説明

スピーカ装置

【課題】駆動系の発熱が振動板に悪影響を及ぼすのを防止しつつ、スピーカ装置の薄型化を図ること。
【解決手段】平面状の振動板2を振動させて該振動板4の表側に向かって音を放出させるスピーカ装置1において、振動板2を保持するために、振動板2の裏側に装着されるフレーム5と、振動板2の裏側に装着され、磁気回路を形成する永久磁石6と、磁気回路に対して接離する方向に往復運動する駆動用コイル7と、を有し、駆動用コイル7は、永久磁石6との間に接離する方向に沿うクリアランスを有するように、フレーム5において振動板4と対向する側に装着されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、映像を投影することが可能なパネルを振動させ、該パネルから音を発生させるパネル型のスピーカ装置が実用化されている。このようなパネル型のスピーカ装置は、映像を映し出すためのパネルの大型化が要求されており、これに伴い、スピーカ装置の薄型化も要望されている。
【0003】
従来から、パネルの中央にボイスコイルを配置すると共に、該パネルを支持する支持体に駆動体を配置し、該駆動体によってボイスコイルを駆動させ、スクリーンの前方より音を放出させるパネル型のスピーカ装置が存在する。このようなタイプのスピーカ装置としては、例えば、特許文献1に開示されているものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−319626号公報(要約書)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているスピーカ装置は、支持体に配置される駆動体の駆動力によりボイスコイルを振動させ、パネルの前面から音を放出させている。このスピーカ装置に用いられている駆動体は、ヨークとマグネットから構成されており、比較的大きな厚さ寸法を有する。また、ボイスコイルも該駆動体に対応するような厚さ寸法を有するため、当該構成を有するスピーカ装置の薄型化を図るには限界がある。また、ボイスコイルはパネルの裏面に取り付けられているため、ボイスコイルの発熱が振動板に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、駆動系の発熱が振動板に悪影響を及ぼすのを防止しつつ、薄型化を図ることが可能なスピーカ装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一側面は、平面状の振動板を振動させて該振動板の表側に向かって音を放出させるスピーカ装置において、振動板を保持するために、振動板の表側と反対側となる裏側に装着されるフレームと、振動板の裏側に装着され、磁気回路を形成する永久磁石と、磁気回路に対して接離する方向に往復運動する駆動用コイルと、を有し、駆動用コイルは、永久磁石との間に接離する方向に沿うクリアランスを有するように、フレームにおいて振動板と対向する側に装着されるものである。
【0008】
また、駆動用コイルは、導電性を有する線材を、該駆動用コイルの中心軸線に対してラジアル方向に沿って扁平状の形態を有するように渦巻状に巻回するのが好ましい。
【0009】
また、駆用動コイルを、線材の両端末が外周側から引き出されるアルファ巻きに巻回するのが好ましい。
【0010】
また、駆動用コイルには、渦巻状に巻回された部分が1つの線材を用いて、少なくとも2つ以上形成されているのが好ましい。
【0011】
また、駆動用コイルは、四つの角部にRを有する四角形の形状を有するのが好ましい。
【0012】
また、駆動用コイルの中心軸線に直交する平面に対して平行な方向に着磁されている永久磁石を複数配設するのが好ましい。
【0013】
また、永久磁石を、駆動用コイルのラジアル方向に沿って着磁するのが好ましい。
【0014】
また、振動板とフレームとの間に、振動板の振動を緩衝するための部材を介在させ、または、振動板もしくはフレームに、振動板の振動を緩衝するための液体を塗布するのが好ましい。
【0015】
また、永久磁石のフレームと対向する面および駆動用コイルの振動板と対向する面のいずれか一方もしくは双方に磁性流体を注入するのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、駆動系の発熱が振動板に悪影響を及ぼすのを防止しつつ、スピーカ装置の薄型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置の分解斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置の斜視図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置の正面図である。
【図4】図1中の振動体の正面図である。
【図5】図1中のフレームに扁平コイルを配置した状態を示す正面図である。
【図6】図1中の扁平コイルの平面図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置の側断面図である。
【図8】治具にパネルを装着し、該パネルに一定の張力を加えた状態を示す正面図である。
【図9】治具にてパネルに一定の張力を加え、該パネルの裏側にスペーサを配置した状態を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置1について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、図1〜図5および図7に示す矢示X方向を表、矢示X方向を裏、矢示Y方向を左、矢示Y方向を右、矢示Z方向を上および矢示Z方向を下とそれぞれ規定する。
【0019】
図1は、本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置1の分解斜視図である。図2は、本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置1の斜視図である。図3は、本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置1の正面図である。図4は、図1中の振動体4の正面図である。図5は、図1中のフレーム5に扁平コイル7を配置した状態を示す正面図である。
【0020】
スピーカ装置1は、薄肉のパネル2を振動させて音を放出させるパネル型のスピーカ装置であり、図1および図2に示すように、振動板となるパネル2の裏側をスペーサ3で保持した振動体4と、振動体4の裏側に配置され、該振動体4を支持するフレーム5と、パネル2の裏側に装着される永久磁石となる4つのマグネット6と、フレーム5の表側に配置される駆動動用コイルとなる扁平コイル7と、から主に構成されている。スピーカ装置1は、例えば、幅(左右方向の長さ)および高さ(上下方向の長さ)が80mm、厚さ(表裏方向の長さ)が約2.5mmの外形寸法を有する。
【0021】
上述したように、振動体4は、パネル2と、スペーサ3とから構成される。パネル2は、図1および図4等に示すように、平面において略正方形の形状を有する薄肉状のパネルである。本実施の形態では、パネル2として、例えば、幅および高さが80mm、厚さが約50μmの外形寸法を有するポリイミドフィルムが用いられている。なお、パネル2の材料はポリイミドフィルムに限定されるものではなく、例えば、エレクトロルミネッセンス等の他の材料を用いても良い。
【0022】
図1および図4等に示すように、パネル2は、その外周面が、スペーサ3の外周面と一致するように、スペーサ3の表側に取り付けられる。パネル2は、その中央部から外縁部に向かって一定の張力が加えられた状態でスペーサ3の表側に取り付けられている。具体的には、パネル2は、後述する治具30を用いて張力を加え、外方向に向かって延伸した状態でスペーサ3に取り付けられる。なお、パネル2は、スペーサ3との間に接着剤を介在させて該スペーサに対して固定される。
【0023】
図1および図4等に示すように、スペーサ3は正方形の枠形状を呈している。このスペーサ3の各辺の長さは、パネル2の外形寸法と一致するように、例えば、80mmに形成されている。また、スペーサ3の枠幅B(図4参照)および厚さの寸法は、例えば、それぞれ7.2mmおよび2mmに形成されている。本実施の形態では、スペーサ3の材料として、ステンレスが用いられている。しかしながら、スペーサ3の材料はステンレスに限定されるものではなく、例えば、鉄、アルミニウム等の他の材料を用いても良い。
【0024】
図1から図3に示すように、振動体4の裏側には、マグネット6が配設されている。該マグネット6は、パネル2の裏面の略中央に取り付けられる。図3に示すように、それぞれのマグネット6は正面視して略台形形状を有しており、その短辺側がN極、長辺側がS極となるように着磁されている。また、マグネット6は、図3に示すように、各マグネット6の短辺同士が対向するように、上下および左右に合計4つ配置される。具体的には、マグネット6は、中央に略正方形の空間が形成されるように、その短辺を中央に向けて上下左右の4箇所に対向配置される。マグネット6は、例えば、短辺の長さCが8mm、長辺の長さDが16mm、長辺と短辺の間の幅Eが11mmおよび厚さが1mmの外形寸法を有する(図3参照)。
【0025】
マグネット6は、スペーサ3の内周面を基準として位置出しを行い、2液混合型のアクリル系接着剤をパネル2との間に介在させることによって、該パネル2に対して固定される。また、本実施の形態では、マグネットとして、ネオジウムマグネットが用いられているが、他のマグネットを用いるようにしても良い。
【0026】
図1に示すように、フレーム5は、振動体4の裏側に配置される。図1および図5に示すように、フレーム5は、正面視して略正方形の形態を有しており、その中央部には四角形のリング状の形態で裏側に向かって窪む、リング状凹部10が設けられている。また、リング状凹部10の内周側には、表側に向かって突出する凸部11が形成される。リング状凹部10の外側の内周面13および凸部11の外周面(リング状凹部10の内側の内周面)14は、略正方形の形状を有する。具体的には、リング状凹部10の内周面13の四つ角には、例えば、R6mmの面取り加工が施され、凸部11の外周面14の四つ角には、例えば、C1mmの面取り加工が施されている。フレーム5の外形寸法は、幅および高さが、例えば、それぞれ80mm、厚さFが1mmに形成されている(図1参照)。また、リング状凹部10深さGの寸法は、例えば、0.5mmに形成されており、その外縁の幅H1および高さH2の寸法は、例えば、それぞれ32mm、その内縁の幅J1および高さJ2の寸法は、例えば、それぞれ9.95mmに形成されている(図1参照)。
【0027】
また、フレーム5の外縁部は、フレーム5の平面15よりも一段低く形成されている。すなわち、フレーム5は、外縁部に四角枠状の形態で一段低くなるような低板部16を有する。このため、フレーム5の中央側には、外縁部よりも一段高く形成された凸板部17が形成されることになる。図1および図5に示すように、凸板部17には、リング状凹部10から低板部16にかけて溝状に切り欠かれた2つのスリット18が設けられている。具体的には、このスリット18は、凸板部17の下側の領域に上下方向に沿って、左右に2つ並んで設けられている。また、リング状凹部10の底面、低板部16の表面およびスリット18の底面は、それぞれ面一になるように形成されている。また、凸板部17の上下左右の4箇所には円形の調整用穴19が設けられている。なお、凸板部17の高さKおよび低板部16の枠幅Lの寸法は、例えば、それぞれ0.5mmおよび7.225mmとなっている(図1参照)。このため、凸板部17の幅Mの寸法は、例えば、65.55mmとなっている(図1参照)。本実施の形態では、フレーム5の材料として、ベーク板と称される、布入りフェノール樹脂が用いられている。なお、フレーム5の材料は布入りフェノール樹脂に限定されるものではなく、例えば、アルミニウム、鉄もしくはステンレス等の他の材料を用いても良く、さらに、その表面にアルマイト処理を施すようにしても良い。
【0028】
図6は図1中の扁平コイル7の平面図である。
【0029】
図1、図5および図6等に示すように、リング状凹部10には、X−X軸に直交する方向(ラジアル方向)に沿って扁平状の形態をなす扁平コイル7が配置される。図1に示すように、扁平コイル7は、エナメル等の絶縁皮膜で覆われた導電性を有する丸線を、2層に渡ってアルファ巻きに巻回することで構成されている。この丸線の材料としては、銅のような導電性に優れた金属が好ましいが、ステンレス、鉄またはアルミニウム等の金属としても良い。本実施の形態では、丸線の全長となる直径寸法は、例えば、0.25mmとされており、このうち、絶縁被膜および接着層を除いた導電体部分の直径寸法は、例えば、0.19mmとなっている。
【0030】
扁平コイル7の巻回方法は、一方の端末7aから内側に向かって時計回り方向に巻回し、ある程度巻回したら他方の端末7bを上層に移動させ、内側から外側に向かって時計回り方向に巻回する。すると、端末7aが、下層の巻回部分の外周から外側に向かって引き出されると共に、端末7bが、上層の巻回部分の外周から外側に向かって引き出された状態となる。図1、図5および図6等に示すように、端末7a,7bは、共に扁平コイル7の外周部から下方に向かって引き出されている。端末7a,7bは、絶縁被膜に覆われておらず、外部と導電可能な状態となっている。本実施の形態では、端末7aを正極側の端子とし、端末7bを負極側の端子として使用している。
【0031】
図6に示すように、扁平コイル7は、正面視して略正方形のリング状の形態を有している。このため、扁平コイル7は、上下左右の4箇所に略矩形状の形態を有する矩形部20を有する。また、扁平コイル7の中央部には、略正方形の形態で前後に貫通する空芯部21が形成されている。扁平コイル7および空芯部21の外形は、それぞれ4つの角部にRを有する正方形の形状を有している。空芯部21は、一辺の長さが、例えば、10mmの略正方形の外形形状を有し、扁平コイル7は、一辺の長さが、例えば、30mmの略正方形の外形形状を有する。また、扁平コイル7は、例えば、0.5mmの厚さ寸法を有する。さらに、扁平コイル7は、例えば、約80ターンの巻回数をもって巻回されており、直流抵抗が、例えば、約3.1Ωとなるように形成されている。なお、扁平コイル7は、各層に、例えば、40ターンずつ巻回されるのが好ましい。また、扁平コイル7の巻回数は80ターンに限定されるものではない。
【0032】
図1および図5に示すように、空芯コイルとなる扁平コイル7は、その空芯部21が凸部11に挿入されるようにリング状凹部10内に配置される。両端末7a,7bは、各スリット18を介してフレーム5の外側に引き出される。なお、扁平コイル7は、その裏側の面とリング状凹部10の底面との間に二液混合型のアクリル系接着剤を介在させて、リング状凹部10に対して固定される。
【0033】
スピーカ装置1は、マグネット6が装着された振動体4を扁平コイル7が配置されたフレーム5の表側に取り付けることによって構成される。具体的には、スペーサ3の枠内に凸板部17が納まるように、振動体4をフレーム5の表側に取り付ける。この際、スペーサ3の裏面と低板部16とを粘着シートで粘着させることによって振動体4がフレーム5に対して固定される。ここで、マグネット6は、図3等に示すように、短辺側がN極となり、長辺側がS極となるように着磁されているため、磁気の流れは、マグネットの表裏に関係なく、配置された4個のマグネット群の中央部から外方に向かって流れるように発生する。この磁気の流れ(磁気回路)と扁平コイル7に流れる電流とが作用してパネル2が振動する。
【0034】
図7は、本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置1の側断面図である。
【0035】
図7に示すように、各マグネット6は、扁平コイル7との間にクリアランスNを有する。また、図3に示すように、マグネット6は、扁平コイル7の矩形部20と対向するように配置されている。このとき、マグネット6に発生する磁気回路と略直交する方向に電流が流れることになり、マグネット6と扁平コイル7との間でより大きな力が作用することになる。また、上述したクリアランスNの存在により、扁平コイル7の熱がパネル2に伝わりにくい構成となっている。
【0036】
次に、スピーカ装置1の製造方法について説明する。
【0037】
図8は、治具30にパネル2を装着し、該パネル2に一定の張力を加えた状態を示す正面図である。図9は、治具30にてパネル2に一定の張力を加え、該パネル2の裏側にスペーサ3を配置した状態を示す部分拡大図である。
【0038】
まず、治具30を用意する。図8に示すように、治具30は、四角枠状の外枠31と、外枠31の内部に四角枠状に配置される4つのクランプ部材32と、外枠31を貫通してクランプ部材32に横方向から羅入される引張用ネジ33とを有する。クランプ部材32は横長の略台形形状を呈しており、各クランプ部材32の内周部(台形の短辺部分)近傍には、クランプ部材32内周面から外周側に向かって切り込まれた不図示の隙間が形成されている。4つのクランプ部材32が四角枠状に配置されているため、その内側には略正方形の形状を有する窓部34が形成されている。
【0039】
次に、窓部34より外形がやや大きめのパネル2を用意し、該パネル2を窓部34の内部に配置する。パネル2は、その外縁部が不図示の隙間内に挿入される形で窓部34内に配置される。この状態で、各クランプ部材32に取り付けられているクランプ用ネジ35を締める。すると、パネル2は、窓部34の内部に配置された状態で、クランプ部材32に対して固定される。次に、引張用ネジ33を締めて、各クランプ部材32を上下左右方向外方に向かって移動させる。すると、クランプ部材32の移動に伴ってパネル2は上下左右方向に引っ張られる。すなわち、パネル2に張力が加わり、平坦度が維持される。次に、スペーサ3の表面に接着剤を塗布した状態で、スペーサ3を窓部34内の図8における紙面手前側に配置させる(図9参照)。その後、スペーサ3をパネル2に向かって押圧し、パネル2がスペーサ3に接着されたら、クランプ用ネジ35をゆるめる。そして、パネル2が装着されたスペーサ3を治具30から外し、パネル2のスペーサ3からはみ出た部分を切り取る。以上のようにして、振動体4を得ることができる。
【0040】
次に、治具30の窓部34に振動体4を配置させ、スペーサ3の内周面を基準としてパネル2の位置出しを行う。そして、マグネット6をパネル2の裏側において位置出しされた中央部に取り付ける。マグネット6は、その表面となる装着面に2液混合型のアクリル系接着剤を所定量塗布し、該装着面をパネル2の裏面に所定の圧力で押圧することによりパネル2に固定される。接着剤が硬化した後、振動体4を治具30から取り外し、パネル2に密着しているマグネット6の外周部に紫外線(UV)硬化型の接着剤を塗布して、接着力を補強する。
【0041】
次に、扁平コイル7の裏面に二液混合型のアクリル系接着剤を塗布し、その塗布面がリング状凹部10の底面と密着するように、扁平コイル7をリング状凹部10の内部に配置する。この際、扁平コイル7の空芯部21に凸部11が挿入されるように該扁平コイル7をリング状凹部10内に配置する。また、両端末7a,7bを、各スリット18内を通過させてフレーム5の外側に引き出す。
【0042】
次に、マグネット6が装着された振動体4のスペーサ3の裏面に粘着シートを貼り付ける。そして、スペーサ3の枠内に凸板部17が納まるように、振動体4をフレーム5の表側に取り付ける。具体的には、スペーサ3の裏面に接着シートを介在させて低板部16に対して接着させる。さらに、この状態で、振動体4をフレーム5側に向かって押圧する。これにより、マグネット6が装着された振動体4がフレーム5に固定される。以上のような工程を経て、スピーカ装置1が製造される。
【0043】
以上のように構成されたスピーカ装置1では、マグネット6は、表裏方向に大きな厚さ寸法を有さず、扁平コイル7も表裏方向に厚さ寸法を有さない扁平状に形成されている。さらに、マグネット6と扁平コイル7との間にはクリアランスNが形成されている。このため、扁平コイル7の発熱が振動板となるパネル2に及ぼす影響を低減することが可能となる。したがって、パネル2として、熱の影響を受けやすい有機EL等からなるパネルを使用しても、スピーカ装置1から高品質の音声を発生することが可能となる。このため、扁平コイル7の発熱がパネル2に悪影響を及ぼすのを防止しつつ、スピーカ装置1の薄型化を図ることができる。また、フレーム5を、熱伝導性が良好なアルミニウムで構成し、さらにその表面にアルマイト処理を施した場合、フレーム5の熱伝導率は極めて良好なものとなる。このため、扁平コイル7の熱を効率良く外部に放出することが可能となり、その結果、扁平コイル7の発熱がパネル2に及ぼす影響をより低減することが可能となる。
【0044】
また、スピーカ装置1では、駆動用コイルとして、2層にわたってα巻きに巻回された扁平コイル7が用いられている。このため、駆動用コイルの薄型化を図ることが可能となり、その結果、スピーカ装置1の薄型化を図ることが可能となる。また、扁平コイル7はα巻に巻回されているため、2層にわたって別個に2つのコイルを配置する必要がなくなり、扁平コイル7の端末の数を2つといった最小の数にすることが可能となる。このため、扁平コイル7の端末7a,7bの数を減少させることができ、その結果、配線工数を削減することが可能となる。
【0045】
また、扁平コイル7の端末7a,7bはフレーム5のスリット18を介して該フレーム5の外側に引き出されている。このため、端末7a,7bが扁平コイル7の振幅運動に伴って振動し、屈曲運動を起こすのを防止できる。したがって、扁平コイル7を構成する線材を、屈曲運動や振動に対して強度を有する綿糸線や銅箔等の特別な材料に限定する必要がなくなり、線材の選択の余地が拡大する。さらに、端末7a,7bはフレーム5の外側に引き出されているため、配線接続をスピーカ装置1の外側において行うことが可能となる。その結果、扁平コイル7の配線構造の信頼性が向上すると共に配線構造を単純化することが可能となる。このため、配線工数を大幅に削減することが可能となる。
【0046】
また、スピーカ装置1では、マグネット6は、扁平コイル7の矩形部20と対向する位置に合計4個配置されている。加えて、マグネット6は、矩形部20の短手方向、すなわち扁平コイル7に対してラジアル方向に着磁されている。このため、マグネット6に発生する磁気回路と直交する方向に扁平コイル7の電流が流れることになり、マグネット6と扁平コイル7との相互間でより大きな力が作用する。このため、良好な音響特性を維持しつつ、スピーカ装置1の薄型化を図ることが可能となる。また、マグネット6は分割されて複数配置されているため、該マグネット6を扁平コイル7の駆動に適した位置に適宜、装着できることになり、マグネット6を装着するための工数を削減できる。
【0047】
ここで、スピーカ装置1のようなパネル型のスピーカ装置の場合、パネル2の中央部において高いコンプライアンスを有する。すなわち、パネル2の中央部が振動しやすく、パネル2の外側に至るにつれて振動しにくくなる。仮に、マグネット6の代わりに、薄くて大面積のマグネットをパネル2に装着し、該パネル2を駆動させると、その駆動力はパネル2の外周部のコンプライアンスに影響され、損失が発生する。しかしながら、本実施の形態のように、1つのパネル2に対して分割されたマグネット6を複数配置させるような構造とすることで、パネル2を、その中央部のコンプライアンスに見合った駆動力で振動させることが可能となる。その結果、スピーカ装置1の音響特性が向上する。
【0048】
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明は上述の形態に限定されることなく、種々変形した形態にて実施可能である。
【0049】
上述の実施の形態では、マグネット6は、矩形部20の短手方向、すなわち、扁平コイル7のラジアル方向に着磁されているが、マグネット6における着磁方向は当該方向に限定されるものではなく、例えば、前後方向となるマグネット6の厚さ方向に着磁するようにしても良い。また、本実施の形態のように水平方向に着磁されたマグネット6と、厚さ方向に着磁されたマグネット6を組み合わせて、扁平コイル7に対応した位置に配置するようにしても良い。
【0050】
また、上述の実施の形態では、マグネット6は合計4個配置されているが、配置されるマグネット6の数は4個に限定されるものではなく、3個以下としても良いし、5個以上としても良い。
【0051】
また、上述の実施の形態では、扁平コイル7およびリング状凹部10は略正方形の形状を有しているが、扁平コイル7およびリング状凹部10は当該形状に限定されるものではなく、使用目的等に応じて異なる形状としても良い。また、扁平コイル7を使用目的等に応じて、適宜、適切な位置に配置することが可能である。また、扁平コイル7はα巻きに巻回されているが、通常の渦巻状に巻回するようにしても良い。さらに、扁平コイル7は2層にわたって巻回されているが、1層にしても良いし、3層以上としても良い。また、1つのスピーカ装置1に複数の扁平コイル7を配置するような構成としても良い。
【0052】
また、上述の実施の形態では、パネル2とフレーム5との間には、特定の振動を抑制するための緩衝材等は配置されていないが、パネル2とフレーム5との間にクッション材を介在させたり、パネル2もしくはフレーム5にダンプ剤等を塗布したりして、分割振動の発生を抑制し、音響特性の向上を図るようにしても良い。
【0053】
また、上述の実施の形態では、マグネット6および扁平コイル7には磁性流体等の磁性材は塗布されていないが、例えば、マグネット6および扁平コイル7の表面に磁性流体を注入するようにしても良い。磁性流体を注入することで、扁平コイル7のダンピングを抑制することが可能となる。その結果、過度に電圧がかった場合でも、マグネット6と扁平コイル7との衝突を容易に防止することができ、該衝突による異音の発生を有効に防止することが可能となる。また、マグネット6と扁平コイル7とが衝突して、該マグネット6もしくは扁平コイル7が破壊されるのを防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
1…スピーカ装置 2…パネル(振動板) 5…フレーム 6…マグネット(永久磁石) 7…扁平コイル(駆動用コイル) 7a,7b…端末 N…クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状の振動板を振動させて該振動板の表側に向かって音を放出させるスピーカ装置において、
上記振動板を保持するために、上記振動板の上記表側と反対側となる裏側に装着されるフレームと、
上記振動板の裏側に装着され、磁気回路を形成する永久磁石と、
上記磁気回路に対して接離する方向に往復運動する駆動用コイルと、
を有し、
上記駆動用コイルは、上記永久磁石との間に上記接離する方向に沿うクリアランスを有するように、上記フレームにおいて上記振動板と対向する側に装着されることを特徴とするスピーカ装置。
【請求項2】
請求項1記載のスピーカ装置において、前記駆動用コイルは、導電性を有する線材を、該駆動用コイルの中心軸線に対してラジアル方向に沿って扁平状の形態を有するように渦巻状に巻回されていることを特徴とするスピーカ装置。
【請求項3】
請求項2記載のスピーカ装置において、前記駆動用コイルは、前記線材の両端末が外周側から引き出されるアルファ巻きに巻回されていることを特徴とするスピーカ装置。
【請求項4】
請求項2または3記載のスピーカ装置において、前記駆動用コイルには、渦巻状に巻回された部分が1つの線材を用いて、少なくとも2つ以上形成されていることを特徴とするスピーカ装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載のスピーカ装置において、前記駆動用コイルは、四つの角部にRを有する四角形の形状を有することを特徴とするスピーカ装置。
【請求項6】
請求項2から5のいずれか1項記載のスピーカ装置において、前記駆動用コイルの中心軸線に直交する平面に対して平行な方向に着磁されている前記永久磁石を複数配設することを特徴とするスピーカ装置。
【請求項7】
請求項6記載のスピーカ装置において、前記永久磁石は、前記駆動用コイルのラジアル方向に沿って着磁されていることを特徴とするスピーカ装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項記載のスピーカ装置において、前記振動板と前記フレームとの間に、前記振動板の振動を緩衝するための部材を介在させ、または、振動板もしくはフレームに、前記振動板の振動を緩衝するための液体を塗布することを特徴とするスピーカ装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項記載のスピーカ装置において、前記永久磁石の前記フレームと対向する面および前記駆動用コイルの前記振動板と対向する面のいずれか一方もしくは双方に磁性流体を注入したことを特徴とするスピーカ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate