説明

インソール

【課題】通気性とクッション性の両立が容易で、しかも製造が容易なインソールを提供する。
【解決手段】本発明の実施形態に係るインソール1は、高分子化合物(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール)を所定の形状に成形してなる単一の基材2から構成されている。また、基材2の内部には、多数の気孔3があって、気孔3は互いに連結しているので、基材2の表面から裏面への通気性が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インソールに関し、気性とクッション性の両立が容易で、しかも製造が容易なインソールに関する。
【背景技術】
【0002】
歩行時に、着用者が路面から受ける衝撃を緩和するために、靴の内底にインソールを装着することが行われている。インソールにはクッション性が求められるので、インソールの素材には、フェルト、ゴムスポンジ、布、ポリエチレン発泡体などが使用される。また、立体成型された弾性フィルムの内部に気体を封入して、インソールにクッション性を与えることも提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
さて、インソールには、通気性を確保して、靴の中の蒸れを防止する機能も求められている。また、インソールの断面に存在する微細な孔、つまり、フェルトや布を構成する繊維の隙間や、ゴムスポンジやポリエチレン発泡体の内部に存在する気孔は、通気性を確保するための空気流路として機能している。
【0004】
しかし、このような微細な孔は、着用者の体重によって潰れるので、十分な通気性が得られない場合がある。そこで、孔が着用者の体重によって潰れないように、インソールを硬くすれば、クッション性が損なわれる場合がある。つまり、インソールの通気性とクッション性はトレードオフの関係にあって、両立させるのが難しいという問題があった。
【0005】
この問題を解決するために、先に本願発明者は、低密度ポリエチレン等の高分子樹脂を焼結して得られた高分子焼結体をインソールの素材にすることを提案している(特願2008−058725参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−009305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高分子焼結体を素材とするインソールは、通気性とクッション性の調和を図るために、高分子焼結体内の気孔率や孔径が適切な値になるようにコントロールする必要があるので、成形過程の温度を調整している。しかしながら、成形金型の内部は温度むらが生じやすいので、高分子焼結体内の気孔率や孔径を所望の値にすることは難しかった。つまり、高分子焼結体を素材とするインソールも、通気性とクッション性を両立することが難しいという問題があった。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、気性とクッション性の両立が容易で、しかも製造が容易なインソールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るインソールは、連続気孔を有する高分子多孔質体を基材とするインソールにおいて、前記高分子多孔質体は、高分子化合物の水分散体と吸水性を有する塩類を混練して得られた混練物を成形し、成形後に前記塩類を溶出除去して得られた多孔質体である、ことを特徴とする。
【0010】
上記インソールにおいて、前記高分子化合物は、ポリビニルアルコールである、ことが好ましい。
【0011】
また、上記インソールにおいて、前記高分子化合物は、ポリビニルホルマールである、ことが好ましい。
【0012】
さらに、上記インソールにおいて、前記塩類は、硫酸塩である、ことが好ましい。
【0013】
そして、上記インソールにおいて、前記硫酸塩は、硫酸ナトリウムである、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高分子化合物の水分散体と塩類の混練物の成形体から、前記塩類を溶出除去して高分子多孔質体を形成するので、前記塩類の粒径と添加量を制御すれば、前記高分子多孔質体の孔径と気孔率を任意に調整できる。そのため、前記高分子多孔質体の孔径と気孔率を調整して、通気性とクッション性が両立するインソールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係るインソールを示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係るインソールを示す側断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係るインソールを示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1(a)に示すように、本発明の実施形態に係るインソール1は、高分子化合物(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール)を所定の形状に成形してなる単一の基材2から構成されている。また、図1(b)に示すように、基材2の内部には、多数の気孔3があって、気孔3は互いに連結しているので、基材2の表面から裏面への通気性が確保される。なお、本明細書では、基材2のような、気孔3を有する高分子化合物の成形体を「高分子多孔質体」と呼ぶことにする。
【0018】
さて、基材2の素材となる高分子多孔質体は、概略、以下の4工程を経て成形される。
(i)高分子化合物の水分散体と吸水性を有する塩類を水で混練して混練物を生成する混練物生成工程。
(ii)該混練物を成形する成形工程。
(iii)成形した成形物を熱処理して、皮膜状に形成する熱処理工程。
(iv)皮膜状の成形物から前記塩類を溶出除去する溶出除去工程。
以下、これらの4工程について、それぞれ詳細に説明する。
【0019】
(混練物生成工程)
まず、高分子化合物の原料となるモノマー(つまり、ビニルアルコール、ビニルホルマールのモノマー)に、重合開始剤、界面活性剤、水溶性オリゴマー等を加えて、水に投入して、原料モノマーを乳化重合させて、高分子化合物の水分散体を得る。
【0020】
次に、この高分子化合物の水分散体に、吸水性を有する塩類(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸カリウム等の硫酸塩、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の塩化物)を加えて撹拌・混練する。これらの塩類は、水分散体の水分を吸収して、水分散体の粘土を上昇させる。水分散体への塩類の添加量は、水分散体への溶解度が飽和溶解度以上となって、水分散体が適度の可塑性を有する、つまり水分散体が粘土状になるように選ぶ。以上の様にして、粘土状の混練物が得られる。
【0021】
(成形工程)
粘土状の混練物が得られたら、これを成形機に入れて、成形して、所望の形状の成形品を得る。なお、成形機には、例えば、押し出し成型機でのベント型あるいはノンベント型の単軸圧縮機、同方向回転あるいは異方向回転の2軸圧縮機などを用いる。
【0022】
(熱処理工程)
所望の形状の成形品が得られたら、これを加熱機に入れて熱処理する。この熱処理によって、成形品中の水分が留去されて、高分子化合物が皮膜化されて、成形品の機械的強度が向上する。なお、熱処理の温度と時間は、成形品の形状・寸法や高分子化合物の種類によって異なるが、60℃〜130℃、5時間〜48時間の範囲で選ぶ。
【0023】
(溶出除去工程)
熱処理が終わったら、成形品に適当な溶媒(一般に水が選ばれる)に浸漬して、あるいは溶媒を成形品に噴霧して、成形品中の塩類を溶媒中に溶出して、除去する。塩類が除去された後に残る隙間が気孔3になる。
【0024】
最後に、塩類の溶出除去が終わった成形品を、適当な方法で乾燥すれば、基材2が完成する。また、乾燥後に、更に焼成して、機械的強度や弾性を向上させることもできる。
【0025】
なお、基材2は、成形工程において、成形機によって、最終形状(つまり、インソール1の形)に成形加工されてもよいし、成形機でシート状に加工して、その後裁断してもよい。あるいは、シート状のまま、熱処理工程及び溶出除去工程を経て、最後に裁断されてもよい。
【0026】
さて、前述したように、インソール1のクッション性と通気性は、基材2の気孔3の大きさ(孔径)及び基材2の容積中で気孔3が占める比率(気孔率)の大小によって決まり、これらは、高分子化合物の水分散体に添加する塩類の粒径と添加量(率)によって決まる。
【0027】
例えば、粒径15μmの無水硫酸ナトリウムをポリビニルホルマールの水分散体に添加して混練物を作れば、気孔3の孔径を30μmにすることができる。また、粒径500μmの無水硫酸ナトリウムを使えば、気孔3の孔径は600μmになる。
【0028】
また、ポリビニルホルマールと同量の無水硫酸ナトリウム(平均粒30μm)を添加すれば、気孔率を59%の基材2が得られる。ポリビニルホルマールの2倍の無水硫酸ナトリウム(平均粒30μm)を添加すれば、気孔率78%の基材2が得られる。
【0029】
したがって、高分子化合物の水分散体に添加する塩類の粒径と添加量(率)を調整すれば、所望の孔径と気孔率を有する基材2、つまり所望のクッション性と通気性を備えるインソール1を製造できる。
【0030】
また、基材2を構成する高分子化合物は親水基を有するので、基材2は吸水性に優れている。そのため、足裏からの発汗は、インソール1に迅速に吸収されて、靴の中を乾燥状態に保つことができる。
【0031】
また、図1では基材2だけでインソール1を構成する例を示したが、本発明はこのようなものに限定されない。例えば、図2に示すように、フェルト等からなるクッション層4と基材2を貼り合わせて、インソール1を構成してもよい。
【0032】
また、図1、図2に示したインソール1の基材2は、平坦な形状を備えているが、例えば、図3に示すような立体的形状、つまり、土踏まずに当たる部分を盛り上げたような形状にしてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 インソール
2 基材
3 気孔
4 クッション層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続気孔を有する高分子多孔質体を基材とするインソールにおいて、
前記高分子多孔質体は、高分子化合物の水分散体と吸水性を有する塩類を混練して得られた混練物を成形し、成形後に前記塩類を溶出除去して得られた多孔質体である、
ことを特徴とするインソール。
【請求項2】
前記高分子化合物は、ポリビニルアルコールである、
ことを特徴とする請求項1に記載のインソール。
【請求項3】
前記高分子化合物は、ポリビニルホルマールである、
ことを特徴とする請求項1に記載のインソール。
【請求項4】
前記塩類は、硫酸塩である、
ことを特徴とする請求項1、2または3に記載のインソール。
【請求項5】
前記硫酸塩は、硫酸ナトリウムである、
ことを特徴とする請求項4に記載のインソール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−253175(P2010−253175A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109333(P2009−109333)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(502275388)株式会社有恒商会 (5)
【Fターム(参考)】