説明

ガラス管成形方法及び成形装置

【課題】芯金を極度に加熱することなく、ガラス管を加熱してテーパ形状に成形する。
【解決手段】ホウケイ酸ガラスから成り底部を封止したガラス管3内に、下端を細径としたテーパ状の芯金4を挿入する。また、ガラス管3の底部には、第2の芯金として円柱金属体7を予め挿入しておく。ガラス管3を加熱炉1内に挿入し、カーボンヒータ2に通電してカーボンヒータ2の温度を上昇させる。ホウケイ酸ガラスの主たる吸収波長帯は3μm以上であり、放射強度ピークが5μm程度にあるカーボンヒータ2を用いると、カーボンヒータ2からの輻射熱による投入エネルギの7割以上がガラス管3により吸収されるため、ガラス管3は効率良く加熱される。ガラス管3が軟化温度に至るとガラス管3内を減圧して、ガラス管3を芯金に密着させてテーパガラス管を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば面積流量計に使用するテーパ管を成形するガラス管成形方法及び成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
面積流量計で使用する管体は、流体が流れる上方向に径が拡大するテーパ管が用いられている。一般に、ガラスのテーパ管を得るためには、特許文献1に開示されているように、直管のガラス管を加熱源のガスバーナで加熱し、軟化したガラス管に対し治具を用いて所定のテーパ形状にしている。
【0003】
しかし、ガラス管を軟化させるには、専門の技能者がガスバーナの火炎をガラス管に吹き付けることが必要である。バーナの火炎は1500〜2000℃程度の高温となるので、成形時においては炎の当て方が難しく、炎の大きさや空気、酸素と可燃ガスとの混合比率、炎の角度などの適正化など豊富な経験が必要となる。
【0004】
従って、品質が技能者の技能に依存することとなり、成型品の品質や形状にばらつきが生ずることが避けられない。また、火炎による加熱のため、投入する熱量に損失が大きく、高熱作業となり作業環境は常に高温に晒されて劣悪であり、後継者の育成も困難となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−272250号公報
【特許文献2】特開平8−26753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2には、バーナを用いずに電気炉によりガラス管を加工することが開示されている。特許文献2はガラスセルの製造に関するものであり、ガラス管内に所定形状の中金を挿入し、加熱によりガラス管を軟化し、ガラス管を外側から中金に押圧して成型している。
【0007】
しかし、一般のニクロム線ヒータ、ハロゲンヒータを使用する電気炉による加熱では、断熱構造を採用し温度制御も容易となるが、後述するようにヒータが発する輻射熱の大くはガラスを透過してしまうため、ガラス管加熱の熱効率が悪い。
【0008】
更に、ガラス管を透過した輻射熱が、ガラス管よりも先に芯金を必要以上に加熱してしまうため、高温の芯金に接触したガラス表面の性状が品質に影響したり、芯金の寿命を短くしてしまうなどの問題もある。
【0009】
本発明の目的は、上述の問題点を解消し、芯金を極度に加熱することなく、ガラス管を好適に成形可能なガラス管成形方法及び成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係るガラス管成形方法は、底部を封止したガラス管内に所定の成形すべき形状の芯金を挿入し、前記ガラス管の波長透過特性において透過率が低い波長の輻射エネルギを多く発する電熱ヒータにより前記ガラス管を加熱し、前記ガラス管の軟化温度以上においてガラス管内を減圧して前記ガラス管を前記芯金に密着させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るガラス管成形装置は、底部を封止したガラス管内に所定の成形すべき形状の芯金を挿入し、電熱ヒータにより前記ガラス管を加熱し、前記ガラス管の軟化温度以上においてガラス管内を減圧して前記ガラス管を前記芯金に密着させるガラス管成形装置において、前記電熱ヒータは前記ガラス管の透過吸収特性において透過率が低い波長の輻射エネルギを多く発することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るガラス管成形方法及び成形装置によれば、芯金を異常高温することなく、ガラス管を電熱ヒータの輻射熱で加熱して、軟化温度に上昇したところで成形するので、ガラス表面の仕上がりも良好となり、芯金の延命効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例のガラス管成形装置の構成図である。
【図2】ホウケイ酸ガラスの透過スペクトル特性図である。
【図3】ヒータの放射強度スペクトル特性図である。
【図4】芯金の横断面図である。
【図5】成形時の芯金、ガラス管等の時間に対する温度経過のグラフ図である。
【図6】ガラス管が芯金に密着した状態の縦断面図である。
【図7】成形で得られたガラステーパ管の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
図1はガラス管をテーパ管に成形する成形装置の構成図を示し、加熱炉1の上部中心部には開口部1aが設けられている。加熱炉1内には、コイル状に巻回されたカーボンヒータ2が配置され、開口部1aから挿入された被加熱物であるガラス管は、カーボンヒータ2により囲まれるようになっている。カーボンヒータ2は例えば石英管中にカーボン繊維の撚線が挿通されており、不溶性ガスが充填され密閉されている。
【0015】
加熱炉1の開口部1aは、種々の径のガラス管に対応するために大き目に造られており、例えば内径25mm程度とされ、またコイル状のカーボンヒータ2の内径は、遠隔的に輻射エネルギをガラス管3に加えるために、更に大きくされている。開口部1aから加熱炉1の内部に加工すべきガラス管3に芯金4を挿入し、図示しないハンド手段により挿入され、所定の高さ位置に固定できるようになっている。
【0016】
カーボンヒータ2のカーボン繊維には、温度制御装置5の電源から通電できるようにされており、カーボンヒータ2の近傍に配置された放射温度計、熱電対温度計などの温度センサ6を用いて、加熱炉1内の温度制御が可能とされている。
【0017】
図1において、ホウケイ酸ガラスから成り、底部を封止したガラス管3内に、下端を細径としたテーパ状の耐熱鋼やSUSから成る芯金4を挿入する。なお、この芯金4の挿入に先立ち、ガラス管3の底部には、好ましくは芯金4と同材質でガラス管3の内径に近似する第2の芯金としての円柱金属体7を予め挿入しておく。
【0018】
また、成形したテーパ管内の中心軸に沿って、流量測定のためのフロートが円滑に上下動するように、テーパ管内には複数条、例えば3条のリブを上下方向に形成することが望ましい。フロートの外径がリブに接しながら、或いはフロートに設けた切込みにリブが係合しながら、フロートが円滑に上下動することが必要となる。
【0019】
従って、芯金4の断面形状は図4に示すように、リブを形成するための切欠部4aが形成されている。なお、リブはテーパ管の上下方向の位置に拘らず同じ内接円である必要から、芯金4の切欠部4aの深さは芯金4のテーパが細くなる位置ほど浅くされている。
【0020】
このように、芯金4、円柱金属体7を内部にセットしたガラス管3を加熱炉1内にハンド手段により挿入して、ガラス管3の底部を加熱炉1内の固定部に載置するなどして位置決めし、カーボンヒータ2に通電してカーボンヒータ2の温度を上昇させる。
【0021】
図2は加工するガラス管3の材料であるホウケイ酸ガラス(商品名:パイレックス(登録商標))の波長に対する透過スペクトル特性図であり、3μm以上の波長においては、輻射エネルギはホウケイ酸ガラスに殆ど透過することなく吸収されて、ガラスの加熱に寄与される。
【0022】
図3の実線はカーボンヒータ2が発する熱線の輻射エネルギの強度スペクトル特性図であり、カーボンヒータ2は波長5μm程度にピーク値を有しているために、多くはガラス管3に吸収される。
【0023】
また、ハロゲンヒータは波長5μm以下の輻射エネルギが発するため、多くはガラス管3を透過し、ガラス管3を加熱することなく内部の芯金4を加熱してしまう。更に、ニクロム線ヒータはハロゲンヒータほどではないが、ホウケイ酸ガラスを透過する波長帯が大きく存在するので、この場合も投入エネルギの5割以上が芯金4の加熱に使われてしまう。
【0024】
上述したように、ホウケイ酸ガラスの主たる吸収波長帯は3μm以上であり、放射強度ピークが5μm程度にあるカーボンヒータ2を用いると、カーボンヒータ2からの輻射熱による投入エネルギの7割以上がガラス管3により吸収されるため、芯金4も通過した波長帯により昇温されるが、ガラス管3はより効率良く短時間で加熱される。
【0025】
図5は成形時の芯金4、ガラス管3の時間(秒)に対する温度通過のグラフ図を示し、各部位に温度センサを取り付けて測温した例である。ガラス管3は芯金4とほぼ同程度で上昇し、ガラス管3は温度が850℃程度になると軟化点に至る。なお、このグラフ図は実験例であり、実際にはカーボンヒータ2はガラス管3ごとに常温から立ち上げる必要はないが、ガラス管3を常温から急激に昇温すると、ガラス管3にクラックが発生し易いので、従って、ガラス管3は予備加熱を行うか、加熱炉1を数100℃程度に保持しておいて、ガラス管3を徐々に加熱することが好ましい。
【0026】
加熱炉1において、ガラス管3が軟化点に達成したことを測温又は視覚により確認すると、ガラス管3の上部に連絡した図示しない配管により、ガラス管3の内部の真空引きを始める。この真空引きによる減圧によってガラス管3内の空気は抜かれ、図6に示すように軟化したガラス管3は円形方向に縮小して、芯金4、円柱金属体7の周囲に密着し、ガラス管3は芯金4の形状通りの所定のテーパ状に成形される。
【0027】
ガラス管3の加熱に際して、芯金4も或る程度の温度に加熱されることで、ガラス管3が芯金4に大きく熱を奪われることもなく、また芯金4から大きな熱を与えられることもなく、ガラス管3の成形上好ましい。また、芯金4の熱膨張による変形も所定範囲となり、精度の良い成形が可能となり、芯金4の寿命も延びることになる。
【0028】
テーパ管に成形した後に、ハンド手段によりガラス管3、芯金4を加熱炉1から取り出し、自然冷却又はガス吹付による強制冷却後に、ガラス管3の下部の円柱金属体7の周囲を図6の点線で示すようにリング状に切断する。
【0029】
これにより、ガラス管3の底部を取り外し、ガラス管3の上下両端から芯金4、円柱金属体7をそれぞれ引き抜くと、図7に示すようなガラステーパ管8が得られる。このガラステーパ管8の上端及び下端の円筒部8a、8bを用いて、面積流量計に組込むことになる。
【0030】
なお、実施例では加熱炉1に対しガラス管3を上下動してハンド手段により出し入れするようにしているが、固定のガラス管3、芯金4に対し、加熱炉1が上下動するようにしてもよい。また、ガラス管3の成形後に、芯金4を分解することができれば、段部を有する形状であっても、成形後に芯金4をガラス管3から抜き取ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の実施例はガラス管3をテーパ管に成形することを説明したが、テーパ管に限ることなく、他の形状に成形することもできる。
【符号の説明】
【0032】
1 加熱炉
2 カーボンヒータ
3 ガラス管
4 芯金
5 温度制御装置
6 温度センサ
7 円柱金属体
8 ガラステーパ管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部を封止したガラス管内に所定の成形すべき形状の芯金を挿入し、前記ガラス管の波長透過特性において透過率が低い波長の輻射エネルギを多く発する電熱ヒータにより前記ガラス管を加熱し、前記ガラス管の軟化温度以上においてガラス管内を減圧して前記ガラス管を前記芯金に密着させることを特徴とするガラス管成形方法。
【請求項2】
前記ガラス管はホウケイ酸ガラスから成り、前記ヒータはカーボンヒータとしたことを特徴とする請求項1に記載のガラス管成形方法。
【請求項3】
前記芯金はテーパ形状としたことを特徴とする請求項1に記載のガラス管成形方法。
【請求項4】
前記芯金は分離可能な円柱形の第2の芯金と組合わせたことを特徴とする請求項1に記載のガラス管成形方法。
【請求項5】
底部を封止したガラス管内に所定の成形すべき形状の芯金を挿入し、電熱ヒータにより前記ガラス管を加熱し、前記ガラス管の軟化温度以上においてガラス管内を減圧して前記ガラス管を前記芯金に密着させるガラス管成形装置において、前記電熱ヒータは前記ガラス管の透過吸収特性において透過率が低い波長の輻射エネルギを多く発することを特徴とするガラス管成形装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−248048(P2010−248048A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101913(P2009−101913)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(390026996)東京計装株式会社 (57)
【出願人】(504133110)国立大学法人電気通信大学 (383)
【出願人】(803000045)株式会社キャンパスクリエイト (41)
【Fターム(参考)】