説明

SiCエピタキシャルウエーハおよびそれを用いた半導体デバイス

【課題】優れた性能を有するSiC単結晶とそのエピタキシャル成長方法を提供する。かかるSiCエピタキシャル単結晶を用いて作製された、ウエーハと半導体デバイスを提供する。
【解決手段】SiC基板の面を、(0001)面から5.74度±1度以内または2.86度±0.7度以内のオフ角に設定して、前記SiCの基板上にSiCの結晶をエピタキシャル成長させる工程を有しているSiCエピタキシャルウエーハの製造方法。前記オフ角が、(0001)面から5.74度±0.5度以内または2.86度±0.5度以内であるSiCエピタキシャルウエーハの製造方法。前記オフ角が、(0001)面から5.74度±0.3度以内または2.86度±0.3度以内であるSiCエピタキシャルウエーハの製造方法。SiC基板が、SiC基板上に改良レーリー法により堆積されたSiC結晶から作製されたものであるSiCエピタキシャルウエーハの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiCエピタキシャルウエーハおよびそれを用いた半導体デバイスに関し、特にSiC基板上にSiC単結晶をエピタキシャル成長させる際の基板の面方位を基準面から特定のオフ角度にしたSiCエピタキシャルウエーハとその製造方法、およびかかるSiCエピタキシャルウエーハを用いたSiC半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭化珪素(以下、「SiC」と記す)あるいは窒化ガリウム(GaN)等の軽元素(原子番号の小さい元素)からなる化合物半導体の研究が盛んになされている。このような化合物半導体は、軽元素からなるため結合エネルギーが大きく、その結果エネルギーの禁制帯幅(バンドギャップ)、絶縁破壊電界、熱伝導率が大きいという優れた特徴を有する。このため、これらの優れた特徴を活かして、高効率かつ高耐圧のパワーデバイス、高周波パワーデバイス、高温動作デバイス、あるいは青色から紫外発光デバイス用の材料として注目を集めている。
【0003】
ところで、これらの化合物を半導体材料として使用するためには、ある程度の大きさを有する高品質の単結晶を得る必要がある。しかし、これらの化合物は、結合エネルギーが大きく、大気圧では高温にしても融解しないという特徴がある。このため、大きな単結晶を得る方法として、シリコン(Si)等の他の半導体で用いられている方法、例えばアモルファスあるいは微細な粒からなる固まりにレーザを照射して一旦融解させ、融液が冷却する際の再結晶化を利用してバルク結晶を育成する等の方法を採用することは困難である。
【0004】
そこで従来は、アチソン法と呼ばれる化学反応を利用する方法、レーリー法と呼ばれる昇華再結晶を利用する方法により、SiCの単結晶の小片が製造されていた。
しかし、アチソン法は、珪石とコークスの混合物を電気炉で加熱し、自然発生的な核形成によって結晶を析出させるため、不純物が多く、得られる結晶の形および結晶面の制御が困難である。
また、レーリー法では、自然核発生的な核形成によって結晶が成長するため、結晶の形および結晶面の制御が困難である。
【0005】
このため、最近は、これらの方法によって製造されたSiCの単結晶を基板として用い、その上に昇華再結晶化させる改良レーリー法により単一のポリタイプで成る大型のSiCインゴットが得られ(特許文献1)、さらにこのインゴットを薄くスライスし、表面を鏡面加工したウエーハが製造される様になっている。さらにそのウエーハ上に気相エピタキシャル成長法または液相エピタキシャル成長法によって目的に応じた、必要とする大きさの単結晶を成長させることがなされる様になっている。さらに、この際、不純物密度と膜厚を制御して活性層を形成し、これを用いてpn接合ダイオード、ショットキーダイオード、各種のトランジスタ等のSiC半導体デバイスが作製されている。
【0006】
しかしながら、改良レーリー法を用いる場合においても、通常は、SiC(0001)面上にエピタキシャル成長させることは困難であり、このため1度以上12度以下に角度をずらしたオフ面に成長させることについて発明がなされており(特許文献2)、工業的には、再現性が充分得られる8度あるいはインゴットから切取れるウエーハの枚数が多い4度のオフ(ずらした)角度を設けた基板が使われている。
【0007】
しかしながら、これらの場合には、特に4度オフの場合には、結晶表面における原子ステップの集合合体現象(ステップバンチング)が生じ易い。そして、このステップバンチングの発生度合いが大きくなると、SiCエピタキシャル成長層の表面粗さが増大するため、半導体デバイスを作製したときに、例えば、金属―酸化膜―半導体(MOS)界面の平坦性が悪化し、MOS型電界効果トランジスタ(MOSFET)の反転層チャネル移動度が低下することなどの問題が生じる。また、pn接合、ショットキー障壁界面の平坦性が悪化して接合界面における電界集中が発生し、耐圧性の低下、漏れ電流の増大等の不都合が生じる。
【0008】
次に、SiCには多数のポリタイプが存在するが、その中でも4H型ポリタイプ(4H−SiC)が高い移動度を有し、ドナーやアクセプタのイオン化エネルギーも小さいことから、SiC半導体デバイスの作製に最適と考えられている。
しかし、4H―SiC(0001)面あるいはこの面から4度あるいは8度のオフ角度を設けた基板のエピタキシャル成長層を用いてMOSFETを作製すると、エネルギーバンドギャップが他のポリタイプ(6H−SiCや15R−SiC)と比較して広いことが災いし、伝導帯近傍の界面順位密度が高いことからチャネル移動度が数十cm/Vs程度と非常に小さく、高性能トランジスタに要求される性能を充たさない。
【0009】
このため、SiCの(0001)面以外の面、例えば(1−100)面等を持った種結晶を用いて、改良レーリー法による成長を行い、マイクロパイプ数の少ないインゴットを得る発明が提案されている(特許文献3)。
【0010】
しかし、SiC(1−100)面の基板上にエピタキシャル成長を行うと、成長時に積層欠陥が発生し易く、半導体デバイスの作製に充分な品質を有する単結晶を得ることが困難である。
また、SiC(11−20)面の基板上に成長させるとマイクロパイプの発生が低減することが知られているが、SiC(11−20)面上に高品質のエピタキシャル成長層を作製することは容易ではない。即ち、縦方向に電流を流すデバイスに適用する際には、電気抵抗を下げて電気的な損失を低減する目的で基板に不純物をドーピングするため、エピタキシャル成長層と基板の界面における不純物の密度の差に起因する歪が発生し、これがエピタキシャル結晶性に悪影響を与えることによる。
【0011】
また、従来は6H型ポリタイプの6H−SiC(11−20)面が研究されてきたが、この面を基板としてその上に成長させた単結晶でデバイスを作製すると、電子移動度に異方性が生じるため、半導体デバイスとして使用する際に問題となる。即ち、6H―SiC結晶中では<0001>軸方向の電子移動度が、<1−100>、<11−20>方向の移動度の20〜30%程度と小さいため、6H−SiC(11−20)面内の電気伝導に3〜5倍の異方性が生じてしまう。
【特許文献1】特公昭59−48792号公報
【特許文献2】米国特許第5011549号
【特許文献3】特許第2804860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このため、ステップバンチング、積層欠陥、マイクロパイプ数、らせん転位、成長層と基板の界面との歪、電子移動度の異方性等の欠陥や好ましくない現象の発生が少なく、均一で良好な結晶性を有するSiC単結晶のエピタキシャル成長方法の開発が、ひいてはかかる成長方法に基づくSiCエピタキシャルウエーハやその製造方法の開発が望まれていた。
さらに、かかるSiCエピタキシャルウエーハを用いて作製されているため、効率、耐熱性、エネルギーの禁制帯幅、絶縁破壊電界、漏れ電流、チャネル移動度、電子移動度、等方向性等に優れた性質を有する半導体デバイスの開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者は、以上の課題を解決することを目的として鋭意研究した結果、SiC(0001)面のオフ角度が5度弱から7度以下、特に6度付近において、結晶に周期的なステップ構造が現れ、良好なエピタキシャル面、酸化物半導体界面が得られることを見出し、本願発明を完成した。
【0014】
また、SiC(0001)面のオフ角度が2度強から3.5度以下、特に3度付近において、結晶に周期的なステップ構造が現れ、良好なエピタキシャル面、酸化物半導体界面が得られることを見出し、本願発明を完成した。
以下、研究の技術的内容を説明する。
【0015】
図1に、4H−SiC(0001)結晶の構造を概念的に示す。図1において、○で囲んだA、B、CがSi―Cの原子対であり、○で囲んだA、B、Cの図上左右(水平)方向の列が積層した結晶を構成する層(結晶面)であり、また破線で囲まれた部分が4つの層からなる1ユニットセルである。
【0016】
4H−SiC(0001)基板面にオフ角を持たせてエピタキシャル成長を行った場合には、成長面を高温の水素を使用したエッチング後原子間力顕微鏡(AMF)で観察することにより、(0001)面と(11−2n)面が交互に現れるナノファセットという周期的構造が形成されることが判明している。これを、図2に示す。図2において、10は(0001)面であり、20は(11−2n)面であり、さらに(0001)面に対して(11−2n)面は約14度傾いている。
【0017】
また、(11−2n)面の高さは、SiCのc軸方向のユニットセルの1/2の整数倍となる。図2の上の図は高さが1ユニットセルの場合であり、下の図は2ユニットセルの場合である。さらに、何れの面も、その表面には炭素(C)と珪素(Si)の原子が交互に並んでおり、(11−2n)面の部分の段差は1nmである。このため、図2の上の図では、段差は1nmとなり、下の図では2nmとなる。
【0018】
この周期的ナノファセットの成因は、定性的には表面エネルギー最小化による表面相分離とファセット{完全に平坦な表面、例えば(0001)面に対して、異なる結晶面指数を有する表面構造}間相互作用による周期化によるものとされているが、定量的には説明されていない。
【0019】
本願発明者は、傾斜SiC(0001)面のナノファセットの周期性に関して、基板のオフ角度の依存性を調べるため、オフ角度を2度から12.5度まで0.5度刻みに変化させて詳細に研究した結果、以下の理論および実験より基板のオフ角度の如何にかかわらず周期のピークはほぼ20nmとなること、さらに特に6度オフの基板に成長させたときには、非常に周期性が高い構造(周期距離)が現れることを見出した。
【0020】
図3は、周期距離が基板のオフ角に無関係にほぼ20nmとなることと、nが1/2、1、2、3、4の各場合における周期距離とθの関係を示す図である。図3において、●点は、オフ角度を2度から12.5度まで0.5度刻みに変化させたときの周期距離の実測値である。図中、バーは周期距離の揺らぎの半値幅を示す。
図3より、周期距離はオフ角度が異なっていてもほぼ20nmであることが判る。
【0021】
周期のピークがほぼ20nmとなる理由は、ナノファセット間に作用するファセット間相互作用によるものと考えられる。ナノファセット間のファセット間相互作用の起因は明らかではないが、古典的な弾性理論によると、ファセット端における弾性歪により生じたモーメントの釣合の結果であると考えられている。そして、基板のオフ角度が異なっていても、ファセット端の形状は(0001)面と(11−2n)面で決まるため、ファセット間相互作用は同じとなり、基板のオフ角度が異なっていても、周期性が現れるものと考えられる。
【0022】
次に、図3における曲線は、各ユニットセルバンチング(UCB)についての周期距離の理論曲線である。この理論曲線は、以下により求められる。
図4は、ナノファセットが綺麗な周期性を示す場合の(0001)面と(11−2n)面の状態を説明する図である。図4において、Dはナノファセットの周期距離であり、θは基板のオフ角度であり、cは1ユニットの高さであり、10は(0001)面であり、20は(11−2n)面である。
また、(11−2n)面にはn個のユニット(nユニットセルバンチング、UCB)があるものとする。ここに、nは、1/2、1、2、3、4のいずれかである。
このため、Dとnとcとθには、以下の(1)式が成立する。
D=n×c/sinθ・・・(1)
【0023】
前記(1)式を用い、c=1nmとして、nが1/2、1、2、3、4の各場合における周期距離Dとθの関係を求めることにより、図3の理論曲線が描かれる。
図3において、理論曲線と周期距離Dが20.0nmの場合の水平線の交点におけるオフ角度が、周期距離が20nmの場合に最適のオフ角度となる。
そして、実測値より2UCBの場合の理論曲線とD=20nmの水平線の交点のオフ角度5.74度付近における実測値の半値幅が小さく、特に強い周期性を示していることが判る。
このことより、SiC基板の面を(0001)面から5.74度付近のオフ角度に設定することにより、周期性の高いナノファセット構造が形成されることが判る。
【0024】
また、2.86度の場合にも周期性がよい様に思われる。このため、SiC基板の面を(0001)面から2.86度付近のオフ角に設定することにより、5.74度のオフ角の場合と同様に、周期性の高いナノファセット構造が形成されることも判る。
【0025】
そして、本願発明者は前記の通りオフ角度を変化させて、SiCをエピタキシャル成長させた基板の表面に酸化膜を形成し、界面順位密度、キャリア伝導度を評価したところ、特に6度オフの場合に著しい界面順位密度の低減とキャリア伝導度の増大が確認された。これは、ナノファセットの周期性によるものと判断される。即ち、6度オフ面においては、表面のステップ(段差)の周期性に乱れがないため、丁度電子が結晶格子の周期ポテンシャル中を伝播するように、電子の伝播が阻害されず、また局所的な弾性歪が発生しないため、界面順位が低減されるからと思われる。
【0026】
また、そのほぼ半分のオフ角度となる2.86度の場合にも、同じ理由で優れた性能を有することが判る。
【0027】
以上のことから、SiC基板の面を(0001)面から5.74度付近のオフ角に設定してエピタキシャル成長させたSiC結晶をスライスして得られたSiCエピタキシャルウエーハを用いることにより、優れた高性能のMOS型トランジスタを製造可能となることが判った。
【0028】
また同じく、SiC基板の面を(0001)面から2.86度付近のオフ角に設定してエピタキシャル成長させたSiC結晶をスライスして得られたSiCエピタキシャルウエーハを用いることにより、優れた高性能のMOS型トランジスタを製造可能となることも判る。
【0029】
また、前記のウエーハは、表面平坦性が優れているため、エピタキシャル成長によって形成したpn接合やエピタキシャル成長表面に形成したショットキー障壁界面での電界集中が大幅に低減され、デバイスの高耐圧化も容易となることが判る。
以下、各請求項の発明を説明する。
【0030】
請求項1に記載の発明は、
SiC基板の面を、(0001)面から5.74度±1度以内のオフ角に設定して、前記SiC基板上にSiCの結晶をエピタキシャル成長させる工程を有していることを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハの製造方法である。
【0031】
本請求項の発明においては、前記の通り、周期性の高いナノファセット構造が得られ、20.0nmの間隔毎に生じるステップバンチングに起因する階段状の凹凸と、SiCの2ユニットがなす高さ2nmとの角度とエピタキシャル成長が行われる基板の傾斜角が同じかあるいはほとんど同じであるため、ステップバンチングが起こり難く、成長層の表面が平坦となる。
このため、ステップバンチング、積層欠陥、マイクロパイプ数、らせん転位、成長層と基板の界面との歪、電子移動度の異方性等の欠陥や好ましくない現象の発生が少なく、均一で良好な結晶性を有するSiC単結晶のエピタキシャル成長方法となる。
【0032】
請求項2に記載の発明は、前記のSiCエピタキシャルウエーハの製造方法であって、
前記オフ角が、(0001)面から5.74度±0.5度以内であることを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハの製造方法である。
【0033】
本請求項は、先の請求項のオフ角度を限定したものであり、先の請求項以上に優れたSiCエピタキシャルウエーハの製造方法となる。
【0034】
請求項3に記載の発明は、前記のSiCエピタキシャルウエーハの製造方法であって、
前記オフ角が、(0001)面から5.74度±0.3度以内であることを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハの製造方法である。
【0035】
本請求項は、先の請求項のオフ角度をさらに限定したものであり、先の請求項以上に優れたSiCエピタキシャルウエーハの製造方法となる。
【0036】
請求項4に記載の発明は、
SiC基板の面を、(0001)面から2.86度±0.7度以内のオフ角に設定して、前記SiC基板上にSiCの結晶をエピタキシャル成長させる工程を有していることを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハの製造方法である。
【0037】
本請求項の発明においては、前記の通り、周期性の高いナノファセット構造が得られ、20.0nmの間隔毎に生じるステップバンチングに起因する階段状の凹凸と、SiCの2ユニットがなす高さ2nmとの角度とエピタキシャル成長が行われる基板の傾斜角が同じかあるいはほとんど同じであるため、ステップバンチングが起こり難く、成長層の表面が平坦となる。
このため、ステップバンチング、積層欠陥、マイクロパイプ数、らせん転位、成長層と基板の界面との歪、電子移動度の異方性等の欠陥や好ましくない現象の発生が少なく、均一で良好な結晶性を有するSiC単結晶のエピタキシャル成長方法となる。
【0038】
請求項5に記載の発明は、前記のSiCエピタキシャルウエーハの製造方法であって、
前記オフ角が、(0001)面から2.86度±0.5度以内であることを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハの製造方法である。
【0039】
本請求項は、先の請求項のオフ角度を限定したものであり、先の請求項以上に優れたSiCエピタキシャルウエーハの製造方法となる。
【0040】
請求項6に記載の発明は、前記のSiCエピタキシャルウエーハの製造方法であって、
前記オフ角が、(0001)面から2.86度±0.3度以内であることを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハの製造方法である。
【0041】
本請求項は、先の請求項のオフ角度をさらに限定したものであり、先の請求項以上に優れたSiCエピタキシャルウエーハの製造方法となる。なお、設置の精度は必要であるが、0.15度以内であれば、さらに好ましい。
【0042】
請求項7に記載の発明は、前記のSiCエピタキシャルウエーハの製造方法であって、
前記SiC基板が、SiC基板上に改良レーリー法により堆積されたSiC結晶から作製されたものであることを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハの製造方法である。
【0043】
本請求項の発明においては、SiCを堆積させるSiC基板が改良レーリー法により作製されているため、さらにその基板上にエピタキシャル成長により堆積されるSiC結晶も優れたものとなる。
なお、本請求項における「改良レーリー法」には、前記のアチソン法やレーリー法で成長された基板の上にSiCを昇華再結晶化させて単一のポリタイプで成る大型のSiCインゴットを得る改良レーリー法のみならず、かかる(狭義の)改良レーリー法で成長された品質良好な大型のSiCインゴットから作製された基板を使用して再度SiCを昇華再結晶化させる場合、さらにはかかることを繰返して得られた基板を使用してSiCを昇華再結晶化させる場合をも含み、さらにかかるインゴットを切断してウエーハを作製し、その上にCVD法でエピタキシャル成長させることとなる。
【0044】
請求項8に記載の発明は、前記のSiCエピタキシャルウエーハの製造方法であって、
前記SiC基板が、4H型ポリタイプ(4H―SiC)であり、SiC基板上に活性層を堆積する前に、4H―SiCのバッファ層を堆積させる工程を有していることを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハの製造方法である。
【0045】
本請求項の発明においては、SiC単結晶をエピタキシャル成長させる基板として、1ユニットがABCBの層構造からなる六方晶であり、高温安定性に優れる4H型のポリタイプを使用するため、高温のCVD法で成長させるのに都合がよい。さらに、4H−SiCは、ドナーやアクセプタのイオン化エネルギーも小さいため、SiC半導体デバイスを作製するのに最適となる。
【0046】
請求項9に記載の発明は、前記のSiCエピタキシャルウエーハの製造方法であって、
前記バッファ層に、不純物を2×1015個cm−3以上3×1019個cm−3以下の密度含ませ、さらに前記不純物の密度を前記SiC基板より低くし、また前記SiC基板から前記活性層の方に向かって前記不純物の密度を徐々に減少させる工程を有していることを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハの製造方法である。
【0047】
本請求項の発明においては、不純物濃度が基板からバッファ層、さらに活性層の方に向かって徐々に少なくなっていくため、格子定数の変化が少なくなり(窒素原子の濃度が小さくなれば、格子定数は徐々に小さくなる)、良好な結晶が成長する。
なお、不純物の濃度が2×1015個cm−3以上の密度と規定している理由は、この値未満であると結晶の導電性が低下することにより抵抗率が上がり、デバイスの電気的特性に悪影響を与えるからであり、3×1019個cm−3以下の密度であるのは、この値を超えると成長した結晶の表面が荒れること等のため、結晶性が低下するからである。
なお、「徐々に」とは、段階的、連続的の何れをも含む。
【0048】
請求項10に記載の発明は、前記のSiCエピタキシャルウエーハの製造方法であって、
前記不純物は、窒素、リン、アルミニウム、硼素のいずれかであることを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハの製造方法である。
【0049】
不純物としては、窒素、リン、アルミニウム、硼素が好ましく挙げられる。さらに、バッファ層にこれらの元素を不純物として含ませるために使用するガスとしては、各々窒素、フォスフィン、ジボラン、トリメチルアルミニウム等を挙げることができる。
【0050】
請求項11に記載の発明は、
請求項1ないし請求項10のいずれかの製造方法により製造されたことを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハである。
【0051】
本請求項の発明は、製造方法についての請求項1から請求項10の発明を製造物であるSiCエピタキシャルウエーハから捉えたものである。
【0052】
請求項12に記載の発明は、前記のSiCエピタキシャルウエーハであって、
前記SiCエピタキシャルウエーハは、
マイクロパイプ欠陥あるいはらせん転位を1個cm−2以上有するSiC基板を使用し、
前記SiC基板の上に内部のマイクロパイプ欠陥あるいはらせん転位の密度が前記SiC基板の1/5以下であり、厚さが0.3μm以上15μm以下であるバッファ層を化学気相堆積法で成長させ、さらに前記バッファ層の上に活性層を堆積させる工程を経て製造されていることを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハである。
【0053】
本請求項の発明は、製造方法についての請求項5ないし請求項7の発明の結果を効果的に活用した製造物の特徴を、SiCエピタキシャルウエーハから捉えたものである。
即ち、SiC結晶のエピタキシャル成長が、化学気相堆積法で行われるため、不純物濃度の制御、pn接合界面の制御等が容易にかつ適切に行われたウエーハが得られる。
また、SiC基板に多少の欠陥があったとしても、SiC基板上にバッファ層を成長させる方法が優れているため、バッファ層内の欠陥が少なくなり、さらにバッファ層上に形成する活性層はそれ以上に良好となる。
さらに、バッファ層の厚さが、活性層が基板の影響を受けずに結晶的に良好に成長するために薄過ぎもせず、厚過ぎもしないため、この面からも効率的に活性層を成長させることが可能となり、この様な方法により得られたSiC単結晶から得られたSiCエピタキシャルウエーハは、半導体デバイス用の優れたウエーハとなる。
【0054】
請求項13に記載の発明は、前記のSiCエピタキシャルウエーハであって、
前記SiC基板が、4H型ポリタイプ(4H―SiC)であり、SiC基板上に活性層を堆積する前に、4H―SiCのバッファ層を堆積させる工程を経て製造されていることを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハである。
【0055】
本請求項の発明は、製造方法についての請求項8の発明を製造物であるSiCエピタキシャルウエーハから捉えたものである。
【0056】
請求項14に記載の発明は、前記のSiCエピタキシャルウエーハであって、
前記バッファ層に、不純物を2×1015個cm−3以上3×1019個cm−3以下の密度含ませ、さらに前記不純物の密度を前記SiC基板より低くし、また前記SiC基板から前記活性層の方に向かって前記不純物の密度を徐々に減少させる工程を経て製造されていることを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハである。
【0057】
本請求項の発明は、製造方法についての請求項9の発明を製造物であるSiCエピタキシャルウエーハから捉えたものである。
【0058】
請求項15に記載の発明は、前記のSiCエピタキシャルウエーハであって、
前記不純物は、窒素、リン、アルミニウム、硼素のいずれかであることを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハである。
【0059】
本請求項の発明は、製造方法についての請求項10の発明を製造物であるSiCエピタキシャルウエーハから捉えたものである。
【0060】
請求項16に記載の発明は、
請求項11ないし請求項15のいずれかに記載のSiCエピタキシャルウエーハを用いて作製されていることを特徴とするSiC半導体デバイスである。
【0061】
本請求項の発明のSiC半導体デバイスは、請求項11ないし請求項15のいずれかに記載のSiCエピタキシャルウエーハを用いて作製されているため、優れた特性を有する。
【0062】
請求項17に記載の発明は、
表面に金属/SiCのショットキー障壁を有していることを特徴とする請求項16に記載のSiC半導体デバイスである。
【0063】
本請求項の発明のSiC半導体デバイスは、請求項16に記載のSiC半導体デバイスを用いて作製されているため、優れたショットキー特性を有する。
【0064】
請求項18に記載の発明は、
エピタキシャル成長あるいはイオン注入によって形成されたpn接合を有していることを特徴とする請求項16に記載のSiC半導体デバイスである。
【0065】
本請求項の発明のSiC半導体デバイスは、請求項16に記載のSiC半導体デバイスを用いて作製されているため、優れたpn接合特性を有する。
【0066】
請求項19に記載の発明は、
熱酸化または化学気相堆積法で形成された酸化膜からなるゲート絶縁膜を有していることを特徴とする請求項16に記載のSiC半導体デバイスである。
【0067】
本請求項の発明のSiC半導体デバイスは、請求項16に記載のSiC半導体デバイスであり、6度オフあるいは3度オフ面上の成長層でSiCが成長されているため、極めて平坦なMOS界面が得られ、表面粗さによる電子デバイスの特性劣化が低減される。このため、酸化または化学気相堆積法で形成されたゲート絶縁膜は、優れた特性を有する。
【0068】
請求項20に記載の発明は、
表面保護膜の一部として、熱酸化または化学気相堆積法で形成された酸化膜を有していることを特徴とする請求項16ないし請求項19のいずれかに記載のSiC半導体デバイスである。
【0069】
請求項16ないし請求項19のいずれかに記載のSiC半導体デバイスは、6度オフあるいは3度オフ面上の成長層でSiCが成長されているため、成長表面は極めて平坦であり、表面保護膜との密着性が高く、この結果表面保護膜に期待する特性が得られる。
【発明の効果】
【0070】
本発明においては、SiC(0001)面のオフ角度が5度弱以上7度以下、特に6度付近、並びに2度強以上3.5度以下、特に3度付近において、結晶に周期的なステップ構造が現れ、良好なエピタキシャル成長面が得られることを利用してエピタキシャル成長を行っているため、ステップバンチング、積層欠陥、マイクロパイプ数、らせん転位、成長層と基板の界面との歪、電子移動度の異方性等の欠陥や好ましくない現象の発生が少なく、均一で良好な結晶性を有するSiCエピタキシャルウエーハの製造が可能となり、またかかるSiCエピタキシャルウエーハが得られる。
【0071】
また、基板と活性層間に所定の密度の不純物を含み、さらに不純物密度が活性層の方に向かって徐々に小さくなるバッファ層を設けているため、基板内あるいは基板界面の不純物が多少おおくても、優れた活性層を成長させることが可能となる。
【0072】
さらに、かかるSiCエピタキシャルウエーハを用いて作製しているため、効率、耐熱性、エネルギーの禁制帯幅、絶縁破壊電界、漏れ電流、チャネル移動度、電子移動度、等方向性等に優れた性質を有する半導体デバイスが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0073】
以下、本発明をその最良の実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0074】
(第1の実施の形態)
本実施の形態では、SiC基板からSiCエピタキシャル成長層へのマイクロパイプやらせん転位の貫通、および成長表面の結晶性を調べるため、4H−SiC(0001)面から6度オフ(<11−20>方向)の面に化学気相堆積(CVD)法によりn型SiC層を成長させた。
【0075】
また、比較のため、4H−SiC(0001)4度オフ面および(0001)8度オフ(<11−20>方向)面の基板にも同時にCVD成長させた。
基板は、改良レーリー法によって成長させたインゴットをスライスし、鏡面研磨して作製したものである。全てn型であり、ショットキー障壁の容量―電圧特性から求めた実効ドナー密度は、1〜2×1018個cm−3であり、厚さは380μmである。
【0076】
これらの基板を、有機溶媒、王水、フッ酸で洗浄した後、脱イオン水でリンスしてSiC膜で被覆されたグラファイト製サセプタに設置し、水素をキャリアガスとする常圧の横型CVD成長装置にセットした。なお、サセプタの加熱は、高周波誘導加熱法で行った。
【0077】
SiC基板を反応炉内にセットした後、キャリアガスである水素を使用して空気を排出するガス置換と高真空排気を数回繰り返した後、キャリアガスの水素を導入して、CVD成長プログラムに入った。
先ず、1300℃でHCl/H混合ガスによる気相エッチングを行い、その後1500℃に昇温し、シラン(SiH)、プロパン(C)等の原料ガスを導入して成長を開始させた。
【0078】
CVD成長では、最初に実効ドナー密度が3〜4×1017個cm−3のn型SiCバッファ層を4.6μm成長させた後、実効ドナー密度1〜2×1016個cm−3のn型活性層を12μm成長させた。成長中に窒素を添加してn型伝導性制御を行った。
このときの成長条件は、以下の通りである。
【0079】
バッファ層: シラン流量 0.30sccm
プロパン流量 0.20sccm
窒素流量 6×10−2sccm
水素流量 3.0slm
基板温度 1500℃
成長時間 110分
【0080】
活性層 : シラン流量 0.50sccm
プロパン流量 0.50sccm
窒素流量 2×10−2sccm
水素流量 3.0slm
基板温度 1500℃
成長時間 180分
【0081】
ここで、バッファ層と活性層では、温度と水素の流量は同じであるのに、シランとプロパンの比率が大きく異なり、また両方の原料ガスの流量も異なっているのは、以下の理由による。
バッファ層は「厚さが薄く窒素濃度の高い層」が、活性層は「厚さが厚く窒素濃度が低い層」が必要であり、この系ではシランの流量で律速となる条件でCVD成長を行っている。このため、バッファ層の成長を行うときにはシラン流量を減らしている。
また、窒素の取り込み量は、供給するシランとプロパンの比に依存し、シラン/プロパンの比が大きい方が窒素の取り込みが高くなる。このため、バッファ層の成長では比を大きくしている。
【0082】
エピタキシャル成長を行った試料表面を微分干渉光学顕微鏡で観察したところ、4H(0001)6度オフ、(0001)8度オフ面基板上では鏡面が得られたが、4H(0001)4度オフ面上では原子ステップの集合合体(ステップバンチング)が観察された。この4H(0001)4度オフ面上のステップバンチングは、成長前の基板表面処理法の最適化や過飽和度の低い成長条件(例えば低い原料ガス流量)でCVD成長を行うと、発生がやや低減されるが、完全に無くすことはできなかった。15mm×20mmの大きさの基板上の成長層表面を観察し、観察結果から表面欠陥(転位等の構造欠陥とは必ずしも一致しない)の密度を見積もると、(0001)6度オフ面上では4×10個cm−2、(0001)4度オフ面上では8×10個cm−2、(0001)8度オフ面では2×10個cm−2であり、(0001)6度オフ面上の成長層が最も優れていた。
【0083】
次に、原子間力顕微鏡(AFM)観察を行い、その表面形状プロファイルを測定した結果、(0001)4度オフ面上ではステップバンチングに起因する階段状の凹凸が存在することが判った。これに対して、(0001)6度オフ面上の成長層では、溝、ヒロック、ステップ等が全く観測されず、非常に平坦性がよい表面が得られた。2μm×2μmの範囲をAFM観察したときの表面粗さの二乗平均(Rms)は、(0001)6度オフ面上成長層では0.18nm、(0001)4度オフ面上成長層では6.4nm、(0001)8度オフ面上成長層では0.24nmとなり、(0001)6度オフ面が最も優れていた。
【0084】
以上の様子を、図5に概念的に示す。図5において、(1)はオフ角度が4度の場合であり、(2)は6度の場合であり、(3)は8度の場合である。また、25は段差のある部分が長くなっている場所である。6度オフ基板上に成長させたエピタキシャル層の表面では、(0001)と(11−2n)により形成されるナノファセット構造が等間隔かつ平行に形成されているが、4度オフ、8度オフの場合には間隔のバラツキが多少多いことが判る。
これは、6度オフ基板の成長において、最も均一性および平坦性に優れたエピタキシャル層が得られていることを示している。
【0085】
(第2の実施の形態)
4H−SiC(0001)6度オフ面および(0001)8度オフ面の基板上に作製したSiCエピタキシャル成長層を用いて、高耐圧ダイオードを試作した。用いた基板は、4H−SiC(000−1)種結晶上に改良レーリー法によって成長したインゴットをスライスし、鏡面研磨することによって作製した4H−SiC(0001)6度オフ面、および4H−SiC(0001)8度オフ面である。基板は全てn型であり、ショットキー障壁の容量―電圧特性から求めた実効ドナー密度は、6×1018個cm−3、厚さは330〜340μmである。この上に、CVD法によって窒素ドープn型4H−SiC層をエピタキシャル成長させた。
【0086】
3×1018個cm−3から1×1016個cm−3までドナー密度を段階的に変化させながら各層につき約0.3μmずつ、合計約1.5μmのバッファ層を形成した後、活性層となる高純度n型4H―SiC層を成長させた。活性層のドナー密度は6×1015cm−3であり、膜厚は16μmである。
比較のために、活性層なしの試料も作製した。
主な成長条件は、以下の通りである。
【0087】
バッファ層: シラン流量 0.30sccm
プロパン流量 0.20sccm
窒素流量 2×10−3〜0.5sccm
水素流量 3.0slm
基板温度 1520℃
成長時間 60分
【0088】
活性層 : シラン流量 0.50sccm
プロパン流量 0.50sccm
窒素流量 4×10−3sccm
水素流量 3.0slm
基板温度 1520℃
成長時間 240分
【0089】
この様にして作製したSiC(0001)6度オフ面および(0001)8度オフ面エピタキシャルウエーハを用いて、ショットキーダイオードを作製した。ショットキー電極にはチタン(Ti、厚さ180nm)を、裏面のオーム性電極には1000℃で20分間の熱処理を施したニッケル(Ni、厚さ200nm)を用いた。ショットキー電極端部での電界集中を緩和するため、硼素(B)イオンを注入して高抵抗p型領域(ガードリング)を形成した。硼素イオンの注入は、120keV、80keV、50keV、30keVの4段階で行い、総ドーズ量は3×1013個cm−2である。
【0090】
イオン注入は室温で行い、注入したイオンの活性化のための熱処理(アニール)は、アルゴン雰囲気中、1550℃で30分行った。
なお、これらの選択的イオン注入用マスクや電極金属のパターニングは、フォトリソグラフィを用いた。チタンショットキー電極は、円形であり、直径を100μmから3mmの範囲で変化させた。
ガードリングを形成する硼素イオン注入p型領域の幅は100μmであり、このp型領域とチタンショットキー電極の重なり部の幅は10μmである。
【0091】
4H−SiC(0001)6度オフ基板上にバッファ層を設けて成長させた試料で作製したダイオードの特性は、以下の様であった。
電極直径が300μmのダイオードでは、逆方向特性は耐圧2100Vを達成し、しかも−1000V印加時のリーク電流も6×10−6A/cmと小さく、順方向特性は、オン電圧(電流密度が100A/cm時の電圧降下)が1.2Vであり、オン抵抗は4×10−3Ωcmであり、非常に優れていた。
【0092】
電極直径300μm以下の小さいダイオードでは、4H−SiC(0001)8度オフ基板上で成長させた試料で作製したものでも同様のダイオード特性が得られた。しかし、電極面積が300μmより大きなものでは耐圧特性が劣っていた。
【0093】
また、耐圧特性だけでなく、−1000V印加時のリーク電流密度の平均値を電極直径500μmのダイオードで比較すると、バッファ層を設けた4H−SiC(0001)6度オフ基板上の成長層を用いたダイオードでは1×10−5A/cmであり、一方バッファ層を設けなかった4H−SiC(0001)6度オフ基板上の成長層を用いたダイオードでは6×10−5A/cmであり、4H−SiC(0001)8度オフ基板上の成長層を用いたダイオードでは8×10−5A/cmであった。
【0094】
これは、4H−SiC(0001)6度オフ面を用いることにより、成長表面の平坦性がよくなり、ショットキー電極とSiCの界面での電界集中が低減されるからと思われる。
本実施の形態では、ショットキーダイオードについて説明してきたが、pn接合ダイオードやサイリスタの場合でも、4H−SiC(0001)6度オフ面の成長層を用いたものが最も性能が優れていた。
【0095】
(第3の実施の形態)
4H―SiC(0001)4度オフ面、(0001)6度オフ面および(0001)8度オフ面の基板上に作製したエピタキシャル成長層を用いてnチャンネル反転型MOSFETを試作した。用いた基板は、4H−SiC(000−1)種結晶上に改良レーリー法によって成長させたインゴットをスライスし、鏡面研磨することによって作製した4H−SiC(0001)4度オフ面、6度オフ面および8度オフ面である。基板は全てp型であり、ショットキー障壁の容量―電圧特性から求めた実効アクセプタ密度は、2〜5×1018個cm−3、厚さは320〜340μmであった。この上に、CVD法によって硼素ドープp型4H−SiC層をエピタキシャル成長させた。
【0096】
8×1017個cm−3から1×1016個cm−3までアクセプタ密度を段階的に減少させながら各層につき約0.4μmずつ、合計約1.6μmのバッファ層を形成した後、活性層となる高純度p型4H―SiC層を成長させた。活性層のアクセプタ密度は5×1015個cm−3であり、膜厚は5μmである。また、不純物の硼素は、ジボラン(B)を流すことにより供給した。主な成長条件は、以下の通りである。
【0097】
バッファ層: シラン流量 0.30sccm
プロパン流量 0.20sccm
ジボラン流量 8×10−5〜7×10−3sccm
水素流量 3.0slm
基板温度 1500℃
成長時間 70分
【0098】
活性層 : シラン流量 0.48sccm
プロパン流量 0.64sccm
ジボラン流量 4×10−6sccm
水素流量 3.0slm
基板温度 1500℃
成長時間 120分
【0099】
この様にして作製したSiCエピタキシャルウエーハを用いて、n型チャネル反転型MOSFETを作製した。先ず、ソース、ドレイン領域形成のために窒素イオン(N)を注入して低抵抗n型領域を作製した。Nイオン注入は、140keV、80keV、50keV、25keVの4段階で行い、総ドーズ量は8×1014個cm−2であった。イオン注入は室温で行い、注入したイオンの活性化のための熱処理(アニール)は、アルゴン雰囲気中、1450℃で30分行った。
【0100】
次に、水分が存在しない雰囲気中でのドライ酸化によりゲート酸化膜を形成した。酸化条件は、1150℃、3時間であり、ゲート酸化膜の厚さは35〜46nmである。ソース電極とドレイン電極には、各々アルミ(厚さ250nm)とチタン(厚さ30nm)を用い、800℃で60分間の熱処理を施した。ゲート電極にはアルミニウム(厚さ200nm)を用い、電極形成後フォーミングガス(水素と窒素)中で450℃、10分間熱処理を施した。なお、これらの選択的イオン注入用マスクや電極金属のパターニングは、フォトリソグラフィを用いた。MOSFETのチャネル長は30μm、チャネル幅は200μmである。
【0101】
作製したMOSFETは、ノーマリオフ型のMOSFETとして良好な動作を示した。他の試料を用いたMOSFETでも、全てFET動作は確認されたが、チャネル移動度やしきい値電圧に相違が見られた。
各MOSFETについて少なくとも6個、線形領域から実効チャネル移動度を求めた。表1に、それらの平均値を示す。
【0102】
【表1】

【0103】
表1から判る様に、チャネル移動度を比較すると、6度オフ面上で作製したMOSFETで、高いチャネル移動度が得られている。この理由として、6度オフ面上の成長層ではステップが周期的に並んでいるため極めて平坦なMOS界面が得られており、表面粗さによる散乱が低減されていることが考えられる。6度オフでは、表面の弾性エネルギーが最小になることから、酸化膜を作製した時に、MOS界面に形成される界面準位密度が少ないことが挙げられる。そのため、高性能MOSFET、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSゲートサイリスタ等を作製するのに有効である。
【0104】
なお、本実施の形態では熱酸化によってゲート膜を作製したが、CVD法によってSiO膜を堆積させる場合も6度オフ面を用いるのが効果的である。
また、本実施の形態では、MOS界面の特性を調べるために反転型MOSFETを作製したが、6度オフ面を用いると良好な酸化膜/SiC界面特性が得られるので、他のデバイス作製にも適用可能である。例えば、SiC半導体デバイスに酸化膜を第1層とする表面保護膜を設ける場合には、非常に安定で、界面におけるキャリア生成速度が低い特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】4H−SiC(0001)基板の結晶の構造を概念的に示す図である。
【図2】ナノファセット構造が形成される様子を概念的に示す図である。
【図3】周期距離Dが基板のオフ角に無関係にほぼ20nmとなることと、nが1/2、1、2、3、4の各場合における周期距離Dとθの関係を示す図である。
【図4】ナノファセットが綺麗な周期性を示す場合の(0001)面と(11−2n)面の状態を説明するための図である。
【図5】4H―SiC(0001)4度オフ面、6度オフ面、8度オフ面基板を使用してエピタキシャル成長を行った試料の表面を、原子間力顕微鏡で観察した様子を概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0106】
10 (0001)面
20 (11−2n)面
25 段差のある部分が長くなっている場所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC基板の面を、(0001)面から5.74度±1度以内のオフ角に設定して、前記SiC基板上にSiCの結晶をエピタキシャル成長させる工程を有していることを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハの製造方法。
【請求項2】
前記オフ角が、(0001)面から5.74度±0.5度以内であることを特徴とする請求項1に記載のSiCエピタキシャルウエーハの製造方法。
【請求項3】
前記オフ角が、(0001)面から5.74度±0.3度以内であることを特徴とする請求項2に記載のSiCエピタキシャルウエーハの製造方法。
【請求項4】
SiC基板の面を、(0001)面から2.86度±0.7度以内のオフ角に設定して、前記SiC基板上にSiCの結晶をエピタキシャル成長させる工程を有していることを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハの製造方法。
【請求項5】
前記オフ角が、(0001)面から2.86度±0.5度以内であることを特徴とする請求項4に記載のSiCエピタキシャルウエーハの製造方法。
【請求項6】
前記オフ角が、(0001)面から2.86度±0.3度以内であることを特徴とする請求項5に記載のSiCエピタキシャルウエーハの製造方法。
【請求項7】
前記SiC基板が、SiC基板上に改良レーリー法により堆積されたSiC結晶から作製されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のSiCエピタキシャルウエーハの製造方法。
【請求項8】
前記SiC基板が、4H型ポリタイプ(4H―SiC)であり、SiC基板上に活性層を堆積する前に、4H―SiCのバッファ層を堆積させる工程を有していることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のSiCエピタキシャルウエーハの製造方法。
【請求項9】
前記バッファ層に、不純物を2×1015個cm−3以上3×1019個cm−3以下の密度含ませ、さらに前記不純物の密度を前記SiC基板より低くし、また前記SiC基板から前記活性層の方に向かって前記不純物の密度を徐々に減少させる工程を有していることを特徴とする請求項8に記載のSiCエピタキシャルウエーハの製造方法。
【請求項10】
前記不純物は、窒素、リン、アルミニウム、硼素のいずれかであることを特徴とする請求項9に記載のSiCエピタキシャルウエーハの製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれかの製造方法により製造されたことを特徴とするSiCエピタキシャルウエーハ。
【請求項12】
前記SiCエピタキシャルウエーハは、
マイクロパイプ欠陥あるいはらせん転位を1個cm−2以上有するSiC基板を使用し、
前記SiC基板の上に内部のマイクロパイプ欠陥あるいはらせん転位の密度が前記SiC基板の1/5以下であり、厚さが0.3μm以上15μm以下であるバッファ層を化学気相堆積法で成長させ、さらに前記バッファ層の上に活性層を堆積させる工程を経て製造されたことを特徴とする請求項11に記載のSiCエピタキシャルウエーハ。
【請求項13】
前記SiC基板が、4H型ポリタイプ(4H―SiC)であり、SiC基板上に活性層を堆積する前に、4H―SiCのバッファ層を堆積させる工程を経て製造されていることを特徴とする請求項12に記載のSiCエピタキシャルウエーハ。
【請求項14】
前記バッファ層に、不純物を2×1015個cm−3以上3×1019個cm−3以下の密度含ませ、さらに前記不純物の密度を前記SiC基板より低くし、また前記SiC基板から前記活性層の方に向かって前記不純物の密度を徐々に減少させる工程を経て製造されていることを特徴とする請求項13に記載のSiCエピタキシャルウエーハ。
【請求項15】
前記不純物は、窒素、リン、アルミニウム、硼素のいずれかであることを特徴とする請求項14に記載のSiCエピタキシャルウエーハ。
【請求項16】
請求項11ないし請求項15のいずれかに記載のSiCエピタキシャルウエーハを用いて作製されていることを特徴とするSiC半導体デバイス。
【請求項17】
表面に金属/SiCのショットキー障壁を有していることを特徴とする請求項16に記載のSiC半導体デバイス。
【請求項18】
エピタキシャル成長あるいはイオン注入によって形成されたpn接合を有していることを特徴とする請求項16に記載のSiC半導体デバイス。
【請求項19】
熱酸化または化学気相堆積法で形成された酸化膜からなるゲート絶縁膜を有していることを特徴とする請求項16に記載のSiC半導体デバイス。
【請求項20】
表面保護膜の一部として、熱酸化または化学気相堆積法で形成された酸化膜を有していることを特徴とする請求項16ないし請求項19のいずれかに記載のSiC半導体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−131504(P2007−131504A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328993(P2005−328993)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第66回応用物理学会学術講演会(8p−ZB−11)、(8p−ZB−12)、 社団法人 応用物理学会、2005年9月7日 ICSCRM2005、2005年9月18日
【出願人】(599012835)株式会社シクスオン (10)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000005979)三菱商事株式会社 (56)
【Fターム(参考)】