説明

スラスト玉軸受

【課題】スラスト玉軸受の保持器の耐久性の向上を図ることにより、斜板式ポンプのようにスラスト荷重とラジアル荷重を含む高負荷の合成荷重が作用する装置に適したスラスト玉軸受を提供することを課題とする。
【解決手段】内輪1と外輪2の軌道溝3、4のPCDに加工精度による相互差が形成されることにより、任意の初期接触角αをもってボール5が介在され、スラスト荷重とラジアル荷重の合成荷重が軸受中心線Qに対し一定の傾斜角θをもって負荷される装置に使用されるスラスト玉軸受において、前記初期接触角αが前記傾斜角θより小さくなるように前記PCDの相互差が管理されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、斜板式ポンプ等に使用されるスラスト軸受に関し、特にスラスト玉軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
斜板式ポンプにおいては、図8に示したように、ケーシング11内のシリンダブロック12に回転軸13の一端部が貫通固定され、その一端部がケーシング11に回転可能に支持されるとともに他端部が軸受14によって支持される。ケーシング11の内部において、前記シリンダブロック12に対向し、かつ回転軸13の中心線Pに対して一定の傾斜角θをもつように傾斜させてスラストころ軸受15が配置される。該スラストころ軸受15の中心線をQで示す。
【0003】
前記シリンダブロック12には回転軸13の周りの等配位置に該回転軸13と平行の複数のシリンダ16が形成され、各シンリダ16にピストン17が挿入される。前記スラストころ軸受15の外輪(固定輪)18がケーシング11に固定され、内輪(回転輪)18’に前記ピストン17の先端部が押し当てられる。
【0004】
回転軸13が回転されるとシリンダブロック12が回転され、これとともに各ピストン17が回転軸13を中心として回転される。各ピストン17は内輪18’に案内されて回転軸13の軸方向に往復運動し、ピストン17背後の油室19に順次油が吸入・吐出され、油圧ポンプとして機能する(特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−186665号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記斜板式ポンプにおいて、その軸受として外輪18と内輪18’との間に、多数のころ20を介在したスラストころ軸受15を使用するのは高負荷対応型とするためであるが、スラスト玉軸受を使用する場合に比べコスト高になる問題がある。一方、スラスト玉軸受は低コストである利点はあるが、耐負荷荷重の点で前記のスラストころ軸受より劣る問題がある。
【0006】
そこで、この発明はスラスト玉軸受の保持器の耐久性の向上を図ることにより、斜板式ポンプのようにスラスト荷重とラジアル荷重を含む高負荷の合成荷重が作用する装置に適したスラスト玉軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、図1(a)(b)に示したように、この発明に係るスラスト玉軸受10は斜板式ポンプに使用されるものであり、内輪1と外輪2の各軌道溝3、4のPCDに加工精度による相互差が形成されることにより、任意の初期接触角αをもってボール5が介在され、また、ラスト荷重Fとラジアル荷重Fの合成荷重Fが軸受中心線Qに対し一定の傾斜角θをもって負荷される装置に使用されるスラスト玉軸受において、前記初期接触角αが前記傾斜角θより小さくなるように前記PCDの相互差が管理された構成をとることとしたものである。
【0008】
斜板式ポンプの構造は、前述の背景技術の場合と同様である。即ち、ケーシング11内のシリンダブロック12に回転軸13が貫通固定されるとともに、その回転軸13の一端部がケーシング11に回転自在に支持され、該回転軸13の他端部が軸受14によって支持される。ケーシング11の内部において、前記シリンダブロック12に対向して回転軸13の中心線Pに対して前記の傾斜角θをもつように傾斜させてこの発明のスラスト玉軸受10が配置される。該スラスト玉軸受10の中心線をQで示す。
【0009】
前記シリンダブロック12には回転軸13の周りの等配位置に該回転軸13と平行の複数のシリンダ16が形成され、各シンリダ16にピストン17が挿入される。前記スラスト玉軸受10の外輪2がケーシング11に固定され、内輪1に前記ピストン17の先端部が押し当てられる。スラスト玉軸受10には前記ピストン17を介して軸受中心線Qに対して角度θで傾斜した荷重Fが負荷される。荷重Fは、図1(b)に示したように、スラスト荷重Fとラジアル荷重Fの合成荷重である。
【0010】
回転軸13が回転されるとシリンダブロック12が回転し、これとともに各ピストン17が回転軸13を中心として回転し、内輪1に案内されて回転軸13の軸方向に往復運動し、ピストン17背後の油室19に順次油が吸入・吐出され、油圧ポンプとして機能する。
【0011】
一般にスラスト玉軸受においては、図2(a)に示したように、内輪1と外輪2の各軌道溝3、4は同一PCDで加工されるが、軌道溝3、4のPCDに加工精度による相互差がある場合は、同図(b)に示したように、接触角αをもった状態で運転される。この場合、純スラスト荷重を負荷する一般的な運転条件では、接触角αの有無に拘わらずすべてのボール5が均一に荷重を負荷する。仮に、軌道溝3、4の加工精度の影響で、多少の接触角αが発生した場合でも軸受性能への影響はない。例えば、外径寸法がφ100以下程度の従来のスラスト玉軸受では、内外輪1、2の軌道溝3、4のPCD寸法は±40μm程度で管理しておけば使用上問題はない。
【0012】
このようなスラスト玉軸受に、図2(c)に示したように、スラスト荷重Fとラジアル荷重Fを含む大きな合成荷重Fが軸受中心線Qに対して傾斜角θをもって作用する使用条件について考える。
【0013】
α>θの場合は、合成荷重が負荷されても内輪1はラジアル方向へは殆ど移動しない。即ち、図3に示したように、合成荷重Fが図の左列のボール5に作用する点における分力を考えた場合、ボール5と軌道溝3の接触点における接線方向の分力Tの方向は右下向きとなる。右列のボール5の接触角αの方向は左列側から加わる負荷を支持できる方向であるから、前記の分力Tは右列のボール5で負荷され内輪1はラジアル方向へは殆ど移動しない。
【0014】
これに対し、α<θの場合は、図4に示したように、前記と同様に合成荷重Fが図の左列のボール5に作用する点における分力を考えた場合、ボール5と軌道溝3の接触点における接線方向の分力Tの方向は左上向きとなる。前記のように右列のボール5の接触角αの方向は左列側から加わる負荷を支持できるが、その反対方向の負荷は支持できない向きであるから、前記の分力Tは右列のボール5で負荷されず、内輪1は釣り合う位置までラジアル方向へ移動する。
【0015】
また、α<θの場合は、ラジアル荷重Fの方向に存在するNo.1及び180度反対側のNo.7のボール5(図5、図6参照)についてみると、初期状態では内輪1は図6において実線で示した初期状態にあるが、ラジアル荷重Fが作用すると一点鎖線で示したようにラジアル方向にδだけ移動し、これに伴って内輪1がhだけ上昇する。同様の傾向はそれらの両側のNo.2、No.12、並びにNo.6、No.8のボール5においても生じる。これらのボール5は、内輪1がhだけ上昇しても、軌道溝3には接触しているので、内輪1から保持器6に対する駆動力を伝達する。
【0016】
これに対し、上記以外のNo.3〜5、No.9〜11のボール5は、内輪1が前記のようにhだけ上昇すると、図6においてNo.4のボール5で代表して示したように、軌道溝3との間に上昇した分だけのすき間hを生じる。すき間hを生じたボール5は、内輪1から駆動されることなく、単に保持器6によって移動させられるだけである。
【0017】
前述のα>θの場合は、内輪1は殆ど移動も上昇もしないため、すべてのボール5が内外輪1、2と接触し保持器6に駆動力が伝達される。このような軸受に傾斜角θをもった合成荷重が負荷され、内輪1にラジアル方向の荷重Fが作用した場合、図7(a)に示したように接触点が反対方向にずれるため、No.1のボールの公転半径Rが最小で公転速度最小、No.7のボールの公転半径Rが最大で公転速度最大となり、他のボールの公転速度はこれらに近い速度となる。
【0018】
公転速度が異ることによる保持器6に作用する力の大きさと向きを図7(b)において矢印の大きさと向きで示す。黒色矢印はボール5が保持器6に及ぼす力を示し、白抜き矢印は保持器6がボール5に及ぼす力を示す。これらの矢印によって示したように、個々のボール5に公転速度の差が生じると、保持器6に大きなストレスを与え早期破損の原因となる。
【0019】
そこで、この発明はα<θに管理することにより、傾斜角θを有する合成荷重が負荷されたとき、内輪1がラジアル方向に移動し、内輪1がhだけ上昇することによって、保持器6へ負荷を及ぼさないボール5(即ち、図5のNo.3〜5、No.9〜11のボール)が生じる。これにより1回転で1回以上保持器6への負荷が解放されるため、保持器6の早期破損が回避される。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、この発明は、内輪と外輪の軌道溝のPCD相互差の管理により、初期接触角αが合成荷重の軸受中心線に対する傾斜角θより小さくなるよう、即ちα<θになるように管理することにより、荷重を負荷しないボールを生じさせる。荷重を負荷しないボールは保持器へ負荷を与えないため、保持器の早期破損が回避され、高負荷荷重に対する耐久性が向上する。したがって、この発明のスラスト玉軸受を斜板式ポンプに使用することにより、低コストで高負荷に対応できる斜板式ポンプを提供することができる。
【実施例】
【0021】
一般的に、斜板式ピストン油圧発生装置においては、合成荷重は軸中心に対して±10度程傾くことがある。例えば、同装置に使用されるスラスト玉軸受(JIS51208)の場合では、前述のように、PCDの管理値が±40μm(相互差80μm)のとき、約10°の接触角が発生する。
【0022】
この場合、合成荷重が負荷された状態でも、すべてのボール5は内外輪1、2と接触して駆動力を伝達するために保持器6へのストレスが大きい。
【0023】
これに対して内外輪1、2の軌道溝3、4のPCDの許容差を±20μm(相互差40μm)に抑えることにより、初期接触角αは5°となる。この状態であれば、合成荷重が±10°の傾斜角で負荷された場合、内輪1がhだけ浮き上がることにより、駆動力を持たないボール5が存在し、保持器6への負荷が低減される。これにより保持器6の早期破損は回避され、耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)本発明のスラスト玉軸受の使用状態における断面図、(b)同上の一部拡大断面図
【図2】(a)から(c)本発明の作用の説明図
【図3】本発明スラスト玉軸受のα>θの場合の作用を説明する断面図
【図4】本発明スラスト玉軸受のα<θの場合の作用を説明する断面図
【図5】本発明のスラスト玉軸受の一部省略平面図
【図6】図5のb−b線の一部省略拡大断面図
【図7】(a)本発明のスラスト玉軸受の断面図、(b)内外輪を省略した状態の作用説明のための平面図
【図8】従来例の使用状態における断面図
【符号の説明】
【0025】
1 内輪
2 外輪
3 軌道溝
4 軌道溝
5 ボール
6 保持器
10 スラスト玉軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪(1)と外輪(2)の各軌道溝(3)(4)のPCDに加工精度による相互差が形成されることにより、任意の初期接触角αをもってボール(5)が介在され、スラスト荷重とラジアル荷重の合成荷重が軸受中心線Qに対し一定の傾斜角θをもって負荷される装置に使用されるスラスト玉軸受において、前記初期接触角αが前記傾斜角θより小さくなるように前記PCDの相互差が管理されたことを特徴とするスラスト玉軸受。
【請求項2】
前記使用対象の装置が斜板式ポンプであることを特徴とする請求項1に記載のスラスト玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−170636(P2007−170636A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−372802(P2005−372802)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】