説明

高絶縁性炭化ケイ素粉体及び該粉体を含有する組成物

【課題】高絶縁性の炭化ケイ素粉体、及び、耐熱性に優れると共に、高熱伝導性と高絶縁性を同時に有する複合組成物を提供すること。
【解決手段】表面が、焼成によって設けられた、厚みが10nm〜500nmの酸化物被膜によって被覆されてなることを特徴とする炭化ケイ素粉体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁性炭化ケイ素粉体に関し、特に、その表面が酸化物で被覆された高絶縁性炭化ケイ素粉体、及び該粉体を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素は高硬度であるだけでなく、高熱伝導性及び高温耐熱性でもあるために、成型砥石として使用される他、有機ポリマーに配合して高熱伝導複合体として、或いは、半導体製造装置用として有用な焼結成型品として使用されている。
【0003】
近年、電子デバイスの集積度が高くなるに従い、該デバイス内で発生する熱を速やかに放出することのできる高熱伝導性素材に対する要求が高まってきている。炭化ケイ素はアルミニウム、銅並の熱伝導率を有する一方、単品では加工性が悪いため、炭化ケイ素粉体をエポキシ樹脂等の有機ポリマーと混合した複合組成物として硬化させ、成型して使用されている(特許文献1)。
【0004】
このように炭化ケイ素は、電子材料であるが故に高絶縁性をも同時に求められる用途があるものの、炭化ケイ素自身は本来半導体材料であって絶縁性に乏しいので、高熱伝導性と高絶縁性を同時に必要とする用途には使用することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−161965
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明者等は、高硬度で耐熱性に優れると共に、高熱伝導性と高絶縁性を同時に有する複合組成物を得るために鋭意検討した結果、炭化ケイ素粉末の表面を絶縁性の酸化物で被覆することによって炭化ケイ素粉末を高絶縁性にすることができることを見出すと共に、該酸化物被覆炭化ケイ素粉末を高分子化合物中に分散させることによって、耐熱性に優れると共に、高熱伝導性と高絶縁性を同時に有する複合組成物とすることができることを見出し本発明に到達した。
【0007】
したがって本発明の第1の目的は、高絶縁性の炭化ケイ素粉体を提供することにある。
本発明の第2の目的は、耐熱性に優れると共に、高熱伝導性と高絶縁性を同時に有する複合組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち本発明は、表面が絶縁性酸化物で被覆されてなることを特徴とする高絶縁性炭化ケイ素粉体、及び、該高絶縁性炭化ケイ素粉体を含有してなることを特徴とする複合組成物である。
本発明においては、特に前記酸化物がシリカであることが好ましく、前記粉体の平均粒子径が0.5〜30μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高絶縁性炭化ケイ素粉体は、高硬度で耐熱性に優れると共に、高熱伝導性と高絶縁性をも同時に有するので、半導体製造装置で使用する成型砥石として特に有用であり、また、本発明の複合組成物は、電子デバイス内で発生する熱を速やかに放出することのできる高熱伝導性素材として特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、炭化ケイ素粉末粒子の表面を被覆する酸化物は絶縁性に富むことが必要である。このような酸化物は、公知の酸化物の中から適宜選択することができるが、特に耐熱性の観点から、本発明においては、アルミナ、チタニア、シリカの何れかであることが好ましい。
【0011】
アルミナ被覆する場合には、アルミナ被覆剤前駆体である、例えばアルミニウムイソプロポキシドAl(OC3H7)3を、炭化ケイ素に対するアルミナ比率が0.01〜5質量%となるようにアルコール液に加え、得られたアルコール溶液中に炭化ケイ素粉末を攪拌混合した後、濾過、乾燥し、空気雰囲気下で600〜900℃に2時間加熱することにより焼成する。これによって容易にアルミナ被覆炭化ケイ素粉体が得られる。
【0012】
チタニア被覆する場合には、上記アルミニウムイソプロポキシドAl(OC3H7)3の代わりに、例えばチタニウムイソプロポキシドTi(OC3H7)4を用いること以外は、アルミナ被覆の場合と同様に処理する。これによって容易にチタニア被覆炭化ケイ素粉体が得られる。
【0013】
シリカ被覆する場合には、以下の反応式に従う炭化ケイ素の表面酸化を利用することにより、容易にシリカ被覆炭化ケイ素粉体が得られる。
SiC + 2O2→ SiO2 + CO2
具体的には、炭化ケイ素粉体を、空気雰囲気下で500〜1000℃に数時間加熱することにより、表面がSiO2に酸化されたシリカ被覆炭化ケイ素粉体が得られる。シリカの場合には、特殊で高価な酸化物前駆体を使わずに済むので、アルミナやチタニアによる被覆の場合よりも安価に被覆することができる。
【0014】
上記酸化物による被覆層の厚みは、10nm〜500nmであることが好ましい。被覆層の厚みが500nmを超えると炭化ケイ素本来の熱伝導性が低下し、10nm未満であると絶縁性が不十分となる。なお、上記厚みは、カーボンで保護被覆した粉体粒子を集束イオンビームでエッチングし、その粒子断面をFE-SEMを用いてスコープ測定することによって得られる値である。
【0015】
また、本発明の複合組成物は、上記のようにして得られた酸化物被覆炭化ケイ素粉体を、ポバール、フェノール、ウレタン、尿素、メラミン、エポキシ、アクリル樹脂等の樹脂に練り込み、或いはこれら樹脂の各種ポリマー前駆体と硬化剤との混合物に混合し、必要に応じて、更に成型助剤、潤滑剤等の各種添加助剤を添加し、加熱硬化或いは光照射硬化させることによって得られる。この場合、硬化成型体の厚みが薄い方が、伝熱特性上好ましい。
【0016】
上記の硬化成型体に要求される厚みに対応する観点から、本発明の絶縁性酸化物で被覆された炭化ケイ素粉体の、日機装粒度分布測定装置マイクロトラックHR9320で測定した粒子径は、0.5〜30μmであることが好ましい。
【0017】
本発明の絶縁性酸化物で被覆された炭化ケイ素粉体は、絶縁性である点を除き炭化ケイ素本来の性質を有するので、従来の用途に加え、絶縁性が要求される用途にも使用することができる。また、本発明の複合素材は、発熱性電子デバイスから放熱するための放熱材料として特に有用である。
以下本発明を実施例、比較例によって更に詳述するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
室温で保存して表面を自然酸化させた、平均粒径4μmの炭化ケイ素粉体(純度98.5%)を電気炉に入れ、通気下、800℃で2時間加熱した後、冷却して炉外に取り出し、凝集した粒子を乳鉢で解砕した。JIS R1616に従って得られた炭化ケイ素表面中のシリカ含有量を測定したところ、その含有量は5.1%であった。また、三菱化学アナリテック社製の粉体抵抗率測定器ハイレスタ-UPを用い、20KNの加圧下で測定した体積抵抗率は2.6×1010Ωcmであった。なお、カーボンで保護被覆した粉体粒子を集束イオンビームでエッチングし、その粒子断面をFE-SEMでスコープ測定して得られたシリカ被覆の厚みは100nmであった。
【0019】
[比較例1]
加熱酸化処理をせずに、実施例1で原料として使用した平均粒径4μmの炭化ケイ素粉体(純度98.5%)の体積抵抗率を、実施例1と同様にして測定した結果は4.6×10Ωcmであった。
【実施例2】
【0020】
実施例1で使用した平均粒径4μmの炭化ケイ素粉体(純度98.5%)15g、アルミニウムイソプロポキシド5g、及びn-ヘキサン100ccを混合し、1時間還流加熱した。その後濾過、乾燥して得られたケーキを電気炉に入れ、空気通気下、600℃で2時間加熱した後、冷却して炉外に取り出し、乳鉢で解砕した。JIS R6124に従ってこの炭化ケイ素表面のアルミナ含有量を測定したところ、そのアルミナ含有量は4.5%であった。また三菱化学アナリテック社製粉体抵抗率測定器ハイレスタ-UPを用い、20KN加圧下で測定した体積抵抗率は4.2×1010Ωcmであった。なお、カーボンで保護被覆した粉体粒子を集束イオンビームでエッチングし、その粒子断面をFE-SEMでスコープ測定して得られたシリカ被覆の厚みは60nmであった。
【実施例3】
【0021】
実施例1で得られた炭化ケイ素粉体30部、エポキシ樹脂主剤20部(デブコンET主剤:ITWインダストリー社製)、エポキシ樹脂硬化剤10部(デブコンET硬化剤:ITWインダストリー社製)、硬化触媒0.2部、及びメチルエチルケトン120部を均一に溶解混合した組成物を厚みが150μmとなるように離型フィルムに塗布した後、80℃で1時間、その後更に120℃で10分間、オーブン中で乾燥した。次いで、冷却した後離型フィルムを除去して、厚みが40μmの樹脂フィルムを得た。得られたフィルムを180℃で6時間硬化処理した後冷却し、JIS C2151に従って耐電圧を測定したところ1.5kV/mmであった。
【0022】
[比較例2]
実施例1で使用した、加熱酸化処理をしない平均粒径4μmの炭化ケイ素粉体を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてフィルムを得、耐電圧を測定したところ0.2kV/mmであった。
【0023】
上記の実施例比較例の結果から明らかなように、本発明の炭化ケイ素粉体は、十分な絶縁性を有することが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の高絶縁性炭化ケイ素粉体は、高硬度で耐熱性に優れると共に、高熱伝導性と高絶縁性をも同時に有するので、電子デバイス内で発生する熱を速やかに放出することのできる高熱伝導性素材として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が、焼成によって設けられた、厚みが10nm〜500nmの酸化物被膜によって被覆されてなることを特徴とする炭化ケイ素粉体。
【請求項2】
前記粉体の平均粒子径が0.5〜30μmである、請求項1に記載された炭化ケイ素粉体。
【請求項3】
前記酸化物が、アルミナ、チタニア、又はシリカの何れかである、請求項1又は2に記載された炭化ケイ素粉体。
【請求項4】
前記酸化物がシリカである請求項3に記載された炭化ケイ素粉体。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載された炭化ケイ素粉体を含むことを特徴とする複合組成物。