍共振が生じることになる。したがって、電圧最大点Em(電圧強度分布の腹)の数が2以上の共振が生じる。換言すると、電圧最大点Emとなる位置が伝送線路の高インピーダンス部となり、そこから離れた領域が低インピーダンス部となるようにストリップラインSL1,SL2、マイクロストリップラインMSL、コプレーナラインCPLをそれぞれ配置する。
【0026】
図4(C)は前記高周波伝送線路101を集中定数回路で表した等価回路図である。高周波伝送線路101上の電圧最大点Em付近は電界エネルギー密度が高く、磁界エネルギー密度が低く、そこから離れるほど電界エネルギー密度が低く、磁界エネルギー密度が高い。そのため、電界エネルギー密度の高い部分はキャパシタC1,C2で表され、磁界エネルギー密度が高い部分はインダクタL1,L2で表される。
【0027】
図5は前記高周波伝送線路101の挿入損失の周波数特性を示す図である。図5において、曲線Cは図1に示した例のように全長にわたって特性インピーダンスが一定である高周波伝送線路の特性である。曲線Pは第1の実施形態の高周波伝送線路101の特性である。図4(C)に示したように高周波伝送線路101は等価的なローパスフィルタとして作用するので、高周波伝送線路101の挿入損失の周波数特性は図5のようにLCローパスフィルタの周波数特性と類似したものとなる。
【0028】
図5において、従来構造の高周波伝送線路による1/4波長共振による共振周波数はfo1であり、3dB減衰する周波数fc1がその遮断周波数である。高周波伝送線路101の3/4波長共振による共振周波数はfo2であり、3dB減衰する周波数fc2がその遮断周波数である。このように、第1の実施形態の高周波伝送線路101の遮断周波数fc2は高く、広帯域に亘って低挿入損失特性が得られる。
【0029】
ここで、高周波伝送線路101の線路上の1波長をλgで表し、線路長をLgで表すと、3/4波長共振の共振周波数fo2は、
fo2=3/(4Lg√εr )×c (c:光速) …(2)
の関係にある。Lg=9[cm],√εr =1であるとすると、約2.5GHzという高い周波数で3/4波長共振する。したがって例えば900MHz帯は遮断周波数fc2より充分に低く、その信号の挿入損失は低く抑えられる。
【0030】
なお、ストリップラインSL1,SL2とマイクロストリップラインMSLとの境界、およびストリップラインSL2とコプレーナラインCPLとの境界で若干のインピーダンス不整合が生じる。しかし、このインピーダンス不整合による反射損失は、上述の挿入損失の低減効果に比べて問題とならない。
【0031】
因みに、図4に表れているように、コプレーナラインCPLの中央付近が電圧最大点Emとなるので、高周波伝送線路101の第2端SPより若干内側の位置が電圧強度分布の腹となる。そのため正確には、定在波が生じる最も低い周波数は(2)式よりさらに少し高い周波数となる。
【0032】
《第2の実施形態》
図6は第2の実施形態の高周波伝送線路102の各部の断面図である。図7はその分解斜視図である。図6(A)は高周波伝送線路102の長手方向の縦断面図である。図6(B)は図6(A)の第1ストリップラインSL1部分での横断面図、図6(C)は図6(A)のマイクロストリップラインMSL部分での横断面図、図6(D)は図6(A)の第2ストリップラインSL2部分での横断面図、図6(E)は図6(A)の第1コプレーナラインCPL1部分での横断面図、図6(F)は図6(A)の第3ストリップラインSL3部分での横断面図、図6(G)は図6(A)の第2コプレーナラインCPL2部分での横断面図である。
【0033】
この高周波伝送線路102は図6(A)に表れているように、第1ストリップラインSL1、マイクロストリップラインMSL、第2ストリップラインSL2、第1コプレーナラインCPL1、第3ストリップラインSL3、および第2コプレーナラインCPL2を備えている。
【0034】
図7に表れているように、この高周波伝送線路102は4つの誘電体基材31a,31b,31c,31dを備えている。基材31aの上面にはグランドラインG2a,G2bが形成されている。基材31bの上面には信号ラインS1と四つのグランドラインG3a,G3b,G4a,G4bが形成されている。基材31cの上面には三つのグランドラインG1a,G1b,G1cが形成されている。グランドラインG1b,G3a,G3b,G2aは図に示すようにビア導体で接続されている。また、グランドラインG1c,G3a,G3b,G4a,G4b,G2bは図に示すようにビア導体で接続されている。
【0035】
高周波伝送線路102は、これらの各種導体ラインが形成された基材31a,31b,31cおよび基材31dの積層体である。但し、第1コプレーナラインCPL1は基材31b,31cの積層体であって、その他の線路部分より厚みが薄く構成されている。
【0036】
図8(A)は高周波伝送線路102の各部の特性インピーダンスを示す図、図8(B)は高周波伝送線路102に生じる定在波の一例を示す図である。
ストリップラインSL1,SL2,SL3の特性インピーダンスZa1,Za2,Za3はそれぞれ50Ωである。マイクロストリップラインMSLの特性インピーダンスZb1は75Ωである。また、コプレーナラインCPL1,CPL2の特性インピーダンスZb2,Zb3はそれぞれ200Ωである。
【0037】
高周波伝送線路102の第1端FPにアンテナが接続され、第2端SPにコネクタが接続されると、第1端は低インピーダンス端、第2端は高インピーダンス端であるので、第1端FPが電圧最小点(短絡端)、第2端が電圧最大点(開放端)となる定在波が生じる周波数で共振する。但し、マイクロストリップラインMSLの特性インピーダンスZb1はストリップラインSL1,SL2の特性インピーダンスより高い(Zb1>(Za1,Za2)の関係である)ので、図8(B)に表れているようにマイクロストリップラインMSLの位置が電圧最大(電圧強度分布の腹)となるような定在波が生じる。また、コプレーナラインCPL1,CPL2の特性インピーダンスZb2,Zb3はストリップラインSL2,SL3の特性インピーダンスZa2,Za3より高い((Zb2,Zb3)>(Za2,Za3)の関係である)ので、図8(B)に表れているように所定の周波数でコプレーナラインCPL1,CPL2の位置が電圧最大(電圧強度分布の腹)となるような定在波が生じる。
【0038】
そのため、図1(C)に示したような1/4波長共振のモードや、図4(B)に示したような3/4波長共振のモードは生じない。これらの共振モードはマイクロストリップラインMSL部分、コプレーナラインCPL1,CPL2部分で電圧最大とはならないからである。第2の実施形態では、マイクロストリップラインMSL部分、コプレーナラインCPL1,CPL2部分が電圧最大点Emとなる5/4波長共振が基本波(最低次の高調波)モードとなる。換言すると、5/4波長共振の状態で電圧最大点Emとなる位置が高インピーダンスの伝送線路となり、そこから離れた領域が低インピーダンスの伝送線路となるようにストリップラインSL1,SL2,SL3、マイクロストリップラインMSL、コプレーナラインCPL1,CPL2をそれぞれ配置する。
【0039】
図8(C)は前記高周波伝送線路102を集中定数回路で表した等価回路図である。高周波伝送線路102上の電圧最大点Em付近は電界エネルギー密度が高く、磁界エネルギー密度が低く、そこから離れるほど電界エネルギー密度が低く、磁界エネルギー密度が高い。そのため、電界エネルギー密度の高い部分はキャパシタC1,C2,C3で表され、磁界エネルギー密度が高い部分はインダクタL1,L2,L3で表される。
【0040】
第2の実施形態によれば、高周波伝送線路102の線路上の1波長をλgで表し、線路長をLgで表すと、5/4波長共振の共振周波数fo3は、
fo3=5/(4Lg√εr )×c (c:光速) …(3)
の関係にある。Lg=9[cm],√εr =1であるとすると、約4.2GHzという高い周波数で5/4波長共振する。したがって高周波伝送線路102の遮断周波数は例えば2GHz帯は遮断周波数より充分に高く、2GHz帯の信号であっても低挿入損失のもとで伝送できる。
【0041】
《第3の実施形態》
図9は第3の実施形態の高周波伝送線路103の各部の断面図である。図10はその分解斜視図である。図9(A)は高周波伝送線路103の長手方向の縦断面図である。図9(B)は図9(A)の第1ストリップラインSL1部分での横断面図、図9(C)は図9(A)のマイクロストリップラインMSL部分での横断面図、図9(D)は図9(A)の第2ストリップラインSL2部分での横断面図である。
【0042】
この高周波伝送線路103は図9(A)に表れているように、第1ストリップラインSL1、マイクロストリップラインMSL、第2ストリップラインSL2およびコネクタ41を備えている。
【0043】
図10に表れているように、この高周波伝送線路103は4つの誘電体基材31a,31b,31c,31dを備えている。基材31aの上面にはグランドラインG2が形成されている。基材31bの上面には信号ラインS1が形成されている。基材31cの上面には二つのグランドラインG1a,G1bが形成されている。基材31dの上面には信号端子11およびグランド端子21,22が形成されている。また、基材31b〜31dにはグランドラインG2とグランド端子22との間を接続するビア導体V22が形成されている。基材31c,31dには信号ラインS1と信号端子11との間を接続するビア導体V11が形成されている。基材31dにはグランドラインG1bとグランド端子21との間を接続するビア導体V21が形成されている。高周波伝送線路103は、これらの各種導体ラインが形成された基材31a,31b,31c,31dの積層体である。
【0044】
第3の実施形態では、前記ビア導体V11,V21,V22によって、積層体の積層方向(厚み方向)に延びるコプレーナラインCPLを構成している。そして、信号端子11およびグランド端子21,22にコネクタ41を接続している。
【0045】
図11(A)は高周波伝送線路103の各部の特性インピーダンスを示す図、図11(B)は高周波伝送線路103に生じる定在波の一例を示す図である。
ストリップラインSL1,SL2の特性インピーダンスZa1,Za2はそれぞれ50Ωである。マイクロストリップラインMSLの特性インピーダンスZb1は75Ωである。また、コプレーナラインCPLの特性インピーダンスZb2は200Ωである。
【0046】
高周波伝送線路101の第1端FPにアンテナが接続され、第2端SPにコネクタが接続されると、第1端は低インピーダンス端、第2端は高インピーダンス端であるので、第1端FPが電圧最小点(短絡端)、第2端が電圧最大点(開放端)となる定在波が生じる周波数で共振する。但し、第1の実施形態と同様に、マイクロストリップラインMSLの特性インピーダンスZb1はストリップラインSL1,SL2の特性インピーダンスより高い(Zb1>(Za1,Za2)の関係である)ので、図11(B)に表れているようにマイクロストリップラインMSLの位置が電圧最大(電圧強度分布の腹)となるような定在波が生じる。また、コプレーナラインCPLの特性インピーダンスZb2はストリップラインSL2の特性インピーダンスより高い(Zb2>Za2の関係である)ので、図11(B)に表れているようにコプレーナラインCPLの位置が電圧最大(電圧強度分布の腹)となるような定在波が生じる。
【0047】
したがって、第1の実施形態と同様に、3/4波長共振が基本波(最低次の高調波)モードとなる。
【0048】
図11(C)は前記高周波伝送線路101を集中定数回路で表した等価回路図である。第1の実施形態と同様に、電界エネルギー密度の高い部分はキャパシタC1,C2で表され、磁界エネルギー密度が高い部分はインダクタL1,L2で表される。
【0049】
《第4の実施形態》
図12は第4の実施形態の高周波伝送線路104の分解斜視図である。第3の実施形態では、単一の信号ラインS1を備えたが、第4の実施形態では四つの信号ラインSa〜Sdを備えている。すなわち、基材31aにグランドラインG2、基材31bに四つの信号ラインSa〜Sd、基材31cにグランドラインG1a,G1bがそれぞれ形成されている。基材31dには信号端子11およびグランド端子21,22が形成されている。また、基材31b〜31dにはグランドラインG2とグランド端子22との間を接続するビア導体が形成されている。基材31c,31dには信号ラインSa〜Sdと信号端子11a〜11dとの間をそれぞれ接続するビア導体が形成されている。また、基材31dにはグランドラインG1bとグランド端子21との間を接続するビア導体が形成されている。高周波伝送線路104は、これらの各種導体ラインが形成された基材31a,31b,31c,31dの積層体である。
【0050】
《第5の実施形態》
図13(A)は第5の実施形態の高周波伝送線路105の斜視図、図13(B)はその分解斜視図である。この高周波伝送線路105の構成は第1の実施形態で示した高周波伝送線路101と同じである。第5の実施形態では特に屈曲構造の高周波伝送線路の例を示すものである。
【0051】
高周波伝送線路105のマイクロストリップラインMSL部分は、導体層としてはグランドラインG3と信号ラインS1を備えているだけであるので、ストリップラインSL1,SL2部分に比べて柔軟性が高く、容易に屈曲できる。この高周波伝送線路105は、図13(A)に示すマイクロストリップラインMSL部分で屈曲されて電子機器内に組み込まれる。
【0052】
この高周波伝送線路105は、図13(A)に示すマイクロストリップラインMSL部分で屈曲されて電子機器内に組み込まれる。このマイクロストリップラインMSL部分は、導体層としてはグランドラインG3と信号ラインS1を備えているだけであるので、ストリップラインSL1,SL2部分に比べて柔軟性が高く、容易に屈曲できる。
【0053】
《第6の実施形態》
図14(A)は第6の実施形態の高周波伝送線路106の斜視図、図14(B)はその分解斜視図である。
図14(B)に表れているように、高周波伝送線路106は4つの誘電体基材31a,31b,31c,31dを備えている。基材31aの上面にはグランドラインG2が形成されている。基材31bの上面には信号ラインS1、信号端子11およびグランド端子21が形成されている。基材31cの上面には二つのグランドラインG1a,G1bが形成されている。高周波伝送線路106は、これらの各種導体ラインが形成された基材31a,31b,31cおよび基材31dの積層体である。グランドラインG1a,G1b,G2は図に示すようにビア導体で接続されている。また、グランド端子21はビア導体を介してグランドラインG2に接続されている。
【0054】
前記信号端子11およびグランド端子21によってコプレーナラインCPLが構成されていて、この部分にコネクタが接続される。高周波伝送線路106のマイクロストリップラインMSL部分は、導体層としてはグランドラインG2と信号ラインS1を備えているだけであるので、ストリップラインSL1,SL2部分に比べて柔軟性が高く、容易に屈曲できる。この高周波伝送線路106は、図14(A)に示すマイクロストリップラインMSL部分で屈曲されて電子機器内に組み込まれる。
【0055】
《第7の実施形態》
図15は第7の実施形態の高周波伝送線路107の斜視図である。この例では四つの折り曲げ部FF1〜FF4で高周波伝送線路107を折り曲げている。この高周波伝送線路107の折り曲げ部FF1〜FF4はマイクロストリップラインまたはコプレーナラインであり、その他の部分はストリップラインである。この高周波伝送線路107は二つの信号ラインを含み、高周波伝送線路107の一方端に二つの信号端子11a,11b、二つのグランド端子21,22を備えている。
【0056】
基本的にマイクロストリップラインは導体層が二層であり、コプレーナラインは導体層が一層であるので、ストリップラインに比べて柔軟性が高く、容易に屈曲できる。
図16は前記折り曲げ部FF1〜FF4のうち折り曲げ部FF1付近の断面図である。他の折り曲げ部FF2〜FF4付近の構成も同様である。この例では、ストリップラインSLa部分はグランドラインG1a,G2aおよび信号ラインS1を備えている。ストリップラインSLc部分はグランドラインG1c,G2cおよび信号ラインS1を備えている。マイクロストリップラインMSLb部分はグランドラインG2bおよび信号ラインS1を備えている。マイクロストリップラインMSLb部分はストリップラインSLa,SLc部分に比べて厚みが薄く形成されている。但し、マイクロストリップラインMSLb部分の特性インピーダンスがストリップラインSLa,SLc部分の特性インピーダンスに比べて高い関係となるように、信号ラインS1とグランドラインG2bとの間隔を定めている。
【0057】
なお、折り曲げ部FF1からFF2までの間、および折り曲げ部FF1からFF2までの間をそれぞれマイクロストリップラインまたはコプレーナラインで構成してもよい。
【0058】
《第8の実施形態》
図17は第8の実施形態の高周波伝送線路108の部分平面図である。
これまでに示した各実施形態では特性インピーダンスの異なる伝送線路として種別の異なる伝送線路を繋いで伝送モードを変換するようにしたが、同種の伝送線路のまま所定箇所の特性インピーダンスを変化させるようにしてもよい。図17の例では高インピーダンスのコプレーナラインCPLa,CPLcと低インピーダンスのコプレーナラインCPLbを順に繋いだ構造としている。すなわち、信号ラインS1aおよびグランドラインG1a,G2aを含むコプレーナラインCPLa、信号ラインS1bおよびグランドラインG1b,G2bを含むコプレーナラインCPLb、信号ラインS1cおよびグランドラインG1c,G2cを含むコプレーナラインCPLcを順に繋いだ構成としている。
【0059】
このように信号ラインの幅、信号ラインとグランドラインとの間隔などを設定することによって所定の特性インピーダンスを得るようにしてもよい。
【0060】
《第9の実施形態》
図18(A)は第9の実施形態のアンテナ装置201の斜視図、図18(B)はその分解斜視図である。このアンテナ装置は第3の実施形態で図9に示した高周波伝送線路103とアンテナ素子ANTとを備えた装置、すなわち高周波伝送線路およびコネクタを備えたアンテナ装置である。
【0061】
基材31a〜31dには方形に拡がる拡張部31ae〜31deがそれぞれ形成されていて、拡張部31be,31ceにアンテナ素子としてスパイラル状のコイルアンテナAb,Acがそれぞれ形成されている。コイルアンテナAbの外周端は信号ラインS1に繋がっていて、その内周端はコイルアンテナAcの外周端に繋がっている。コイルアンテナAb,Acの形成部分は拡張部31ae,31deで挟み込まれている。
【0062】
図19は前記アンテナ装置201の等価回路図である。アンテナ素子ANTの特性インピーダンスは例えば1〜25Ω、コネクタ41の特性インピーダンスは例えば200Ωである。第3の実施形態で示したとおり、高周波伝送線路103上の基本波モード(最低次の高調波モード)は3/4波長共振モードであるので、最低次の遮断周波数は従来構造の高周波伝送線路に比べて3倍の周波数となって、広帯域に亘って低挿入損失特性が得られる。
【0063】
《他の実施形態》
以上に示した各実施形態では特性インピーダンスの異なる伝送線路として、ストリップライン、マイクロストリップライン、コプレーナラインを例に挙げたが、その他に、グランド付きコプレーナライン(Coplanar Waveguide with Ground )、コプレーナストリップライン(Coplanar Strips )、スロットライン(Slot Line )を備えた伝送線路に適用することもできる。
【符号の説明】
【0064】
Ab,Ac…コイルアンテナ
ANT…アンテナ素子
C1,C2,C3…キャパシタ
CPL,CPL1,CPL2…コプレーナライン
CPLa,CPLb,CPLc…コプレーナライン
FF1〜FF4…折り曲げ部
Em…電圧最大点
FP…第1端
G1a,G1b,G1c…グランドライン
G2,G2a,G2b,G2c…グランドライン
G3,G3a,G3b…グランドライン
G4a,G4b…グランドライン
L1,L2,L3…インダクタ
MSL…マイクロストリップライン
MSLb…マイクロストリップライン
S1…信号ライン
Sa〜Sd…信号ライン
SL1,SL2,SL3…ストリップライン
SLa,SLc…ストリップライン
SP…第2端
V11…ビア導体
V1a,V1b…ビア導体
V21,V22…ビア導体
V2a,V2b…ビア導体
11,11a,11b…信号端子
21,22…グランド端子
31a,31b,31c,31d…基材
31ae,31be,31ce,31de…拡張部
40,41…コネクタ
101〜108…高周波伝送線路
201…アンテナ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端が低インピーダンス端であり、第2端が高インピーダンス端である高周波伝送線路において、
1/4波長共振の3倍以上の奇数倍共振が生じるように、前記高周波伝送線路の一部に、特性インピーダンスの低い低インピーダンス部と、特性インピーダンスが前記低インピーダンス部に比べて高い高インピーダンス部と、を設けたことを特徴とする高周波伝送線路。
【請求項2】
第1端が低インピーダンス端であり、第2端が高インピーダンス端である高周波伝送線路において、
電圧強度分布の腹の数が2以上の共振が生じるように、前記高周波伝送線路の一部に、特性インピーダンスの低い低インピーダンス部と、特性インピーダンスが前記低インピーダンス部に比べて高い高インピーダンス部と、を設けたことを特徴とする高周波伝送線路。
【請求項3】
前記低インピーダンス部はストリップラインであり、前記高インピーダンス部はマイクロストリップラインまたはコプレーナラインである、請求項1または2に記載の高周波伝送線路。
【請求項4】
前記低インピーダンス端はアンテナ接続端であり、前記高インピーダンス端はコネクタ接続端である、請求項1〜3のいずれかに記載の高周波伝送線路。
【請求項5】
前記高周波伝送線路は複数の誘電体層および線路導体を含む積層体で構成されていて、前記高周波伝送線路は前記高インピーダンス部で屈曲されている、請求項1〜4のいずれかに記載の高周波伝送線路。
【請求項6】
前記高インピーダンス部は前記低インピーダンス部に比べて前記誘電体層の積層数が少ない、請求項5に記載の高周波伝送線路。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の高周波伝送線路と、
前記低インピーダンス端に接続されたアンテナ素子とを備え、
前記高周波伝送線路は複数の誘電体層および線路導体を含む積層体で構成されていて、前記アンテナ素子は前記積層体に前記高周波伝送線路とともに一体的に設けられているアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−227632(P2012−227632A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91816(P2011−91816)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】