説明

セラミック基板の製造方法

【課題】セラミック母材を分割溝に沿って分割することでセラミック基板を得るのに際して、分割溝に沿って確実に割れるようにする。
【解決手段】セラミック母材が複数の基板領域2に分割されており、隣接する基板領域2間に分割溝7が形成されている。各基板領域2のコーナー部8が、分割溝7とつながる空隙9Bに面しており、円弧状である。空隙9Bの分割溝7との接点Pにおいて、円弧状のコーナー部8が分割溝7の中心線7aに対して正接している。セラミック母材を分割溝7に沿って分割することでセラミック基板を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミック母材を分割してセラミック基板を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミナセラミックスは、電気絶縁性、化学的安定性といった特徴から電子部品用基板として広く使われている。こうした基板は、取り扱いを容易とするため、後の配線パターンの印刷や半導体素子の装着といった電子部品の製作効率をよくするために、多数個の基板を1枚の広い面積の母材に版地している。このような基板には、一つ一つの個片への分割を容易にするため、表面にブレーク溝(分割溝)が形成されている。こうした分割溝は、ドクターブレード等で成形された未焼成のセラミックグリーンシートの表面に、カッター刃やプレス金型を押し付けて切れ込みを入れた後、焼成することで製作される(特許文献1、2)。
【0003】
ここで、例えば図1に示すように、複数の個片(各セラミック基板領域)2の交差部分A、Bには空隙を設けているが、この空隙の形状について種々の技術が提案されている(特許文献3(特開1982-197889):特許文献4(特開1990-133987):特許文献5(実開1982-181060)、特許文献6(実開1983-049464):特許文献7(実開1985-066061):特許文献8(特開2008-060096):特許文献9(特開1994−091628))。
【0004】
なお、透光性セラミック基板をゲルキャスト法で作製する方法が特許文献10(特開2001−335371号公報)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3330104号公報
【特許文献2】特許第3876259号公報
【特許文献3】特開1982-197889
【特許文献4】特開1990-133987
【特許文献5】実開1982-181060
【特許文献6】実開1983-049464
【特許文献7】実開1985-066061
【特許文献8】特開2008-060096
【特許文献9】特開1994−091628
【特許文献10】特開2001−335371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、いずれの従来技術の場合も、分割溝に沿って母材を破断させる際に、分割溝からそれて母材が割れてしまうことがあり、歩留り低下の原因となる。分割溝を深くして基板底面に近づければ割れ易くなるが、その代わり母材の機械的強度が著しく低下し、印刷などの作業中に母材が割れ易くなる。このため、分割溝をある程度以上深くすることはできない。
【0007】
本発明の課題は、セラミック母材を分割溝に沿って分割することでセラミック基板を得るのに際して、分割溝に沿って確実に割れるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、セラミック母材を破断することによって複数のセラミック基板を得る方法であって、
セラミック母材が複数の基板領域に分割されており、隣接する基板領域間に分割溝が形成されており、各基板領域のコーナー部が分割溝とつながる空隙に面しており、コーナー部の少なくとも一部が円弧状であり、空隙の分割溝との接点において、円弧状のコーナー部が分割溝の中心線に対して正接しており、セラミック母材を分割溝に沿って分割することでセラミック基板を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、母材を分割溝に沿って分割する際、分割溝からそれて母材が割れることを確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】セラミック母材1を模式的に示す平面図である。
【図2】(a)は、図1の母材1のA部分を拡大して示す平面図であり、(b)は、図2(a)の横断面図である。
【図3】(a)は、図1の母材1のB部分を拡大して示す平面図であり、(b)は、(a)の横断面図である。
【図4】本発明における分割溝の中心線と基板領域のコーナー部との位置関係を示す図である。
【図5】(a)は、比較例における空隙と分割溝との各形状および位置関係を示す平面図であり、(b)は、分割溝の末端と空隙の末端との近傍Eの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すように、セラミック母材1が複数の基板領域2に分割されており、隣接する基板領域2間に分割溝7が形成されている。各基板領域2の各コーナー部の交差部分3、4に、それぞれ分割溝7とつながる空隙が形成されている。5は、製品としては使わない不使用領域である。図1において、交差部分3では、2つの基板領域2のコーナー部が交差しており、交差部分4では、4つの基板領域2のコーナー部が交差している。
【0012】
図2、図3に、交差部分近傍B、Cの拡大図を示す。図2では、隣接する二つの基板領域2および不使用領域5によって、空隙9Aが形成されている。基板領域2の空隙9Aに面するコーナー部8は、母材平面から見て円弧形状である。各コーナー部8の曲率中心は、コーナー部8の内側(基板領域2内)にある。空隙9Aと分割溝7とは、接点Pにおいて接している。Lは各分割溝の長手方向である。
【0013】
また、図3では、隣接する四つの基板領域2によって、空隙9Bが形成されている。基板領域2の空隙9Bに面するコーナー部は、母材平面から見て円弧形状である。各コーナー部8の曲率中心はコーナー部の内側(基板領域内)にある。空隙9Bと各分割溝7とは、接点Pにおいて接している。Lは各分割溝の長手方向である。
【0014】
図4は、分割溝と空隙との各接点付近の拡大図である。すなわち、Dは、コーナー部8の輪郭を延長して得られる仮想円であり、Oは仮想円Dの曲率中心であり、Rはその曲率半径である。コーナー部8の末端8c(または8b)は、空隙9B(または9A)と分割溝7の中心線7aとの交点Pにある。ここで,本発明では、コーナー部8が分割溝7の中心線7a(平面的に見たときの中心線)に対して正接している。言い換えると、仮想円Dの交点P(またはコーナー部8の末端8c,8b)において、コーナー部8aの輪郭(仮想円D)が分割溝7の中心線7aの長手方向Lと平行になっている。また、仮想円の中心Oから交点Pへと径線Fを描いたとき、経線Fが中心線7aに対して直角をなす。
【0015】
本発明によれば、セラミック母材を分割溝に沿って分割する際に、分割溝から外れて分割されたり、不要な場所にクラックが入ることがなく、確実に分割でき、セラミック基板の歩留りが向上する。
【0016】
カッター刃やプレス刃でブレーク溝を形成する場合、その製法上の制約から溝角度を小さくしなければならず、幅が非常に薄いものとなるため、焼成中に部分的に切り込みが閉じてしまい、ブレーク性が悪化する傾向がある。このため、好適な実施形態においては、分割溝を分割溝の長手方向Lに垂直な横断面で見たときに、相対向する第一の傾斜面と第二の傾斜面を有しており、第一の傾斜面と第二の傾斜面とがなす角を25〜90°とする。これによって、焼成中に切り込みが閉じることがなくなり、部分的にブレーク性が悪化することを防止でき、分割時の強度のばらつきを小さくできる。
【0017】
また、好適な実施形態においては、セラミック母材の表面における分割溝の開口幅Wが0.1〜0.5mmである。
【0018】
本発明では、コーナー部8の少なくとも一部が平面的に見て円弧状である。ここで、コーナーブ8のうち円弧状部分が末端8b、8cに連続していることが好ましい。この場合、末端8b、または8cから30度以上の範囲にわたって円弧状をなしていることが好ましく、45度以上の範囲にわたって円弧状をなしていることが更に好ましい。また、コーナー8の輪郭長さのうち30%以上が円弧状であることが好ましく、50%以上が円弧状であることが更に好ましい。コーナー部のうち円弧状でない部分の形態は、円弧状部分と正接する直線であることが好ましい。さらにはコーナー部8の外側輪郭が全長にわたって円弧状であることが更に好ましい。
コーナー部8の曲率半径R(仮想円Dの半径R)は、本発明の観点からは、0.2〜5.0mmとすることが好ましく、0.5〜2.5mmとすることが更に好ましい。
【0019】
また、本発明においては、複数の基板領域2が接する交差部分3、4(A、B)において、前述の条件を満足する必要がある。しかし、一つの基板領域2と不使用領域5とが接する交差部分においては、二つの基板の間で破断するわけではないので、本発明の条件を満足する必要はないが、満足してもよい。
【0020】
セラミック母材の材質は、電子部品で使用されるセラミックスであれば特に限定はなく、アルミナ、マグネシア、シリカ、イットリア、窒化珪素、窒化ホウ素、窒化チタン,窒化ボロン窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、スピネル、イットリウム−アルミニウムガーネットなどを例示できる。
【0021】
本発明は、緻密質アルミナ、特に透光性アルミナに対して特に好適である。以下、透光性アルミナからなるセラミック基板について述べる。
【0022】
透光性セラミック、特に透光性アルミナは、例えば発光ダイオード素子用の拡散板として使用でき、これによって発光ダイオード素子の寿命を飛躍的に延長することが可能である。
【0023】
透光性セラミック基板の厚さは0.05mm以上、2mm以下であることが好ましい。拡散板が薄すぎると、衝撃で割れやすくなり、あるいは直線透過光の比率が高くなりすぎ、光の拡散が不足する。セラミック基板が厚すぎると、全光線透過率が低くなり、放熱性も低下する。
【0024】
透光性セラミック基板の可視光域の直線透過率は、光の拡散のため、65%以下とすることが好ましく、10%以下とすることが更に好ましい。透光性セラミック基板の全光線透過率は、発光効率の観点から90%以上が好ましい。
【0025】
透光性セラミック基板を構成するセラミックスの結晶粒径は特に限定されないが、適度の透光性を得るという観点からは、0.1μm以上とすることが好ましく、1μm以上とすることが更に好ましい。また、このセラミックスの結晶粒径は、100μm以下とすることが好ましく、40μm以下とすることが更に好ましい。
【0026】
また、透光性セラミック基板を構成するセラミックスの相対密度は、透光性を確保するという観点からは、98%以上とすることが好ましく、99%以上とすることが更に好ましい。セラミックス内の気孔は、入射する光を散乱させ、全光線透過率を著しく低下させる。
【0027】
セラミック基板の成形方法は特に限定されず、ドクターブレード法、押し出し法、ゲルキャスト法など任意の方法であってよい。特に好ましくは、セラミック基板をゲルキャスト法を用いて製造する。好適な実施形態においては、セラミック粉末、分散媒およびゲル化剤を含むスラリーを注型し、このスラリーをゲル化させることによって成形体を得、この成形体を焼結させる(特許文献10:特開2001−335371号公報)。
従来の未焼成のグリーンシートににカッター刃やプレス型を押し付けて溝を形成する方法の場合、溝底部に細かなクラックが入り、ブレーク強度が不安定になることがあるが、ゲルキャスト法を用い、成形型に形成した突起により分割溝形状を成形することで、これを回避できる。
【0028】
特に好ましくは、純度99.9%以上(好ましくは99.95%以上)の高純度アルミナ粉末に対して、150〜1000ppmの助剤を添加した原料を用いる。このような高純度アルミナ粉末としては、大明化学工業株式会社製の高純度アルミナ粉体を例示できる。
前述した助剤としては、酸化マグネシウムが好ましいが、ZrO2, Y2O3,La2O3,
Sc2O3も例示できる。
【0029】
セラミック原料粉末の平均粒径は特に限定されないが、低温焼結での緻密化および透光性向上という観点からは、0.5μm以下が好ましく、0.4μm以下が更に好ましい。一層好ましくは、セラミックスの原料粉末の平均粒子径は0.3μm以下(一次粒子径)である。この平均粒径の下限は特に限定されない。原料粉末の平均粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡)による原料粉末の直接観察によって決定できる。
なお、ここでいう平均粒子径とはSEM写真(倍率:X30000。任意の2視野)上における2次凝集粒子を除く1次粒子の(最長軸長+最短軸長)/2の値のn=500平均値のことである。
【0030】
ゲルキャスト法は、以下の方法を例示できる。
(1) 無機物粉体とともに、ゲル化剤となるポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のプレポリマーを、分散剤と共に分散媒中に分散してスラリーを調製し、注型後、架橋剤により三次元的に架橋してゲル化させることにより、スラリーを固化させる。
(2) 反応性官能基を有する有機分散媒とゲル化剤とを化学結合させることにより、スラリーを固化させる。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
透光性アルミナセラミックスからなる母材1を、以下のようにして作製した。すなわち、原料粉末としてアルミナ粉末100重量部、及びマグネシア0.025重量部、分散媒として多塩基酸エステル30重量部、ゲル化剤として、MDI樹脂4重量部、分散剤としてマリアリムAKM0351(商品名、日本油脂株式会社製)2重量部及び触媒としてトリエチルアミン0.2重量部を混合したものを用いた。このスラリーを、分割溝を反転させた形の突起を設けたアルミニウム合金製の型に室温で注型後、室温で1時間放置し、固化してから離型した。さらに、室温、次いで90℃のそれぞれの温度にて2時間放置して、基板状の粉末成形体を得た。これを大気中1200℃で仮焼し、仮焼体を得た。次いで、水素:窒素=3:1の雰囲気中1800℃で焼成し、緻密化及び透光化させた。型に形成した突起の形状の調整により、分割溝等の形態を調整した。
【0032】
ただし、図1〜図4に示すように、分割溝はV溝とし、各基板領域のコーナー部は円弧形状とし、各寸法は以下のとおりとした。
分割溝7の開口幅W: 0.3mm
分割溝7の開き角度(第一の傾斜面と第二の傾斜面との角度):60度
分割溝7の深さ: 0.26mm
母材1の厚さ: 1.0mm
コーナー部8の曲率半径R: 0.5mm
各基板領域2の寸法: 25mm×25mm
【0033】
母材を10枚作成し、それぞれ分割溝に沿って分割したところ、分割に要する力のばらつきは0.6±0.1N/mmであった。また、分割された線がブレーク溝よりずれているものは見られなかった。
【0034】
(比較例1)
実施例1と同様にして母材を作製した。母材の平面的形態は図1に示すとおりであり、また分割溝はV溝とし、寸法は実施例と同様にした。しかし、各基板領域のコーナー部は円弧形状とはせず、逆に空隙の平面形状を円形とした。
【0035】
母材を10枚作成し、それぞれ分割溝に沿って分割したところ、分割に要する力のばらつきは 0.6±0.3N/mmであった。また、分割された線が分割溝よりずれているものは、10枚のうち 3枚であった。
【0036】
(比較例2)
実施例1と同様にして母材を作製した。母材の平面的形態は図1に示すとおりであり、また分割溝はV溝とし、寸法は実施例と同様にした。しかし、各基板領域のコーナー部は円弧形状とはせず、特許文献9(特開1994−091628)に記載のような形状のコーナー部を形成した。
【0037】
すなわち、図5(a)、(b)に示すように、各基板領域2のコーナー部には、空隙21に面する湾曲部23が形成されている。湾曲部23の末端は、分割溝7の末端に接近しているが、しかし分割溝7の末端と空隙21とはつながっておらず、それらの間に非空隙部24が形成されている。湾曲部23の分割溝側の末端23bへの接線Mと、分割溝7の長手方向Lとがなす角度は直角であり、本発明(図4)の場合とは正反対であることがわかる。
【0038】
この母材を10枚作成し、それぞれ分割溝に沿って分割したところ、分割に要する力のばらつきは 0.7±0.3N/mmであった。また、分割溝7の末端と空隙21の間の非空隙部24が不定形に割れ、バリのような突起ができてしまったものが、10枚のうち 8枚であった。
【0039】
(実施例2,3)
実施例1において、開口幅、溝底部の角度を表1に示すように変更した。他は実施例1と同様に試験を行い、結果を表1に示す。
【0040】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック母材を破断することによって複数のセラミック基板を得る方法であって、
前記セラミック母材が複数の基板領域に分割されており、隣接する前記基板領域間に分割溝が形成されており、前記各基板領域のコーナー部が前記分割溝とつながる空隙に面しており、前記コーナー部の少なくとも一部が円弧状であり、前記空隙の前記分割溝との接点において、円弧状の前記コーナー部が前記分割溝の中心線に対して正接しており、前記セラミック母材を前記分割溝に沿って分割することで前記セラミック基板を得ることを特徴とする、セラミック基板の製造方法。
【請求項2】
前記分割溝を前記分割溝の長手方向に垂直な横断面で見たときに、相対向する第一の傾斜面と第二の傾斜面を有しており、前記第一の傾斜面と前記第二の傾斜面とがなす角が25〜90°であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記セラミック母材の表面における前記分割溝の開口幅が0.1〜0.5mmであることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記セラミック母材が透光性アルミナセラミックスからなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記セラミック母材がゲルキャスト製法によって製造されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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