説明

ステッピングモータ駆動制御装置

【課題】効率の良い駆動制御を実行する、発熱の少ない駆動制御装置であって、駆動方法の切り替え時における過渡現象を抑制する駆動制御装置を実現することを目的とする。
【解決手段】本発明は、マイクロステップ駆動と速度サーボ駆動とを切り替えてステッピングモータ12を制御するステッピングモータ駆動制御装置1である。該装置1は、負荷推定器6によってマイクロステップ駆動時の負荷を推定し、該推定した負荷の値を用いて、マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動に切り替えたときに前記負荷の値に見合った電流がステッピングモータ12に流れるように、ステッピングモータ12の駆動を制御している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステッピングモータ駆動制御装置に関し、特に、複数の駆動方法を選択的に切り替えて実行するように制御するステッピングモータ駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステッピングモータの駆動制御方法としては、マイクロステップ駆動や検出した回転子の位置をフィードバックする閉ループ制御などが一般的に知られている。閉ループ制御の一例としては、特許文献1が挙げられる。特許文献1においては、位置指示と回転子位置の偏差と、検出速度とからモータのトルク位置が常に最適になるように指令電流の大きさを決定している。
また、単一の駆動方法によるのではなく、複数の駆動方法を選択的に切り替えてモータを駆動制御する方法も知られている。一例として、指令パルスによって励磁切換えを行う通常のステッピングモータ駆動方式と、閉ループモードのDCモータ駆動方式とを選択的に切り替える駆動制御方法(例えば、特許文献2、3、4及び5)などが挙げられる。
【0003】
特許文献2においては、通常のステッピングモータ駆動方式によってモータを駆動し、脱調が生じるとDCモータ駆動方式に駆動方法を切り替えている。そして、DCモータ駆動方式によって脱調状態が解消されると、再び通常のステッピングモータ駆動方式に戻るように制御されている。
特許文献3においては、回転子位置と励磁位置から負荷角を算出し、負荷角に基づいてマイクロステップ駆動方式と定トルク方式とを切り替えている。
特許文献4では、特許文献3と同様の駆動方法の切り替えを実行すると共に、マイクロステップ駆動用制御器からの電流指示と位置サーボ用制御器からの電流指示に重みをつけ、合成した電流指示によってモータを駆動制御している。
特許文献5はマイクロステップ駆動方式とDCブラシレスモータ駆動方式とを切り替えて実行するステッピングモータ駆動制御装置を示している。
【特許文献1】特開昭57−101597号公報
【特許文献2】特開平7−59395号公報
【特許文献3】特開平11−113289号公報
【特許文献4】特開2004−328821号公報
【特許文献5】特開平10−150798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜5に開示されたステッピングモータの駆動制御においては、それぞれ次のような問題点がある。特許文献2及び特許文献3に開示された駆動制御装置は、脱調現象の回避を目的として、負荷に因らず一定電流を流してモータを駆動している。したがって、効率が悪く、発熱が大きいという問題があった。
これに対して、特許文献1は、位置および速度情報から電流の増減を行うため、効率は良い。しかしながら、電流の増減を急激に行うと駆動できない可能性があるため、速度偏差とモータに流れる電流から電流指示を決定する分配方法を実験から求めなければならない。
また、特許文献4では、位置サーボ制御を行った結果の電流指令を使用している。したがって、周波数特性が低くなり、負荷により不安定になる。電流指示値の比率を固定とすると、無負荷でもマイクロステップ駆動用の電流指示がゼロとならないため、通常の位置サーボより電流が増加し、効率の悪化を招く。また、駆動中に電流指示の比率を急変すると大きな過渡現象が生じる。
特許文献5の駆動制御装置は、負荷に変動があった場合、切り替え時に大きな過渡現象を生じ、負荷が重い場合には脱調現象を起こして駆動できない場合がある。
【0005】
これらの従来技術の問題点に鑑みて、本発明の目的は、複数の駆動方法を切り替えてステッピングモータを駆動することにより、事前の実験を行うことなく効率の良い駆動制御を実行する、発熱の少ない駆動制御装置であって、前記駆動方法の切り替え時における過渡現象を抑制する駆動制御装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、マイクロステップ駆動と速度サーボ駆動とを切り替えてステッピングモータを制御するステッピングモータ駆動制御装置であって、前記ステッピングモータに流れる実電流を検出する電流検出器と、位置指示から形成された速度指示と、検出した前記実電流とに基づいて、前記ステッピングモータの各相に流す駆動電流を決定する第1の駆動指令を形成する速度サーボ駆動手段と、予め設定又は算出された電流指示と、前記位置指示と、検出した前記実電流とに基づいて、前記ステッピングモータの各相に流す駆動電流を決定する第2の駆動指令を形成するマイクロステップ駆動手段と、前記マイクロステップ駆動時における前記ステッピングモータの負荷を推定して負荷推定値を得る負荷推定器とを備えている。前記速度サーボ制御手段は、マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動に切り替えたときに、前記駆動電流を前記推定した負荷に見合う大きさに決定すべく、前記第1の駆動指令の形成要素として前記負荷推定値を用いるように構成されている。
【0007】
一例として、前記ステッピングモータの回転子位置を検出する位置検出器を備え、前記負荷推定器は、検出した前記回転子位置と、前記位置指示との偏差から前記負荷推定値を算出する。
【0008】
他の例として、前記速度サーボ駆動手段は、前記検出した実電流から前記ステッピングモータの回転子速度を推定し、該推定した回転子速度を用いて前記第1の駆動指令を形成する、位置センサレス駆動を実行し、前記負荷推定器は、前記第2の駆動指令と前記実電流とから前記ステッピングモータの回転子位置を推定して、該推定した回転子位置と前記位置指示との偏差から前記負荷推定値を算出する。
【0009】
前記速度サーボ制御手段は、前記速度指示と前記回転子速度との偏差にPI補償を施すことによって得られるトルク分電流指示を用いて前記第1の駆動指令を形成すると共に、前記速度サーボ駆動に切り替えたときに、前記負荷推定値を用いて前記PI補償のための積分要素の初期値を設定するように構成しても良い。
【0010】
さらに、例えば、前記速度サーボ制御手段は、前記速度サーボ駆動時における前記ステッピングモータの負荷を推定して、速度サーボ駆動時における負荷推定値を算出し、前記マイクロステップ制御手段は、前記速度サーボ駆動からマイクロステップ駆動に切り替えたときに、前記速度サーボ駆動時の負荷に見合う前記駆動電流を決定するための前記第2の駆動指令を形成するように構成しても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るステッピングモータ駆動制御装置では、マイクロステップ駆動と速度サーボ駆動とを切り替えてステッピングモータを制御する。マイクロステップ駆動は、低速領域で高精度な位置決めを行なうことができる。一方、速度サーボ制御は要求トルクに見合うように電流を制御するため効率の良い駆動を実現する。
【0012】
本発明では、マイクロステップ駆動と速度サーボ駆動とを切り替えてステッピングモータを制御するため、停止時及び低速領域においてマイクロステップ駆動を実行し、中・高速領域において速度サーボ駆動を実行することによって、位置決め精度が高く効率の良い駆動が可能となっている。また、本発明は、このような切り替え制御を採用しているため、上記特許文献1に対して指摘したような事前の実験によるデータは必要ない。
【0013】
さらに、本発明は、マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動に切り替えたときに、マイクロステップ駆動時におけるステッピングモータの負荷を推定して得られた負荷推定値を用いて、モータ駆動電流を決定するための駆動指令を形成している。したがって、マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動に切り替えた瞬間及び直後において、前記駆動指令にマイクロステップ駆動時の負荷推定値が反映されるため、マイクロステップ駆動時の負荷に見合う電流がステッピングモータに流れる。したがって、マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動に切り替えたときに生じる速度変動等の過渡現象を抑制して安定した駆動を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の第1の実施形態を添付の図により説明する。図1に本実施形態に係るステッピングモータ駆動制御装置のブロック図を示す。ステッピングモータ駆動制御装置1では、外部から与えられた位置指示θに基づいてN相ステッピングモータ12の回転子位置制御が実行される。この位置制御に際しては、マイクロステップ駆動と速度サーボ駆動とが選択的に切り替えられる。本実施形態において、ステッピングモータ駆動制御装置1は、ステッピングモータ12の停止時と低速領域においてマイクロステップ駆動を実行し、中・高速領域において速度サーボ駆動を実行するように構成されている。
【0015】
まず、停止時はマイクロステップ駆動で位置を保持し、位置指示θが入力されると、マイクロステップ駆動で始動する。その後、回転子の速度が中高速になると、駆動切替器7によって駆動方法を速度サーボ駆動に切り替える。停止位置に近づくと、ステッピングモータ12は減速し、低速となったところで駆動切替器7によってマイクロステップ駆動に切り替え、停止位置で停止する。
【0016】
ステッピングモータ12の回転子速度は、位置検出器13よって検出された回転子位置θに基づいて、速度検出器10によって算出される。速度検出器10によって算出された回転子速度ωは駆動切替器7に入力される。マイクロステップ駆動と速度サーボ駆動を切り替える基準値である速度閾値は予め設定されている。駆動切替器7は、速度検出器10から取得した回転子速度ωと予め設定された速度閾値とを比較して、マイクロステップ駆動を実行するか、速度サーボ駆動を実行するかを判定して、切替信号を出力し、スイッチ8を介してマイクロステップ駆動と速度サーボ駆動とを切り替える。
【0017】
[速度サーボ駆動時]
定常状態における速度サーボ駆動について以下に説明する。速度サーボ駆動中においては、スイッチ8は速度サーボ駆動部4とインバータ9とを接続するように作動している。
速度指示作成器2は位置指示θから速度指示ωを算出して速度サーボ駆動部4に出力する。速度サーボ駆動部4は、速度指示ωと、ステッピングモータ12に流れている実電流iと、速度検出器10によって算出された回転子速度ωとに基づいて、速度サーボ駆動用指令VsNを算出して、インバータ9に出力する。ステッピングモータ12に流れている実電流iは、電流検出器11によって検出される。前記速度サーボ駆動用指令VsNは、ステッピングモータ12の各相に流す駆動電流を決定するための指令値である。
【0018】
本実施形態おける速度サーボ駆動部4は、定常状態において速度サーボ駆動を行なって速度サーボ駆動用指令VsNを形成する手段であればよく、特定の速度サーボ駆動を行なう手段に限定されるものではない。
【0019】
速度サーボ駆動部4の一例を以下に簡単に説明する。速度サーボ駆動部4は、(図示しない)PI制御器を有する速度制御器を備えている。この速度制御器は、速度指示作成器2から出力された速度指示ωと、速度検出器10から出力された回転子速度ωとの差分を算出し、該差分に対してPI制御を行ない、トルク分電流指示を形成する。速度サーボ駆動部4は、形成されたトルク分電流指示と、予め設定され又は算出された推定励磁分電流指示と、回転子速度ωから算出された回転子位置(電気角)とから、速度サーボ駆動用指令VsNを算出して、スイッチ8を介してインバータ9に出力する。インバータ9は速度サーボ駆動用指令VsNを電力増幅し、ステッピングモータ12を速度サーボ駆動する。
【0020】
[マイクロステップ駆動時]
定常状態におけるマイクロステップ駆動について以下に説明する。マイクロステップ駆動中においては、スイッチ8はマイクロステップ駆動部3とインバータ9とを接続するように作動している。
マイクロステップ駆動部3には、電流指示(マイクロステップ駆動用設定電流値)iと、位置指示θと、電流検出器11によって検出したステッピングモータ12の実電流iとが入力される。マイクロステップ駆動部3は、位置指示θからステッピングモータ12の励磁電気角を算出して、該励磁電気角と、電流指示(マイクロステップ駆動用設定電流値)iと、実電流iに基づいて、マイクロステップ駆動用指令VmNを形成して出力する。マイクロステップ駆動用指令VmNは、ステッピングモータ12の各相に流す駆動電流を決定するための指令値である。算出されたマイクロステップ駆動用指令VmNは、スイッチ8を介してインバータ9に出力され、インバータ9はマイクロステップ駆動用指令VmNを電力増幅し、ステッピングモータ12をマイクロステップ駆動する。
【0021】
なお、負荷推定器6は、マイクロステップ駆動を実行している間、マイクロステップ駆動時の負荷の値を示す負荷推定値Tを算出している。この負荷推定値Tは、後述のように、マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動への切替時において、駆動制御に用いられる。該負荷推定値Tの算出については、後の[マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動への切替時]において詳述する。
【0022】
[マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動への切替時]
以下に、マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動へ切り替えるときのステッピングモータ駆動制御装置1の動作について説明する。
ステッピングモータの駆動において、負荷のない場合には、マイクロステップ駆動と速度サーボ駆動の両駆動方式における電気角を合致させて切り替えを行うことで、速度変動のない切り替え動作を行うことができる。しかしながら、負荷がある場合には、過渡現象として速度変動が生じる。特にマイクロステップ駆動から速度サーボ駆動に切り替える場合には大きな速度変動を生じ、場合によっては制御不能となる。
【0023】
多くの速度サーボ駆動は、積分器を備えた速度制御器を用いて、要求トルクに応じた電流を流すように電流を制御する。駆動方法切り替え時点では速度サーボ駆動を行っていないため、切替時のトルク分電流指示は、速度制御器における積分器の初期値によって決定される。すなわち、積分器の初期値がゼロに設定されている場合、切替時のトルク分電流指示はゼロになる。したがって、有負荷の場合、負荷に見合ったトルク分電流指示が形成されるまでに速度変動が生じる。
【0024】
そこで、本発明においては、マイクロステップ駆動時の定常状態の負荷を推定し、マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動へ切り替えたときに、推定した負荷に見合った電流がステッピングモータに流れるように制御を行なうことによって、マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動への切替時における速度変動を抑制している。
【0025】
本実施形態では、マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動に切り替えたときに、マイクロステップ駆動時の負荷に見合った積分初期値を速度制御器の積分器に設定することによって、前記負荷に見合った電流がステッピングモータに流れるように制御している。
【0026】
先に述べたようにマイクロステップ駆動時の負荷の値を示す負荷推定値Tは、マイクロステップ駆動時において負荷推定器6によって算出される。負荷推定器6に接続された偏差カウンタ5は、位置指示θと、位置検出器13によって検出された回転子位置θとを入力とし、位置指示θと回転子位置θとの偏差dを負荷推定器6に出力する。負荷推定器6は、位置偏差dと電流指示iからマイクロステップ駆動時における負荷推定値Tを算出して速度サーボ駆動部4に出力する。
【0027】
マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動に切り替えられると、速度サーボ駆動部4は、負荷推定値Tを負荷推定器6から取得して、速度制御器に備えられた積分器の初期値を負荷推定値Tに見合う値に設定する。ここで、負荷推定値Tは、マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動へ切り替えられる直前に算出された負荷推定値Tである。前記積分初期値は、負荷推定値Tをトルク定数で除算して電流に換算し、さらに制御ゲインで除算することにより決定される。
【0028】
このように、速度制御器の積分器の初期値をマイクロステップ駆動時の負荷の値に見合う値に設定することによって、マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動へ切り替えた瞬間及び直後にマイクロステップ駆動時の負荷に見合う電流がステッピングモータに流れるように制御され、マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動へ切り替えたときの速度変動を抑制することができる。
【0029】
以上に説明したように、本実施形態では、マイクロステップ駆動と速度サーボ駆動とを選択的に切り替えている。
マイクロステップ駆動は、前述のように低速領域で高精度な位置決めを行なうことができる。しかしながら、一般的な性質として、負荷に因らず電流を一定に制御するため、軽負荷では効率が悪く、負荷が大きくなるにつれて効率が上昇し、脱調現象を起こす近傍で効率が最大になるという特徴を有する。実際の使用では、安全率を考慮して設定電流は必要トルクに見合う電流の2倍程度に設定される。したがって、マイクロステップ駆動のみでは、効率が悪くなってしまう。
【0030】
一方、サーボ駆動方式においては、要求トルクに見合うように電流を制御するため、効率の良い駆動が可能である。ステッピングモータはサーボモータに用いられる表面磁石形同期電動機と同じモータモデルであるため、サーボモータと同様に制御できる。ステッピングモータをマイクロステップ駆動した場合と、速度サーボ駆動した場合のそれぞれについて、効率とトルクとの関係を図2に示す。図2からも明らかなように、サーボ駆動は、マイクロステップ駆動よりも運転効率が格段に良い。
このサーボ駆動のみによって、サーボモータと同様の位置制御を行い、負荷に対してステッピングモータと同様の応答を得るためには、制御ゲインを高くする必要がある。しかしながら、ゲインを高く設定すると慣性負荷により発振したり停止時の振動が増加してしまう。この問題に対処するためには複雑なゲイン設定を行なわなければならなくなる。
【0031】
加えて、サーボモータの位置制御においては、電流制御と、速度制御と、位置制御との3重のマイナーループ制御を行うことが一般的である。電流制御を100とすると速度制御の応答周波数は10、位置制御の応答周波数は1というように応答周波数が下がる。前記位置制御を行ったサーボモータの慣性負荷によるステップ応答のシミュレーション結果を図3に示す。図3から明らかなように、慣性負荷が大きくなると振動現象が発散している。次に、前記速度制御を行ったサーボモータの慣性負荷によるステップ応答のシミュレーション結果を図4に示す。図4から明らかなように、速度制御においては図3の位置制御と比較して、オーバーシュートは増加するものの安定に制御されている。また、応答時間についても、位置制御よりも速度制御のほうが格段に速くなっている。
【0032】
したがって、本実施形態においては、サーボ駆動方式として速度サーボ駆動を採用し、モータ回転子の速度に応じてマイクロステップ駆動と切り替えて制御することにより、位置決め精度が高く効率の良い駆動を実現している。この駆動制御においては、制御ゲインを高くしなくても良いため、複雑なゲイン設定を行なう必要はない。加えて、サーボ駆動方式として速度サーボ駆動を採用することにより、応答が速く安定した駆動制御を実現している。
【0033】
さらに、前述のように、マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動へ切り替わる際に、マイクロステップ駆動時の負荷に見合う電流がステッピングモータに流れるように制御されて、切り替え時の速度変動を抑制することができる。
したがって、いかなる負荷を負った場合でもスムーズな駆動方法の切替が可能となり、低速時のマイクロステップ駆動が有する利点を生かしつつ、損失の少ない高効率位置制御が実現できる。さらに、ステッピングモータ駆動制御装置1は、マイクロプロセッサによって制御が可能であると共に、位置検出器13を用いているため、停止時まで脱調検出が可能である。
【0034】
[第2の実施形態]
図5に第2の実施形態を示す。ステッピングモータ駆動制御装置20は、第1の実施形態と同様に、N相ステッピングモータ35の停止時と低速領域においてマイクロステップ駆動を実行し、中・高速領域において速度サーボ駆動を実行するように構成されている。駆動方法の切替は、第1の実施形態と同様に、駆動方法切替器24によって実行される。駆動方法切替器24から出力された切替信号に応じてスイッチ31が切り替えられることによって、上記駆動方法が切り替えられる。図5においては、スイッチ31はマイクロステップ駆動を選択している。
【0035】
速度指示作成器21に接続された速度制御器22、第1の電流指示作成器23、第1の電気角作成器27は、第1の実施形態における速度サーボ駆動部4に対応する。第2の電気角作成器29、第2の電流指示作成器30は、第1の実施形態におけるマイクロステップ駆動部3に対応する。速度指示作成器21、駆動切替器24、負荷推定器25、速度検出器26、偏差カウンタ28、スイッチ31、インバータ33、電流検出器34、位置検出器36は、第1の実施形態における速度指示作成器2、駆動切替器7、負荷推定器6、速度検出器10、偏差カウンタ5、スイッチ8、インバータ9、電流検出器11、位置検出器13とそれぞれ同様の処理を実行する。
【0036】
定常状態における速度サーボ駆動では、位置指示θを入力とする速度指示作成器21から出力された速度指示ωと、回転子位置θから速度検出器26によって算出された回転子速度ωとが速度制御器22に入力される。速度制御器22は、PI制御器を備え、速度指示ωと回転子速度ωとの差分に対してPI制御を行ない、トルク分電流指示を形成して第1の電流指示作成器23に出力する。
【0037】
第1の電流指示作成器23は、トルク分電流指示と、回転子位置θから第1の電気角作成器27によって作成された速度サーボ駆動のための電気角とから、速度サーボ駆動用の交流電流指示を形成して、スイッチ31を介して、電流制御器32に出力する。電流制御器32は、交流電流指示と、電流検出器34によって検出したステッピングモータ35の実電流iとから速度サーボ駆動用指令VsNを形成して、インバータ33に出力する。インバータ33は速度サーボ駆動用指令VsNを電力増幅し、ステッピングモータ35を速度サーボ駆動する。
【0038】
定常状態におけるマイクロステップ駆動では、第2の電気角作成器29が位置指示θを入力としてマイクロステップ駆動用の電気角指示(励磁電気角)θを第2の電流指示作成器30に出力する。電流指示作成器30は、電気角指示θと電流指示iからマイクロステップ駆動用の交流電流指示を形成して、スイッチ31を介して電流制御器32に出力する。電流制御器32は、交流電流指示と、電流検出器34によって検出したステッピングモータ35の実電流iとからマイクロステップ駆動用指令VmNを形成して、インバータ33に入力する。インバータ33はマイクロステップ駆動用指令VmNを電力増幅し、ステッピングモータ35をマイクロステップ駆動する。
【0039】
マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動に切り替わるときには、第1の実施形態と同様に、偏差カウンタ28によって出力された位置指示θと回転子位置θとの偏差dと、電流指示iとから負荷推定器25がマイクロステップ駆動時における負荷推定値Tを算出して速度制御器22に出力する。
推定負荷値Tに見合った積分初期値が速度制御器22の積分器に設定されて、マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動に切り替わるときの速度変動が抑制される。
【0040】
[第3の実施形態]
図6に第3の実施形態を示す。第3の実施形態に係るステッピングモータ駆動制御装置40は、第2の実施形態における電流制御器32の代わりに、速度サーボ駆動用電流制御器32aとマイクロステップ駆動用電流制御器32bの2つの電流制御器を設けたものである。
速度サーボ駆動用電流制御器32aは、第1の電流指示作成器23から出力された交流電流指示と、電流検出器34によって検出したステッピングモータ35の実電流iとから速度サーボ駆動用指令VsNを形成し、スイッチ31を介してインバータ33に出力するように構成されている。マイクロステップ駆動用電流制御器32bは、第2の電流指示作成器30から出力された交流電流指示と、電流検出器34によって検出したステッピングモータ35の実電流iとからマイクロステップ駆動用指令VmNを形成し、スイッチ31を介してインバータ33に入力するように構成されている。
【0041】
図5を参照して説明した第2の実施形態においては、電流制御器32が駆動方法切替スイッチ31の後段に配置されているため、アナログ回路による電流制御も可能であり、高速な応答を実現することができる。これに対して、図6を参照して説明した第3の実施形態においては、電流制御器32a,32bが駆動方法切替スイッチ31の前段に配置されているため、駆動指令を形成するための回路要素を全てデジタル回路によって構成することができる。
【0042】
[第4の実施形態]
図7に第4の実施形態を示す。第4の実施形態に係るステッピングモータ駆動制御装置50においては、位置検出器を設けずに、位置センサレス制御によって速度サーボ駆動を実現している。図7において、速度指示作成器52に接続された減算器53、速度制御器54、電流制御器55、適応オブザーバ56、積分器57、座標変換器58は、第1の実施形態における速度サーボ駆動部4に対応する。電気角作成器59、座標変換器60、(図示しない)減算器を備えた電流制御器61は第1の実施形態におけるマイクロステップ駆動部3に対応する。
【0043】
定常状態のセンサレス駆動において、速度指示作成器52は位置指示θを入力として速度指示ωを算出して減算器53に入力する。減算器53は、速度指示作成器52から出力された速度指示ωと、電流検出器66によって検出された実電流iに基づいて推定された推定速度との差分を算出して速度制御器54に出力する。速度制御器54は、PI制御器を備え、入力された差分に対してPI制御を行なってトルク分電流指示を形成し、該トルク分電流指示を電流制御器55に出力している。
【0044】
電流制御器55は、PI制御器を備え、予め設定され又は算出された推定励磁分電流指示及びトルク分電流指示と、電流検出器66によって検出された実電流から算出された励磁分電流及びトルク分電流との差分を算出してPI制御を実行し、dq軸電圧指示Vdqsを形成して出力している。dq軸電圧指示Vdqsはスイッチ64を介して座標変換器67に入力される。座標変換器67には、さらにスイッチ65を介して、電流検出器66によって検出された実電流iに基づいて推定された推定電気角が入力される。
【0045】
座標変換器67はdq軸電圧指示Vdqsと推定電気角とを入力としてdq−3相変換を実行し、センサレス駆動用指令VsNをPWMインバータ68に入力する。PWMインバータ68はセンサレス駆動用指令VsNを電力増幅し、ステッピングモータ51をセンサレス駆動する。
【0046】
前記推定速度及び前記推定電気角は、適応オブザーバ56によって算出される。適応オブザーバ56には電流検出器66によって検出された実電流が座標変換器58を介して入力される。座標変換器58はフィードバックされた推定電気角と入力された実電流(相電流)とから、3相−dq変換を実行して、励磁分電流とトルク分電流(dq軸電流)とを算出して、適応オブザーバ56に入力している。
【0047】
適応オブザーバ56は、入力された実電流(dq軸電流)と、電流制御器55から出力されたdq軸電圧指示Vdqsの電圧とから推定速度を算出し、該推定速度を積分器57を介して積分することによって推定電気角を算出している。
本実施形態のように、センサレス制御手段として適応オブザーバ56を使用すると、各制御部分のゲイン設定が容易になる。
【0048】
マイクロステップ駆動からセンサレス駆動に切り替えるときは、負荷推定器62によって算出した負荷推定値Tに見合う積分初期値を速度制御器54の積分器に設定する。本実施形態において、負荷推定器62は、ステッピングモータ51の各相への印加電圧、すなわち、マイクロステップ駆動指令VmNと、電流検出器66で検出した実電流iとに基づいてステッピングモータ51の回転子位置を推定し、推定した回転子位置と電気角作成器59から出力された電気角指示θとの偏差から負荷角を求めて、マイクロステップ駆動時の負荷推定値Tを算出する。回転子位置の推定方法としては、例えば、特開2004−180354号公報に開示された方法を用いることができる。
本実施形態では、電流制御器55においてもPI制御を実行しているため、電流制御器55の積分器においても、負荷推定器62で算出した負荷推定値Tに見合う積分初期値を設定する。
【0049】
一般的に、マイクロステップ駆動からセンサレス駆動への切替時ほどではないが、センサレス駆動からマイクロステップ駆動へ切り替える際にも、速度変動が生じる可能性がある。本実施形態におけるステッピングモータ駆動制御装置50は、センサレス駆動からマイクロステップ駆動への切替に起因する過渡現象についても抑制するために、以下のような処理を実行している。
【0050】
センサレス駆動からマイクロステップ駆動への切替時に、電気角作成器59が、センサレス駆動時におけるモータ51の負荷の値を示す負荷推定値Tを、速度制御器54から取得し、該推定負荷値Tと位置指示θとに基づいて、該推定負荷値Tに見合う電流をステッピングモータ51に流すように電気角指示θを形成する。速度制御器54は前記速度指示ωと推定速度との差分に基づいて算出したトルク分電流に対して、予め与えられているモータ定数を乗じて負荷推定値Tを算出している。上記駆動方法の切替時に、電気角作成器59が取得する負荷推定値Tは、センサレス駆動からマイクロステップ駆動へ切り替えられる直前に速度制御器54によって算出された負荷推定値Tである。
【0051】
電気角作成器59には、さらに位置指示θが入力される。この位置指示θは、マイクロステップ駆動に切り替わる際に位置誤差調整器69にも入力される。以下、位置誤差調整器69について説明する。位置誤差調整器69には、前記位置指示θに加えて、適応オブザーバ56から積分器57を介して出力された推定電気角が入力される。
位置誤差調整器69は、推定電気角と位置指示θの偏差を算出して、電気角作成器59に出力する。電気角作成器59は入力された偏差を位置指示θに加算する。電気角作成器59は、前記偏差を加算した位置指示θと負荷推定値Tとから、センサレス駆動時の負荷に見合う電流がモータ51に流れるように、電気角指示(励磁電気角)θを形成して、座標変換器60に出力している。
【0052】
前記位置誤差調整器69は、速度制御系であるセンサレス駆動と位置制御系であるマイクロステップ駆動とを切り替えるときに生じる演算誤差を解消する目的を有している。すなわち、センサレス駆動では、速度指示作成器52を介して位置指示θから速度指示ωを算出する等、位置と速度の変換を実行している。したがって、このような変換の過程で生じた演算誤差によって速度指示と位置指示の整合がとれなくなる可能性がある。
【0053】
そこで、位置誤差調整器69は、速度指示と位置指示の整合をとるために、入力された推定電気角と入力された位置指示θとの偏差を算出して、電気角作成器59に出力している。そして、電気角作成器59は該偏差を位置指示θに加算して電気角指示θを形成している。これにより、マイクロステップ駆動に切り替えたときに、演算誤差等が解消された電気角指示θが出力されることになる。
【0054】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
例えば、上記実施形態における定常時の速度サーボ駆動及びマイクロステップ駆動は上記実施形態に限定されない。他の構成要素及び制御によって実行される様々な速度サーボ駆動及びマイクロステップ駆動を本発明に適用することができる。
【0055】
上記第1〜第3の実施形態において、第4の実施形態と同様に、速度サーボ駆動からマイクロステップ駆動への切替に起因する過渡現象を抑制するための構成を備えても良い。この場合、第1〜第3の実施形態における速度制御器は、速度指示ωと回転子速度ωとの差分に基づいて算出したトルク分電流に対して、予め与えられているモータ定数を乗じて負荷推定値Tを算出する。負荷推定値Tを用いたマイクロステップ駆動用電気角の作成は第4の実施形態と同様の処理によって実行することができる。
【0056】
上記第4の実施形態では、位置誤差調整器69は、速度サーボ駆動からマイクロステップ駆動へ切り替えたときに動作している。しかしながら、位置誤差調整器69は速度サーボ駆動中に動作して位置誤差を調整することもできる。この場合、位置誤差調整器69は、速度サーボ駆動中において、位置指示θと推定電気角の偏差を算出して速度指示作成器52に出力する。速度指示作成器52は該偏差を位置指示θに加算して該偏差を加算した位置指示θから速度指示を算出することによって、演算誤差等が補正された速度指示を出力する。このように、速度サーボ駆動中に速度指示作成器52から出力される速度指示が位置誤差調整器69を介してすでに調整されている場合には、マイクロステップ駆動へ切り替える際に、推定電気角の位置指示θに対する誤差等を補正する必要はない。したがって、上記第4の実施形態において、速度サーボ駆動中に位置誤差調整器69を介して上記速度指示を調整した場合には、位置誤差調整器69は、前記偏差を電気角作成器59に出力する必要はない。
【0057】
上記第4の実施形態において、速度サーボ駆動時の負荷推定値Tは速度制御器54においてトルク分電流に基づいて算出されているが、これに限定されない。例えば、座標変換器58から出力されるトルク分電流に、任意の演算手段を介してモータ定数を乗じることによって速度サーボ駆動時の負荷推定値Tを算出し、該算出した負荷推定値Tを電気角作成器59に入力するように構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】第1の実施形態に係るステッピングモータ駆動制御装置のブロック図である。
【図2】マイクロステップ駆動を実行した場合と速度サーボ駆動を実行した場合における、効率とトルクの関係を示すグラフである。
【図3】サーボ駆動方式として位置制御を実行した場合における、サーボモータの慣性負荷によるステップ応答シミュレーションの結果を示すグラフである。
【図4】サーボ駆動方式として速度制御を実行した場合における、サーボモータの慣性負荷によるステップ応答シミュレーションの結果を示すグラフである。
【図5】第2の実施形態に係るステッピングモータ駆動制御装置のブロック図である。
【図6】第3の実施形態に係るステッピングモータ駆動制御装置のブロック図である。
【図7】第4の実施形態に係るステッピングモータ駆動制御装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0059】
1,20,40,50 ステッピングモータ駆動制御装置
3 マイクロステップ駆動部
4 速度サーボ駆動部
6,25,62 負荷推定器
7,24,63 駆動方法切替器
11,34,66 電流検出器
12,35,51 ステッピングモータ
2,21,52 速度指示作成器
22,54 速度制御器
27,29,59 電気角作成器
32,55,61 電流制御器
56 適応オブザーバ
69 位置誤差調整器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロステップ駆動と速度サーボ駆動とを切り替えてステッピングモータを制御するステッピングモータ駆動制御装置であって、
前記ステッピングモータに流れる実電流を検出する電流検出器と、
位置指示から形成された速度指示と、検出した前記実電流とに基づいて、前記ステッピングモータの各相に流す駆動電流を決定する第1の駆動指令を形成する速度サーボ駆動手段と、
予め設定又は算出された電流指示と、前記位置指示と、検出した前記実電流とに基づいて、前記ステッピングモータの各相に流す駆動電流を決定する第2の駆動指令を形成するマイクロステップ駆動手段と、
前記マイクロステップ駆動時における前記ステッピングモータの負荷を推定して負荷推定値を得る負荷推定器と
を備え、
前記速度サーボ制御手段は、マイクロステップ駆動から速度サーボ駆動に切り替えたときに、前記駆動電流を前記推定した負荷に見合う大きさに決定すべく、前記第1の駆動指令の形成要素として前記負荷推定値を用いるように構成されている、ステッピングモータ駆動制御装置。
【請求項2】
前記ステッピングモータの回転子位置を検出する位置検出器を備え、
前記負荷推定器は、検出した前記回転子位置と、前記位置指示との偏差から前記負荷推定値を算出することを特徴とする、請求項1に記載のステッピングモータ駆動制御装置。
【請求項3】
前記速度サーボ駆動手段は、前記検出した実電流から前記ステッピングモータの回転子速度を推定し、該推定した回転子速度を用いて前記第1の駆動指令を形成する、位置センサレス駆動を実行し、
前記負荷推定器は、前記第2の駆動指令と前記実電流とから前記ステッピングモータの回転子位置を推定して、該推定した回転子位置と前記位置指示との偏差から前記負荷推定値を算出することを特徴とする、請求項1に記載のステッピングモータ駆動制御装置。
【請求項4】
前記速度サーボ制御手段は、
前記速度指示と前記回転子速度との偏差にPI補償を施すことによって得られるトルク分電流指示を用いて前記第1の駆動指令を形成すると共に、
前記速度サーボ駆動に切り替えたときに、前記負荷推定値を用いて前記PI補償のための積分要素の初期値を設定するように構成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のステッピングモータ駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−28949(P2010−28949A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185914(P2008−185914)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000103792)オリエンタルモーター株式会社 (150)
【Fターム(参考)】