説明

アンテナおよび無線通信機

【課題】アンテナを設けるスペースを有効利用して実質的なアンテナ体積を小さくすることなく且つアンテナ間の干渉を抑制して、小型且つ高効率(高利得)のアンテナおよびそれを備えた無線通信機を構成する。
【解決手段】基板61の第1主面〈s〉の非グランド領域31に、一部に間隙部11を有するループ状電極10を形成し、非グランド領域31に対向する基板61の第2主面〈b〉の非グランド領域32にモノポール状電極20を形成する。その際、ループ状電極10に対する給電点12とモノポール状電極20に対する給電点21とを基板61を挟んでほぼ対向する位置に配置する。また、ループ状電極10の間隙部11とモノポール状電極20の開放端22とを対極位置に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動体通信機等の無線通信機に用いられるアンテナおよびそれを備えた無線通信機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話システムの端末装置(携帯電話)等の無線通信機において、複数の周波数帯で用いるアンテナを構成する場合、一般的にはそれぞれの周波数帯に適用したアンテナがそれぞれ基材や基板状に配置されている。
【0003】
たとえば図1は従来技術による2つのアンテナ部ANT1,ANT2を備えたアンテナの構成を示す図である。図1において第1のアンテナ部ANT1は、一部に間隙部を有するループ状電極からなる。また第2のアンテナ部ANT2は所定箇所で屈曲させたモノポール状電極からなるアンテナである。この2つのアンテナ部は給電手段51,52によってそれぞれ給電される。
【0004】
このように2つのアンテナ部を並べる場合に、アンテナ部間の干渉を減らすために、2つのアンテナ部ANT1−ANT2間の距離をなるべく離すように設けられる。また、この2つのアンテナを個別のチップアンテナで構成する場合には、その2つのチップアンテナ間の距離をなるべく離して実装される。アンテナ取り付けスペースの関係で2つのアンテナをある一定範囲に実装しなければならない場合には、このように同一平面内で所定の距離を確保して配置するのが常であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところがアンテナ特性は、そのアンテナの体積(ボリューム,大きさ)に依存することが多く、アンテナの体積が大きいほど良好な特性が得られることが一般的である。
【0006】
また、2つ以上のアンテナを配置した場合、互いのアンテナの干渉が生じた場合には、それぞれのアンテナ特性が劣化する事例が多くみられる。このアンテナの干渉を抑えるには、アンテナ間の距離を離すことが最も有効であるため、アンテナ間の距離を離すような配置が必要となってくる。しかし、アンテナ間の距離を大きくすると、個々のアンテナ体積が小さくなってしまい、良好なアンテナ特性が得られないことになる。このように、複数のアンテナを設ける場合、個々のアンテナのアンテナ体積と、アンテナ間の距離による干渉とがトレイドオフの関係となり、設計上のネックとなっていた。
【0007】
そこで、この発明の目的は、アンテナを設けるスペースを有効利用して実質的なアンテナ体積を小さくすることなく且つアンテナ間の干渉を抑制して、小型且つ高効率(高利得)のアンテナおよびそれを備えた無線通信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、この発明は次のように構成する。
(1)基板の第1主面に、一部に間隙部を有するループ状電極を形成し、当該ループ状電極を形成した領域に対向する前記基板の第2主面にモノポール状電極を形成するとともに、前記ループ状電極に対する給電点と前記モノポール状電極に対する給電点とを前記基板を挟んでほぼ対向する位置に配置するとともに、前記ループ状電極の間隙部と前記モノポール状電極の開放端とが互いに対極する位置に配置したことを特徴としている。
【0009】
(2)前記ループ状電極および前記モノポール状電極を形成した領域は前記基板の端部に設けられた非グランド領域とし、前記間隙部がグランド電極寄りになるように前記ループ状電極を配置し、前記モノポール状電極をグランド電極から離れた位置に配置してもよい。
【0010】
(3)この発明の無線通信機は前記アンテナを備えて、実装基板にループ状電極およびモノポール状電極に対してそれぞれ給電する無線通信回路を設けることによって構成する。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、基板の第1主面に形成したループ状電極に対して給電点から給電されて流れる電流の向きと、基板の第2主面に形成したモノポール状電極に対して給電されて流れる電流の向きとが基板に沿った同方向となるので、ループ状電極によるアンテナとモノポール状電極によるアンテナとがそれぞれ本来の特性を維持できる。
【0012】
また、ループ状電極の間隙部がグランド電極寄りになるようにループ状電極を配置し、モノポール状電極をグランド電極から離れた位置に配置することによって、モノポール状電極がグランド電極による影響を受けにくくなって、モノポール状電極によるアンテナ本来の特性を維持でき、ループ状電極の間隙部はモノポール状電極の開放端から離れた位置となるので、ループ状電極によるアンテナとモノポール状電極によるアンテナとの干渉も防ぐことができる。
【0013】
さらに、このような基板の表裏にそれぞれ独立したアンテナを配置することができるので、実装基板に対するアンテナの占有面積が縮小化され、全体に小型の無線通信機が構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
《第1の実施形態》
第1の実施形態に係るアンテナおよび無線通信機について図2〜図4を参照して説明する。
図2は第1の実施形態に係るアンテナの平面図である。ここで〈s〉は基板の第1主面側から見た平面図、〈b〉は基板の第2主面側から見た平面図(裏面)である。基板61の第1主面には、グランド電極41を設けるとともにその端部に非グランド領域31を設けている。この非グランド領域31に、一部に間隙部11を有するループ状電極10を形成している。
【0015】
また基板61の第2主面にはグランド電極42を設けるとともに、第1主面の非グランド領域31に対向する位置に非グランド領域32を設けている。この非グランド領域32にはモノポール状電極20を形成している。
【0016】
基板61には、ループ状電極10の所定の給電点12に対して給電する給電手段51を設けている。またモノポール状電極20の一方の端部である給電点21に対して給電する給電手段52を設けている。
【0017】
このようにして基板61の第1主面の非グランド領域31に、間隙部11を有するループ状電極10による第1のアンテナ部ANT1を構成し、基板61の第2主面の非グランド領域32に、モノポール状電極20による第2のアンテナ部ANT2を構成している。
【0018】
図2に示したように、ループ状電極10に対する給電点12とモノポール状電極20に対する給電点21とを基板61を挟んでほぼ対向する位置に配置するとともに、ループ状電極10の間隙部11とモノポール状電極20の開放端22とを互いに対極位置に配置している。
【0019】
図3・図4は、基板61を挟んで対向するループ状電極10およびモノポール状電極20の位置関係とアンテナ特性との関係について示したものである。
図3(A)は図2に示したとおりの第1の実施形態に係るアンテナの平面図、図3(B)は比較対象としてのアンテナの平面図である。図3(A)(B)のいずれもループ状電極10に対する給電点12とモノポール状電極20に対する給電点21とが基板62を挟んでほぼ対向する位置に配置している。図3(A)ではループ状電極10の間隙部11とモノポール状電極20の開放端22とを互いに対極位置に配置しているが、図3(B)では、ループ状電極10の間隙部11とモノポール状電極20の開放端22とは対極位置にはない。すなわち、基板62のグランド電極41から遠い側でモノポール状電極20のちょうど裏側に対向する位置に間隙部11を配置している。
【0020】
図4は図3(A),(B)に示した2つのアンテナのアンテナ効率の周波数特性である。黒丸は図3(A)に示した第1の実施形態に係るアンテナの特性、白丸は図3(B)に示した比較例としてのアンテナの特性である。第1のアンテナ部ANT1はCDMA2000の2110〜2130MHzおよびCDMA800の843〜875MHzに対応するアンテナとして作用し、第2のアンテナ部ANT2はGPSの1575MHzのアンテナとして作用する。
【0021】
第1のアンテナ部ANT1のアンテナ効率は図3(A),(B)のいずれの構造でもCDMA800の帯域で約−6dB、CDMA2000の帯域で約−5dB程度の効率が得られていて大差がない。
【0022】
すなわち、一部に間隙部11を有するループ状電極10による並列共振型のアンテナは、基板の裏面に設けたモノポール状電極20による影響を余り受けないことが分かる。
【0023】
一方、モノポール状電極20による第2のアンテナ部ANT2のアンテナ効率は図3(A)の構成で−3dB、図3(B)の構成で−8.5dBとなって、図3(B)ではモノポール状電極20によるアンテナが本来のアンテナとして作用していないことが分かる。
【0024】
このことから、図3(A)に示したように、ループ状電極10に対して給電点12から流れる電流1−1と電流1−2のうち、電流1−1と、モノポール状電極20に対して給電点21から流れる電流2−1とが同方向であれば、このモノポール状電極20による第2のアンテナ部ANT2は本来の特性を示すことが分かる。図3(B)に示した構成では、同図に示すように、ループ状電極10に対して給電点12から流れる電流1−1Aとモノポール状電極20に対して給電点21から流れる電流2−1Aとが逆方向になるので、モノポール状電極20による第2のアンテナ部ANT2は発生する電磁界が相殺されてアンテナ効率が低下するものと考えられる。
【0025】
なお、図3(B)において電流1−1Aによる800MHz帯の放射は基板からも生じるので、その効率はほとんど低下しない。また、電流1−2Aによる2000MHzの放射については、モノポール状電極20に流れる電流2−1Aと電流1−2Aとが同方向であるので、むしろ効率が高まる。これに対してモノポール状電極20による第2のアンテナ部ANT2の効率は電流1−1Aによるキャンセルの影響を大きく受ける。これらが、ループ状電極10による第1のアンテナ部ANT1の特性に比べて、モノポール状電極20による第2のアンテナ部ANT2の特性が顕著な影響を受ける理由であると考えられる。
【0026】
なお、図2に示したようにL字型のモノポール状電極20を形成する場合、その主要部はグランド電極42からなるべく遠ざかる位置に配置するほうが高い効率が得られるので必然的に基板61の端部に沿った位置に配置することになる。またループ状電極10によるアンテナはループ径(周長)が大きくなるほど効率が高まるので、そのループ状電極10は非グランド領域31の外周に沿って配置することになる。そのため必然的にループ状電極10の一部とモノポール状電極20の主要部とが基板61を挟んで対向する位置に配置することになる。このような電極配置であっても、既に述べたように給電点からそれぞれに流れる電流の向きが同方向になるので両アンテナの本来の特性が維持できる。
【0027】
《第2の実施形態》
図5は第2の実施形態に係るアンテナの平面図である。ここで〈s〉は基板の第1主面側から見た平面図、〈b〉は基板の第2主面側から見た平面図(裏面)である。基板63の第1主面には、グランド電極41を設けるとともにその端部に非グランド領域31を設けている。この非グランド領域31に、一部に間隙部11を有するループ状電極10を形成している。
【0028】
また基板63の第2主面にはグランド電極42を設けるとともに、第1主面の非グランド領域31に対向する位置に非グランド領域32を設けている。この非グランド領域32にモノポール状電極70を形成している。
【0029】
基板63には、ループ状電極10の所定の給電点12に対して給電する給電手段51を設けている。またモノポール状電極70の一方の端部である給電点71に対して給電する給電手段52を設けている。
【0030】
この例ではモノポール状電極70を非グランド領域32のうちグランド電極42寄りに配置している。それに伴い第1主面側のループ状電極10の間隙部11をグランド電極41から遠い側(基板63の端部付近)でモノポール状電極70の開放端72に対して対極位置となるように配置している。
【0031】
このような構成の場合、モノポール状電極70がグランド電極42に近接しているので図2に示したような構成と比べて第2のアンテナ部ANT2の効率面で不利であるが、ループ状電極10による影響をほとんど受けないので、モノポール状電極70によるアンテナ本来の特性が維持できる。
【0032】
《第3の実施形態》
図6は第3の実施形態に係るアンテナの平面図である。ここで〈s〉は基板の第1主面側から見た平面図、〈b〉は基板の第2主面側から見た平面図(裏面)である。基板64の第1主面には、グランド電極41を設けるとともにその端部に非グランド領域31を設けている。この非グランド領域31に、一部に間隙部11を有するループ状電極10を形成している。
【0033】
また基板64の第2主面にはグランド電極42を設けるとともに、第1主面の非グランド領域31に対向する位置に非グランド領域32を設けている。この非グランド領域32にモノポール状電極80を形成している。
【0034】
基板64には、ループ状電極10の所定の給電点12に対して給電する給電手段51を設けている。またモノポール状電極80の一方の端部である給電点81に対して給電する給電手段52を設けている。
【0035】
この例では、給電点81およびグランド電極42から遠ざかる方向(基板64の端部方向)に直線状に延びるようにモノポール状電極80を配置している。それに伴い第1主面側のループ状電極10の間隙部11をグランド電極41寄りで、モノポール状電極80の開放端82に対して対極位置となるように配置している。
【0036】
このような構成でも、ループ状電極10に給電点12から流れる電流1−1とモノポール状電極80に給電点81から流れる電流2−1とが同方向になるので、モノポール状電極80によるアンテナ本来の特性を維持できる。
【0037】
《第4の実施形態》
携帯電話等の無線通信機は、第1〜第3の実施形態で示したアンテナを用いて次のように構成する。
図2・図5・図6に示したアンテナを用いる場合、その給電手段51,52を含む無線通信回路を実装基板上に設け、その実装基板の端部に非グランド領域を設けるとともに、その非グランド領域に図2・図5・図6に示したアンテナを構成する。これによりGPS受信機を内蔵するCDMA800/2000両対応の携帯電話を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】従来技術によるアンテナの構成例を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係るアンテナの平面図である。
【図3】同アンテナと比較例としてのアンテナの構成を示す図である。
【図4】第1の実施形態に係るアンテナと比較例としてのアンテナとの効率の違いを示す図である。
【図5】第2の実施形態に係るアンテナの平面図である。
【図6】第3の実施形態に係るアンテナの平面図である。
【符号の説明】
【0039】
10−ループ状電極
11−間隙部
12,21,71,81−給電点
20,70,80−モノポール状電極
22,72,82−開放端
31,32−非グランド領域
41,42−グランド電極
51,52−給電手段
61〜64−基板
ANT1−第1のアンテナ部
ANT2−第2のアンテナ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の第1主面に、一部に間隙部を有するループ状電極を形成し、当該ループ状電極を形成した領域に対向する前記基板の第2主面にモノポール状電極を形成するとともに、前記ループ状電極に対する給電点と前記モノポール状電極に対する給電点とを前記基板を挟んでほぼ対向する位置に配置するとともに、前記ループ状電極の間隙部と前記モノポール状電極の開放端とが互いに対極する位置に配置したことを特徴とするアンテナ。
【請求項2】
前記ループ状電極および前記モノポール状電極を形成した領域は前記基板の端部に設けられた非グランド領域であり、前記間隙部がグランド電極寄りになるように前記ループ状電極を配置し、前記モノポール状電極をグランド電極から離れた位置に配置した請求項1に記載のアンテナ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアンテナを備え、前記実装基板に前記ループ状電極および前記モノポール状電極に対してそれぞれ給電する無線通信回路を構成してなる無線通信機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−252507(P2008−252507A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90917(P2007−90917)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】