説明

スピーカー振動板、およびそのスピーカー振動板を備えるスピーカー

【課題】分割振動の発生を抑制し得るスピーカー振動板およびこのようなスピーカー振動板を備えるスピーカーを提供すること。
【解決手段】本発明のスピーカー振動板は、振動板部と、該振動板部とは異なる材料で一体成形されて構成されるエッジ部とを備え、該振動板部の外周端が、該振動板部の振動方向と略平行の方向に立ち上がる外壁部を有し、該エッジ部の内周面が、該外壁部の外周面に接合され、該外壁部の高さが、振動板部の厚みよりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスピーカー振動板、およびそのスピーカー振動板を備えるスピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スピーカーに使用されているスピーカー振動板等の振動系部品は、所定形状に成形した振動板、エッジ、ガスケット等の各部品を接着剤を用いて組み立てられる。このようにして得られる振動系部品は、各部品の組み合わせによっては接着不良が生じたり、接着剤の塗布量のバラツキによる特性の乱れが生じるという問題がある。また、スピーカーの動作不良を防止するため、高精度な組み立て治具を用いる必要があり、生産性が悪いという問題がある。さらに、接着しがたい材料(例えば、オレフィン系熱可塑性樹脂)を用いた場合、接着剤塗布の前に、プライマー塗布等の工程がさらに必要になり、生産性および生産コストの面で問題がある。
【0003】
上記問題を解消するため、振動板と、エッジおよびガスケットとを2色成形する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、振動板とエッジとの接合部分の強度および剛性が低く、これらが分割振動の原因となるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−15793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、分割振動の発生を抑制し得るスピーカー振動板およびこのようなスピーカー振動板を備えるスピーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のスピーカー振動板は、振動板部と、該振動板部とは異なる材料で一体成形されて構成されるエッジ部とを備え、該振動板部の外周端が、該振動板部の振動方向と略平行の方向に立ち上がる外壁部を有し、該エッジ部の内周面が、該外壁部の外周面に接合され、該外壁部の高さが、振動板部の厚みよりも大きい。
好ましい実施形態においては、上記振動板部が、上記外壁部の下方に延びる、ボイスコイルガイド部を有する。
好ましい実施形態においては、上記振動板部が、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂と無機フィラーまたは穀物とを含む。
好ましい実施形態においては、上記エッジ部のJIS−A硬度が、0°〜70°である。
好ましい実施形態においては、上記スピーカー振動板は、上記振動板部と同一の材料により構成されて、上記エッジ部の外周部に一体成形されて接合されたガスケット部をさらに備える。
好ましい実施形態においては、上記外壁部が、径方向に突出した凸状部を有し、該凸状部が、該外壁部の周方向に略均等の間隔で、複数設けられている。
好ましい実施形態においては、上記スピーカー振動板は、上記振動板部と上記エッジ部とを、2色成形により一体に成形して得られる。
本発明の別の局面においてはスピーカーが提供される。このスピーカーは、上記のスピーカー振動板と、上記ボイスコイルガイド部に嵌合されたボイスコイルとを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スピーカー振動板の振動板部の外周端が、該振動板部の振動方向と略平行の方向に立ち上がる外壁部を有し、該外壁部の外周面とエッジ部の内周面とが接合されていることにより、当該接合部の強度に優れ、分割振動の発生を抑制し得るスピーカー振動板およびこれを用いるスピーカーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】(a)は、本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板の概略平面図であり、(b)は、(a)のスピーカー振動板のIb−Ib線による要部断面図であり、(c)は(a)のスピーカー振動板のIc−Ic線による要部断面図である。
【図2】(a)は、本発明の別の好ましい実施形態によるスピーカー振動板の概略平面図であり、(a)のスピーカー振動板のIIb−IIb線による要部断面図であり、(c)は(a)のスピーカー振動板のIIc−IIc線による要部断面図である。
【図3】本発明の好ましい実施形態によるスピーカーの概略図である。
【図4】本発明の別の好ましい実施形態によるスピーカーの概略斜視図である。
【図5】本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板の製造方法を模式的に示す概略図である。
【図6】本発明の別の好ましい実施形態によるスピーカー振動板の製造方法を模式的に示す概略図である。
【図7】比較例1で得られたスピーカー振動板の概略断面図である。
【図8】実施例1および比較例1で得られるスピーカーの音圧周波数特性を示すグラフである。
【図9】実施例1および比較例2で得られるスピーカーの音圧周波数特性を示すグラフである。
【図10】実施例1および比較例2で得られるスピーカー振動板の荷重に対する変位特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.スピーカー振動板およびスピーカーの全体構成
図1(a)は、本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板の概略平面図であり、図1(b)は図1(a)のスピーカー振動板のIb−Ib線による要部断面図であり、図1(c)は図1(a)のスピーカー振動板のIc−Ic線による要部断面図である。なお、図1(b)および図1(c)は、点Oを通る中心軸に対して対称な左半分を省略しており、図1(a)と図1(b)および図1(c)とは、縮尺が異なることに留意されたい。このスピーカー振動板100は、振動板部10と、振動板部10とは異なる材料で構成されるエッジ部20とを備える。エッジ部20は、振動板部10の外周部に接合されている。振動板部10は、その外周端において、振動板部10の振動方向A(以下、振動方向Aという)と略平行の方向に立ち上がる筒状の外壁部11を有する。振動板部10とエッジ部20とは、外壁部11の外周面と、エッジ部20の内周面とが密着して接合している。また、外壁部11の高さXは、振動板部の厚みY1より大きい。
【0010】
上記のとおり、振動板部10の外壁部11は振動方向Aと略平行の方向に立ち上がっている。したがって、振動板部10とエッジ部20との接合部の接合面の方向は、振動方向Aに対して略平行である。振動板部10とエッジ部20とがこのように接合していれば、エッジ部20が振動板部10の振動の影響を受け難く、外壁部の高さXが振動板部の厚みY1よりも大きいので、外壁部11の外周面に形成される接合部は接合強度に優れる。その結果、振動板部10とエッジ部20との反共振を抑制し、分割振動の少ないスピーカー振動板を得ることができる。
【0011】
上記のとおり、外壁部11の高さXは、振動板部の厚みY1より大きい。1つの実施形態においては、外壁部11およびリブ14が形成された部分を除いた振動板部10の厚みY1は、好ましくは、0.1mm〜0.3mmである。上記外壁部11の厚みは、凸状部が形成されていない部分の厚みY2は、好ましくは径方向に0.1mm〜0.3mmであり、凸状部13が形成されている部分の厚みY3は、好ましくは径方向に0.5mm〜0.7mmである。上記外壁部11の高さXは、好ましくは0.5mm〜1mmであり、さらに好ましくは0.75mm〜1mmである。なお、エッジ部20の厚みZは、好ましくは0.1mm〜0.3mmである。
【0012】
好ましくは、振動板部10は、外壁部11の下方に延びるボイスコイルガイド部12を有する。ボイスコイルガイド部12は、振動板部10の一部として設けられる。このような位置にボイスコイルガイド部12を有すれば、振動板部10とエッジ部20との接合部から近い位置に、ボイスコイルを配置し得るので、分割振動の少ないスピーカーを得ることができる。1つの実施形態においては、図示例のように、ボイスコイルガイド部12は、外壁部11の外周面より内側(中心側)において外壁部11の下方に延びて、外壁部11の外周面と段差を設けるように形成される。このように段差を設ければ、ボイスコイルを容易に取り付け、固定することができる。
【0013】
上記外壁部11は、図1(a)に示すように、径方向に突出した凸状部13を有していてもよい。凸状部13は、径方向の内側または外側のいずれに突出していてもよく、また、径方向の内側および外側の両方に突出していてもよい。好ましくは、図示例のように、凸状部13は、径方向の内側に突出している。凸状部13を有していれば、成形後の金型からの離型が容易になる。凸状部13は、振動板部10の外壁部11の周方向に略均等の間隔で複数設けられ得る。1つの実施形態においては、凸状部13は、周方向に60°間隔で6個設けられる。
【0014】
振動板部10は、その表面に、振動板部10の中央側から外側へ放射線状に形成されるソリッド状のリブ14を有していてもよい。当該リブ14は上記凸状部13と対応する位置に複数配置され得る。
【0015】
図2(a)は、本発明の別の好ましい実施形態によるスピーカー振動板の概略平面図であり、図2(b)は図2(a)のスピーカー振動板のIIb−IIb線による要部断面図であり、図2(c)は図2(a)のスピーカー振動板のIIc−IIc線による要部断面図である。なお、図2(b)および図2(c)は、点Oを通る中心軸に対して対称な左半分を省略しており、図2(a)と図2(b)および図2(c)とは、縮尺が異なることに留意されたい。このスピーカー振動板200は、エッジ部20の外周部に接合されたガスケット部30をさらに備える。
【0016】
本発明のスピーカー振動板は、一体成形体である。すなわち、上記振動板部およびエッジ部は、接着剤を用いずに一体化される。また、スピーカー振動板がガスケット部を有する場合、振動板部、エッジ部およびガスケット部は、接着剤を用いずに一体化され得る。このような構成であれば、各部材が強固に融着されて接合強度が高く、分割振動の少ないスピーカー振動板を得ることができる。また、接着剤塗布量のバラツキの問題が生じず、品質安定性に優れたスピーカー振動板を得ることができる。さらに、部品点数および工数を削減することができ、安価にスピーカーおよびスピーカー振動板を得ることができる。
【0017】
図3は、本発明の好ましい実施形態によるスピーカーの概略図である。図3において左半分は、スピーカーの側面を概略的に示し、右半分はスピーカーの断面を概略的に示す。このスピーカー300は、スピーカー振動板100または200(図示例ではスピーカー振動板200)と、ボイスコイル40とを備える。ボイスコイル40は、スピーカー振動板における上記ボイスコイルガイド部12に嵌合される。好ましくは、ボイスコイル40は、円筒状のボビン41にコイル42が巻回されて構成され、スピーカー振動板のボイスコイルガイド部12にボビン41の端部が挿入され、任意の適切な接着剤(例えば、ゴム系接着剤、エポキシ系接着剤、紫外線硬化型接着剤等)を用いて接着される。なお、スピーカー振動板がガスケット部を有していない場合、スピーカーは別部品として構成されたガスケットを接着して得られ得る。また、本発明のスピーカーは、実用的には、図4に示すように、磁気回路部品50およびフレーム60を備え得る。
【0018】
A−1.振動板部
上記振動板部は任意の適切な樹脂を含む。振動板部に含まれる樹脂は、エッジ部に含まれる熱可塑性エラストマー(後述)との接着性(融着性)に優れる樹脂を用いることが好ましい。エッジ部と一体成形する際に、高い接着性を得ることができるからである。このような樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂が挙げられる。ポリオレフィン系熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリ(1−ブテン)およびポリイソブテン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。これらは、単独でまたは二種以上組み合わせて用いられ得る。このような樹脂を用いることにより、内部損失に優れ、かつ軽量なスピーカー振動板を得ることができる。とりわけ好ましくは、ポリプロピレンである。強度、軽量性および汎用性のバランスに優れるからである。
【0019】
上記振動板部に含まれる樹脂の溶解度パラメーターは、エッジ部に含まれる熱可塑性エラストマーの種類に応じて設定され得る。好ましくは7.8(J/cm1/2〜10(J/cm1/2であり、さらに好ましくは7.9(J/cm1/2〜8.2(J/cm1/2である。
【0020】
上記振動板部は、任意の適切な添加剤を含有し得る。添加剤としては、例えば、無機フィラー、穀物等が挙げられる。
【0021】
上記振動板部に無機フィラーを含有させることにより、優れた耐熱性および強度を有するスピーカー振動板を得ることができる。無機フィラーの具体例としては、ガラス繊維、マイカ等が挙げられる。上記ガラス繊維は、好ましくは0.1mm〜2mmの繊維長さ、さらに好ましくは0.5mm〜1mmの繊維長さを有する。また、ガラス繊維は、好ましくは3μm〜24μmの繊維径、さらに好ましくは5μm〜10μmの繊維径を有する。
【0022】
上記穀物としては、任意の適切な穀物が用いられる。穀物の具体例としては、米、トウモロコシ、麦類(例えば、大麦、小麦、ライ麦等)、キビ、アワ、ヒエ、サトウキビ等が挙げられる。これらは、単独でまたは二種以上組み合わせて用いられ得る。これらの中でも、好ましくは、米である。米としては、食用のみならず、非食用の資源米も用いることができる。廃棄される余剰米である資源米を用いることで、生産コストおよび環境面において優れ得る。
【0023】
上記振動板部の形状は、任意の適切な形状を採用し得る。好ましくは、ドーム形状である。ドーム形状であれば、振動板部とエッジ部との接合部から近い位置にボイスコイルを配置し得るので、分割振動の少ないスピーカー振動板を得ることができる。
【0024】
A−2.エッジ部
上記エッジ部は、好ましくは、熱可塑性エラストマーを含む。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー等が挙げられる。なかでも好ましくは、スチレン系エラストマーである。低硬度かつ伸びに優れるため、大振幅時においても優れたリニアリティ性を有するスピーカー振動板およびスピーカーが得られ得るからである。
【0025】
上記スチレン系エラストマーの具体例としては、ポリスチレン−水添ポリブタジエン−ポリスチレンのトリブロック共重合体、ポリスチレン−水添ポリイソプレン−ポリスチレンのトリブロック共重合体、ポリスチレン−水添ブタジエン/イソプレン共重合体−ポリスチレンのトリブロック共重合体、ポリスチレン−ポリイソブテン−ポリスチレンのトリブロック共重合体、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンのトリブロック共重合体等が挙げられる。これらは、単独でまたは二種以上組み合わせて用いられ得る。
【0026】
上記熱可塑性エラストマーの溶解度パラメーターは、好ましくは8.1(J/cm1/2〜9.7(J/cm1/2であり、さらに好ましくは8.1(J/cm1/2〜8.5(J/cm1/2である。
【0027】
上記エッジ部のJIS−A硬度は、好ましくは0°〜70°であり、さらに好ましくは15°〜60°であり、特に好ましくは35°〜55°である。このような範囲であれば、大振幅時においてもリニアリティ性に優れるスピーカー振動板およびスピーカーを得ることができる。
【0028】
上記エッジ部を構成する材料のJIS−K6251による引っ張り破断伸びは、好ましくは500%〜1000%である。このような範囲であれば、大振幅時においてもリニアリティ性に優れるスピーカー振動板およびスピーカーを得ることができる。
【0029】
A−3.ガスケット部
上記ガスケット部は任意の適切な樹脂を含む。ガスケット部に含まれる樹脂は、A−1項で説明した振動板部に含まれる樹脂と同様の樹脂が用いられ得る。好ましくは、ガスケット部を構成する材料は、上記振動板部を構成する材料と同一である。
【0030】
B.スピーカー振動板の製造方法
本発明のスピーカー振動板の振動板部およびエッジ部は、一体成形により製造される。より具体的には、本発明のスピーカー振動板は、振動板部とエッジ部とが異なる材料により構成されるので、これらの部材が2色成形により一体に成形される。このように2色成形することにより、異なる材料を溶融状態で接合して強固に融着することができ、当該接合部の強度が高く、分割振動の少ないスピーカー振動板を得ることができる。また、接着剤を用いないので、接着剤塗布量のバラツキの問題が生じず、品質安定性に優れたスピーカー振動板を得ることができる。さらに、部品点数および工数を削減することができ、安価にスピーカーおよびスピーカー振動板を得ることができる。
【0031】
上記2色成形の方法は、任意の適切な方法を採用し得る。上記2色成形は、1次成形において振動板部を成形し、2次成形においてエッジ部を成形してもよく、1次成形においてエッジ部を成形し、2次成形において振動板部を成形してもよい。好ましくは、1次成形において振動板部を成形し、2次成形においてエッジ部を成形する。以下、1次成形において振動板部を成形し、2次成形においてエッジ部を成形する実施形態について説明する。
【0032】
図5は、本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板の製造方法を模式的に示す概略図である。図5(a)はこの製造方法における1次成形の方法を模式的に示し、図5(b)はこの製造方法における2次成形の方法を模式的に示し、図5(c)はこの製造方法における成形体(スピーカー振動板)を金型から取り出す方法を模式的に示す。図5に示す製造方法によれば、図1に示すスピーカー振動板100が得られる。
【0033】
1次成形においては、図5(a)に示すように、第1の金型71と第2の金型72とにより形成された振動板部を成形するための第1のキャビティー1に、振動板部成形用組成物を射出して、振動板部を成形する。
【0034】
図5に示す実施形態における第2の金型72は貫通孔を有する。第2の金型72は当該貫通孔を複数個(例えば、同心円状に60°間隔で6個)有し得る。1次成形および2次成形の際には当該貫通孔には、貫通孔と同じ径(例えば、直径0.6mm)の離型ピン80が挿入される。当該貫通孔は、好ましくは、上記振動板部10の凸状部13と対応する位置に設けられ、当該凸状部13は、離型ピン80が当接する面を有し得る。
【0035】
上記振動板部成形用組成物は、A−1項で説明した樹脂を含む。振動板部成形用組成物における樹脂の含有割合は、好ましくは45重量%〜95重量%であり、さらに好ましくは55重量%〜90重量%であり、特に好ましくは65重量%〜80重量%である。
【0036】
上記振動板部成形用組成物は、必要に応じて、A−1項で説明した無機フィラー、穀物等の添加剤をさらに含み得る。振動板部成形用組成物における無機フィラーの含有割合は、好ましくは5重量%〜55重量%、さらに好ましくは10重量%〜35重量%である。振動板部成形用組成物における穀物の含有割合は、好ましくは10重量%〜50重量%、さらに好ましくは20重量%〜30重量%である。
【0037】
1次成形における射出成形の条件は、材料の種類に応じて、任意の適切な条件に設定することができる。
【0038】
2次成形においては、図5(b)に示すように、第1の金型71を取り外した後、エッジ部に対応した形状の第3の金型73と、第2の金型72とにより第2のキャビティー2を形成する。その後、第2のキャビティー2にエッジ部成形用組成物を射出して、エッジ部を成形する。
【0039】
上記エッジ部成形用組成物は、A−2項で説明した熱可塑性エラストマーを含む。エッジ部成形用組成物における熱可塑性エラストマーの含有割合は、好ましくは20重量%〜80重量%であり、さらに好ましくは40重量%〜70重量%である。
【0040】
上記エッジ部成形用組成物は、好ましくは、ポリオレフィンをさらに含む。ポリオレフィンの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、プロピレン/4−メチル−1−ペンテン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリブテン−1等が挙げられる。ポリオレフィンには、加工性及び耐熱性を向上させる目的で、ポリスチレンを併用することができる。
【0041】
上記ポリオレフィンの含有割合は、上記熱可塑性エラストマー100重量部に対して、好ましくは2重量部〜20重量部であり、さらに好ましくは5重量部〜20重量部である。
【0042】
上記エッジ部成形用組成物は、好ましくは、ポリブテンをさらに含む。当該ポリブテンの構成単位は、n−ブテンでもよく、イソブテンでもよく、また、当該ポリブテンはイソブテンを主成分としたイソブテン/n−ブテン共重合体でもよい。
【0043】
上記ポリブテンの含有割合は、上記熱可塑性エラストマー100重量部に対して、好ましくは70重量部以下であり、さらに好ましくは15重量部〜35重量部である。
【0044】
上記エッジ部成形用組成物は、好ましくは、オイルをさらに含む。オイルの具体例としては、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、シリコーンオイル、芳香族系オイル、植物系オイル等が挙げられる。
【0045】
上記オイルの含有割合は、上記熱可塑性エラストマー100重量部に対して、好ましくは70重量部〜300重量部であり、さらに好ましくは70重量部〜270重量部である。
【0046】
上記エッジ部成形用組成物は、任意の適切な添加剤を含有し得る。添加剤としては、顔料、難燃剤、老化防止剤、帯電防止剤、抗菌剤、酸化防止剤、無機中空フィラー、無機充填剤、有機充填剤、離型剤、光安定剤、粘着付与剤、接着性エラストマー等が挙げられる。添加剤の数、種類および量は、目的に応じて適切に選択され得る。
【0047】
上記エッジ部成形用組成物は、市販品を用いてもよい。市販品の具体例としては、ブリヂストン社製の商品名「ER830」、「ER545」が挙げられる。
【0048】
2次成形における射出成形の条件は、材料の種類に応じて、任意の適切な条件に設定することができる。
【0049】
2次成形の後、成形体(スピーカー振動板)は、金型から取り出される。具体的には、図5(c)に示すように、第3の金型73を取り外した後、振動板部10の凸状部13に当接させた離型ピン80を押し上げることにより、成形体(スピーカー振動板)を第2の金型72から離型させて取り出すことができる。
【0050】
図6は、本発明の別の好ましい実施形態によるスピーカー振動板の製造方法を模式的に示す概略図である。図6(a)はこの製造方法における1次成形の方法を模式的に示し、図6(b)はこの製造方法における2次成形の方法を模式的に示し、図6(c)はこの製造方法における成形体(スピーカー振動板)を取り出す方法を模式的に示す。この製造方法により製造されるスピーカー振動板はガスケット部を備える。この製造方法においては、第1の金型71’と第2の金型72’とにより、ガスケット部を形成するための第3のキャビティー3がさらに形成されている。
【0051】
本発明のスピーカー振動板がガスケット部を有する場合は、振動板部、エッジ部およびガスケット部が一体成形(例えば、振動板部とガスケット部が同一材料の場合は2色成形)され得る。本発明のスピーカー振動板がガスケット部を有する場合は、好ましくは、振動板部とガスケット部とは同一の材料が採用され、図6(a)および図6(b)に示すように、1次成形において振動板部およびガスケット部を成形し、2次成形においてエッジ部を成形する。
【実施例】
【0052】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、特に示さない限り、実施例中の部およびパーセントは重量基準である。
【0053】
[実施例1]
スピーカー振動板は、図6に示す製造方法に準じて作製した。
1.1次成形
図6に示す断面形状の第1の金型71’および第2の金型72’(いずれも、最外径φ19.2mm)を用いた。これらの金型により形成された第1のキャビティー1’(振動板部)および第3のキャビティー3(ガスケット部)において、表1に示す組成の成形用組成物により振動板部およびガスケット部の成形を行った(図6(a))。
【表1】

2.2次成形
第1の金型71’を取り外した後、第2の金型72’および第3の金型73’により第2のキャビティー2’を形成させた。第2のキャビティー2’において、エッジ部成形用組成物によりエッジ部の成形を行った(図6(b))。その後、金型から成形体を取り出して(図6(c))、高さ1.8mmのスピーカー振動板を得た。エッジ部成形用組成物としては、超低硬度スチレン系熱可塑性エラストマー組成物(ブリヂストン社製:JIS−A硬度35°)を用いた。
3.その他の部材の組み立て
上記成形により得られたスピーカー振動板の振動板部とエッジ部の接合部直下(ボイスコイルガイド部12)に、ボイスコイルを挿入して、接着した。
さらに、フレームおよび磁気回路部品を治具を用いて組み込み、φ20mm口径のスピーカーを得た。
【0054】
[実施例2]
1次成形用組成物を表2に示す組成とした以外は、実施例1と同様にしてスピーカー振動板およびスピーカーを得た。
【表2】

【0055】
[比較例1]
図7に示すように、振動板部が外壁部を有さず、振動板とエッジ部との接合部の方向を、振動板部に沿った方向とした以外は、実施例1と同様にしてスピーカー振動板を得た。このスピーカー振動板を用いて、実施例1と同様にしてスピーカーを得た。
【0056】
[比較例2]
振動板部を形成する材料として紙、エッジ部を形成する材料としてコーティング布を用いた。振動板部およびエッジ部をそれぞれ実施例1と略同形状に成形した後、接着剤を用いて貼り合わせて、スピーカー振動板を得た。その後、実施例1の「3.その他の部材の組み立て」と同様にして、φ20mm口径のスピーカーを得た。
【0057】
<評価>
1.音圧周波数特性
実施例1および比較例1で得られるスピーカーについて、有限要素法を用いた振動シミュレーションを行い、音圧周波数特性を評価した。結果を図8示す。また、実施例1および比較例2で得られるスピーカーについて、音圧周波数特性を実測して評価した。結果を図9に示す。
2.荷重―変位特性
実施例1および比較例2で得られたスピーカー振動板について、荷重に対する変位特性を評価した。結果を図10に示す。
【0058】
図8より明らかなように、本発明のスピーカー振動板を用いた実施例1のスピーカーは、比較例1の場合よりもほぼフラットに近づく音圧周波数特性を示す。一方、振動板部とエッジ部とが振動板部に沿った方向で接合しているスピーカー振動板を用いた比較例1のスピーカーは、約2kHz付近で大きな落ち込みが見られる。本発明のスピーカー振動板は、振動板部とエッジ部との接合強度が振動方向に対して強いため、このように優れた特性が得られる。一方、比較例1の場合には、振動板部とエッジ部の接合部の強度が振動方向に対して弱くなってしまうため、振動板部とエッジ部での反共振を引き起こしやすくなっている。
【0059】
また、図9に示すように、本発明のスピーカー振動板を用いた実施例1のスピーカーは、小口径でも優れた低域特性が得られる。実施例1のスピーカーは、最低共振周波数f0(=約300Hz)以下において、比較例2のスピーカーよりも高い音圧レベルを示す。
【0060】
本発明のスピーカー振動板は、エッジ部に超低硬度で伸びに優れた熱可塑性エラストマーを用いているので、図10に示すように大きな荷重がかかる大振幅時でも優れたリニアリティ性が得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のスピーカー振動板およびこれを用いたスピーカーは、あらゆる用途に好適に用いられ得、特に、携帯電子機器用(例えば、ノートパソコン、携帯電話、携帯音楽プレーヤー)等の小型スピーカーとして好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0062】
1、1’ 第1のキャビティー
2、2’ 第2のキャビティー
3 第3のキャビティー
10 振動板部
11 外壁部
20 エッジ部
30 ガスケット部
40 ボイスコイル
50 磁気回路部品
60 フレーム
71、71’ 第1の金型
72、72’ 第2の金型
73、73’ 第3の金型
80 離型ピン
100、200 スピーカー振動板
300 スピーカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板部と、該振動板部とは異なる材料で一体成形されて構成されるエッジ部とを備え、
該振動板部の外周端が、該振動板部の振動方向と略平行の方向に立ち上がる外壁部を有し、
該エッジ部の内周面が、該外壁部の外周面に接合され、
該外壁部の高さが、振動板部の厚みよりも大きい、
スピーカー振動板。
【請求項2】
前記振動板部が、前記外壁部の下方に延びる、ボイスコイルガイド部を有する、請求項1に記載のスピーカー振動板。
【請求項3】
前記振動板部が、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂と無機フィラーまたは穀物とを含む、請求項1または2に記載のスピーカー振動板。
【請求項4】
前記エッジ部のJIS−A硬度が、0°〜70°である、請求項1から3のいずれかに記載のスピーカー振動板。
【請求項5】
前記振動板部と同一の材料により構成されて、前記エッジ部の外周部に一体成形されて接合されたガスケット部をさらに備える、請求項1から4のいずれかに記載のスピーカー振動板。
【請求項6】
前記外壁部が、径方向に突出した凸状部を有し、
該凸状部が、該外壁部の周方向に略均等の間隔で、複数設けられている、
請求項1から5のいずれかに記載のスピーカー振動板。
【請求項7】
前記振動板部と前記エッジ部とを、2色成形により一体に成形して得られる、請求項1から6のいずれかに記載のスピーカー振動板。
【請求項8】
請求項2から7のいずれかに記載のスピーカー振動板と、前記ボイスコイルガイド部に嵌合されたボイスコイルとを備える、スピーカー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−10127(P2012−10127A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144605(P2010−144605)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(710014351)オンキヨー株式会社 (226)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
【Fターム(参考)】