説明

ダブルスカラーアーム

【課題】
ダブルスカラーアームの左右一対のアームを、バックラッシなしで同期させる。
【構成】
ダブルスカラーアームの先端のハンドにより、物品を移載する。左右一対のアームの先端の軸を上下一対の屈曲部材により互いに連結する。屈曲部材の一方を、一方の軸に一端を固定して時計回りに巻回し、他方の軸に反時計回りに巻回して他端を固定する。屈曲部材の他方を、一方の軸に一端を固定して反時計回りに巻回し、他方の軸に時計回りに巻回して他端を固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はダブルスカラーアームに関し、特に一対のアームの同期に関する。
【背景技術】
【0002】
ダブルスカラーアームは、左右一対の屈曲自在なアームを備え、一対のアームの先端に取り付けられたハンドにより物品を移載する。ここで左右一対のアームが同期して屈曲しないと、ハンドの姿勢が揺動する。この点に関し、特許文献1(JP2008-74550A)は、アームの先端を歯車で互いに連結することを提案している。しかしながら発明者は、歯車を用いるとバックラッシによる遊びが生じ、一対のアームが正確には同期しないことを見出した。そこでバックラッシに伴うハンドの揺動を解消することを検討し、この発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】JP2008-74550A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の課題は、ダブルスカラーアームの左右一対のアームを、バックラッシ無しで確実に同期させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、左右一対のアームの先端に取り付けられたハンドにより、物品を移載するダブルスカラーアームであって、
前記左右一対のアームは先端に軸を備え、前記軸は上下一対の屈曲部材により互いに連結され、
前記屈曲部材の一方は、一方の軸に一端が固定されると共に時計回りに巻回され、他方の軸に反時計回りに巻回されると共に他端が固定され、
前記屈曲部材の他方は、前記一方の軸に一端が固定されると共に反時計回りに巻回され、前記他方の軸に時計回りに巻回されると共に他端が固定されていることを特徴とする。
【0006】
この発明では、一方のアームが屈曲して軸が回動すると、一対の屈曲部材の何れかが引っ張られて他方のアームも同期して屈曲する。このため、一対のアームを歯車無しで同期させることができ、歯車のバックラッシ分の揺動が無い。また一対の屈曲部材を上下に配置するので、省スペースである。
【0007】
好ましくは、前記上下一対の屈曲部材を各々スチールベルトとする。屈曲部材はゴムベルト、ロープ、チェーン等でも良いが、スチールベルトとワイヤは伸びが少ないので好ましく、特にスチールベルトは大きな力で一対のアームを同期させることができ、また軸に対する滑りが少なく、伸びも少ないので好ましい。従ってスチールベルトを用いると、コンパクトにかつ確実に左右一対のアームを同期させることができる。
【0008】
より好ましくは、奧側と外側の一対の板状部材からなる固定具が設けられ、前記一対の板状部材の間にスチールベルトの一端が挟み込まれて固定され、前記軸に設けられた凹部に前記固定具が固定されると共に、前記凹部の端に前記奧側の板状部材が当接している。このようにすると、軸に設けた凹部の端に固定具の奧側の板状部材を当接させることにより、スチールベルトに加わるテンションを支持できる。またスチールベルトは一対の板状部材との摩擦で固定具に固定される。このため、例えばボルトでスチールベルトの端部を軸に直接固定する場合と異なり、スチールベルトの破損もボルトの破損も生じない。
【0009】
好ましくは、奧側と外側の一対の板状部材からなり、互いに連通する長孔を備えたテンション調整部材が設けられ、前記一対の板状部材の間にスチールベルトの一端が挟み込まれて固定され、前記長孔を貫通する締結具により、周方向位置を調整自在に、前記テンション調整部材が前記軸に固定されている。このようにすると、長孔をスライドさせることにより、スチールベルトに加えるテンションを調整できる。この場合も、スチールベルトは一対の板状部材に摩擦力で固定される。実施例ではスチールベルトの一端を前記の固定具で固定し、他端をテンション調整部材で固定する。しかし両端を共にテンション調整部材で固定しても良く、両端を共に前記の固定具で固定しても良い。
【0010】
特に好ましくは、基端が前記軸により支持され、先端がスチールベルトとは反対側で前記テンション調整部材にネジ止めされたボルトを備え、前記ボルトにより前記テンション調整部材の位置が調整自在である。このようにするとボルトが一種のジャッキとして作用し、ボルトの回動によりテンション調整部材の位置を容易に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例のダブルスカラーアームの要部平面図
【図2】実施例のダブルスカラーアームの要部拡大平面図で、ハンドのカバーを取り外して示す
【図3】実施例のダブルスカラーアームでの、アーム同期用ベルトその取り付けとを示す要部拡大側面図
【図4】実施例でのテンション調整部材を示す図
【図5】テンション調整部材のプーリーへの取り付けを示す図
【図6】プーリーとの接触部でのベルトの断面図
【図7】ベルトの他端のプーリーへの取り付けを示す要部拡大側面図
【図8】ベルトの他端のプーリーへの取り付けを示す要部拡大平面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。この発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づき、明細書の記載とこの分野での周知技術とを参酌し、当業者の理解に従って定められるべきである。
【実施例】
【0013】
図1〜図8に、実施例のダブルスカラーアーム2を示す。ダブルスカラーアーム2は例えばスタッカークレーンの昇降台4に搭載され、液晶基板、プラズマパネルディスプレイ基板等のカセットを移載する。またダブルスカラーアーム2をターンテーブル、あるいはスライド装置等に搭載し、移載が可能な範囲を拡げても良い。さらにダブルスカラーアーム2は、ロードポート等の地上側に固定の設備として設けても良く、また無人搬送車、有軌道台車、天井走行車等に搭載しても良い。
【0014】
ダブルスカラーアーム2の基部6は昇降台4に固定され、モータM1,M2により左右一対の基礎側アーム8を回動させ、例えばスプロケット16,20とチェーン18とにより、基礎側アーム8に同期して、先端側アーム10を回動させる。アーム8,10は長さが等しく、先端側アーム10は基礎側アーム8と逆方向に2倍の角度だけ回動する。一対の先端側アーム10,10の先端はハンド基部12で連結され、ハンド基部12は、図3のベアリング36により、先端側アーム10に対し回動自在である。またハンド基部12に例えばフォーク状のハンド本体14が固定されている。そして左右一対のアーム8,10は同期して屈曲及び伸張するように変形し、同期が完全であればハンド本体14の姿勢は一定に保たれる。
【0015】
ハンド基部12内に、一対のスチールベルト24,26が上下に高さ位置を変えて、かつ平面視でクロスするように配置され、スチールベルト24,26の両端は先端側アーム10,10の先端のプーリー22,23に固定されている。なお以下、スチールベルト24,26を単にベルト24,26と呼び、ベルト24,26に代えてワイヤ、ゴムベルト、チェーン等を用いる場合、プーリー22,23に代えて、ドラム、歯車、スプロケット等を用いる。
【0016】
図2に示すように、ベルト24は一端をプーリー23に固定具32で固定されて、プーリー23に時計回りに巻回され、プーリー22に反時計回りに巻回されて、テンション調整部材30によりプーリー22に他端を固定されている。またベルト26は一端をプーリー22に固定具32で固定されて、プーリー22に反時計回りに巻回され、プーリー23に時計回りに巻回されて、テンション調整部材30によりプーリー23に他端を固定されている。33はプーリー22,23の軸で、プーリー22,23と一体である。またプーリー22,23がベルト24,26と接触する範囲は限られており、ベルト24,26と接触しない部分ではプーリー状でなくても良い。さらにプーリー22,23はアーム10に対して回転する部材ではなく、ベルト24,26を支持するので外形が円筒状に形成されているだけである。
【0017】
図3に示すように、ベルト24,26は高さ位置を変えて上下に配置され、プーリー22,23は軸34を介して先端側アーム10に固定されている。そして軸34によりベアリング36を回動自在に支持し、ベアリング36にハンド基部12が固定されている。
【0018】
図4,図5に示すように、プーリー22,23には一対の凹部38,40が設けられ、凹部38の底部の取付面46にテンション調整部材30が固定され、支持部材54が凹部40の取付面53に締結具55により固定されている。また取付面46,53は向きが90°異なっている。テンション調整部材30は奧側に板状部材45を備え、手前側にも板状部材44を備えている。板状部材44,45の間にベルト24,26を挟み込み、ボルト等の締結具52により板状部材44,45とベルト24,25が一体に結合され、ベルト24,26は部材44,45との摩擦力で、テンション調整部材30に固定されている。なお支持部材54の位置にプーリー22,23の中実部が存在するようにし、ボルト56をプーリー22,23で直接支持しても良い。
【0019】
長手方向がプーリー22,23の周方向に平行な、例えば一対の長孔50,50が部材44,45を連通するように設けられている。そして長孔50を貫通するボルト等の締結具55により、テンション調整部材30がプーリー22,23に固定されている。さらにベルト24,26を引き出す方向とは反対側で、支持部材54で支持されたボルト56が奧側の板状部材45にネジ止めされている。そしてボルト56を回すことにより、締結具48に対してテンション調整部材30を進退させることができる。このようにしてベルト24,26に加わるテンションを調整する。
【0020】
ベルト24,26はスチールなので、プーリー22,23をアルミニウム等の軽金属製とすると、電気的腐食が発生することがある。そこで好ましくは図6に示すように、プーリー22,23に巻回する範囲で、スチール部60の表面に絶縁層61を設けて、プーリー22,23に対して電気的に絶縁する。
【0021】
図7,図8に、固定具32によるベルト24,26の端部の固定を示す。固定具32は凹部42でプーリー22,23に取り付けられ、取り付けには締結具74を用い、凹部42の端の当接面70に、奧側の板状部材73を当接させて位置決めする。そして一対の板状部材72,73の間にベルト24,26を挟み込み、締結具75で板状部材72,73が互いに結合され、また締結具74,75等からの締付力による摩擦で、スチールベルト24,26が固定されている。なお当接面70は、凹部42内のベルト24,26を引き出す側に設けられている。
【0022】
実施例の作用を説明する。先端側アーム10,10は、軸34とプーリー22,23を介して、ベルト24,26で互いに結合されている。ここでモータM1,M2等による同期が不完全な場合、ハンド本体14の姿勢が揺動する。ここでアーム10,10の運動が同期していない場合、ベルト24,26の一方のテンションが増し、他方はテンションが低下する。このため一対のアーム10,10は強制的に同期して運動し、ハンド10の揺動を解消できる。
【0023】
ベルト24,26は、プーリー22,23の表面から摩擦力を受け、さらに固定具32及びテンション調整部材30とでプーリー22,23に固定されている。固定具32は当接面70で位置決めされ、テンション調整部材30はボルト56と長孔50とにより容易にテンション調整ができる。そして一対の板状部材(44,45),(72,73)間にベルト24,26を挟み込んで摩擦力により固定することにより、ベルト24,26等の変形と損傷とを防止できる。

【符号の説明】
【0024】
2 ダブルスカラーアーム
4 昇降台
6 基部
8 基礎側アーム
10 先端側アーム
12 ハンド基部
14 ハンド本体
16,20 スプロケット
18 チェーン
22,23 プーリー
24,26 スチールベルト
30 テンション調整部材
32 固定具
33,34 軸
36 ベアリング
38〜42 凹部
44,45 板状部材
46 取付面
48,52 締結具
50 長孔
53 取付面
54 支持部材
55 締結具
56 ボルト
60 スチール部
61 絶縁層
70 当接面
72,73 板状部材
74,75 締結具

M1,M2 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のアームの先端に取り付けられたハンドにより、物品を移載するダブルスカラーアームであって、
前記左右一対のアームは先端に軸を備え、前記軸は上下一対の屈曲部材により互いに連結され、
前記屈曲部材の一方は、一方の軸に一端が固定されると共に時計回りに巻回され、他方の軸に反時計回りに巻回されると共に他端が固定され、
前記屈曲部材の他方は、前記一方の軸に一端が固定されると共に反時計回りに巻回され、前記他方の軸に時計回りに巻回されると共に他端が固定されていることを特徴とする、ダブルスカラーアーム。
【請求項2】
前記上下一対の屈曲部材が各々スチールベルトであることを特徴とする、請求項1のダブルスカラーアーム。
【請求項3】
奧側と外側の一対の板状部材からなる固定具が設けられ、前記一対の板状部材の間にスチールベルトの一端が挟み込まれて固定され、
前記軸に設けられた凹部に前記固定具が固定されると共に、前記凹部の端に前記奧側の板状部材が当接していることを特徴とする、請求項2のダブルスカラーアーム。
【請求項4】
奧側と外側の一対の板状部材からなり、互いに連通する長孔を備えたテンション調整部材が設けられ、前記一対の板状部材の間にスチールベルトの一端が挟み込まれて固定され、 前記長孔を貫通する締結具により、周方向位置を調整自在に、前記テンション調整部材が前記軸に固定されていることを特徴とする、請求項2または3のダブルスカラーアーム。
【請求項5】
基端が前記軸により支持され、先端がスチールベルトとは反対側で前記テンション調整部材にネジ止めされたボルトを備え、前記ボルトにより前記テンション調整部材の位置が調整自在であることを特徴とする、請求項4のダブルスカラーアーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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