説明

しいたけの栽培方法

【課題】菌床の上面と上部側面から高品質のしいたけを継続的に発生させるしいたけの栽培方法。
【解決手段】本発明のしいたけの栽培方法は以下の(イ)〜(ホ)の工程を有する。
(イ)栽培袋1内に培地2を詰める工程、
(ロ)培地2上面にしいたけ菌を接種し、栽培袋1を密閉し菌床3を形成する工程、
(ハ)菌床3に原基が形成される前後の期間に、栽培袋1の上部を取除き、菌床3の上面3a及び側面上部3bの一部を露出する工程、
(ニ)露出した菌床3に散水し、菌床3の下部側と栽培袋1で覆われた隙間を飽水状態に保持して、菌床上面及び上部側面からしいたけ6を発生させる工程、
(ホ)(ニ)工程後に、菌床3を逆さまにして栽培袋1内の水5を排水して空気に接触させた後に元に戻し、再び菌床3に散水して、下部側と隙間を飽水状態にし、菌床上面3a及び上部側面3bからしいたけ6を発生、収穫を繰り返す工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌床の上面と上部側面から高品質のしいたけを継続的に発生させるしいたけの栽培方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年しいたけの栽培は、プラスチック製栽培袋の内部にオガクズなどを入れて培地を形成し、この培地にしいたけ菌を接種して菌床を形成する栽培方法が普及してきている。この方法ではしいたけ菌栽培の培養完了後の発生工程において、栽培袋の上部を取除いて菌床の上面を露出させ、ここからしいたけを発生させるものである。しかしながら菌床側面と栽培袋との間に隙間が形成されるので、この間の菌床側面からもしいたけが発生する問題がある。このように菌床の側面の狭い隙間にしいたけが発生するので、互いに接触して変形し、不良品となってしまう問題があった。
【0003】
このため、図4(A)に示すようにプラスチック製栽培袋1の内部に培地2を形成し、この培地2の上面にしいたけ菌を接種して培養し菌床3を形成し、しいたけ菌床栽培の培養完了後の発生工程において、図4(B)に示すように栽培袋1の上部を取除いて菌床3の上面のみを露出させ、その他の部分は菌床側面及び底面部分との間の隙間4に水5を注水することで菌床3の側面と底面を浸漬した状態にして、しいたけ6の側面と底面からの発生を抑制し、図4(C)に示すように菌床3の上面からのみ発生させるしいたけ菌床の発生方法(特許文献1)が提案されている。
【0004】
この方法では、菌床3の上面のみを露出させ、ここからしいたけ6を発生させるが、しいたけ6は菌床3の栽培袋1との境界の周縁部分に多数発生する傾向がある。しかしながらこの方法では菌床3の周縁部分が栽培袋1で押え付けられているため、発生したしいたけ6が互に干渉して生長が妨げられ、しかも水5に浸された状態となっているので不良品が多く収率が低下する問題があった。また栽培面積が菌床3の上面に限定されているので、栽培期間全体の収穫量も増大することができない問題があった。
【特許文献1】特開平10−271913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題を改善し、菌床の上面だけではなく側面上部にも拡大して栽培面積を増加させると共に、最もしいたけが発生し易い、菌床の上面周縁や側面上部からの生長を促進してボリュームのある高品質のしいたけを多量に収穫することができるしいたけの栽培方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1記載のしいたけの栽培方法は、以下の(イ)〜(ホ)の工程を有することを特徴とする。
(イ)上方が開口し有底の栽培袋内に培地を詰める工程、
(ロ)前記栽培袋内の培地上面にしいたけ菌を接種し、その後、該栽培袋の開口を密閉し、前記培地を培養して菌床を形成する工程、
(ハ)前記菌床に原基が形成される前後の期間に、前記栽培袋の上部を取除いて、前記菌床の上面及び該上面から下方へ所定距離下げた側面上部の一部を露出する工程、
(ニ)前記露出した菌床部分に散水して、前記菌床の下部側と前記栽培袋で覆われた隙間を飽水状態に保持して、該菌床上面及び上部側面からしいたけを発生させる工程、
(ホ)前記(ニ)工程後に、前記菌床を逆さまにして前記栽培袋内の水を排水して空気に接触させた後に元に戻して、再び、前記露出した菌床部分に散水して、前記菌床の下部側と前記栽培袋で覆われた隙間を飽水状態にして、該菌床上面及び上部側面からしいたけを発生させて収穫することを繰り返す工程。
【0007】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のしいたけ栽培方法において,前記菌床は、逆さまにして前記栽培袋内の水を排水して空気に接触させた後に元に戻し、以後の栽培は前記菌床側面の露出距離を順次長くさせながら行うことを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のしいたけの栽培方法において,前記菌床側面の露出距離は、前記菌床高さの15〜50%の範囲であって、前記露出距離の最小値は、2.5cm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る請求項1に記載のしいたけの栽培方法によれば、工程(ハ)において、菌床の上面および側面上部を露出させることにより栽培面積が拡大し、しかも、しいたけは上面の周縁部分に多数発生する傾向があり、この部分は露出した状態となって空気にも触れているので互いに干渉せずに生長し、ボリュームのある高品質のしいたけを栽培することができる。また、工程(ニ)において菌床の側面下部と栽培袋との間の隙間に水が満たされた飽水状態にすることにより、側面下部が水と接触した状態となって、この部分からのしいたけの発生を防止することができる。また、工程(ホ)において、1番発生のしいたけを収穫した後、菌床を逆さまにして栽培袋内の汚れた水を排水して空気に触れさせて活力を付けてから元に戻すことで、再びしいたけが発生し収穫することができる。
【0010】
また請求項2に記載のしいたけの栽培方法によれば、菌床の上面および側面上部を、栽培期間の間に菌床の上面から側面上部の露出面積を順次拡大させながら栽培するので、新たに露出させた部分が活性化して、しいたけの発生を促進させることができる。
【0011】
また請求項3に記載のしいたけの栽培方法によれば、菌床の上面から菌床の高さの15〜50%の範囲で、菌床の上面および側面上部を露出させることにより栽培面積が2倍以上に拡大し、しかも、しいたけは上面の周縁部分に多数発生する傾向があるが、この部分は露出した状態となって空気にも触れているので互いに干渉せずに生長しボリュームのある高品質のしいたけを栽培することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明の実施の一形態を図1ないし図3を参照して詳細に説明する。先ず図1(A)に示すように、フィルター7を上部に形成したプラスチック製栽培袋1の内部にオガクズを詰めて培地2を形成し、この培地2の上面にしいたけ菌を接種してから密閉して培養し、菌床3を形成する。この菌床栽培の培養完了後の、菌床3に原基が形成される前後の間の期間内に、図1(B)に示すように、栽培袋1の上部をカットして取除く。カットして菌床3の上面3aを露出させた状態で、図2に示すように、栽培袋1のカットした上部の近傍に輪ゴム8を掛けて先端下側に折返して、菌床3の側面上部3bを露出させる。
【0013】
この菌床3の側面上部3bを露出させる範囲hは、菌床3の高さをHとすると、上面から高さHの15〜50%の範囲で露出させる。このように、菌床3の上面3aと、側面上部3bとを露出させた状態で、栽培袋1を図3に示すように3〜5cmの間隔Dで栽培棚10に設置する。この後、図2に示すようにシャワー9で散水すると、露出した菌床3の上面3aと側面上部3bから水5が内部にしみ込んで、菌床3の側面下部3cと栽培袋1との間の隙間4に水5が満たされた飽水状態にして、側面下部3cが水5と接触した状態となって、この部分からのしいたけ6の発生を防止することができる。
【0014】
このように、菌床3の上面3aと、側面上部3bとを露出させることにより栽培面積が2倍以上に拡大し、しかも、しいたけ6は上面3aの周縁部分に多数発生する傾向があり、この部分は露出した状態となって空気にも触れているので互いに干渉せずに生長し、図1(C)に示すように、ボリュームのある高品質のしいたけ6を栽培することができる。
【0015】
本発明においては、栽培袋1の上部をカットして菌床3の側面上部3bの露出させる範囲hを菌床3の高さHの15〜50%の範囲に規定したのは、15%未満では、従来の上面3aのみを露出させたものと余り変わらず周縁部分に多数発生したしいたけ6が干渉する恐れがあり、また50%を超える広い範囲を露出させると、菌床3の上面3aが乾燥し易い上、側面上部3bから発生したしいたけ6と隣接する栽培袋1の側面上部3bから発生したしいたけ6とが干渉する恐れがあるからである。
【0016】
また本発明では、側面上部3bの露出させる範囲hを、最初は菌床3の高さHの15〜20%程度露出させ、1番発生のしいたけ6を収穫した後、菌床3を逆さまにして栽培袋1内の汚れた水5を排水して空気に触れさせて活力を付けてから元に戻して、再びシャワー9から散水して水分を含浸させる。この後、図1(D)に示すように、更に栽培袋1を下げて露出させる範囲hを、菌床3の高さHの20〜25%程度露出させる。このようにして放置しておくと、図1(E)に示すように栽培袋1の上部を下げて露出させることにより活性化した側面上部3bの上部近傍から再びしいたけ6が発生してくる。
【0017】
以後同様の排水と栽培袋1を下げる作業を1月に1度程度繰り返しながら発生管理を行ない、1世代の収穫が完了するまで最大で菌床3の高さHの50%まで順次、側面上部3bの露出面積を拡大させながら発生させる方法が好ましい。
【0018】
なお本発明では、栽培袋1の設置間隔Dを3〜5cmの範囲に規定したのは、3cm未満では隣接する菌床3の側面上部3bから発生したしいたけ6が干渉する恐れがあり、また5cmを超えて設置すると発生室の収容密度が低下するからである。
【実施例1】
【0019】
次に本発明の実施例を説明する。四角筒状のプラスチック製栽培袋1にオガクズを詰めて縦19cm、横12.5cm、高さHが16cmで重さ約3Kgのブロック状の培地2を形成し、この培地2の上面にしいたけ菌を接種してから密閉して培養し、菌床3を形成する。この菌床栽培の培養完了後の、菌床3に原基が形成される直前に、栽培袋1の上部をカットして取除く。
【0020】
カットした栽培袋1の上部の近傍に輪ゴム8を掛けて先端を下側に折返して、菌床3の側面上部3bを上面から2.5cm露出させる。このように形成した10個の栽培袋1を栽培棚10の上に4cm間隔で設置してからシャワー9で散水して、露出した菌床3の上面3aと側面上部3bから水5を内部にしみ込ませ、菌床3の側面下部3cと栽培袋1との間の隙間に水5が満たされた状態にする。以後、散水や温度、換気の管理を行なって、しいたけ6の発生を促進させる。
【0021】
このようにして1番のしいたけ6の収穫は10月15日に行ない、菌床3の上面3aと側面上部3bから発生したしいたけ6はボリュームのあるものが多数生長した。1番のしいたけ6を収穫した後、菌床3を逆さまにして栽培袋1内の汚れた水5を排水して空気に触れさせてから元に戻して、再びシャワー9から散水して水分を含浸させる。この後、側面上部3bのカットした栽培袋1の上部を更に2cm下げて発生管理を行なった。以後同様の排水と栽培袋1の下降作業を1月に1度繰り返しながら発生管理を行ない、1世代の収穫が完了するまで最大で上面から8cmの高さまで順次下げて、最後のしいたけ6は翌年の4月15日に収穫した。
【0022】
このように本発明方法により10個の菌床3から収穫した1世代のしいたけ6の全重量を測定し、その平均個重と、このうち優良品と、廃棄した不良品の重量についても測定した。また比較のために従来の上面3aのみを露出させて栽培したしいたけ6についても同様に測定して、その結果を表1に併記した。
【0023】
【表1】

【0024】
上表の結果から、本発明方法によれば、優良品収穫量の割合が従来の上面のみ露出させて発生する方法に比べて17%も向上し、また不良品収穫量の割合も3分の1に低減させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明方法によるしいたけの栽培方法を順次示す説明図である。
【図2】菌床の上面と、側面上部とを露出させた状態を示す栽培袋の断面図である。
【図3】栽培袋を間隔をおいて並べて設置した状態を示す正面図である。
【図4】従来方法による菌床の上面のみを露出させるしいたけの栽培方法を順次示す説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1:栽培袋
2:培地
3:菌床
3a:上面
3b:側面上部
3c:側面下部
4:隙間
5:水
6:しいたけ
7:フィルター
8:輪ゴム
9:シャワー
10:栽培棚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(イ)〜(ホ)の工程を有することを特徴とするしいたけ栽培方法。
(イ)上方が開口し有底の栽培袋内に培地を詰める工程、
(ロ)前記栽培袋内の培地上面にしいたけ菌を接種し、その後、該栽培袋の開口を密閉し、前記培地を培養して菌床を形成する工程、
(ハ)前記菌床に原基が形成される前後の期間に、前記栽培袋の上部を取除いて、前記菌床の上面及び該上面から下方へ所定距離下げた側面上部の一部を露出する工程、
(ニ)前記露出した菌床部分に散水して、前記菌床の下部側と前記栽培袋で覆われた隙間を飽水状態に保持して、該菌床上面及び上部側面からしいたけを発生させて収穫する工程、
(ホ)前記(ニ)工程後に、前記菌床を逆さまにして前記栽培袋内の水を排水して空気に接触させた後に元に戻して、再び、前記露出した菌床部分に散水して、前記菌床の下部側と前記栽培袋で覆われた隙間を飽水状態にして、該菌床上面及び上部側面からしいたけを発生させて収穫することを繰り返す工程。
【請求項2】
前記菌床は、逆さまにして前記栽培袋内の水を排水して空気に接触させた後に元に戻し、以後の栽培は前記菌床側面の露出距離を順次長くさせながら行うことを特徴とする請求項1に記載のしいたけ栽培方法。
【請求項3】
前記菌床側面の露出距離は、前記菌床高さの15〜50%の範囲であって、前記露出距離の最小値は、2.5cm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のしいたけの栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−283990(P2008−283990A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227422(P2008−227422)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【分割の表示】特願2005−347462(P2005−347462)の分割
【原出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(505444776)
【Fターム(参考)】