説明

インナーチューブ製造装置及びインナーチューブ製造方法

【課題】熱処理を施した場合であっても、外径・肉厚とも均一で、振れが少ないインナーチューブを製造する。
【解決手段】金属材製のチューブCを支持する支持部11と、支持部11に対向配置され、チューブC内にチューブCの内径より大きい外径を有し、チューブCの素材よりも硬い金属材製の球体Dを圧入・通過させる圧入部12とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車のフロントフォーク等に用いられるショックアブソーバのインナーチューブを製造するためのインナーチューブ製造装置及びインナーチューブ製造方法に関し、特に真円度を矯正する手法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車Mのフロントフォークにはショックアブソーバ100が取り付けられている(図2参照)。このショックアブソーバ100は、アウターチューブ110とインナーチューブ120とを組み合わせて構成されている。インナーチューブ製造方法では、素管から芯引きにより加工されたチューブを高周波焼入れ、焼き戻し(炉戻し・高周波)をする。このとき、チューブが変形して真円度が低下する。このときの変形量は外径が例えば50mmの場合で0.1〜0.3mm程度である。この変形を修正するため、外周を研削して外径を整える外径研削工程を実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4647964号公報
【特許文献2】特開昭59−130633号公報
【特許文献3】特開2007−061894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したインナーチューブ製造方法では、次のような問題があった。すなわち、外周面を研削するため、外径は一定になるが、研削後の肉厚が均一とならない。また、変形量を見越した研削代が必要となり、素管の外径が大きくなると同時に研削工程(研削回数)も多くなる。また、外周面に傷が残るため、ショックアブソーバとしての機能に影響する虞がある。
【0005】
そこで本発明は、熱処理を施したチューブであっても、外径・肉厚とも均一で、しかも、研削代が不均一な場合、外周面に傷が生じないインナーチューブ製造方法及びインナーチューブ製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明のインナーチューブ製造装置及びインナーチューブ製造方法は次のように構成されている。
【0007】
金属材製のチューブを支持する支持部と、この支持部に対向配置され、上記チューブ内に上記チューブの内径より大きい外径を有し、上記チューブの素材よりも硬い金属材製の球体を圧入・通過させる圧入部とを備えている。
【0008】
素管を芯引き加工によりチューブを形成し、上記チューブを熱処理し、上記チューブ内に上記チューブの内径より大きい外径を有する金属材製の球体を圧入・通過させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱処理を施したチューブであっても、外径・肉厚とも均一で、しかも、外周面に傷が生じないインナーチューブを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態に係るインナーチューブ製造装置を模式的に示す側面図。
【図2】同インナーチューブ製造装置により製造されるインナーチューブが組み込まれたショックアブソーバ装置を模式的に示す斜視図。
【図3】同インナーチューブ製造装置により製造されるインナーチューブのボールサイジング(圧入加工)の前後、自動矯正後の内径を示すグラフ。
【図4】同インナーチューブ製造装置により製造されるインナーチューブのボールサイジング(圧入加工)の前後、自動矯正後の外径を示すグラフ。
【図5】同インナーチューブ製造装置により製造されるインナーチューブのボールサイジング(圧入加工)の前後、自動矯正後の全長を示すグラフ。
【図6】同インナーチューブ製造装置により製造されるインナーチューブのボールサイジング(圧入加工)の前後、自動矯正後の振れ(曲がり)を示すグラフ。
【図7】同インナーチューブ製造装置により製造されるインナーチューブの熱処理後、ボールサイジング(圧入加工)の前における内径寸法・真円度を示すグラフ。
【図8】同インナーチューブ製造装置により製造されるインナーチューブのボールサイジング(圧入加工)の後における内径寸法・真円度を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の一実施の形態に係るインナーチューブ製造装置10を模式的に示す側面図、図2はインナーチューブ製造装置10により製造されるインナーチューブ120が組み込まれたショックアブソーバ装置100を模式的に示す斜視図である。また、図3〜図6はインナーチューブ製造装置10によるインターチューブ120のボールサイジング(圧入加工)の前後、自動矯正後の各測定値を示すグラフである。
【0012】
図1に示すように、インナーチューブ製造装置10は、金属材製のチューブCを支持する有底筒状の支持部11と、チューブC内にチューブCの内径より大きい外径を有し、チューブCの素材よりも硬い金属材製の球体Dを圧入・通過させる圧入部12とを備えている。圧入部12は、油圧シリンダ13と、この油圧シリンダ13によって動作するロッド14とを備えている。ロッド14の先端には金属材製の球体Dが着脱自在に配置されている。球体Dは、チューブCの材質よりも硬い金属で形成されるとともに、チューブCの内径よりも僅かに大きい外径を有している。
【0013】
図2は、このインナーチューブ製造装置10によって製造されるインナーチューブ120が使用されるショックアブソーバ100の概略を示している。すなわち、ショックアブソーバ100は、自動二輪車Mのフロントフォーク等に用いられており、アウターチューブ110とインナーチューブ120とが同軸的に配置され、軸方向に摺動可能に構成されている。
【0014】
インナーチューブ製造装置10を用いて、次のようにしてインナーチューブ120を製造する。なお、熱処理を行う場合を除き、常温下(10〜40℃)で処理が進められる。インナーチューブ製造方法では、素管を芯引加工によりチューブCを塑性加工する。次に、高周波焼入れ、焼き戻し(炉戻し・高周波)等の所定の熱処理を行い、金属組織を形成する。このとき、チューブが変形して真円度が低下する。
【0015】
次に、インナーチューブ製造装置10の支持部11の開口部にチューブCを挿入し、外周面を固定する。次に、チューブCの上端部に球体Dを載せる。そして、油圧シリンダ13を作動させてロッド14を伸長させる。これにより、球体DはチューブCの内部に圧入される。ロッド14の伸長速度は例えば、秒速15mm程度である。このようにして、球体DをチューブC内を通過させて処理を完了する。
【0016】
次に、自動曲がり矯正機を用いてチューブCの振れ(曲がり)を矯正する。
【0017】
さらに、チューブCの外周面の研削や探傷試験等を行い、インナーチューブ120が完成する。
【0018】
ここで、具体的なチューブC及びインナーチューブ120の寸法等に基づいて説明する。例えば、熱処理前において、軸方向の長さが603mm、内径45mm、外径48.5mm、肉厚1.75mmのチューブCを用いる。次に、熱処理を行うと、内径、外径、全長、振れがそれぞれ図3〜図6に示すように変化する。ここで、振れとは、外径基準で測定した中央部の曲り量をT.I.R(軸偏心量:Total Indicator Reading)で示している。
【0019】
次に、インナーチューブ製造装置10を用いて、直径48.5mmの球体DをチューブCに圧入して、チューブCの矯正、すなわち、ボールサイジングを行う。ボールサイジング後には、内径、外径、全長、振れがそれぞれ図3〜図6に示すように変化する。すなわち、内径・外径が大きくなり、全長は短くなる。但し、振れに関しては同じ変化はせず、大きくなったり、小さくなったりする。これは焼入れ後の初期の曲り量に影響される。
【0020】
すなわち、内径・外径・全長はほとんど変わらず、内径寸法のばらつきが解消され、振れが小さくなる。このような傾向は、チューブCの両端部及び中央部においても同様である。
【0021】
また、図7はインナーチューブ製造装置10により製造されるインナーチューブの熱処理後、ボールサイジング(圧入加工)の前における内径寸法・真円度を示すグラフ、図8はインナーチューブ製造装置10により製造されるインナーチューブのボールサイジング(圧入加工)の後における内径寸法・真円度を示すグラフである。
【0022】
このようにして、チューブCを熱処理後、球体Dを用いて矯正することで、外径・肉厚ともに均一で、インナーチューブ120の真円度が良くなり、ショックアブソーバ100に組み込んだ場合であっても、所望の性能を得ることができる。
【0023】
また、外周面の削り代を最小限に抑えることができるので、材料を節約することも可能となる。
【0024】
上述したように、このインナーチューブ製造装置10によれば、熱処理を施したチューブCであっても、外径・肉厚とも均一で、しかも、外周面に傷が生じないインナーチューブ120を製造することが可能となる。
【0025】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能であるのは勿論である。
【符号の説明】
【0026】
10…インナーチューブ製造装置、11…支持部、12…圧入部、13…油圧シリンダ、14…ロッド、C…チューブ、D…球体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材製のチューブを支持する支持部と、
この支持部に対向配置され、上記チューブ内に上記チューブの内径より大きい外径を有し、上記チューブの素材よりも硬い金属材製の球体を圧入・通過させる圧入部とを備えていることを特徴とするインナーチューブ製造装置。
【請求項2】
素管を芯引き加工によりチューブを形成し、
上記チューブを熱処理し、
上記チューブ内に上記チューブの内径より大きい外径を有する金属材製の球体を圧入・通過させることを特徴とするインナーチューブ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−22590(P2013−22590A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155967(P2011−155967)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】