GABAおよび/またはタウリンを含有する土耕栽培野菜およびキノコ、並びにそれらの製造方法
【課題】GABAおよび/またはタウリンを高含有する土耕栽培野菜およびキノコ並びにその極めて簡便かつ効率的な製造方法の提供。
【解決手段】土耕栽培中の野菜の葉および/または茎並びにキノコの子実体に0.2〜2.0%(W/V)のGABAおよび/またはタウリン水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液が付着した状態を維持してGABAおよび/またはタウリンを吸収させることを含む、GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有する土耕栽培野菜並びにキノコの製造方法。
【解決手段】土耕栽培中の野菜の葉および/または茎並びにキノコの子実体に0.2〜2.0%(W/V)のGABAおよび/またはタウリン水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液が付着した状態を維持してGABAおよび/またはタウリンを吸収させることを含む、GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有する土耕栽培野菜並びにキノコの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GABAおよび/またはタウリンを含有する土耕栽培野菜およびキノコ、並びにそれらの製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、土耕栽培野菜またはキノコに、GABAおよび/またはタウリン含有溶液を噴霧し、吸収処理をすることによって、それら物質を比較的高濃度に含有する土耕栽培野菜またはキノコを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定のアミノ酸類、ペプチド類には各種栄養的、生理機能があることが知られている。
特に、最近では、アミノ酸類のシステイン、γ−アミノ酪酸(GABA)、L−カルニチン、ビタミンU、ジペプチドのカルノシン、アンセリン、バリニルチロシン、チロシニルプロリン、トリペプチドのグルタミルシステイニルグリシン(GSH)の生理機能が注目されている。このように特定のアミノ酸類、ペプチド類には種々の機能性があることが解明されているが、これらの物質を高濃度含有する食用の植物体は自然界には存在しない。そのため、これらの物質を一定量摂取するためには、「いわゆるサプリメントや薬品として摂取する」以外の方法は存在しないのが現状である。しかし、日本の食文化は、米国などサプリメント先進国のそれと異なり、機能性物質を「普段の食事によって摂取する」ことに価値を置いている。そのため、いわゆるサプリメントや薬品ではなく、スプラウトやキノコなどの生鮮食品から機能性物質を摂取することには大きな意義がある。
【0003】
このような背景から、特定のアミノ酸類、ペプチド類を含有する生鮮食品が簡便に製造できれば、その社会的ニーズは大きいと考えられる。しかしながら、前記のように特定のアミノ酸類、ペプチド類を高濃度含有する生鮮食品は生産されておらず、その効率的な生産方法開発に関する研究もほとんど行われていないのが現状である。
【0004】
本発明者らは、GABAやタウリン等を吸収させた食用植物体を提供することを目的として、GABAやタウリン等の溶液に根部を浸漬し、蒸散により植物体内に吸収・蓄積させる方法を見出し、この方法により、比較的高い濃度のGABAやタウリン等を含有する食用植物体を提供できることを見出して、特許出願した(特開2007−89572号公報(特許文献1))。
【特許文献1】特開2007-89572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法では、食用植物体の根部を前記物質に浸漬し、蒸散を利用して前記物質を植物体内に導入する。具体的には、食用植物体として、スプラウトおよび切断野菜を挙げ、これらに対するGABAやタウリン等の吸収を、GABAやタウリン等の溶液に根部を浸漬し、蒸散を利用して行った。しかし、根部への浸漬処理はたとえばスプラウトに適用する場合、それぞれのポットを栽培棚から処理液槽に移動する必要があるため非常に生産効率が低く、根部全体を浸漬させる必要があるため大量の処理液を必要としコスト効率も低い。
【0006】
また、根部が露出していない土耕栽培などの植物や、キノコ類等その他生鮮食品には応用はできない。例えば、土耕栽培野菜の場合、GABAやタウリン等の溶液に根部を浸漬することは事実上できない。なぜなら、土壌中にある根部に、GABAやタウリン等の溶液を相当量維持することは、溶液が土壌中に浸透することを考慮すると、経済性の点で困難である。
【0007】
また、キノコの場合、根部からの養分の吸収と蒸散という2つの機能が、通常の植物体とは異なり、特許文献1に記載の方法では、GABAやタウリン等を高い含有量で吸収させることはできない。
【0008】
加えて、GABAやタウリン等を吸収・蓄積させるためには蒸散が必須であるため、生育温度が、例えば、20℃未満の低い温度となる場合には、GABAやタウリン等の食用植物体への吸収が極めて遅く、10mg/100gFW以上含有する食用植物体を製造することは実質的にできなかった。野外で栽培されることが多い、土耕栽培野菜やキノコの場合、生育温度が低くなり、GABAやタウリン等を高濃度で含有させることは困難であった。
【0009】
そこで本発明の目的は、GABAおよび/またはタウリンを高濃度で含有する土耕栽培野菜およびキノコとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような状況下、本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を積み重ねた。その結果、所定の条件下で、GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液を土耕栽培野菜またはキノコに噴霧し、噴霧した水溶液が付着した状態を維持することで、これらの物質を高濃度で含有する土耕栽培野菜またはキノコを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は以下のとおりである。
[1]GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有する土耕栽培野菜。
[2]GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有するキノコ。
[3]土耕栽培中の野菜の葉および/または茎に、0.2〜2.0%(W/V)のGABAおよび/またはタウリン、並びに乳化剤を含有する水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液を前記葉および/または茎に付着した状態を維持して、GABAおよび/またはタウリンを葉および/または茎に吸収させることを含む、GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有する土耕栽培野菜の製造方法。
[4]前記水溶液の噴霧量は、土耕栽培中の野菜1kgに対して80〜200mlの範囲である、[3]に記載の製造方法。
[5]キノコの子実体に0.2〜2.0%(W/V)のGABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液を前記子実体に付着した状態を維持して、GABAおよび/またはタウリンを子実体に吸収させることを含む、GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有するキノコの製造方法。
[6]前記水溶液を噴霧するキノコが収穫直前のキノコであり、吸収が終了後、収穫する、[5]に記載の製造方法。
[7]前記水溶液の噴霧量は、キノコ1kgに対して80〜200mlの範囲である、[5]または[6]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、自然な形でGABAおよび/またはタウリンを高濃度に含有する土耕栽培野菜およびキノコを簡便かつ効率的に製造し提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有する土耕栽培野菜およびキノコとその製造方法に関する。
【0014】
土耕栽培野菜としては、例えば、ニラ、レタス、チンゲンサイ、コマツナ、サンチュ、ケール、キャベツ、ハクサイ、ブロッコリー、ミズナ、シュンギク、クレソン、ルコラ、シソ、オオバ、エゴマ、ミント、バジル、ホウレンソウ、ミツバ、パセリ、セロリ、ネギ、パセリ、チャ、ミョウガ、カリフラワー、トマト、ナス、キュウリ、オクラ、ズッキーニ、カボチャ、アボカド、ピーマン、パプリカ、ゴーヤ、コムギ、オオムギ、イネ、アズキ、ダイズ、ソバ、ダッタンソバ、ヒマワリ、アマランサス、キビ、ヒエ、アワ、トウモロコシ、ダイコン、ニンジン、ナガイモ、ゴボウ、ヤーコン、バレイショ、サツマイモ、タマネギ、テーブルビート、コンニャク、サトイモ、ウコン、ラッキョウ、ユリネ、カブ、タケノコ、ムカゴ、ニンニク、ワサビ、スイカ、メロン、ユウガオ、トウガン、アルファルファ、テンサイ等を挙げることができる。特にニラ、レタス、チンゲンサイ、ケール、オオムギが好ましい。
【0015】
キノコとしては、例えば、シイタケ、マイタケ、エノキタケ、ナメコ、シメジ、ブナシメジ、タモギタケ、ハナビラタケ、エリンギ、キクラゲ、アガリスク、マッシュルーム、霊芝等が適当である。特に、シイタケ、マイタケ、エノキタケ等が好ましい。
【0016】
本発明によれば、GABA含有量が、10mg/100gFW以上、好ましくは15mg/100gFW以上、より好ましくは30mg/100gFW以上である土耕栽培野菜またはキノコが提供される。GABA含有量の上限については、土耕栽培野菜またはキノコの種類や処理液の濃度や製品コストとの兼ね合いにより、実質的に含有させることができる上限量は変化するが、通常、土耕栽培野菜またはキノコのGABA含量としては非常に高い40mg/100gFW程度である。例えば、オオムギ葉の場合は、40mg/100gFW程度であれば、GABAを含有させることができる。
【0017】
本発明によれば、タウリン含有量が、10mg/100gFW以上、好ましくは15mg/100gFW以上、より好ましくは30mg/100gFW以上である土耕栽培野菜またはキノコが得られる。タウリン含有量の上限については、土耕栽培野菜またはキノコの種類や処理液の濃度や製品コストとの兼ね合いにより、実質的に含有させることができる上限量は変化するが、通常、土耕栽培野菜またはキノコのタウリン含量としては非常に高い15mg/100gFW程度である。例えば、オオムギ葉の場合は、80mg/100gFW程度であれば、タウリンを含有させることができる。
【0018】
[土耕栽培野菜の製造方法]
本発明のGABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有する土耕栽培野菜は、以下の方法で製造できる。
土耕栽培中の野菜の葉および/または茎に、0.2〜2.0%(W/V)のGABAおよび/またはタウリン、並びに乳化剤を含有する水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液を前記葉および/または茎に付着した状態を維持して、GABAおよび/またはタウリンを葉および/または茎に吸収させることを含む方法。
【0019】
土耕栽培野菜の場合、GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液を根部から吸収させようとすると、多量の水溶液を土壌に供給する必要が生じる。そこで、本発明では、土耕栽培中の野菜の葉および/または茎に、GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液を前記葉および/または茎に付着した状態を維持して、GABAおよび/またはタウリンを葉および/または茎に吸収させる。水溶液中のGABAおよび/またはタウリンの濃度は0.2〜2.0%(W/V)の範囲とするが、上限を2.0%(W/V)にするのは、葉および/または茎に水溶液を噴霧し、維持することから、水溶液に含まれる成分により、葉および/または茎が褐変してしまう場合があるからである。下限を0.2%(W/V)とするのは、濃度が低すぎると、所望濃度に吸収が達しないからである。水溶液中のGABAおよび/またはタウリンの濃度は、褐変を防止しつつ良好な吸収を得るという観点からは、好ましくは0.5〜1.5%(W/V)の範囲である。より好ましくは1.0%前後の濃度である、0.8〜1.2%(W/V)の範囲である。
【0020】
一般に、根部からの吸収に比べて葉および茎からの吸収は効率が悪い。さらに、土耕栽培の場合、野外での栽培が多いことから、温度の管理が、スプラウトおよび切断野菜の製造に比べて困難であり、より低い温度でも良好に吸収が行われないと所定の含有量を有する土耕栽培野菜は得られない。そこで、上記のように、GABAおよび/またはタウリンの濃度の下限を0.2%(W/V)とすることに加えて、乳化剤を含有させる。
乳化剤としては、食品添加用の乳化剤である、例えばソルビトール系剤を使用することができる。特に、オオムギ葉のように表面が毛等に覆われている土耕栽培野菜の場合、乳化剤の併用による吸収促進効果は大きい。乳化剤としては、ソルビトール系剤以外に例えば、グリセリン脂肪酸エステル類(グリセリンエステル)、サポニン類(キラヤ抽出物、ダイズサポニン、チャ種子サポニン)、ショ糖脂肪酸エステル類(ショ糖エステル)、レシチン類(植物レシチン、卵黄レシチン) を挙げることができる。
【0021】
グリセリン脂肪酸エステル類(グリセリンエステル)は、酢酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リノシール酸エステルなどである。
【0022】
サポニン類(キラヤ抽出物、ダイズサポニン、チャ種子サポニン)は、エンジュの花、キラヤの樹皮、ダイズの種子、チャの種子などから抽出して得られたもので、主成分はサポニンである。
【0023】
ショ糖脂肪酸エステル類(ショ糖エステル)は、油脂から得られる脂肪酸と砂糖を反応させて製造されたものである。用いられる脂肪酸は、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸、酢酸、イソ酪酸などの低級脂肪酸である。
【0024】
レシチン類(植物レシチン、卵黄レシチン)は、アブラナやダイズの種子や卵黄から抽出して得られる、レシチンを主成分とするリン脂質などである。
【0025】
乳化剤としては、さらに、下記界面活性剤(展着剤)も使用可能である。
1)陰イオン(アニオン)性界面活性剤
2)陽イオン(カチオン)性界面活性剤
3)両性界面活性剤
4)非イオン(ノニオン)性界面活性剤
【0026】
上記水溶液に対する乳化剤の添加量は、植物体表面の状態、天候等を考慮して適宜決定できる。例えば、0.05〜0.5%の範囲であることができる。
【0027】
噴霧用の水溶液は、じょうろ・シャワー等の散水や、霧吹き・スプレーヤーなどの噴霧装置を用いできるだけ微小化し、表面にまんべんなく噴霧することが好ましい。なお、生育に必要な水分補給のために行う定期的な散水液に、前記水溶液を用いることも可能である。このように各種形態の野菜を前記のように表面施用することにより、GABAおよび/またはタウリンを高濃度で含有する野菜を極めて簡便かつ効率的に製造することができる。
【0028】
GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液の噴霧量は、例えば、土耕栽培中の野菜1kgに対して80〜200mlの範囲であることができる。ただし、この噴霧量は、GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液の濃度と、野菜の種類に応じて適宜決定できる。上記噴霧量を一回または複数回(例えば、2〜10回)に分けて噴霧することができる。噴霧した水溶液は葉および/または茎に付着した状態を維持する。具体的には、散水や雨水による噴霧した水溶液の流出を防止することで、付着した状態を維持できる。この状態の維持は、例えば、1時間以上24時間以下の吸収時間を設定することが適当である。好ましくは4〜12時間である。この時、吸収時間が1時間に満たない場合は、十分な吸収が行われない場合があり、また、24時間を超えると、吸収効率が悪いばかりか、吸収量が同じで生鮮食品等を傷める場合がある。大まかな吸収時間の目安としては8〜12時間である。吸収時間は、設定温度及び生鮮食品への前記物質の所望含有量を考慮して、適宜設定される。
【0029】
水溶液の噴霧は、野菜表面が乾燥しているときに行うことが、前記水溶液の野菜表面への施用効果が高くなり、前記物資の吸収・蓄積が良好に進むことから好ましい。
【0030】
上記噴霧および状態の維持は、温度の管理が可能である場合、5℃〜35℃の温度、好ましくは10℃から30℃の温度に維持することが適当である。温度が5℃を下回ると十分な吸収が行われない。また、35℃を超えると、十分な吸収量が得られないだけでなく、褐変、萎れなどが生じるため好ましくない。路地ものの野菜の場合、外気温が上記温度範囲に入る時間帯を選んで、上記噴霧および状態の維持を行うことが好ましい。
【0031】
[キノコの製造方法]
本発明のGABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有するキノコの製造方法は、キノコの子実体に0.2〜2.0%(W/V)のGABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液を前記子実体に付着した状態を維持して、GABAおよび/またはタウリンを子実体に吸収させることを含む。
【0032】
キノコの場合、GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液を根部から吸収させようとしても、根部からの吸収は非常に限られる。そこで、本発明では、栽培中のキノコの子実体に、GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液を前記子実体葉に付着した状態を維持して、GABAおよび/またはタウリンを子実体に吸収させる。水溶液中のGABAおよび/またはタウリンの濃度は0.2〜2.0%(W/V)の範囲とするが、上限を2.0%(W/V)にするのは、子実体に水溶液を噴霧し、維持することから、水溶液に含まれる成分により、子実体が褐変してしまう場合があるからである。下限を0.2%(W/V)とするのは、濃度が低すぎると、所望濃度に吸収が達しないからである。水溶液中のGABAおよび/またはタウリンの濃度は、褐変を防止しつつ良好な吸収を得るという観点からは、好ましくは0.5〜1.5%(W/V)の範囲である。より好ましくは1.0%前後の濃度である、0.8〜1.2%(W/V)の範囲である。
【0033】
GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液の噴霧量は、例えば、栽培中のキノコ1kgに対して80〜200mlの範囲であることができる。ただし、この噴霧量は、GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液の濃度と、キノコの種類に応じて適宜決定できる。上記噴霧量を一回または複数回(例えば、2〜10回)に分けて噴霧することができる。噴霧した水溶液は子実体に付着した状態を維持する。具体的には、散水や雨水による噴霧した水溶液の流出を防止することで、付着した状態を維持できる。この状態の維持は、例えば、1時間以上24時間以下の吸収時間を設定することが適当である。好ましくは4〜12時間である。この時、吸収時間が1時間に満たない場合は、十分な吸収が行われない場合があり、また、24時間を超えると、吸収効率が悪いばかりか、吸収量が同じで生鮮食品等を傷める場合がある。大まかな吸収時間の目安としては8〜12時間である。吸収時間は、設定温度及び生鮮食品への前記物質の所望含有量を考慮して、適宜設定される。
【0034】
水溶液の噴霧は、キノコ表面が比較的乾燥しているときに行うことが、前記水溶液のキノコ表面への施用効果が高くなり、前記物資の吸収・蓄積が良好に進むことから好ましい。
【0035】
前記水溶液を噴霧するキノコが収穫直前のキノコであり、吸収が終了後、収穫することが好ましい。
【0036】
噴霧用の水溶液は、できるだけ微小化した状態で施用することが好ましいことから、じょうろ・シャワー等を用いた散水処理や、霧吹き・スプレーヤー等を用いた噴霧処理により施用することが適当である。なお、生育に必要な水分補給のために行う定期的な散水液に、前記水溶液を用いることも可能である。このように表面施用することにより、GABAおよび/またはタウリンを高濃度で含有するキノコを極めて簡便かつ効率的に製造することができる。
【0037】
上記噴霧および状態の維持は、温度の管理が可能である場合、5℃〜30℃の温度、好ましくは10℃から24℃の温度に維持することが適当である。温度が5℃を下回ると十分な吸収が行われない。また、30℃を超えると、十分な吸収量が得られないだけでなく、生育不良、奇形等が生じるため好ましくない。
【0038】
土耕栽培野菜およびキノコに共通の事項として、表面施用に用いる前記水溶液には、吸収効率を向上させる目的等でGABAおよび/またはタウリン以外に、ミネラル活性液のような液肥やキトサン等の殺菌剤、アスコルビン酸等の酸化防止剤、組織の褐変を促進する酵素の阻害剤などを加えてもよい。例えば、溶液にキトサン、カテキン、アスコルビン酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、エチルアルコール、ヒノキチオール、ミネラル、カルシウム塩などを加えれば、より安定的に吸収効率を高めてGABAおよび/またはタウリンを吸収させることが可能である。
【0039】
前記GABA、タウリン以外にも、機能性が期待できるアミノ酸類、ペプチド類として、必須アミノ酸、アミノ酸誘導体、ペプチド類も同時に吸収させることもできる。具体的な例として、アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン、Tyr−Pro、L−カルニチン、アラニルリジン、バリニルチロシン、チロシニルプロリン、アンセリン、GSH、ビタミンU、カルノシン等を挙げることができる。前記に示したアミノ酸類、ペプチド類の中で、本発明に特に適しているのは水溶性の高いアミノ酸類、ペプチド類である。
【0040】
本発明の方法は、極めて簡便な方法である噴霧処理により高い吸収効果が得られる。特許文献1に記載の根部への浸漬処理に比べ非常に少ない労力・処理液量(従来技術の20%程度)で高い効果が得られる。そのため生産効率、コスト効率が良い。また、キノコにも応用できるため汎用性が高い。さらに、表面施用では20℃未満の低い温度においても、やや効率は下がるものの前記物質の生鮮食品への吸収が可能である。また、キノコ類の多くはおおむね20℃以下の温度で正常に生育するが、それらのような低い温度で製造する生鮮食品にも問題なく適用することができる。
【0041】
一般に、生鮮食品の各種の機能性のアミノ酸類の含量は、例えば、同種類の生鮮食品であっても、その製造方法、製造条件、個体差などにより種々異なり、GABAおよび/またはタウリンについてはほとんどそれを含有していないこともある。本発明によれば、それらの差異にかかわらず、生鮮食品をGABAおよび/またはタウリン溶液で処理し、生鮮食品のその蓄積含量を天然のものに対して飛躍的に上昇させることが可能である。
【実施例】
【0042】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の好適な例を示すものであり、本発明は当該実施例によって何ら限定されるものではない。
【0043】
実施例1
土耕栽培野菜を生産し、収穫直前に以下の条件でGABA、タウリンを噴霧処理により施用し、GABA、タウリン高含有土耕栽培野菜を製造した。土耕栽培野菜はポットを用い、園芸用培土に播種し、25℃・光条件下で温室にて土耕栽培した。表面処理は、以下の方法で行った。適度に生育した収穫直前の土耕栽培野菜に対し、1%GABA、タウリン溶液を調製し、前記の方法で得られた土耕栽培野菜の茎葉部に前記溶液を噴霧処理し、25℃で12時間GABA、タウリンを吸収させた。比較例は前記溶液の代わりに水を用い同条件で処理した。土耕栽培野菜のGABA、タウリンの定量は、収穫直後の試料を用い高速液体クロマトグラフィーを用い山内らの方法(Food Sci. Technol. Res., 10, 247-253, 2004)によって行った。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図1に示す。これより、比較例の土耕栽培野菜に比べ、実施例の土耕栽培野菜では、いずれも十分な量のGABA(各20mg/100gFW以上)、タウリン(各20mg/100gFW以上)を含有しており、本発明により、極めて簡便かつ効率的にGABA、タウリン高含有土耕栽培野菜を生産できることが判る。
【0044】
実施例2
GABA、タウリンを吸収させる場合のGABA、タウリンの濃度の影響を見るため、GABA、タウリンの濃度を変えた溶液を用いて、実施例1と同条件で作成したGABA、タウリン高含有土耕栽培ニラ・オオムギについて、吸収効率等に対する濃度の影響を評価した。GABA、タウリンの定量は、収穫直後の試料を用い実施例1と同条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図2に示す。これより、GABA、タウリンいずれの溶液の場合にも1.0%以上の溶液を用いると効率よく吸収。蓄積されることが判った。また、得られた製品の品質を表1に示した。処理液濃度が5.0%の場合は製品が褐変し品質が低下したが、1.0%以下の場合の品質は良好であった。以上より1.0%前後の溶液を用いると効率よく吸収・蓄積され品質が良好であることが判った。
【0045】
【表1】
【0046】
実施例3
GABA、タウリンを吸収させる場合の前記物質の表面施用後の吸収時間の影響を見るため、GABA、タウリンの濃度を変えた溶液を用いて、実施例1と同条件で作成したGABA、タウリン高含有土耕栽培ニラ・オオムギについて、吸収効率等に対する濃度の影響を評価した。GABA、タウリンの定量は、収穫直後の試料を用い実施例1と同条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図3に示す。これより、GABA、タウリンいずれの場合にも4時間以上の吸収時間を用いると効率よく吸収・蓄積されることが判った。
【0047】
実施例4
GABA、タウリンを吸収させる場合の前記物質の表面施用後の吸収時の温度の影響を見るため、GABA、タウリンの濃度を変えた溶液を用いて、実施例1と同条件で作成したGABA、タウリン高含有土耕栽培ニラ・オオムギについて、吸収効率等に対する温度の影響を評価した。GABA、タウリンの定量は、収穫直後の試料を用い実施例1と同条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図4に示す。これより、GABAタウリンいずれの場合にも25℃前後の温度を用いると効率よく吸収・蓄積されることが判った。また、得られた製品の品質を表2に示した。吸収温度が35℃の場合は製品が褐変し品質が低下したが、25℃以下の場合の品質は良好であった。以上より、25℃前後の温度を用いると効率よく吸収・蓄積され品質も良好であることが判った。
【0048】
【表2】
【0049】
実施例5
GABA、タウリンを蓄積させたGABA、タウリン高含有土耕栽培ニラ・オオムギの蓄積含量の安定性を調べるため、実施例1と同条件で作成したGABA、タウリン高含有土耕栽培ニラ・オオムギについて、5℃、湿度95%、暗条件下でのGABA、タウリン含量の安定性評価(貯蔵試験)を行った。GABA、タウリンの定量は、貯蔵試験終了直後の試料を用い実施例1と同条件で測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図5に示す。これより、どの試料においても濃度の低下がほとんどなく、長期に安定的にそれぞれGABA、タウリンを含有していることが判った。これより、本発明の方法によって作成された試料中のGABA、タウリンは保存中に分解等受けずに非常に安定的に保持されることが判る。
【0050】
実施例6
キノコを生産し、収穫直前に以下の条件でGABA、タウリンを噴霧処理により施用し、GABA、タウリン高含有キノコを製造した。キノコは市販の発生直前のポットを用い、一般的な発生・栽培条件で栽培した。表面処理は、以下の方法で行った。適度に生育した収穫直前のキノコに対し、1%GABA、タウリン溶液を調製し、前記の方法で得られたキノコの表面部位に前記溶液を噴霧処理し、それぞれのキノコの最適生育温度にて12時間GABA、タウリンを吸収させた。比較例は前記溶液の代わりに水を用い同条件で処理した。キノコのGABA、タウリンの定量は、収穫直後の試料を用い高速液体クロマトグラフィーを用い山内らの方法(Food Sci. Technol. Res., 10, 247−253, 2004)によって行った。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図6に示す。これより、比較例のキノコに比べ、実施例のキノコでは、いずれも十分な量のGABA(各20mg/100gFW以上)、タウリン(各20mg/100gFW以上)を含有しており、本発明により、極めて簡便かつ効率的にGABA、タウリン高含有キノコを生産できることが判る。
【0051】
実施例7
GABA、タウリンを吸収させる場合のGABA、タウリンの濃度の影響を見るため、GABA、タウリンの濃度を変えた溶液を用いて、実施例6と同条件で作成したGABA、タウリン高含有シイタケ、マイタケについて、吸収効率等に対する濃度の影響を評価した。GABA、タウリンの定量は、収穫直後の試料を用い実施例1と同条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図7に示す。これより、GABA、ビタミンU、タウリンいずれの溶液の場合にも1.0%以上の溶液を用いると効率よく吸収。蓄積されることが判った。また、得られた製品の品質を表3に示した。処理液濃度が5.0%の場合は製品が褐変し品質が低下したが、1.0%以下の場合の品質は良好であった。以上より1.0%前後の溶液を用いると効率よく吸収・蓄積され品質も良好であることが判った。
【0052】
【表3】
【0053】
実施例8
GABA、タウリンを吸収させる場合の前記物質の表面施用後の吸収時間の影響を見るため、GABA、タウリンの濃度を変えた溶液を用いて、実施例6と同条件で作成したGABA、タウリン高含有シイタケ、マイタケについて、吸収効率等に対する吸収時間の影響を評価した。GABA、タウリンの定量は、収穫直後の試料を用い実施例1と同条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図8に示す。これより、GABAタウリンいずれの場合にも1時間以上の吸収時間を用いると効率よく吸収・蓄積されることが判った。
【0054】
実施例9
GABA、タウリンを吸収させる場合の前記物質の表面施用後の吸収時の温度の影響を見るため、GABA、タウリンの濃度を変えた溶液を用いて、実施例6と同条件で作成したGABA、タウリン高含有シイタケ、マイタケについて、吸収効率等に対する温度の影響を評価した。GABA、タウリンの定量は、収穫直後の試料を用い実施例1と同条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図9に示す。これより、GABAタウリンいずれの場合にもシイタケは10℃〜24℃、マイタケは17℃以下の温度を用いると効率よく吸収・蓄積されることが判った。また、得られた製品の品質を表4に示した。吸収温度が24℃の場合は製品が変形・褐変し品質が低下したが、17℃以下の場合の品質は良好であった。以上より、17℃前後の温度を用いると効率よく吸収・蓄積され品質も良好であることが判った。
【0055】
【表4】
【0056】
実施例10
GABA、タウリンを蓄積させたGABA、タウリン高含有キノコの蓄積含量の安定性を調べるため、実施例6と同条件で作成したGABA、タウリン高含有キノコついて、5℃、湿度95%、暗条件下でのGABA、タウリン含量の安定性評価(貯蔵試験)を行った。GABA、タウリンの定量は、貯蔵試験終了直後の試料を用い実施例1と同条件で測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図10に示す。これより、どの試料においても濃度の低下がほとんどなく、長期に安定的にそれぞれGABA、タウリンを含有していることが判った。これより、本発明の方法によって作成された試料中のGABA、タウリンは保存中に分解等受けずに非常に安定的に保持されることが判る。
【0057】
実施例11
露地におけるニラ・オオムギ等の土耕栽培野菜を栽培する場合、季節・天候により温度が低いため機能性物質を十分に吸収・蓄積が出来ない場合や、また、降雨等により十分な機能性物質吸収時間を得られない場合が想定される。そこで、吸収温度が低い条件(15℃)あるいは吸収時間が短い条件(4時間)において、処理液への乳化剤添加による機能性物質蓄積含量の増加を試みた。ニラ、オオムギの試料作成は以下の方法で行った。すなわち、吸収温度を15℃あるいは25℃、吸収時間を4時間あるいは12時間とし、処理液に0.1%のソルビトール系乳化剤を添加した他は実施例1に準じて作成した。対象物質はGABAとし、収穫直後の試料を用い実施例1と同条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図11、表5に示す。これより、乳化剤の添加により15℃程度の低い吸収温度や4時間程度の短い吸収時間においても、実施例のオオムギでは十分な量のGABA(20mg/100gFW以上)を含有しており、また、ニラでもGABA含量が高いことから(10mg/100gFW以上)、本発明により、露地土耕栽培等の季節・天気により吸収温度・時間が左右される環境下においても極めて簡便かつ効率的に品質低下させることなくGABA高含有土耕栽培野菜を生産できることが判る。
【0058】
【表5】
【0059】
実施例12
GABA・タウリン蓄積させる場合の処理労力、処理液量、GABA・タウリン蓄積含量、製品の品質について、特許文献1の方法(浸漬施用)との比較をおこなった。表面施用による製品の作成は、実施例1,実施例6に順じて行った。その結果を表6示す。特許文献1の方法(浸漬施用)では処理労力、処理液量が悪いか極めて悪かったのに対し表面施用では極めて良かった。また、シイタケ、マイタケにおいては、特許文献1の方法(浸漬施用)ではGABA・タウリンを吸収・蓄積しなかったのに対し、表面施用では十分量のGABA・タウリンを吸収した。これより、本発明の方法は、特許文献1の方法(浸漬施用)に比べ格段の進歩性を持つことが判る。
【0060】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、野菜・キノコ等の生鮮食品製造等の農業、食品分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1の実験結果。
【図2】実施例2の実験結果。
【図3】実施例3の実験結果。
【図4】実施例4の実験結果。
【図5】実施例5の実験結果。
【図6】実施例6の実験結果。
【図7】実施例7の実験結果。
【図8】実施例8の実験結果。
【図9】実施例9の実験結果。
【図10】実施例10の実験結果。
【図11】実施例11の実験結果。
【技術分野】
【0001】
本発明は、GABAおよび/またはタウリンを含有する土耕栽培野菜およびキノコ、並びにそれらの製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、土耕栽培野菜またはキノコに、GABAおよび/またはタウリン含有溶液を噴霧し、吸収処理をすることによって、それら物質を比較的高濃度に含有する土耕栽培野菜またはキノコを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定のアミノ酸類、ペプチド類には各種栄養的、生理機能があることが知られている。
特に、最近では、アミノ酸類のシステイン、γ−アミノ酪酸(GABA)、L−カルニチン、ビタミンU、ジペプチドのカルノシン、アンセリン、バリニルチロシン、チロシニルプロリン、トリペプチドのグルタミルシステイニルグリシン(GSH)の生理機能が注目されている。このように特定のアミノ酸類、ペプチド類には種々の機能性があることが解明されているが、これらの物質を高濃度含有する食用の植物体は自然界には存在しない。そのため、これらの物質を一定量摂取するためには、「いわゆるサプリメントや薬品として摂取する」以外の方法は存在しないのが現状である。しかし、日本の食文化は、米国などサプリメント先進国のそれと異なり、機能性物質を「普段の食事によって摂取する」ことに価値を置いている。そのため、いわゆるサプリメントや薬品ではなく、スプラウトやキノコなどの生鮮食品から機能性物質を摂取することには大きな意義がある。
【0003】
このような背景から、特定のアミノ酸類、ペプチド類を含有する生鮮食品が簡便に製造できれば、その社会的ニーズは大きいと考えられる。しかしながら、前記のように特定のアミノ酸類、ペプチド類を高濃度含有する生鮮食品は生産されておらず、その効率的な生産方法開発に関する研究もほとんど行われていないのが現状である。
【0004】
本発明者らは、GABAやタウリン等を吸収させた食用植物体を提供することを目的として、GABAやタウリン等の溶液に根部を浸漬し、蒸散により植物体内に吸収・蓄積させる方法を見出し、この方法により、比較的高い濃度のGABAやタウリン等を含有する食用植物体を提供できることを見出して、特許出願した(特開2007−89572号公報(特許文献1))。
【特許文献1】特開2007-89572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法では、食用植物体の根部を前記物質に浸漬し、蒸散を利用して前記物質を植物体内に導入する。具体的には、食用植物体として、スプラウトおよび切断野菜を挙げ、これらに対するGABAやタウリン等の吸収を、GABAやタウリン等の溶液に根部を浸漬し、蒸散を利用して行った。しかし、根部への浸漬処理はたとえばスプラウトに適用する場合、それぞれのポットを栽培棚から処理液槽に移動する必要があるため非常に生産効率が低く、根部全体を浸漬させる必要があるため大量の処理液を必要としコスト効率も低い。
【0006】
また、根部が露出していない土耕栽培などの植物や、キノコ類等その他生鮮食品には応用はできない。例えば、土耕栽培野菜の場合、GABAやタウリン等の溶液に根部を浸漬することは事実上できない。なぜなら、土壌中にある根部に、GABAやタウリン等の溶液を相当量維持することは、溶液が土壌中に浸透することを考慮すると、経済性の点で困難である。
【0007】
また、キノコの場合、根部からの養分の吸収と蒸散という2つの機能が、通常の植物体とは異なり、特許文献1に記載の方法では、GABAやタウリン等を高い含有量で吸収させることはできない。
【0008】
加えて、GABAやタウリン等を吸収・蓄積させるためには蒸散が必須であるため、生育温度が、例えば、20℃未満の低い温度となる場合には、GABAやタウリン等の食用植物体への吸収が極めて遅く、10mg/100gFW以上含有する食用植物体を製造することは実質的にできなかった。野外で栽培されることが多い、土耕栽培野菜やキノコの場合、生育温度が低くなり、GABAやタウリン等を高濃度で含有させることは困難であった。
【0009】
そこで本発明の目的は、GABAおよび/またはタウリンを高濃度で含有する土耕栽培野菜およびキノコとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような状況下、本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を積み重ねた。その結果、所定の条件下で、GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液を土耕栽培野菜またはキノコに噴霧し、噴霧した水溶液が付着した状態を維持することで、これらの物質を高濃度で含有する土耕栽培野菜またはキノコを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は以下のとおりである。
[1]GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有する土耕栽培野菜。
[2]GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有するキノコ。
[3]土耕栽培中の野菜の葉および/または茎に、0.2〜2.0%(W/V)のGABAおよび/またはタウリン、並びに乳化剤を含有する水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液を前記葉および/または茎に付着した状態を維持して、GABAおよび/またはタウリンを葉および/または茎に吸収させることを含む、GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有する土耕栽培野菜の製造方法。
[4]前記水溶液の噴霧量は、土耕栽培中の野菜1kgに対して80〜200mlの範囲である、[3]に記載の製造方法。
[5]キノコの子実体に0.2〜2.0%(W/V)のGABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液を前記子実体に付着した状態を維持して、GABAおよび/またはタウリンを子実体に吸収させることを含む、GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有するキノコの製造方法。
[6]前記水溶液を噴霧するキノコが収穫直前のキノコであり、吸収が終了後、収穫する、[5]に記載の製造方法。
[7]前記水溶液の噴霧量は、キノコ1kgに対して80〜200mlの範囲である、[5]または[6]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、自然な形でGABAおよび/またはタウリンを高濃度に含有する土耕栽培野菜およびキノコを簡便かつ効率的に製造し提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有する土耕栽培野菜およびキノコとその製造方法に関する。
【0014】
土耕栽培野菜としては、例えば、ニラ、レタス、チンゲンサイ、コマツナ、サンチュ、ケール、キャベツ、ハクサイ、ブロッコリー、ミズナ、シュンギク、クレソン、ルコラ、シソ、オオバ、エゴマ、ミント、バジル、ホウレンソウ、ミツバ、パセリ、セロリ、ネギ、パセリ、チャ、ミョウガ、カリフラワー、トマト、ナス、キュウリ、オクラ、ズッキーニ、カボチャ、アボカド、ピーマン、パプリカ、ゴーヤ、コムギ、オオムギ、イネ、アズキ、ダイズ、ソバ、ダッタンソバ、ヒマワリ、アマランサス、キビ、ヒエ、アワ、トウモロコシ、ダイコン、ニンジン、ナガイモ、ゴボウ、ヤーコン、バレイショ、サツマイモ、タマネギ、テーブルビート、コンニャク、サトイモ、ウコン、ラッキョウ、ユリネ、カブ、タケノコ、ムカゴ、ニンニク、ワサビ、スイカ、メロン、ユウガオ、トウガン、アルファルファ、テンサイ等を挙げることができる。特にニラ、レタス、チンゲンサイ、ケール、オオムギが好ましい。
【0015】
キノコとしては、例えば、シイタケ、マイタケ、エノキタケ、ナメコ、シメジ、ブナシメジ、タモギタケ、ハナビラタケ、エリンギ、キクラゲ、アガリスク、マッシュルーム、霊芝等が適当である。特に、シイタケ、マイタケ、エノキタケ等が好ましい。
【0016】
本発明によれば、GABA含有量が、10mg/100gFW以上、好ましくは15mg/100gFW以上、より好ましくは30mg/100gFW以上である土耕栽培野菜またはキノコが提供される。GABA含有量の上限については、土耕栽培野菜またはキノコの種類や処理液の濃度や製品コストとの兼ね合いにより、実質的に含有させることができる上限量は変化するが、通常、土耕栽培野菜またはキノコのGABA含量としては非常に高い40mg/100gFW程度である。例えば、オオムギ葉の場合は、40mg/100gFW程度であれば、GABAを含有させることができる。
【0017】
本発明によれば、タウリン含有量が、10mg/100gFW以上、好ましくは15mg/100gFW以上、より好ましくは30mg/100gFW以上である土耕栽培野菜またはキノコが得られる。タウリン含有量の上限については、土耕栽培野菜またはキノコの種類や処理液の濃度や製品コストとの兼ね合いにより、実質的に含有させることができる上限量は変化するが、通常、土耕栽培野菜またはキノコのタウリン含量としては非常に高い15mg/100gFW程度である。例えば、オオムギ葉の場合は、80mg/100gFW程度であれば、タウリンを含有させることができる。
【0018】
[土耕栽培野菜の製造方法]
本発明のGABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有する土耕栽培野菜は、以下の方法で製造できる。
土耕栽培中の野菜の葉および/または茎に、0.2〜2.0%(W/V)のGABAおよび/またはタウリン、並びに乳化剤を含有する水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液を前記葉および/または茎に付着した状態を維持して、GABAおよび/またはタウリンを葉および/または茎に吸収させることを含む方法。
【0019】
土耕栽培野菜の場合、GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液を根部から吸収させようとすると、多量の水溶液を土壌に供給する必要が生じる。そこで、本発明では、土耕栽培中の野菜の葉および/または茎に、GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液を前記葉および/または茎に付着した状態を維持して、GABAおよび/またはタウリンを葉および/または茎に吸収させる。水溶液中のGABAおよび/またはタウリンの濃度は0.2〜2.0%(W/V)の範囲とするが、上限を2.0%(W/V)にするのは、葉および/または茎に水溶液を噴霧し、維持することから、水溶液に含まれる成分により、葉および/または茎が褐変してしまう場合があるからである。下限を0.2%(W/V)とするのは、濃度が低すぎると、所望濃度に吸収が達しないからである。水溶液中のGABAおよび/またはタウリンの濃度は、褐変を防止しつつ良好な吸収を得るという観点からは、好ましくは0.5〜1.5%(W/V)の範囲である。より好ましくは1.0%前後の濃度である、0.8〜1.2%(W/V)の範囲である。
【0020】
一般に、根部からの吸収に比べて葉および茎からの吸収は効率が悪い。さらに、土耕栽培の場合、野外での栽培が多いことから、温度の管理が、スプラウトおよび切断野菜の製造に比べて困難であり、より低い温度でも良好に吸収が行われないと所定の含有量を有する土耕栽培野菜は得られない。そこで、上記のように、GABAおよび/またはタウリンの濃度の下限を0.2%(W/V)とすることに加えて、乳化剤を含有させる。
乳化剤としては、食品添加用の乳化剤である、例えばソルビトール系剤を使用することができる。特に、オオムギ葉のように表面が毛等に覆われている土耕栽培野菜の場合、乳化剤の併用による吸収促進効果は大きい。乳化剤としては、ソルビトール系剤以外に例えば、グリセリン脂肪酸エステル類(グリセリンエステル)、サポニン類(キラヤ抽出物、ダイズサポニン、チャ種子サポニン)、ショ糖脂肪酸エステル類(ショ糖エステル)、レシチン類(植物レシチン、卵黄レシチン) を挙げることができる。
【0021】
グリセリン脂肪酸エステル類(グリセリンエステル)は、酢酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リノシール酸エステルなどである。
【0022】
サポニン類(キラヤ抽出物、ダイズサポニン、チャ種子サポニン)は、エンジュの花、キラヤの樹皮、ダイズの種子、チャの種子などから抽出して得られたもので、主成分はサポニンである。
【0023】
ショ糖脂肪酸エステル類(ショ糖エステル)は、油脂から得られる脂肪酸と砂糖を反応させて製造されたものである。用いられる脂肪酸は、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸、酢酸、イソ酪酸などの低級脂肪酸である。
【0024】
レシチン類(植物レシチン、卵黄レシチン)は、アブラナやダイズの種子や卵黄から抽出して得られる、レシチンを主成分とするリン脂質などである。
【0025】
乳化剤としては、さらに、下記界面活性剤(展着剤)も使用可能である。
1)陰イオン(アニオン)性界面活性剤
2)陽イオン(カチオン)性界面活性剤
3)両性界面活性剤
4)非イオン(ノニオン)性界面活性剤
【0026】
上記水溶液に対する乳化剤の添加量は、植物体表面の状態、天候等を考慮して適宜決定できる。例えば、0.05〜0.5%の範囲であることができる。
【0027】
噴霧用の水溶液は、じょうろ・シャワー等の散水や、霧吹き・スプレーヤーなどの噴霧装置を用いできるだけ微小化し、表面にまんべんなく噴霧することが好ましい。なお、生育に必要な水分補給のために行う定期的な散水液に、前記水溶液を用いることも可能である。このように各種形態の野菜を前記のように表面施用することにより、GABAおよび/またはタウリンを高濃度で含有する野菜を極めて簡便かつ効率的に製造することができる。
【0028】
GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液の噴霧量は、例えば、土耕栽培中の野菜1kgに対して80〜200mlの範囲であることができる。ただし、この噴霧量は、GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液の濃度と、野菜の種類に応じて適宜決定できる。上記噴霧量を一回または複数回(例えば、2〜10回)に分けて噴霧することができる。噴霧した水溶液は葉および/または茎に付着した状態を維持する。具体的には、散水や雨水による噴霧した水溶液の流出を防止することで、付着した状態を維持できる。この状態の維持は、例えば、1時間以上24時間以下の吸収時間を設定することが適当である。好ましくは4〜12時間である。この時、吸収時間が1時間に満たない場合は、十分な吸収が行われない場合があり、また、24時間を超えると、吸収効率が悪いばかりか、吸収量が同じで生鮮食品等を傷める場合がある。大まかな吸収時間の目安としては8〜12時間である。吸収時間は、設定温度及び生鮮食品への前記物質の所望含有量を考慮して、適宜設定される。
【0029】
水溶液の噴霧は、野菜表面が乾燥しているときに行うことが、前記水溶液の野菜表面への施用効果が高くなり、前記物資の吸収・蓄積が良好に進むことから好ましい。
【0030】
上記噴霧および状態の維持は、温度の管理が可能である場合、5℃〜35℃の温度、好ましくは10℃から30℃の温度に維持することが適当である。温度が5℃を下回ると十分な吸収が行われない。また、35℃を超えると、十分な吸収量が得られないだけでなく、褐変、萎れなどが生じるため好ましくない。路地ものの野菜の場合、外気温が上記温度範囲に入る時間帯を選んで、上記噴霧および状態の維持を行うことが好ましい。
【0031】
[キノコの製造方法]
本発明のGABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有するキノコの製造方法は、キノコの子実体に0.2〜2.0%(W/V)のGABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液を前記子実体に付着した状態を維持して、GABAおよび/またはタウリンを子実体に吸収させることを含む。
【0032】
キノコの場合、GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液を根部から吸収させようとしても、根部からの吸収は非常に限られる。そこで、本発明では、栽培中のキノコの子実体に、GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液を前記子実体葉に付着した状態を維持して、GABAおよび/またはタウリンを子実体に吸収させる。水溶液中のGABAおよび/またはタウリンの濃度は0.2〜2.0%(W/V)の範囲とするが、上限を2.0%(W/V)にするのは、子実体に水溶液を噴霧し、維持することから、水溶液に含まれる成分により、子実体が褐変してしまう場合があるからである。下限を0.2%(W/V)とするのは、濃度が低すぎると、所望濃度に吸収が達しないからである。水溶液中のGABAおよび/またはタウリンの濃度は、褐変を防止しつつ良好な吸収を得るという観点からは、好ましくは0.5〜1.5%(W/V)の範囲である。より好ましくは1.0%前後の濃度である、0.8〜1.2%(W/V)の範囲である。
【0033】
GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液の噴霧量は、例えば、栽培中のキノコ1kgに対して80〜200mlの範囲であることができる。ただし、この噴霧量は、GABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液の濃度と、キノコの種類に応じて適宜決定できる。上記噴霧量を一回または複数回(例えば、2〜10回)に分けて噴霧することができる。噴霧した水溶液は子実体に付着した状態を維持する。具体的には、散水や雨水による噴霧した水溶液の流出を防止することで、付着した状態を維持できる。この状態の維持は、例えば、1時間以上24時間以下の吸収時間を設定することが適当である。好ましくは4〜12時間である。この時、吸収時間が1時間に満たない場合は、十分な吸収が行われない場合があり、また、24時間を超えると、吸収効率が悪いばかりか、吸収量が同じで生鮮食品等を傷める場合がある。大まかな吸収時間の目安としては8〜12時間である。吸収時間は、設定温度及び生鮮食品への前記物質の所望含有量を考慮して、適宜設定される。
【0034】
水溶液の噴霧は、キノコ表面が比較的乾燥しているときに行うことが、前記水溶液のキノコ表面への施用効果が高くなり、前記物資の吸収・蓄積が良好に進むことから好ましい。
【0035】
前記水溶液を噴霧するキノコが収穫直前のキノコであり、吸収が終了後、収穫することが好ましい。
【0036】
噴霧用の水溶液は、できるだけ微小化した状態で施用することが好ましいことから、じょうろ・シャワー等を用いた散水処理や、霧吹き・スプレーヤー等を用いた噴霧処理により施用することが適当である。なお、生育に必要な水分補給のために行う定期的な散水液に、前記水溶液を用いることも可能である。このように表面施用することにより、GABAおよび/またはタウリンを高濃度で含有するキノコを極めて簡便かつ効率的に製造することができる。
【0037】
上記噴霧および状態の維持は、温度の管理が可能である場合、5℃〜30℃の温度、好ましくは10℃から24℃の温度に維持することが適当である。温度が5℃を下回ると十分な吸収が行われない。また、30℃を超えると、十分な吸収量が得られないだけでなく、生育不良、奇形等が生じるため好ましくない。
【0038】
土耕栽培野菜およびキノコに共通の事項として、表面施用に用いる前記水溶液には、吸収効率を向上させる目的等でGABAおよび/またはタウリン以外に、ミネラル活性液のような液肥やキトサン等の殺菌剤、アスコルビン酸等の酸化防止剤、組織の褐変を促進する酵素の阻害剤などを加えてもよい。例えば、溶液にキトサン、カテキン、アスコルビン酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、エチルアルコール、ヒノキチオール、ミネラル、カルシウム塩などを加えれば、より安定的に吸収効率を高めてGABAおよび/またはタウリンを吸収させることが可能である。
【0039】
前記GABA、タウリン以外にも、機能性が期待できるアミノ酸類、ペプチド類として、必須アミノ酸、アミノ酸誘導体、ペプチド類も同時に吸収させることもできる。具体的な例として、アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン、Tyr−Pro、L−カルニチン、アラニルリジン、バリニルチロシン、チロシニルプロリン、アンセリン、GSH、ビタミンU、カルノシン等を挙げることができる。前記に示したアミノ酸類、ペプチド類の中で、本発明に特に適しているのは水溶性の高いアミノ酸類、ペプチド類である。
【0040】
本発明の方法は、極めて簡便な方法である噴霧処理により高い吸収効果が得られる。特許文献1に記載の根部への浸漬処理に比べ非常に少ない労力・処理液量(従来技術の20%程度)で高い効果が得られる。そのため生産効率、コスト効率が良い。また、キノコにも応用できるため汎用性が高い。さらに、表面施用では20℃未満の低い温度においても、やや効率は下がるものの前記物質の生鮮食品への吸収が可能である。また、キノコ類の多くはおおむね20℃以下の温度で正常に生育するが、それらのような低い温度で製造する生鮮食品にも問題なく適用することができる。
【0041】
一般に、生鮮食品の各種の機能性のアミノ酸類の含量は、例えば、同種類の生鮮食品であっても、その製造方法、製造条件、個体差などにより種々異なり、GABAおよび/またはタウリンについてはほとんどそれを含有していないこともある。本発明によれば、それらの差異にかかわらず、生鮮食品をGABAおよび/またはタウリン溶液で処理し、生鮮食品のその蓄積含量を天然のものに対して飛躍的に上昇させることが可能である。
【実施例】
【0042】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の好適な例を示すものであり、本発明は当該実施例によって何ら限定されるものではない。
【0043】
実施例1
土耕栽培野菜を生産し、収穫直前に以下の条件でGABA、タウリンを噴霧処理により施用し、GABA、タウリン高含有土耕栽培野菜を製造した。土耕栽培野菜はポットを用い、園芸用培土に播種し、25℃・光条件下で温室にて土耕栽培した。表面処理は、以下の方法で行った。適度に生育した収穫直前の土耕栽培野菜に対し、1%GABA、タウリン溶液を調製し、前記の方法で得られた土耕栽培野菜の茎葉部に前記溶液を噴霧処理し、25℃で12時間GABA、タウリンを吸収させた。比較例は前記溶液の代わりに水を用い同条件で処理した。土耕栽培野菜のGABA、タウリンの定量は、収穫直後の試料を用い高速液体クロマトグラフィーを用い山内らの方法(Food Sci. Technol. Res., 10, 247-253, 2004)によって行った。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図1に示す。これより、比較例の土耕栽培野菜に比べ、実施例の土耕栽培野菜では、いずれも十分な量のGABA(各20mg/100gFW以上)、タウリン(各20mg/100gFW以上)を含有しており、本発明により、極めて簡便かつ効率的にGABA、タウリン高含有土耕栽培野菜を生産できることが判る。
【0044】
実施例2
GABA、タウリンを吸収させる場合のGABA、タウリンの濃度の影響を見るため、GABA、タウリンの濃度を変えた溶液を用いて、実施例1と同条件で作成したGABA、タウリン高含有土耕栽培ニラ・オオムギについて、吸収効率等に対する濃度の影響を評価した。GABA、タウリンの定量は、収穫直後の試料を用い実施例1と同条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図2に示す。これより、GABA、タウリンいずれの溶液の場合にも1.0%以上の溶液を用いると効率よく吸収。蓄積されることが判った。また、得られた製品の品質を表1に示した。処理液濃度が5.0%の場合は製品が褐変し品質が低下したが、1.0%以下の場合の品質は良好であった。以上より1.0%前後の溶液を用いると効率よく吸収・蓄積され品質が良好であることが判った。
【0045】
【表1】
【0046】
実施例3
GABA、タウリンを吸収させる場合の前記物質の表面施用後の吸収時間の影響を見るため、GABA、タウリンの濃度を変えた溶液を用いて、実施例1と同条件で作成したGABA、タウリン高含有土耕栽培ニラ・オオムギについて、吸収効率等に対する濃度の影響を評価した。GABA、タウリンの定量は、収穫直後の試料を用い実施例1と同条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図3に示す。これより、GABA、タウリンいずれの場合にも4時間以上の吸収時間を用いると効率よく吸収・蓄積されることが判った。
【0047】
実施例4
GABA、タウリンを吸収させる場合の前記物質の表面施用後の吸収時の温度の影響を見るため、GABA、タウリンの濃度を変えた溶液を用いて、実施例1と同条件で作成したGABA、タウリン高含有土耕栽培ニラ・オオムギについて、吸収効率等に対する温度の影響を評価した。GABA、タウリンの定量は、収穫直後の試料を用い実施例1と同条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図4に示す。これより、GABAタウリンいずれの場合にも25℃前後の温度を用いると効率よく吸収・蓄積されることが判った。また、得られた製品の品質を表2に示した。吸収温度が35℃の場合は製品が褐変し品質が低下したが、25℃以下の場合の品質は良好であった。以上より、25℃前後の温度を用いると効率よく吸収・蓄積され品質も良好であることが判った。
【0048】
【表2】
【0049】
実施例5
GABA、タウリンを蓄積させたGABA、タウリン高含有土耕栽培ニラ・オオムギの蓄積含量の安定性を調べるため、実施例1と同条件で作成したGABA、タウリン高含有土耕栽培ニラ・オオムギについて、5℃、湿度95%、暗条件下でのGABA、タウリン含量の安定性評価(貯蔵試験)を行った。GABA、タウリンの定量は、貯蔵試験終了直後の試料を用い実施例1と同条件で測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図5に示す。これより、どの試料においても濃度の低下がほとんどなく、長期に安定的にそれぞれGABA、タウリンを含有していることが判った。これより、本発明の方法によって作成された試料中のGABA、タウリンは保存中に分解等受けずに非常に安定的に保持されることが判る。
【0050】
実施例6
キノコを生産し、収穫直前に以下の条件でGABA、タウリンを噴霧処理により施用し、GABA、タウリン高含有キノコを製造した。キノコは市販の発生直前のポットを用い、一般的な発生・栽培条件で栽培した。表面処理は、以下の方法で行った。適度に生育した収穫直前のキノコに対し、1%GABA、タウリン溶液を調製し、前記の方法で得られたキノコの表面部位に前記溶液を噴霧処理し、それぞれのキノコの最適生育温度にて12時間GABA、タウリンを吸収させた。比較例は前記溶液の代わりに水を用い同条件で処理した。キノコのGABA、タウリンの定量は、収穫直後の試料を用い高速液体クロマトグラフィーを用い山内らの方法(Food Sci. Technol. Res., 10, 247−253, 2004)によって行った。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図6に示す。これより、比較例のキノコに比べ、実施例のキノコでは、いずれも十分な量のGABA(各20mg/100gFW以上)、タウリン(各20mg/100gFW以上)を含有しており、本発明により、極めて簡便かつ効率的にGABA、タウリン高含有キノコを生産できることが判る。
【0051】
実施例7
GABA、タウリンを吸収させる場合のGABA、タウリンの濃度の影響を見るため、GABA、タウリンの濃度を変えた溶液を用いて、実施例6と同条件で作成したGABA、タウリン高含有シイタケ、マイタケについて、吸収効率等に対する濃度の影響を評価した。GABA、タウリンの定量は、収穫直後の試料を用い実施例1と同条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図7に示す。これより、GABA、ビタミンU、タウリンいずれの溶液の場合にも1.0%以上の溶液を用いると効率よく吸収。蓄積されることが判った。また、得られた製品の品質を表3に示した。処理液濃度が5.0%の場合は製品が褐変し品質が低下したが、1.0%以下の場合の品質は良好であった。以上より1.0%前後の溶液を用いると効率よく吸収・蓄積され品質も良好であることが判った。
【0052】
【表3】
【0053】
実施例8
GABA、タウリンを吸収させる場合の前記物質の表面施用後の吸収時間の影響を見るため、GABA、タウリンの濃度を変えた溶液を用いて、実施例6と同条件で作成したGABA、タウリン高含有シイタケ、マイタケについて、吸収効率等に対する吸収時間の影響を評価した。GABA、タウリンの定量は、収穫直後の試料を用い実施例1と同条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図8に示す。これより、GABAタウリンいずれの場合にも1時間以上の吸収時間を用いると効率よく吸収・蓄積されることが判った。
【0054】
実施例9
GABA、タウリンを吸収させる場合の前記物質の表面施用後の吸収時の温度の影響を見るため、GABA、タウリンの濃度を変えた溶液を用いて、実施例6と同条件で作成したGABA、タウリン高含有シイタケ、マイタケについて、吸収効率等に対する温度の影響を評価した。GABA、タウリンの定量は、収穫直後の試料を用い実施例1と同条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図9に示す。これより、GABAタウリンいずれの場合にもシイタケは10℃〜24℃、マイタケは17℃以下の温度を用いると効率よく吸収・蓄積されることが判った。また、得られた製品の品質を表4に示した。吸収温度が24℃の場合は製品が変形・褐変し品質が低下したが、17℃以下の場合の品質は良好であった。以上より、17℃前後の温度を用いると効率よく吸収・蓄積され品質も良好であることが判った。
【0055】
【表4】
【0056】
実施例10
GABA、タウリンを蓄積させたGABA、タウリン高含有キノコの蓄積含量の安定性を調べるため、実施例6と同条件で作成したGABA、タウリン高含有キノコついて、5℃、湿度95%、暗条件下でのGABA、タウリン含量の安定性評価(貯蔵試験)を行った。GABA、タウリンの定量は、貯蔵試験終了直後の試料を用い実施例1と同条件で測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図10に示す。これより、どの試料においても濃度の低下がほとんどなく、長期に安定的にそれぞれGABA、タウリンを含有していることが判った。これより、本発明の方法によって作成された試料中のGABA、タウリンは保存中に分解等受けずに非常に安定的に保持されることが判る。
【0057】
実施例11
露地におけるニラ・オオムギ等の土耕栽培野菜を栽培する場合、季節・天候により温度が低いため機能性物質を十分に吸収・蓄積が出来ない場合や、また、降雨等により十分な機能性物質吸収時間を得られない場合が想定される。そこで、吸収温度が低い条件(15℃)あるいは吸収時間が短い条件(4時間)において、処理液への乳化剤添加による機能性物質蓄積含量の増加を試みた。ニラ、オオムギの試料作成は以下の方法で行った。すなわち、吸収温度を15℃あるいは25℃、吸収時間を4時間あるいは12時間とし、処理液に0.1%のソルビトール系乳化剤を添加した他は実施例1に準じて作成した。対象物質はGABAとし、収穫直後の試料を用い実施例1と同条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。含量はFW重量当たりの含量で示した。その結果を図11、表5に示す。これより、乳化剤の添加により15℃程度の低い吸収温度や4時間程度の短い吸収時間においても、実施例のオオムギでは十分な量のGABA(20mg/100gFW以上)を含有しており、また、ニラでもGABA含量が高いことから(10mg/100gFW以上)、本発明により、露地土耕栽培等の季節・天気により吸収温度・時間が左右される環境下においても極めて簡便かつ効率的に品質低下させることなくGABA高含有土耕栽培野菜を生産できることが判る。
【0058】
【表5】
【0059】
実施例12
GABA・タウリン蓄積させる場合の処理労力、処理液量、GABA・タウリン蓄積含量、製品の品質について、特許文献1の方法(浸漬施用)との比較をおこなった。表面施用による製品の作成は、実施例1,実施例6に順じて行った。その結果を表6示す。特許文献1の方法(浸漬施用)では処理労力、処理液量が悪いか極めて悪かったのに対し表面施用では極めて良かった。また、シイタケ、マイタケにおいては、特許文献1の方法(浸漬施用)ではGABA・タウリンを吸収・蓄積しなかったのに対し、表面施用では十分量のGABA・タウリンを吸収した。これより、本発明の方法は、特許文献1の方法(浸漬施用)に比べ格段の進歩性を持つことが判る。
【0060】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、野菜・キノコ等の生鮮食品製造等の農業、食品分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1の実験結果。
【図2】実施例2の実験結果。
【図3】実施例3の実験結果。
【図4】実施例4の実験結果。
【図5】実施例5の実験結果。
【図6】実施例6の実験結果。
【図7】実施例7の実験結果。
【図8】実施例8の実験結果。
【図9】実施例9の実験結果。
【図10】実施例10の実験結果。
【図11】実施例11の実験結果。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有する土耕栽培野菜。
【請求項2】
GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有するキノコ。
【請求項3】
土耕栽培中の野菜の葉および/または茎に、0.2〜2.0%(W/V)のGABAおよび/またはタウリン、並びに乳化剤を含有する水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液を前記葉および/または茎に付着した状態を維持して、GABAおよび/またはタウリンを葉および/または茎に吸収させることを含む、GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有する土耕栽培野菜の製造方法。
【請求項4】
前記水溶液の噴霧量は、土耕栽培中の野菜1kgに対して80〜200mlの範囲である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
キノコの子実体に0.2〜2.0%(W/V)のGABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液を前記子実体に付着した状態を維持して、GABAおよび/またはタウリンを子実体に吸収させることを含む、GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有するキノコの製造方法。
【請求項6】
前記水溶液を噴霧するキノコが収穫直前のキノコであり、吸収が終了後、収穫する、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記水溶液の噴霧量は、キノコ1kgに対して80〜200mlの範囲である、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項1】
GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有する土耕栽培野菜。
【請求項2】
GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有するキノコ。
【請求項3】
土耕栽培中の野菜の葉および/または茎に、0.2〜2.0%(W/V)のGABAおよび/またはタウリン、並びに乳化剤を含有する水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液を前記葉および/または茎に付着した状態を維持して、GABAおよび/またはタウリンを葉および/または茎に吸収させることを含む、GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有する土耕栽培野菜の製造方法。
【請求項4】
前記水溶液の噴霧量は、土耕栽培中の野菜1kgに対して80〜200mlの範囲である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
キノコの子実体に0.2〜2.0%(W/V)のGABAおよび/またはタウリンを含有する水溶液を噴霧し、噴霧した水溶液を前記子実体に付着した状態を維持して、GABAおよび/またはタウリンを子実体に吸収させることを含む、GABAおよび/またはタウリンを10mg/100gFW以上含有するキノコの製造方法。
【請求項6】
前記水溶液を噴霧するキノコが収穫直前のキノコであり、吸収が終了後、収穫する、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記水溶液の噴霧量は、キノコ1kgに対して80〜200mlの範囲である、請求項5または6に記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−201477(P2009−201477A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49987(P2008−49987)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省「都市エリア産学官連携促進事業」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省「都市エリア産学官連携促進事業」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
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