説明

アーク溶接制御方法とアーク溶接装置

【課題】従来のアーク溶接装置では、アーク溶接装置と溶接施工対象物との間の距離が長い場合や、施工現場毎に異なる太さ(断面積)のケーブルを使用する場合等、作業現場毎に異なる配線状態における抵抗値に対し、予め設定された出力制御通りの出力波形が形成されず、アーク期間中に燃え上がりが発生し、その燃え上がりによりスパッタが発生し易くなっていた。
【解決手段】消耗電極を用いて短絡状態とアーク状態を繰り返して溶接を行うアーク溶接のアーク溶接制御方法であって、予め設定された基準電圧と短絡期間に検出された溶接出力電圧との差である電圧差を求めるステップと、前記溶接出力電圧を検出した時に検出された溶接出力電流で前記電圧差を除して抵抗値を求めるステップと、前記抵抗値に基づいて前記短絡期間に続くアーク期間の溶接出力電圧の制御を行うステップと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
溶接用ワイヤと母材との間で短絡状態とアーク状態を交互に繰り返して溶接を行うアーク溶接制御方法とアーク溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接用ワイヤと母材との間で短絡状態とアーク状態を交互に繰り返して溶接を行う消耗電極式のアーク溶接装置において、短絡期間またはアーク期間に発生するスパッタを低減するため、従来から様々な制御方法が用いられている。
【0003】
従来の制御方法として、短絡期間における溶接用ワイヤと母材との間の抵抗値を検出することで溶滴のくびれを検出し、短絡状態からアークが発生する時の溶接電流を抑制し、アーク期間となった瞬間に発生するスパッタを低減するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、短絡期間における溶接用ワイヤと母材との間の抵抗値を検出し、溶接出力を自動的に調整するものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
図6は、従来のアーク溶接装置の概略構成を示している。図6において、アーク溶接装置は、アーク溶接装置の外部にある入力電圧部1から交流電力を入力して溶接出力を行うための出力制御部2と、出力電流を検出するための電流検出器8と、電流検出器8に接続され出力電流を検出するための出力電流検出部9と、溶接出力端間に接続され出力電圧を検出するための出力電圧検出部10と、出力電圧検出部10で検出された電圧に基づいて短絡期間であるのかアーク期間であるのかを判定するための短絡検出部11と、出力電圧検出部10で検出された出力電圧と出力電流検出部9で検出された出力電流を用いて抵抗値を演算するための抵抗値演算部14と、抵抗値演算部14の出力に基づいて出力制御部2を駆動する駆動指令部16を備えている。
【0006】
なお、アーク溶接装置の出力の一端は、延長ケーブル6を介してトーチ5に接続されている。アーク溶接装置の出力の他端は、母材ケーブル7を介して施工対象物である母材4に接続されている。溶接時に消耗電極となる溶接用ワイヤ3は、トーチ5により電力が供給される。
【0007】
以上のように構成されたアーク溶接装置について、その動作を説明する。
【0008】
まず、出力制御部2は、駆動指令部16からの信号を受け、入力電圧部1から入力した交流電力をインバータ制御などにより出力制御を行い、トーチ5と母材4との間に電圧を供給する。そして、トーチ5から電力が供給される溶接用ワイヤ3と、母材4との間にアークを発生させて溶接を行う。
【0009】
このとき、出力電流検出部9は、電流検出器8の出力に基づいてアーク溶接装置の出力電流を検出する。出力電圧検出部10は、アーク溶接装置の出力電圧を検出し、短絡検出部11へ検出電圧信号を送る。短絡検出部11は、出力電圧検出部10から入力した検出電圧信号に基づいて、短絡期間であるのかアーク期間であるのかを判定し、短絡判定信号を抵抗値演算部14に送る。抵抗値演算部14は、出力電圧検出部10で検出された電圧を出力電流検出部9で検出された電流で除することにより、短絡期間中の抵抗値を演算し、駆動指令部16へ信号を送る。そして、駆動指令部16が、抵抗値演算部14から入力した信号に基づいて出力制御部2に制御信号を送ることで、短絡状態からアークが発生した時点の電流を抑制する、あるいは、溶接出力を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭59−202176号公報
【特許文献2】特開平4−309465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のアーク溶接装置は、トーチ5に設けられ溶接用ワイヤ3に電力を供給するための図示しないコンタクトチップの先端と母材間との間の距離を、短絡期間における溶接用ワイヤ3と母材4との間の抵抗値を検出することで検出し、出力の制御を行っている。しかし、アーク溶接装置が置かれている場所と溶接施工対象物である母材4が置かれている場所とが離れており、これらの間の距離が長い場合や、施工現場毎に異なる太さ(断面積)のケーブルを使用する場合等では、作業現場毎に抵抗値が異なる。そして、異なる抵抗値に対して発生するアーク期間中の燃え上がりを抑制することは目的としていない。
【0012】
従って、アーク溶接装置と施工対象物である母材4までの距離が長く、延長ケーブル6や母材ケーブル7が長くなった場合において、アーク期間中に溶接用ワイヤ3の燃え上がりが生じ、燃え上がりすぎてしまうことによって溶接用ワイヤ3の先端の溶滴が肥大することにより発生するスパッタを抑制することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のアーク溶接制御方法は、消耗電極を用いて短絡状態とアーク状態を繰り返して溶接を行うアーク溶接のアーク溶接制御方法であって、予め設定された基準電圧と短絡期間に検出された溶接出力電圧との差である電圧差を求めるステップと、前記溶接出力電圧を検出した前記短絡期間に検出された溶接出力電流で前記電圧差を除して抵抗値を求めるステップと、前記抵抗値に基づいて前記短絡期間に続くアーク期間の溶接出力電圧の制御を行うステップと、を備えたものである。
【0014】
また、本発明のアーク溶接制御方法は、上記に加えて、アーク期間中は、求めた抵抗値が零の場合には、溶接出力電圧の指令値が、基準となる所定の減少傾きで減少するように溶接出力電圧の制御を行い、前記抵抗値が零より大きく所定値以下の場合には、溶接出力電圧の指令値が、前記基準となる所定の減少傾きで減少するように溶接出力電圧の制御を行い、前記抵抗値が前記所定値を超える場合には、前記抵抗値が大きい程、前記基準となる所定の減少傾きよりも大きな減少傾きとなるように溶接出力電圧の指令値を制御してアーク期間の溶接出力電圧の制御を行うものである。
【0015】
また、本発明のアーク溶接制御方法は、上記に加えて、アーク期間中は、求めた抵抗値が零の場合には、溶接出力電圧の指令値が、基準となる所定の減少傾きで減少するように溶接出力電圧の制御を行い、前記抵抗値が大きい程、前記基準となる所定の減少傾きよりも大きな減少傾きとなるように溶接出力電圧の指令値を制御してアーク期間の溶接出力電圧の制御を行うものである。
【0016】
また、本発明のアーク溶接制御方法は、上記に加えて、予め設定された溶接出力電流設定値に基づいて基準電圧を決定し、予め設定された溶接出力電圧設定値に基づいて前記基準電圧を補正するための電圧補正値を決定し、前記電圧補正値に基づいて前記基準電圧を補正することにより、電圧差を求める際の基準電圧を決定するものである。
【0017】
また、本発明のアーク溶接制御方法は、上記に加えて、短絡期間の溶接出力電圧の平均値から基準電圧を減じることにより電圧差を求め、前記短絡期間の溶接出力電流の平均値により前記電圧差を除すことにより抵抗値を求めるものである。
【0018】
また、本発明のアーク溶接装置は、消耗電極を用いて短絡状態とアーク状態を繰り返して溶接を行うアーク溶接装置であって、交流電力を入力して溶接出力を行う出力制御部と、前記出力制御部に駆動指令を出力する駆動指令部と、溶接出力電圧を検出する溶接出力電圧検出部と、溶接出力電流を検出する溶接出力電流検出部と、前記溶接出力電圧検出部の出力および/または前記溶接出力電流検出部の出力に基づいて短絡期間であるのかアーク期間であるのかを検出する短絡アーク検出部と、基準電圧を設定するための基準電圧設定部と、短絡期間に前記溶接出力電圧検出部が検出した検出値と前記基準電圧設定部で設定された設定値との差を演算する差分演算部と、前記短絡期間に前記溶接出力電流検出部が検出した検出値で前記差分演算部の演算結果を除して抵抗値を算出する抵抗値演算部と、前記抵抗値演算部の演算結果に基づいて前記短絡期間に続くアーク期間の溶接出力電圧の制御補正指令を前記駆動指令部に出力する電圧補正指令部とを備えたものである。
【0019】
また、本発明のアーク溶接装置は、上記に加えて、アーク期間中は、求めた抵抗値が零の場合には、溶接出力電圧の指令値が、基準となる所定の減少傾きとなるように電圧補正指令部が駆動指令部にアーク期間の溶接出力電圧の制御補正指令を出力し、前記抵抗値が零より大きく所定値以下の場合には、溶接出力電圧の指令値が前記基準となる所定の減少傾きとなるように前記電圧補正指令部が前記駆動指令部にアーク期間の溶接出力電圧の制御補正指令を出力し、前記抵抗値が前記所定値を超える場合には、前記抵抗値が大きい程、前記基準となる所定の減少傾きよりも大きな減少傾きとなるように前記電圧補正指令部が前記駆動指令部にアーク期間の溶接出力電圧の制御補正指令を出力するものである。
【0020】
また、本発明のアーク溶接装置は、上記に加えて、アーク期間中は、求めた抵抗値が零の場合には、溶接出力電圧の指令値が、基準となる所定の減少傾きとなるように電圧補正指令部が駆動指令部にアーク期間の溶接出力電圧の制御補正指令を出力し、前記抵抗値が大きい程、前記基準となる所定の減少傾きよりも大きな減少傾きとなるように前記電圧補正指令部が前記駆動指令部にアーク期間の溶接出力電圧の制御補正指令を出力するものである。
【0021】
また、本発明のアーク溶接装置は、上記に加えて、予め溶接出力電圧設定値を設定するための設定電圧入力部と、予め溶接出力電流設定値を設定するための設定電流入力部と、前記設定電圧入力部で設定された溶接出力電圧設定値に基づいて基準電圧を補正するための基準電圧補正値を決定する基準電圧補正部と、前記設定電流入力部で設定されて溶接出力電流設定値に基づいて前記基準電圧を決定し、さらに、前記基準電圧補正部で決定された基準電圧設定値に基づいて前記基準電圧を補正することにより、電圧差を求める際の基準電圧を決定する基準電圧設定部を備えたものである。
【0022】
また、本発明のアーク溶接装置は、上記に加えて、差分演算部は、短絡期間の溶接出力電圧の平均値から基準電圧を減じることにより電圧差を求め、抵抗値演算部は、前記短絡期間の溶接出力電流の平均値により前記電圧差を除すことにより抵抗値を求めるものである。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、設定された基準電圧と短絡期間に検出された溶接出力電圧との差である電圧差を求め、これを溶接出力電流で除して抵抗値を求め、求めた抵抗値に基づいて短絡期間に続くアーク期間の溶接出力電圧の制御を行うものであり、抵抗値が大すなわち延長ケーブルや母材ケーブルが長い場合等には、抵抗値が小の場合とは異なるアーク期間中の出力制御を行うことにより、アーク期間中の燃え上がりを抑制してスパッタの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態1におけるアーク溶接装置の概略構成を示す図
【図2】本発明の実施の形態1における出力電圧波形の説明図
【図3】(a)本発明の実施の形態1における駆動指令の説明図(b)本発明の実施の形態1における出力電流波形の説明図
【図4】本発明の実施の形態2におけるアーク溶接装置の概略構成を示す図
【図5】本発明の実施の形態2における出力電圧波形の説明図
【図6】従来のアーク溶接装置の概略構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図1から図5を用いて説明する。
【0026】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1におけるアーク溶接装置の概略構成を示す図である。図1において、アーク溶接装置は、アーク溶接装置の外部にある入力電圧部1から交流電力を入力して溶接出力を行うための出力制御部2と、アーク溶接装置の出力電流を検出するための電流検出器8と、電流検出器8に接続され出力電流を検出するための出力電流検出部9と、溶接出力間に接続されアーク溶接装置の出力電圧を検出するための出力電圧検出部10と、出力電圧検出部10で検出された電圧に基づいて短絡期間であるのかアーク期間であるのかを判定するための短絡検出部11と、後述する基準電圧を設定するための基準電圧設定部12と、短絡期間中に出力電圧検出部10で検出された出力電圧と基準電圧設定部12で設定された基準電圧との電圧差を演算するための差動演算部13と、差動演算部13で演算された電圧差と出力電流検出部9で検出された出力電流を用いて抵抗値を演算するための抵抗値演算部14と、抵抗値を求めた短絡期間に続くアーク期間中の出力電圧の制御を抵抗値演算部14の出力に基づいて行うための出力波形補正部15と、出力波形補正部15の指令出力に基づいて出力制御部2を駆動する駆動指令部16を備えている。
【0027】
なお、アーク溶接装置の出力の一端は、延長ケーブル6を介してトーチ5に接続されており、アーク溶接装置の出力の他端は、母材ケーブル7を介して施工対象物である母材4に接続されている。溶接時に消耗電極となる溶接用ワイヤ3は、トーチ5により電力が供給される。
【0028】
なお、短絡検出部11は、出力電圧検出部10の検出結果ではなく、出力電流検出部9の検出結果に基づいて、あるいは、出力電圧検出部10の検出結果と出力電流検出部9の検出結果の両方に基づいて、短絡期間であるのかアーク期間であるのかを判定するようにしても良い。
【0029】
以上のように構成されたアーク溶接装置について、その動作を説明する。
【0030】
まず、出力制御部2は、駆動指令部16からの信号を受け、入力電圧部1から入力した交流電力をインバータ制御などにより変換して出力の制御を行い、トーチ5と母材4との間に電圧を供給し、溶接用ワイヤ3と母材4との間にアークを発生させて溶接を行う。このとき、出力電流検出部9は、電流検出器8からの信号に基づいてアーク溶接装置の出力電流を検出し、抵抗値演算部14に検出電流信号を出力する。出力電圧検出部10は、アーク溶接装置の出力電圧を検出し、短絡検出部11と差動演算部13へ検出電圧信号を出力する。短絡検出部11は、出力電圧検出部10からの検出電圧信号に基づいて短絡期間であるのかアーク期間であるのかを判定し、短絡判定信号を差動演算部13に送る。基準電圧設定部12で設定される基準電圧は、例えばアーク溶接装置が工場から出荷される際に設定されている固定値である。
【0031】
差動演算部13は、短絡検出部11からの短絡判定信号に基づいて、短絡期間中において、基準電圧設定部12で予め設定された基準電圧信号と出力電圧検出部10からの検出電圧信号との差である電圧差を演算する。なお、電圧差は、検出電圧信号から基準電圧信号を減じることによって求められる。より詳しくは、短絡期間の開始から終了までのアーク溶接装置の出力電圧の平均値から基準電圧値を減じることで求められる。
【0032】
抵抗値演算部14は、差動演算部13で算出した電圧差を出力電流検出部9で検出された検出電流で除すことにより短絡期間中の抵抗値を演算し、抵抗値信号を出力波形補正部15へ送る。より詳しくは、短絡期間の開始から終了までのアーク溶接装置の出力電流の平均値により電圧差を除すことにより、抵抗値が演算される。
【0033】
出力波形補正部15は、抵抗値演算部14から入力した抵抗値信号に基づき、抵抗値が求められた短絡期間に続くアーク期間中の溶接出力を補正した結果を駆動指令部16に伝え、溶接出力を変化させる。このとき、アーク期間中に駆動指令部16が出力する駆動指令は、アーク期間における出力電圧が所定の減少傾きで減少するような指令となっている。
【0034】
ここで、延長ケーブル6や母材ケーブル7が、通常アーク溶接装置で使用される標準構成におけるケーブル長さである3m程度と長さが短い場合と、標準構成ではなく20m〜40m程度と延長ケーブル6や母材ケーブル7を伸ばして使用した場合の、出力電圧検出部10で検出される出力電圧を、図2に示す。なお、標準構成とは、例えば、アーク溶接装置が出荷される際にアーク溶接装置に付属されるトーチケーブルや、アーク溶接装置とワイヤ送給装置を接続するケーブルや、アーク溶接装置と母材とを接続するためのケーブル等を用いて、溶接を行うことができるように配線を行った場合の構成である。
【0035】
図2において、横軸は時間を示しており、縦軸は出力電圧検出部10で検出された溶接出力電圧(出力電圧)を示している。出力電圧の低い期間が短絡状態である短絡期間TSであり、出力電圧の高い期間がアーク状態であるアーク期間TAである。延長ケーブル6または母材ケーブル7が標準構成の場合に使用される長さが短い状態の短絡期間TSにおける出力電圧を(A)で示し、延長ケーブル6または母材ケーブル7が標準構成の場合に使用される長さよりも長い状態での短絡期間TSにおける出力電圧を(B)で示している。なお、延長ケーブル6や母材ケーブル7が長い場合、各々のケーブルの長さや断面積に応じて短絡期間TSにおける出力電圧が変化し、ケーブルが長い程、アーク期間中の出力電圧は高くなる。
【0036】
短絡期間に検出した出力電圧が高い場合、図1で示す差動演算部13から出力される電圧差も大となり、抵抗値演算部14から出力される抵抗値信号も大となる。その結果、出力波形補正部15が出力するアーク期間中の出力電圧の補正を指令する指令値が示す出力補正量も大となる。このときの駆動指令部16が出力する駆動指令と出力電流の変化を図3に示す。
【0037】
図3(a)において、横軸は時間を示しており、縦軸は駆動指令を示している。また、図3(b)において、横軸は時間を示しており、縦軸は出力電流を示している。なお、図2の場合と同様、駆動指令が低く出力電流が増加している期間が短絡状態である短絡期間TSであり、駆動指令が高く出力電流が減少している期間がアーク状態であるアーク期間TAである。
【0038】
抵抗値演算部14から出力される抵抗値信号が大の場合、駆動指令部16は、出力波形補正部15によりアーク期間中の出力制御が補正され、一例として、図3(a)の(A)で示すアーク期間TAにおける駆動指令から図3(a)の(B)で示す駆動指令に補正される。なお、図3(a)の(A)で示すアーク期間TAにおける駆動指令は、抵抗値がゼロの場合の駆動指令である。駆動指令の補正は、駆動指令の減少傾きを変更することにより行われ、駆動指令の減少傾きを、ケーブルが短い標準構成の場合、すなわち図3(a)の(A)で示す場合よりも大となるように補正を行う。
【0039】
この補正を行うことにより、図3(b)における出力電流の波形に示すように、標準構成の場合よりもケーブルが長く補正を行わない場合の(c)で示す出力電流と比べ、標準構成の場合よりもケーブルが長く補正を行う場合の(d)で示す出力電流のように、アーク期間TA中の出力電流を下げることができる。これにより、アーク期間TA中にアーク長が長くなることを抑制し、溶接用ワイヤ3が燃え上がり過ぎてしまった状態によるスパッタの発生を抑制することができる。
【0040】
なお、アーク長が長くなるとアーク期間TAも長くなることが多いが、本実施の形態によれば、燃え上がりを抑制してアーク長が長くなることを抑制することができ、従って、アーク期間TAも短くする効果もある。
【0041】
なお、抵抗値に応じたアーク期間の駆動指令の減少傾きの制御は、抵抗値がゼロの場合を基準の所定減少傾きとし、抵抗値が大きい程減少傾きを大きくするように制御してもよい。あるいは、抵抗値が所定値となるまでは抵抗値がゼロの場合の基準の所定減少傾きと同じ減少傾きに制御し、抵抗値が所定値を超えると抵抗値が大きい程減少傾きを大きくするように制御してもよい。
【0042】
(実施の形態2)
本実施の形態において、実施の形態1と同様の箇所については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0043】
図4は、本実施の形態におけるアーク溶接装置の概略構成を示す図である。図4において、実施の形態1の図1で示したアーク溶接装置との違いを中心に説明する。
【0044】
図4に示すアーク溶接装置は、図1で示す構成に加えて、可変抵抗などで構成される出力設定電圧を設定するための電圧設定器17と、可変抵抗などで構成される出力設定電流を設定するための電流設定器18と、電圧設定器17により設定された設定値を読み込んで出力電圧を決定するための設定電圧入力部19と、電流設定器18により設定された設定値を読み込んで出力電流を決定するための設定電流入力部20と、設定電圧入力部19で決定された出力設定電圧と設定電流入力部20で決定された出力設定電流に基づいて溶接出力を決定するための溶接出力設定部21と、設定電圧入力部19で決定された出力設定電圧に基づいて短絡期間中の基準電圧を補正するための基準電圧補正部22を備えている。
【0045】
以上のように構成されたアーク溶接装置について、その動作を説明する。
【0046】
まず、出力制御部2は、駆動指令部16からの信号を受け、入力電圧部1から入力した交流電力をインバータ制御などにより変換して出力の制御を行い、トーチ5と母材4との間に電圧を供給し、溶接用ワイヤ3と母材4との間にアークを発生させて溶接を行う。このとき、出力電流検出部9は、電流検出器8の出力に基づいてアーク溶接装置の出力電流を検出し、抵抗値演算部14に検出電流信号を送る。出力電圧検出部10は、アーク溶接装置の出力電圧を検出し、短絡検出部11と差動演算部13へ検出電圧信号を送る。短絡検出部11は、出力電圧検出部10からの検出電圧信号に基づいて、短絡期間であるのかアーク期間であるのかを判定し、短絡判定信号を差動演算部13に送る。
【0047】
設定電圧入力部19は、電圧設定器17で設定された設定値に基づいて電圧指令値を決定し、基準電圧補正部22と溶接出力設定部21に電圧指令値を送る。設定電流入力部20は、電流設定器18で設定された設定値に基づいて電流指令値を決定し、基準電圧設定部12と溶接出力設定部21に電流指令値を送る。
【0048】
基準電圧補正部22は、設定電圧入力部19から入力した電圧指令値に基づいて、基準電圧を補正するための基準電圧補正量を決定する。この基準電圧補正量の決定は、基準電圧補正部22が、例えば電圧指令値と基準電圧補正量とを対応付けたテーブルや数式を有しており、入力した電圧指令値に基づいて決定される。そして、この基準電圧補正量は、設定電圧入力部19が出力する電圧指令値が、施工状態等により決まる適性電圧より低い場合や、設定電流入力部20が出力する電流指令値が、施工状態等により決まる適性電流より高い場合には、プラス側、すなわち、基準電圧を大きくするように補正するための補正量である。
【0049】
基準電圧設定部12は、設定電流入力部20が出力する電流指令値に基づいて基準電圧を決定する。この基準電圧の決定は、基準電圧設定部12が、例えば電流指令値と基準電圧とを対応付けたテーブルや数式を有しており、入力した電流指令値に基づいて決定される。そして、基準電圧設定部12は、電流指令値に基づいて決定した基準電圧を、基準電圧補正部22から入力した基準電圧補正量に基づいて補正を行い、電圧差を求める際の基準電圧を決定する。
【0050】
溶接出力設定部21は、入力した電圧指令値と電流指令値に基づいて、短絡期間およびアーク期間の駆動指令を出力波形補正部15に出力する。なお、アーク期間の駆動指令は、入力した電圧指令値と電流指令値に基づいた、溶接出力電圧の基準となる所定の減少傾きを含む。そして、溶接出力設定部21は、電圧指令値が施工状態等により決まる適性電圧より高く、電流指令値が200A〜300A程度の中電流領域では、適正電圧であり適正電流である場合と比べ、基準と所定の減少傾きが大となる駆動指令を出力波形補正部15へ送る。
【0051】
差動演算部13は、短絡検出部11からの短絡判定信号に基づいて、基準電圧設定部12で決定された基準電圧と短絡期間中に出力電圧検出部10で検出された出力電圧との差である電圧差を演算する。なお、電圧差は、検出された出力電圧から基準電圧を減じることによって求められる。より詳しくは、短絡期間の開始から終了までのアーク溶接装置の出力電圧の平均値から基準電圧を減じることで求められる。
【0052】
抵抗値演算部14は、差動演算部13で算出した電圧差を、短絡期間中に出力電流検出部9で検出された検出電流で除すことにより、短絡期間中の抵抗値を演算し、抵抗値信号を出力波形補正部15へ送る。より詳しくは、短絡期間の開始から終了までのアーク溶接装置の出力電流の平均値により電圧差を除すことにより、抵抗値が演算される。
【0053】
出力波形補正部15は、溶接出力設定部21から入力した駆動指令、具体的には、アーク期間の基準となる所定の減少傾きを、抵抗値演算部14から入力した抵抗値信号に基づいて補正し、駆動指令部16に出力する。すなわち、抵抗値が大きい程、基準となる所定の減少傾きよりも傾きを大きくした駆動指令を、駆動指令部16に出力する。なお、抵抗値に応じたアーク期間の駆動指令の減少傾きの制御は、抵抗値がゼロの場合を基準となる所定の減少傾きとし、抵抗値が大きい程減少傾きを大きくするように制御してもよい。あるいは、抵抗値が所定値となるまでは抵抗値がゼロの場合の基準となる所定の減少傾きと同じ減少傾きに制御し、抵抗値が所定値を超えると抵抗値が大きい程減少傾きを大きくするように制御してもよい。
【0054】
なお、出力波形補正部15は、短絡期間の駆動指令は、溶接出力設定部21から入力した短絡期間の駆動指令を、そのまま駆動指令部16に出力する。
【0055】
駆動指令部16が出力波形補正部15から入力した駆動指令に基づいて出力制御部2を制御することにより、溶接出力の制御が行われる。
【0056】
実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。さらに、実施の形態2によれば、設定電流入力部20が出力する電流指令値や設定電圧入力部19が出力する電圧指令値に基づいて、基準電圧設定部12で決定される基準電圧を変化させることができる。この状態を示したのが図5である。
【0057】
図5において、横軸は時間であり、縦軸は出力電圧検出部10で検出された出力電圧である。そして、出力電圧の低い期間が短絡状態である短絡期間TS0であり、出力電圧の高い期間がアーク状態であるアーク期間TA0である。電流指令値や電圧指令値が、施工状態等により決まる適性電圧と適性電流値である場合を(A)で示し、電流指令値が適性電流より高く電圧指令値が適正電圧より低くなった場合を(B)で示している。
【0058】
電流指令値が適性電流より高く電圧指令値が適正電圧より低くなった場合、図5に示すように、短絡期間TS0中の電圧勾配が高くなり、短絡期間TS0も短くなってしまう。この結果、出力電圧検出部10で検出される出力電圧が高くなり、抵抗値演算部14で出力される抵抗値信号も大となる。そのため、延長ケーブル6や母材ケーブル7を延長した状態と同じ結果となり、アーク期間中の駆動指令の減少傾きを大きくしてしまい、出力電圧が低くなり、アークが不安定となってしまう。
【0059】
しかし、実施の形態2では、基準電圧設定部12で決定される基準電圧を、電圧指令値や電流指令値に基づいて変化させることができ、電圧指令値が低い場合や電流指令値が高い場合には、プラス側、すなわち、基準電圧を大きくするように補正を行うため、出力電圧が低くならず、延長ケーブル6や母材ケーブル7が長い場合のみに効果を発揮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明によれば、延長ケーブルや母材ケーブルを延長した場合であっても、出力ケーブル延長時の溶接用ワイヤの過度の燃え上がりを抑制することができ、燃え上がりによるスパッタ発生も抑制することができるため、例えば、アーク溶接装置が置かれている場所から溶接を行う場所までの距離が変化する施工現場で使用されるアーク溶接装置として産業上有用である。
【符号の説明】
【0061】
1 入力電圧部
2 出力制御部
3 溶接用ワイヤ
4 母材
5 トーチ
6 延長ケーブル
7 母材ケーブル
8 電流検出器
9 出力電流検出部
10 出力電圧検出部
11 短絡検出部
12 基準電圧設定部
13 差動演算部
14 抵抗値演算部
15 出力波形補正部
16 駆動指令部
17 電圧設定器
18 電流設定器
19 設定電圧入力部
20 設定電流入力部
21 溶接出力設定部
22 基準電圧補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消耗電極を用いて短絡状態とアーク状態を繰り返して溶接を行うアーク溶接のアーク溶接制御方法であって、
予め設定された基準電圧と短絡期間に検出された溶接出力電圧との差である電圧差を求めるステップと、
前記溶接出力電圧を検出した前記短絡期間に検出された溶接出力電流で前記電圧差を除して抵抗値を求めるステップと、
前記抵抗値に基づいて前記短絡期間に続くアーク期間の溶接出力電圧の制御を行うステップと、
を備えたアーク溶接制御方法。
【請求項2】
アーク期間中は、求めた抵抗値が零の場合には、溶接出力電圧の指令値が、基準となる所定の減少傾きで減少するように溶接出力電圧の制御を行い、前記抵抗値が零より大きく所定値以下の場合には、溶接出力電圧の指令値が、前記基準となる所定の減少傾きで減少するように溶接出力電圧の制御を行い、前記抵抗値が前記所定値を超える場合には、前記抵抗値が大きい程、前記基準となる所定の減少傾きよりも大きな減少傾きとなるように溶接出力電圧の指令値を制御してアーク期間の溶接出力電圧の制御を行う請求項1記載のアーク溶接制御方法。
【請求項3】
アーク期間中は、求めた抵抗値が零の場合には、溶接出力電圧の指令値が、基準となる所定の減少傾きで減少するように溶接出力電圧の制御を行い、前記抵抗値が大きい程、前記基準となる所定の減少傾きよりも大きな減少傾きとなるように溶接出力電圧の指令値を制御してアーク期間の溶接出力電圧の制御を行う請求項1記載のアーク溶接制御方法。
【請求項4】
予め設定された溶接出力電流設定値に基づいて基準電圧を決定し、予め設定された溶接出力電圧設定値に基づいて前記基準電圧を補正するための電圧補正値を決定し、前記電圧補正値に基づいて前記基準電圧を補正することにより、電圧差を求める際の基準電圧を決定する請求項1から3のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法。
【請求項5】
短絡期間の溶接出力電圧の平均値から基準電圧を減じることにより電圧差を求め、前記短絡期間の溶接出力電流の平均値により前記電圧差を除すことにより抵抗値を求める請求項1から4のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法。
【請求項6】
消耗電極を用いて短絡状態とアーク状態を繰り返して溶接を行うアーク溶接装置であって、
交流電力を入力して溶接出力を行う出力制御部と、
前記出力制御部に駆動指令を出力する駆動指令部と、
溶接出力電圧を検出する溶接出力電圧検出部と、
溶接出力電流を検出する溶接出力電流検出部と、
前記溶接出力電圧検出部の出力および/または前記溶接出力電流検出部の出力に基づいて短絡期間であるのかアーク期間であるのかを検出する短絡アーク検出部と、
基準電圧を設定するための基準電圧設定部と、
短絡期間に前記溶接出力電圧検出部が検出した検出値と前記基準電圧設定部で設定された設定値との差を演算する差分演算部と、
前記短絡期間に前記溶接出力電流検出部が検出した検出値で前記差分演算部の演算結果を除して抵抗値を算出する抵抗値演算部と、
前記抵抗値演算部の演算結果に基づいて前記短絡期間に続くアーク期間の溶接出力電圧の制御補正指令を前記駆動指令部に出力する電圧補正指令部と
を備えたアーク溶接装置。
【請求項7】
アーク期間中は、求めた抵抗値が零の場合には、溶接出力電圧の指令値が、基準となる所定の減少傾きとなるように電圧補正指令部が駆動指令部にアーク期間の溶接出力電圧の制御補正指令を出力し、前記抵抗値が零より大きく所定値以下の場合には、溶接出力電圧の指令値が前記基準となる所定の減少傾きとなるように前記電圧補正指令部が前記駆動指令部にアーク期間の溶接出力電圧の制御補正指令を出力し、前記抵抗値が前記所定値を超える場合には、前記抵抗値が大きい程、前記基準となる所定の減少傾きよりも大きな減少傾きとなるように前記電圧補正指令部が前記駆動指令部にアーク期間の溶接出力電圧の制御補正指令を出力する請求項6記載のアーク溶接装置。
【請求項8】
アーク期間中は、求めた抵抗値が零の場合には、溶接出力電圧の指令値が、基準となる所定の減少傾きとなるように電圧補正指令部が駆動指令部にアーク期間の溶接出力電圧の制御補正指令を出力し、前記抵抗値が大きい程、前記基準となる所定の減少傾きよりも大きな減少傾きとなるように前記電圧補正指令部が前記駆動指令部にアーク期間の溶接出力電圧の制御補正指令を出力する請求項6記載のアーク溶接装置。
【請求項9】
予め溶接出力電圧設定値を設定するための設定電圧入力部と、
予め溶接出力電流設定値を設定するための設定電流入力部と、
前記設定電圧入力部で設定された溶接出力電圧設定値に基づいて基準電圧を補正するための基準電圧補正値を決定する基準電圧補正部と、
前記設定電流入力部で設定されて溶接出力電流設定値に基づいて前記基準電圧を決定し、さらに、前記基準電圧補正部で決定された基準電圧設定値に基づいて前記基準電圧を補正することにより、電圧差を求める際の基準電圧を決定する基準電圧設定部を備えた請求項6から8のいずれか1項に記載のアーク溶接装置。
【請求項10】
差分演算部は、短絡期間の溶接出力電圧の平均値から基準電圧を減じることにより電圧差を求め、抵抗値演算部は、前記短絡期間の溶接出力電流の平均値により前記電圧差を除すことにより抵抗値を求める請求項6から9のいずれか1項に記載のアーク溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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