説明

クッション材

【課題】褥瘡発生要因のひとつであるずれ力を緩和する性能が高く、座り心地が良好で、スリングシートによるたわみの影響を受けにくく、座位姿勢保持に効果的であるクッション材を提供する。
【解決手段】シリコーン成分を含む重合体の成形体である部材の着座面とは反対側に、厚さが1mm以上60mm以下であり、幅が200mm以上380mm以下であることを特徴とする部材を積層し、少なくとも2層以上であることを特徴とするクッション材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、褥瘡防止効果に優れたクッション材に関する。詳しくは、褥瘡の原因のひとつとして注目されているずれ力を緩和する性能を持ち、座り心地が良好であり、車いすのスリングシートによる影響を受けにくく座位姿勢保持に効果のあるクッション材に関する。
【背景技術】
【0002】
車いすは一般的には歩行の困難な人や重度障害者の移動用具として用いられており、高齢者では移動時間よりも座る時間が長いという状況がある。運搬や、保管場所の点から、使用しないときには折りたたむことができるスリングシート車いすが多く用いられているが、身体機能や体幹筋力が低下した人がスリングシート車いすに着座すると、骨盤の過度の後傾により、一般に仙骨すわり、すべり座りと呼ばれる骨盤の後傾した座り方になることが知られている。
【0003】
この様に骨盤が後傾した状態で座る人はもともと体幹筋力が低下しているため、背支持から上体を起こした姿勢をとることが難しく、その結果、骨盤が後傾した状態で座っていると、例えば食事時にはテーブルから離れた位置で食事をすることになるので、視覚的に食事の中身を理解できないことや、上肢動作が行いにくいことから、食事摂取の自立度が低くなりやすいと言われている。また、すべり座りの状態での座位は、消化、排泄、咀嚼、嚥下、呼吸、咳などに影響するため、疲労が増加するとも言われている(非特許文献1)。
【0004】
このように、スリングシートは座位を維持するに当たって、身体に大きな影響を与えると考えられる(非特許文献2)。
【0005】
寝たきりなどの臥位で生じることが知られている褥瘡(床ずれ)の要因としては、皮膚表面に対して垂直な力である圧縮応力、皮膚表面のずれにより発生するせん断応力(この力をずれ力と定義する)、身体の内部において引っ張られることにより発生する引張応力、の3つが知られている。
【0006】
車いすでの座位姿勢は臥位に比べて体重を受ける面積が小さく、臀部に応力が集中する。特に座位では姿勢によって坐骨結節部や仙骨、特にすべり座りでは、仙骨部に荷重が集中するため、当該箇所に大きな圧縮圧力がかかる。また、座位姿勢の悪化や座り直し、足こぎなどによって、臥位よりも大きなずれ力がかかる。
【0007】
以上のことから、車いすで長時間の座位姿勢をとる場合に褥瘡が発生する可能性が指摘されている。
【0008】
このため、座位姿勢保持や褥瘡予防を目的として、エアークッション、ウレタン発泡体、ゲル状物等を用いた車いすクッション材が使用される場合がある。エアークッション材は体圧分散性に優れているが座位姿勢保持性能が低いという問題点がある。また、ウレタン発泡体からなるクッション材は、一定水準の体圧分散性を有するが、先述のずれ力緩和機能が低い。一方、ゲル状物からなるクッション材は、ずれ力緩和性能が高いと言われているが、体圧分散性能が低いと言われている。これに対して、体圧分散性能とずれ力緩和性能を両立するクッション材として、軟質ポリウレタン発泡体の一種であるゲル状構造を有する低反発ウレタン発泡体からなるクッション材が提案されている(特許文献1、2)。一般的には、体圧分散性とは最大接触圧と接触面積で評価される性能を指している。
【0009】
また、アンカーの形状を規定し、ずれ力緩和性能を保持し、着座姿勢が崩れにくいクッション材が提案されている(特許文献3)。しかし、実際の着座のように圧縮応力印加後において、ずれ力緩和性能が高いとは言えない。
【0010】
以上、ずれ力を緩和する性能を有し、座り心地が良好で車いすに着座しても座位姿勢保持性に効果のあるクッション材の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−51067号公報
【特許文献2】特開2006−188629号公報
【特許文献3】特開2009−000406号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Rader J, Jones D, Miller L: The importance of individualizedwheelchair seating for frail older adults. J Gerontol Nus 26: 24-42, 2000
【非特許文献2】廣瀬秀行、木之瀬隆:「高齢者のシーティング」三輪書店2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、褥瘡発生要因のひとつであるずれ力を緩和する性能が高く、座り心地が良好であり、座位姿勢保持に効果のあるクッション材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題の解決のため鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。即ち、本発明以下の構成を有するものである。
【0015】
1). シリコーン成分を含む重合体の成形体である部材(2)の着座面とは反対側に、部材(2)より幅が小さい部材(1)を積層したことを特徴とする少なくとも2層以上であることを特徴とするクッション材。
【0016】
2). 部材(1)が、厚さ1mm以上60mm以下、幅200mm以上380mm以下であることを特徴とする1)記載のクッション材。
【0017】
3). 部材(1)が、繊維、海綿、樹脂成形体およびゴムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする1)または2)記載のクッション材。
【0018】
4). 部材(2)が、分子鎖中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有する硬化剤(A)、分子鎖中に少なくとも1個のアルケニル基を有し主鎖を構成する繰返し単位が飽和炭化水素系単位、または、分子鎖中に少なくとも1個のアルケニル基を有し主鎖を構成する繰返し単位がオキシアルキレン系単位からなる重合体(B)、ヒドロシリル化触媒(C)、および発泡剤(D)を含んでなる発泡成形体であることを特徴とする1)〜3)いずれかに記載のクッション材。
【0019】
5). 重合体(B)が、数平均分子量が10000以上の重合体であることを特徴とする4)記載の発泡成形体を用いたクッション材。
【0020】
6). 部材(1)と部材(2)の間に繊維、海綿、軟質成形体、発泡成形体および軟質ゴムから選ばれる少なくとも1種の部材(3)を積層させたことを特徴とする1)〜5)いずれかに記載のクッション材。
【0021】
7). 部材(1)および、または、部材(3)が傾斜構造となっていることを特徴とする6)に記載のクッション材。
【0022】
8). 全体の厚さが15mm以上140mm以下であることを特徴とする1)〜7)いずれかに記載のクッション材。
【0023】
9). 車いす用であることを特徴とする1)〜8)いずれかに記載のクッション材。
【発明の効果】
【0024】
本発明のクッション材は、ずれ力緩和性能に優れ、底づき感がなく、座り心地が良好であり、座位姿勢保持に効果があり、褥瘡を予防することができ、車いす用クッションとして有用である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
【0026】
部材(1)について
本発明のクッション材における部材(1)は、後述する部材(2)の着座面と反対側に配置するもので、幅が部材(2)より小さいものである。部材(1)は、厚さが1mm以上60mm以下が好ましく、さらには5mm以上50mm以下が好ましい。また、車いすのクッションとして用いる場合には前述した厚さに加えて、10mm以上45mm以下であることが好ましい。
【0027】
幅は部材(1)の着座面側に設けている部材(2)より小さいものであるが、200mm以上380mm以下、さらには250mm以上380mm以下が好ましい。また、車いすのクッションとして用いる場合には前述した大きさに加えて、座位姿勢保持に効果的であることから280mm以上370mm以下であることが好ましい。
【0028】
部材(1)は部材(2)より幅が小さければよいが、部材(2)の横幅と比べた部材(1)の横幅の大きさをあえて例示すれば、上述した好ましい幅およびまたは、部材(1)の横幅は部材(2)の横幅より5mm以上50mm以下、さらには10mm以上45mm以下、特には15mm以上40mm以下の範囲で小さいことが好ましい。部材(1)は部材(2)の幅方向の略中央部に積層してクッション材とすることが好ましい。
【0029】
また、本発明のクッション材における部材(1)の着座面側と、着座面と反対側の幅は同じでもよいし、同じでなくてもよい。例えば、着座面と反対側の幅が小さく、着座面側の幅が大きい場合やその反対でもかまわない、また着座面と反対側の端と着座面の端を結ぶ線が円弧形であってもかまわない。ここで、部材(1)の厚さとは、例えば円弧である場合、最大の部分のことを示す。
【0030】
なお、奥行き寸法は特に限定はないが部材(2)と同じ大きさであることが好ましい。奥行き寸法をあえて例示するなら、330mm以上480mm以下、さらには350mm以上450mm以下が、特には360mm以上430mm以下をあげることができる。また、背面方向(後部)の形状は、直線だけでなく、台形、円弧などであってもよい。この場合の奥行きとは、最大の部分のことを示す。
【0031】
部材(2)について
本発明のクッション材において、部材(1)よりも着座面側に位置する部材(2)に用いる素材は、物性の観点から、シリコーン成分を含む重合体を基材樹脂とするものであるが、さらに好ましくは、シリコーン系重合体を基材樹脂とするクッション材である。
【0032】
部材(1)に用いる素材としては、繊維、(各種天然繊維、各種合成繊維)、海綿、プラスチック、ゴムをあげることができる。これらのうち、取り扱い性の観点から、プラスチックの成形体が好ましく、中でも発泡体すなわち発泡成形体が好ましい。発泡成形体としては、ポリウレタン発泡体、ポリオレフィン発泡体、ポリスチレン発泡体の成形体を用いることが出来る。なお、発泡気泡形態としては、独立気泡や連続気泡のいずれでもかまわない。
【0033】
部材(2)の素材に用いるシリコーン系成分を含む重合体は、分子骨格中にシロキサン単位を有した樹脂を用いることが出来る。分子骨格中にシロキサン単位を有した樹脂としては例えば、ヒドロシリル基を有する化合物とアルケニル基を有する化合物とヒドロシリル化触媒を含んでなる樹脂組成物を硬化してなる樹脂が、成形性や機械物性などの諸物性のバランスに優れることから好ましい。
【0034】
より好ましくは、「分子鎖中に平均して少なくとも2個のヒドロシリル基を有する硬化剤(A)」、「分子鎖中に少なくとも平均して1個のアルケニル基を有する重合体(B)」および「ヒドロシリル化触媒(C)」を含んでなる樹脂組成物を硬化させたものであることが好ましい。この場合、重合体(B)としては主鎖を構成する繰返し単位が飽和炭化水素系単位、または、オキシアルキレン系単位からなる重合体を用いることが好ましい。
【0035】
「分子鎖中に平均して少なくとも2個のヒドロシリル基を有する硬化剤(A)」(以下、単に、硬化剤(A)と称す場合がある)は、「分子鎖中に少なくとも平均して1個のアルケニル基を有する重合体(B)」(以下、単に、重合体(B)と称す場合がある)の硬化剤として作用する。
【0036】
硬化剤(A)は、分子鎖中には平均して少なくとも2個のヒドロシリル基を有する化合物を用いることが好ましいが、より好ましくは2個以上80個以下、さらに好ましくは2個以上60個以下、特に好ましくは3個以上50個以下のヒドロシリル基を有する化合物を用いることが好ましい。硬化剤(A)のヒドロシリル基が重合体(B)に存在するアルケニル基と反応して硬化する。
【0037】
分子鎖中のヒドロシリル基の数が少ないと、樹脂組成物をヒドロシリル化反応により硬化させる場合の硬化速度が遅くなり、硬化不良を起こす場合がある。また、分子鎖中のヒドロシリル基の個数が多くなると、硬化剤(A)の安定性、即ち樹脂組成物の安定性が悪くなり、その上、硬化後も多量のヒドロシリル基が硬化した樹脂組成物中に残存しやすくなり、クラックの原因となる場合がある。
【0038】
硬化剤(A)の分子量は、成形性などの点から、数平均分子量(Mn)で30000以下であることが好ましく、20000以下、15000以下であることがより好ましい。重合体(B)との反応性や相溶性まで考慮すると、300〜10000が特に好ましい。
【0039】
硬化剤(A)としては例えば、炭化水素系硬化剤やポリシロキサン系硬化剤が例示できる。
【0040】
炭化水素系硬化剤としては、
一般式(1):R
(式中、Xは少なくとも1個のヒドロシリル基を含む基、Rは炭素数2〜150の1〜4価の炭化水素基、aは1〜4から選ばれる整数、ただし、Xに1個のヒドロシリル基しか含まれない場合、aは2〜4から選ばれる整数)
をあげることができる。
【0041】
ポリシロキサン系硬化剤としては、化1〜3に示すような鎖状、環状のポリオルガノハイドロジェンシロキサン(ポリオキシアルキレン変性体、スチレン類変性体、オレフィン変性体などを含む)が挙げられる。
【0042】
【化1】

【0043】
(m、nは整数、2≦m+n≦50、2≦m、0≦n、Rはメチル基、分子量が100〜10,000のポリオキシアルキレン基または炭素数2〜20の炭化水素基で1個以上のフェニル基を含有していてもよい。Rが複数個含まれる場合、これらは同じである必要はない。)
【0044】
【化2】

【0045】
(m、nは整数、2≦m+n≦50、0≦m、0≦n、Rはメチル基、分子量が100〜10,000のポリオキシアルキレン基または炭素数2〜20の炭化水素基で1個以上のフェニル基を含有していてもよい。Rが複数個含まれる場合、これらは同じである必要はない。)
【0046】
【化3】

【0047】
(m、nは整数、3≦m+n≦20、2≦m≦19、0≦n≦18、Rはメチル基、分子量が100〜10,000のポリオキシアルキレン基または炭素数2〜20の炭化水素基で1個以上のフェニル基を含有していてもよい。Rが複数個含まれる場合、これらは同じである必要はない。) 重合体(B)との相溶性確保と、ヒドロシリル基量の調整のために、オルガノハイドロジェンポリシロキサンをα−オレフィン、スチレン、α−メチルスチレン、アリルアルキルエーテル、アリルアルキルエステル、アリルフェニルエーテル、アリルフェニルエステル等により変性した化合物が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本発明における重合体(B)は、分子鎖中に平均して少なくとも1個のアルケニル基を有する化合物であれば、特に限定するものでは無いが、数平均分子量が10000以上の重合体が好適に使用される。重合体(B)は、硬化剤(A)とヒドロシリル化反応して硬化する成分であり、分子鎖中に少なくとも1個のアルケニル基を有するため、ヒドロシリル化反応が起こって高分子状となり、硬化する。重合体(B)に含まれるアルケニル基の数は、硬化剤(A)とヒドロシリル化反応するという点から少なくとも平均して1個以上、10個未満であることが好ましい。硬化後の硬さの観点から、重合体Bに含まれるアルケニル基の数は、少なくとも平均して1個以上、5個未満であることがさらに好ましい。
【0049】
本発明のヒドロシリル化触媒(C)としては、ヒドロシリル化触媒として働くものである限り、特に制限はなく、任意のものを使用し得る。
【0050】
本発明における発泡剤(D)としては、特に限定するものではないが、例えば、通常、ポリウレタン、フェノール、ポリスチレン、ポリオレフィン等の有機発泡体に用いられる、揮発性液体や気体の物理発泡剤、加熱分解もしくは化学反応により気体を発生させる化学発泡剤、ヒドロシリル基と反応して水素を発生させる活性水素基含有化合物などが挙げられる。発泡剤(D)としては、物理発泡剤、化学発泡剤、活性水素化合物より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
【0051】
物理発泡剤としては、ヒドロシリル化反応を阻害しないものであれば特に限定はないが、発泡性、および作業性と安全性の点から、物理発泡剤の沸点は、100℃以下であることが好ましく、50℃以下がより好ましい。具体的には、炭化水素、フロン、塩化アルキル、エーテルなどの有機化合物、二酸化炭素、窒素、空気などの無機化合物が挙げられるが、環境適合性の観点から、炭化水素、エーテル、二酸化炭素、窒素、空気から選ばれる化合物を用いることが好ましい。
【0052】
前記化学発泡剤としては、ヒドロシリル化反応を阻害しないものであれば特に限定はないが、例えば、重曹、などの無機系化学発泡剤や、アゾジカルボンアミド、4、4‘‐オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)などの有機系化学発泡剤などが挙げられる。
【0053】
前記活性水素基含有化合物としては、ヒドロシリル基と反応して水素を発生する活性水素基を含有する化合物であれば、特に限定されるものではないが、1級飽和炭化水素アルコール、カルボン酸または水が好ましく用いられる。これらの活性水素基含有化合物のなかでも、反応性や取り扱い性の点から、水、アルコール、およびポリエーテルポリオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有させることが好ましく、また、柔軟性や透湿性付与の観点から、酸素が直接炭素に結合している化合物または水が好ましい、即ち水、エタノール、ポリエチレングリコールが好ましい。
【0054】
その他に、本発明の基材樹脂には、必要に応じて、さらに、充填剤、老化防止剤、ラジカル禁止剤、紫外線吸収剤、接着性改良剤、難燃剤、ポリジメチルシロキサン―ポリアルキレンオキシド系界面活性剤あるいは有機界面活性剤(ポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテル等)などの整泡剤、酸あるいは塩基性化合物(ヒドロシリル基とヒドロキシル基との反応調整のための添加剤であり、酸で縮合反応を抑制し、塩基で加速する。
)、保存安定改良剤、オゾン劣化防止剤、光安定剤、増粘剤、可塑剤、カップリング剤、酸化防止剤、熱安定剤、導電性付与剤、帯電防止剤、放射線遮断剤、核剤、リン系過酸化物分解剤、分解促進剤、滑剤、顔料、金属不活性化剤、物性調整剤などを、本発明の目的および効果を損なわない範囲において添加することができる。
【0055】
また、整泡性や、硬化剤(A)、重合体(B)、ヒドロシリル化触媒(C)、発泡剤(D)の相溶性を向上する目的で、界面活性剤を添加することもできる。
【0056】
さらには、硬化剤(A)、重合体(B)、ヒドロシリル化触媒(C)、発泡剤(D)成分からなる本発明の組成物に、必要であれば貯蔵安定性を改良するために貯蔵安定性改良剤を添加してもよい。貯蔵安定性改良剤としては、硬化剤(A)の貯蔵安定剤として知られている通常の安定剤で所期の目的を達成するものであれば使用することができる。
【0057】
本発明のクッション材の部材(2)の厚さとしては、特に制限されるものではないが、座位姿勢保持性の面から5mm以上100mm以下が好ましい。さらに好ましくは10mm以上75mm以下、最も好ましくは、20mm以上60mm以下である。
【0058】
部材(3)について
本発明のクッション材の部材(1)と部材(2)の間に部材(3)を積層させてもよい。部材(3)は、一般的にクッション材に使用可能な材料であれば特に限定はないが、具体的には、繊維、(各種天然繊維、各種合成繊維)、海綿、軟質樹脂、発泡樹脂、軟質ゴムなどをあげることができる。これらのうち、褥瘡防止に優れた効果を発揮できるものとしては、軟質樹脂成形体、発泡樹脂成形体が好ましい。
【0059】
軟質樹脂成形体ではポリウレタンゲル、シリコンゲル、発泡樹脂成形体では、ポリウレタン発泡体、ポリオレフィン発泡体、ポリスチレン発泡体などが好ましく用いられる。なお、発泡気泡形態としては、独立気泡や連続気泡のいずれでも良いが、緩衝部材としての性能をより発揮するためには、連続気泡(独立気泡のセル壁が破れて連続気泡状態になっているような混在系も含む)のものが好ましい。
【0060】
部材(3)の厚さとしては、10μm以上100mm以下が好ましい。さらに好ましくは、取扱性の観点から、50μm以上、90mm以下である。最も好ましくは、10mm以上80mm以下である。
【0061】
部材(3)の大きさ(幅、奥行き)としては部材(2)とほぼ同じ大きさであることが好ましい。
【0062】
部材(1)は、部材(3)よりも硬いことが好ましい。ここで、硬さはJISK6400−2A法に準拠して算出するものである。部材(1)と本発明のクッション材に用いる部材(3)の硬さの差としては、好ましくは5N以上300N以下である。さらに好ましい硬さの差としては、10N以上200N以下である。
【0063】
本発明においては、骨盤の前方への傾斜を防ぐ目的で、傾斜構造を持たせることが好ましい。この傾斜構造は部材(1)および、または、部材(3)の形状を調整することにより設けることができる。傾斜は、座面において膝部分が当接する部分(前面)が高く、臀部が当接する部分(後面)が低くなる構造が好ましい。その場合、クッション材全体の厚さとしては、前面が厚く、後面が薄い構造となる。
【0064】
この傾斜構造においては、厚い部分と薄い部分の厚さの差が5mm以上50mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは、5mm以上40mm以下である。座位姿勢を安定させる観点から、5mm以上30mm以下、特には7〜20mmがより好ましい。傾斜構造は着座面の前面から後面へ傾斜が着座面前面に渡り設けられ、また傾斜が均一となる様に設けられていることが好ましい。
【0065】
しかし、臀部が当接する部分の傾斜と、膝部分に至る大腿部が当接する部分の傾斜の度合いを変えて設けることも構わない。その場合、臀部が当接する部分の傾斜が小さく、大腿部が当接する部分の傾斜が臀部の当接する部分傾斜に比べて大きいことが好ましい。傾斜の度合いが途中で変わる場合を含めて一定になっていることがクッション材の製造上簡便で好ましいが、円弧あるいは放物線等曲線の一部を切り取った様な形状であっても構わない。
【0066】
傾斜は着座面前面にわたり設けられることが好ましいが、前面端部およびまたは後面端部付近に平坦な部分とか、厚さが増加(減少)していた傾斜が薄くなる(増加する)傾斜に変わる部分が設けられていても構わない。また、臀部の略中央部が当接する部分が最も薄く、さらに後面にかけて臀部中央部に至るまでの傾斜度合いと同程度の傾斜を設けて厚さが厚くなるような構造を設けても構わない。この場合、臀部の保持がより確実になり圧力分布の均一性の面から好ましい。
【0067】
本発明のクッション材全体の厚さは15mm以上140mm以下をあげることができる。好ましくは、20mm以上130mm以下である。さらに好ましくは、ずれ力緩和性能および座り心地の観点から、20mm以上120mm以下である。ここでクッション材全体の厚さとは、部材(1)および、または、部材(3)が傾斜構造を持つ場合、最大の厚さとなる部分を言う。
【0068】
傾斜構造を設ける場合、部材(1)〜(3)が各単体の部材を用いても構わないし、複数枚使用して各部材としても構わない。
【0069】
本発明のクッション材の用途としては、特に制限されるものではないが、座位用であることが好ましい。さらに好ましくは、長時間の座位となる可能性が高い車いす用である。最も好ましくは、座位において大きなずれ力がかかると考えられる、足こぎで使用する車いす用である。
【0070】
本発明のクッション材は、クッション材自体の汚れや取り扱いの容易性の面からクッション全体を覆うカバーに入れて用いることが好ましい。その場合、部材(1)〜(3)をあわせて内袋に入れても良いし、各部材を内袋に入れ、場合によっては更に袋に入れても構わない。この内袋は、繊維布であることが好ましいが、フィルムであっても構わない。繊維布としては、不織布、織物または編み物をあげることができる。フィルムとしては、各種のプラスチックフィルムに多数の小さい穴を設ける等の加工を施したものをあげることができる。
【0071】
その原料としてはポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンなどの各種プラスチックやそれらの繊維、綿、絹、麻などの天然繊維等があげられる。これらのうち、強度等および溶融接着できて内袋の作製が容易であるということから、各種プラスチック繊維からなる不織布が好ましく用いられる。
【0072】
また、カバーはクッション材の柔軟性を妨げないものであることが好ましい。防水性や透湿性、防汚性などの種々の加工が施されていてもよい。
【実施例】
【0073】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例および比較例中の測定、評価は、次の条件・方法により行った。なお、特にことわりがない場合、実施例および比較例の部や%は重量基準である。なお、着座でのクッション材の評価は着座部がスリングシートとなっている車いす(アクトモアシュシュ自走式・低床タイプ、ハートウェル製)に敷いて実施した。本発明では、体圧分散性の指標として最大接触圧と接触面積を測定した。
【0074】
(1)座り心地評価:座り心地については、「ずれ力緩和性」、「底づき感」について、一般パネラー10人がクッション材に着座して、身体を前後左右に揺らした際の以下の評価基準による官能評価である。パネラーの採点から平均値を算出し、評価点とした。2つの項目の平均値の合計点が4.5以上で座り心地が良好と判断した。
【0075】
「ずれ力緩和性」:
3点:身体を揺らしたときも皮膚が引っ張られる感覚がなく、ずれ力緩和性があるように感じる。
2点:どちらともいえない。
1点:身体を揺らすと臀部が動かし辛く、皮膚が引っ張られる感覚があり、ずれ力緩和性がないように感じる。
【0076】
「底づき感」:
3点:底づき感がない。
2点:どちらともいえない。
1点:坐骨部がクッションの下の硬さを拾い、底づき感がある。
【0077】
(2)座位姿勢保持性評価:座位姿勢保持性については、(1)の座り心地評価と同様に、一般パネラー10人がクッション材に着座した際の以下の評価基準による官能評価で
ある。パネラーの採点から平均値を算出し、評価点とした。2.1点以上で座位姿勢保持性があると判断した。
【0078】
「座位姿勢保持性」:
3点:座面が平面である感覚があり、座位姿勢保持性があるように感じる。
2点:どちらともいえない。
1点:座面がスリングシートに沿ってたわんでおり、座位姿勢保持性がないように感じる。
【0079】
(3)最大接触圧および接触面積:体圧分散性の評価である最大接触圧および接触面積の測定は、座圧分布測定システム(Clinseat:ニッタ株式会社)を用いた。センサシートは座位用のBIG−MATを使用した。被験者はBMIが19.6の30代女性とした。90度ルール(厚生省老人保健福祉局老人保健課監:「褥瘡の予防・治療ガイドライン」照林社2002)に則った姿勢にて着座し、5分後の体圧分布を測定した。測定した体圧分布図から、最大接触圧および接触面積を算出した。なお、最大接触圧は小さい値であることが好ましい。
【0080】
<使用化合物>
実施例・比較例においては、表1に示す化合物を用いた。
【0081】
<硬さ>
発泡体の硬さは、JIS K 6400−2 A法に準拠して算出した。
【0082】
【表1】

【0083】
(実施例1)
100重量部の重合体B(カネカサイリルACX022、カネカ製)に対して、発泡剤D(FE−507、永和化成工業製)と助剤E−1(IRGANOX245)、助剤E−2(TINUVIN400)、E−3(TINUVIN123、以上チバ・ジャパン製)をそれぞれ1.0部、E−4(セルボンSC−C、永和化成工業製)を5.0部加え、3本ロールで練りこみ、マスターバッチを作製した。
【0084】
このマスターバッチにさらに触媒C(Pt−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体(3重量%イソプロパノール溶液)、エヌ・イー・ケムキャット製)を0.02部、助剤E−5(MBO、和光純薬工業製)を0.02部加えて十分に混合し、硬化剤A(KF−99、信越化学工業製)を12.0部、加えてすばやく攪拌した。
【0085】
この混合物を400×400×100mmの上部が開放されたフッ素樹脂で被覆した鉄製型内に発泡体の養生後の厚さが概ね80mmになるように充填量を計算して注入し、上部を開放したまま100℃に設定した熱風循環型オーブンで60分加熱硬化し、シリコーン成分を含む重合体を基材樹脂とする発泡成形体を得た。さらに、120℃に設定した熱風循環型オーブンで2時間加熱養生し、部材(2)とした。硬さは40Nであった。
【0086】
得られた発泡成形体である部材(2)の型底部に該当する面を着座面とし、着座面と反対側にウレタン発泡体(EMT、イノアックコーポレーション製)部材(1)を、幅350mm、奥行き400mm、前方の厚さ30mm、後方の厚さ20mmとなる傾斜構造を持つように切り出して重ね、合計厚さ110−100mmのクッション材とし、評価した。得られた結果を表2に示す。ウレタン発泡体(EMT)の硬さは355Nであった。
【0087】
(実施例2)
実施例1と同様にして厚さを50mmの発泡成形体である部材(2)を作成し、部材(2)の型底部に該当する面を着座面とし、着座面と反対側に幅400mm、奥行き400mm、厚さ30mmのウレタン発泡体(ERG−H、イノアックコーポレーション製)部材(3)、さらに幅350mm、奥行き400mm、厚さ20mmウレタン発泡体(EMT、イノアックコーポレーション製)部材(1)を積層して合計100mmのクッション材とし、評価した。ウレタン発泡体(ERG−H)の硬さは85Nであった。
【0088】
(実施例3)
実施例2の最下層の部材(1)を幅350mm、奥行き400mm、前方の厚さ20mm、後方の厚さ10mmとなる傾斜構造を持つように切り出したビーズ法発泡ポリオレフィン系樹脂成形体(エペランPP15倍品、カネカ製)とし、合計100−90mmのクッション材とし、評価した。なお、このビーズ法発泡ポリオレフィン系樹脂成形体のJISK6767により測定した圧縮硬さは0.25MPaであった。
【0089】
(実施例4)
実施例2の最下層の部材(1)を幅350mm、奥行き400mm、前方の厚さ30mm、後方の厚さ20mmとなる傾斜構造としたウレタン発泡体(EMT、イノアックコーポレーション製)を用い、合計厚さが110−100mmのクッション材とし、評価した。
【0090】
(実施例5)
実施例4の部材(3)を幅400mm、奥行き400mm、厚さ30mmのウレタン発泡体(HR−90、イノアックコーポレーション製)とし、合計厚さが110−100mmのクッション材とし、評価した。ウレタン発泡体(HR−90)の硬さは220Nであった。
【0091】
(実施例6)
実施例1で作製したマスターバッチに助剤E−6(アクトコールSHP−3900、三井化学製)を25部加えて攪拌し、その後は実施例1と同様の手順で養生後の厚さが概ね50mmとなるように充填量を計算して注入し、実施例1と同様に加熱硬化し、発泡成形体を得た。硬さは25Nであった。
得られた発泡成形体を部材(2)とし、型底部に該当する面を着座面とし、着座面と反対側に幅400mm、奥行き400mm、厚さ30mmのウレタン発泡体(ERG−H、イノアックコーポレーション製)部材(3)、さらに幅350mm、奥行き400mm、前方の厚さ30mm、後方の厚さ20mmとなる傾斜構造としたウレタン発泡体(EMT、イノアックコーポレーション製)部材(1)を積層して合計厚さが110−100mmのクッション材とし、評価した。
【0092】
(比較例1)
着座部がスリングシートとなっている車いす(アクトモアシュシュ自走式・低床タイプ、ハートウェル製)にクッションを敷かずにスリングシートに直接着座し、評価した。
【0093】
(比較例2)
厚さが50mmのポリスチレン押出発泡ボード(カネライトフォーム、カネカ製)を幅400mm、奥行き400mmに切り出したものを車いすに敷いて着座し、評価した。
【0094】
(比較例3)
ウレタン発泡体(ERG−H、イノアックコーポレーション製)を幅400mm、奥行き400mm、厚さ70mmとしてクッション材とし、評価した。
【0095】
(比較例4)
実施例1の部材(2)(幅400mm、奥行き400mm、厚さを80mmとした発泡成形体)をクッション材とし、評価した。
【0096】
(比較例5)
比較例3のウレタン発泡体の着座面とは反対側にさらに実施例3で用いた幅350mm、奥行き400mm、前方の厚さ20mm、後方の厚さ10mmである傾斜構造を持つビーズ法発泡ポリオレフィン系樹脂成形体(エペランPP15倍品、カネカ製)を重ねて、合計厚さが90-80mmのクッション材とし、評価した。
【0097】
(比較例6)
実施例2の部材(1)を用いない合計厚さが80mmのクッション材とし、評価した。
【0098】
(比較例7)
実施例3のビーズ法発泡ポリオレフィン系樹脂成形体(エペランPP15倍品、カネカ製)部材(1)の幅のみを400mmと変更し、合計厚さが100−90mmのクッション材とし、評価した。
【0099】
【表2】

【0100】
上記結果より、着座面側にはシリコーン成分を含む重合体を基材樹脂とする部材(2)を用い、着座面とは反対側に、厚さが1mm以上50mm以下であり、部材(2)より小さく幅が200mm以上380mm以下である部材を取り付けてな少なくとも2層以上で構成されたクッション材は、ずれ力緩和性能に優れ、底づき感がなく座り心地が良好であり、座位姿勢保持に効果があることがわかった。本発明によって、褥瘡の要因のひとつであるずれ力を緩和する性能が高く、座位姿勢保持に効果的であるクッション材を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン成分を含む重合体の成形体である部材(2)の着座面とは反対側に、部材(2)より幅が小さい部材(1)を積層したことを特徴とする少なくとも2層以上であることを特徴とするクッション材。
【請求項2】
部材(1)が、厚さ1mm以上60mm以下、幅200mm以上380mm以下であることを特徴とする請求項1記載のクッション材。
【請求項3】
部材(1)が、繊維、海綿、樹脂成形体およびゴムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2記載のクッション材。
【請求項4】
部材(2)が、分子鎖中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有する硬化剤(A)、分子鎖中に少なくとも1個のアルケニル基を有し主鎖を構成する繰返し単位が飽和炭化水素系単位、または、分子鎖中に少なくとも1個のアルケニル基を有し主鎖を構成する繰返し単位がオキシアルキレン系単位からなる重合体(B)、ヒドロシリル化触媒(C)、および発泡剤(D)を含んでなる発泡成形体であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のクッション材。
【請求項5】
重合体(B)が、数平均分子量が10000以上の重合体であることを特徴とする請求項4記載の発泡成形体を用いたクッション材。
【請求項6】
部材(1)と部材(2)の間に繊維、海綿、軟質成形体、発泡成形体および軟質ゴムから選ばれる少なくとも1種の部材(3)を積層させたことを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載のクッション材。
【請求項7】
部材(1)および、または、部材(3)が傾斜構造となっていることを特徴とする請求項6に記載のクッション材。
【請求項8】
全体の厚さが15mm以上140mm以下であることを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載のクッション材。
【請求項9】
車いす用であることを特徴とする請求項1〜8いずれかに記載のクッション材。

【公開番号】特開2012−254278(P2012−254278A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−4335(P2012−4335)
【出願日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】