説明

エマルジョン型感熱転写性接着剤および感熱転写性箔

【課題】 本発明は、各種被転写体に対する感熱転写時の転写性及び箔切れ性に優れ、転写後は各種被転写体に対する接着性が良好で、耐熱性、各種有機溶剤に対する耐性、耐アルカリ性、耐熱水性に優れる感熱転写性箔(以下、転写性箔という)を形成し得る接着剤とそれを使用した感熱転写性箔を提供することを目的とする。
【解決手段】 シアン化ビニル系モノマー(a1)及び(メタ)アクリル酸−tert−アルキルエステル(a2)を必須成分とするラジカル重合性不飽和モノマー(A)を、重合開始剤を用いて、水性媒体中で重合してなる、ガラス転移温度が10〜80℃のアクリル系共重合体を含有するエマルジョン型感熱転写性接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱転写性接着剤とそれを使用した感熱転写性箔、およびその感熱転写性箔の製造方法に関する。詳しくは、各種被転写体に対する感熱転写時の転写性及び箔切れ性に優れ、転写後は各種被転写体に対する接着性が良好で、耐熱性、各種有機溶剤に対する耐性、耐アルカリ性、耐熱水性に優れる感熱転写性箔(以下、転写性箔という)を形成し得る感熱転写性接着剤(以下、接着剤という)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、種々の分野で意匠性・装飾性付与や保護を目的として転写性箔が利用されている(特許文献1〜10参照)。感熱転写は、被転写体に転写性箔を接触させ、加熱した金型を押し当て、転写性箔の被加熱・被加圧部分を被転写体上に転移させることによって、所望の絵柄・文字・模様等を被転写体上に形成する方法である。
被転写体としては、例えば、食品、薬品、化粧品、雑貨等を包装するための包装材料、本の装丁、文具、機械・機器、電化製品、皮革製品、衣料品等が挙げられ、その素材としては、紙、プラスチック、金属、布、ガラス、木材等が挙げられる。また、被転写体は、平面的な形状のものも立体的な形状のものもある。
転写性箔は、基材シート上に、転移後に絵柄等を形成することとなる層(以下、絵柄層という)が積層され、前記絵柄層上に感熱転写性接着剤層(以下、接着剤層という)が積層されたものが一般に使用される。この場合、転写性箔の被加熱・被加圧部分において、基材シートと絵柄層とを剥離することによって、被転写体上に所望の絵柄等を形成する。必要に応じて、基材シートと絵柄層と間に剥離性調整層を設けたり、絵柄層と接着剤層との間にアンカー層を設けたりする場合がある。
【0003】
このような感熱転写の分野では、(1)少なくとも絵柄層及び接着剤層から構成され、被転写体上に転写される層(以下、転写層という)が、ムラなく均一に被転写体上に転写できること(転写性)、(2)転写の際に被加熱・被加圧部分とそれ以外の部分とが綺麗に分かれ、シャープな絵柄等を形成すること(箔切れ性)、(3)転写後において、被転写体と該被転写体上に転写した層(以下、転写層という)との接着性が十分で有ること、(4)転写後に転写層が耐熱性、各種有機溶剤に対する耐性、耐アルカリ性、耐熱水性等の各種耐性に優れること等が要求される。
しかし、これらの要求をバランス良く満たすものはこれまでなかった。
【特許文献1】特開平03−140296号公報
【特許文献2】特開平05−024166号公報
【特許文献3】特開平05−155199号公報
【特許文献4】特開平07−040651号公報
【特許文献5】特開平07−205597号公報
【特許文献6】特開平08−058295号公報
【特許文献7】特開平09−156226号公報
【特許文献8】特開2000−044901号公報
【特許文献9】特開2000−326697号公報
【特許文献10】特開2002−264591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、各種被転写体に対する感熱転写時の転写性及び箔切れ性に優れ、転写後は各種被転写体に対する接着性が良好で、耐熱性、各種有機溶剤に対する耐性、耐アルカリ性、耐熱水性に優れる感熱転写性箔(以下、転写性箔という)を形成し得る接着剤とそれを使用した感熱転写性箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に対し、本発明者らが研究を重ねた結果、特定のラジカル重合性不飽和モノマーを必須成分とするラジカル重合性不飽和モノマーを水性媒体中で重合してなる、特定のガラス転移温度を呈する共重合体を含有するエマルジョンが、感熱転写性接着剤として好適であることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
即ち、第1の発明は、シアン化ビニル系モノマー(a1)及び(メタ)アクリル酸−tert−アルキルエステル(a2)を必須成分とするラジカル重合性不飽和モノマー(A)を、重合開始剤を用いて、水性媒体中で重合してなる、ガラス転移温度が10〜80℃のアクリル系共重合体を含有するエマルジョン型感熱転写性接着剤に関する。
【0007】
また2の発明は、シアン化ビニル系モノマー(a1)、(メタ)アクリル酸−tert−アルキルエステル(a2)及びアルコキシシリル基を有するラジカル重合性不飽和モノマー(a5)を必須成分とするラジカル重合性不飽和モノマー(A)であって、アルコキシシリル基を有するラジカル重合性不飽和モノマー(a5)以外のモノマーから求められるアクリル系共重合体のガラス転移温度が10〜80℃となり得る、ラジカル重合性不飽和モノマー(A)を、重合開始剤を用いて、水性媒体中で重合してなる、アクリル系共重合体を含有するエマルジョン型感熱転写性接着剤に関する。
【0008】
また第3の発明は、ラジカル重合性不飽和モノマー(A)が、エポキシ基を有するラジカル重合性不飽和モノマー(a3)又は芳香族系ラジカル重合性不飽和モノマー(a4)の少なくとも一方を含有することを特徴とする第1又は第2の発明に記載のエマルジョン型感熱転写性接着剤に関する。
【0009】
さらに第4の発明は、重合開始剤が、酸化剤と還元剤とからなるレッドクス系重合開始剤であることを特徴とする第1ないし第3の発明のいずれかに記載のエマルジョン型感熱転写性接着剤に関する。
【0010】
また第5の発明は、重合開始剤が、熱分解系水溶性開始剤であり、ラジカル重合性不飽和モノマー(A)100重量部に対して、0.1重量部以下であることを特徴とする第1ないし第3の発明のいずれかに記載のエマルジョン型感熱転写性接着剤に関する。
【0011】
また第6の発明は、有機粒子及び/又は無機粒子をさらに含有することを特徴とする第1ないし第5の発明いずれか記載のエマルジョン型感熱転写性接着剤に関する。
【0012】
またさらに第7の発明は、基材シート上に絵柄層及び上記発明のいずれかに記載のエマルジョン型感熱転写性接着剤から形成される感熱転写性接着剤層が積層されてなる感熱転写性箔に関し、
第8の発明は、感熱転写性接着剤層の表面がひび割れていることを特徴とする上記発明に記載の感熱転写性箔に関する。
さらに第9の発明は、基材シートと絵柄層との間に剥離性調整層が設けられていることを特徴とする上記発明に記載の感熱転写性箔に関し、
第10の発明は、絵柄層と感熱転写性接着剤層との間にアンカー層が設けられていることを特徴とする上記発明のいずれかに記載の感熱転写性箔に関する。
【0013】
また、第11の発明は、絵柄層もしくはアンカー層上に感熱転写性接着剤を塗布し、該感熱転写性接着剤の最低造膜温度以下の温度で予備乾燥した後に、80℃以上で本乾燥し、感熱転写性接着剤層を形成することを特徴とする上記発明のいずれかに記載の感熱転写性箔の製造方法に関する。
【0014】
さらに第12の発明は、上記発明のいずれかに記載の感熱転写性箔の感熱転写性接着剤層を被転写体に接触させ、前記感熱転写性箔の基材シート側から加熱し、該加熱部分の少なくとも絵柄層と感熱転写性接着剤層とを被転写体に転移させることを特徴とする感熱転写方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、各種被転写体、特に紙に対する転写性、箔切れ性に優れる転写性箔であって、転写後には接着性、耐熱性、各種有機溶剤に対する耐性、耐アルカリ性及び耐熱水性に優れる転写層を形成し得る感熱転写性箔を提供できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の接着剤は、上記したようにシアン化ビニル系モノマー(a1)及び(メタ)アクリル酸−tert−アルキルエステル(a2)を必須成分とするラジカル重合性不飽和モノマー(A)を水性媒体中で重合してなるものである。
【0017】
シアン化ビニル系モノマー(a1)としては、(メタ)アクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリルなどを例として挙げることができ、(メタ)アクリロニトリルが好ましい。
シアン化ビニル系モノマー(a1)は、塩素系有機溶剤に対する転写後の耐性の点で重要な成分である。シアン化ビニル系モノマー(a1)は、重合に供するモノマーの合計、即ちラジカル重合性不飽和モノマー(A)100重量%中に0.5〜20重量%であることが耐塩素系有機溶剤性の点で好ましく、1〜10重量%であることがより好ましい。
【0018】
(メタ)アクリル酸−tert−アルキルエステル(a2)としては、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−アミル、(メタ)アクリル酸tert−ブチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチルエチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチルアセチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチルジメチルシリル、(メタ)アクリル酸tert−アミルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸tert−ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸tert−ブチルベンジルなどを例としてあげることができる。
【0019】
(メタ)アクリル酸−tert−アルキルエステル(a2)は、転写後の転写層の被転写体に対する接着性確保の点から重要である。(メタ)アクリル酸−tert−アルキルエステル(a2)は、重合に供するモノマーの合計、即ちラジカル重合性不飽和モノマー(A)の合計100重量%中に1〜60重量%であることが、接着性の点で好ましく、5〜40重量%であることがより好ましい。
【0020】
本発明の接着剤を構成するアクリル系共重合体は、上記モノマー(a1)、(a2)の他に、エポキシ基を有するラジカル重合性不飽和モノマー(a3)、芳香族系ラジカル重合性不飽和モノマー(a4)の少なくとも一方を共重合に供することが好ましい。
【0021】
エポキシ基を有するラジカル重合性不飽和モノマー(a3)としては、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの他に、グリシジルビニルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルビニルエーテル、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アリルエーテルなどを例としてあげることができる。
これらエポキシ基を有するラジカル重合性不飽和モノマー(a3)は、重合に供するモノマーの合計、即ちラジカル重合性不飽和モノマー(A)の合計100重量%中に0.1〜10重量%であることが、被転写体に対する接着性向上と耐溶剤性向上の点で好ましく、0.5〜5重量%であることがより好ましい。
【0022】
芳香族系ラジカル重合性不飽和モノマー(a4)としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどを例としてあげることができる。
芳香族系ラジカル重合性不飽和モノマー(a4)は、重合に供するモノマーの合計、即ちラジカル重合性不飽和モノマー(A)の合計100重量%中に0.1〜30重量%であることが、耐アルカリ性の点で好ましく、1〜10重量%であることがより好ましい。
【0023】
本発明の接着剤を構成するアクリル系共重合体は、その他のラジカル重合性不飽和モノマーも共重合成分とすることができる。
その他のラジカル重合性不飽和モノマーとしては、エチレン系不飽和カルボン酸、エチレン系不飽和カルボン酸アルキルアミド、水酸基含有カルボン酸エステル、カルボン酸ビニルエステル等が挙げられ、これらその他のラジカル重合性不飽和モノマーは、目的とする接着剤の性能を損なわない範囲において一種以上多種を任意に用いてもよい。
【0024】
エチレン系不飽和カルボン酸として、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸などを例としてあげることができる。
【0025】
エチレン系不飽和カルボン酸アルキルアミドとしては、アミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノメチルメタクリルアミド、メチルアミノプロピルメタクリルアミド、アミノアルキルアミド、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドなどを例としてあげることができる。エチレン系不飽和カルボン酸アミノアルキルエステルとしては、アミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ブチルアミノエチルアクリレートなどを例としてあげることができる。
【0026】
水酸基含有カルボン酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸ハイドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ハイドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチルなどを例としてあげることができる。
【0027】
カルボン酸ビニルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソ−プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アルキル酸アルキレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸イソボニルなどを例としてあげることができる。
【0028】
また本発明において、架橋構造を導入して耐溶剤性を向上させるために、重合の際にアルコキシシリル基を有する重合性モノマー(a5)を使用することもできる。
アルコキシシリル基を有する重合性モノマー(a5)の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルアリルアミン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは1種類のみを用いてもよく、2種類以上を適宜混合して用いてもよい。
【0029】
前記アルコキシシリル基を有する重合性モノマー(a5)の含有率は、重合に供するモノマーの合計、即ちラジカル重合性不飽和モノマー(A)の合計100重量%中に、0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%であるのがよい。アルコキシシリル基を有する重合性モノマー(a5)の含有率が、0.05重量%未満であると、架橋による効果が現れにくくく、一方、5重量%を越えると、塗膜が脆くなりやすく、貯蔵中に物性が変化しやすくなるため、好ましくない。
【0030】
これらラジカル重合性不飽和モノマー(A)を共重合してなるアクリル系共重合体のガラス転移温度(以下、Tgともいう)は、10〜80℃であることが重要であり、20〜60℃であることが好ましい。
あるいはアルコキシシリル基を有する重合性モノマー(a5)を共重合に供する場合には、アルコキシシリル基を有する重合性モノマー(a5)以外のモノマーから求められるアクリル系共重合体のガラス転移温度が10〜80℃となり得ることが重要であり、20〜60℃となり得ることが好ましい。
それぞれTgが10℃より低い場合、転写性、箔切れ性が低下する。またTgが80℃を超える場合、被転写体に対する接着性が低下する。Tgが10〜80℃の範囲にあると、転写時の転写性、箔切れ性に優れ、転写後の接着性にも優れる。
【0031】
なお、ここで言う「転写性」が良好とは、本発明の転写性箔を加熱・加圧して、被転写体上に転写した際に、被加熱・被加圧部分の転写層(少なくとも絵柄層及び接着剤層)むらなくきれいに転写出来ている状態をいう。転写性が不良な場合は、転写層が基材シートから全く剥がれなかったり、転写層が基材シートからは剥がれても被転写体に全く接着せずに剥がれ落ちてしまったり、転写の際に転写層にむらや欠落が生じるたりする。
【0032】
また、「箔切れ」とは、被転写体に転写された部分のエッヂに余分のもの(この余分のものは「箔ばり」と呼ばれている)がついているか、否かを表わす。「箔切れ」が悪いとは、箔ばりがついている状態をいう。
【0033】
なお、本発明におけるアクリル系共重合体のTgは下記の式により理論的に導かれる。
1/Tg=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+・・・・(Wn/Tgn)
ただし、W1:モノマー1の重量%、Tg1:モノマー1のホモポリマーのガラス転移温度Tg(°K)、
W2:モノマー2の重量%、Tg2:モノマー2のホモポリマーのガラス転移温度Tg(°K)、
Wn:モノマーnの重量%、Tgn:モノマーnのホモポリマーのガラス転移温度Tg(°K)、
尚、ラジカル重合性不飽和モノマー(A)を水性媒体中で重合する際に乳化剤として、ラジカル重合性不飽和基を有するものを使用する場合には、ラジカル重合性不飽和モノマー(A)の含有量及び共重合体のTgの計算に際して、ラジカル重合性不飽和基を有する乳化剤はモノマーには含めないものとする。
【0034】
本発明の接着剤を構成するアクリル系共重合体は、上記したように特定のモノマー(a1)、(a2)を必須の共重合成分とし、特定のTgを有し得ることが重要であり、かつラジカル重合性不飽和モノマー(A)を水性媒体中で重合してなるものであることが重要である。特定のモノマー(a1)、(a2)を必須の共重合成分とし、特定のTgを有するような組成ラジカル重合性不飽和モノマー(A)をいわゆる溶液重合法で重合してなるアクリル系共重合体溶液を用いて接着剤を得、転写性箔を形成した場合、箔切れが悪く箔ばりが発生したり、被転写体に転写した後転写層の耐熱性に対する要求を満足することができない。
本発明で言う水性媒体とは、主として水を言う。親水性有機溶剤を併用することもできる。
【0035】
次にラジカル重合性不飽和モノマー(A)を水性媒体中で重合する際に用いられる重合開始剤について説明する。重合開始剤としては、水溶性重合開始剤、油溶性重合開始剤等が挙げられ、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はない。
【0036】
本発明において、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド(V−50、和光純薬製)など、従来既知の水溶性重合開始剤を好適に使用することができる。
これら水溶性重合開始剤は、熱分解系重合開始剤として単独で使用することもできるし、後述するようにこれら水溶性重合開始剤を酸化剤とし、種々の還元剤と組み合わせてレドックス系重合開始剤として用いることもできる。
熱分解系水溶性重合開始剤として単独で使用する場合は、全ラジカル重合性不飽和モノマー(A)100重量部に対して、0.1重量部以下用いることが好ましく、0.01〜0.1重量部程度の量を用いるのがより好ましい。乳化重合では、熱分解系水溶性重合開始剤を0.1重量部よりも多く使用することが一般的である。しかし、0.1重量部より過量の熱分解系水溶性重合開始剤を用いると、得られる共重合体エマルジョンから形成される接着剤層の耐温水性が低下する傾向にあり、接着剤層が白化しやすくなり、好ましくない。一方、熱分解系水溶性重合開始剤が0.01重量部未満だと反応が完結せずに未反応モノマーが残留する可能性がある。
【0037】
さらに、本発明では乳化重合を行うに際して、上記水溶性重合開始剤や後述する油溶性開始剤を酸化剤とし、これとともに還元剤を併用し、レドックス系重合することも可能である。これにより、乳化重合速度を促進したり、低温における乳化重合をしたりすることが容易になる。
レドックス系重合の際に使用される還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラートなどの金属塩等の還元性有機化合物、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物、塩化第一鉄、ロンガリット、二酸化チオ尿素などを例示できる。酸化剤及び還元剤は、全ラジカル重合性不飽和モノマー(A)100重量部に対して、それぞれ0.01〜1.0重量部、および0.01〜2.0重量部程度の量を用いるのが好ましい。なお、レドックス系重合の場合、熱分解系重合に比べてより高分子量のポリマーが生成するために、耐熱性、耐水性の点で好ましい。
【0038】
また本発明では、油溶性重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス−シクロヘキサン−1−カルボニトリル等のアゾビス化合物等を使用することもできる。これらは1種類又は2種類以上を混合して使用することができる。これら油溶性重合開始剤は、単独で使用する場合は全ラジカル重合性不飽和モノマー100重量%に対して、0.1〜10.0重量%程度の量を用いるのが好ましい。
【0039】
なお前記した重合開始剤によらずとも、光化学反応や、放射線照射等によっても重合を行うことができる。
【0040】
重合温度は各重合開始剤の重合開始温度以上とする。例えば、過酸化物系重合開始剤では、通常70℃程度とすればよい。重合時間は特に制限されないが、通常2〜24時間である。
【0041】
また本発明では、密着性を向上させる目的で分子量調節のために連鎖移動剤を重合反応中に使用することが出来る。
連鎖移動剤としては、ステアリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、メルカプトプロピオン酸誘導体、チオグリコール酸誘導体などが使用出来る。
これら連鎖移動剤は、全ラジカル重合性不飽和モノマー(A)100重量部に対して、0.01〜1.0重量部程度が好ましく、0.05〜0.5重量部の量を用いるのがより好ましい。
【0042】
ラジカル重合性不飽和モノマー(A)を水性媒体中で重合する際に用いられる乳化剤としては、ラジカル重合可能な基を構造中に有する反応性乳化剤、および/または非反応性乳化剤など、従来公知のものを任意に使用することができる。
【0043】
ラジカル重合可能な基を構造中に有する反応性乳化剤はさらに大別して、アニオン系、非イオン系のノニオン系のものが例示できる。このラジカル重合性不飽和基を1個以上有するアニオン系反応性乳化剤は、1種を単独で使用しても、複数種を混合して用いても良い。
【0044】
アニオン系反応性乳化剤の一例として、以下にその具体例を例示するが、本願発明において使用可能とする乳化剤は、以下に記載するもののみを限定するものではない。
【0045】
アルキルエーテル系(市販品としては、例えば第一工業製薬株式会社製アクアロンKH−05,KH−10,KH−20,旭電化工業株式会社製アデカリアソープSR−10N,SR−20N,花王株式会社製ラテムルPD−104等)やスルフォコハク酸エステル系(市販品としては、例えば花王株式会社製ラテムルS−120,S−120A,S−180P,S−180A,三洋化成株式会社製エレミノールJS−2等)がある。
【0046】
アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば第一工業製薬株式会社製アクアロンH−2855A,H−3855B,H−3855C,H−3856,HS−05,HS−10,HS−20,HS−30,旭電化工業株式会社製アデカリアソープSDX−222,SDX−223,SDX−232,SDX−233,SDX−259,SE−10N,SE−20N,SE−等)がある。
【0047】
(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば日本乳化剤株式会社製アントックスMS−60,MS−2N,三洋化成工業株式会社製エレミノールRS−30等)やリン酸エステル系(市販品としては、例えば第一工業製薬株式会社製H−3330PL,旭電化工業株式会社製アデカリアソープPP−70等)がある。
【0048】
本発明では、必要に応じて前記したアニオン系反応性乳化剤と共に、若しくは単独でノニオン型反応性乳化剤を使用することができる。
本発明で用いることのできるノニオン系反応性乳化剤としては、例えばアルキルエーテル系、アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系、(メタ)アクリレート硫酸エステル系等が挙げられる。
アルキルエーテル系の市販品としては、旭電化工業株式会社製アデカリアソープER−10,ER−20,ER−30,ER−40,花王株式会社製ラテムルPD−420,PD−430,PD−450等)がある。
アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系の市販品としては、例えば第一工業製薬株式会社製アクアロンRN−10,RN−20,RN−30,RN−50,旭電化工業株式会社製アデカリアソープNE−10,NE−20,NE−30,NE−40等)がある。
(メタ)アクリレート硫酸エステル系の市販品としては、例えば日本乳化剤株式会社製RMA−564,RMA−568,RMA−1114等)がある。
【0049】
本発明においてアクリル系共重合体のエマルジョンを得る際には、主としてアクリル系共重合体のエマルジョンから構成される接着剤の性能に悪影響を及ぼさない範囲において、前記したラジカル重合可能な基を有する反応性乳化剤とともに、必要に応じ非反応性乳化剤を併用することができる。
【0050】
非反応性乳化剤は、ノニオン系、アニオン系に大別することができる。
非反応性ノニオン系乳化剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート等のソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等のポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート等のポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類、オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド等のグリセリン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー等を例示することができる。または、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルなどが挙げられる。
【0051】
また非反応性アニオン系乳化剤の例としては、オレイン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩類、ポリエキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類、モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸エステル塩及びその誘導体類等を例示することができる。または、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩類が挙げられる。
【0052】
本発明において用いられる乳化剤の使用量は、必ずしも限定されるものではなく、共重合体が最終的に使用される際に求められる物性に従って適宜選択できる。例えば、重合に供されるモノマー(A)の合計100重量部に対して、乳化剤は通常0.1〜30重量部であることが好ましく、0.3〜20重量部であることがより好ましく、0.5〜10重量部の範囲内であることがさらに好ましい。
【0053】
本発明においてアクリル系共重合体のエマルジョンを得る際には、主としてアクリル系共重合体のエマルジョンから構成される接着剤の性能に悪影響を及ぼさない範囲において、水性媒体に対する親和性を増すために、水溶性保護コロイドを併用することもできる。
【0054】
上記の水溶性保護コロイドとしては、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類;例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩等のセルロース誘導体;及びグアガムなどの天然多糖類;などが挙げられ、これらは、単独でも複数種併用の態様でも利用できる。
水溶性保護コロイドの使用量としては、全ラジカル重合性不飽和モノマー(A)の合計100重量部当り0.1〜5重量部程度であり、さらに好ましくは0.5〜2重量部である。
【0055】
本発明においてアクリル系共重合体のエマルジョンを得る際には、主としてアクリル系共重合体のエマルジョンから構成される接着剤の性能に悪影響を及ぼさない範囲において、接着性を増すために、接着助剤を併用することもできる。
【0056】
上記の接着助剤としては、例えばタッキファイヤ、塩化ビニル酢酸ビニル樹脂、SBRやNBR等が挙げられ、これらは、単独でも複数種併用の態様でも利用できる。
接着助剤の使用量としては、全ラジカル重合性不飽和モノマー(A)の合計100重量部当り1.0〜30.0重量部程度であり、さらに好ましくは5.0〜20.0重量部である。
【0057】
次に本発明に使用される有機粒子、無機微粒子について説明する。
有機粒子や無機粒子は、転写の際の変形が接着剤層に内部応力(歪み)として残存することを緩和し、転写後の被着体に対する接着性向上に寄与したり、転写時の箔切れ性を向上したりする。
有機粒子としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、テフロン(登録商標)樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂を架橋、微粒子化せしめたものが挙げられる。
また、無機粒子としては、シリカ、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、天然マイカ、合成マイカ、水酸化アルミニウム、沈降性硫酸バリウム、沈降性炭酸バリウム、チタン酸バリウム、硫酸バリウム等が挙げられる。
上記粒子は、1種又は2種以上を混合して使用しても構わない。上記粒子は、平均粒径が10μm以下であることが好ましく、5μm以下の粒子であることがより好ましい。
【0058】
上記のようにして得られる本発明の接着剤の最低造膜温度(以下、MFTという)は、10〜80℃であることが好ましく、20〜60℃であることがより好ましい。
MFTが10℃よりも低いと、箔切れや転写性が悪く好ましくない。MFTが80℃よりも高いと、転写後の接着性が低下してしまう。
接着剤のMFTは、例えば多段乳化重合法によるコアシェル型エマルジョンを生成させたり、ポリマー粒子界面を軟化させる働きを持つアルコール系溶剤などを接着剤に添加したりすることにより低く、また大粒径のシリカ微粒子など成膜を阻害するような物や重合体エマルジョンの熱伝導率低下させる物を添加することにより高くコントロールすることができる。
【0059】
次に上記接着剤を用いてなる本発明の感熱転写性箔及び感熱転写方法について図面を参照しながら説明する。
本発明の転写性箔1は、図1に示すように、基材シート2上に絵柄層3が積層され、前記絵柄層3上に上記接着剤から形成される接着剤層4が積層された構成を基本とする。また、本発明の転写性箔1は、図2に示すように、基材シート2と絵柄層3との間に剥離性調整層5を設けた構成とすることもできる。さらに、本発明の転写性箔1は、図3に示すように、絵柄層3と接着剤層4との間にアンカー層6を設けた構成とすることもできる。また、図示は省略するが、基材シート2と絵柄層3と間に剥離性調整層5は設けずに、絵柄層3と接着剤層4との間にアンカー層5を設けた構成とすることもできる。
【0060】
本発明の感熱転写方法は、図4に示すように本発明の転写性箔1の接着剤層4に被転写体7を接触させた後、基材シート側から部分的に加熱・加圧し、図5に示すように被加熱・被加圧部分の絵柄層3と接着剤層4とを基材シート2から剥がし被転写体7に転写させ、加熱・加圧されなかった部分を取り除くことによって、被転写体上に所望の絵柄を形成する方法である。
あるいは、本発明の転写箔1が基材シート2と絵柄層3との間に剥離性調整層5を有する場合、本発明の感熱転写方法は、接着剤層4に被転写体7を接触させた後、基材シート2側から部分的に加熱・加圧し、
図6(a)や図7(a)に示すように、被加熱・被加圧部分の剥離性調整層5、絵柄層3及び接着剤層4を基材シート2から剥がし被転写体に転写させたり、
図6(b)や図7(b)に示すように、被加熱・被加圧部分の絵柄層3及び接着剤層4を基材シート2から剥がし被転写体7に転写させたり、
図6(c)や図7(c)に示すように、被加熱・被加圧部分の剥離性調整層5の一部、絵柄層3及び接着剤層4を被転写体7に転写させ、剥離性調整層5の他の部分を基材シート2に残し、
それぞれ加熱・加圧されなかった部分を取り除くことによって、被転写体7上に所望の絵柄を形成する方法とすることもできる。
図5に示す場合は、絵柄層3と接着剤4とが転写層となる。
図6(a)に示す場合は、剥離性調整層5と絵柄層3と接着剤4とが転写層となる。
図6(b)に示す場合は、絵柄層3と接着剤4とが転写層となる。
図6(c)に示す場合は、剥離性調整層5と絵柄層3と接着剤4とが転写層となる。
図7(a)に示す場合は、剥離性調整層5と絵柄層3とアンカー層6と接着剤4とが転写層となる。
図7(b)に示す場合は、絵柄層3とアンカー層6と接着剤4とが転写層となる。
図7(c)に示す場合は、剥離性調整層5と絵柄層3とアンカー層6と接着剤4とが転写層となる。
【0061】
<基材シート>
本発明の転写性箔に用いられる基材シートは、熱転写時の熱及び圧力に耐え得るものであればよい。例えば2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムが寸法安定性、耐熱性、強靱性等の点から最も好ましい。これ以外にも、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、セロファン、「ビニロン」(商標)フィルム、アセテートフィルム、ナイロンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリアミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム等の合成フィルム、及びコンデンサーペーパー等の紙を使用することができる。これらの厚みは6〜50μmであることが好ましく、12〜20μmであることがより好ましい。
【0062】
<剥離性処理層>
熱転写時に被加熱・被加圧部分の絵柄層が基材シートから剥がれ易く接着剤層と共に被転写体上に転移する場合には、基材シートをそのまま用いることができる。熱転写時に被加熱・被加圧部分の絵柄層が基材シートから剥がれ難い場合には、絵柄層の剥離を補助したり、箔切れ性を向上するために、絵柄層と基材シートとの間に剥離性調整層を設けることもできる。
【0063】
図6(a)や図7(a)に示す場合は、被加熱・被加圧部分において剥離性調整層5は、絵柄層3及び接着剤層4とともに基材シート2から剥がれ、被転写体7に転移し、転移した後は転写層の表面となる層である。
図6(b)や図7(b)に示す場合は、被加熱・被加圧部分において剥離性調整層5は基材シート2側に残り、絵柄層3及び接着剤層4が被転写体7に転移する。
図6(c)や図7(c)に示す場合は、被加熱・被加圧部分において剥離性調整層5が凝集破壊し、その一部が絵柄層3及び接着剤層4とともに被転写体7上に転移し、剥離性調整層5は転移した後は転写層の表面となる。
転写後の転写層保護の観点から、図6(a)、(c)や図7(a)、(c)に示すように、熱転写後、剥離性調整層5は絵柄層等と共に被転写体7に転移し、転写層の表面となるとことが好ましい。そして、転写後、転写層の表面の平滑性が求められる場合には、剥離性調整層5の凝集破壊を伴う図6(c)や図7(c)よりも、図6(a)や図7(a)に示す態様が好ましい。図6(a)や図7(a)に示すような場合、基材シートと転写層との間の剥離力が1〜5g/インチ(90度剥離)になるように、基材シート及び剥離性調整層の材質等を適宜選択することが好ましい。
【0064】
このような剥離性調整層は、例えばポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、シリコーン樹脂、炭化水素を主体とするワックス類、ポリスチレン樹脂、塩化ゴム、カゼイン、各種界面活性剤、金属酸化物等の中、1種もしくは2種以上を混合してなる剥離性調整層形成用塗液を、従来公知の方法により基材シートの表面に塗布し、形成することができる。剥離性調整層の厚みは剥離力、箔切れ性を考慮すると、0.1〜1.0μmの範囲が望ましい。
【0065】
<絵柄層>
絵柄層は、接着剤層と共に被転写体上に転移し、所望の絵柄を形成するための層である。絵柄層は、転写に供する転写箔において予め何らかの絵柄・図柄が形成されていてもよいし、あるいは転写前の転写箔においては格別の絵柄・図柄が形成されてなく、単なる着色層や金属箔であってもよいし、無彩色の層であってもよい。転写前の転写箔においては単なる着色層や金属箔を、所望の絵柄・図柄の金型を用いて、被転写体上に転写することもできる。また、被転写体とは質感の異なる無彩色の層を、所望の絵柄・図柄の金型を用いて、被転写体上に転写することもできる。
従って、転写箔を構成する絵柄層としては、種々のインキで形成された絵柄層や着色層の他、金属箔等を用いることができる。
【0066】
<アンカー層>
アンカー層は、絵柄層と接着剤層との層間密着性を補強するもので有り、絵柄層と接着剤層の層間密着性が十分な場合には、特に設ける必要は無い。
このアンカー層に使用できるものとしては、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリ塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル化樹脂等の熱可塑性樹脂や2液硬化型ウレタン、メラミン・エポキシ系熱硬化型樹脂等が挙げられるが、特に制限はされない。いずれにせよ、上記2つの層の間により強固な接着力を持たせるものであれば良い。
【0067】
<接着剤層>
本発明の転写箔を構成する接着剤層は、上述の接着剤から形成される。その接着剤層の表面は、例えば図8に示すように転写前においてはひび割れた状態にあることが好ましく、ほぼ全面ができるだけ均一にひび割れていることがより好ましい。転写圧着時に接着剤層が軟化・溶融することによって、表面にあったひび割れが埋まり、均一な接着剤層として被転写体に転移する。ひび割れがあることにより、接着剤層の転写部と非転写部の境界が成膜部と非成膜部にはっきり区別できるために、箔切れが良好になる。転写箔を構成する接着剤層の表面がひび割れていない場合、転写時の接着剤層の軟化・溶融に伴い、接着剤層が転写層の周囲にはみ出しやすく、箔切れ性が低下することがある。
ひび割れた小片の大きさは、例えば、平均1〜500μmであることが好ましく、3〜200μmであることがより好ましい。転写箔を構成する接着剤層の表面全面が、平均して1μm未満の小片にひび割れている場合、接着剤層はほとんど成膜していない状態に等しく、絵柄層又はアンカー層を設ける場合にはアンカー層にすらもほとんど接着しないので、接着剤を塗布後、乾燥時の風により形成されつつある接着剤層が除去される恐れがあり好ましくない。また500μmより大きくなると成膜性が良くなることにより、転写性、箔切れが悪化すると共に耐溶剤性も低下してしまう。
また、本発明の転写箔を構成する接着剤層の表面のひび割れは、アンカー層まで達していてもいなくても良く、また接着剤層の厚さは2〜10μmが好ましい。
尚、ひび割れた小片の平均的大きさは、例えば画像処理ソフトを用いて表面の顕微鏡の写真を解析することにより、一つ一つの小片の大きさを求め、次いでその平均を求めることによって得ることができる。
【0068】
本発明の接着剤を用いてこのように接着剤層の表面にひび割れさせる方法としては、接着剤のMFT以下の温度で接着剤を乾燥させる方法、アクリル系共重合体エマルジョンには無機粒子など相溶しないものを接着剤中に添加して成膜を抑制する方法、アクリル系共重合体エマルジョンの熱伝導率を低下させて成膜を抑制させる方法等がある。
例えば、上述の本発明の接着剤を絵柄層やアンカー層上に塗布し、接着剤のMFT以下で予備乾燥した後に、80℃以上で本乾燥し、接着剤層を形成することによって、上記のように接着剤層の表面にひび割れを形成することができる。
予備乾燥温度は好ましくはMFTよりも5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低いことがより好ましい。予備乾燥温度がMFTより高くなると接着剤層をひび割れ状態にすることが難しくなり、その結果転写性、箔切れが悪化すると共に耐溶剤性も低下し易くなる。
さらに本乾燥温度は、好ましくは80〜150℃、さらに好ましくは80〜120℃が良い。本乾燥温度が150℃より高くなると予備乾燥で形成させたひび割れた状態を維持し難くなり、その結果転写性、箔切れが悪化すると共に耐溶剤性も低下する傾向にある。また、80℃より低くなると接着剤中の水などが完全に乾燥せずに転写箔としての各種物性を低下させてしまうことがある。
【0069】
このようにして得た本発明の転写性箔を用い、転写性箔を構成する接着剤層を被転写体に接触させ、前記転写性箔の基材シート側から加熱し、該加熱部分の少なくとも絵柄層と感熱転写性接着剤層とを被転写体に転移させることによって、被転写体上に所望の絵柄層を形成することができる。転写の際、加熱と共に加圧することが好ましい。
例えば、用いられる接着剤の軟化・溶融温度よりも高温に加熱した金型を基材シート側から押し当てることが好ましい。より具体的には、60〜200℃、0.5kg〜1t/cm2が好ましく、90〜150℃、10kg〜0.5t/cm2がより好ましい。転写温度が、60℃より低いと、接着剤が十分に溶融せず、接着力が得られにくい。200℃より高いと、基材シートが破壊することがある。転写圧が、0.5kgよりも低いと、接着剤の基材への投錨性が得られにくく、1tよりも大きい転写圧を得るには、設備コストがかかってしまう。
【実施例】
【0070】
以下、実施例によって本願発明の効果をさらに詳細に説明するが、本願発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
[実施例1]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水338.8部とアニオン系反応性乳化剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬社製)1.6重量部とを仕込んだ。
【0072】
次に、モノマー(a1)としてアクリロニトリル20.1重量部、モノマー(a2)としてメタクリル酸tert−ブチル120.3重量部、モノマー(a3)としてメタクリル酸グリシジル4.0重量部、モノマー(a4)としてスチレン20.1重量部、その他モノマーとしてメタクリル酸メチル137.5重量部、アクリル酸4.0重量部、アクリル酸−2−エチルヘキシル91.0重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート4.0重量部、イオン交換水199.0重量部、及びアニオン系反応性乳化剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬社製)2.4重量部をあらかじめ上記反応容器とは別の混合用の容器中で混合しておき、得られたプレエマルジョンのうちの5%をさらに反応容器に加えた。
【0073】
内温を70℃に昇温し十分に窒素置換した後、酸化剤としてtert−ブチルハイドロパーオキサイドの5%水溶液6.0部と還元剤としてイソアスコルビン酸ナトリウムの1%水溶液14.7重量部を添加し重合を開始した。
【0074】
反応系内を70℃で5分間保持した後、内温を70℃に保ちながらプレエマルジョンの残りとtert−ブチルハイドロパーオキサイドの5%水溶液9.8部とイソアスコルビン酸ナトリウムの1%水溶液24.6重量部を3時間かけて滴下し、更に3時間攪拌を継続した。なお乳化重合中重合反応液のpHは3.0に保った。反応終了後、温度を30℃まで冷却し、25%アンモニア水を2.1重量部添加して、pHを9.1とし、不揮発分濃度40.3%の水性エマルジョンを得た。
尚、得られた水性エマルジョン中の共重合体のガラス転移温度(計算値)は50℃、水性エマルジョンのMFTは55℃であった。
【0075】
次に、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に、剥離性調整剤を塗布、乾燥し、厚さ1μmの剥離性調整層を形成し、該剥離性調整層の上に絵柄層形成用インキを塗布、乾燥し、厚さ2μmの絵柄層を形成した。次いで、絵柄層上に得られた水性エマルジョンを塗布し、30℃で約1分で予備乾燥した後、80℃で約1分間本乾燥を行い、接着層を形成し、転写箔を得た。
【0076】
[実施例2]
モノマー(a1)としてアクリロニトリル20.1重量部、モノマー(a2)としてメタクリル酸tert−ブチル120.3重量部、モノマー(a3)としてメタクリル酸グリシジル4.0重量部、その他モノマーとしてメタクリル酸メチル157.6重量部、アクリル酸4.0重量部、アクリル酸−2−エチルヘキシル91.0重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート4.0重量部を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、pH9.0、不揮発分濃度40.2%の水性エマルジョンを得た。
また、得られた水性エマルジョン中の共重合体のガラス転移温度(計算値)は50℃、水性エマルジョンのMFTは54℃であった。
次に、得られた水性エマルジョンを用いて実施例1と同様の操作を行い、転写箔を得た。
【0077】
[実施例3]
モノマー(a1)としてアクリロニトリル20.1重量部、モノマー(a2)としてメタクリル酸tert−ブチル120.3重量部、モノマー(a4)としてスチレン20.1重量部、その他モノマーとしてメタクリル酸メチル140.8重量部、アクリル酸4.0重量部、アクリル酸−2−エチルヘキシル91.8重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート4.0重量部を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、pH9.0、不揮発分濃度40.1%の水性エマルジョンを得た。
また、得られた水性エマルジョン中の共重合体のガラス転移温度(計算値)は50℃、水性エマルジョンの最低成膜温度は54℃であった。
次に、得られた水性エマルジョンを用いて実施例1と同様の操作を、行い転写箔を得た。
【0078】
[実施例4]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水366.8部とアニオン系反応性乳化剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬社製)1.6重量部とを仕込んだ。
【0079】
次に、モノマー(a1)としてアクリロニトリル20.1重量部、モノマー(a2)としてメタクリル酸tert−ブチル120.3重量部、モノマー(a3)としてメタクリル酸グリシジル4.0重量部、モノマー(a4)としてスチレン20.1重量部、その他モノマーとしてメタクリル酸メチル137.5重量部、アクリル酸4.0重量部、アクリル酸−2−エチルヘキシル91.0重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート4.0重量部、また連鎖移動剤としてメルカプトプロピオン酸誘導体である2−エチルヘキシル−3−メルカプトプロピオネート0.8重量部、イオン交換水221.3重量部、及びアニオン系反応性乳化剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬社製)2.4重量部をあらかじめ上記反応容器とは別の混合用の容器中で混合しておき、そのプレエマルジョンのうちの5%をさらに反応容器に加えた。
【0080】
内温を80℃に昇温し十分に窒素置換した後、熱分解型水溶性重合開始剤として過硫酸カリウムの5%水溶液4.0部を添加し重合を開始した。
【0081】
反応系内を80℃で5分間保持した後、内温を80℃に保ちながらプレエマルジョンの残りを3時間かけて滴下し、更に3時間攪拌を継続した。なお乳化重合中重合反応液のpHは3.0に保った。反応終了後、温度を30℃まで冷却し、25%アンモニア水を2.1重量部添加して、pHを9.0とし、不揮発分濃度40.1%の水性エマルジョンを得た。
尚、得られた水性エマルジョン中の共重合体のガラス転移温度(計算値)は50℃、水性エマルジョンの最低成膜温度は51℃であった。
次に、得られた水性エマルジョンを用いて実施例1と同様の操作を行い、転写箔を得た。
【0082】
[実施例5]
実施例1で得られた水性エマルジョンに、平均粒子径が5.0μmのシリカ微粒子をエマルジョン100重量部に対して5重量部添加したものを接着剤とした以外は実施例1と同様の操作を行い、転写箔を得た。
尚、シリカ微粒子含有接着剤の最低成膜温度は60℃であった。
【0083】
[実施例6]
実施例1で得られた水性エマルジョンを絵柄層の上に塗工し、30℃で約1分予備乾燥した後、150℃で約2分間本乾燥を行い、ひびが入らないように均一な接着層を形成した以外は実施例1と同様の操作を行い、転写箔を得た。
【0084】
[実施例7]
実施例1で得られた水性エマルジョンを絵柄層の上に塗工し、乾燥する際に予備乾燥なしで120℃約1分間本乾燥したものを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、転写箔を得た。
【0085】
[実施例8]
(a1)としてアクリロニトリル20.1重量部、モノマー(a2)としてメタクリル酸tert−ブチル120.3重量部、その他モノマーとしてメタクリル酸メチル160.4重量部、アクリル酸4.0重量部、アクリル酸−2−エチルヘキシル92.2重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート4.0重量部を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、pH9.0、不揮発分濃度40.2%の水性エマルジョンを得た。
尚、得られた水性エマルジョン中の共重合体のガラス転移温度(計算値)は50℃、水性エマルジョンの最低成膜温度は53℃であった。
次に、得られた水性エマルジョンを用いて実施例1と同様の操作を行い、転写箔を得た。
【0086】
[実施例9]
実施例4において、熱分解型水溶性重合開始剤として過硫酸カリウムの5%水溶液を16.0重量部にした以外は実施例1と同様の操作を行い、pH9.0、不揮発分濃度40.1%の水性エマルジョンを得た。
尚、得られた水性エマルジョン中の共重合体のガラス転移温度(計算値)は50℃、水性エマルジョンの最低成膜温度は51℃であった。
次に、得られた水性エマルジョンを用いて実施例1と同様の操作を行い、転写箔を得た。
【0087】
[実施例10]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水338.8部とアニオン系反応性乳化剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬社製)1.6重量部とを仕込んだ。
【0088】
次に、モノマー(a1)としてアクリロニトリル20.1重量部、モノマー(a2)としてメタクリル酸tert−ブチル120.3重量部、モノマー(a3)としてメタクリル酸グリシジル4.0重量部、モノマー(a4)としてスチレン20.1重量部、モノマー(a5)としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン4.0重量部、その他モノマーとしてメタクリル酸メチル134.7重量部、アクリル酸4.0重量部、アクリル酸−2−エチルヘキシル89.8重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート4.0重量部、イオン交換水199.0重量部、及びアニオン系反応性乳化剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬社製)2.4重量部をあらかじめ上記反応容器とは別の混合用の容器中で混合しておき、得られたプレエマルジョンのうちの5%をさらに反応容器に加えた。
【0089】
内温を70℃に昇温し十分に窒素置換した後、酸化剤としてtert−ブチルハイドロパーオキサイドの5%水溶液6.0部と還元剤としてイソアスコルビン酸ナトリウムの1%水溶液14.7重量部を添加し重合を開始した。
【0090】
反応系内を70℃で5分間保持した後、内温を70℃に保ちながらプレエマルジョンの残りとtert−ブチルハイドロパーオキサイドの5%水溶液9.8部とイソアスコルビン酸ナトリウムの1%水溶液24.6重量部を3時間かけて滴下し、更に3時間攪拌を継続した。なお乳化重合中重合反応液のpHは3.0に保った。反応終了後、温度を30℃まで冷却し、25%アンモニア水を2.1重量部添加して、pHを9.1とし、不揮発分濃度40.3%の水性エマルジョンを得た。
尚、得られた水性エマルジョン中の共重合体のガラス転移温度(計算値)は50℃、水性エマルジョンのMFTは56℃であった。
【0091】
[比較例1]
モノマー(a2)としてメタクリル酸tert−ブチル120.3重量部、モノマー(a3)としてメタクリル酸グリシジル4.0重量部、モノマー(a4)としてスチレン20.1重量部、その他モノマーとしてメタクリル酸メチル157.2重量部、アクリル酸4.0重量部、アクリル酸−2−エチルヘキシル91.4重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート4.0重量部を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、pH9.1、不揮発分濃度40.3%の水性エマルジョンを得た。
尚、得られた水性エマルジョン中の共重合体のガラス転移温度(計算値)は50℃、水性エマルジョンの最低成膜温度は55℃であった。
次に、得られた水性エマルジョンを用いて実施例1と同様の操作を行い、転写箔を得た。
【0092】
[比較例2]
モノマー(a1)としてアクリロニトリル20.1重量部、モノマー(a3)としてメタクリル酸グリシジル4.0重量部、モノマー(a4)としてスチレン20.1重量部、その他モノマーとしてメタクリル酸メチル259.0重量部、アクリル酸4.0重量部、アクリル酸−2−エチルヘキシル89.8重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート4.0重量部を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、pH9.1、不揮発分濃度40.3%の水性エマルジョンを得た。
尚、得られた水性エマルジョンの共重合体のガラス転移温度(計算値)は50℃、水性エマルジョンの最低成膜温度は53℃であった。
次に、得られた水性エマルジョンを用いて実施例1と同様の操作を行い、転写箔を得た。
【0093】
(比較例3)
モノマー(a1)としてアクリロニトリル20.1重量部、モノマー(a2)としてメタクリル酸tert−ブチル120.3重量部、モノマー(a3)としてメタクリル酸グリシジル4.0重量部、モノマー(a4)としてスチレン20.1重量部、その他モノマーとしてメタクリル酸メチル208.1重量部、アクリル酸4.0重量部、アクリル酸−2−エチルヘキシル20.4重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート4.0重量部を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、pH9.2、不揮発分濃度40.2%の水性エマルジョンを得た。
尚、得られた水性エマルジョンの共重合体のガラス転移温度(計算値)は90℃、水性エマルジョンの最低成膜温度は90℃以上であった。
次に、得られた水性エマルジョンを用いて実施例1と同様の操作を行い転写箔を得た。
【0094】
[比較例4]
(a1)としてアクリロニトリル20.1重量部、モノマー(a2)としてメタクリル酸tert−ブチル120.3重量部、モノマー(a3)としてメタクリル酸グリシジル4.0重量部、モノマー(a4)としてスチレン20.1重量部、その他モノマーとしてメタクリル酸メチル34.0重量部、アクリル酸4.0重量部、アクリル酸−2−エチルヘキシル194.5重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート4.0重量部を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、pH9.1、不揮発分濃度40.1%の水性エマルジョンを得た。
尚、得られた水性エマルジョン中の共重合体のガラス転移温度(計算値)は5℃、水性エマルジョンの最低成膜温度は7℃であった。
次に、得られた水性エマルジョンを用いて実施例1と同様の操作を行い、転写箔を得た。
【0095】
[比較例5]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、酢酸エチル350.0部を仕込んだ。
次に、モノマー(a1)としてアクリロニトリル20.1重量部、モノマー(a2)としてメタクリル酸tert−ブチル120.3重量部、モノマー(a3)としてメタクリル酸グリシジル4.0重量部、モノマー(a4)としてスチレン20.1重量部、その他モノマーとしてメタクリル酸メチル137.5重量部、アクリル酸4.0重量部、アクリル酸−2−エチルヘキシル91.0重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート4.0重量部、酢酸エチル229.0重量部をあらかじめ上記反応容器とは別の混合用の容器中で混合しておき、得られたモノマー溶液のうちの5%をさらに反応容器に加えた。
【0096】
内温を80℃に昇温し十分に窒素置換した後、開始剤としてtert−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)8.0部を添加し重合を開始した。
反応系内を80℃で5分間保持した後、内温を80℃に保ちながらモノマー溶液の残りとtert−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)12.0部を3時間かけて滴下し、更に3時間攪拌を継続した。反応終了後、温度を30℃まで冷却し、不揮発分濃度41.5%の樹脂溶液を得た。
【0097】
次に、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に、剥離性調整剤を塗布、乾燥し、厚さ1μmの剥離性調整層を形成し、該剥離性調整層の上に絵柄層形成用インキを塗布、乾燥し、厚さ2μmの絵柄層を形成した。次いで、絵柄層上に得られた樹脂溶液を塗布し、30℃で約1分間、予備乾燥した後、80℃で約1分間本乾燥を行い、接着層を形成し、転写箔を得た。
【0098】
各実施例、各比較例で得た各転写箔を用い、転写箔の接着剤層を被転写体であるPVA紙に接触させ、基材シートであるポリエチレンテレフタレート側から、120℃に加熱した金型を1t、0.5秒間押し当てた。以下の方法に従って、接着剤層の評価をした。
1:転写性
金型に応じた転写層(剥離性調整層、絵柄層及び接着剤層)が被転写体上にむらなくきれいに転写出来ているかどうかで下記5段階評価を行った。
5:全くむらがない。
4:極わずかにむらが確認できる。
3:部分的にむらが確認できる。
2:一部に転写できない箇所が存在する。
1:転写できない。
【0099】
2:箔切れ性
被転写体上に転写された部分の周囲に余分な「箔ばり」がついているかいないかで下記5段階評価を行った。
5:箔ばりが確認できない。
4:極わずかに箔ばりが確認できる。
3:部分的に箔ばりが確認できる。
2:部分的に5mm以上の箔ばりが確認できる。
1:全面に5mm以上の箔ばりが確認できる。
【0100】
3:接着性
被転写体上に転写された部分に消しゴムでセロハンテープを圧着してから、90°剥離した時の状態で下記5段階評価を行った。
5.剥離が全く無く、絵柄の乱れ無し。
4.剥離が極わずか確認できるが、絵柄の乱れ無し。
3.剥離が一部確認でき、絵柄の乱れ一部有り。
2.剥離が多く確認でき、絵柄の乱れ一部有り。
1.剥離が全面に確認でき、絵柄の乱れが全面に有り。
【0101】
4:耐熱性
被転写体上に転写された部分に200℃アイロンを10秒間あてたときの状態で下記5段階評価を行った。
5.気泡、しわとも全く発生しない。
4.極わずかに気泡が確認できるがしわは発生しない。
3.一部に気泡としわが確認できる。
2.気泡が多く発生しているがしわの発生は一部。
1.全面に気泡としわが発生している。
【0102】
5:耐エタノール性
被転写体に転写された部分を25℃の99%エタノールに攪拌しながら1時間浸漬した後、試験前との試験後の状態で下記5段階評価を行った。
5.気泡、転写層の膨れが全くない。
4.気泡、転写層の膨れが極わずか確認できる。
3.一部に気泡、転写層の膨れが確認できる。
2.転写層が部分的になくなっている。
1.転写層が完全になくなっている。
【0103】
6:耐アルカリ性
被転写体に転写された部分を25℃の1%水酸化ナトリウム水溶液に攪拌しながら1時間浸漬した後、試験前との試験後の状態で下記5段階評価を行った。
5.気泡、転写層の膨れが全くない。
4.気泡、転写層の膨れが極わずか確認できる。
3.一部に気泡、転写層の膨れが確認できる。
2.転写層が部分的になくなっている。
1.転写層が完全になくなっている。
【0104】
7:耐テトラクロロエチレン性
被転写体に転写された部分をを25℃のテトラクロロエチレンに攪拌しながら1時間浸漬した後、試験前との試験後の状態で下記5段階評価を行った。
5.気泡、転写層の膨れが全くない。
4.気泡、転写層の膨れが極わずか確認できる。
3.一部に気泡、転写層の膨れが確認できる。
2.転写層が部分的になくなっている。
1.転写層が完全になくなっている。
【0105】
8:耐温水白化性
被転写体に転写された部分を90℃の温水に攪拌しながら1時間浸漬した後、試験前との試験後の状態で下記5段階評価を行った。
5.白化、光沢の低下が全くない。
4.極薄く白化が確認できるが光沢は低下していない。
3.一部に薄い白化が確認できる。
2.全面に白化が確認できる。
1.全面に白化して箔の表面がマットになっている。
【0106】
【表1】

【0107】
AN:アクリロニトリル
t-BMA:tert−ブチルメタクリレート
GMA:メタクリル酸グリシジル
St:スチレン
【0108】
実施例に示すように、(メタ)アクリロニトリル(a1)及び(メタ)アクリル酸−tert−アルキルエステル(a2)を必須成分とするラジカル重合性不飽和モノマー(A)を、重合開始剤を用いて、水性媒体中で重合してなる、ガラス転移温度が10〜80℃のアクリル系共重合体を含有するエマルジョン型感熱転写性接着剤から形成される感熱転写性箔は、転写時の転写性、箔切れ性に優れ、転写後の転写層の接着性、耐熱性、各種溶剤耐性、及び耐熱水性に優れる。
【0109】
一方、比較例に示すように、上記発明特定事項のいずれか1つでも欠くと、感熱転写性箔に対する要求性能を満足させることはできない。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の感熱転写性箔の一態様を示す模式的断面図。
【図2】本発明の感熱転写性箔の他の態様を示す模式的断面図。
【図3】本発明の感熱転写性箔の他の態様を示す模式的断面図。
【図4】図1に示す態様の感熱転写性箔を被転写体に接触させた態様を示す模式的断面図。
【図5】図1に示す態様の感熱転写性箔の一部を被転写体に転写させる際の転写状態を示す模式的断面図。
【図6】図2に示す態様の感熱転写性箔の一部を被転写体に転写させる際の転写状態を示す模式的断面図。
【図7】図3に示す態様の感熱転写性箔の一部を被転写体に転写させる際の転写状態を示す模式的断面図。
【図8】接着剤層のひび割れ状態の一例を顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0111】
1:感熱転写性箔
2:基材シート
3:絵柄層
4:感熱転写性接着剤層
5:剥離性調整層
6:アンカー層
7:被転写体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化ビニル系モノマー(a1)及び(メタ)アクリル酸−tert−アルキルエステル(a2)を必須成分とするラジカル重合性不飽和モノマー(A)を、重合開始剤を用いて、水性媒体中で重合してなる、ガラス転移温度が10〜80℃のアクリル系共重合体を含有するエマルジョン型感熱転写性接着剤。
【請求項2】
シアン化ビニル系モノマー(a1)、(メタ)アクリル酸−tert−アルキルエステル(a2)及びアルコキシシリル基を有するラジカル重合性不飽和モノマー(a5)を必須成分とするラジカル重合性不飽和モノマー(A)であって、アルコキシシリル基を有するラジカル重合性不飽和モノマー(a5)以外のモノマーから求められるアクリル系共重合体のガラス転移温度が10〜80℃となり得る、ラジカル重合性不飽和モノマー(A)を、重合開始剤を用いて、水性媒体中で重合してなる、アクリル系共重合体を含有するエマルジョン型感熱転写性接着剤。
【請求項3】
ラジカル重合性不飽和モノマー(A)が、エポキシ基を有するラジカル重合性不飽和モノマー(a3)又は芳香族系ラジカル重合性不飽和モノマー(a4)の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項1又は2記載のエマルジョン型感熱転写性接着剤。
【請求項4】
重合開始剤が、酸化剤と還元剤とからなるレッドクス系重合開始剤であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載のエマルジョン型感熱転写性接着剤。
【請求項5】
重合開始剤が、熱分解系水溶性開始剤であり、ラジカル重合性不飽和モノマー(A)100重量部に対して、0.1重量部以下であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載のエマルジョン型感熱転写性接着剤。
【請求項6】
有機粒子及び/又は無機粒子をさらに含有することを特徴とする請求項1ないし5いずれか記載のエマルジョン型感熱転写性接着剤。
【請求項7】
基材シート上に絵柄層及び請求項1ないし6いずれか記載のエマルジョン型感熱転写性接着剤から形成される感熱転写性接着剤層が積層されてなる感熱転写性箔。
【請求項8】
感熱転写性接着剤層の表面がひび割れていることを特徴とする請求項7記載の感熱転写性箔。
【請求項9】
基材シートと絵柄層との間に剥離性調整層が設けられていることを特徴とする請求項7又は8記載の感熱転写性箔。
【請求項10】
絵柄層と感熱転写性接着剤層との間にアンカー層が設けられていることを特徴とする請求項7ないし9いずれか記載の感熱転写性箔。
【請求項11】
絵柄層もしくはアンカー層上に感熱転写性接着剤を塗布し、該感熱転写性接着剤の最低造膜温度以下の温度で予備乾燥した後に、80℃以上で本乾燥し、感熱転写性接着剤層を形成することを特徴とする請求項7ないし10いずれか記載の感熱転写性箔の製造方法。
【請求項12】
請求項7ないし10いずれか記載の感熱転写性箔の感熱転写性接着剤層を被転写体に接触させ、前記感熱転写性箔の基材シート側から加熱し、該加熱部分の少なくとも絵柄層と感熱転写性接着剤層とを被転写体に転移させることを特徴とする感熱転写方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−16513(P2006−16513A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196380(P2004−196380)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】