説明

高齢者等用履物および一対の高齢者等用履物

【課題】 容易に脱ぎ履きできるとともに、左足用および右足用を容易に判別することができる履物を提供する。
【解決手段】 左側の甲部を覆う左前甲被1と、右側の後部を覆う右前甲被2と、左前甲被と右前甲被の端縁を連結する甲部ファスナ11,12と、左側の踵部を覆う左踵甲被3と、右側の踵部を覆う右踵甲被4と、左踵甲被と右踵甲被を連結する踵部ファスナ31,41と、左前甲被と左踵甲被とを一体的に連続させる左側面部5と、左側面部の上端縁から延出する左延出部51と、右前甲被と右踵甲被とを一体的に連続させる右側面部6と、右側面部の上端縁から延出し、左延出部の延出長とは異なる延出長の右延出部61とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者、幼児または障害者などが使用できる履物に関し、また、左足用および右足用を揃えた一対の履物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の高齢者等用履物にあっては、靴紐による緊締開閉部のほかに、スライドファスナによる緊締開閉部を設ける構成により、靴紐による履き心地を調整することができるうえ、調整後はスライドファスナによる開閉によって容易に脱ぎ履きができるように構成されたものがあった(特許文献1参照)。
【0003】
また、面ファスナを使用して脱ぎ履きを容易にする履物としては、甲前切開部により甲部の前側を開口し、この開口を覆うことができるような甲バンドを面ファスナで着脱可能に設け、この甲バンドに指掛け部を設けて甲バンドを剥離させることができるように構成したものがあった(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−357988号公報
【特許文献2】特開2006−81581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される技術は、スライドファスナによる緊締開閉部のほかに靴紐による緊締開閉部を有するが、この靴紐は専ら履き心地を調整するためにのみ設けられており、日常的な脱ぎ履きするためには、スライドファスナが使用されるものであった。しかしながら、高齢者等のうち、指先が不自由な状態または指先に力が入らない状態の者にとっては、スライドファスナを操作すること自体が困難な場合があり、さらに容易に脱ぎ履きできる構成が切望されていた。
【0006】
他方、特許文献2に開示される技術は、面ファスナにより甲バンドを甲前切開部に被覆させる構成であるが、その面ファスナの剥離が不如意となるため、甲バンドに指掛け部を設けたものである。しかしながら、高齢者等においては、一ヶ所のみの指掛け部に指を掛けて引き上げることが困難な場合もあり、さらに容易に脱ぎ履きできる構成が切望されることに変わりはなかった。
【0007】
さらに、上述の両履物は、それぞれ左足用および右足用に区別されているものであるが、目が不自由になると、これらの左右の相違を容易に判別できなくなるという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記諸点にかんがみてなされたものであって、その目的とするところは、容易に脱ぎ履きできるとともに、左足用および右足用を容易に判別することができる履物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、高齢者等用履物にかかる本発明は、左側の甲部を覆う左前甲被と、右側の後部を覆う右前甲被と、上記左前甲被と右前甲被の端縁を連結する甲部ファスナと、左側の踵部を覆う左踵甲被と、右側の踵部を覆う右踵甲被と、上記左踵甲被と右踵甲被を連結する踵部ファスナと、上記左前甲被と左踵甲被とを一体的に連続させる左側面部と、この左側面部の上端縁から延出する左延出部と、上記右前甲被と右踵甲被とを一体的に連続させる右側面部と、この右側面部の上端縁から延出し、上記左延出部の延出長とは異なる延出長の右延出部とを備えたことを特徴としている。
【0010】
上記構成によれば、甲部を覆う甲被が左右に分離することとなり、履物の履き口を大きく開口することができる。また、踵部を覆う甲被も左右に分離することから、踵側にも履き口を大きく開口させることができ、履物に踵を入れることが困難な高齢者等においても履物を履くことができる。さらに、左右の側面部には延出部が異なる長さで設けられていることから、延出部の長さによって右足用および左足用を判別することが可能となる。
【0011】
上記発明において、前記甲部ファスナおよび踵部ファスナは、いずれも面ファスナにより構成することができる。このような構成の場合、スライドファスナを使用する場合に比較して操作が容易となる。特に、左前甲被と右前甲被の端縁を面ファスナで連結する構成であるから、左右の側面部から延出する延出部を左右方向に拡張させることにより、面ファスナを剥離することができることとなる。
【0012】
また、上記各発明において、前記左延出部および右延出部は、穿孔された貫通孔を有し、この貫通孔は左延出部と右延出部とで大きさを異ならせた構成とすることができる。このような構成の場合には、異なる延出長による延出部によって左足用および右足用を判別することができるうえに、穿孔された貫通孔の大きさの相違によっても判別が可能となる。
【0013】
他方、一対の高齢者等用履物にかかる本発明は、上記いずれかの高齢者等用履物により左足用履物および右足用履物の一対を揃えてなり、左足用履物の前記右延出部および右足用履物の左延出部のいずれか一方にはマグネットを固着し、他方には磁性を有する金属を固着することを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、一対の履物を左右正確に揃えたとき、互いに接近する位置の延出部、すなわち左足用の右延出部と右足用の左延出部とが、当接可能な状態となり、一方のマグネットにより他方の磁性金属を磁着することができる。これにより、左右の履物を正しい状態で保管することができる。また、互いに内側に位置する延出部にのみマグネットまたは金属が設けられていることから、その存在によっても左右を間違えることが回避できる。
【0015】
上記発明において、前記左足用履物の右延出部および前記右足用履物の左延出部を同じ延出長としてなる構成とすることができる。この場合、一対の履物が正しく揃えられた状態において、互いに内向きに対向する延出部は、マグネットまたは金属の存在のほかに、延出長が同じであることによる判別も可能となる。
【発明の効果】
【0016】
高齢者等用履物にかかる本発明によれば、甲部を覆う甲被のみならず踵部を覆う甲被についても左右に分離させることができることから、履き口を大きく開口させることとなり、脱ぎ履きが容易となる。さらに、側面部には延出部が設けられ、その延出長が異なることから、履物の左右を判別することができる。これにより、目が不自由な者が脱ぎ履きする際にも容易となる。
【0017】
さらに、一対の高齢者等用履物にかかる本発明によれば、左右の履物を互いにマグネットで磁着させることができるから、脱いだ履物が別々に分かれることを抑制でき、使用時においても左右揃った状態となるから利用者に好都合となる。しかも、マグネットまたは金属が固着される延出部は、ともに同じ延出長であるから、当該延出部の大きさによって左右を判別することも可能となるから、利用者が左右を間違えることなく履物を履くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第一の実施形態を示す斜視図である。
【図2】第一の実施形態を示す平面図である。
【図3】第二の実施形態を示す斜視図である。
【図4】第三の実施形態を示す斜視図である。
【図5】第三の実施形態の使用態様を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。第一の実施形態を図1に示す。この図に示すように、本実施形態の履物Aは、左前甲被1と右前甲被2が面ファスナ(これを甲部ファスナという)11,21によって連結可能になっており、また、左踵甲被3と右踵甲被4が面ファスナ(これを踵部ファスナという)31,41によって連結可能になっている。左前甲被1と左踵甲被3は左側面部5によって一体的に連続し、また、右前甲被2と右踵甲被4は右側面部6によって一体的に連続しており、両側面部5,6の上端縁が開口して履き口部7が形成されている。
【0020】
左前甲被1、左踵甲被3および左側面部5によって構成される左半分と、右前甲被2、右踵甲被4および右側面部6によって構成される右半分とは、それぞれ個別に分離して設けられ、ソール部8に縫着される際、ソール部8の前端部81および後端部82において所定の幅寸法で重ね合わされている。この重ね合わせ部分は、ほぼ同じ幅寸法により履き口部7に至る範囲に構成され、重ね合わされる対向面に甲部ファスナ11,21および踵部ファスナ31,41が設けられているのである。
【0021】
従って、履き口部7は、甲部ファスナ11,21を分離させることにより、甲側に大きく開口し、また、踵部ファスナ31,41を分離させれば、さらに踵側にも大きく開口することとなることから、履き口部7を必要な程度に大きく開口させて脱ぎ履きすることができるのである。履いた状態において、踵部ファスナ31,41を連結することにより、踵の位置が固定され、また、甲部ファスナ11,21を連結することにより、甲部を覆うことができるのである。
【0022】
また、左右側面部5,6の上端縁には、当該上端縁から延出する延出部51,61が設けられている。この延出部51,61は、相互に延出長が異なるように設けられており、その一例としては、図示のように、右側面部6に設けられる延出部61が他方よりも大きく延出させている。さらに、図示のように、延出部51,61を略半円状に構成することにより、延出方向の長さのみならず、幅方向の寸法をも他方より大きく構成することができる。
【0023】
この延出部51,61は、適宜面積を有する突片状に形成されており、この延出部51,61を両手で持つ(指で摘む)ことができるようになっており、両延出部51,61を同時に持つことによって大きさを比較することができ、また、履く際には、延出部51,61を左右に拡げることにより履き口部7を大きく開口することができる。
【0024】
図2は、甲部面ファスナ11,21および踵部面ファスナ31,41を連結した状態の平面図である。この図に示すように、それぞれの面ファスナ11〜41を連結することによって、履き口部7は、一般的な履物と同程度の大きさの開口となり、使用時において履物Aが足から脱げることはない。また、延出部51,61は、外向きに反り返ることによって、足首との摩擦を解消させることができる。
【0025】
本実施形態は、上記のような構成であるから、履き口部7から爪先部81に至る長い範囲で左右の前甲被1,2を分離させることにより、履き口部7を大きく開口することができるものである。また、踵甲被3,4を分離させれば一層大きく開口させることができる。従って、足元が不安定な高齢者等が履物Aを履く際には、大きく開口する履き口部7から足を挿入させることができ、また、履物Aを脱ぐ際には、履き口部7を大きく開口させれば簡単に足から履物Aを離脱させることができる。
【0026】
さらに、延出部51,61の大きさが左右で異なることから、目の不自由な者であっても当該延出部51,61を指で確認することにより、履物の向きを確認することが容易となる。特に、左足用の履物と、右足用の履物とで、延出部51,61の延出長の大きい側を異ならせることにより、例えば、左足用の履物では右側の延出部61を大きくし、右足用の履物では左側の延出部51を大きくすることにより、ともに大きい延出部を内側にすることで左右を判別することができることとなる。従って、履く際の左右の誤りを防止することができるうえ、脱いだ後においても左右を間違いなく揃えることができる。
【0027】
次に、第二の実施形態について説明する。図3に第二の実施形態を示す。この図に示すように、基本的構成は第一の実施形態と同様であり、延出部51,61に貫通孔52,62が穿設した構成としたものである。延出部51,61は、第一の実施形態と同様に略半円形の突片状に構成されており、貫通孔52,62は、上記突片の中央に円形に穿設したものである。
【0028】
この貫通孔52,62は、延出部51,61の大きさ(延出長)に応じて異なる大きさに穿設されており、例えば、大きい延出部61の貫通孔62は親指が挿通できる程度の大きさであるのに対し、小さい延出部51の貫通孔52は小指が挿通できる程度の大きさとするのである。このように、貫通孔52,62の大きさを明確に異ならせることにより、延出部51,61の大きさのみならず貫通孔52,62の大きさにより、履物の向きや左右の区別を行うことができる。
【0029】
目が不自由な者のうち中途障害者のように後天的に視力を喪失した者の場合には、先天性視覚障害者とは異なり指先の感覚があまり敏感でなく、先天性視覚障害者と同じ程度の区別をすることが困難であるが、本実施形態によれば、小指大の貫通孔52と親指大の貫通孔62とを区別することから、明確な比較対象により区別することが可能となり、履物の向き等を容易に把握できることとなる。
【0030】
第三の実施形態は、図4に示すように、延出部51,61の一方には貫通孔52を穿設し、他方には円形板63を固着した構成としたものである。この円形板63は、円形のマグネットにより構成してもよく、また、磁性を有する金属板で構成してもよい。
【0031】
なお、上記履物により一対の高齢者等用履物を構成する場合には、片方の円形板63をマグネットとし、他方の円形板63を金属板とするように構成することができる。この場合、マグネットを金属板に磁着させることができる一対の履物とすることができる。
【0032】
ところで、本実施形態では、履き口部7の両側に位置する延出部51,61に片方が貫通孔52で他方が円形板63であることから、目の不自由な者が延出部51,61を触れるだけで容易に左右の判別が可能になる。そして、左足用の履物については右側の延出部61に円形板63を設け、右足用の履物については左側の延出部51に円形板63を設けることにより、左右の履物を判別することが可能となる。そして、これらの円形板63の一方がマグネットで他方が金属板であれば、両足用の履物を揃えた状態で延出部51,61を磁着させることができる。
【0033】
上記構成の履物を一対とする場合の変形例を図5に示す。この図に示すように、左足用の履物Aと右足用の履物Bとでは、履き口部7a,7bの両側に位置する延出部51a,51b,61a,61bの構成を異ならせている。すなわち、左足用の履物Aは、左側の延出部51aには貫通孔も円形板も設けられていない構成となっており、右側の延出部61aには貫通孔62aが設けられ、かつ、当該貫通孔62aには円環状の金属リング63aが装着されている。これに対し、右足用の履物Bでは、右側の延出部51bには何も設けられていないが、左側の延出部61bには円形状のマグネット63bが設けられているのである。
【0034】
このような構成によれば、履物の左右を判別するためには、延出部51a,61aのどちらかに貫通孔62aがあればよく、いずれにも貫通孔62aが設けられていない履物、すなわち、何も設けられていないか若しくは円形板63bが設けられている履物は、右足用の履物Bであることが容易に判断できるのである。
【0035】
さらに、左足用の履物Aの貫通孔62aと、右足用の履物Bのマグネット63bとは、互いに対向する位置に設けられていることから、ソール8a,8bの内側端縁83a,83bを当接するように両履物A,Bを揃えることにより、貫通孔62aとマグネット63bとを接近させることができる。そこで、脱いだ状態の両足用の履物A,Bについて、ソール8a,8bの内側端縁83a,83bを接近させれば、上記マグネット63bにより、他方の貫通孔62aに設けた金属リング63aを磁着させることができるのである。これにより、履物A,Bを一対として揃えることができ、別々に分離することを抑制することができるのである。従って、目の不自由な者が、一揃えの履物A,Bを一対として認識することができ、履くときの左右の判別を容易にするのみならず、脱いだ後に両足用が別々に分離することを回避できるのである。
【0036】
なお、上記金属リング63aを設ける延出部61aと、マグネット63bを設ける延出部61bとは、マグネット63bが金属リング63aを磁着できる程度に接近可能にするため、十分な大きさ(同じ延出長)とすることが好ましく、しかも両者が同じ高さで接触可能とするために、両者の大きさ(延出長)を同じにすることが好ましい。ただし、これは一例であり、そのような構成に限定される意味ではない。
【0037】
本発明の実施形態は以上のとおりであるが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様をとることができる。例えば、上記実施形態では、左前甲被1と右前甲被2との連結に面ファスナ11,21を使用し、左踵甲被3と右踵甲被4との連結のために面ファスナ31,41を使用しているが、これらについては、スライドファスナを使用することができる。また、前甲被1,2、踵甲被3,4および左右の側面部5,6は、連続する一枚の甲被で構成している図のみを示しているが、これらは、複数の甲被を縫い合わせて構成してもよい。甲被を構成する材質によって適宜選択可能であるから、当該材質によって、甲被を構成する枚数および形状を適宜変更することができる。
【0038】
そして、甲被を構成する材質によって、室内履き用の履物としてもよく、外出用の履物としてもよい。ボア生地などを使用する場合は室内用として使用することができるほか、甲被を合成皮革または布製で構成し、ソールをゴム製とすることによって外出用の履物とすることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 左前甲被
2 右前甲被
3 左踵甲被
4 右踵甲被
5 左側面部
6 右側面部
7 履き口部
8 ソール
11,12 面ファスナ
31,41 面ファスナ
51,61 延出部
52,62 貫通孔
63 円形板
A,B 履物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左側の甲部を覆う左前甲被と、右側の後部を覆う右前甲被と、上記左前甲被と右前甲被の端縁を連結する甲部ファスナと、左側の踵部を覆う左踵甲被と、右側の踵部を覆う右踵甲被と、上記左踵甲被と右踵甲被を連結する踵部ファスナと、上記左前甲被と左踵甲被とを一体的に連続させる左側面部と、この左側面部の上端縁から延出する左延出部と、上記右前甲被と右踵甲被とを一体的に連続させる右側面部と、この右側面部の上端縁から延出し、上記左延出部の延出長とは異なる延出長の右延出部とを備えたことを特徴とする高齢者等用履物。
【請求項2】
前記甲部ファスナおよび踵部ファスナは、いずれも面ファスナで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の高齢者等用履物。
【請求項3】
前記左延出部および右延出部は、穿孔された貫通孔を有し、この貫通孔は左延出部と右延出部とで大きさを異ならせたことを特徴とする請求項1または2に記載の高齢者等用履物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の高齢者等用履物により左足用履物および右足用履物の一対を揃えてなり、左足用履物の前記右延出部および右足用履物の左延出部のいずれか一方にはマグネットを固着し、他方には磁性を有する金属を固着することを特徴とする一対の高齢者等用履物。
【請求項5】
前記左足用履物の右延出部および前記右足用履物の左延出部は同じ延出長であることを特徴とする一対の高齢者等用履物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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