説明

高周波電源装置

【課題】 高周波電源装置において、増幅部における直流電力から高周波電力への変換効率を高めると、出力電力設定値と直流電源電圧Vdcの出力レベルとの関係を予め求める作業が必要であった。
【解決手段】 発振部13から出力される発振信号を増幅して高周波電力を出力する増幅部14と、出力レベルが可変可能である直流電力を出力する直流電源部19と、増幅部から出力する高周波電力を測定して高周波電力測定値を出力する出力電力測定部16と、増幅部14に供給される直流電力を測定して直流電力測定値を出力する直流電力測定部20と、高周波電力測定値が出力電力設定値に等しくなるように制御する出力電力制御部12と、高周波電力測定値/直流電力測定値が予め定められた効率設定値に等しくなるように直流電源部19から出力する直流電力を制御する直流電源制御部18とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプラズマエッチング、プラズマCVDを行うプラズマ処理装置等の負荷に電力を供給する高周波電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波電源装置では、例えば特許文献1に記載のものが提案されている。図9は、特許文献1に記載された従来技術の高周波電源装置50の構成図である。
【0003】
【特許文献1】特開2001−197749号公報
【0004】
この高周波電源装置50は、高周波電力の出力電力値を設定するための出力電力設定部51、後述する出力電力制御部52から出力される制御信号に応じて発振信号の出力レベルを可変させる発振部53、発振部53から出力される発振信号を増幅して高周波電力を出力する増幅部54と、増幅部54から出力された高周波電力を測定する出力電力測定部55、及び出力電力設定部51によって設定された出力電力設定値と出力電力測定部55による測定値とを比較して両者の誤差情報を発振部53に与えることにより高周波電力が一定になるように制御する出力電力制御部52を備えている。
【0005】
また、この高周波電源装置は、後述する直流電源制御部57の指令値に応じた出力レベルの直流電力を増幅部54に供給する直流電源部58と、直流電源部58から増幅部54に供給する直流電力の電圧値Vdc(以下、直流電源電圧Vdcという)を測定して直流電圧測定値Vdc(便宜上、直流電源電圧Vdcと同一符号を用いる)として出力する直流電圧測定部59と、増幅部54の一部を構成する増幅素子の出力電圧Vds1の波形を歪ませることなく、且つ出力電圧波形の振幅が最大となるように、予め定められた特性グラフ又は特性関数等に基づいて、出力電力設定部51において設定された出力電力設定値に対する直流電源電圧Vdcの設定値Vset(以下、直流電圧設定値Vsetという)を演算する直流電圧演算部56と、直流電圧測定部59から出力される直流電圧測定値Vdcが演算部56から出力される直流電圧設定値Vsetに等しくなるように直流電源部58を制御するための制御信号を出力する直流電源制御部57とを備えている。
なお、増幅部54の一部を構成する増幅素子の出力は、通常、増幅素子の後段にあるトランスを介して出力される。
【0006】
上記構成によれば、負荷に供給する高周波電力の電力値が出力電力設定値と等しくなるように制御されつつ、増幅部54から出力される高周波電力の電圧成分(以下、高周波電圧という)の波形に波形歪が生じない範囲で、増幅部54における損失を低減させて直流電力から高周波電力への変換効率を高めることができる。
【0007】
上記技術内容を図10を参照して説明する。
図10は、従来技術の高周波電源装置50を使用したときの直流電源電圧Vdcおよび増幅部の一部を構成する増幅素子の出力電圧Vds1を示す図であって、同図(a)は、増幅部54から出力される高周波電力値が小レベルの場合、同図(b)は、増幅部54から出力される高周波電力値が中レベルの場合、同図(c)は、増幅部54から出力される高周波電力値が大レベルの場合の一例を示したものである。なお、図10では増幅素子の出力電圧Vds1の正の半波波形を直流電源電圧Vdcのラインから負側に折り返し、その折り返し波形が破線で示されている。
【0008】
この図10に示すように、従来技術では、増幅部54から出力される高周波電力値の大きさに合わせて、増幅素子の出力電圧Vds1の振幅を変化させるとともに、直流電源電圧Vdcの大きさを増幅素子の出力電圧Vds1の振幅の略0.5倍とすることで、増幅素子の出力電圧Vds1の最小値が略0Vになるようにしている。そのために、Vds1に波形歪を生じさせることなく、且つ増幅素子の出力電圧Vds1の振幅を最大にすることができる。
また、前述したように、増幅部54の一部を構成する増幅素子の出力は、通常、増幅素子の後段にあるトランスを介して出力されるため、増幅部54の出力電圧としては、直流電源電圧Vdcの成分がなくなって、0Vを中心とした波形歪のない交流波形となる。
【0009】
なお、図中のハッチング部分は損失の度合いを示しており、この部分が小さい程、増幅部での損失電力が少なく変換効率が高いことを示す。図10は、直流電源電圧Vdcの波形図であるために、図中のハッチング部分が損失電力を直接示すものではないが、ハッチング部分が多いほど、損失電力が多いことを示す。すなわち、増幅部の一部を構成する増幅素子の出力電圧Vds1の波形に波形歪が生じない範囲では、直流電源電圧Vdcの大きさを増幅素子の出力電圧Vds1の振幅の略0.5倍とした場合に、変換効率が最も高くなる。
【0010】
また、従来技術の高周波電源装置では、直流電源部58から増幅部54に供給する直流電力に対する増幅部54から出力された高周波電力の割合(=高周波電力/直流電力)で表される変換効率は、増幅部54がプッシュプル方式の増幅回路構成である場合、約78%でほぼ一定である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来技術の高周波電源装置は、変換効率を高めることによって省エネルギー化を図ったものであるが、地球の温暖化防止等の理由から、近年、さらなる省エネルギー化が求められるようになってきた。
【0012】
また、従来技術の高周波電源装置では、特定の変換効率にするために、出力電力設定値に対する直流電力供給手段の出力レベルの関係を予め求める作業が必要であった。しかし、この作業は、個々の高周波電源装置毎に行う必要があるので、膨大な作業量が必要であった。
【0013】
本発明は、上記事情のもとで考え出されたものであって、負荷に供給する高周波電力の電力値が出力電力設定値と等しくなるように制御しつつ、増幅部における直流電力から高周波電力への変換効率がさらに向上可能となる高周波電源装置を提供するとともに、出力電力設定値と直流電力供給手段の出力レベルとの関係を予め求める作業をなくして、従来技術の高周波電源装置よりも使い勝手のよい高周波電源装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の発明によって提供される高周波電源装置は、
負荷に供給する高周波電力の電力値が出力電力設定値と等しくなるように制御する高周波電源装置において、
発振信号の出力レベルが可変可能である発振手段と、
前記発振手段から出力される発振信号を増幅した高周波電力を出力する増幅手段と、
出力レベルが可変可能である直流電力を前記増幅手段に供給する直流電力供給手段と、
高周波電源装置の出力端における高周波電力の電力値を測定し、測定した高周波電力測定値を出力する高周波電力測定手段と、
前記増幅手段に供給される直流電力の電力値を測定し、測定した直流電力測定値を出力する直流電力測定手段と、
前記高周波電力測定値が前記出力電力設定値に等しくなるように発振手段の出力レベルを制御する第1制御手段と、
前記高周波電力測定値を前記直流電力測定値で除した演算値(=高周波電力測定値/直流電力測定値)が予め定められた効率設定値に等しくなるように直流電力供給手段から増幅手段に供給する直流電力を制御する第2制御手段と、
を備えたことを特徴としている。
【0015】
第2の発明によって提供される高周波電源装置は、
増幅手段と電力検出手段の間に、高調波を除去するフィルタ手段をさらに設けたことを特徴としている。
【0016】
第3の発明によって提供される高周波電源装置は、
前記直流電力供給手段は、出力電圧を可変させることによって、直流電力の出力レベルを可変させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、負荷に供給する高周波電力の電力値が出力電力設定値と等しくなるように制御しつつ、増幅部における直流電力から高周波電力への変換効率が一定になるように制御することができる。なお、変換効率とは、前記高周波電力測定値を前記直流電力測定値で除した演算値(=高周波電力測定値/直流電力測定値)のことである。この変換効率が予め定められた効率設定値に等しくなるように直流電力供給手段から増幅手段に供給する直流電力を制御するために、従来技術のように、増幅手段の一部を構成する増幅素子の出力電圧が飽和しない範囲で振幅が最大となるように制御を行うという制限がない。そのために、従来技術の高周波電源装置よりも増幅部における変換効率を高めることができる。
【0018】
また、本発明では、発振手段の出力レベル及び直流電力供給手段の出力レベルが、出力電力設定値と効率設定値との関係に基づいて自動的に定まる。すなわち、出力電力設定値に対して最適な直流電力供給手段の出力レベルが自動的に定まる。そのために、従来技術のように、出力電力設定値に対する直流電力供給手段の出力レベルの関係を予め求めておく必要がない。
【0019】
したがって、増幅部における変換効率を従来技術と同程度にして、本発明の高周波電源装置を用いる場合であっても、出力電力設定値と直流電力供給手段の出力レベルとの関係を予め求めておく必要がない分、作業工数を低減できる。もちろん、それよりも低い変換効率から高い変換効率まで、直流電力供給手段の出力レベルが自動的に定まるので、従来技術の高周波電源装置よりも使い勝手のよい高周波電源装置とすることができる。
【0020】
第2の発明によれば、フィルタ手段を設けることにより、増幅手段から出力される高周波電力に含まれる高調波成分を減衰させるとともに、高周波電力の波形歪を改善させることができる。特に、増幅手段における変換効率を従来技術の高周波電源装置の変換効率よりも高める場合は、直流電力供給手段から増幅手段に供給する直流電力の出力レベルを低くして、増幅手段の一部を構成する増幅素子の動作領域を飽和領域にまで拡大して、増幅素子の出力電圧を飽和させる必要があるので、変換効率を高めるほど高周波電力の出力波形に歪が生じる。波形歪が生じて高調波成分が多くなると、負荷におけるプロセスに悪影響が生じたり、高周波電源装置の負荷側に接続されるインピーダンス整合器の動作に悪影響が生じて、半導体ウエハや液晶基板といった製品に不具合が生じる場合があるので、フィルタ手段を用いる効果は大きい。なお、波形歪の度合いが小さく高調波成分が少ない場合は、フィルタ手段を設けない構成でも、製品に不具合が生じない場合がある。そのような場合は、製造コストを低減させることを目的として、フィルタ手段を設けない構成にすることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の詳細を図面を参照して説明する。
【0022】
[第1実施形態]
図1は、本発明に係る高周波電源装置が適用される高周波電力供給システムの一例を示す図である。この高周波電力供給システムは、半導体ウエハや液晶基板等の被加工物に対して高周波電力を供給して、例えばプラズマエッチングといった加工処理を行うものである。この高周波電力供給システムは、高周波電源装置1、伝送線路2、インピーダンス整合器3、負荷接続部4及び負荷5で構成されている。なお、インピーダンス整合器3を用いない構成にしてもよい。
【0023】
高周波電源装置1は、後述する発振部13から出力される高周波信号を電力増幅器14を用いて増幅させ、発生した高周波電力を出力して負荷5に供給するための装置である。なお、高周波電源装置1から出力された高周波電力は、同軸ケーブルからなる伝送線路2及びインピーダンス整合器3及び遮蔽された銅板からなる負荷接続部4を介して負荷5に供給される。また、一般にこの種の高周波電源装置1では、数百kHz以上の周波数の高周波電力を出力している。
【0024】
インピーダンス整合器3は、高周波電源装置1と負荷5とのインピーダンスを整合させるものである。より具体的には、例えば高周波電源装置1の出力端から高周波電源装置1側を見たインピーダンス(出力インピーダンス)が例えば50Ωに設計され、高周波電源装置1が、特性インピーダンス50Ωの伝送線路2でインピーダンス整合器3の入力端に接続されているとすると、インピーダンス整合器3は、当該インピーダンス整合器3の入力端から負荷5側を見たインピーダンスを50Ωに変換させるものである。
【0025】
負荷5は、加工部を備え、その加工部の内部に搬入したウエハ、液晶基板等の被加工物を加工(エッチング、CVD等)するための装置である。この負荷5は、被加工物を加工するために、加工部にプラズマ放電用ガスを導入し、そのプラズマ放電用ガスに高周波電源装置50から供給された高周波電力(電圧)を印加することによって、上記のプラズマ放電用ガスを放電させて非プラズマ状態からプラズマ状態にしている。そして、プラズマを利用して被加工物を加工している。
【0026】
図2は、本発明の第1実施形態に係る高周波電源装置1の構成を示す図である。高周波電源装置1は、図2に示すように、出力電力設定部11と、出力電力制御部12と、発振部13と、増幅部14と、フィルタ部15、出力電力測定部16と、効率設定部17と、直流電源制御部18と、直流電源部19と、直流電力測定部20とを備えている。
【0027】
出力電力設定部11は、負荷5に供給する高周波電力の出力電力値を設定するためのものである。なお、図2では省略しているが、出力電力設定部11には、高周波電力の出力電力設定値を設定するための出力電力設定スイッチや高周波電力の供給の開始を指示する出力開始スイッチを備えた操作部等が設けられている。出力電力設定部11において設定された高周波電力の出力電力設定値Psetは、出力電力制御部12に送られる。なお、出力電力設定値等は、外部の装置から入力してもよい。
【0028】
出力電力制御部12は、出力電力設定部11において設定された高周波電力の出力電力設定値Psetと、出力電力測定部16において測定された高周波電力測定値Poutとを比較し、両者が等しくなるように、発振部13の発振信号Vinの出力レベルを制御するものである。つまり、出力電力制御部12は、発振部13の発振信号Vinの出力レベルを制御することにより、高周波電力の出力が一定になるように制御するものである。なお、出力電力制御部12は、本発明の第1制御手段の一例である。
【0029】
発振部13は、増幅部14に対して交流の発振信号Vinを出力するものであり、出力電力制御部12からの制御信号によってその発振信号Vinの出力レベルが制御される。なお、高周波電源装置1の出力周波数は、発振部13の発振周波数によって定まる。また、発振部13は、本発明の発振手段の一例である。
【0030】
増幅部14は、発振部13から出力される発振信号Vinを増幅して高周波電力を出力するためのものである。増幅部14において増幅された高周波電力は、出力電力測定部16を介して負荷に供給される。増幅部14の回路構成については、後述する。なお、増幅部14は、本発明の増幅手段の一例である。
【0031】
フィルタ部15は、増幅部14の出力に含まれる高調波を除去するためのフィルタである。図3は、フィルタ部15の回路構成例である。この図3に示すように、フィルタ部15は、インダクタL1〜L2、コンデンサC3〜C5を用いたローパスフィルタとして構成される。そして、発振部13の発振信号Vinの周波数によって定まる増幅部14の基本出力周波数の高周波は通過させるが、基本出力周波数よりも周波数が高い高調波は除去するように回路定数を定める。なお、フィルタ部15は、本発明のフィルタ手段の一例である。
【0032】
出力電力測定部16は、高周波電源装置1の出力端において、増幅部14から出力される高周波電力の電力値を測定するものであり、例えば、方向性結合器等および方向性結合器の出力を電力値に換算するための変換回路によって構成されている。この例の出力電力測定部16では、増幅部14から負荷5側に進行する高周波(以下、進行波という)の電力値を測定して、進行波電力に対応する第1の高周波電力測定値Poutとして出力する。なお、出力電力測定部16は、本発明の高周波電力測定手段の一例である。
【0033】
出力電力測定部16において測定された第1の高周波電力測定値Poutは、出力電力制御部12に対して出力され、出力電力制御部12において、上述したように第1の高周波電力測定値Poutと出力電力設定値Psetとが比較され、両者が等しくなるように発振部13に対して制御信号を出力する。これにより、増幅部14の出力が一定になるように制御することができる。
【0034】
なお、第1の高周波電力測定値Poutとともに、進行波電力から反射波電力を減じた負荷側電力に対応した第2の高周波電力測定値Pout2を測定して、この第2の高周波電力測定値Pout2を出力電力制御部12に対して出力してもよい。この場合、出力電力制御部12は、第2の高周波電力測定値Pout2と出力電力設定値Psetとを比較して、両者が等しくなるように発振部13に対して制御信号を出力する。ただし、この場合も、後述する直流電源制御部18に対しては、第2の高周波電力測定値Pout2ではなく、第1の高周波電力測定値Poutが出力される。
【0035】
以降の説明では、第1の高周波電力測定値Poutを出力電力制御部12に対して出力するものとして説明をする。
【0036】
直流電源部19は、後述する直流電源制御部18の制御信号に基づいて出力レベルを可変させた直流電力を出力して、直流電力測定部20を介して増幅部14に直流電力を供給する。なお、直流電源部19は、本発明の直流電力供給手段の一例である。
【0037】
直流電力測定部20は、増幅部14に供給される直流電力の電力値を測定し、測定した直流電力測定値Pdcを後述する直流電源制御部18に対して出力する。なお、直流電力測定部20は、本発明の直流電力測定手段の一例である。
【0038】
直流電源制御部18は、効率設定部17で設定された効率設定値Esetと出力電力測定部16から出力される高周波電力測定値Poutと直流電力測定部20から出力される直流電力測定値Pdcとを入力し、高周波電力測定値Poutを直流電力測定値Pdcで除した演算値(=高周波電力測定値Pout/直流電力測定値Pdc)が効率設定値Esetに等しくなるように直流電源部19の出力を制御するための制御信号を出力する。これにより、直流電源部19は、増幅部14における直流電力から高周波電力への変換効率を一定に制御することができる。なお、直流電源制御部18は、本発明の第2制御手段の一例である。
【0039】
ここで、増幅部14の回路を参照しながら、本発明の動作を説明する。
図4は、増幅部14の一例であるFETを用いたプッシュプル方式の増幅回路構成及び増幅部14と発振部13等との接続関係を示す図である。
図4に示した増幅部14は、いわゆるプッシュプル回路として構成され、2次巻線側が一方巻線T12a及び他方巻線T12bで分巻された第1トランスT1と、例えばFET(電界効果トランジスタ)からなる第1増幅素子Q1及び第2増幅素子Q2と、1次巻線側が一方巻線T21a及び他方巻線T22bで分巻された第2トランスT2と、抵抗R1〜R4、コンデンサC1,C2、及び直流電圧源Vbからなる駆動電圧供給回路とを有している。なお、第1増幅素子Q1及び第2増幅素子Q2は、FETに代えてバイポーラトランジスタ等によって構成されていてもよい。
【0040】
プッシュプル回路については公知であるため、その動作を簡単に説明する。
【0041】
第1トランスT1の1次巻線T11側に発振部13から出力される発振信号Vin(交流電圧)が入力されると、第1トランスT1の2次巻線側では、一方巻線T12a及び他方巻線T12bにおいて互いに逆相の電圧が生じる。これらの電圧により、第1増幅素子Q1及び第2増幅素子Q2は、半周期ごとに交互にオン、オフし、これらオン、オフ動作が繰り返される。
【0042】
第2トランスT2の1次巻線側の一方巻線T21aと他方巻線T21bとの間には、直流電源部19で生成される直流電源電圧Vdcが供給されるため、第1増幅素子Q1及び第2増幅素子Q2の出力電圧(ドレイン、ソース間電圧)は、この直流電源電圧Vdcをその振幅波形の中心とした電圧として第2トランスT2の1次巻線側に誘起する(後述する図7(b)に示す電圧Vds1参照)。
【0043】
第2トランスT2の2次巻線側には、高周波電力に相当する交流電力が誘起する。この高周波電力は、フィルタ部15、出力電力測定部16を介して負荷に供給される。この際、フィルタ部15によって、高調波が除去されて、波形歪が改善される(後述する図7(a)に示す電圧Vout参照)。
【0044】
図5は、複数の増幅回路を用いて増幅部を構成する一例である。
図4では、一組の増幅器により増幅部を構成するとしたが、図5に示すように、増幅部を複数の増幅器により構成する場合もある。
【0045】
この例では、図示しない直流電源部19の直流電源電圧Vdcを電源電圧として動作する複数の増幅器14a1〜14a4と、図示しない発振部13から与えられる高周波信号Vinを増幅器14a1〜14a4に分配して入力するパワー分配器14bと、増幅器14a1〜14a4の出力を合成して負荷5に与えるパワー合成器14cとにより増幅部14が構成されている。
【0046】
なお、この図5では、フィルタ部15および出力電力測定部16の図示を省略している。また、パワー合成器14cにインダクタやコンデンサを用いる回路の場合は、パワー合成器14cに高調波を減衰する機能を持たせることが可能であるので、増幅部14の中にフィルタ部の機能を持たすことができる。
【0047】
図6は、図4で示した増幅回路を用いた場合の高周波電力測定値Poutに対する直流電源電圧Vdcの特性図の一例であり、効率設定値Esetを85%とした場合において、高周波電力測定値が変化したときに直流電源電圧Vdcがどのように変化するのかを示したものである。
【0048】
上述したように、本発明の高周波電源装置では、出力電力制御部12が発振部13から出力する発振信号Vinの出力レベルを変化させて、高周波電力測定値Poutが出力電力設定値Psetと等しくなるように制御するとともに、直流電源制御部18によって変換効率(=高周波電力測定値Pout/直流電力測定値Pdc)が効率設定値Esetになるように制御している。そのために、発振部13の出力レベル及び直流電源電圧Vdcの出力レベルが、出力電力設定値Psetと効率設定値Esetとの関係に基づいて自動的に定まり、その結果、図6に示すような特性図になるのである。
【0049】
したがって、従来技術のように、出力電力設定値Psetに対する直流電源電圧Vdcの特性グラフ又は特性関数等を予め特性を求めておくことなく、自動的に最適な直流電源電圧Vdcが求まる。そのために、たとえ従来技術と同程度の変換効率で本発明の高周波電源装置を用いる場合であっても、予め特性グラフ又は特性関数等を求めておく必要がないので、作業工数を低減できる。もちろん、それよりも低い変換効率から高い変換効率まで、自動的に最適な直流電源電圧Vdcが求まるので、従来技術の高周波電源装置よりも使い勝手のよい高周波電源装置となる。
【0050】
図7は、図4で示した増幅回路を用いた場合の各部のシミュレーション結果である。
シミュレーション条件は、増幅部13の出力周波数10MHz、変換効率=85%、Pout=1110Wであり、同図(a)は、出力電力測定部16の出力端(図4の点P2)における電圧Voutを示し、同図(b)は、増幅回路に直流電力を供給する直流電源部19の直流電源電圧Vdcと増幅部の一部を構成する増幅素子の出力電圧Vds1(図4の点P1における電圧Vds1)を示し、同図(c)は、出力電力測定部16の出力端(図4の点P2)における電力Poutと直流電力測定部20で測定する直流電力測定値Pdcを示し、同図(d)は、Pout/Pdcの演算値を示す。
【0051】
効率設定値Esetを85%に設定すると、図6で説明したように、発振部13から出力する発振信号Vinの出力レベル及び直流電源電圧Vdcの出力レベルが、出力電力設定値Psetと効率設定値Esetとの関係に基づいて自動的に定まり、同図(c)及び同図(d)に示すように、(Pout/Pdc)*100で表される変換効率が85%になるように制御される。
【0052】
このように、従来技術で最高変換効率であった約78%を上回る変換効率にする場合は、増幅部14の一部を構成する増幅素子(例えばFET)が飽和領域で使用することになるため、同図(b)に示すように、図4の点P1における増幅素子の出力電圧Vds1の波形を正弦波状にすることができず、波形の上側と下側がカットされた状態となって波形歪が生じる。そのために、増幅部14の出力電圧にも歪みが生じて高調波が多く含まれることになるが、増幅部14の後段にフィルタ部15が設けられているため、同図(a)に示すように、波形が改善されて略正弦波状の出力波形にすることができる。また、変換効率を85%に設定した場合、増幅素子の出力電圧Vds1の波形が正弦波状ではなくなるが、損失が少なくなる。すなわち、従来技術の高周波電源装置に比べて変換効率を向上させることができる。
【0053】
[第2施形態]
図8は、本発明の第2実施形態に係る高周波電源装置1aが適用される高周波電力供給システムの一例を示す図である。
この図8は、図2で示した構成からフィルタ部を取り除いた構成であり、他の構成は図2と同じであるため、各構成部分についての説明は省略する。
【0054】
第1実施形態で説明したように、変換効率を高く設定すると、増幅素子の出力電圧Vds1が飽和するようになる。この状態では増幅部14の出力波形に波形歪が生じるので、フィルタ部15を用いて波形改善を行う必要が生じる。しかし、増幅素子の出力電圧Vds1が飽和しない範囲で使用する場合は、増幅部14の出力波形に波形歪が生じないので、波形改善のためにフィルタ部15を用いる必要がなくなる。
具体的には、従来技術で説明したように、変換効率が約78%以下の場合には、波形歪が生じないので、フィルタ部15を用いない構成にすることが可能である。
しかし、変換効率が約78%以下であっても、増幅部14で発生する高調波(主にFETのスイッチングによって生じる)の影響が大きい場合には、高調波を除去する目的でフィルタ部15を用いる必要がある。
【0055】
もちろん、この発明の範囲は上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば、第1及び第2実施形態では、増幅部を構成する回路としてプッシュプル回路を用いたが、フルブリッジ方式の増幅回路やハーフブリッジ方式の増幅回路にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、本発明に係る高周波電源装置が適用される高周波電力供給システムの一例を示す図である。
【図2】図2は、本発明の第1実施形態に係る高周波電源装置1の構成を示す図である。
【図3】図3は、フィルタ部15の回路構成例である。
【図4】図4は、増幅部14の一例であるFETを用いたプッシュプル方式の増幅回路構成及び増幅部14と発振部13等との接続関係を示す図である。
【図5】図5は、複数の増幅回路を用いて増幅部を構成する一例である。
【図6】図6は、図4で示した増幅回路を用いた場合の高周波電力測定値Poutに対する直流電源電圧Vdcの特性図の一例である。
【図7】図7は、図4で示した増幅回路を用いた場合の各部のシミュレーション結果である。
【図8】図8は、本発明の第2実施形態に係る高周波電源装置1aが適用される高周波電力供給システムの一例を示す図である。
【図9】図9は、特許文献1に記載された従来技術の高周波電源装置50の構成図である。
【図10】図10は、従来技術の高周波電源装置50を使用したときの直流電源電圧Vdcおよび増幅部の一部を構成する増幅素子の出力電圧Vds1を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 高周波電源装置
2 伝送線路
3 インピーダンス整合器
4 負荷接続部
5 負荷
11 出力電力設定部
12 出力電力制御部
13 発振部
14 増幅部
15 フィルタ部
16 出力電力測定部
17 効率設定部
18 直流電源制御部
19 直流電源部
20 直流電力測定部
Eset 効率設定値
Pdc 直流電力測定値
Pout 高周波電力測定値
Pset 出力電力設定値
Vin 発振部13の発振信号



【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷に供給する高周波電力の電力値が出力電力設定値と等しくなるように制御する高周波電源装置において、
発振信号の出力レベルが可変可能である発振手段と、
前記発振手段から出力される発振信号を増幅した高周波電力を出力する増幅手段と、
出力レベルが可変可能である直流電力を前記増幅手段に供給する直流電力供給手段と、
高周波電源装置の出力端における高周波電力の電力値を測定し、測定した高周波電力測定値を出力する高周波電力測定手段と、
前記増幅手段に供給される直流電力の電力値を測定し、測定した直流電力測定値を出力する直流電力測定手段と、
前記高周波電力測定値が前記出力電力設定値に等しくなるように発振手段の出力レベルを制御する第1制御手段と、
前記高周波電力測定値を前記直流電力測定値で除した演算値(=高周波電力測定値/直流電力測定値)が予め定められた効率設定値に等しくなるように直流電力供給手段から増幅手段に供給する直流電力を制御する第2制御手段と、
を備えたことを特徴とする高周波電源装置。
【請求項2】
増幅手段と電力検出手段の間に、高調波を除去するフィルタ手段をさらに設けたことを特徴とする請求項1に記載の高周波電源装置。
【請求項3】
前記直流電力供給手段は、出力電圧を可変させることによって、直流電力の出力レベルを可変させることを特徴とする請求項1または2に記載の高周波電源装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−66778(P2007−66778A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252880(P2005−252880)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】