説明

センサ誤取付判断システム

【課題】鉄道車両に用いられている加速度センサが誤った向きに取付けられているか否かを判断することができるセンサ誤取付判断システムを提供すること。
【解決手段】センサ誤取付判断システム50は、鉄道車両1に作用する左右方向、前後方向、及び上下方向の加速度を、センサ左右加速度αy、センサ前後加速度αx、及びセンサ上下加速度αzとしてそれぞれ検出可能な三軸加速度センサ51と、センサ上下加速度αzの符号が設定される重力加速度Gの符号と一致しているか否か、及び鉄道車両1が走行し始めるときにセンサ前後加速度αxが積分されたセンサ前後速度Vxの符号が設定される車両進行方向の符号Aに一致しているか否かを判定して、少なくとも一方が一致していない場合に三軸加速度センサ51が誤った向きに取付けられている誤取付状態であると判断する取付状態判断部62と、備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
鉄道車両に用いられる加速度センサの取付状態を判断するセンサ誤取付判断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両において、ダンパ装置を積極的に制御する制振制御システム、部品の状態又は乗り心地を監視する状態監視システム等に、加速度センサが用いられている。例えば、制振制御システムでは、加速度センサが車体に作用する振動加速度を検出し、制御手段が検出された振動加速度に基づいてダンパ装置が発生させる減衰力を適切に決定して、アクティブ又はセミアクティブダンパ制御が実行される。
【0003】
上記した制振制御システムは、例えば、下記特許文献1に記載されている。下記特許文献1に記載されている制振制御システムでは、制御手段が、通常時、上述したようにセミアクティブダンパ制御を実行するが、検出された振動加速度がしきい値を超えた場合には、制御システムが異常状態であると判断してセミアクティブダンパ制御を中止するように構成されている。これにより、車体に過度の振動が生じているときには、セミアクティブダンパ制御の実行により却って乗り心地が悪化することが防止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−271872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載されている制振制御システムでは、加速度センサが正しい向きに取付けられているという前提の下で、検出された振動加速度に基づいてセミアクティブダンパ制御が実行されていて、加速度センサが誤った向きに取付けられている場合が考慮されていない。即ち、取付ミスにより加速度センサが誤った向きに取付けられている場合には、符号が逆である加速度センサの信号に基づいてセミアクティブダンパ制御が実行されるため、制振制御が適切に実行されなくなる。従って、先ず加速度センサが、誤った向きに取付けられているか否かを判断することが望まれている。
【0006】
本発明は、上記した課題を解決すべく、鉄道車両に用いられている加速度センサが誤った向きに取付けられているか否かを判断することができるセンサ誤取付判断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセンサ誤取付判断システムは、鉄道車両に作用する左右方向、前後方向、及び上下方向の各加速度を検出可能な三軸加速度センサと、前記三軸加速度センサにより検出された左右方向加速度、前後方向加速度、及び上下方向加速度のうち少なくとも二つの加速度に基づく信号の符号が、それぞれ対応する各方向において設定される符号に一致しているか否かを判定して、何れか一つの符号でも一致していないと判定した場合に前記三軸加速度センサが誤った向きに取付けられている誤取付状態であると判断する判断手段と、を備えることに特徴がある。
【0008】
また、本発明に係るセンサ誤取付判断システムにおいて、前記判断手段は、前記三軸加速度センサにより検出された上下方向加速度の符号が、設定される重力加速度の符号に一致しているか否かを判定することが好ましい。
【0009】
また、本発明に係るセンサ誤取付判断システムにおいて、前記判断手段は、前記鉄道車両が走行し始めるときに、前記三軸加速度センサにより検出された前後方向加速度を積分した前後方向速度の符号が、設定される車両進行方向の符号に一致しているか否かを判定することが好ましい。
【0010】
また、本発明に係るセンサ誤取付判断システムにおいて、前記鉄道車両の前後方向速度を検出する速度センサが設けられていて、前記判断手段は、前記鉄道車両の走行中に、前記三軸加速度センサにより検出された前後方向加速度を積分した前後方向速度の符号が、前記速度センサにより検出された前後方向速度を用いて設定される符号に一致しているか否かを判定することが好ましい。
【0011】
また、本発明に係るセンサ誤取付判断システムにおいて、前記判断手段は、一致していない判定が所定回数成立した場合に、前記誤取付状態であると判断することが好ましい。
【0012】
また、本発明に係るセンサ誤取付判断システムにおいて、前記三軸加速度センサにより検出される左右方向加速度に基づいてダンパ手段にアクティブ又はセミアクティブダンパ制御を実行させる制御部が設けられていて、前記判断手段は、前記誤取付状態であると判断したとき、前記制御部に前記アクティブ又はセミアクティブダンパ制御を中止させることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係るセンサ誤取付判断システムにおいて、前記三軸加速度センサにより検出される左右方向加速度に基づいてダンパ手段にアクティブ又はセミアクティブダンパ制御を実行させる制御部が設けられていて、前記判断手段は、前記三軸加速度センサが左右方向に逆向きに取付けられていると判断したとき、前記三軸加速度センサにより検出される左右方向加速度の逆符号の値に基づいて前記制御部に前記アクティブ又はセミアクティブダンパ制御を実行させることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
よって、本発明によれば、三軸加速度センサ及び判断手段により、三軸加速度センサが正しい向きに取付けられている正取付状態又は三軸加速度センサが誤った向きに取付られている誤取付状態を判断することができる。この結果、例えば、三軸加速度センサにより検出される左右方向加速度に基づいてダンパ手段がアクティブ又はセミアクティブダンパ制御を実行する場合に、正取付状態であると判断したときにはアクティブ又はセミアクティブダンパ制御を実行し、誤取付状態であると判断したときにはアクティブ又はセミアクティブダンパ制御を中止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態において、センサ誤取付判断システムが適用されている鉄道車両を概念的に示した正面図である。
【図2】図1に示した電子制御装置と、ダンパ装置と、三軸加速度センサと、報知手段との関係を示した拡大図である。
【図3】三軸加速度センサがx、y、z軸方向に正しい向きに取付けられている正取付状態を示した斜視図である。
【図4】三軸加速度センサがy、z軸方向、又はx、y軸方向に誤った向きに取付けられている誤取付状態を示した斜視図である。
【図5】図1に示した電子制御装置(取付状態判断部)が実行するプログラムのフローチャートである。
【図6】第2実施形態において、センサ誤取付判断システムが適用されている鉄道車両を概念的に示した正面図である。
【図7】図6に示した電子制御装置(取付状態判断部)が実行するプログラムのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明に係るセンサ誤取付判断システムの各実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。図1は、センサ誤取付判断システム50が適用されている鉄道車両1を概念的に示した正面図である。この鉄道車両1において、前後方向に二台設けられた台車10に空気バネ20を介して車体30が搭載されていて、車体30に作用する左右振動を減衰させるダンパ装置40が設けられている。ダンパ装置40は、電子制御装置60から入力されるダンパ制御指令値Fにより、図示しない電磁弁の開き量が切り替わるように調節されて、発生する減衰力を調整できるように構成されている。即ち、この鉄道車両1においては、減衰力を切り替える電磁弁にのみ動力源を用いるセミアクティブダンパ制御が実行されている。
【0017】
センサ誤取付判断システム50は、加速度センサの取付状態を判断するものである。このセンサ誤取付判断システム50は、図1に示したように、三軸方向の各加速度を検出可能な三軸加速度センサ51と、上述した電子制御装置60とを備えた構成になっている。三軸加速度センサ51は、車体30に作用する左右方向加速度をセンサ左右加速度αyとして、車体30に作用する前後方向加速度をセンサ前後加速度αxとして、車体30に作用する上下方向加速度をセンサ上下加速度αzとしてそれぞれ検出するものである。ここで、図3に示したy軸方向が車両左右方向に対応し、x軸方向が車両前後方向に対応し、z軸方向が車両上下方向に対応する。
【0018】
また、三軸加速度センサ51は、セミアクティブダンパ制御を実行するために設けられていて、車体30に作用する左右方向加速度、即ち振動加速度をセンサ左右加速度αyとして、電子制御装置60に出力するものである。この三軸加速度センサ51は、車体30に取付けられていて、例えば、ピエゾ抵抗効果を利用したピエゾ抵抗型の三軸加速度センサである。なお、三軸加速度センサは、ピエゾ抵抗型に限定されるものではなく、静電容量型、圧電型等、適宜変更可能である。
【0019】
ここで、三軸加速度センサ51がx,y,z軸方向に正しい向きに取付けられている状態(以下、「正取付状態」と呼ぶ)について説明する。先ず、図3に示したように、車両左右方向を車両左右ベクトルTyで表し、車両前後方向を車両前後ベクトルTxで表し、車両上下方向を車両上下ベクトルTzで表すことにする。そして、三軸加速度センサ51において、y軸方向をセンサ左右ベクトルSyで表し、x軸方向をセンサ前後ベクトルSxで表し、z軸方向をセンサ上下ベクトルSzで表すことにする。これにより、図3に示したように、センサ左右ベクトルSyと車両左右ベクトルTyの向きが一致し、センサ前後ベクトルSxと車両前後ベクトルTxの向きが一致し、センサ上下ベクトルSzと車両上下ベクトルTzの向きが一致しているとき、正取付状態とする。このとき、三軸加速度センサ51は、センサ左右加速度αy、センサ前後加速度αx、及びセンサ上下加速度αzを正しい符号で検出することができる。
【0020】
次に、三軸加速度センサ51が誤った向きに取付けられている状態(以下、「誤取付状態」と呼ぶ)について説明する。誤取付状態は、三軸加速度センサ51がx,y,z軸方向のうち少なくとも二つの方向で誤った向きに取付けられている状態をいう。なお、三軸加速度センサ51がx,y,z軸方向の一つの方向にのみ誤った向きに取付られている状態は存在しない。
【0021】
例えば、図4(a)に示したように、センサ前後ベクトルSxと車両前後ベクトルTxの向きが一致しているが、センサ左右ベクトルSyと車両左右ベクトルTyの向きが逆であり、センサ上下ベクトルSzと車両上下ベクトルTzの向きが逆であるとき、誤取付状態である。言い換えると、この誤取付状態は、図3に示した三軸加速度センサ51がx軸周りに180度回転している状態である。このとき、三軸加速度センサ51は、x軸方向に正しい向きに取付られているため、センサ前後加速度αxを正しい符号で検出することができるが、y軸方向及びz軸方向に誤った向きに取付けられているため、センサ左右加速度αy及びセンサ上下加速度αzを誤った符号(逆の符号)で検出することになる。
【0022】
また、例えば、図4(b)に示したように、センサ上下ベクトルSzと車両上下ベクトルTzの向きが一致しているが、センサ左右ベクトルSyと車両左右ベクトルTyの向きが逆であり、センサ前後ベクトルSxと車両前後ベクトルTxの向きが逆であるとき、誤取付状態である。言い換えると、この誤取付状態は、図3に示した三軸加速度センサ51がz軸周りに180度回転している状態である。このとき、三軸加速度センサ51は、z軸方向に正しい向きに取付けられているため、センサ上下加速度αzを正しい符号で検出することができるが、y軸方向及びx軸方向に誤った向きに取付けられているため、センサ左右加速度αy及びセンサ前後加速度αxを誤った符号(逆の符号)で検出することになる。
【0023】
次に電子制御装置60の構成について説明する。電子制御装置60には、図2に示したように、ダンパ装置40にセミアクティブダンパ制御を実行させる制御部としての制御指令値演算部61が設けられている。制御指令値演算部61は、車体30に左右振動が生じているとき、三軸加速度センサ51から入力するセンサ左右加速度αyに基づいて最適なダンパ制御指令値Fを演算し、このダンパ制御指令値Fをダンパ装置40に出力する。これにより、ダンパ装置40が発生させる減衰力が調整されて、セミアクティブダンパ制御が実行される。
【0024】
ところで、図3に示したように、正取付状態であるときには、正確な符号であるセンサ左右加速度αyに基づいてセミアクティブダンパ制御が実行されるため、制振制御が適切に実行されて、乗り心地の向上が図られる。しかし、図4(a)及び図4(b)に示したように、仮に誤取付状態であるときには、誤った符号(逆の符号)であるセンサ左右加速度αyに基づいてセミアクティブダンパ制御が実行されるため、制振制御が適切に実行されず、乗り心地が却って悪化するおそれがある。従って、三軸加速度センサ51が誤った向きに取付けられているときには、セミアクティブダンパ制御を実行しないことが望ましい。
【0025】
そこで、この実施形態においては、誤取付状態であるか否かを判断するために、図2に示したように、電子制御装置60に判断手段としての取付状態判断部62が設けられている。この取付状態判断部62は、三軸加速度センサ51がx軸方向及びz軸方向に正しい向きに取付けられているか否かを判断して、正取付状態であるか否かを判断するものである。言い換えると、取付状態判断部62は、三軸加速度センサ51のx軸方向及びz軸方向を監視して、y軸方向に正しい向きに取付けられているか否かを判断するものである。
【0026】
次に、取付状態判断部62の制御内容について、図5のフローチャートを用いて説明する。取付状態判断部62は、例えば、運転士が運転を開始するとき図示しないスイッチをオンにすることで、図5に示した取付状態判断プログラムPr1を所定時間(例えば、5msec)の経過毎に開始・実行する。
【0027】
ステップ70では、取付状態判断部62が三軸加速度センサ51により検出されたセンサ前後加速度αx及びセンサ上下加速度αzを入力する。なお、三軸加速度センサ51により検出されたセンサ左右加速度αyは、所定時間の経過毎に制御指令値演算部61に入力される。ステップ71は、三軸加速度センサ51がz軸方向に正しい向きに取付けられているか否かを判断するためのステップであり、このステップ71では、センサ上下加速度αzの符号が設定される重力加速度Gの符号に一致するか否かが判定される。これにより、重力加速度Gを−1g(−9.8m/s2)に設定しておく場合に、センサ上下加速度αzの符号がマイナスであるとき、三軸加速度センサ51がz軸方向に正しい向きに取付けられていることになり、「Yes」と判定され、ステップ72以降の処理がなされる。一方、センサ上下加速度αzの符号がプラスであるとき、三軸加速度センサ51がz軸方向に誤った向きに取付けられていることになり、「No」と判定され、ステップ78以降の処理がなされる。
【0028】
このため、ステップ71では、図3に示した正取付状態であるとき、及び図4(b)に示した誤取付状態であるとき、センサ上下加速度αzの符号はマイナスになり、三軸加速度センサ51がz軸方向に正しい向きに取付けられていると判断される。一方、図4(a)に示した誤取付状態であるとき、センサ上下加速度αzの符号はプラスになり、三軸加速度センサ51がz軸方向に誤った向きに取付けられていると判断される。従って、重力加速度Gの符号を用いて判定することで、三軸加速度センサ51がz軸方向に正しい向きに取付けられているか否かを走行する前から判断することができる。
【0029】
ステップ72では、鉄道車両1が走行を開始し始めたときか否かが判定される。ここで、走行を開始し始めたときとは、鉄道車両1が停止状態から走行状態に変化したときをいう。従って、走行を開始し始めたときには、「Yes」と判定され、ステップ73以降の処理がなされる。一方、鉄道車両1が停止しているとき、鉄道車両1の通常走行時等には、「No」と判定され、このプログラムPr1が直ちに終了する。これは、この第1実施形態において、走行を開始し始めているときにのみ、三軸加速度センサ51がx軸方向に正しい向きに取付けられているか否かを判断できるためである。
【0030】
ステップ73では、センサ前後加速度αxを積分してセンサ前後速度Vx(加速度に基づく信号)を演算する。ステップ74は、三軸加速度センサ51がx軸方向に正しい向きに取付けられているか否かを判断するためのステップであり、このステップ74では、走行を開始し始めたときのセンサ前後速度Vxの符号が、設定される車両進行方向の符号Aに一致しているか否かが判定される。
【0031】
ここで、設定される車両進行方向の符号Aについて説明する。鉄道車両1は自動車と異なり前方側と後方側を換えて往復移動するものであるため、三軸加速度センサ51から得られる走行開始時のセンサ前後速度Vxは、往路と復路とで符号が異なる。このため、この第1実施形態では、図3に示した正取付状態であるときに、往路で、走行開始時のセンサ前後速度Vxの符号がプラスなり、復路で、走行開始時のセンサ前後速度Vxの符号がマイナスになる場合を想定する。この場合には、三軸加速度センサ51がx軸方向に正しい向きに取付けられているか否かを判断するために、往路の車両進行方向を基準として、往路で車両進行方向の符号Aをプラスに設定しておき、復路で車両進行方向の符号Aをマイナスに設定しておく。この第1実施形態では、分かり易くするため、往路を走行する場合について説明する。
【0032】
上述した理由に基づき、この第1実施形態(往路を走行する場合)では、車両進行方向の符号Aがプラスに設定されている。これにより、ステップ74では、センサ前後速度Vxの符号がプラスであるとき、三軸加速度センサ51がx軸方向に正しい向きに取付けられていることになり、「Yes」と判定され、ステップ75以降の処理がなされる。一方、センサ前後速度Vxの符号がマイナスであるとき、三軸加速度センサ51がx軸方向に誤った向きに取付けられていることになり、「No」と判定され、ステップ78以降の処理がなされる。
【0033】
このため、ステップ74では、図3に示した正取付状態であるとき、走行開始時のセンサ前後速度Vxの符号はプラスになり、三軸加速度センサ51がx軸方向に正しい向きに取付けられていると判断される。一方、図4(b)に示した誤取付状態であるとき、走行開始時のセンサ前後速度Vxの符号がマイナスとなり、三軸加速度センサ51がx軸方向に誤った向きに取付けられていると判断される。なお、図4(a)に示した誤取付状態であるとき、既に上述したステップ71で「No」と判定されるため、ステップ74に進むことがない。
【0034】
次に、ステップ75、76、77と、ステップ78、79、80について説明する。ステップ75、76、77は、上述したステップ71及びステップ74で、三軸加速度センサ51がx軸方向及びz軸方向に正しい向きに取付けられていると判断されたため、正取付状態であると判断するためのステップである。一方、ステップ78、79、80は、上述したステップ71又はステップ74で、三軸加速度センサ51がz軸方向又はx軸方向に誤った向きに取付けられていると判断されたため、誤取付状態であると判断するためのステップである。
【0035】
しかし、三軸加速度センサ51は、ノイズ等の影響により一時的に誤った符号の値を出力するおそれがあるため、上述したステップ71及びステップ74の一回の判定では、正取付状態又は誤取付状態の判断が正確でないおそれがある。そこで、この第1実施形態では、ステップ71及びステップ74で「Yes」と判定された回数Nが所定回数Na(例えば10回)以上であるとき、正取付状態であると判断し、ステップ71又はステップ74で「No」と判定された回数Mが所定回数Ma(例えば10回)以上であるとき、誤取付状態であると判断するようになっている。
【0036】
これにより、ステップ75では、回数Nが現在値から1を足した値になる。そして、ステップ76では、回数Nが所定回数Na以上であるか否かが判定され、「Yes」と判定されたときには、ステップ77に進み、「No」と判定されたときには、このプログラムPr1が直ちに終了する。ステップ77では、取付状態判断部62が報知手段90(図1及び図2参照)に正取付信号βを出力するようになっている。この正取付信号βに基づいて、報知手段90は、例えば青ランプを点灯させることにより、運転士等に正取付状態であることを報知する。
【0037】
一方、ステップ78では、回数Mが現在値から1を足した値になる。そして、ステップ79では、回数Mが所定回数Ma以上であるか否かが判断され、「Yes」と判定されたときには、ステップ80に進み、「No」と判定されたときには、このプログラムPr1が直ちに終了する。ステップ80では、取付状態判断部62が報知手段90に誤取付信号γを出力するようになっている。この誤取付信号γに基づいて、報知手段90は、例えば赤ランプを点灯させることにより、運転士等に誤取付状態であることを報知する。なお、赤ランプが点灯した場合には、正取付状態となるように三軸加速度センサ51が改めて取付けられる。
【0038】
そして、ステップ81では、取付状態判断部62が、制御指令値演算部61にOFF信号ε(図2参照)を出力する。このOFF信号εに基づいて、制御指令値演算部61は、セミアクティブダンパ制御を中止するようにダンパ制御指令値Fを「0」にして、ダンパ装置40がパッシブ状態となる。
【0039】
上述したように構成した第1実施形態の作用効果について、説明する。
図3に示した正取付状態であるときには、取付状態判断部62が正取付信号βを報知手段90に出力し(ステップ77)、運転士等に正取付状態であることが報知される。このときには、正しい符号であるセンサ左右加速度αyに基づいて最適なダンパ制御指令値Fが演算され、セミアクティブダンパ制御が実行されて、乗り心地を向上させることができる。
一方、図4(a)及び図4(b)に示した誤取付状態であるときには、取付状態判断部62が誤取付信号γを報知手段90に出力し(ステップ80)、運転士等に誤取付状態であることが報知される。このときには、取付状態判断部62が制御指令値演算部61にOFF信号εを出力して(ステップ81)、ダンパ装置40がパッシブ状態になり、セミアクティブダンパ制御の実行により却って乗り心地が悪化することを防止できる。
【0040】
なお、この第1実施形態において、三軸加速度センサ51が、y軸方向に正しい向きで取付けられていてx軸方向及びz軸方向に誤った向きに取付けられている場合には、即ち図3に示した三軸加速度センサ51がy軸周りに180度回転している場合には、センサ左右加速度αyの符号は正しい符号として検出されることになる。しかし、この場合でも、取付状態判断部62により誤取付状態であると判断され、セミアクティブダンパ制御が中止される。
【0041】
次に、第2実施形態について図6及び図7を用いて説明する。図6は、鉄道車両1を概念的に示した正面図であり、この第2実施形態では、鉄道車両1の前後方向速度Vr(以下、「実前後速度Vr」と呼ぶ)を検出する速度センサ91が設けられている。この速度センサ91は、検出した実前後速度Vrを電子制御装置60(取付状態判断部62)に出力する。ここで、速度センサ91は、既存の構成部材として鉄道車両1に通常用いられている速度センサで良く、新たに設けなくても良い。なお、第1実施形態と同一の構成については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0042】
図7は、第2実施形態において、取付状態判断部62が開始・実行する取付状態判断プログラムPr2のフローチャートである。以下、第1実施形態の取付状態判断プログラムPr1と異なる部分についてのみ、説明する。ステップ82では、取付状態判断部62がセンサ前後加速度αx及びセンサ上下加速度αzを入力するとともに、速度センサ91により検出された実前後速度Vrを入力する。
【0043】
そして、ステップ83では、走行中、即ち実前後速度Vrが0であるか否かが判定される。従って、走行中であるときには、「Yes」と判定され、ステップ73以降の処理がなされる。一方、走行中でないときには、「No」と判定され、このプログラムPr2が直ちに終了する。これは、第2実施形態において、走行中であるときにのみ、三軸加速度センサ51がx軸方向に正しい向きに取付けられているか否かを判断できるためである。
【0044】
ステップ84では、センサ前後速度Vxの符号と実前後速度Vrを用いて設定される符号Bが一致するか否かが判定される。ここで、実前後速度Vrを用いて設定される符号Bとは、上述したように、往路を基準としていて、往路では実前後速度Vrの符号そのものであり、復路では実前後速度Vr×「−1」の符号である。これにより、センサ前後速度Vxの符号と上記した符号Bが一致するとき、三軸加速度センサ51がx軸方向に正しい向きに取付けられていることになり、「Yes」と判定され、ステップ75以降の処理がなされる。一方、センサ前後速度Vxの符号と上記した符号Bが一致しないとき、三軸加速度センサ51がx軸方向に誤った向きに取付けられていることになり、「No」と判定され、ステップ78以降の処理がなされる。
【0045】
よって、この第2実施形態では、第1実施形態と異なり、走行を開始し始めたときだけでなく走行中に、三軸加速度センサ51がx軸方向に正しい向きに取付けられているか否かを判断することができる。その他の作用効果は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0046】
以上、本発明に係るセンサ誤取付判断システムについて説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、第2実施形態において、走行中に、センサ前後加速度αxが積分されたセンサ前後速度Vxの符号と、実前後速度Vrを用いて設定される符号Bが一致するかを判定したが、センサ前後加速度αxの符号と、実前後速度Vrが微分された実前後加速度を用いて設定される符号が一致するかを判定しても良い。
【0047】
また、各実施形態において、取付状態判断部62は、誤取付状態であると判断したとき、OFF信号εにより、制御指令値演算部61にセミアクティブダンパ制御を中止させたが、取付状態判断部62は、三軸加速度センサ51がy軸方向に逆向き(誤った向き)に取付けられていると判断したとき、逆転信号により、センサ左右加速度αyの逆符号の値に基づいて制御指令値演算部61にセミアクティブダンパ制御を実行させても良い。この場合には、取付状態判断部62は、三軸加速度センサ51がx軸方向及びz軸方向に正しい向きに取付けられているか否かを判断して、x軸方向及びz軸方向の何れか一方向にのみ逆向きに取付けられていると判断したとき、三軸加速度センサ51がy軸方向に逆向きに取付けられていると判断すれば良い。
【0048】
また、各実施形態において、センサ誤取付判断システム50は、三軸加速度センサ51がx軸方向及びz軸方向に正しい向きに取付けられているか否かを判断して、正取付状態であるか否かを判断したが、三軸加速度センサがx軸方向及びy軸方向、又はy軸方向及びz軸方向に正しい向きに取付けられているか否かを判断して、正取付状態であるか否かを判断しても良い。この場合には、鉄道車両1に作用する左右方向加速度を検出可能な加速度センサ、又は左右方向速度を検出可能な速度センサを新たに設けて、検出した符号が一致するか否かを判定すれば良い。
【0049】
また、各実施形態において、センサ誤取付判断システム50は、x軸方向とz軸方向の二方向において、符号が一致するか否かを判定したが、x軸方向、y軸方向、z軸方向の三方向において、符号が一致するか否かを判定しても良い。
【0050】
また、各実施形態において、センサ誤取付判断システム50は、制振制御システムに用いられる三軸加速度センサ51が誤取付状態になっているか否かを判断するように構成したが、センサ誤取付判断システムは、鉄道車両の部品の状態又は乗り心地を監視する状態監視システムに用いられている三軸加速度センサが誤取付状態になっているか否かを判断するように構成しても良い。
また、各実施形態において、三軸加速度センサ51は車体30に取付けられているが、鉄道車両1のうち何れの部位に取付けられていても良い。
【0051】
また、各実施形態において、セミアクティブダンパ制御が実行されるようにダンパ装置40を構成した場合に、正取付状態であると判断されたときセミアクティブダンパ制御を実行し、誤取付状態であると判断されたときセミアクティブダンパ制御を中止した。しかし、アクティブダンパ制御が実行されるようにダンパ装置40を構成した場合に、正取付状態であると判断されたときアクティブダンパ制御を実行し、誤取付状態であると判断されたときアクティブダンパ制御を中止しても良い。なお、上記したアクティブダンパ制御は、ダンパ装置40が発生する減衰力を例えばモータ等の動力源によって積極的に調整する制御を意味する。
【符号の説明】
【0052】
1 鉄道車両
10 台車
20 空気バネ
30 車体
40 ダンパ装置
50 センサ誤取付判断システム
51 三軸加速度センサ
60 電子制御装置
61 制御指令値演算部
62 取付状態判断部
90 報知手段
91 速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両に作用する左右方向、前後方向、及び上下方向の各加速度を検出可能な三軸加速度センサと、
前記三軸加速度センサにより検出された左右方向加速度、前後方向加速度、及び上下方向加速度のうち少なくとも二つの加速度に基づく信号の符号が、それぞれ対応する各方向において設定される符号に一致しているか否かを判定して、何れか一つの符号でも一致していないと判定した場合に前記三軸加速度センサが誤った向きに取付けられている誤取付状態であると判断する判断手段と、を備えることを特徴とするセンサ誤取付判断システム。
【請求項2】
請求項1に記載するセンサ誤取付判断システムにおいて、
前記判断手段は、前記三軸加速度センサにより検出された上下方向加速度の符号が、設定される重力加速度の符号に一致しているか否かを判定することを特徴とするセンサ誤取付判断システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載するセンサ誤取付判断システムにおいて、
前記判断手段は、前記鉄道車両が走行し始めるときに、前記三軸加速度センサにより検出された前後方向加速度を積分した前後方向速度の符号が、設定される車両進行方向の符号に一致しているか否かを判定することを特徴とするセンサ誤取付判断システム。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載するセンサ誤取付判断システムにおいて、
前記鉄道車両の前後方向速度を検出する速度センサが設けられていて、
前記判断手段は、前記鉄道車両の走行中に、前記三軸加速度センサにより検出された前後方向加速度を積分した前後方向速度の符号が、前記速度センサにより検出された前後方向速度を用いて設定される符号に一致しているか否かを判定することを特徴とするセンサ誤取付判断システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載するセンサ誤取付判断システムにおいて、
前記判断手段は、一致していない判定が所定回数成立した場合に、前記誤取付状態であると判断することを特徴とするセンサ誤取付判断システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載するセンサ誤取付判断システムにおいて、
前記三軸加速度センサにより検出される左右方向加速度に基づいてダンパ手段にアクティブ又はセミアクティブダンパ制御を実行させる制御部が設けられていて、
前記判断手段は、前記誤取付状態であると判断したとき、前記制御部に前記アクティブ又はセミアクティブダンパ制御を中止させることを特徴とするセンサ誤取付判断システム。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載するセンサ誤取付判断システムにおいて、
前記三軸加速度センサにより検出される左右方向加速度に基づいてダンパ手段にアクティブ又はセミアクティブダンパ制御を実行させる制御部が設けられていて、
前記判断手段は、前記三軸加速度センサが左右方向に逆向きに取付けられていると判断したとき、前記三軸加速度センサにより検出される左右方向加速度の逆符号の値に基づいて前記制御部に前記アクティブ又はセミアクティブダンパ制御を実行させることを特徴とするセンサ誤取付判断システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−76637(P2012−76637A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224684(P2010−224684)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】