説明

ウォールフロー型排ガス浄化フィルタ

【課題】本発明の課題は、触媒を担持した後でも圧力損失が増加しにくいウォールフロー型排ガス浄化フィルタを提供する。
【解決手段】排ガス浄化フィルタは、多孔質セラミックからなる隔壁12を有するハニカム構造体と、所定のセルの一方の開口端部と残余のセルの他方の開口端部とに配設された目封止部と、を備える。排ガス浄化フィルタは、隔壁12の表面に平行な任意の断面の10mmの範囲において、1/3mm×1/3mmの領域ごとに平均細孔径を求めた場合に、平均細孔径が15μm以上である大細孔領域が0.1mm以上存在し、平均細孔径が8μm以下である小細孔領域が、0.1mm以上存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォールフロー型排ガス浄化フィルタに関する。更に詳しくは、特に、自動車エンジンからの排出ガスに含まれる粒子状物質(PM:Particulate Matter)、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)の浄化に好適に用いられるウォールフロー型排ガス浄化フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境への影響や、資源節約の観点から、自動車の燃費低減が近年求められている。このため、ディーゼルエンジンや直接噴射式ガソリンエンジン等の熱効率の良い内燃機関が、自動車用の動力源として使用される傾向にある。
【0003】
一方、これらの内燃機関では、燃焼時における煤の発生が問題となっている。大気環境の観点から、上記煤など粒子状物質を大気に放出しないための対策が必要とされている。
【0004】
上記した粒子状物質を大気に放出しないための対策として、排ガス浄化フィルタを用いて排ガス中の粒子状物質を除去することが提案されている。排ガス浄化フィルタとしては、例えば、排ガスの流路となる一方の端部から他方の端部まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム構造体と、このハニカム構造体のセルの一方の端部と他方の端部とを交互に目封止する目封止部と、を備えたウォールフロー型排ガス浄化フィルタを挙げることができる。
【0005】
特許文献1には、ウォールフロー型排ガス浄化フィルタの隔壁の細孔に触媒を充填する手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−501353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ディーゼルエンジンから排出されるNOxと粒子状物質の浄化には選択還元(SCR)触媒を担持したウォールフロー型排ガス浄化フィルタによる浄化が有効である。しかし、両端部を交互に目封止したウォールフロー型排ガス浄化フィルタに触媒を担持すると、隔壁のガス透過性が悪化し、圧力損失が増加する問題があった。
【0008】
また、直噴式ガソリンエンジンから排出する粒子状物質と、NOx、CO、HCとを同時除去する手段として、ウォールフロー型排ガス浄化フィルタに三元触媒を担持することが有効である。しかし、触媒担持することにより隔壁のガス透過性が悪化し、圧力損失の増加を招く問題があった。さらに、ハニカム構造体の隔壁にSCR触媒をコートする、従来技術では、触媒コート層の厚みにより、開口率が減少するため、圧力損失の増加をまねく問題があった。
【0009】
本発明の課題は、触媒を担持した後でも圧力損失が増加しにくいウォールフロー型排ガス浄化フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、ハニカム構造体の隔壁の細孔の大きさを所定の大きさとすることにより、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下のウォールフロー型排ガス浄化フィルタが提供される。
【0011】
[1] 排ガスの流路となる一方の端部から他方の端部まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質セラミックからなる隔壁を有するハニカム構造体と、所定の前記セルの一方の開口端部と残余の前記セルの他方の開口端部とに配設された目封止部と、を備え、前記隔壁の表面に平行な任意の断面の10mmの範囲において、1/3mm×1/3mmの領域ごとに平均細孔径を求めた場合に、平均細孔径が15μm以上である大細孔領域が0.1mm以上存在し、平均細孔径が8μm以下である小細孔領域が、0.1mm以上存在するウォールフロー型排ガス浄化フィルタ。
【0012】
[2] 前記大細孔領域の平均細孔径が20μm以上200μm以下、前記小細孔領域の平均細孔径が0.1μm以上8μm以下である前記[1]に記載のウォールフロー型排ガス浄化フィルタ。
【0013】
[3] 前記隔壁の気孔率が50%以上70%以下である前記[1]または[2]に記載のウォールフロー型排ガス浄化フィルタ。
【0014】
[4] 前記隔壁の厚さが50.8μm以上406.4μm以下である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のウォールフロー型排ガス浄化フィルタ。
【0015】
[5] 前記セルのセル密度が100cpsi以上700cpsi以下である前記[1]〜[4]のいずれかに記載のウォールフロー型排ガス浄化フィルタ。
【0016】
[6] 前記ハニカム構造体は、コージェライト、アルミニウムチタネート、SiC、Si結合SiC、ムライトのいずれかを含む前記[1]〜[5]のいずれかに記載のウォールフロー型排ガス浄化フィルタ。
【0017】
[7] 前記隔壁の内部及び表面に、SCR触媒をコートした前記[1]〜[6]のいずれかに記載のウォールフロー型排ガス浄化フィルタ。
【0018】
[8] 前記隔壁の内部及び表面に、Pt、Rh、Pdのうち少なくとも2種の貴金属と、アルミナ、セリア、ジルコニアの少なくとも1種を含む三元触媒と、をコートした前記[1]〜[6]のいずれかに記載のウォールフロー型排ガス浄化フィルタ。
【発明の効果】
【0019】
本発明のウォールフロー型排ガス浄化フィルタは、ハニカム構造体の隔壁に、平均細孔径が15μm以上である大細孔領域と平均細孔径が8μm以下である小細孔領域がそれぞれ存在している。これにより、触媒を担持した場合には、触媒が選択的に小細孔領域に吸収され、大細孔のガス通過路が残されている。このため、本発明のウォールフロー型排ガス浄化フィルタは、触媒担持後の圧力損失の上昇を抑えることができ、効率よく排気ガスを浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のウォールフロー型排ガス浄化フィルタの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明のウォールフロー型排ガス浄化フィルタの断面図である。
【図3】隔壁の拡大模式図である。
【図4】平均細孔径の測定方法を説明するための説明図である。
【図5】SEM画像の処理方法について説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0022】
[1]ウォールフロー型排ガス浄化フィルタ:
本発明のウォールフロー型排ガス浄化フィルタ(単に、排ガス浄化フィルタということがある)の一実施形態を、図を参照しながら説明する。ここで、図1は、本発明の排ガス浄化フィルタの一実施形態を模式的に示す斜視図である。図1に示すように、本実施形態の排ガス浄化フィルタ100は、ハニカム構造体10を備える。ハニカム構造体10は、排ガスの流路となる一方の端部15aから他方の端部15bまで延びる複数のセル11を区画形成する多孔質セラミックからなる隔壁12を有する。排ガス浄化フィルタ100は、ハニカム構造体10の所定のセル11aの一方の開口端部15aと残余のセル11bの他方の開口端部15bとに配設された目封止部13(13a,13b)を備える。
【0023】
図2に、ウォールフロー型排ガス浄化フィルタ100の断面図を示す。このようなウォールフロー型排ガス浄化フィルタ100において、排ガスは、ハニカム構造体10の一方の端部15a側からセル11内に流入し、濾過層となる多孔質の隔壁12を通過して他方の端部15b側から外部へと流出する。そして、この隔壁12を通過する際に、隔壁12の細孔の内表面に担持させた触媒層に排ガスが接触し、排ガス中に含まれるNOx、CO、HC等の被浄化成分が浄化される。
【0024】
図3に隔壁12の拡大模式図を示す。本実施形態の排ガス浄化フィルタ100は、ハニカム構造体10の隔壁12に大細孔17aと小細孔17bとを有する。図3では、大細孔17aが隔壁12の排ガスの入口側表面12aから出口側表面12bまで厚さ方向において連通する形で形成されている。そして、排ガス浄化フィルタ100は、隔壁12の表面(入口側表面12aまたは出口側表面12b)に平行な任意の断面(隔壁12の厚さ方向に垂直な任意の断面)の10mmの範囲において、1/3mm×1/3mmの領域ごとに平均細孔径を求めた場合に、平均細孔径が15μm以上である大細孔領域が0.1mm以上存在し、平均細孔径が8μm以下である小細孔領域が、0.1mm以上存在する。つまり、本発明における大細孔領域、小細孔領域は、1/3mm×1/3mmの領域ごとに平均細孔径を求めて決定される。したがって、大細孔17a、小細孔17bと、大細孔領域、小細孔領域とは区別されるものである。
【0025】
本発明における平均細孔径を求める方法について説明する。まず、隔壁12の表面に平行な任意の断面(隔壁12の厚さ方向に垂直な任意の断面)において、SEM画像を撮影する(図4参照)。SEM画像の1mm×1mmの視野について9等分し、9等分した各領域(1/3mm×1/3mmの領域)について平均細孔径を求める(図5参照)。具体的には、SEM画像の9等分したある領域で細孔空間部分にかかる線分長さ50個の平均値を求め、これを平均細孔径とする。そして、平均細孔径が15μm以上である領域を大細孔領域、平均細孔径が8μm以下である領域を小細孔領域とする。1mm×1mmの視野の9等分された領域について、大細孔領域、および小細孔領域の個数と総面積を求める。
【0026】
小細孔と大細孔とを混在させる方法としては、例えば、異なる大きさの造孔材をハニカム構造体10の材料に混ぜ、押出成形等によりハニカム成形体を得て、これを乾燥、焼成する方法が挙げられる。
【0027】
このように、本実施形態の排ガス浄化フィルタ100は、隔壁12の表面に平行な任意の断面の10mmの範囲において、大細孔領域と、小細孔領域とを、それぞれ必ず0.1mm以上有するため、触媒が選択的に小細孔領域に吸収され、大細孔17aのガス通過路が残される。このため、触媒担持後の圧力損失の上昇を抑えることができ、効率よく排気ガスを浄化することができる。
【0028】
隔壁12に形成された大細孔領域の平均細孔径(平均細孔径が15μm以上であり、大細孔領域と判定された領域の平均細孔径の平均)は、15μm以上200μm以下であることが好ましく、より好ましくは、20μm以上100μm以下、さらに好ましくは、25μm以上50μm以下である。小細孔領域の平均細孔径(平均細孔径が8μm以下であり、小細孔領域と判定された領域の平均細孔径の平均)は、0.1μm以上8μm以下であることが好ましく、より好ましくは、1μm以上8μm以下、さらに好ましくは、2μm以上6μm以下である。
【0029】
また、本実施形態の排ガス浄化フィルタ100においては、隔壁12の気孔率が隔壁12の気孔率が50%以上70%以下であることが好ましい。より好ましくは、50%以上65%以下、さらに好ましくは、55%以上65%以下である。隔壁12の気孔率が50%以上であると、圧力損失の増大を防ぐことができる。また、隔壁12の気孔率が70%以下であることにより、排ガス浄化フィルタ100の強度を確保することができる。さらに、この範囲の気孔率とすることにより、隔壁12に十分に触媒を担持することができる。なお、気孔率とは、水銀圧入法により測定された気孔率のことを意味する。
【0030】
また、本実施形態の排ガス浄化フィルタ100は、隔壁12の厚さを50.8μm以上406.4μm以下とすることが好ましい。より好ましくは、101.6μm以上406.4μm以下、さらに好ましくは、101.6μm以上304.8μm以下である。隔壁12の厚さを50.8μm以上とすることにより、排ガス浄化フィルタ100の強度を確保することができる。一方、隔壁12の厚さを406.4μm以下とすることにより、圧力損失が上昇するのを防ぐことができる。
【0031】
本実施形態の排ガス浄化フィルタ100においては、ハニカム構造体10のセル密度が100cpsi以上700cpsi以下であることが好ましい。より好ましくは、150cpsi以上400cpsi以下、さらに好ましくは、150cpsi以上350cpsi以下である。このように構成することによって、排ガス浄化フィルタ100の強度を維持しつつ、圧力損失の上昇を抑制することができる。
【0032】
図1に示すように、本実施形態の排ガス浄化フィルタ100に用いられるハニカム構造体10は、排ガスの流路となる一方の端部15aから他方の端部15bまで延びる複数のセル11を区画形成する多孔質セラミックからなる隔壁12を有するものである。
【0033】
ハニカム構造体10の全体形状については特に制限はなく、例えば、図1に示されるような円柱状の他、楕円柱状、四角柱状、三角柱状等の形状を挙げることができる。
【0034】
また、ハニカム構造体10に形成されたセル11の形状(セル11の貫通方向に対して垂直な断面におけるセル形状)としては、例えば、図1に示されるような四角形セルの他、六角形セル、八角セル、三角形セル等の形状を挙げることができる。但し、ハニカム構造体10に形成されたセル11の形状としては、このような形状に限られるものではなく、公知のセルの形状を広く包含することができる。
【0035】
また、ハニカム構造体10においては、異なるセル形状を組み合わせることもできる。隣接するセル11の一方のセル11を八角形とし、他方のセル11を四角形にすることで、一方のセル11(即ち、八角形セル)を他方のセル11(即ち、四角形セル)に比べ大きくすることができる。
【0036】
ハニカム構造体10の材質は、セラミックである。強度、耐熱性、耐食性等の観点から、コージェライト、アルミニウムチタネート、SiC、Si結合SiC、ムライトのうちのいずれかを含むことが好ましい。これらの材質の中でも、コージェライトが特に好ましい。
【0037】
目封止部13は、ハニカム構造体10の所定のセル11aの一方の開口端部15aと残余のセル11bの他方の開口端部15bとに配置され、セル11(11a,11b)のいずれか一方の開口端部15(15a,15b)を封止するためのものである。この目封止部13は、従来の排ガス浄化フィルタ100に用いられる目封止部13と同様に構成されたものを用いることができる。目封止部13は、ハニカム構造体10の隔壁12と同様のセラミック材料を用いて形成することができる。
【0038】
本実施形態の排ガス浄化フィルタ100は、ハニカム構造体10の一方の端面において、目封止部13と目封止されていないセル11の開口とにより市松模様が形成されていることが好ましい(図1参照)。
【0039】
また、本実施形態の排ガス浄化フィルタ100においては、セル11の開口端部を封止する目封止部13の、セル11の延びる方向における長さが1mm以上、7mm以下であることが好ましい。セル11の延びる方向における長さが1mm未満であると、目封止部13がハニカム構造体10から脱離し易くなることがある。目封止部13の、セル11の延びる方向における長さが7mm超であると、セル11の封止部分の長さが長くなり過ぎて、排ガスを浄化するための隔壁12の有効面積(換言すれば、実質的な隔壁12のセル11の延びる方向の長さ)が減少し、フィルタの浄化性能が低下することがある。
【0040】
また、本実施形態の排ガス浄化フィルタ100は、ハニカム構造体10の隔壁12の表面や隔壁12に形成された細孔の内部に、触媒が担持されている。このように触媒を担持することにより、NOx、CO、未燃焼炭化水素の浄化をするとともに、隔壁表面に堆積した粒子状物質を触媒作用により燃焼除去され易くすることができる。
【0041】
触媒としては、SCR触媒(ゼオライト、チタニア、バナジウム)を挙げることができる。あるいは、Pt、Rh、Pdのうち少なくとも2種の貴金属と、アルミナ、セリア、ジルコニアの少なくとも1種を含む三元触媒と、ハニカム構造体10の隔壁12の表面や隔壁12に形成された細孔の内部にコートしてもよい。
【0042】
触媒の担持量については特に制限はないが、ハニカム構造体10の単位体積当りの担持量(g/L)が、220g/L以下であることが好ましい。本実施形態の排ガス浄化フィルタ100は、過剰に触媒を担持すると、圧力損失が大きくなることがある。なお、これまでに説明した隔壁12の平均細孔径等の各値については、ハニカム構造体10の隔壁12に触媒が担持された場合には、触媒が担持される前のハニカム構造体10の隔壁12において測定された値とする。
【0043】
[2]ウォールフロー型排ガス浄化フィルタの製造方法:
以下、本発明の排ガス浄化フィルタ100を製造する方法について説明する。本発明のハニカム構造体10を製造する方法としては、まず、排ガスの流路となる一方の端部15aから他方の端部15bまで延びる複数のセル11を区画形成する多孔質セラミックからなる隔壁12を有するハニカム構造体10を作製する。
【0044】
また、得られるハニカム構造体10の隔壁12の平均細孔径、及び細孔径分布については、成形用坏土の調製に用いられるセラミック原料の粒子径及び配合処方を調整することにより、実現することができる。以下、成形用坏土の調製方法について、コージェライト化原料を用いて成形用坏土を調製する場合と、炭化珪素原料を用いて成形用坏土を調製する場合とについて、それぞれ具体的に説明する。
【0045】
コージェライト化原料を用いて成形用坏土を調製する場合には、コージェライト化原料に、水等の分散媒、及び所望により造孔材を加えて、更に、有機バインダ及び分散剤を添加して混練することによって、可塑性の成形用坏土を得る。コージェライト化原料とは、焼成によりコージェライトとなる原料を意味する。コージェライト化原料は、シリカ(SiO)が42〜56質量%、アルミナ(Al)が30〜45質量%、マグネシア
(MgO)が12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように「所定の原料」が混合されたセラミック原料である。「所定の原料」としては、例えば、タルク、カオリン、アルミナ源原料、シリカ等を挙げることができる。なお、アルミナ源原料とは、アルミニウム酸化物、水酸化アルミニウム、ベーマイト等であり、こららは焼成により酸化物化し、コージェライトの一部を形成する。コージェライト化原料等の成形原料を混練して坏土を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
【0046】
得られるハニカム構造体10の隔壁12の平均細孔径、及び細孔径分布は、原料として使用するタルクやシリカの粒子径と配合比率によってコントロールすることができる。さらに、大細孔領域と小細孔領域とを形成するためには、異なる大きさの造孔材を混合することが好ましい。大細孔領域を形成するための造孔材としては平均粒子径15μm以上の、カーボン、樹脂粒子、デンプン等を用いることができる。また、小細孔径領域を形成させる造孔材としては、平均粒子径20μm以下のカーボン、デンプンを篩い分けて、または、液中沈殿速度差により分離して得られる、平均粒子径10μm以下の粒子を用いることができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0047】
炭化珪素原料を用いて成形用坏土を調製する場合には、炭化珪素原料に、水等の分散媒、及び所望により造孔材を加えて、更に、有機バインダ及び分散剤を添加して混練することによって、可塑性の成形用坏土を得る。
【0048】
得られるハニカム構造体10の隔壁12の平均細孔径、及び細孔径分布は、炭化珪素原料の粒子径分布によってコントロールすることができる。さらに、大細孔領域と小細孔領域とを形成するためには、異なる大きさの造孔材を混合することが好ましい。なお、造孔材については、コージェライト化原料を用いた場合と同様である。
【0049】
次に、得られた成形用坏土を所定の形状に成形してハニカム成形体を作製する。成形用坏土を成形してハニカム成形体を形成する方法としては特に制限はなく、押出成形、射出成形等の従来公知の成形方法を用いることができる。例えば、所望のセル形状、隔壁12の厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形してハニカム成形体を形成する方法等を好適例として挙げることができる。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0050】
次に、ハニカム成形体のセル11の開口端部を、目封止部13を形成するためのスラリーによって目封止して目封止部13を形成する。その後、目封止部13を形成したハニカム成形体を焼成(本焼成)してハニカム構造体10とする。ハニカム成形体を焼成する前に、仮焼きを行ってもよい。
【0051】
上記した仮焼きは、脱脂のために行われるものである。例えば、酸化雰囲気において550℃で、3時間程度で行うものが挙げられるが、これに限られるものではなく、ハニカム成形体中の有機物(有機バインダ、分散剤、造孔材等)に応じて行われることが好ましい。一般に、有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度、造孔材の燃焼温度は200〜800℃程度であるので、仮焼温度は200〜1000℃程度とすればよい。仮焼時間としては特に制限はないが、通常は、3〜100時間程度である。
【0052】
「焼成(本焼成)」とは、仮焼体中の成形原料を焼結させて所定の強度を確保するための操作を意味する。焼成条件(温度・時間)は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、焼成温度は一般的には、約1400〜1500℃前後程度であるが、これに限定されるものではない。仮焼きと本焼成とは、別工程としてもよいが、仮焼き後に、引き続き温度を上げて、連続的に本焼成を行ってもよい。
【0053】
以上のようにして、本発明の排ガス浄化フィルタ100を製造することができる。上記製造方法においては、セル11の開口端部を目封止する目封止部13を形成した後に、仮焼き、及び本焼成を行って排ガス浄化フィルタ100を製造する例について説明しているが、目封止部13は、ハニカム成形体の焼成を行った後に、別途形成してもよい。目封止部13の形成方法については、所定のセル11の一方の開口部にマスクを配設し、残余のセル11の開口部に目封止スラリーを充填する方法を挙げることができる。なお、このような目封止部13の形成方法は、例えば、公知のハニカム構造体10における目封止部13の作製方法に準じて行うことができる。
【0054】
目封止部13の原料としては、上述したハニカム構造体10の原料と同様の原料を用いると、ハニカム構造体10と目封止部13の焼成時の膨張率を同じにすることができ、耐久性の向上につながるため好ましい。
【0055】
また、上記製造方法においては、ハニカム構造体10が、一体的に押出成形(即ち、一体成形)されて形成される場合の例について説明しているが、例えば、複数本のハニカムセグメントを接合したハニカムセグメント接合体からなるハニカム構造体10を作製してもよい。
【0056】
上記のようにして得られたハニカム構造体10の隔壁12の細孔の内表面、隔壁表面、及び、隔壁12の連通孔内表面に触媒を担持させて、ハニカム触媒体を製造する。触媒の担持方法については特に制限はなく、従来公知のハニカム触媒体の製造方法において用いられる方法に従って触媒を担持することができる。例えば、まず、触媒を含有する触媒スラリーを調製する。その後、調製した触媒スラリーを、ディッピングや吸引によりセル内に流入させる。この触媒スラリーは、セル内の隔壁の表面全体に塗工することが好ましい。そして、触媒スラリーをセル内に流入させた後に、余剰スラリーを圧縮空気で吹き飛ばす。その後、触媒スラリーを乾燥、焼付けする方法等を挙げることができる。焼き付け条件は450〜700℃、0.5〜6時間とすることができる。以上の工程により、本発明の排ガス浄化フィルタ100を製造することができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1〜10、比較例1〜3)
(1)排ガス浄化フィルタの作製:
コージェライト化原料として、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、及びシリカを使用し、コージェライト化原料100質量部に、分散媒を35質量部、有機バインダを6質量部、分散剤を0.5質量部、それぞれ添加し、混合、混練して成形用坏土を調製した。分散媒として水を使用し、有機バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用し、分散剤としてはエチレングリコールを使用した。配合質量比率はすべての実施例で同一とした。さらに、実施例1は、平均粒子径が3μと15μmの造孔材を混合した。また、実施例2〜10、比較例1〜3について、表1に記載した造孔材を用いた。
【0059】
調製した成形用坏土を押出成形し、ハニカム成形体を得た。得られたハニカム成形体をマイクロ波乾燥機を使用して乾燥し、更に熱風乾燥機を使用して完全に乾燥させた。その後、乾燥させたハニカム成形体の両端面を切断し、所定の寸法の長さのハニカム乾燥体を得た。次いで、ハニカム乾燥体のセル11の両端面を、隣接するセル11が互い違いに目封止されるように目封止部13を形成した後、1410〜1440℃で5時間焼成することによって、排ガス浄化フィルタ100を得た。
【0060】
得られた排ガス浄化フィルタ100(ハニカム構造体10)の全体形状は、円柱形状(端面の直径が118mm、セル11の延びる方向における長さが127mm)であった。目封止部13のセル11の延びる方向における長さは4mmであった。
【0061】
[気孔率(%)]
気孔率(%)は、水銀ポロシメータ(水銀圧入法)によって測定した。水銀ポロシメータとしては、Micromeritics社製、商品名:Auto Pore III 型式9405を用いた。
【0062】
排ガス浄化フィルタ100の作製に用いた造孔材、作製した排ガス浄化フィルタ100の隔壁12の厚さ、セル密度、気孔率を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
[平均細孔径]
図4,及び図5を参照しつつ、平均細孔径の測定方法について説明する。図4に示すように、隔壁12を切り出し、樹脂埋めした。隔壁12の表面に平行な任意の断面を研削により露出させて、SEM画像を撮影した。図5に示すように、SEM画像の1mm×1mmの視野について9等分し、9等分した各領域(1/3mm×1/3mmの領域)について平均細孔径を求めた。そして、平均細孔径が15μm以上である領域を大細孔領域、平均細孔径が8μm以下である領域を小細孔領域とした。1mm×1mmの視野の9等分された領域について、大細孔領域、および小細孔領域の個数と総面積を求めた。
【0065】
上記の処理を10視野分行い、10視野分を合計して10mmあたりの個数とした。図4に示すように、5以上の研削面について以上の処理を実施し、各研削面の中で大細孔領域の総面積が最小のものを、代表値として表2に記載した。
【0066】
具体的には、例えば、実施例1のハニカム構造体10について、5以上の研削面で、10mmあたりの大細孔領域の総面積や個数を求め、最も大細孔領域の総面積が最小のものを表2に記載した。また、実施例2は、実施例1と異なるハニカム構造体10であり、実施例2についても、同様に5以上の研削面で、10mmあたりの大細孔領域の総面積や個数を求め、最も大細孔領域の総面積が最小のものを表2に記載した。実施例3以下も同様である。
【0067】
表2の大細孔領域の平均細孔径は、各1/3mm×1/3mmの領域のうち、大細孔領域と分類されたものの平均細孔径を平均したものである。また、同様に、小細孔領域の平均細孔径は、各1/3mm×1/3mmの領域のうち、小細孔領域と分類されたものの平均細孔径を平均したものである。
【0068】
[触媒担持量(g/L)]
ハニカム構造体10に触媒をコートし、ハニカム構造体10の容積1L当りの、触媒の担持量(g/L)を算出した。なお、触媒として、Cu置換ゼオライトを主成分とするSCR触媒を用いた。
【0069】
[圧力損失]
触媒をコートした排ガス浄化フィルタ100の「圧力損失」を、以下の方法で測定した。室温条件下、0.5m/分の流速でエアーを試料(ハニカム触媒体)に流通させ、試料前後の差圧(エアー流入側の圧力とエアー流出側の圧力との差)を測定することで、圧力損失を算出した。圧力損失が7kPa未満である場合には、「○」、7kPa以上である場合には、「×」として評価した。
【0070】
【表2】

【0071】
比較例1,3は、大細孔領域がなく、触媒コート後の圧力損失が大きくなった。比較例2は、小細孔領域がなく、触媒コート後の圧力損失が大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の排ガス浄化フィルタは、内燃機関、各種燃焼装置から排出される排ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するためのフィルタとして用いることができる。特に、粒子状物質の排出量が少ない排ガスを浄化するフィルタとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0073】
10:ハニカム構造体、11,11a,11b:セル、12:隔壁、12a:(排ガスの)入口側表面、12b:(排ガスの)出口側表面、13,13a,13b:目封止部、15,15a,15b:端部、17a:大細孔、17b:小細孔、100:ウォールフロー型排ガス浄化フィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスの流路となる一方の端部から他方の端部まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質セラミックからなる隔壁を有するハニカム構造体と、
所定の前記セルの一方の開口端部と残余の前記セルの他方の開口端部とに配設された目封止部と、を備え、
前記隔壁の表面に平行な任意の断面の10mmの範囲において、1/3mm×1/3mmの領域ごとに平均細孔径を求めた場合に、平均細孔径が15μm以上である大細孔領域が0.1mm以上存在し、平均細孔径が8μm以下である小細孔領域が、0.1mm以上存在するウォールフロー型排ガス浄化フィルタ。
【請求項2】
前記大細孔領域の平均細孔径が20μm以上200μm以下、前記小細孔領域の平均細孔径が0.1μm以上8μm以下である請求項1に記載のウォールフロー型排ガス浄化フィルタ。
【請求項3】
前記隔壁の気孔率が50%以上70%以下である請求項1または2に記載のウォールフロー型排ガス浄化フィルタ。
【請求項4】
前記隔壁の厚さが50.8μm以上406.4μm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のウォールフロー型排ガス浄化フィルタ。
【請求項5】
前記セルのセル密度が100cpsi以上700cpsi以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載のウォールフロー型排ガス浄化フィルタ。
【請求項6】
前記ハニカム構造体は、コージェライト、アルミニウムチタネート、SiC、Si結合SiC、ムライトのいずれかを含む請求項1〜5のいずれか1項に記載のウォールフロー型排ガス浄化フィルタ。
【請求項7】
前記隔壁の内部及び表面に、SCR触媒をコートした請求項1〜6のいずれか1項に記載のウォールフロー型排ガス浄化フィルタ。
【請求項8】
前記隔壁の内部及び表面に、Pt、Rh、Pdのうち少なくとも2種の貴金属と、アルミナ、セリア、ジルコニアの少なくとも1種を含む三元触媒と、をコートした請求項1〜6のいずれか1項に記載のウォールフロー型排ガス浄化フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−53589(P2013−53589A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193174(P2011−193174)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】