説明

センサネットワークにおけるデータ管理方法

【課題】好ましくは非リアルタイム型のセンサネットワークにおけるデータ管理方法を提供する。
【解決手段】ネットワークはデータを検知するための多数のセンサノード(Si)を備える。ネットワークは、それぞれ複数のセンサノード(Si)からなるクラスタ(Q)に分割される。各クラスタ(Q)内では、あるセンサノード(Si)が、そのクラスタ(Q)の残りのセンサノード(Si)の検知データを集約するアグリゲータノード(AQ)として作用する。常に、あらかじめ設定可能な個数の近隣クラスタ(Q)がグループにまとめられ、あるクラスタ(Q)内で集約されたデータは、そのクラスタ(Q)自身のアグリゲータノード(AQ)に保存されるのに加えて、それぞれのグループのあるクラスタ(Q)に属する別のアグリゲータノード(AQ)にも保存される。本方法は、データが、永続的に保存される前に準同型法で暗号化されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましくは非リアルタイム型のセンサネットワークにおけるデータ管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
センサネットワークの利用がますます広がっており、特に環境モニタリングの分野では、例えば気象変化、湿度分布あるいは水質汚染の分析、地表面温度の測定、移動パターンの分析、大工場の監視等に用いられている。応用可能性のリストはほとんど無限に続くであろう。
【0003】
センサネットワークの個々のセンサについて見ると、それらは無線通信を行うセンサノードであり、一般に、プローブ、プロセッサユニット、通信デバイス、および、バッテリや太陽電池等のエネルギー源からなる。データの取得、通信および処理の機能がすべて、センサノードの非常に狭い空間にまとめられる。この小型設計は、上記の環境モニタリングのような特定の応用には極めて有利である。というのは、アクセスが困難な場所でも、センサノードを分散配置することでネットワークが利用可能となるからである。
【0004】
状況によってはセンサネットワークの応用可能性を制約するかもしれない決定的なパラメータとしては、特に、個々のセンサノードの所与の物理値、例えば、それらの送信到達範囲、プロセッサパワー、バッテリ容量、空き記憶容量等がある。これらの物理的制約があるので、エネルギー効率の良いセンサネットワークの構成が特に重要となる。
【0005】
最近では、上記のようなセンサネットワークにおいて、クラスタを形成するものが知られている。1つのクラスタ内で、あるセンサノードをアグリゲータノードに割り当て、そこにそのクラスタの残りのセンサノードの検知データを集約する。アグリゲータノードの選択は、例えば所定の基準に従って実行できる。その場合、特に、それぞれのセンサノードでまだ利用可能なエネルギーリソースに応じてアグリゲータノードを選択することが考えられる。このためには、例えば、LEACH(low energy adaptive clustering hierarchy、低電力適応クラスタリング階層)プロトコルを、簡単なダウンストリームルーティングプロトコルと組み合わせて用いることができる。LEACHプロトコルは非特許文献1に詳細に記載されている。
【0006】
個々のセンサノードによって検知されネットワークに保存されるデータに対する要求の頻度に関して、2種類のセンサネットワークが区別される。第1に、いわゆるリアルタイム型センサネットワークがある。これは基本的に、検知データが連続的にリアルタイム条件下で、権限のある中央エンティティに送信されることを特徴とする。このエンティティがネットワークに常にアクセスできることが前提条件となる。このアクセスが失われると、システムは、修復されるまで使用できない。これに対して、特定のアプリケーションでは、リアルタイム条件下で検知データを読み出す必要がない場合や、単にそれが不可能な場合がある。このようなネットワークは非リアルタイム型センサネットワークと呼ばれる。この種のネットワークでは、検知データは、ある時間間隔でリーダ(R)により読み出せるようになるまで、ネットワーク内に保存しておかなければならない。リーダは、そのような読み出しを行う権限が付与されたラップトップコンピュータ等の形態をとる。
【0007】
非リアルタイム型ネットワークでは、権限のあるリーダがネットワークに常に接続されているわけではないため、このようなネットワークにおけるデータ管理にはいくつかの非常に重大な問題がある。まず、個々のセンサノードの記憶容量および電源リソースの制約を極めて慎重に考慮する必要がある。
【0008】
また、個々のセンサノードが例えば電源リソースを使い果たして機能停止し得ることを考慮するだけでは不十分である。非リアルタイム型ネットワークでは、状況によっては、データ要求を受けずに長時間動作した後、センサネットワークのエリア全体が例えば外的な影響により機能停止することが起こり得る。以下、このような外的影響を一般に「災害」と称する。極端な場合、このような災害の結果、災害エリア内のセンサノードによって収集された全情報が読み出せなくなり、その結果、失われることがある。
【0009】
このような事態を回避するために、例えばいくつかの近隣クラスタをグループ化する等、データの保存の際にある種の冗長化を行うことが既に検討されている。この場合、グループのあるクラスタ内で集約されたデータが、そのクラスタのアグリゲータノード自身に保存されるのに加えて、それぞれのグループの別のクラスタのアグリゲータノードにも保存される。しかし、この手法では、特にデータ安全性(セキュリティ)が問題となる。というのは、データをかなり長い期間、すなわち非リアルタイム型ネットワークの場合には少なくとも2回の問合せ応答の間の期間にわたって持続的に保存しなければならないからである。
【0010】
【非特許文献1】W.B.ヘインゼルマン(W. B. Heinzelman)、A.P.チャンドラカサン(A. P. Chandrakasan)、H.バラクリシュナン(H. Balakrishnan)、「無線マイクロセンサネットワークのための特定用途向けプロトコルアーキテクチャ(An Application-Specific Protocol Architecture for Wireless Microsensor Networks)」、IEEE Transactions on Wireless Communications、2002年10月、第1巻、第4号、pp.660-670
【非特許文献2】J.ドミンゴ=フェラー(J. Domingo-Ferrer)、「証明可能安全な加法的および乗法的プライバシー準同型(A provably secure additive and multiplicative privacy homomorphism)」、Information Security Conference (ISC'02), Springer LNCS 2433、2002年、pp.471-483
【非特許文献3】岡本(T. Okamoto)、内山(S. Uchiyama)、「素因数分解と等価に安全な新しい公開鍵暗号方式(A new Public-Key Cryptosystem as Secure as Factoring)」、Advances in Cryptology - EUROCRYPT'98、1998年、pp.303-318
【非特許文献4】A.J.メネゼス(A. J. Menezes)、P.C.ヴァンオールショット(P. C. van Oorshot)、S.A.ヴァンストーン(S. A. Vanstone)、「応用暗号化技術ハンドブック(Handbook of Applied Cryptography)」、The CRC Press Series on Discrete Mathematics and its Applications,1997年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、上記のような、好ましくは非リアルタイム型のネットワークにおいて、必要な記憶容量および電源リソースに関してできるだけ効率的に動作し、センサノードの機能停止や破壊によるデータ損失の危険をできるだけ低減し、さらに、高度のデータ安全性を保証するようなデータ管理方法を実現するという課題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、上記の課題は、好ましくは非リアルタイム型のネットワークにおけるデータ管理方法において、請求項1に記載の特徴を備えることによって解決される。本発明による方法は、データを永続的に保存する前に準同型法によって暗号化することを特徴とする。ここで、ネットワークはデータを検知するための多数のセンサノードを備える。ネットワークは、それぞれ複数のセンサノードからなるクラスタに分割される。各クラスタ内では、あるセンサノードが、そのクラスタの残りのセンサノードの検知データを集約するアグリゲータノードとして作用する。常に、あらかじめ設定可能な個数の近隣クラスタがグループにまとめられ、あるクラスタ内で集約されたデータは、そのクラスタ自身のアグリゲータノードに保存されるのに加えて、それぞれのグループのあるクラスタに属する別のアグリゲータノードにも保存される。
【0013】
本発明により初めて認識されたこととして、2回の問合せの間の比較的長くなり得る期間にわたり検知データを永続的に保存しなければならない場合、データそのものではなく暗号化データを保存すれば、センサネットワークは安全に動作することができる。本発明によれば、準同型法によるデータの暗号化が提案される。この方法は、一方で、無権限攻撃者によるデータの復号をほぼ阻止するという高度のデータ安全性を提供する。他方、この暗号化法は、追加計算量が比較的少なくて済み、制約されたリソース、とりわけセンサノードで利用可能な電力および記憶容量に対する影響はわずかに過ぎない。データ暗号化をしても、データ損失から守るためのデータ保存の際の冗長化は依然として可能である。
【0014】
特に高度のデータ安全性に関して、準同型暗号化法をネストさせて使用することができる。これは、無権限攻撃者による攻撃の可能性が高い危険な環境でセンサネットワークを使用する場合には特に有利である。
【0015】
ネットワークを適度に構造化することに関して、追加的にデータを保存するアグリゲータノードは、ネットワーク内で統一した方式で選択することができる。このようなネットワーク全体で統一的な方式は、データ問合せに関しても有利である。クラスタが災害により広範囲に破壊された場合、関心のあるデータが重複して保存されているクラスタを、ネットワーク全体で統一的なアルゴリズムにより識別することもできる。
【0016】
データの追加的保存のためのアグリゲータノードは、例えば、常に、時計回りで隣りに位置するクラスタのアグリゲータノードと決めることができる。センサノードの配置およびクラスタの構造に応じて、他の方式を選択することもできる。
【0017】
すべてのセンサノードに対する負荷をできるだけ均一にすることに関して、あらかじめ設定可能な時間後に再度アグリゲータノードの選択を常に実行すると有利なことがわかる。以下では、2つの選択の間の期間をエポックと称する。センサネットワークの使用期間をこのように個々のエポックに分割することは、例えば上記のLEACHプロトコルによって実行可能である。
【0018】
具体的実施形態において、すべてのセンサノードは、検知した測定値aiを、対称な加法的プライバシー準同型PHSを用いることにより暗号化する。PHSによる暗号化の場合、暗号化変換E:K×Q→Rおよび対応する復号関数D:K×R→Qが適用される。測定値a1,a2∈Qおよび対称鍵k∈Kに対し、加法的準同型PHSは次式を与える。
1+a2=Dk(Ek(a1)○Ek(a2))
ここで「+」は平文アルファベットの要素に対する加法演算であり、「○」は暗号文アルファベットの要素に対する対応する加法演算である。
【0019】
例えばドミンゴ=フェラー(非特許文献2参照)によって提案されているPHのような、カテゴリPHSに属する現在利用可能なプライバシー準同型は、一部の平文攻撃に対して安全でないが、純粋暗号文攻撃に対しては証明可能な安全性がある。さらに、暗号化、復号および暗号化データの加算に要する実行時間は、センサノードで通常使用可能なコンピュータプラットフォーム上では問題なく実行可能な程度である。暗号文のサイズは、対応する平文のサイズと比べて、最大でn倍(1≦n≦5)である。
【0020】
次のステップで、アグリゲータノードは、受信した暗号化値si=Ek(ai)の和をとり、結果として得られる値azを永続的に保存することができる。これにより、個々のセンサノードからアグリゲータノードへデータを送信するときだけでなく、アグリゲータノードにデータを保存している間(長期間の可能性もある)にも、データ隠蔽が確保される。
【0021】
さらに次のステップで、アグリゲータノードは、自己のクラスタQzの保存値azを、同じグループのクラスタQz-1の追加的保存値az-1に加算し、非対称な加法的プライバシー準同型PHaを用いることによりその和を暗号化することができる。カテゴリPHaに属するプライバシー準同型の場合、暗号化変換E:Kp×Q→Rおよび対応する復号関数D:Kq×R→Qが適用される。ここで(p,q)∈(Kp,Kq)は、公開鍵/秘密鍵の対である。a1,a2∈Qに対し、準同型は次式を与える。
1+a2=Dq(Ep(a1)◇Ep(a2))
ここで演算「◇」は暗号文アルファベットの要素に対する加法演算を表す。
【0022】
カテゴリPHaに属する具体的暗号化方法としては、岡本と内山による暗号化変換がある(非特許文献3参照)。前述の対称プライバシー準同型とは異なり、この方式は、素因数分解で達成できる安全性と同程度の高度の安全性を提供する。しかし、|a|=1024ビットのすべての平文に対する暗号文の最小サイズは常に|Ek(a)|=1024ビットであり、このことは、データ転送に要する電力に対しては不利である。しかしながら、暗号化データに対する加法演算は消費電力に関して無視できるという利点がある。
【0023】
PHaのもう1つの適当な候補として、楕円曲線点に対するエルガマル公開鍵暗号方式がある(非特許文献4参照)。エルガマル暗号方式は離散対数問題に基づく。
【0024】
このような選択により、暗号文のサイズは鍵サイズの2倍の長さに短縮される。この方法の顕著な利点は、暗号文が、高度の安全性を備えながら、IEEE802.15.4により標準化されている単一パケットで送信可能なことである。
【発明の効果】
【0025】
本暗号化保存法により、ネットワークエリアに起こり得る機能停止に対して有利な冗長化がなされるだけでなく、冗長化されたデータが、あまり高くない消費電力で、高度の安全性を備えて保存される。すなわち、データ隠蔽に関して、公開の環境や信頼性の低い環境においても、(リーダによる2回の読み出し要求の間の)比較的長期間の保存が必要な場合でさえ、高度の安全性がある。
【0026】
特に有利な点として、グループ形成と、それに応じたデータ集約およびデータ保存とが、複数レベルの階層をなして実行できる。これは、例えば数千個のセンサノードからなる比較的大規模なネットワークの場合に、個々のクラスタのサイズが極度に大きくなることを避けるために特に有益である。
【0027】
ネットワークは、時間および領域の関数として連続的に環境データを検知し保存すると有利である。ある期間の経過後、ネットワークは、検知した環境の詳細な「代表的なデータ」を有する。この代表的なデータの粒度(グラニュラリティ)は、領域に関しては、特に、選択したクラスタの構成によって影響を受けることがある。時間粒度に関しては、例えば、毎日、毎週、毎月等のデータの読み出しが可能である。これは、有利な点として、エポックの期間と同期させることができる。
【0028】
もう1つの有利な点として、データ要求は、ネットワーク内の分散2次元データベース構造に適応可能である。すなわち、ネットワークに対するリーダ(例えばラップトップコンピュータ)のデータ要求は、要求データの時間および領域を含むことができる。
【0029】
アグリゲータノードがデータ要求を受信すると、PHaで暗号化された値(例えば、クラスタQzに対する要求の場合にはEp(az)○Ep(az-1))がリーダへ送信されて有利である。アグリゲータノードの送信距離およびネットワークの空間的構造に応じて、アグリゲータノードは、リーダへ応答を直接送信することも可能であり、あるいは、転送ノードとして作用するセンサノードを通じてマルチホップ方式で送信することも可能である。非対称プライバシー準同型を用いた暗号化により、復号に必要な秘密鍵qはリーダにしか知られていないので、攻撃者は、たとえ公開鍵pを知っても、データが送信される際にデータを取得することはできない。これに対して、リーダは通常、外部からの攻撃に曝されない保護された環境で動作する。
【0030】
ネットワークの災害領域から検知データをできるだけ完全に再構成することに関して、ネットワークに対するデータ要求において連続的問合せと例外的問合せを区別するのが特に有利であることが分かる。このため、関連するメッセージにおいて、例えばフラグを設定の有無を設けることができる。
【0031】
災害がない場合、すなわち、センサノードの機能停止が主として(例えば完全に電力を使い果たして)センサネットワーク全体で一様に分布して生じただけの場合、連続的問合せがネットワークに送信される。この場合、これらのデータ問合せは、クラスタが当該データ問合せで指定される領域に属するかどうかに基づいて、要求された情報を処理するクラスタにのみ転送されるようにすることができる。
【0032】
これに対して、災害が発生した場合、すなわち、例えば外的影響により局所的に多数のセンサノードが機能停止した場合には、例外的データ問合せがネットワークに送信される。この場合、このような例外的データ問合せは、グループのそれぞれの相補的クラスタにのみ転送されるようにすることができる。相補的クラスタによってリーダへ送信される応答から、復号と、復号値の適当な加減算とによって、要求された情報を再構成することができる。
【0033】
本発明を有利に実施し改良するためのいくつかの選択肢がある。このためには、一方で請求項1に従属する請求項を参照し、他方で図面とともに本発明の好ましい実施例に関する以下の説明を参照されたい。好ましい実施例および図面の説明においては、本発明の一般的に好ましい実施形態および改良形態も説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
図1は、多数のセンサノードSiを有するセンサネットワークの一部を模式的に示している。監視対象エリア内にセンサノードSiを配備した後、LEACHプロトコルによってクラスタQを形成してある。ここで、図1には全部で4個のクラスタQz-1、Qz、Qz+1およびQz+2が示されている。各クラスタ内で、センサノードSiのうちの1つが、同じくLEACHプロトコルによって、アグリゲータノードAQとして選択されている。クラスタQ内でのアグリゲータノードAQの選択は常に、あらかじめ設定可能な期間すなわちエポック後に更新される。図1から明らかなように、各クラスタQは全部で9個のセンサノードSiを有し、アグリゲータノードAQとして作用するセンサノードは濃い点で示されている。
【0035】
本発明によれば、互いに隣り合う4個のクラスタQは1グループをなす。矢印は、本発明によるグループ内のデータフローを表す。各エポックにおいて、センサノードSiは、検知した測定値aiを、対称な加法的プライバシー準同型PHSにより暗号化し、暗号化値s=Ek(ai)を、自己のクラスタQの当該エポックに対して選択されたアグリゲータノードAQへ送信する。アグリゲータノードAQは、受信した暗号化値sを加算し、その結果として(クラスタQzに対して)得られる値azを永続的に保存する。さらに、各アグリゲータノードAQは、保存している値を、自己のグループにおいて時計回り方向に隣接するクラスタQのアグリゲータノードAQへ送信し、この値もまた永続的に保存される。具体例を挙げると、クラスタQzのアグリゲータノードAQzは、自己のクラスタQzの値azとともに、クラスタQzに対して時計回り方向に隣接するクラスタQz-1の値az-1とを保存する。
【0036】
図2は、本発明による方法を2階層レベルに応用した例を示している。具体的には、図1に示したようなグループを4個組み合わせて1つの上位グループとしている。データフローは、上位階層レベルで、図1に関して説明したのと同じ方法に従う。
【0037】
図3は、連続的データ問合せのプロセスと、対応する応答方式を模式的に示している。任意の時点で、リーダR、例えばラップトップコンピュータが、特定のデータを要求するためにネットワークに近づいている。このために、リーダRは、その時点(すなわち、具体的には、要求するデータが検知されたエポック)と、そのデータが検知された領域とを含む無線信号を送出する。各センサノードSiは、自分がどのクラスタQに属するかを知っているので、関連する情報を所持しているアグリゲータノードAQのあるクラスタQのみへ、その要求を転送することができる。アグリゲータノードAQの送信距離やアグリゲータノードAQとリーダRの間の距離に応じて、アグリゲータノードAQは、関連するデータ(暗号化されている)を、図3の右側に示すように直接に、または、転送ノードFiとして作用するセンサノードSiを通じてマルチホップ方式で、送信する。
【0038】
図4は、例外的データ問合せの場合を示している。関心のあるターゲットエリアで、多数のセンサノードSi(濃く図示)が外的影響(「災害」)により無効になっている。この障害はリーダRに知られていると仮定する。無効になったセンサノードSiはクラスタQz内にある。また、クラスタQzのアグリゲータノードAQzも影響を受けたため、クラスタQzから直接にはもはやデータを取得できない。本発明によれば、冗長化データ保存により、関心のあるデータの再構成が可能である。
【0039】
図4にはある特別な場合を示している。図4では、4個のクラスタを1グループにまとめている。クラスタQzおよびQz-1に対するデータ要求が以下のように同時に処理される。クラスタQz-1、Qz+1およびQz+2がそれぞれ、AQz-1→R:Ep(az-1○az+2)、AQz+1→R:Ep(az+1○az)、AQz+2→R:Ep(az+2○az+1)をリーダRへ送信する。次に、Rは復号のために秘密鍵qを適用する。その後、Rは、無効になったクラスタQzに直接隣接するクラスタQz-1およびQz+1の保存データを加算し、反対側のクラスタQz+2の値を減算する。すなわち、
q(az-1○az+2)+Dq(az+1○az)−Dq(az+2○az+1)=Dq(az○az-1
【0040】
こうして得られた結果は、領域Qz∪Qz-1からの要求されたフィンガープリントであり、破壊されたクラスタQzに保存されていたものである。リーダRがクラスタQzのみに関心がある場合、上で得られた値からDk(az-1)を減算すればよい。すなわち、
k(az○az-1)−Dk(az-1
【0041】
本発明による教示のさらに有利な実施形態に関しては、繰り返しを避けるため、本明細書の総論的部分および添付の特許請求の範囲を参照されたい。
【0042】
最後に、特に指摘しておくが、本発明による教示の上記実施例は、本発明による教示の実例としての役割を果たすに過ぎず、本発明を上記実施例に限定するものでは全くない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】4個のクラスタからなるセンサネットワークのグループの概略図である。
【図2】センサネットワーク内の階層的グループ形成の概略図である。
【図3】連続的データ問合せの概略図である。
【図4】例外的データ問合せの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好ましくは非リアルタイム型のセンサネットワークにおけるデータ管理方法において、前記ネットワークはデータを検知するための多数のセンサノードを備え、前記ネットワークは、それぞれ複数のセンサノードからなるクラスタに分割され、各クラスタ内では、あるセンサノードが、該クラスタの残りのセンサノードの検知データを集約するアグリゲータノードとして作用し、あらかじめ設定可能な個数の近隣クラスタがグループにまとめられ、あるクラスタ内で集約されたデータは、該クラスタ自身のアグリゲータノードに保存されるのに加えて、それぞれのグループのあるクラスタに属する別のアグリゲータノードにも保存され、
前記データが、永続的に保存される前に準同型法で暗号化されることを特徴とするデータ管理方法。
【請求項2】
前記準同型暗号化法がネストされて適用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
データの追加的保存を受け持つアグリゲータノードが、ネットワーク全体で統一的な方式により決定されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
時計回り方向に隣接するクラスタのアグリゲータノードが常に、追加的データ保存を担当するアグリゲータノードとして定められることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
あらかじめ設定可能な期間すなわちエポックの後、アグリゲータノードの新たな選択が実行されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
各エポックの期間中に、すべてのセンサノードが、対称な加法的プライバシー準同型PHSを適用することにより自己の検知した測定値aiを暗号化し、暗号化値si=Ek(ai)を自己のクラスタのアグリゲータノードへ送信することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記アグリゲータノードが、受信した暗号化値siの和をとり、結果として得られる値azを永続的に保存することを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アグリゲータノードが、自己のクラスタの保存値azと、同じグループのクラスタの追加的保存値az-1との和をとり、非対称な加法的プライバシー準同型PHaを適用することにより該和を暗号化し、結果として得られた値Ep(az○az-1)を永続的に保存することを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記グループ形成と、それに応じた前記データ集約およびデータ保存とが、複数レベルの階層をなして実行されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記検知データが、データ取得の時間および領域に応じた2次元データベースとして保存されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
リーダが前記ネットワークに対するデータ要求に関して時間および領域を指示することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記アグリゲータノードがそれぞれ、PHaにより暗号化された値Ep(az○az-1)を前記リーダへ送信することを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記アグリゲータノードが、直接に、または、転送ノードとして作用するセンサノードを通じてマルチホップ方式で、前記リーダへ自己の応答を送信することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ネットワークに対するデータ問合せにおいて連続的問合せおよび例外的問合せが区別されることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記連続的データ問合せが、該データ問合せで指示された領域に属するかどうかに基づいて、要求された情報を処理するクラスタにのみ転送されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記例外的データ問合せが、それぞれのグループの対応する相補的クラスタにのみ転送されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
例外的データ問合せに関して得られた情報から、要求した情報が、復号と、復号値の適当な加算および/または減算とによって再構成されることを特徴とする請求項16に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−18506(P2007−18506A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165524(P2006−165524)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】