説明

インストルメントパネル表皮への破断用ラインの形成方法及びその装置

【課題】加工品質が安定して不良率を低減でき、カッター刃の磨耗による加工ばらつきを抑制でき、且つ刃の交換頻度を低減し得るインストルメントパネル表皮への破断用ラインの形成方法を提供する。
【解決手段】産業用ロボット22によりカッター刃23を用いてインストルメントパネル表皮24にハーフカットの破断用ラインを形成する方法において、カッター刃23の背面に圧力検出機構26を設けて加工時の圧力を常時検出し、この圧力が常時一定となるように、環境・温度変化による誤差を加味して速度指令信号を随時決定してロボットコントローラ21にフィードバックし、産業用ロボット22を速度制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補助席用エアバッグの展開時にエアバックドアが確実に開くようにするためにインストルメントパネルの裏面にカッター加工を施すインストルメント加工方法に係り、特に産業用ロボットによってカッター刃を操作してインストルメントパネルを加工する方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車両には、助手席用のエアバッグ装置も搭載されている。この助手席用エアバッグ装置は、助手席の前方においてインストルメントパネルの内側に配置されている。このインストルメントパネルにはエアバッグドアが設けられており、エアバッグ展開時にインフレータによって膨張するエアバッグがエアバッグドアを室内側へ押圧してエアバッグドアを開かせると、エアバッグがその開口から助手席の乗員の前方へ展開する。
【0003】
インストルメントパネルの裏面には、エアバッグ展開時にエアバッグドアが確実に開くようにするために、シート側からはインビジブルな筋状,点線或いは間欠状のハーフカットの切り込みが入れられている。以下、この種の切り込みのラインを総称して、破断用ラインと称す。このインビジブルな破断用ラインは、エアバッグの膨張圧力で容易に開裂されるようにH字状又はU字状の脆弱部として形成される。
【0004】
基材と中間層(ポリウレタンフォーム)と表皮で構成されるソフトインストルメントパネルにあっては、基材に形成されたエアバッグドアの開口ラインに沿って表皮にハーフカットのインビジブル破断用ラインが施されている。
【0005】
従来のインビジブル破断用ラインを形成する方法では、産業用ロボットがロボットコントローラから入力する速度指令信号に基づいてロボットハンドに保持したカッター刃を、図3に示すように、インストルメントパネル表皮に突き立てて速度を一定にして移動し切開することにより、インビジブル破断用ラインLを形成している。図3において、符号11はロボットハンド、符号12はカッター、符号13はインストルメントパネル表皮を示す。
【0006】
特許文献1には、レーザー加工により裏面層に断続するインビジブルな破断用ラインを形成することが提案されている。特許文献2には、レーザー加工により表面層に断続するインビジブルな破断用ラインを形成することが提案されている。特許文献3には、芯材と表面材にインビジブルな破断用ラインを形成することが提案されている。特許文献4には、インストルメントパネル表皮に対してインストルメントパネル基材に形成されたエアバッグドアの開口ラインに沿って破断用溝を形成することが提案されている。
【特許文献1】特開平11−43003号公報
【特許文献2】特開2003−191815号公報
【特許文献3】特開2004−359019号公報
【特許文献4】特開2002−326241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図3に示す破断用ラインLを形成する方法においては、切れ量r(切開深さ)にバラツキがある。図4は、図3に示す破断用ラインLを形成する方法におけるカッターの加工速度と圧力との関係を示すグラフである。図4から圧力がPh、P、PLと相違すると切れ量r(切開深さ)が相違し表皮残厚が相違することが分かった。即ち、加工速度が一定であるとしても、カッターがインストルメントパネル表皮に加える圧力が異なると、表皮残厚が相違しバラツキが発生する。
【0008】
また、切れ量r(切開深さ)とカッター刃の突き立て力は、以下のような関係がある。図5は、カッター刃12をインストルメントパネル表皮13に突き立てたときに形成される三角形の切り込みの寸法及び形状を説明するための拡大図を示す。インストルメントパネル表皮13のヤング率をEで示し、カッター刃12の肉厚をhで示し、カッター刃12の尖端形状によって決定されるカッター進入角をα、βで示すものとして、カッター刃12をインストルメントパネル表皮13に対する垂直に力FDを突き立てるとき、切れ量r(切開深さ)と突き立て力FDは、以下の式1の関係がある。
【数1】

【0009】
しかしながら、切れ量r(切開深さ)は、カッター刃の突き立て力に関係した完全な関係式で示すことはできず、加工速度や加工前表皮温度、カッター刃の磨耗、湿度、室温、インストルメントパネルの中間層の厚みや硬度、その他の環境条件によっても変化することが分かっている。切れ量rが小さ過ぎると、展開性能に影響を及ぼし、大きすぎると意匠面品質に痕付きが発生するため、如何に適切な切れ量に安定化させるかが重要となっている。さらにカッター刃の圧力が大きく変化することが多いと、カッター刃の磨耗速度が速くなり、カッター刃の磨耗は、加工ばらつきに大きく影響するので、刃の交換頻度を高くする必要があり、稼働率を低減することに繋がっている。このため、切れ量r(切開深さ)が適切となる良品条件幅は非常に狭くなっていて、ライン形成後(各切開形成後)に切開側からレーザーセンサによりインストルメントパネル表皮の残厚を計測して許容範囲内に収まっていることを確認している。そして、残厚が許容範囲内に収まっていないものは不良品として廃品になる不経済がある。
【0010】
本発明は、加工品質が安定して不良率を低減でき、カッター刃の磨耗による加工ばらつきを抑制でき、しかも刃の交換頻度を低減することができる、インストルメントパネル表皮への破断用ラインの形成方法及びその装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、産業用ロボットによりカッター刃を用いてインストルメントパネル表皮にハーフカットの破断用ラインを形成する方法において、カッター刃の背面に圧力検出機構を設けて加工時の圧力を検出し、環境・温度変化による誤差を加味して速度指令信号を決定してロボットコントローラにフィードバックし、産業用ロボットを速度制御することを特徴としている。なお、本発明における破断用ラインには、筋状,点線或いは間欠状のハーフカットの切り込みを含む。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の破断用ライン形成装置は、カッター刃を保持した産業用ロボットと、産業用ロボットに速度指令信号を送出するロボットコントローラと、カッター刃がインストルメントパネルに加える圧力を検出する圧力検出機構と、圧力検出機構からの圧力を検出して、環境・温度変化による誤差を加味して速度指令信号を決定してロボットコントローラにフィードバックする制御装置と、を備えていて、カッター刃の速度が制御されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、加工速度や加工前表皮温度、カッター刃の磨耗、湿度、室温、インストルメントパネルの中間層の厚みや硬度、その他の環境条件を加味して、カッター刃の加工圧力を一定にすることができるので、切れ量(切開深さ)を適切な値に管理することができて、不良率を低減できる。また、カッター刃の加工圧力が一定になると、カッター刃の磨耗が軽減することに繋がり、カッター刃の交換頻度を低減でき、破断用ライン形成装置の稼働率を上げることができる。よって、加工品質が安定し、不良率を低減でき、カッター刃の磨耗による加工ばらつきを抑制でき、刃の交換頻度を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の一実施形態に係るインストルメントパネル表皮への破断用ラインの形成方法は、自動車のインストルメントパネルの補助席用エアバッグ部のエアバッグの展開性能を保証するために、産業用ロボットによりカッター刃を用いてインストルメントパネル表皮(以下、単に表皮という。)に一定深さのハーフカットの破断用ラインを形成する方法である。本実施形態におけるインストルメントパネルはソフトインストルメントパネルとして構成されていて、インストルメントパネル基材(以下、単に基材という。)と、中間層であるポリウレタンフォームと、ポリプロピレンシート等の合成樹脂製のインストルメントパネル表皮でなる3層構造である。
【0015】
図1に示すように、破断用ライン形成方法は、産業用ロボットがロボットコントローラ21から入力する速度指令信号に基づいてロボットハンド22に保持したカッター刃23を、インストルメントパネルの表皮24に所定深さとなるように所要圧力で突き立てて圧力を一定に保持し、このようにして速度変動制御しながら移動して切開することにより、表皮24にハーフカットのインビジブル破断用ラインを形成するものである。
【0016】
図1に示すように、この破断用ライン形成方法は、ロボットコントローラ21により産業用ロボットに速度指令信号S1を出力し、カッター刃23を表皮24に対して切開していき、制御装置25により圧力を監視して圧力が一定に保持されるように速度をフィードバックする構成である。
【0017】
すなわち、カッター刃23の背面に圧力検出機構26を設けて加工時の圧力S2を常時検出し、制御装置25により圧力を監視して、この圧力が常時一定となるように、環境・温度変化による誤差を加味して速度指令信号を随時決定してロボットコントローラ21にフィードバックS3し、産業用ロボットを速度制御する構成である。
【0018】
制御装置25は、具体例として、以下のような演算を行う。
カッター刃23の初期速度V0、カッター刃23の先端に掛かる設定(基準)圧力(初期圧力)をP0、補正係数をkで示すと、次の関係式(2)で表すことができる。
【数2】

次に、制御装置25によるモニタリング時間が経過したときには、環境・温度変化による誤差をα(T)が加わるので、速度と圧力は以下の関係式(3)で表すことができる。
【数3】

そこで、この式(3)について、制御装置25は、P(1)=P0となるように、α(T)が加わった分、V(1)を補正して速度指令信号をロボットコントローラ21へフィードバックする。
以上のようにして、制御装置25はモニタリング時間が経過する毎に、以下の一般式(4)から、P(2)〜P(n)まで演算を実施してP(i)=P0となるように(ここで、iは2〜n)、V(2)〜V(n)を補正して速度指令信号をロボットコントローラ21へフィードバックする。
【数4】

【0019】
図2は、P(1)〜P(n)がP0に等しくなるようにV(1)〜V(n)の速度指令信号をフィードバック入力したロボットコントローラ21から速度指示信号を産業ロボットに出力して破断用ラインの形成を行ったときに、カッター刃23の速度Vの変動と圧力Pの状態を示すものである。破断用ラインはほぼ一定の深さに形成される。
【0020】
このように、本実施形態に係るインストルメントパネル表皮への破断用ラインの形成方法によれば、加工速度や加工前表皮温度、カッター刃の磨耗、湿度、室温、インストルメントパネルの中間層の厚みや硬度、その他の環境条件を加味して、カッター刃の加工圧力を一定にすることができるので、切れ量(切開深さ)を適切な値に管理することができて、不良率を低減できる。また、カッター刃の加工圧力が一定になると、カッター刃の磨耗が軽減することに繋がり、カッター刃の交換頻度を低減でき、破断用ライン形成装置の稼働率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係る破断用ライン形成方法の概念図である。
【図2】図1の破断用ライン形成方法を実施したときに、カッター刃の速度の変動と圧力の状態を示す相関グラフである。
【図3】従来の破断用ライン形成方法の要部説明図である。
【図4】従来の破断用ライン形成方法を実施したときに、カッター刃の速度の変動と圧力の状態を示す相関グラフである。
【図5】カッター刃をインストルメントパネル表皮に突き立てたときに形成される三角形の切り込みの寸法及び形状を説明するための拡大図である。
【符号の説明】
【0022】
21 ロボットコントローラ
22 ロボットハンド(産業用ロボット)
23 カッター刃
24 表皮(ソフトインストルメントパネル表皮)
25 制御装置
26 圧力検出機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業用ロボットによりカッター刃を用いてインストルメントパネル表皮にハーフカットの破断用ラインを形成する方法において、
上記カッター刃の背面に圧力検出機構を設けて加工時の圧力を検出し、環境・温度変化による誤差を加味して速度指令信号を決定してロボットコントローラにフィードバックし、上記産業用ロボットを速度制御することを特徴とする、インストルメントパネル表皮への破断用ラインの形成方法。
【請求項2】
カッター刃を保持した産業用ロボットと、
上記産業用ロボットに速度指令信号を送出するロボットコントローラと、
上記カッター刃がインストルメントパネルに加える圧力を検出する圧力検出機構と、
上記圧力検出機構からの圧力を検出して、環境・温度変化による誤差を加味して速度指令信号を決定して上記ロボットコントローラにフィードバックする制御装置と、を備えていて、上記カッター刃の速度が制御されることを特徴とする、破断用ライン形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−183676(P2008−183676A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20123(P2007−20123)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】