説明

VEGF産生の低減方法

【課題】VEGF産生細胞におけるVEGFの産生を低減する新しい手段を提供する。
【解決手段】 USP22の発現及び/又は機能を阻害するとVEGFの産生が低減する。したがって、USP22の発現及び/又は機能の阻害すれば、VEGFの産生の低減が達成される。すなわち、USP22の発現及び/または機能の阻害を指標として、VEGF産生を阻害する化合物を同定することできる。本願は、VEGF産生を阻害する化合物のスクリーニングにおいて、USP22の発現及び/又は機能の阻害を測定するという簡便で大量高速処理が可能な方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VEGFの産生を低減する方法に関する。また、VEGF産生を低減する化合物を同定する方法に関する。さらに、VEGFにより増殖し得る細胞が過剰に増殖することに起因する病態や疾患を予防・治療する医薬品をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor、以下、VEGFと称する。)は、NCBIのOMINデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=OMIN)に、No.192240として登録されている。分子量およそ45000のホモ二量体の糖タンパクであり、内皮細胞に特異的に作用し、その増殖をうながすことが知られている(非特許文献1)。
【0003】
成体内で増殖している癌組織は酸素が欠乏した環境下(Hypoxia)にあり、また毛細血管の新生が盛んである。低酸素条件下におかれた組織における血管新生は、主にVEGFを介した刺激によりなされることが知られている。したがって、VEGF−VEGF受容体を介した情報伝達経路を阻害することにより癌の治療あるいは癌の進行を遅延させる数多くの試みがなされている(非特許文献2)。たとえば、VEGF受容体のチロシンキナーゼ活性を阻害する化合物、VEGFに対する抗体、VEGF受容体特異的CD8細胞障害性T細胞等について抗癌剤としての臨床開発が進められているとの報告がある。しかしながら、VEGFの産生自体を低下させる手段についてはあまり知られていない。
【0004】
ユビキチン特異的プロテアーゼ(Ubiquitin Specific Protease、以下、USPと称する。)は、Ubiquitin carboxyl−terminal hydrolases、ubiquitin−specific processing protease、あるいは、deubiquitinating enzymeとも呼称される、脱ユビキチン化酵素の総称である。USPの機能は、ユビキチン化した蛋白質からユビキチンを脱離することであることから、USPは蛋白質の安定化において重要な役割を担っていると考えられている(非特許文献3)。USPには多数のメンバーが存在するが、それぞれ基質特異性が高いことが知られている。
USPファミリーの一員であるUSP22は、GenBankのAccetion No.AB028986、あるいは、かずさDNA研究所のHUGEデータベースにおけるKIAA1063として知られており、593アミノ酸残基から成り、その配列中にプロリンに富む領域と二ヶ所のUCH−2(Ubiquitin carboxyl−terminal hydrolases family 2)領域を有する。USP22が脱ユビキチン化酵素として、プロテアーゼ活性を示すことも報告されている(特許文献1)。脳、肝臓、精巣、卵巣で高発現しているが、その基質又は相互作用蛋白質は未知であり、機能の詳細は不明である。
【0005】
USPファミリーに属する別のUSPである、USP20(pVHL−interacting deubiquitinating enzyme 2, VDU2)をHEK293細胞に導入すると、VEGFの産生あるいはVEGF mRNAレベルが増加することが報告されている(非特許文献4)。しかしながら、USP22とVEGF産生との間の関連性については報告がない。
【0006】
【非特許文献1】エンドクライン レビュー,18巻,4−25頁(1997)(Endcrine Review, 18:4-25, 1997)
【非特許文献2】ヨーロッピアン ジャーナル オブ キャンサー,41巻,1109−1116頁(2005)(European Journal of Cancer, 41:1109-1116, 2005)
【非特許文献3】バイオケミカル アンド バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ,266巻,633−640頁(1997)(Biochemical and Biophysical Research Communications, 266:633-640, 1999)
【非特許文献4】EMBO レポーツ,6巻,373−378頁(2005)(EMBO reports, 6:373-378, 2005)
【特許文献1】国際公開第00/50391号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、VEGFの産生を低減する新たな手段を提供することである。また、VEGF受容体を細胞表面に発現しVEGFにより増殖する細胞が過度に増殖することに基づき発症する疾病・疾患を治療し得る医薬品をスクリーニングする方法を提供し、それらの疾病・疾患を治療する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、USP22が低酸素状態におかれた細胞においてVEGF産生を促進すること、さらに、USP22の発現をUSP22のsiRNAを用いて特異的に阻害することにより、VEGF産生が低下することを見出した。したがって、USP22の発現を阻害する化合物あるいはUSPの機能を阻害する化合物が、VEGFを介した細胞の過増殖に因をなす各種の病態・疾病・疾患の予防及び/又は治療薬として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor、VEGF)産生細胞におけるVEGF産生を低減する方法であって、ユビキチン特異的プロテアーゼ22(Ubiquitin Specific Protease 22、USP22)の発現及び/又は機能を阻害する工程を含む方法を提供するものである。
【0009】
本発明は、また、USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物を含有する、VEGF産生阻害剤を提供するものである。
【0010】
本発明は、さらに、USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物を含有する、VEGF感受性細胞の増殖阻害剤を提供するものである。
【0011】
本発明は、さらにまた、USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物を含有する、VEGF感受性細胞の過増殖によって引き起こされる、病態、疾病もしくは疾患の予防及び/又は治療剤を提供するものである。
【0012】
本発明は、また、USP22をコードする遺伝子を細胞内に導入する工程を含むVEGF産生促進方法を提供するものである。
【0013】
本発明は、さらに、USP22又はUSP22をコードする遺伝子を含有する、VEGF産生促進剤を提供するものである。
【0014】
本発明は、さらにまた、VEGF産生細胞においてVEGFの産生を低減する化合物の同定方法であって、USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物を選択する工程を含む方法を提供するものである。
【0015】
本発明は、また、VEGF感受性細胞の増殖を阻害する化合物を同定する方法であって、USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物を選択する工程を含む方法を提供するものである。
【0016】
本発明は、さらに、VEGF感受性細胞の過度に増殖することにより引き起こされる、病態、疾病もしくは疾患を予防及び/又は治療するための化合物を同定する方法であって、USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物を選抜する工程を含む同定方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、たとえば、癌における血管新生を阻害し、さらに血管新生を阻害することに基づき癌細胞の増殖を阻害し、癌の進行の遅延あるいは治療に貢献できるような、新しいメカニズムの化合物を見出すことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について発明の実施の態様をさらに詳しく説明する。
【0019】
本明細書においては単離されたもしくは合成の完全長蛋白質;単離されたもしくは合成の完全長ポリペプチド;又は単離されたもしくは合成の完全長オリゴペプチドを意味する総称的用語として「蛋白質」という用語を使用することがある。ここで蛋白質、ポリペプチドもしくはオリゴペプチドはペプチド結合又は修飾されたペプチド結合により互いに結合している2個以上のアミノ酸を含むものである。以降、アミノ酸を表記する場合、1文字又は3文字にて表記することがある。
(VEGF)
「VEGF」としては、たとえば、GenBankデータベースにアクセッションナンバーAAK96847としてその遺伝子配列が登録されているが、数多くのホモログがあることが知られている。本発明におけるVEGFに特に制限はなく、一般にVEGFとして理解されている増殖因子、いずれであってもよい。たとえば、後述する実施例で用いたような市販のキットを用いて定量できるものであることもできる。
(USP22)
「USP22」としては、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるヒト由来の蛋白質を好ましく例示できる。当該配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるヒト由来の蛋白質は、GenBankデータベースにアクセッションナンバーBAA83015(593アミノ酸残基)あるいは、かずさDNA研究所のHUGEデータベースにKIAA1063として開示されている。
【0020】
USP22は、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質に制限されず、該蛋白質と配列相同性を有し、かつ該蛋白質と同様の構造的特徴及び生物学的機能を有する蛋白質である限りにおいていずれの蛋白質も包含される。
【0021】
たとえば、GenBankデータベースには、XP_042698がUSP22として登録されている。XP_042698は、747個のアミノ酸からなる蛋白質であり、KIAA1063のN末端が154アミノ酸残基分延長している。XP_042698に登録されている蛋白質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質と相同性配列を有し、かつ該蛋白質と同様の構造的特徴及び生物学的機能を有する蛋白質の一例である。
【0022】
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質と配列相同性を有する蛋白質には、該アミノ酸配列において、1個以上、たとえば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜数個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入といった変異が存するアミノ酸配列で表される蛋白質が含まれる。変異の程度及びそれらの位置等は、該変異を有する蛋白質が、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質と同様の構造的特徴及び生物学的機能を有するものである限り特に制限されない。変異を有する蛋白質は天然に存在するものであってよく、また人工的に変異を導入したものであってもよい。
【0023】
本発明において使用できる、蛋白質、ポリペプチド及びポリペプチドに変異を導入する手段は自体公知であり、たとえばウルマーの技術(ウルマー(K.M.Ulmer)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671)を利用して実施できる。このような変異の導入において、当該の基本的な性質(物性、機能又は免疫学的活性等)を変化させないという観点から、たとえば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸及び芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。さらに、これら利用できるポリペプチドは、その構成アミノ基又はカルボキシル基等を、たとえばアミド化修飾する等、機能の著しい変更を伴わない程度に改変することができる。
【0024】
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質の構造的特徴としては、酵素活性に関与するUCH−2領域、及びプロリンリッチ領域を例示できる。UCH−2領域は、配列番号1に記載のアミノ酸配列における244番目から275番目のアミノ酸配列及び527番目から587番目のアミノ酸配列に相当する領域である。またプロリンリッチ領域は、10番目から75番目のアミノ酸配列に相当する領域である。配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質と同様の構造的特徴とは、該蛋白質に存在する上記ドメインと配列相同性を有しかつ同様の機能を有するドメインを意味する。ドメインの配列相同性は、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上、またさらにより好ましくは95%以上であることが適当である。
【0025】
USP22をコードする遺伝子とは、上記USP22をコードする遺伝子をすべて包含するものとして理解されるべきものであり、たとえば配列表の配列番号2に記載の核酸配列を有するポリヌクレオチドを例示することができる。該ポリヌクレオチドの配列は、USP22の一例として挙げた配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするものであり、GenBankデータベースにAB028986として開示されている。本明細書におけるUSP22をコードする遺伝子には、該ポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質と相同性を有し、同様の構造的特徴や生物学的機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドである限りにおいていずれのポリヌクレオチドも包含される。変異を有するポリヌクレオチドは天然に存在するものであってよく、また人工的に変異を導入したものであってもよい。
【0026】
配列番号1に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質をコードするポリヌクレオチドと配列相同性を有するポリヌクレオチドには、該ポリヌクレオチドの塩基配列において、1個以上、たとえば1〜300個、好ましくは1〜90個、より好ましくは1〜60個、さらに好ましくは1〜30個、特に好ましくは1〜数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加又は挿入といった変異が存する塩基配列で表されるポリヌクレオチドが含まれる。
【0027】
配列相同性は、通常、塩基配列の全体で50%以上、好ましくは少なくとも70%であることが適当である。より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上、またさらにより好ましくは95%以上であることが適当である。
【0028】
USP22及びUSP22をコードする遺伝子は、ヒト由来の蛋白質又は核酸であることが好ましいが、該ヒト由来の蛋白質と同質の機能を有し、かつ構造的相同性を有する哺乳動物由来の蛋白質、たとえばマウス、ウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、サル、ネコ、ラット又はウサギ等に由来する蛋白質又は核酸であることができる。
(VEGF産生を低減する方法)
VEGFの産生とは、VEGFをコードするDNAの遺伝子情報がmRNAに転写され、又は、mRNAに転写されかつ蛋白質VEGFのアミノ酸配列として翻訳されることを意味する。産生が促進されるとはその過程で生じる様々な反応の少なくとも1つを促進することにより、VEGF遺伝子の転写・翻訳によるVEGFの生成を促進することを意味する。
【0029】
本発明の発明者は、後述する実施例1に示すように、低酸素状態におかれたVEGF産生細胞におけるVEGFの産生が、USP22を導入することにより顕著に増加することを見出した。さらに、実施例2に示すように、USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物でVEGF産生細胞を処置することにより、VEGFの産生が顕著に低減することを見出した。本発明は、これらの知見に基づき、USP22の発現及び/又は機能を阻害することを特徴とする、VEGF産生細胞におけるVEGF産生を極めて強力に阻害する方法を提供するものである。VEGFは、下垂体星状濾胞細胞、マクロファージ、平滑筋線維、胚線維芽細胞などの多種の正常細胞あるいは腫瘍細胞で産生されていることが知られている。本願におけるVEGF産生細胞としては、これらVEGFを産生することが知られている細胞であれば特に限定はない。複数のVEGF産生細胞に対して同時にVEGF産生を阻害することも勿論出来る。
【0030】
USP22の発現及び/又は機能の阻害は、USP22の遺伝子や機能が上述のようにすでに知られているので、それらの情報をもとに適宜実施することができる。その発現及び/又は機能を阻害する化合物の選抜も、それらUSP22遺伝子に関する情報や機能に関する情報に基づいて容易に実施することが出来る。このようにして選抜された化合物をVEGF産生細胞に有効用量供することにより、本発明のVEGF産生を低減する方法を実施することができる。USP22の発現及び/又は機能を阻害する、具体的な手段の一例について以下に記す。
(USP22の発現の阻害)
「USP22の発現」とは、USP22をコードする遺伝子情報がmRNAに転写されること、又は、mRNAに転写され、かつ蛋白質(USP22)として翻訳されることをいう。
【0031】
「USP22の発現の阻害」は、USPの発現を阻害する化合物を用いて実施できる。このような化合物として、好ましくはUSP22の発現を特異的に阻害する化合物、より好ましくはUSP22の発現を特異的に阻害する低分子量化合物を挙げることができる。USP22の発現を特異的に阻害するとは、当該発現を強く阻害するが、他の蛋白質の発現は阻害しないか、弱く阻害することを意味する。低分子量化合物とは、ペプチド、ペプチド様物質、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、有機化合物、及び無機化合物が含まれ、その分子量が好ましくは10000以下、より好ましくは5000以下、さらに好ましくは1000以下、さらにより好ましくは500以下の化合物を意味する。USP22mRNAをノーザンブロッティングやRT−PCRのような汎用の技術を用いて定量することにより、あるいはUSP22の蛋白質量をウェスタンブロッティング等の方法により定量することにより、USP22の発現を阻害する化合物を選抜することができる。
【0032】
USP22の発現を阻害する化合物として、USP22の発現をRNA干渉の手法により低下又は消失させ得るsiRNA(small interfering RNA)を例示できる(エルバシ(Elbashir S.M.ら、「ネイチャー(Nature)」、2001年、第411巻、p.494−498;及びパディソン(Paddison P.J.)ら、「ジーンズ アンド ディベロプメント(Genes and Development)」、2002年、第16巻、p.948−958)。
【0033】
USP22のsiRNAは、USP22mRNAの部分配列からなるRNA(センスRNA)と該RNAの塩基配列に相補的な塩基配列からなるRNA(アンチセンスRNA)とを、USP22mRNAの配列に基づいて設計し、自体公知の化学合成法により合成し、得られた両RNAをハイブリダイゼーションさせることにより製造できる。siRNAを構成するセンスRNA及びアンチセンスRNAは、それぞれ数個ないし10数個程度のヌクレオチドからなることが好ましい。また、それぞれ、その3’末端に、オーバーハング配列と呼ばれる1個ないし数個の塩基配列からなるヌクレオチドを結合させることが好ましい。オーバーハング配列は、RNAをヌクレアーゼから保護する作用を有する。オーバーハング配列は、該RNAのRNA干渉効果を阻害しない限りにおいて特に制限されず、好ましくは1個ないし10個、より好ましくは1個ないし4個、さらに好ましくは2個のヌクレオチドからなるものをいずれも用いることができる。
【0034】
具体的には、デオキシチミジル酸からなる配列(たとえばTT)、ウリジル酸からなる配列(たとえばUU)、デオキシチミジル酸に続いて任意のヌクレオチドが結合した配列(たとえばTN)といった配列を例示できる。合成を安価に行えること及びヌクレアーゼ耐性がより強いことから、より好ましくは、2つのデオキシチミジル酸からなる配列をオーバーハング配列として用いる。オーバーハング配列は、センスRNA及びアンチセンスRNA、それぞれの3’末端のリボース3’水酸基部位にジエステル結合により結合させる。
【0035】
USP22に対するsiRNAとして、配列表の配列番号2に記載の塩基配列の部分配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAに所望によりオーバーハング配列が付加された短鎖二重鎖RNAを例示できる。配列表の配列番号2に記載の塩基配列の部分配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAとして、具体的には、配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと配列番号4に記載のオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAが例示できる。配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの部分配列である。オーバーハング配列に特に限定はないが、配列番号3及び配列番号4に記載のオリゴヌクレオチドそれぞれの3’末端に、2個のデオキシチミジル酸(TT)からなるオーバーハング配列を結合させたオリゴヌクレオチドである短鎖二重鎖RNAを、好ましいUSP22のsiRNAの一例として例示することができる。USP22のsiRNAは上記に例示したものに制限されず、USP22の発現をRNA干渉の手法により低下又は消失させ得るものであればいずれを用いることもできる。siRNAの設計・構築方法は、当業者によく知られている、いずれの方法を用いることもできる。
【0036】
蛋白質の発現をRNA干渉の手法により低下又は消失させ得るsiRNAとしてまた、shRNAを例示できる。shRNAは、ヘアピン構造を有する短鎖二重鎖RNAであり、siRNAと同様、RNA干渉により遺伝子の発現を抑制する(パディソン(Paddison P.J.)ら、「ジーンズ アンド ディベロプメント(Genes and Development)」、2002年、第16巻、p.948−958)。shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAとがたとえばオリゴヌクレオチド等により連結され、センスRNA由来部分とアンチセンスRNA由来部分が二重鎖を形成するため、ヘアピン様構造を呈する。shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAに加え、これら2つのRNAを連結しかつループ構造を形成するようなオリゴヌクレオチドを含むR
NAを、USP22 mRNAの塩基配列に基づいて設計して、自体公知の方法により製造することができる。好ましくは、センスRNAの3’末端とループ構造を形成するオリゴヌクレオチドの5’末端とが結合し、さらにループ構造を形成するオリゴヌクレオチドの3’末端とアンチセンスRNAの5’末端とが結合したオリゴヌクレオチドであることが望ましい。ループ構造を形成するオリゴヌクレオチドとは、センスRNAとアンチセンスRNAの間に存在して両RNAを連結でき、それ自体がループ構造を形成するものを意味する。このようなオリゴヌクレオチドの設計は、文献(パディソン(Paddison P.J.)ら、「ジーンズ アンド ディベロプメント(Genes and Development)」、2002年、第16巻、p.948−958)の記載を参考にして実施できる。好ましくは4個ないし23個、より好ましくは4個ないし8個のヌクレオチドからなるものが望ましい。たとえば、TTCAAGAGA(Ambion社製又はOligoengine社製)、AACGTT、TTAA、CAAGCTTC等の配列を挙げることができる。ヘアピン構造を有する二重鎖の形成は、センスRNA由来部分とアンチセンスRNA由来部分とを慣用の方法でアニーリングすることにより実施できる。
【0037】
また、USP22の発現を阻害する化合物として、USP22遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチドを例示できる。
【0038】
USP22の発現を阻害する機能を有するsiRNA、shRNA、及びアンチセンスポリヌクレオチドの選択は、適当な細胞にUSP22遺伝子とsiRNA、shRNA、及びアンチセンスポリヌクレオチドのいずれか1つとをコトランスフェクション(共遺伝子導入)し、USP22の発現をノーザンブロッティング、RT−PCR等の自体公知の方法により検出し、USP22の発現が阻害されるか否かを確認することにより実施できる。
【0039】
内在性USP22の発現阻害も、USP22の発現を阻害する機能を有するsiRNA、shRNA、及びアンチセンスポリヌクレオチドを、適当な遺伝子工学的手法、たとえばリポフェクションにより細胞内に導入することにより達成できる。
【0040】
本明細書では、阻害効果を有する化合物(たとえば競合阻害効果を有する低分子化合物等)を阻害剤と称する。

(USP22の機能の阻害)
「USP22の機能」とは、USP22が備えている働きを意味する。USP22の機能として、上述のとおり、脱ユビキチン活性を例示できる。
【0041】
「脱ユビキチン活性」とは、USP22が基質となるユビキチン化蛋白質(以下、基質蛋白質と称することがある)と結合し、該ユビキチン化蛋白質からユビキチンを乖離させる反応を触媒することにより、該基質蛋白質を安定化する活性を意味する。
【0042】
「USP22の機能を阻害する」とは、USP22が備えている働きを低減させる又は消失させることを意味する。USP22の機能を阻害することとして、USP22の脱ユビキチン活性を阻害することを例示できる。
【0043】
USP22の機能の阻害は、USP22の機能を阻害する化合物を用いて実施できる。このような化合物として、好ましくはUSP22の機能を特異的に阻害する化合物、より好ましくはUSP22の機能を特異的に阻害する低分子量化合物を挙げることができる。USP22の機能を特異的に阻害するとは、当該機能を強く阻害するが、他の蛋白質の機能は阻害しないか、弱く阻害することを意味する。USP22の機能を阻害する化合物は、下述する同定方法を用いて取得できる。
【0044】
USP22の機能の阻害は、具体的には、たとえば、USP22と基質蛋白質との結合を阻害する化合物あるいはUSP22の脱ユビキチン活性を阻害する化合物を用いて実施できる。
【0045】
USP22と基質蛋白質との結合を阻害する化合物として、USP22の不活性変異体(以下、不活性型USP22と称することがある)を例示できる。「USP22の不活性変異体」とは、USP22の変異体であって、脱ユビキチン活性がUSP22と比較して減弱した又は消失したUSP変異体を意味する。好ましい不活性型USP22として、USP22にアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入等の変異が導入されたUSP22変異体であって、基質と結合はするが、脱ユビキチン活性を示さないUSP22変異体を例示できる。このような不活性型USP22は、野生型のUSP22と拮抗して基質蛋白質と結合することにより、該蛋白質に対するUSP22の作用を阻害できる。不活性型USP22は、天然に存在するものであってもよく、人工的に変異を導入したものであってもよい。不活性型USP22における変異部位として、USP22のアミノ酸配列において脱ユビキチン活性に必要な部位を例示でき、たとえば、プロテアーゼ活性に必須である174番目のシステインを挙げることができる。不活性型USP22は、USP22のアミノ酸配列に基づいて所望の蛋白質を設計して公知の方法で製造し、取得した蛋白質の中からUSP22と他の蛋白質との結合を阻害するものを、後述する化合物の同定方法に記載の方法を用いて選別することによっても取得できる。
【0046】
USP22と基質蛋白質の結合を阻害する化合物としてまた、USP22と基質蛋白質とが結合する部位のアミノ酸配列からなるポリペプチドを例示できる。このようなポリペプチドは、蛋白質間の結合を競合的に阻害することができる。このようなポリペプチドは、USP22又はUSP22の基質蛋白質のアミノ酸配列から設計し、自体公知のペプチド合成法により合成したものから、USP22と該基質蛋白質との結合を阻害するものを選択することにより取得できる。このように特定されたポリペプチドに、1〜数個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入等の変異を導入したものも本発明の範囲に包含される。このような変異を導入したポリペプチドは、USP22と該基質蛋白質の結合を阻害するものが好ましい。変異を有するポリペプチドは天然に存在するものであってよく、また人工的に変異を導入したものであってもよい。これらポリペプチドは、後述する一般的な製造方法により取得できる。
【0047】
USP22と基質蛋白質の結合を阻害する化合物としてまた、USP22を認識する抗体であって、USP22と該基質蛋白質の結合を阻害する抗体及びそのフラグメントを例示できる。かかる抗体は、USP22自体、又はこれらの断片、好ましくはUSP22と該他の蛋白質が結合する部位のアミノ酸配列からなるポリペプチドを抗原として自体公知の抗体作製法により取得できる。
【0048】
USP22と基質蛋白質の結合を阻害する化合物としてさらにまた、USP22を特異的に認識するアプタマーであって、USP22と基質の結合を阻害するアプタマーを例示できる。アプタマーは、核酸アプタマー又はペプチドアプタマーのいずれであってもよい。かかるアプタマーは、公知の方法(たとえば、ハーマン(Hermann T.)ら、「サイエンス(Science)」、2000年、第287巻、第5454号、p.820−825;バーグスタラー(Burgstaller P.)ら、「カレント オピニオン イン ドラッグ ディスカバリー アンド ディベロプメント(Current Opinion in Drug Discovery and Development)」、2002年、第5巻、第5号、p.690−700;及びホップ−セイラー(Hoppe−Seyler F.)ら、2002年、「カレント モレキュラー メディシン(Current Molecular Medicine)」、2004年、第4巻、第5号、p.529−538)に記載された方法)を用いて取得することができる。
【0049】
これらUSP22と基質蛋白質との結合を阻害する化合物は、結果として、USP22が基質蛋白質からユビキチンを脱離する活性を低減させる効果を奏する。
【0050】
USP22の脱ユビキチン活性を阻害する化合物は、USP22が基質蛋白質と結合し該ユビキチン化されている基質蛋白質からユビキチンが脱離する工程を阻害する化合物であり得る。たとえば、USP22の脱ユビキチン活性を阻害する化合物として、USP22に特異的に結合しそのプロテアーゼ活性を阻害する抗体又はそのフラグメントを例示できる。また、USP22に特異的に結合しその脱ユビキチン活性を阻害する活性を有するアプタマーを例示できる。抗体あるいはアプタマーは上述の方法で取得でき、USP22の脱ユビキチン活性に対するこれら候補化合物の阻害活性を後述する化合物の同定方法に記載の方法で測定することにより、USP22の脱ユビキチン活性を阻害する活性を有する抗体あるいはアプタマーを選出することができる。

(VEGF産生阻害剤、VEGF感受性細胞の増殖阻害剤、VEGF感受性細胞の過増殖に基づく疾患の予防及び/又は治療剤)
本発明に係るVEGF産生阻害剤は、USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物を有効成分として有効用量含む。たとえば、USP22の発現を阻害する化合物あるいはUSP22の脱ユビキチン活性を阻害する化合物を有効成分として含む。
【0051】
有効成分であるUSP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物として、具体的には、上述したUSP22に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖RNAを例示できる。
【0052】
本発明に係るVEGF産生阻害剤は、VEGFの産生量を低減させることにより、VEGF受容体をその細胞表面に発現しVEGFにより増殖する細胞(VEGF感受性細胞と総称することもある。)の増殖を間接的に阻害することができる。したがって、VEGF感受性細胞の過増殖を原因とする病態や、疾患、疾病、たとえば血管新生がその発症に深く関係している、癌、糖尿病網膜症、リューマチ性関節炎等を予防したり、正常化したり、又は治療したりする目的で用いることができる。VEGF感受性細胞としては、血管内皮細胞が最も良く知られているが、その他マクロファージ、繊維芽細胞、骨芽細胞等を例示することができる。
【0053】
「細胞増殖」とは、分裂により細胞の数が増すことを意味し、炎症性刺激に対する反応としての細胞増殖並びに腫瘍性増殖等を含む。
【0054】
「血管新生」とは、新たな血管の形成を意味する。癌、糖尿病性網膜症、慢性関節リウマチのような疾患には過剰に血管が形成されるという特徴がある。癌においては、癌細胞が産生する血管新生誘導物質により活性化された血管内皮細胞が誘導物質に向かって遊走し、かつ組織内に浸潤して増殖し、新たな血管を形成する。新生血管は癌細胞の増殖を促進し、さらに新しい転移巣の形成に関与する。
【0055】
本発明に係るVEGF産生阻害剤、VEGF感受性細胞の増殖阻害剤、及びVEGF感受性細胞の過増殖に基づく疾患の予防もしくは/又は治療剤は、医薬であることもできるし、試薬でもあり得る。
【0056】
医薬である場合、通常、有効成分に加えて1種又は2種以上の医薬用担体を含む医薬組成物として製造することが好ましい。
【0057】
本発明に係る医薬製剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択される。通常、約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲とするのが適当である。
【0058】
医薬用担体は、製剤の使用形態に応じて一般的に使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤及び賦形剤を例示できる。これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択して使用される。
【0059】
より具体的には、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースを例示できる。これらは、本医薬組成物の剤形に応じて適宜1種類又は2種類以上を組合わせて使用される。
【0060】
所望により、通常の蛋白質製剤に使用され得る各種の成分、たとえば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、界面活性剤、及びpH調整剤等を適宜使用することもできる。
【0061】
安定化剤は、ヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体を例示できる。これらは単独で又は界面活性剤等と組合わせて使用できる。特にこの組合わせによれば、有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。L−アミノ酸は、特に限定はなく、たとえばグリシン、システイン、グルタミン酸等のいずれでもよい。糖類も特に限定はなく、たとえばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖等の単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトール等の糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖等の二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等の多糖類等及びそれらの誘導体等のいずれでもよい。セルロース誘導体も特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシ
プロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のいずれでもよい。
【0062】
界面活性剤も特に限定はなく、イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。界面活性剤には、たとえばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系等が包含される。
【0063】
緩衝剤としては、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸及び/又はそれらに対応する塩(たとえばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)を例示できる。
【0064】
等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリンを例示できる。
【0065】
キレート剤としては、エデト酸ナトリウム、クエン酸を例示できる。
【0066】
本発明に係る製剤を構成する医薬及び医薬組成物は、溶液製剤として使用できる他に、これを凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時、水や生理的食塩水等を含む緩衝液等で溶解して適当な濃度に調製した後に使用することもできる。
【0067】
医薬及び医薬組成物の用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状及び他の医薬の使用の有無等)、及び担当医師の判断等応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、たとえば対象の体重1kgあたり約0.01μg〜100mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いてこれらの用量の変更を行うことができる。上記投与量は1日1回〜数回に分けて投与することができ、数日又は数週間に1回の割合で間欠的に投与してもよい。
【0068】
本発明の医薬組成物を投与するときは、該医薬組成物を単独で使用してもよく、あるいは目的の疾患の防止及び/又は治療に必要な他の化合物又は医薬と共に使用してもよい。たとえば、他の抗腫瘍用医薬や抗炎症用医薬の有効成分等を配合してもよい。
【0069】
投与経路は、全身投与又は局所投与のいずれも選択することができる。この場合、疾患、症状等に応じた適当な投与経路を選択する。たとえば、非経口経路として、通常の静脈内投与、動脈内投与の他、皮下、皮内、筋肉内等への投与を挙げることができる。あるいは経口経路で投与することもできる。さらに、経粘膜投与又は経皮投与も可能である。癌疾患に用いる場合は、腫瘍に注射等により直接投与することも可能である。
【0070】
投与形態は、各種の形態が目的に応じて選択できる。その代表的なものは、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤等の固体投与形態や、水溶液製剤、エタノール溶液製剤、懸濁剤、脂肪乳剤、リポソーム製剤、シクロデキストリン等の包接体、シロップ、エリキシル等の液剤投与形態が含まれる。これらはさらに投与経路に応じて経口剤、非経口剤(点滴剤、注射剤)、経鼻剤、吸入剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、点眼剤、点耳剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤等に分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形、調製することができる。

(VEGF産生促進方法及び促進剤)
本発明の発明者は、USP22を導入した細胞において、低酸素条件下、VEGFの産生が顕著に増加することを見出した(実施例1)。この知見に基づき、本発明は、低酸素条件下、VEGF産生細胞におけるVEGF産生を強力に促進する手段として、USP22を細胞に供することを提供するものである。USP22は蛋白質として供与することもできるし、細胞に遺伝子を導入して細胞内で発現させる手段として提供することもできる。
【0071】
VEGF産生促進方法あるいは産生促進剤の有効成分であるUSP22は、USP22を遺伝子工学的手法で発現させた細胞や生体試料から調製したもの、無細胞系合成産物又は化学合成産物であってよく、あるいはこれらからさらに精製されたものであってもよい。
【0072】
USP22は、その性質や機能に影響がない限りにおいて、N末端側やC末端側に別種の蛋白質やポリペプチドを、直接的に又はリンカーペプチド等を介して間接的に、遺伝子工学的手法等を用いて付加してもよい。別種の蛋白質やポリペプチドとして、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、β−ガラクトシダーゼ、HRP又はALP等の酵素類、His−tag、Myc−tag、あるいはHA−tag、FLAG−tag又はXpress−tag等のタグペプチド類を例示できる。さらに、USP22はその構成アミノ基又はカルボキシル基等を、たとえばアミド化修飾する等、機能の著しい変更を伴わない限りにおいて改変できる。好ましくは、本蛋白質の基本的な性質が阻害されないような標識化あるいは改変が望ましい。
【0073】
遺伝子工学的手法として、公知の方法がいずれも使用できる。公知の方法として、成書に記載の方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社;ウルマー(Ulmer,K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671;エールリッヒ(Ehrlich,H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス等を参照)を例示できる。
【0074】
これら遺伝子工学的な手法でUSP22を取得するために用いるUSP22をコードする遺伝子は、たとえば、各遺伝子の発現が認められる適当な起源から、自体公知のクローニング方法等を用いて容易に取得できる。これら遺伝子の起源として、該遺伝子の発現が確認されている各種の細胞や組織、又はこれらに由来する培養細胞を例示できる。
【0075】
起源からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニング等はいずれも常法に従って実施できる。また、市販されているcDNAライブラリーをソースとして用いることもできる。所望のクローンをcDNAライブラリーから選択する方法も特に制限されず、慣用の方法を使用できる。たとえば、目的のDNA配列に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション法、コロニーハイブリダイゼーション法等やこれらを組合せた方法を挙げることができる。ここで用いるプローブとして、USP22をコードする遺伝子の塩基配列に関する情報に基づいて化学合成されたDNA等が一般的に使用できる。また、該遺伝子の塩基配列情報に基づき設計したセンスプライマー、アンチセンスプライマーをこのようなプローブとして使用できる。cDNAライブラリーからの目的クローンの選択は、たとえば公知の蛋白質発現系を利用して各クローンについて発現蛋白質の確認を行い、その生物学的機能を指標にして実施できる。
【0076】
遺伝子の取得にはその他、PCR(ウルマー(Ulmer,K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671;エールリッヒ(Ehrlich,H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス;サイキ(Saiki R.K.)ら、「サイエンス(Science)」、1985年、第230巻、p.1350−1354))によるDNA/RNA増幅法が好適に利用できる。cDNAライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE法(「実験医学」、1994年、第12巻、第6号、p.35−)、特に5’−RACE法(フローマン(Frohman M.A.)ら、「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1988年、第85巻、第23号、p.8998−9002)等の採用が好適である。PCRに使用するプライマーは、DNAの塩基配列情報に基づいて適宜設計でき、常法に従って合成により取得できる。増幅させたDNA/RNA断片の単離精製は、常法により実施できる。たとえばゲル電気泳動法等によりDNA/RNA断片の単離精製を実施できる。
【0077】
遺伝子は、その機能、たとえばコードする蛋白質の発現や、発現された蛋白質の機能が阻害されない限りにおいて、5’末端側や3’末端側に、たとえばGST、β−ガラクトシダーゼ、HRP又はALP等の酵素類、His−tag、Myc−tag、あるいはHA−tag、FLAG−tag又はXpress−tag等のタグペプチド類等の遺伝子が、1つ又は2つ以上付加されたDNAであることができる。これら遺伝子の付加は、慣用の遺伝子工学的手法により実施できる。
【0078】
USP22遺伝子は目的とする宿主で発現可能な適当なベクターに組み込むことができ、該組換えベクターを所望の宿主へ導入すれば、当該宿主のVEGF産生を促進することができる。
【0079】
USP22遺伝子を組み込んだベクターは、USP22を分離精製する目的でUSP22を発現することにも使えるが、細胞内でUSP22を発現させるためのVEGF産生促進剤として使用することも出来る。
【0080】
ベクターDNAは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、宿主の種類及び使用目的により適宜選択される。ベクターDNAは、天然に存在するものを抽出したもののほか、複製に必要な部分以外のDNAの部分が一部欠落しているものでもよい。代表的なものとして、プラスミド、バクテリオファージ及びウイルス由来のベクターDNAを例示できる。プラスミドDNAとして、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドを例示できる。バクテリオファージDNAとして、λファージを例示できる。ウイルス由来のベクターDNAとして、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、SV40、鶏痘ウイルス、及び仮性狂犬病ウイルス等の動物ウイルス由来のベクター、あるいはバキュロウイルス等の昆虫ウイルス由来のベクターを例示できる。その他、トランスポゾン由来、挿入エレメント由来、酵母染色体エレメント由来のベクターDNAを例示できる。あるいは、これらを組合せて作成したベクターDNA、たとえばプラスミド及びバクテリオファージの遺伝学的エレメントを組合せて作成したベクターDNA(コスミドやファージミド等)を例示できる。また、目的により発現ベクターやクローニングベクター等、いずれを用いることもできる。
【0081】
ベクターDNAには、目的遺伝子の機能が発揮されるように遺伝子を組込むことが必要であり、少なくとも目的遺伝子配列とプロモーターとをその構成要素とする。これら要素に加えて、所望によりさらに、複製そして制御に関する情報を担持した遺伝子配列、たとえば、リボソーム結合配列、ターミネーター、シグナル配列、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、及び選択マーカー等から選択した1つ又は複数の遺伝子配列を自体公知の方法により組合せてベクターDNAに組込むことができる。選択マーカーとして、たとえばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子を例示できる。
【0082】
ベクターDNAに目的遺伝子配列を組込む方法は、自体公知の方法を適用できる。たとえば、目的遺伝子配列を適当な制限酵素により処理して特定部位で切断し、次いで同様に処理したベクターDNAと混合し、リガーゼによって再結合する方法が用いられる。あるいは、目的遺伝子配列に適当なリンカーをライゲーションし、これを目的に適したベクターのマルチクローニングサイトへ挿入することによっても、所望の組換えベクターが得られる。
【0083】
ベクターDNAの宿主細胞への導入は、自体公知の手段が応用でき、たとえば成書に記載されている標準的な方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー)により実施できる。より好ましい方法として、遺伝子の安定性を考慮するならば染色体内へのインテグレート法を挙げることができるが、簡便には核外遺伝子を利用した自律複製系を使用できる。具体的な方法として、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、マイクロインジェクション、陽イオン脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープ負荷(scrape loading)、バリスティック導入(ballistic introduction)及び感染を例示できる。
【0084】
USP22又はUSP22をコードする遺伝子を含有するVEGF産生促進剤とは、上述したUSP22又はUSP22をコードする遺伝子を有効成分としてVEGFの産生を促進するのに十分な効果を示す用量で含有する薬剤を意味する。この場合の薬剤は、試薬であってもよいし医薬であってもよい。医薬製剤の場合、上述した方法と同様の方法によって製剤化できる。

(同定方法)
本発明の一態様は、VEGFの産生を阻害する化合物を同定する方法に関する。
【0085】
本発明の発明者は、USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物が、VEGFの産生を強力に阻害すること(実施例2)を見出した。これらの知見に基づき、USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物は、VEGFの産生を阻害する活性を有する化合物であるということができる。したがって、VEGFの産生を阻害する化合物を、USP22の発現及び/又は機能を阻害する活性を指標にして同定することができる。
【0086】
さらに、VEGFの産生量が低減されれば、VEGF受容体を細胞表面に発現し、VEGFにより増殖するVEGF感受性細胞の細胞増殖が阻害されることが期待できる。すなわち、USP22の発現及び/又は機能を阻害することにより、VEGF産生の低減を介し、間接的にVEGF感受性細胞の増殖を阻害することができることが期待でき、さらに、VEGF感受性細胞が過剰に増殖することにより発症する様々な疾患、たとえば癌などを、USP22の発現及び/又は機能を阻害することにより予防及び/又は治療することが期待できる。したがって、USP22の発現及び/又は機能を阻害する活性を指標として、VEGF感受性細胞の増殖を阻害する化合物、あるいはVEGF感受性細胞の過剰な増殖に因を成す病態、疾病及び疾患の予防及び/又は治療に用いることができる化合物を同定することもできる。
【0087】
本発明に係るこれら化合物の同定方法は、たとえば、USP22の発現を抑制する化合物を選抜すること、USP22と基質との結合を阻害する化合物を選抜すること、あるいはUSP22の、ユビキチン化した基質からユビキチンを脱離する活性(脱ユビキチン活性)を阻害する化合物を選択することにより実施することができる。
【0088】
これら、USP22の発現を抑制する化合物の選択、USP22と基質との結合を阻害する化合物の選択、USP22の脱ユビキチン活性を阻害する化合物の選択等は、上述のとおり、USP22の遺伝子や機能・活性が知られていることから、一般的な方法を用いて実施することができる。
【0089】
所望の活性を有する化合物を選抜するための試験系に供する被検化合物としては、たとえば化学ライブラリーや天然物由来の化合物、又はUSP22の一次構造や立体構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物等を挙げることができる。あるいは、USP22と基質の結合部位又はUSP22と基質の結合部位のアミノ酸配列からなるポリペプチドの構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物等も被検化合物として好適である。
【0090】
たとえば、USP22の発現を抑制する化合物は、USP22の発現を測定できる試験系を用いて選抜することができる。
【0091】
USP22の発現を測定できる試験系として、具体的には、USP22をコードする遺伝子を含む発現ベクターをトランスフェクションした細胞を用いてUSP22を発現させる実験系を例示できる。このような実験系において、該細胞を、被検化合物で処理した後、細胞を回収し、適当な方法で細胞を溶解して細胞溶解物を調製し、該細胞溶解物中に含まれるUSP22又はUSP22mRNAを検出する。細胞を被検化合物で処理したときに検出されるUSP22の量又はUSP22mRNAが、細胞を被検化合物で処理しないときに検出されるUSP22又はUSP22mRNAの量と比較して低減又は消失する場合には、被検化合物はUSP22の発現を阻害すると判定できる。
【0092】
USP22の発現の測定は、自体公知の蛋白質の検出方法、たとえばウェスタンブロッティング等の方法により、USP22を直接的に検出することにより実施できる。また、発現の指標となるシグナルを実験系に導入して該シグナルを検出することにより、USP22の測定を容易に実施できる。発現の指標となるシグナルとして、たとえば、標識物質を例示できる。標識物質でUSP22を標識し、該標識物質を測定することにより、USP22の測定を容易に実施できる。標識物質として、FLAG−tag、Myc−tag及びHA−tag等のタグペプチド類が好ましく例示できる。標識物質の検出は、自体公知の検出方法を用いて実施できる。たとえば、タグペプチド類は、抗タグペプチド抗体により検出できる。このとき、抗タグペプチド抗体として、HRPやALP等の酵素、放射性同位元素、蛍光物質又はビオチン等で標識した抗体を用いることにより検出がより容易に実施できる。あるいは、上記酵素、放射性同位元素、蛍光物質、ビオチン等で標識した二次抗体を用いてもよい。
【0093】
USP22mRNAの発現を測定できる実験系としてまた、USP22をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流に、該遺伝子の代わりにレポーター遺伝子を連結したベクターを作成し、該ベクターを導入した細胞、たとえば真核細胞等を用いた実験系を例示できる。このような実験系において、該細胞を被検化合物で処理したときのレポーター遺伝子の発現量を、被検化合物で該細胞を処理しないときのレポーター遺伝子の発現量とを比較する。被検化合物で処理した該細胞のレポーター遺伝子の発現量が、被検化合物で処理しない該細胞のレポーター遺伝子の発現量と比較して低減又は消失する場合、該被検化合物はUSP22の発現を阻害すると判定できる。レポーター遺伝子として、レポーターアッセイで一般的に用いられている遺伝子を使用でき、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ又はクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ等の酵素をコードする遺伝子を例示できる。レポーター遺伝子の発現の検出は、その遺伝子産物の活性、たとえば、上記例示したレポーター遺伝子の場合は酵素活性を検出することにより実施できる。
【0094】
また、USP22と基質との結合を阻害する化合物の選抜は、具体的には以下のような方法にて実施することができる。
【0095】
USP22としては、USP22をコードする遺伝子を遺伝子工学的手法で発現させた細胞や生体試料から調製したもの、無細胞系合成産物又は化学合成産物であってよく、あるいはこれらからさらに精製されたものであってもよい。また、本蛋白質は、本蛋白質をコードする遺伝子を含む細胞において発現しているものであり得る。
【0096】
USP22としては、上述のように、その構成アミノ基又はカルボキシル基等を、たとえばアミド化修飾する等、機能の著しい変更を伴わない限りにおいて改変したものを用いることができる。また、N末端側やC末端側に別の蛋白質等を、直接的に又はリンカーペプチド等を介して間接的に遺伝子工学的手法等を用いて付加することにより標識化したものであってもよい。好ましくは、本蛋白質の基本的な性質が阻害されないような標識化が望ましい。付加する蛋白質等として、GST、β−ガラクトシダーゼ、HRP又はALP等の酵素類、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tag又はXpress−tag等のタグペプチド類、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate)又はフィコエリスリン(phycoerythrin)等の蛍光色素類、マルトース結合蛋白質、免疫グロブリンのFc断片あるいはビオチンを例示できるが、これらに限定されない。また、放射性同位元素により標識することもできる。標識化に用いる物質は、1つ又は2つ以上を組合せて付加できる。これら標識化に用いた物質自体、又はその機能を測定することにより、本蛋白質を容易に検出又は精製でき、また、たとえば本蛋白質と他の蛋白質との相互作用を検出できる。
【0097】
具体的にはたとえば、USP22を含むベクターDNAをトランスフェクションした形質転換体を培養し、次いで得られる培養物から目的とする蛋白質を回収することによりこれら蛋白質を製造できる。形質転換体の培養は、各々の宿主に最適な自体公知の培養条件及び培養方法で実施できる。培養は、形質転換体により発現される本蛋白質自体又はその機能を指標にして実施できる。あるいは、宿主中又は宿主外に産生された本蛋白質自体又はその蛋白質量を指標にして培養してもよく、培地中の形質転換体量を指標にして継代培養又はバッチ培養を行ってもよい。
【0098】
目的とする蛋白質が形質転換体の細胞内あるいは細胞膜上に発現する場合には、形質転換体を破砕して目的とする蛋白質を抽出する。また、目的とする蛋白質が形質転換体外に分泌される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離処理等により形質転換体を除去した培養液を用いる。
【0099】
形質転換体を作製するための宿主として、原核生物及び真核生物のいずれも使用できる。原核生物として、たとえば大腸菌(エシェリヒアコリ(Escherichia coli))等のエシェリヒア属、枯草菌等のバシラス属、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウムメリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌を例示できる。真核生物として、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセスポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母、Sf9やSf21等の昆虫細胞、あるいはサル腎由来細胞(COS細胞、Vero細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3細胞、ヒトHEK293T細胞等の動物細胞を例示できる。好ましくは動物細胞を用いる。
【0100】
USP22は、所望により、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種分離操作方法により精製及び/又は分離できる。分離及び/又は精製は、本蛋白質の機能を指標にして実施できる。分離操作方法として、たとえば硫酸アンモニウム沈殿、限外ろ過、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、透析法等を単独で又は適宜組合せて使用できる。好ましくは、本蛋白質のアミノ酸配列情報に基づき、これらに対する特異的抗体を作成し、該抗体を用いて特異的に吸着する方法、たとえば該抗体を結合させたカラムを利用するアフィニティクロマトグラフィーを用いることが推奨される。
【0101】
蛋白質あるいはペプチドはまた、一般的な化学合成法により製造できる。たとえば、成書(「ペプチド合成」、丸善株式会社、1975年及び「ペプチドシンテシス(Peptide Synthesis)」、インターサイエンス(Interscience)、ニューヨーク(New York)、1996年)に記載の方法により、これら蛋白質を製造できるが、これらに限らず公知の方法が広く利用できる。蛋白質の化学合成方法として、固相合成方法や液相合成方法等が知られているがいずれを用いることもできる。このような蛋白質合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させて鎖を延長させていくいわゆるステップワイズエロンゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメントコンデンセーション法とを包含し、本蛋白質の合成は、そのいずれによっても実施できる。上記蛋白質合成において用いられる縮合法も、常法に従うことができ、アジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)法、ウッドワード法を例示できる。また、市販のアミノ酸合成装置を用いてペプチドを製造することができる。
【0102】
「基質」とは、酵素によって触媒作用を受ける化合物又は分子を意味する。本発明における「USP22の基質」は、USP22によって脱ユビキチン化され、さらに脱ユビキチン活性が定量出来る分子であれば特に制限はない。天然のユビキチン化蛋白質を基質として使用することも出来るし、適当な人工基質を用いてもよい。
【0103】
「USP22と基質の結合」とは、USP22と基質とが、複合体を形成するように、水素結合、疎水結合又は静電的相互作用等の非共有結合により相互作用することを意味する。ここでの結合とは、USP22と基質とがその一部分において結合すれば足りる。たとえば、USP22又は基質を構成するアミノ酸の中に、結合に関与しないアミノ酸が含まれていてもよい。また、本蛋白質と他の蛋白質により形成される複合体には、これら蛋白質とは別種の蛋白質が含まれていてもよい。本蛋白質と他の蛋白質との結合の測定は、ウェスタンブロッティング、免疫沈降法、プルダウン法、ツーハイブリッド法及び蛍光共鳴エネルギー転移法等の自体公知の方法又はこれらの方法を組合わせることにより実施できる。
【0104】
USP22と基質との結合を阻害する化合物の選抜は、具体的には、USP22と基質を共存させて、USP22と基質とを結合させる試験系を用いて実施できる。このような試験系において、被検化合物とUSP22を接触させ、USP22と基質との結合を検出することができるシグナル及び/又はマーカーを使用する系を用いて、このシグナル及び/又はマーカーの存在もしくは不存在又は変化を検出し、被検化合物がUSP22と基質との結合を阻害するか否かを決定することにより、結合を阻害する活性を有する化合物を選抜することができる。
【0105】
被検化合物はUSP22と基質との結合反応に共存させることもできるし、被検化合物を予めUSP22と接触させ、その後にUSP22と基質の結合反応を行うこともできる。USP22と基質との結合により生じるシグナル又は結合のマーカーが、被検化合物をUSP22と接触させたときに、被検化合物を接触させなかったときと比較して低下あるいは消失する等の変化を示す場合、当該被検化合物はUSP22と基質の結合を阻害する活性を有する化合物として選抜され、その化合物を低酸素条件下においてVEGF産生細胞からのVEGF産生を阻害する活性を有する化合物であると同定できる。
【0106】
USP22と基質の結合の検出は、自体公知の蛋白質の検出方法、たとえば免疫沈降法、プルダウン法、ツーハイブリッド法、ウェスタンブロッティング及び蛍光共鳴エネルギー転移法等の方法又はこれらの方法を組合わせて、USP22と基質により形成される複合体を検出することにより実施できる。USP22と基質により形成される複合体の検出を容易にするために、USP22及び/又は基質は、適当な標識物質により標識されたものを用いることが好ましい。標識物質として、FLAG−tag、Myc−tag及びHA−tag等のタグペプチド類が好ましく例示できる。標識物質の検出は、自体公知の検出方法を用いて実施できる。たとえば、タグペプチド類は、抗タグペプチド抗体により検出できる。このとき、抗タグペプチド抗体として、HRPやALP等の酵素、放射性同位元素、蛍光物質又はビオチン等で標識した抗体を用いることにより検出がより容易に実施できる。あるいは、上記酵素、放射性同位元素、蛍光物質、ビオチン等で標識した二次抗体を用いてもよい。
【0107】
たとえば、HA−tagが付加されたUSP22をコードする遺伝子を含む適当なベクター及びMyc−tagが付加されたユビキチン化GSTをコードする遺伝子を含む適当なベクターをトランスフェクションした細胞を用いて実施できる。該細胞を、被検化合物で処理した後、細胞を回収し、適当な方法で細胞を溶解して細胞溶解物を調製し、該細胞溶解物中に含まれるUSP22と基質により形成された複合体を検出する。細胞溶解物中に含まれる該複合体の測定は、一方の蛋白質に付加されたタグペプチドに対する抗体を用いた免疫沈降の後に、もう一方の蛋白質に付加されたタグペプチドに対する抗体を用いてウェスタンブロッティングを行うことにより実施できる。被検化合物で処理したときに検出されるUSP22と基質により形成された複合体の量が、細胞を被検化合物で処理しないときに検出される複合体の量と比較して低減又は消失する場合には、被検化合物はUSP22と基質の結合を阻害すると判定できる。
【0108】
USP22と基質の結合を阻害する化合物の同定方法はまた、公知のツーハイブリッド(two−hybrid)法を用いて実施できる。たとえば、USP22とDNA結合蛋白質を融合蛋白質として発現するプラスミド、基質と転写活性化蛋白質を融合蛋白質として発現するプラスミド、及び適切なプロモーター遺伝子に接続したlacZ等レポーター遺伝子を含有するプラスミドを酵母や真核細胞等の細胞に導入し、該細胞を被検化合物で処理したときのレポーター遺伝子の発現量を、被検化合物で該細胞を処理しないときのレポーター遺伝子の発現量とを比較する。被検化合物で処理した該細胞のレポーター遺伝子の発現量が、被検化合物で処理しない該細胞のレポーター遺伝子の発現量と比較して低減又は消失する場合、該被検化合物はUSP22と基質の結合を阻害すると判定できる。
【0109】
上記方法により選抜される化合物は、USP22と基質の結合を阻害する化合物である。
【0110】
USP22の機能を阻害する化合物を選抜する工程は、USP22と基質とを共存させて、USP22による基質からのユビキチンの脱離を観察できる試験系を用いて実施できる。このような実験系において、被検化合物とUSP22を接触させ、USP22による基質の脱ユビキチン化を検出することができるシグナル及び/又はマーカーを使用する系を用いて、このシグナル及び/又はマーカーの存在もしくは不存在又は変化を検出し、被検化合物がUSP22による基質の脱ユビキチン化を阻害するか否かを決定することにより、USP22による基質の脱ユビキチン化を阻害する化合物を選抜できる。
【0111】
被検化合物はUSP22による基質の脱ユビキチン化反応に共存させることもできるし、被検化合物を予めUSP22と接触させ、その後にUSP22による基質の脱ユビキチン化反応を行うこともできる。USP22による基質の脱ユビキチン化により生じるシグナル又はユビキチン化のマーカーが、被検化合物をUSP22と接触させたときに、被検化合物を接触させなかったときと比較して低下あるいは消失する等の変化を示す場合、当該被検化合物をUSP22による基質の脱ユビキチン化を阻害する化合物として選抜できる。
【0112】
USP22の脱ユビキチン活性の測定を実施する場合、脱ユビキチン活性を測定する時に用いる一般的な基質として当業者に知られている適当な基質を用いたり、市販のキットを使用したりして脱離したユビキチンを定量することに実施することができる。
【0113】
USP22による基質の脱ユビキチン化を阻害する化合物は、USP22と基質(ユビキチン化している)とを共存させて、USP22により基質からユビキチンを脱離させ、脱離したユビキチンを定量できるような試験系を用いて選抜することができる。このような試験系において、被検化合物とUSP22及び/又は基質とを接触させ、USP22による基質の脱ユビキチン化を検出することができるシグナル及び/又はマーカーを使用する系を用いて、このシグナル及び/又はマーカーの存在もしくは不存在又は変化を検出し、被検化合物がUSP22による基質の脱ユビキチン化を阻害するか否かを決定することにより、USP22による基質の脱ユビキチン化を阻害する化合物を同定できる。
【0114】
被検化合物はUSP22による基質の脱ユビキチン化反応に共存させることもできるし、被検化合物を予めUSP22及び/又は基質と接触させ、その後にUSP22による基質の脱ユビキチン化反応を行うこともできる。USP22による基質の脱ユビキチン化により生じるシグナル又はユビキチン化のマーカーが、被検化合物をUSP22及び/又は基質と接触させたときに、被検化合物を接触させなかったときと比較して低下あるいは消失する等の変化を示す場合、当該被検化合物はUSP22による基質の脱ユビキチン化を阻害すると判定できる。
【0115】
脱ユビキチン化された蛋白質の検出は、たとえば、脱ユビキチン化された蛋白質に対する抗体を用いてウエスタンブロッティングにより実施できる。また、脱ユビキチン化された蛋白質の検出は、脱ユビキチン化反応に放射性同位体標識したATP、たとえば[γ−32P]ATPを用いて、脱ユビキチン化された蛋白質に転移された[γ−32P]の放射活性を測定することにより実施できる。あるいは、ペプチドアレイを用いた表面プラズモン共鳴イメージング法により蛋白質の脱ユビキチン化を検出できる。あるいは、Eu標識したユビキチンとを用いたFRETアッセイを応用して測定することもできる。
【0116】
このような方法によって選抜された、USP22による基質の脱ユビキチン化を阻害する化合物には、USP22と基質の結合を阻害する化合物が含まれることが予想される。
【0117】
以上のような、USP22と基質との結合を阻害する化合物の選抜あるいはUSP22の脱ユビキチン活性を阻害する化合物の選抜においては、USP22と基質とを試験管内(インビトロ、in vitro)で共存させる方法、及び本蛋白質と基質蛋白質とを細胞で発現させて両蛋白質を共存させる方法、いずれも利用できる。
【0118】
in vivoの試験系として、USP22と基質とを共に発現している真核細胞又は培養細胞株を用いた試験系が好ましく例示できる。また、USP22や基質を強制発現させた真核細胞又は培養細胞株を用いることができる。細胞におけるこれら蛋白質の発現は、USP22をコードするポリヌクレオチドを含む適当なベクター及び/又は基質をコードするポリヌクレオチドを含む適当なベクターを用いて慣用の遺伝子工学的手法でこれらベクターを細胞にトランスフェクションすることにより達成できる。USP22をコードする遺伝子を含む組換えベクターと共に、たとえば基質をコードする遺伝子を含む組換えベクターを同時に宿主に導入することもできる。
【0119】
簡便な系としては、インビトロの試験系を用いるのが望ましい。
【0120】
上記のような方法によって選抜されたUSP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物を、VEGF産生を低減する作用、VEGF感受性細胞の増殖阻害作用、血管新生抑制作用、あるいは抗癌作用等々を確認する試験系に供し、目的とした効果を確実に示す化合物を同定することもできる。
【0121】
VEGF産生を阻害する化合物を、VEGF産生を指標としてスクリーニングする場合と比較して、本発明の同定方法には様々な有利な点がある。たとえば、標的蛋白質(USP22)が明らかであるので、その三次構造等に基づき設計した被検化合物を試験系に供することができ、効率的なスクリーニングを実施することができる。また、VEGF産生細胞を用いて培養上清中に分泌されたVEGFの濃度をELISA等の免疫学的手法で測定するのと比較して、インビトロにおけるプロテアーゼ活性の測定という簡便な系でスクリーニングを行えることから、ハイスループットスクリーニング(HTS)のような高速で多検体を処理できるアッセイ系でVEGF産生阻害化合物を同定することが可能になる。
【0122】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【実施例1】
【0123】
USP22がVEGF産生に及ぼす影響
<材料と方法>
(細胞)
HEK293細胞は、フナコシ株式会社より購入し、10%ウシ胎児血清含有ダルベッコ変法イーグル培地(10%FCS-DMEM)で継代培養した。
【0124】
ヒトUSP22 cDNA はかずさ DNA 研究所のクローン KIAA1063を用いて取得した。すなわち、かずさDNA研究所より購入したKIAA1063を鋳型とし、5'末端側にNotI、3'末端側にNheIを配置したプライマーによるPCRでUSP22を増幅し、得られたUSP22cDNAをクローニング用ベクターpCR BluntIITOPO(Invitrogen社)に挿入した。USP22-pCR BluntIITOPOを大腸菌に遺伝子導入し、USP22-cPR BluntIITOPOを増幅した。
(発現プラスミドの調製と細胞へのトランスフェクション)
大腸菌から精製した当該プラスミドをそれぞれ制限酵素NotIとNheIで消化しUSP22cDNAを得た。得られたUSP22cDNAを精製し、動物細胞発現用ベクターpCI(5'HA)に挿入した。
6ウェルプレートにHEK293細胞を5×105個/2.5ml 10%FCS-DMEM/ウェルで播種した。ここに、USP22を導入したpCIプラスミド(USP22-pCI)2μg又は空ベクターであるpCIプラスミド 2μgとトランスフェクション試薬 FuGen6 (Roche社) 6μlをOpti-MEM(Invitrogen社)で100μlにした混合液を添加した。
【0125】
(細胞の低酸素処理)
トランスフェクションから24時間後に、培地を、新しいDMEM培地(高濃度グルコース及び10%ウシ胎児血清を含有する。)又は500μMの塩化コバルトを加えたDMEM培地(低濃度グルコース及びウシ胎児血清2%を含有する。)に交換した。
(培地中に分泌されたVEGF産生量の測定)
低酸素処理開始から12時間後に培養液を回収し、これを遠心し上清を得た。ELISAキット(Human VEGF ELISA Kit,BIOSOURCE社)を用いて、上清中に含まれるVEGF量を定量した。すなわち、抗VEGF抗体を固相化した96ウェルストリップのウェルに100μlの培養上清を加えた。2時間室温に静置した後、ウェル表面を十分に0.05%tween20-PBS(-)で洗浄し、ビオチンを結合した抗VEGF抗体を添加し1時間室温で反応させた。ウェル表面を再度十分に0.05%tween20-PBS(-)で洗浄した後、100μlのストレプトアビジン-ホースラディッシュ・パーオキシダーゼ(HRP)を添加し室温に30分間静置した。ウェル表面を再度十分に洗浄した後、HRPの発色基質(Tetramethylbenzidine ,TMB)を100μl添加し、暗黒下室温で静置した。30分後、同量の反応停止液(1M 硫酸)を加えて発色を止め、波長450nmにおける各ウェルの吸光度を測定した。別途標準VEGF溶液を用いて検量線を作成し、この検量線を用いて、各サンプル中のVEGF濃度を算出した。
(USP22が細胞増殖に与える影響)
VEGF産生を測定した細胞と同様の条件で培養した、USP22-pCIベクター又はpCI(HA)ベクターをそれぞれ導入したHEK293細胞に、1/10量のMTT溶液(FS試薬,ナカライテスク)を加えた新しい培養液(10%FCS-DMEM,High glucose)を添加した。30分間インキュベーションした後、450nmの吸光度を測定することにより各ウェルの細胞数を計測した。

<結果と考察>
(低酸素条件下におけるVEGF産生)
通常培養条件下では、USP22を導入した細胞におけるVEGF産生量は親ベクターpCI(HA)を導入した細胞より少なかった(図1)。ところが、擬似低酸素状態であることが知られている500μM 塩化コバルト含有低グルコース低血清の培地で培養した場合、USP22導入細胞のVEGF産生量は、普通培養条件下pCI(HA)導入細胞と比較して222%に増大した(図1)。塩化コバルト処理したpCI(HA)導入細胞では、普通培養条件下pCI(HA)導入細胞と比較して、120%程度にしか増加しなかったことから、USP22によりVEGF産生が促進されること、さらにこのVEGF産生の促進は低酸素シグナルと何らかの関係があることが示唆された。
(USP22が細胞増殖に及ぼす影響)
pCI(HA)を導入したHEK293細胞とUSP22-pCI(HA)を導入したHEK293細胞の増殖に関しては、普通培養、低酸素培養、どちらの培養条件においても差が認められなかった。
【実施例2】
【0126】
USP22 siRNAがHEK293細胞のVEGF産生と細胞増殖に及ぼす影響
<材料と方法>
(細胞)
HEK293細胞は、実施例1と同様に入手したものを継代培養して使用した。
(siRNA)
USP22の発現を特異的に阻害するsiRNA(配列表の配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAに、オーバーハング配列としてTTが結合したもの)、MAPキナーゼの発現を特異的に阻害するsiRNA(QUIAGEN社、Cat.No. 1022564)又はnon silencing siRNA(QIAGEN社、Cat No.1022563)をトランスフェクション試薬Lipofectamine 2000 (Invitrogen社) を用いてHEK293細胞に導入した。
(低酸素処理)
実施例1同様、トランスフェクションから24時間後に,新しい10%FCS-DMEM培地(高濃度グルコース)又は500μM になるように塩化コバルトを加えた2%FCS-DMEM培地(低濃度グルコース)と培地交換した。
(VEGF産生量の定量と細胞増殖の検定)
実施例1と同じ方法で測定した。

<結果と考察>
(siRNAがHEK293の細胞増殖に及ぼす作用)
塩化コバルトの添加あるいはsiRNAの導入は、細胞増殖には影響を及ぼさなかった。(図2)したがって、USP22は細胞増殖とは無関係なUSPであることが推測された。
(siRNAがHEK293のVEGF産生に及ぼす影響)
いずれの培養条件で培養した場合でも、USP22に対するsiRNAは、顕著にVEGF産生を阻害した。特に500μM 塩化コバルトで処理することにより細胞を擬似低酸素状態においた場合、non silencing siRNAで処理した対照細胞に対する阻害率は51%に及んだ(図2)。USP22の発現阻害により、MAPKの発現を阻害するよりも強力にVEGF産生が阻害されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明は、たとえば、癌における血管新生を阻害し、癌細胞の増殖を阻害することにより癌の進行を遅延あるいは治療する、新しい手段として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】USP22あるいはベクターのみ(pCI(HA))を導入したHEK293細胞を、通常培養条件で培養した場合、又は塩化コバルトで処理することにより擬似低酸素状態に付した場合に、培地中に分泌されたVEGFの濃度をELISAにより定量した結果を示す。結果は、ベクターのみを導入し、通常条件で培養した時のVEGF産生量を100%として表した。擬似低酸素状態で培養した時には、USP22の発現によりVEGFの産生量が顕著に増加した。
【図2】通常培養条件下、又は擬似低酸素培養条件下において、USP22の発現阻害が細胞増殖に及ぼす作用について検討した結果である。結果は、培養開始時の細胞数を100%として示した。USP22、MAPK、あるいはネガティブコントロールであるnon silencing のいずれのsiRNAで処理した細胞についても、普通培養条件下であっても低酸素条件下であっても同じ程度の増殖が観察された。以上の結果から、USP22の発現阻害は、酸素濃度によらず細胞増殖には影響を与えないことがわかった。
【図3】通常培養条件下、又は擬似低酸素培養条件下において、USP22の発現阻害がVEGF産生に及ぼす作用について検討した結果である。結果は、non silencing siRNAで処理し、通常条件で培養した細胞におけるVEGF産生量を100%として示した。いずれの培養条件で培養した場合についても、non silencing siRNAを導入した細胞と比較して、USP22を導入した細胞においてはVEGF産生の顕著な抑制が観察された。特に500μM 塩化コバルトで処理することにより細胞を擬似低酸素状態においた場合、non silencing siRNAで処置した細胞に対する阻害率は51%に及び、USP22に対するsiRNAには、陽性対象であるMAPKに対するsiRNAと比較してより高いVEGF産生抑制効果が認められた。USP22の発現を阻害することによりVEGFの産生が強力に抑制されることがわかった。
【配列表フリーテキスト】
【0129】
配列番号1:ヒトUSP22。
配列番号2:ヒトUSP22(配列番号1)をコードするポリヌクレオチド。
配列番号3:ヒトUSP22に対するsiRNAを構成するセンスRNA。
配列番号4:ヒトUSP22に対するsiRNAを構成するアンチセンスRNA。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor、VEGF)産生細胞におけるVEGF産生を低減する方法であって、ユビキチン特異的プロテアーゼ22(Ubiquitin Specific Protease 22、USP22)の発現及び/又は機能を阻害する工程を含む方法。
【請求項2】
USP22の発現及び/又は機能を阻害する工程が、VEGF産生を低減するのに有効な用量のUSP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物でVEGF産生細胞を処置する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物が、USP22のsiRNAである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
USP22のsiRNAが、配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAにオーバーハング配列に相当するオリゴヌクレオチドが結合した短鎖二重鎖RNAである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
オーバーハング配列に相当するオリゴヌクレオチドがTTである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物を含有するVEGF産生阻害剤。
【請求項7】
USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物が、USP22のsiRNAである、請求項6に記載のVEGF産生阻害剤。
【請求項8】
USP22のsiRNAが、配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAにオーバーハング配列に相当するオリゴヌクレオチドが結合した短鎖二重鎖RNAである、請求項7に記載のVEGF産生阻害剤。
【請求項9】
オーバーハング配列に相当するオリゴヌクレオチドがTTである、請求項8に記載のVEGF産生阻害剤。
【請求項10】
USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物を含有するVEGF感受性細胞の増殖阻害剤。
【請求項11】
USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物が、USP22のsiRNAである、請求項10に記載の増殖阻害剤。
【請求項12】
USP22のsiRNAが、配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAにオーバーハング配列に相当するオリゴヌクレオチドが結合した短鎖二重鎖RNAである、請求項11に記載の増殖阻害剤。
【請求項13】
オーバーハング配列に相当するオリゴヌクレオチドがTTである、請求項12に記載の増殖阻害剤。
【請求項14】
VEGF感受性細胞が血管内皮細胞である請求項10から13のいずれか1項に記載の増殖阻害剤。
【請求項15】
USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物を含有する、VEGF感受性細胞の過増殖により引き起こされる、病態、疾病もしくは疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項16】
USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物が、USP22のsiRNAである、請求項15に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項17】
USP22のsiRNAが、配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAにオーバーハング配列に相当するオリゴヌクレオチドが結合した短鎖二重鎖RNAである、請求項16に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項18】
オーバーハング配列に相当するオリゴヌクレオチドがTTである、請求項17に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項19】
VEGF感受性細胞の過増殖により引き起こされる、病態、疾病又は疾患が癌である、請求項15から18のいずれか1項に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項20】
VEGF感受性細胞が血管内皮細胞である、請求項15から19のいずれか1項に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項21】
USP22をコードする遺伝子を細胞内に導入する工程を含むVEGF産生促進方法。
【請求項22】
USP22またはUSP22をコードする遺伝子を含有するVEGF産生促進剤。
【請求項23】
VEGF産生細胞においてVEGFの産生を低減する化合物の同定方法であって、USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物を選択する工程を含む方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法であって、以下の(1)から(5)の工程を含む方法:
(1)被検化合物を用意し、
(2)USP22及びUSP22の基質を、当該被検化合物存在下または非存在下、USP22とUSPの基質が結合する条件下で接触させ、
(3)USP22の脱ユビキチン活性を定量し、
(4)被検化合物存在下におけるUSP22の脱ユビキチン活性と被検化合物非存在下における脱ユビキチン活性とを比較することにより、被検化合物のUSP22の脱ユビキチン活性の阻害活性を判定し、
(5)USP22の脱ユビキチン活性を阻害する活性があると判定された化合物を選択し、これをVEGFの産生を阻害する化合物として同定する。
【請求項25】
請求項24に記載の(1)から(5)の工程により選択された化合物をVEGF産生細胞に供し、当該被検化合物にVEGFの産生を阻害する作用があることを確認する工程をさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
VEGF感受性細胞の増殖を阻害する化合物を同定する方法であって、USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物を選抜する工程を含む方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法であって、以下の(1)から(5)の工程を含む方法:
(1)被検化合物を用意し、
(2)USP22及びUSP22の基質を、当該被検化合物存在下または非存在下、USP22とUSPの基質が結合する条件下で接触させ、
(3)USP22の脱ユビキチン活性を定量し、
(4)被検化合物存在下におけるUSP22の脱ユビキチン活性と被検化合物非存在下における脱ユビキチン活性とを比較することにより、被検化合物のUSP22の脱ユビキチン活性の阻害活性を判定し、
(5)USP22の脱ユビキチン活性を阻害する活性があると判定された化合物を選択し、これをVEGF感受性細胞の増殖を阻害する化合物として同定する。
【請求項28】
請求項27に記載の(1)から(5)の工程によって同定されたVEGF感受性細胞の増殖を阻害する化合物を、VEGF産生細胞とVEGF感受性細胞が共存する試験系に供し、VEGF感受性細胞の増殖が阻害されることを確認する工程をさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
VEGF感受性細胞の過度に増殖することにより引き起こされる、病態、疾病もしくは疾患を予防及び/又は治療するための化合物を同定する方法であって、USP22の発現及び/又は機能を阻害する化合物を選抜する工程を含む同定方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法であって、以下の(1)から(5)の工程を含む方法:
(1)被検化合物を用意し、
(2)USP22及びUSP22の基質を、当該被検化合物存在下または非存在下、USP22とUSPの基質が結合する条件下で接触させ、
(3)USP22の脱ユビキチン活性を定量し、
(4)被検化合物存在下におけるUSP22の脱ユビキチン活性と被検化合物非存在下における脱ユビキチン活性を比較することにより、被検化合物のUSP22の脱ユビキチン活性の阻害活性を判定し、
(5)USP22の脱ユビキチン活性を阻害する活性があると判定された化合物を選択し、これをVEGF感受性細胞が過度に増殖することにより引き起こされる、病態、疾病もしくは疾患を予防及び/又は治療するための化合物として同定する。
【請求項31】
請求項30に記載の(1)から(5)の工程で同定された化合物を、VEGF感受性細胞が過度に増殖することにより引き起こされる、病態、疾病あるいは疾患を模した試験系に供し、VEGF感受性細胞が過度に増殖することにより引き起こされる、病態、疾病もしくは疾患を予防及び/又は治療することが出来ることを確認する工程をさらに含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
VEGF感受性細胞が過度に増殖することにより引き起こされる、病態、疾病、又は疾患が、癌である、請求項29から31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
VEGF感受性細胞が血管内皮細胞である請求項26から32のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−230910(P2007−230910A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54675(P2006−54675)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】