説明

コンクリート型枠合板及びその製造方法

【課題】 コンクリート型枠合板の本体が、吸水によって大きく変形することを防止し、コンクリート型枠合板の上塗り層表面が波打ち、木目状の激しい凹凸が生じるのを防止する。
【解決手段】 このコンクリート型枠合板は、型枠合板本体の少なくとも一方表面に、平滑層と下塗り層とが設けられてなる。平滑層は、従来使用されているアクリル系エマルションと充填材とからなる水性溶液を塗布して形成されたものである。下塗り層は、分子内にイソシアネート基を少なくとも2つ以上含有するイソシアネート系化合物を含有し、かつ、このイソシアネート系化合物と反応する化合物を含有しない下塗り材溶液を、塗布して形成されたものである。下塗り材溶液の塗布時に、イソシアネート系化合物は、平滑層に浸透してゆき、浸透した後に平滑層内部で、水分等と反応し硬化する。したがって、平滑層の耐水性及び強度が向上する。下塗り層面には上塗り層が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設工事や土木工事などでコンクリート打設時に、コンクリートを所望の型に固めるために使用する型枠合板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンクリート型枠合板本体としては、種々の樹木の合板が用いられている。合板本体を、コンクリート型枠合板とすることも可能であるが、合板本体表面の木目による凹凸のために、打設後のコンクリート表面に木目が転写されてしまうという欠点や、合板本体と硬化したコンクリートとの剥離が困難であるという欠点があった。
【0003】
このため、コンクリート型枠合板本体表面に、アクリル系エマルションに充填材を配合した水性溶液を塗布し、表面が平滑なアクリル系樹脂層を形成することが行われている。このようなアクリル系樹脂層を形成すると、打設後のコンクリート表面に木目が転写されるのを防止でき、しかも、型枠合板とコンクリートとの剥離が容易になるという利点がある。なお、アクリル系樹脂層表面には、さらにコンクリートとの剥離を容易にするため、硬化樹脂層が設けられることもある。
【0004】
しかしながら、アクリル系樹脂層を形成しても、この樹脂層は耐水性に劣る、すなわち、コンクリート型枠合板本体が吸水した水によって、アクリル系樹脂層が剥離したり、クラックを生じたりして、コンクリート型枠合板の転用回数(再使用回数)を多くすることができないということがあった。そこで、コンクリート型枠合板本体表面に、低粘度の溶剤型浸透性シーラーを塗装して耐水層を形成すると共に、この耐水層上に、アクリル系エマルションにポリイソシアネートを添加配合した下塗り材溶液を塗布して、下塗り層を形成したコンクリート型枠合板が提案されている(特許文献1、請求項1)。
【0005】
この特許文献に記載されたコンクリート型枠合板は好ましいものではあるが、未だ、次のような欠点があった。すなわち、下塗り材溶液が塗布しにくいという欠点と、下塗り層表面の平滑性に欠けるという欠点があった。下塗り材溶液が塗布しにくい理由は、アクリル系エマルションにポリイソシアネートを添加配合すると、アルリル系エマルション中の水とポリイソシアネートが反応し、炭酸ガスによる発泡が生じると共に、溶液の粘度が上昇するからである。また、下塗り層表面の平滑性に欠ける理由は、発泡すること及び塗布作業性が悪くなることにより、平滑面を形成しにくくなるからである。なおさらに、塗布しにくいため、下塗り層が不均一となって、ポリイソシアネートの反応硬化による下塗り層の耐水性の向上も、不十分となる。
【0006】
【特許文献1】特開2002−102792公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、コンクリート型枠合板本体表面に設けられた層が、耐水性に優れ、かつ平滑であるコンクリート型枠合板を提供することを課題とするものである。この課題を達成するため、本発明は、アクリル系エマルション等が塗布されて形成された平滑な層に、後加工を施して耐水性を向上させたものである。すなわち、本発明は、アクリル系エマルションを塗布して平滑なアクリル系樹脂層を形成していた従来の方法に、特定の後加工を施すことにより、アクリル系樹脂層を改質し、耐水性と平滑性の両者に優れたコンクリート型枠合板を得ようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、コンクリート型枠合板本体の少なくとも一方表面に、充填材と樹脂とを含有する水性溶液を塗布して形成された平滑層と、該平滑層上に、分子内にイソシアネート基を少なくとも2つ以上含有するイソシアネート系化合物を含有し、かつ、該イソシアネート系化合物と反応する化合物を含有しない下塗り材溶液を、塗布して形成された下塗り層と、該下塗り層上に形成された硬化樹脂からなる上塗り層が形成されてなることを特徴とするコンクリート型枠合板に関するものである。
【0009】
本発明に用いるコンクリート型枠合板本体は、従来公知のものが用いられる。特に、吸水して膨張し又は変形しやすい間伐材を用いたコンクリート型枠合板本体が、良好に使用しうる。このような間伐材は安価であるため、得られるコンクリート型枠合板も安価になるからである。
【0010】
コンクリート型枠合板本体の少なくとも一方表面に形成される平滑層は、充填材と樹脂とを含有する水性溶液を塗布し、養生することによって形成されるものである。充填材としては、従来、アクリル系エマルション等のエマルションに配合されていたものを用いることができる。具体的には、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク及びシリカよりなる群から選ばれた無機系粉末群を使用するのが好ましい。充填材として用いる粉末群の各粉末の粒径は、300μm以下が好ましい。粉末の粒径が300μmより大きいと、平滑層表面の平滑性が低下する傾向が生じる。また、平滑層中における充填材の配合量は、平滑層全体の質量に対して、50質量%以上であるのが好ましい。この配合量が50質量%未満であると、相対的に、樹脂成分が多くなって、耐水性及び平滑性が低下する傾向が生じる。
【0011】
樹脂としては、天然又は合成ゴム、酢酸ビニル、アクリル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、アルキド樹脂、セルロース系樹脂等が用いられる。これらの樹脂は、水性溶液として扱われるので、例えば、天然又は合成ゴム水性ラテックス、酢酸ビニルエマルション、アクリル系エマルション、アクリル系ディスパージョン、塩化ビニリデン系エマルション、エポキシ系エマルション、ウレタン系エマルション、ウレタン系ディスパージョン、アクリル系水溶液、アルキド樹脂水溶液、セルロース系水溶液等として扱われる。そして、このラテックス、エマルション、ディスパージョン又は水溶液中に、上記した充填材が添加配合され、本発明に用いる水性溶液となるのである。なお、本発明においては、従来使用されていたアクリル系エマルションを用い、ここに充填材を配合したものを用いるのが、最も好ましい。
【0012】
水性溶液は、基本的に、水性樹脂、充填材及び水からなり、これらと反応する成分は多量に配合しない方が好ましい。多量に配合すると、発泡乃至増粘しやすくなって、塗布作業性も悪くなり、平滑層表面の平滑性が低下する傾向が生じる。しかしながら、発泡乃至増粘の程度が低く、平滑性の低下を来さない程度の量であれば、これらと反応する成分も配合しても差し支えない。また、その他の成分として、湿潤剤や顔料を添加配合するのは好ましいことである。湿潤剤としては、多価アルコール類、糖類、セルロース系化合物及び尿素よりなる群から選ばれた親水性化合物を用いるのが好ましい。多価アルコール類としては、エチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール等が用いられる。糖類としては、澱粉やデキストリン等の澱粉加水分解物、さらには変性ポリサッカライド、ヒドロキシプロピルグアーガム等も用いられる。セルロース系化合物としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等が用いられる。このような親水性化合物はいずれもOH基を持っており、水性溶液で形成された平滑層に、この親水性化合物が存在すると、後加工によって浸透してくるイソシアネート系化合物と反応硬化し、平滑層の強度が向上するので好ましい。また、親水性化合物は水分を吸収しやすいため、平滑層の耐水性を低下させる傾向があるが、多価アルコール類、特にグリセリンはこの傾向が少なく、本発明で用いる湿潤剤として好適である。湿潤剤の添加量は、水性溶液中に0.03〜20重量%程度が好ましく、特に2〜10重量%程度であるのが最も好ましい。また、顔料としては、従来公知の顔料を用いることができ、この配合量も従来配合している程度でよい。
【0013】
充填材と樹脂とを含有する水性溶液は、コンクリート型枠合板本体の少なくとも一方表面に塗布される。塗布方法としては、従来公知の方法を採用しうるが、なるべく表面が平滑になるように、ナイフコーター法を用いるのが好ましい。塗布量は任意であるが、一般的に、20〜70g/m2程度である。そして、40〜90℃程度の温度で、数分養生することによって、平滑層が得られる。
【0014】
平滑層上に、分子内にイソシアネート基を少なくとも2つ以上含有するイソシアネート系化合物を含有し、かつ、このイソシアネート系化合物と反応する化合物を含有しない下塗り材溶液を塗布し、下塗り層が形成される。分子内にイソシアネート基を少なくとも2つ以上含有するイソシアネート系化合物としては、従来公知のものを用いることができる。たとえば、以下に挙げる脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネートなどのポリイソシアネートを用いることができる。
【0015】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、1,3−トリメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネ−ト、1,3−ペンタメチレンジイソシアネート、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネ−ト、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2−メチル−1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、3−メチル−1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート、リジンジイソシアネ−トなどを挙げることができる。
【0016】
脂環式ポリイソシアネートとしては、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0017】
芳香族ポリイソシアネートとしては、m−フェニレンジイソシアネ−ト、p−フェニレンジイソシアネ−ト、2,4−トリレンジイソシアネ−ト、2,6−トリレンジイソシアネ−ト、ナフチレン−1,4−ジイソシアネ−ト、ナフチレン−1,5−ジイソシアネ−ト、4,4´−ジフェニルジイソシアネ−ト、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、2,4´−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、4,4´−ジフェニルエ−テルジイソシアネ−ト、2−ニトロジフェニル−4,4´−ジイソシアネ−ト、2,2´−ジフェニルプロパン−4,4´−ジイソシアネ−ト、3,3´−ジメチルジフェニルメタン−4,4´−ジイソシネ−ト、4,4´−ジフェニルプロパンジイソシアネ−ト、3,3´−ジメトキシジフェニル−4,4´−ジイソシアネ−トなどを挙げることができる。
【0018】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、1,3−キシリレンジイソシアネ−ト、1,4−キシリレンジイソシアネ−ト、ω,ω´−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼン、1,3−ビス(1−イソシアネート−1−メチルエチル)ベンゼン、1,4−ビス(1−イソシアネート−1−メチルエチル)ベンゼン、1,3−ビス(α,α−ジメチルイソシアネートメチル)ベンゼンなどを挙げることができる。
【0019】
また、上記した各種ポリイソシアネートを、多価アルコール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリアクリルポリオール、ヒマシ油などで変性したものも、分子内にイソシアネート基を少なくとも2つ以上含有している限り、イソシアネート系化合物として用いることができる。
【0020】
ポリイソシアネートを変性するのに用いる多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−テトラメチレンジオール、1,3−テトラメチレンジオール、2−メチル−1,3−トリメチレンジオール、1,5−ペンタメチレンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサメチレンジオール、3−メチル−1,5−ペンタメチレンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタメチレンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、シクロヘキサンジオール類(1,4−シクロヘキサンジオールなど)、ビスフェノール類(ビスフェノールAなど)、糖アルコール類(キシリトールやソルビトールなど)などを挙げることができる。
【0021】
ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコールの他、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体などのモノマー成分として複数のアルキレンオキシドを含む(アルキレンオキサイド−他のアルキレンオキサイド)共重合体などを挙げることができる。
【0022】
ポリエステルポリオールとしては、多価アルコールと多価カルボン酸との縮合重合物;環状エステル(ラクトン)の開環重合物;多価アルコール、多価カルボン酸及び環状エステルの3種類の成分による反応物などを挙げることができる。多価アルコールと多価カルボン酸との縮合重合物において、多価アルコールとしては、前記例示の多価アルコールを用いることができる。一方、多価カルボン酸としては、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸などの芳香族ジカルボン酸などを挙げることができる。また、環状エステルの開環重合物において、環状エステルとしては、プロピオラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどを挙げることができる。3種類の成分による反応物において、多価アルコール、多価カルボン酸、環状エステルとしては、前記例示のものなどを用いることができる。
【0023】
ポリカーボネートポリオールとしては、多価アルコールとホスゲンとの反応物;環状炭酸エステル(アルキレンカーボネートなど)の開環重合物などを挙げることができる。具体的には、多価アルコールとホスゲンとの反応物において、多価アルコールとしては、前記例示の多価アルコールを用いることができる。また、環状炭酸エステルの開環重合物において、アルキレンカーボネートとしては、エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ヘキサメチレンカーボネートなどを挙げることができる。なお、ポリカーボネートポリオールは、分子内にカーボネート結合を有し、末端がヒドロキシル基である化合物であればよく、カーボネート結合とともにエステル結合を有していてもよい。
【0024】
ポリオレフィンポリオールは、ポリオレフィンを骨格成分とし且つ分子内に(特に末端に)ヒドロキシル基を少なくとも2つ有するポリオールである。前記ポリオレフィンとしては、ポリエチレンやポリプロピレンなどが挙げられる。
【0025】
ポリアクリルポリオールは、(メタ)アクリレート重合体又は共重合体を骨格成分とし且つ分子内に(特に末端に)ヒドロキシル基を少なくとも2つ有するポリオールである。(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル[例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシルなどの(メタ)アクリル酸C1-20 アルキルエステルなど]が好適に用いられる。
【0026】
イソシアネート系化合物としては、上記した各種のものが用いられるが、その分子量は1000以下であるのが好ましい。分子量が1000を超えると、イソシアネート系化合物が平滑層の内部に浸透しにくくなり、平滑層の耐水性や強度を向上させにくくなる傾向が生じる。
【0027】
下塗り材溶液は、基本的にイソシアネート系化合物からなるものである。そして、下塗り材溶液中に、イソシアネート系化合物と反応する化合物は含有されていない。イソシアネート系化合物と反応する化合物としては、水、アルコール類、糖類、セルロース類等が挙げられる。このような化合物が含有されていると、イソシアネート系化合物と反応し、下塗り材溶液に炭酸ガスによる発泡が生じると共に、溶液の粘度が上昇するので好ましくない。また、発泡や粘度上昇が生じると、塗布作業性が悪くなるので好ましくない。
【0028】
イソシアネート系化合物と反応しない物質や化合物であれば、下塗り材溶液中に添加配合してもよい。例えば、充填材、酸化チタンやカーボンブラックなどの顔料や染料、接着付与剤、分散剤、可塑剤などの任意の添加剤が配合されていてもよい。特に、添加剤として、イソシアネート系化合物の硬化触媒が配合されているのが好ましい。より詳しく説明すると、下塗り材溶液中に硬化触媒を配合しておき、下塗り材溶液を平滑層面に塗布すると、平滑層に浸透したイソシアネート系化合物の硬化反応が促進せしめられるのである。また、硬化反応が進んでいると、下塗り層に残存するイソシアネート基が少なくなり、下塗り層上に上塗り層などを形成した後で、イソシアネート系化合物と水との反応で炭酸ガスが発生しにくくなり、上塗り層などに膨れが生じるのを防止しうるのである。
【0029】
イソシアネート系化合物の硬化触媒としては、従来公知のものが用いられる。たとえば、有機錫化合物、金属錯体、アミン化合物などの塩基性化合物、有機燐酸化合物などが用いられる。有機錫化合物としては、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレート、ジブチル錫フタレート、オクチル酸第一錫、ジブチル錫メトキシド、ジブチル錫ジアセチルアセテート、ジブチル錫ジバーサテートなどを挙げることができる。また、金属錯体としては、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、トリエタノールアミンチタネート等のチタネート化合物類;オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸ニッケル、ナフテン酸コバルトなどのカルボン酸金属塩;アルミニウムアセチルアセトナート錯体、バナジウムアセチルアセトナート錯体などの金属アセチルアセトナート錯体などを挙げることができる。さらに、アミン化合物などの塩基性化合物には、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノシラン類;テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンザルコニウムクロライドなどの第四級アンモニウム塩類;三共エアプロダクツ社製の商品名「DABCO」シリーズや「DABCOBL」シリーズ、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エンなどの複数の窒素原子を含む直鎖或いは環状の第三級アミン又は第四級アンモニウム塩などを挙げることができる。さらにまた、有機燐酸化合物としては、モノメチル燐酸、ジ−n−ブチル燐酸、燐酸トリフェニルなどを挙げることができる。
【0030】
また、下塗り材溶液に添加配合されてもよい充填材としては、水性溶液に含有する充填材と同一のものが用いられる。充填材の配合量は、下塗り材溶液中に、70質量%以下、好ましくは50質量%程度である。
【0031】
下塗り材溶液を平滑層面に塗布すると、下塗り材溶液中のイソシアネート系化合物は平滑層内部に浸透してゆく。そして、平滑層に含まれている水分や、大気中の水分と反応して平滑層中で硬化する。したがって、平滑層は耐水性及び強度が向上する。塗布方法は、従来公知の方法を採用しうるが、なるべく表面が平滑になるように、ナイフコーター法を用いるのが好ましい。塗布量は任意であるが、一般的に、10〜50g/m2程度である。そして、40〜90℃程度の温度で、数分養生することによって、下塗り層が形成される。
【0032】
下塗り層の上には、硬化樹脂からなる上塗り層が形成されている。上塗り層は、下塗り層面に、又は下塗り層面に中塗り層を形成した場合は中塗り層面に、硬化性樹脂溶液を塗布し、養生して硬化性樹脂を硬化させて形成することができる。硬化性樹脂としては、従来公知の常温硬化性樹脂、加熱硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂などを用いることができる。具体的には、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂などを挙げることができる。
【0033】
また、下塗り層と上塗り層の間に、所望によって形成される中塗り層としては、各種樹脂層であれば、どのようなものでもよい。たとえば、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、ポリクロロプレン、ポリアクリル系重合体、スチレンアクリル系共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル−炭素数7〜8カルボン酸ビニルエステル(ベオバ:登録商標)共重合体、エポキシ樹脂などの各種樹脂が用いられる。これらの樹脂をエマルションなどの溶液形態として中塗り材溶液とし、これを下塗り層面に塗布し、養生することによって、中塗り層を得ることができる。
【0034】
以上説明した本発明に係るコンクリート型枠合板は、型枠合板本体,平滑層,下塗り層,所望により中塗り層,上塗り層の順に積層されてなるものである。なお、両面に平滑層を設けたときは、上塗り層,所望により中塗り層,下塗り層,平滑層,型枠合板本体,平滑層,下塗り層,所望により中塗り層,上塗り層の順に積層されてなるものである。そして、このコンクリート型枠合板は、従来と同様の使用方法で用いることができるものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係るコンクリート型枠合板は、型枠合板本体,平滑層,下塗り層,所望により中塗り層,上塗り層の順に積層されてなり、下塗り層は、分子内にイソシアネート基を少なくとも2つ以上含有するイソシアネート系化合物を含有する下塗り材溶液が塗布されて形成されるものである。下塗り材溶液が平滑層面に塗布されると、イソシアネート系化合物が平滑層内部へ浸透し、平滑層中の水分等と反応し硬化する。このため、平滑層は耐水性が向上し、また平滑層の強度も向上する。
【0036】
したがって、本発明に係るコンクリート型枠合板が水を吸水した場合でも、平滑層が耐水性に優れているため、平滑層が波打ったり剥離したりすることが少ない。よって、下塗り層や上塗り層と合板本体との密着性が低下せず、上塗り層表面に凹凸が生じたり、浮きが生じたりするのを防止することができる。以上のとおり、本発明に係るコンクリート型枠合板を用いれば、長期間に亙って型枠合板表面の平滑性を維持することができ、良好に使用することができ、また何度も転用しうるのでリサイクル性に優れるという効果を奏する。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。本発明は、コンクリート型枠合板に従来設けられていた平滑層の性質を、特定の下塗り材溶液によって改良したので、吸水して変形しやすい合板本体を用いた場合でも、コンクリート型枠合板の表面に凹凸が生じにくいとの知見に基づくものとして解釈されるべきである。
【0038】
実施例1
まず、コンクリート型枠合板本体(JASの日本農林規格に適合するコンクリート型枠合板)を準備した。そして、このコンクリート型枠合板本体に、アクリル系エマルション(コニシ社製「CAT18」、固形分36質量%)100質量部と重質炭酸カルシウム(日東粉化社製「NS#100」)200質量部を混合してなる水性溶液を、ナイフコーターを用いて75g/m2の塗布量で塗布した。水性溶液を塗布した後、60℃で5分間養生し、その後、室温で1日養生して平滑層を形成した。
【0039】
平滑層を形成した後、この平滑層面に、ウレタンプレポリマーのみよりなる下塗り材溶液を、ナイフコーターを用いて30g/m2の塗布量で塗布した。ここで、使用したウレタンプレポリマーは、以下の方法で得られたものである。すなわち、ポリオール化合物(ポリオキシプロピレン系ポリオール、旭硝子社製「プレミノール5001」)800gを、100℃減圧下で2時間加熱脱水した後、80℃まで冷却し、イソシアネート系化合物(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、住友バイエルウレタン社製「44S」)120gを添加し、2時間、80℃で加熱攪拌して、得られたものである。下塗り材溶液を塗布した後、60℃で5分間養生し、その後、室温で1日養生して下塗り層を形成した。そして、下塗り層面に、エポキシ樹脂(コニシ社製「E207D」)よりなる硬化性樹脂溶液を、ナイフコーターを用いて30g/m2の塗布量で塗布し、60℃で10分間養生した後、さらに室温で1日養生して、上塗り層を形成した。以上のようにして、コンクリート型枠合板を得た。
【0040】
実施例2
下塗り材溶液として、芳香族イソシアネート化合物(住友バイエルウレタン社製「44V20」)のみよりなるもの用いる他は、実施例1と同様にしてコンクリート型枠合板を得た。
【0041】
実施例3
下塗り材溶液として、芳香族イソシアネート化合物(住友バイエルウレタン社製「44V20」)50質量部と、このイソシアネート系化合物の硬化触媒(三共有機合成社製「スタンBL」)0.01質量部とからなるものを用いる他は、実施例1と同様にしてコンクリート型枠合板を得た。
【0042】
実施例4
下塗り材溶液として、芳香族イソシアネート化合物(住友バイエルウレタン社製「44V20」)50質量部と、重質炭酸カルシウム(日東粉化社製「NS#100」)50質量部とからなるものを用いる他は、実施例1と同様にしてコンクリート型枠合板を得た。
【0043】
実施例5
水性溶液中に、芳香族イソシアネート化合物(住友バイエルウレタン社製「44V20」)3質量部を添加配合した他は、実施例4と同様にしてコンクリート型枠合板を得た。
【0044】
実施例6
まず、実施例1と同様にして形成した平滑層面に、芳香族イソシアネート化合物(住友バイエルウレタン社製「44V20」)50質量部と、このイソシアネート化合物の硬化触媒(三共有機合成社製「スタンBL」)0.01質量部と、重質炭酸カルシウム(日東粉化社製「NS#100」)50質量部とからなる下塗り材溶液を、ナイフコーターを用いて30g/m2の塗布量で塗布した。その後、60℃で5分間養生した後、室温で1日養生して下塗り層を形成した。次に、この下塗り層面に、アクリル系エマルション(コニシ社製「CAT18」、固形分36質量%)100質量部と重質炭酸カルシウム(日東粉化社製「NS#100」)200質量部を混合してなる中塗り材溶液を、ナイフコーターを用いて30g/m2の塗布量で塗布した。そして、60℃で5分間養生し、その後、室温で1日養生して中塗り層を形成した。最後に、中塗り層面に、エポキシ樹脂(コニシ社製「E207D」)よりなる硬化性樹脂溶液を、ナイフコーターを用いて30g/m2の塗布量で塗布し、60℃で10分間養生した後、さらに室温で1日養生して、上塗り層を形成した。以上のようにして、コンクリート型枠合板を得た。
【0045】
実施例7
水性溶液として、実施例3で用いた水性溶液に、グリセリン15質量部を添加配合したものを用いる他は、実施例3と同様にして、コンクリート型枠合板を得た。
【0046】
比較例1
実施例1で準備したコンクリート型枠合板本体に、アクリル系エマルション(コニシ社製「CAT18」、固形分36質量%)100質量部と、実施例1で用いたウレタンプレポリマー50質量部と、重質炭酸カルシウム(日東粉化社製「NS#100」)200質量部を混合してなる水性溶液を、ナイフコーターを用いて75g/m2の塗布量で塗布した。水性溶液を塗布した後、60℃で5分間養生し、その後、室温で1日養生して平滑層を形成した。平滑層を形成した後、この平滑層面に、前記した水性溶液を下塗り材溶液として、ナイフコーターを用いて30g/m2の塗布量で塗布した後、60℃で5分間養生し、その後、室温で1日養生して下塗り層を形成した。そして、下塗り層面に、エポキシ樹脂(コニシ社製「E207D」)よりなる硬化性樹脂溶液を、ナイフコーターを用いて30g/m2の塗布量で塗布し、60℃で10分間養生した後、さらに室温で1日養生して、上塗り層を形成した。以上のようにして、コンクリート型枠合板を得た。
【0047】
比較例2
水性溶液中及び下塗り材溶液中のウレタンプレポリマーの配合量を、各々、3質量部に変更した他は、比較例1と同様の方法で、コンクリート型枠合板を得た。
【0048】
比較例3
比較例2の水性溶液及び下塗り材溶液中のウレタンプレポリマーを、各々、芳香族イソシアネート化合物(住友バイエルウレタン社製「44V20」)に変更した他は、比較例2と同様の方法で、コンクリート型枠合板を得た。
【0049】
比較例4
下塗り層を形成した後、この下塗り層面に、アクリル系エマルション(コニシ社製「CAT18」、固形分36質量%)100質量部と重質炭酸カルシウム(日東粉化社製「NS#100」)200質量部を混合してなる中塗り材溶液を、ナイフコーターを用いて30g/m2の塗布量で塗布した。そして、60℃で5分間養生し、その後、室温で1日養生して中塗り層を形成する工程を追加した他は、比較例3と同様の方法で、コンクリート型枠合板を得た。
【0050】
実施例1〜7及び比較例1〜4で得られた各々のコンクリート型枠合板の上塗り層の表面状態を目視によって観察したところ、比較例1に係るコンクリート型枠合板以外は、その表面に木目状の凹凸がなく、平滑であった。一方、比較例1に係るコンクリート型枠合板は、水性溶液及び下塗り材溶液が、いずれも水と多量のイソシアネート化合物が混合されてなるものであるため、この両者が反応硬化し塗布時に発泡した。この発泡のため、平滑層及び下塗り層のいずれも平滑性がでずに、上塗り層の平滑性も不十分であった。しかも、塗布時に反応硬化するため、ゲル状物が生成し、このゲル状物がナイフコーターと塗布表面の間に詰まり、塗布表面に筋が生じ、各塗布表面の平滑性が低下した。
【0051】
次に、実施例1〜7及び比較例1〜4で得られた各々のコンクリート型枠合板を、水中(常温)に24時間浸漬して放置した。その後、室温で乾燥させ、上塗り層の表面状態を観察した。この結果、実施例1〜7に係る各コンクリート型枠合板は、いずれも、上塗り層表面に木目状の凹凸や浮きは観察されなかった。一方、比較例1〜4に係る各コンクリート型枠合板は、いずれも、上塗り層表面に木目状の凹凸や浮きが観察された。比較例1に係るコンクリート型枠合板は、当初から、上塗り層表面に木目状の凹凸や浮きが観察されていたものであり、水中浸漬後も同様に状態であった。比較例2〜4に係る各コンクリート型枠合板は、水性溶液中及び下塗り材溶液中に含有されているイソシアネート化合物が少量であるため、当初の平滑性は十分であった。しかしながら、平滑層及び下塗り層の耐水性及び強度不足のため、水中浸漬後は、この層が吸水して、その平滑性が低下した。したがって、上塗り層面にも、木目状の凹凸や浮きが観察されるようになった。
【0052】
以上の実施例及び比較例の結果から明らかなように、平滑層を形成した後、この平滑層に下塗り材溶液のイソシアネート化合物を浸透させ、その後、反応硬化させると、平滑層は耐水性及び強度が向上する。この結果、実施例に係る各コンクリート型枠合板の上塗り層表面は、当初から平滑で、しかもコンクリート型枠合板を使用した後も、この平滑性が大幅に低下することはない。よって、実施例に係る各コンクリート型枠合板は、いずれも、比較例に係るものに比べて、リサイクル性に優れたものである。



















【0053】
以上の実施例及び比較例の内容及び結果を分かりやすく、表にしてまとめれば、以下のとおりである。
[表1]


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート型枠合板本体の少なくとも一方表面に、充填材と樹脂とを含有する水性溶液を塗布して形成された平滑層と、該平滑層上に、分子内にイソシアネート基を少なくとも2つ以上含有するイソシアネート系化合物を含有し、かつ、該イソシアネート系化合物と反応する化合物を含有しない下塗り材溶液を、塗布して形成された下塗り層と、該下塗り層上に形成された硬化樹脂からなる上塗り層が形成されてなることを特徴とするコンクリート型枠合板。
【請求項2】
水性溶液に、湿潤剤が含有されている請求項1記載のコンクリート型枠合板。
【請求項3】
湿潤剤が、多価アルコール類、糖類、セルロース系化合物及び尿素よりなる群から選ばれた親水性化合物である請求項2記載のコンクリート型枠合板。
【請求項4】
多価アルコールがグリセリンである請求項3記載のコンクリート型枠合板。
【請求項5】
充填材が、下塗り材溶液中に含有されている請求項1記載のコンクリート型枠合板。
【請求項6】
充填材が、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク及びシリカよりなる群から選ばれた無機系粉末群である請求項5記載のコンクリート型枠合板。
【請求項7】
イソシアネート系化合物の分子量が1000以下である請求項1記載のコンクリート型枠合板。
【請求項8】
下塗り材溶液中には、イソシアネート系化合物の硬化触媒が含有されている請求項1記載のコンクリート型枠合板。
【請求項9】
下塗り層と上塗り層との間に、中塗り層が形成されている請求項1記載のコンクリート型枠合板。
【請求項10】
コンクリート型枠合板本体の少なくとも一方表面に、充填材と樹脂とを含有する水性溶液を塗布し、養生して平滑層を形成した後、該平滑層上に、分子内にイソシアネート基を少なくとも2つ以上含有するイソシアネート系化合物を含有し、かつ、該イソシアネート系化合物と反応する化合物を含有しない下塗り材溶液を塗布し、養生して下塗り層を形成し、その後、該下塗り層上に、硬化性樹脂溶液を塗布し、養生して硬化性樹脂を硬化させて上塗り層を形成することを特徴とするコンクリート型枠合板の製造方法。

【公開番号】特開2006−70635(P2006−70635A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257851(P2004−257851)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000105648)コニシ株式会社 (217)
【Fターム(参考)】